【写真】夜の都会で笑顔で立っているいとうじろうさん

人間はとても脆くて弱い存在だから、
支え合っていかないと生きていけません。

やわらかな口調と表情で語ってくれた伊藤次郎さん。お話から感じたのは他者の痛みに寄り添っていく姿勢、そしてあたたかいまなざしでした。

伊藤さんが立ち上げたNPO法人OVAは、自殺予防の取り組みを行なっています。その手法は検索連動広告やインターネットをつかった新しいもの。

「生きていくことがつらい」「死にたい気持ちを抱えている」、そういった人がインターネットで調べるであろうキーワードを事前に想定。そのキーワードで検索した人にリーチし、メールで相談。現実の相談機関へとつなげていきます。

また、チャット相談ができるよう「Web接客ツール」を使ったリーチ・相談事業も本格的にスタートさせていくそうです。

2013年からこの「夜回り2.0(InternetGatekeeper)」を通じて430名以上の相談に乗り、多くの命を救ってきたOVA。「生きることがつらい」という時、相談できる先がなかったり、心の痛みを表に出せなかったりするもの。伊藤さんたちはいつでもそういった人たちの支えになってきました。

一人ひとり違う人間であっても不安や悩みを分かち合い、支え合っていける。みんなの「生きる」が肯定される世の中へ。そんな希望を伊藤さんたちの活動に見ることができました。

OVAの活動とともに、そこに込められた思い、伊藤さんのまなざしに光をあてていきます。

【プロフィール】伊藤次郎さん(Jiro Ito)
NPO法人OVA代表理事 ソーシャルワーカー(精神保健福祉士)。1985年生まれ。学習院大学法学科卒業。メンタルヘルス対策を企業に提供する人事コンサルティング会社(EAPプロバイダー)を経て、精神科クリニックにて勤務。2013年に日本の若者の自殺が深刻な状況にあることに問題意識が芽生え、マーケティングの手法で自殺ハイリスクの若者にリーチしようと「夜回り2.0(InternetGatekeeper)」の手法を開発・実施し、NPO法人OVAを設立した。

誰にも話せなかった「助けて」に、宛先をつくりたい。

【写真】インタビューに真剣に応えるいとうじろうさん

心のSOSを受け止められるかもしれない。
そう思って活動をスタートさせました。

まず伊藤さんが語ってくれたのは、自殺予防の活動をはじめたきっかけでした。

ある時、一つの検索エンジンで「死にたい」と調べられている回数が月に十数万回あることに気づいたんです。「死にたい 助けて」と検索された履歴があるのを見つけたときは、体がドスンとやられてしまいました。

伊藤さんは「死にたい 助けて」の検索履歴を見たとき、過去、ご自身が死にたいと思うくらい辛い時期を経験したこと、そして当時、誰にも話せなかったことを思い出したといいます。

私たちが普段何気なく利用しているインターネットで「死にたい 助けて」と検索している人たちが多くいる。その件数や実態を調べた経験のある人はほとんどいないのではないでしょうか。話を聞くだけでも驚きがあるのに、ご自身でその事実に気づき、現実を目の当たりにした時、伊藤さんは大きな衝撃を受けたそうです。

もし、SNSで「つらい」と発信をすれば、誰かが「大丈夫?」と言ってくれるかもしれませんよね。でも、検索エンジンに「死にたい 助けて」と打ち込んだところで、その向こう側には何の助けもなく、SOSを受け止める宛先もありません。

どこにも行き場のない叫び。どうしてインターネット、しかも検索エンジンで助けを求めるのか。そして「調べること」の奥底には、どんな気持ちがあるのでしょうか。

死にたいほどにつらい事を抱えているけれど、現実に誰にも言えず、一人で抱え込み、思わず手に持っているスマホやパソコンにその気持ちを吐き出したのかもしれません。孤独でつらい気持ちを想像すると、あまりにも悲しいことだとショックを受けました。

孤独に苦しんだ人は、もしかしたらその後自らの命を絶ってしまっている可能性もあります。実際に日本の自殺率はここ数年で減少傾向にあるものの、国際比較してもいまだ高いという状況。また、日本の15歳から39歳の若年層の死因の1位は自殺。20代に至っては死因の約50%が自殺であり、これは他の先進国と比較しても深刻であることがわかっています。

心の叫びに気づき、つらい気持ちを抱えた若者をなんとかしたいと考えた伊藤さん。さまざまな試行錯誤を経て、「検索連動広告を使い、特設サイト経由でメール相談に乗っていく」という現在の「夜回り2.0(InternetGatekeeper)」になっていったといいます。

