こんにちは!soarライターの椎名です。

今回は、障害がある子どもも楽しめるサーフィンスクール『Ocean’s Love』についてお知らせしたくてこの記事を書いています。

わたしは日ごろハワイのガイドブックや雑誌を編集していて、マリンアクティビティの取材に行く機会があります。ある