OVAでは、具体的にこのような手法を用いているそうです。

スマートフォンやパソコンで、自殺について調べている若者たちがいることはわかっています。OVAでは、そういった人たちに向けて言葉に連動した広告を表示するんです。

たとえば、自殺したいという気持ちを持った人が、自殺にまつわるワードで検索をすると、OVAの広告が目につきやすいところに現れる。クリックするとOVAからのメッセージが書かれた特設サイトにつながり、「あなたの話を聞きたい」「メールください」というボタンが表示されます。そこからメールが送れる仕組みになっていて、その後は相談者と個別にメールでやり取りをしていきます。

自殺を考えている人たちの助けになりたい、そう考えたとしても当事者を探し出し、サポートに結びつけるのはとてもむずかしいこと。

伊藤さんたちはインターネットを使うことで、これまでリーチできなかった人々にたどり着くことができています。また、あえてメールでやり取りしていく、ここにも理由があるのだとか。

はじめ、こちらとしては電話でやりとりしたいと思っていたんです。メールって顔も見えず声もきこえないから、情報がとても少ないんです。自分の言葉を相手がどう受け取ったか、反応もすぐに見れないんですよね。ただ、相談者のほとんどの人が「電話よりメールの方がいい」と言います。なので、メール相談に切り替えたんです。

いきなり見知らぬ人に電話で自分の心の内を話す、そこには高いハードルがあるのかもしれません。だからこそまずはメールで関係を築き、電話でお話していくこともあるのだといいます。

つらい気持ちを聞きながら、抱えている問題を整理。いま何ができるのか?またその手伝いをしてくれる人や機関はどこなのか?伊藤さんたちは一緒に考えていきます。

相談者の方それぞれ抱えている問題は違います。一緒に考えて、相談機関や人につなでいく、これが私たちのやっていること。いまこの瞬間、数十円のお金もなくて何も食べていないという人だったら行政の窓口かもしれませんし、大学生なら大学の学生相談室かもしれません。医療が必要な人だったら病院かもしれない。そうやって紹介をしたり、アドバイスをしたり。問題が解決され、孤独感がなくなり、死にたい気持ちが弱まることも多いんです。

相談者が「自分はひとりじゃないんだ」と思えるような「かかわり」をしていくことが大切という伊藤さん。メールでのコミュニケーションひとつとっても、こころがけていることがあるそうです。

「相手の世界から物事を見てみる」これが大切だと思っています。自分でメールを書いた後、送る前に相手になりきったつもりで何度も読み返してみる。相手の価値感を想像し、その世界から自分の書いた文章を読んでいくという感じ。するとちょっとした事が気になるんですよね。

本当の意味で当事者の立場に近づいていく。このスタンスが根元にあるのだと、続くお話でも伺い知ることができました。

身近な人の命を自殺から守るためにできること

【写真】微笑みながらインタビューに応えるいとうじろうさんとライターのしらいしかつやさん

その次に伊藤さんに伺ったのは「私たち自身、まわりの人たちに気をかけ、自殺は予防できるのか?」ということでした。

まずは自分から「大丈夫?」といった声がけが大切だといいます。

知り合いや身近な人が「なんとなくつらそうだな」って感じること、誰でもありますよね。そんな時こそ無関心にならず「大丈夫?」と声をかけてあげてほしいんです。ちょっと「最近、元気ない?」と声をかけるだけでいい。それだけで「いやね、妻と喧嘩しちゃってさ」など話を切り出すきっかけになります。やっぱり自分から「助けて」ってなかなか言いづらいもの。周囲が話しやすい雰囲気や機会をつくってくれると話しやすいじゃないですか。

伊藤さんによれば自殺の原因は「これだ」というものがあるわけではなく、それぞれの人が抱えるありとあらゆる悩みが、自ら命を絶とうとする、リスクになるのだといいます。

たった一つの原因で自殺に至るケースは稀だと思います。多くの場合が一つのことで自殺に追い込まれるというよりも、さまざまな悩みを複雑に抱えて、追い込まれていってしまっている、そういったケースが多いのかもしれません。人によっては失恋などの人間関係かもしれないし、お金がないなど生活上の経済問題かもしれない。問題を複合的に抱え、追い込まれ、気づいたらもう一人で解決できないところにいるケースが少なくないんです。

人が自殺に至ってしまうプロセスは、貧困の世界で言われる「カフカの階段」という概念にとてもよく似ているといいます。

たとえば、ある会社員が失業したとします。そこから離婚して、うつ病になり、仕事ができなくなり、貯金もなくなり、いくつもの階段を転げ落ち気づいたらホームレス状態に。もとの生活に戻ろうとしても、戻るための段差が壁のようにすごく高くて、一人の力では戻れない。私が相談を受けている人たちもとてもよく似ているんです。

いくつもの悩みを複雑に抱えてしまって、階段をいくつも転げ落ちていく。戻ろうと上を見上げたらものすごい高い壁が目の前にある。この苦しい状況がずっと続くんだ、そういった絶望を感じています。

もしかしたら、その「壁」は周囲から見たらそこまで高くないかもしれない。それでも本人からすれば「もう壁しか見えない」と圧倒されてしまう。自分の背丈くらいの壁でも、壁に近づきすぎると壁しか見えなくなりますよね。だからこそ周囲の人が、一緒になって考えていく必要があるんです。

そして「一緒に絶望すること」からが伊藤さんたちにとってのスタートなのだといいます。

頭上から命綱を投げてひっぱるというより、壁をおりていって一緒に絶望していく。その上で一歩ずつあがれる階段を一緒に探していこうよ、というのが私たちの取り組みです。本当につらいのはこの苦しみを誰にもわかってもらえない、そういった「孤独」ですから。

階段を落ちていく過程で、自分から助けを求めることができる人もいるといいます。ただ、どうしても声をあげられなかったり、その「助けて」を社会がすくい上げられなかったり、そういった方々がいるのは事実。

自殺に追い込まれる人は「助けて」と発信する力が弱かったり、弱くなっている事が多いんです。まわりに迷惑をかけたくない、弱さを見せたくない。話しても、気持ちを受け入れてもらえないかもしれない。…いろいろな思いがあり、相談ができない。そして気づいたら、追い込まれてしまっていて。

自殺直前は多くの人が何らかの精神疾患を抱えている事が知られています。これは個人的な実感でもあるのですが、多くの自殺というのが自分の意思にもとづく選択というより、さまざまな問題を抱え込み、追い込まれた末に亡くなっていて。むしろ生きたいと思っているのだけど、自分ではどうしようもできない。それしか選択肢がないと思ってしまっている状態に近いと思います。

こうしてあらためて自殺予防において、他者の支え、サポートの重要性を伊藤さんは伝えてくれました。

【写真】夜の都会で笑顔で立っているいとうじろうさん

そして、ものすごく重要なのが「どのくらい緊急度が高いのか」を見極めていくということ。一番いい方法は「本人に直接聞く」という衝撃的なものでした。これは専門家ではない私たち素人も聞いたほうがいいことなのだといいます。

自ら命を断ってしまうかどうか、それは本人が一番よく知ってるんですよ。なのでストレートに「死にたいと思っているの?」と聞きます。もし「死にたいと思っている」と答えたら「いつ、どうやって死のうとしている?準備しているの?」など、自殺の計画や時期などについても具体的に聞いていきます。

そんなことをしたら相談者を追い込んでしまうのでは…?そんな心配そうな表情に気づいて、伊藤さんは続けてくれました。

死にたい気持ちを聞くことは、聞く側にとっても、こわいことですよね。でも、その人の命を守るためには「具体的に聞くこと」が重要なんです。すぐに命を絶ってしまうリスクもあるわけですから。死にたい気持ちがあるのか?自殺の準備をしているか?ここを聞くことで自殺を助長することはありません。これってじつは自殺予防では常識的な考えになっているんです。

個人的な経験だと「そういった事まで話していいんだ、受けとめてくれるんだ」とむしろ関係性が深まり、孤独感が弱まることもあるんじゃないかとすら思います。「死にたいと思っているの?」と聞いてくる人はなかなかいないので。

よくあるのは「命は大事にしなきゃダメ」など説得や説教をしてしまうこと。「聞く側がそう言いたくなる気持ちは自然」としながらも、自分の感情をコントロールする重要性について教えてくれました。

命を絶とうとしている人を目の前にしたとき、言われた側もすごく混乱する場合があるんですよね。大切な人だからこそ「自殺なんてやめてほしい」「なにいってんだ」と怒りさえ覚えます。打ち明けられた側からすると死んでほしくないからそう思うのも自然なこと。責められるべきものではありません。

ただ、多くの場合、説教や叱責は孤独感を強めて、逆効果になりうる。ですので「死にたい」と打ち明けてきた人にはやってはいけないことだとされています。

「やめて」というよりも「何がつらいの?」とまずは相手の気持ちを聞く。ここが重要になるといいます。

話をきいているうちにと「怒り」や「憤り」を感じたとしてもはひとまず脇に置いておきましょう。その感情が自分の中にあることを理解していれば、きっとコントロールできるはずです。

最初にやるべきは「自分だから打ち明けてくれた」と理解すること。誰でもいいから悩みを話しているわけではなくて「あなただから」話してくれたんです。本来は「自分を信頼してくれてありがとう」なんです。そしてひたすら話を聞く。場合によっては問題を整理してあげて、専門家の力を借りるということをしてください。

人を支えることは、自分を支えることと同義

【写真】インタビューに真剣に応えるいとうじろうさん

取材が進むにつれて、ひとつの大きな疑問が湧いてきました。

支える側にも精神的なもの含め、さまざまなリスクがあります。なぜ、伊藤さんは自分とは直接関係のない人たちの命を、そうまでして支えようとするのでしょうか。そこには大切にしてきた価値観、生きていく意味と向き合った上での答えがありました。

「なぜ、こういう活動してるんですか?」と質問をされると「人間ってそういう存在であってほしいからです」という答えになっちゃうんです。

社会というのは人間の集まり。だから、自分が支えなければ、誰かは支えてくれません。「つらい時は誰かが私を助けてくれる」そう思える人って、自分が誰かを支えている人だと思っているんです。どんなに辛い状況に追い込まれたとしても人間は、憎しみ合い、暴力的になるのではなく、支え合っていける。そういう存在だと思って生きていたい。正直、こういった考え方って傷つくことのほうが多いんですよ。それでも、それぞれの人間が信じて生きた方が社会はよくなると思っています。

自分が人間をどう「まなざす」か、そういったことで世界は変わるものだと信じているというか。どうしても自分の幸福など「自分」にこだわりすぎるとむしろ不幸になっていくと思うんです。人生を通じて誰を笑顔にしたいのか。幸せにしたいのか。そう考えた方が絶対にハッピーなんです。私はそう生きた方が幸せだから、そう生きています(笑)

「誰かを支えることと、自分を支える事はまったく同じ」

この言葉がとても印象に残りました。

ただ同時に、自分の人生だけでも多くの悩みや葛藤があるもの。たとえ一部であっても他者の分まで引き受けていくのはつらくないのでしょうか。こんな問いにも伊藤さんなりの「幸せ」に対する考え方がありました。

私は痛みや苦悩を悪く捉えていないんですよね。自分の人生だって苦痛の方が多い。自分自身だって生きることがつらいと思う事もあったし、今やってることだって苦痛の方が多いんです。ただ、苦悩こそが自己超越(成長)を促す。こう説いたのは、10代の頃にとても影響を受けたVEフランクルです。「意味に満ちた苦悩は、いつでも苦悩そのものを超越した何かに向かっている」と。

必ずしも幸福って自分だけが安全で快適に過ごせることではない気がしてるんです。自分が誰かを想えること、誰かが自分を想ってくれる事、それが幸せ。「満たし」といってもいい。だから、こういう風に生きることが私の人生にとっては意味があることなのかもしれません。

人間はとても脆くて弱い存在だから、支え合っていかないと生きていけません。

弱いもの、そう思えるから愛しい存在だとまなざすことができます。私自身、とても弱い存在です。どれだけ弱い存在か。それを認めていく、受容していく。そこに本当の強さを見つけていく糸口があるのかもしれませんね。

OVA(オーヴァ)はラテン語で「卵」を意味するのだといいます。傷つきやすく弱い一人ひとりかけがえのない人間(卵)に寄り添う。支え合って生きていく。OVAが目指すのは「他者の痛みに無関心ではない、関わり合いの社会」だといいます。

矛盾を抱きしめて生きていく。

【写真】微笑みながらインタビューに応えるいとうじろうさん

取材で伺えた、もうひとつ大切なお話があります。

それは「もしも大切な人を自殺によって失ってしまった時、どう向き合っていけばいいのか」ということ。

伊藤さんはゆっくりと語ってくれました。

非常に難しい問題です。一概に言えないです。…ただひとつ「自分を責めないでほしい」ということ。残された人には「なぜ」が残るものです。やはり大きな痛みがあるんですよね。なんで気づけなかったんだろう、あの時にああしていれば、自分をせめちゃう気持ち、いろんなことが芽生えます。答えが分かり得ないものだからこそ「なぜ」が生まれるのかもしれません。

そして答えが見えず、深く暗い井戸の底にいるような時、伊藤さんは決まって「矛盾を抱きしめる」ということを考えるのだといいます。

なぜこんなにもつらいんだろう?原因はなんだろう?そう思ったとき、単純なストーリーや短絡的な思考に陥りがちになります。でもそこに本質はないのだと思います。これは分かりやすいものにすがりたくなる人間の弱さなんですね。

私は「矛盾を抱きしめる」という言葉をよく使います。世界はいろんな不確実性、矛盾に満ちています。死にたいと生きたいがいっしょに存在して揺れ動いたり、好きと嫌いが表裏一体であったり、両方の感情があって、常にアンビバレントなもの。

世界や人間は絶えず矛盾している。だからこそ「わからないものをわからないままに受け入れていく」という力が必要なのかもしれません。断定できないこと、わかりえないものがあるからこそ、常に疑いと信念を持っていく。それが大事なのだと思います。

他者との関わりから生きる輝きは取り戻せる

【写真】笑顔のいとうじろうさん

伊藤さんにお会いして感じた率直な印象はとても自然体ということ。やわらかい物腰、人懐っこい笑顔、そして穏やかな話し方。

おそらく多くの人と接し、気持ちを受けとめ、自分自身も傷つきながら「生きること」についてずっと向き合い、肯定し続けてきた。だからこそのあたたかい空気のようなものを感じることができました。

そして、最後に。伊藤さんから伺えた、とある相談者のエピソードをご紹介させてください。

どんなつらいことがあっても、他者との関わりのなかから生きる輝きは取り戻せる。そういった希望を感じることができました。

真冬の雨の日、ある若い方から連絡がきたことがありました。もう自ら命を絶とうとする寸前。ずぶ濡れになり、普通ではない状況で。

電話で話して、そのなんとか安全な場所に移動してもらって。そこから医療につないだのですが、家族、身近な人たちと痛みや苦しみを共有できて、そこからすごくよくなっていったんですよね。

後日、本人から「命を救ってくれた方と一度話したい」と連絡がきました。

その方から「私は将来、伊藤さんのように人を救える人になりたい」と。電話が終わった後、思わず涙がでました。死にたい気持ちが高まったときに、誰かが、かかわって、話をきいて・・・それでもとの生活に戻れることもあるんです。死にたい気持ちは薄れていく。だからこそ、人と人がもっとつながり、かかわりあっていくことが大切なんですね。

(相談者のプライバシー保護の観点から内容を加工してお伝えいたします)

【写真】笑顔のいとうじろうさんとライターのしらいしかつやさん、ソアー編集長のくどうみずほ

もしかしたらOVAのような自殺予防の活動は、対処療法であると感じるかもしれません。つまり自殺が起こる寸前にしか対処できない、ということです。

そもそも自殺が起こる根本の原因を取り除いたり、より大きな社会課題を解決したりしなければ、自殺の件数は減らないのではないか。こういった議論がなされることも多いと思います。

もちろん、自殺が起こらないように社会の仕組みそのものを整えていくことは必要です。

でも同時に、いま目の前にいる「生きることがつらい」という人たち、すぐにでも助けが必要な人たちが大勢いる。こういった中、一人でも多くの命を救っていく。ここにこそ伊藤さんたちOVAの活動に大きな意義、そして価値があると私は感じます。

現在、広がりを見せているOVAの取り組み。インターネットやWebテクノロジーも進化し、さまざまな課題を抱えた人たちを救える可能性がどんどん広がっています。

同時に支援金・支援者がまだまだ充分とはいえないのも現実。ぜひOVAの活動に興味を持っていただけた方は、私たちと一緒に応援をしていきましょう。

関連情報
日本財団ソーシャル イノベーションフォーラム2016
・2016年9月28日(水)〜30日(金)

第1回 若者自殺対策全国ネットワークフォーラム『若者の自殺に対して私たちは何ができるのか!?』
・2016年9月11日(日)13時~17時

▼OVAの活動を支援・参加はこちらから
http://ova-japan.org/?page_id=56

※OVAは検索連動広告からの特設サイトからのみ、お悩みの相談を受け付けています。HPなどからの相談をうけておりません。大変おそれいりますが、ご了承ください。お悩み相談を希望される方は「自殺総合対策推進センター/いのち支える相談窓口一覧」をご参照ください。

(執筆/白石勝也、写真/馬場加奈子、協力/平田志乃)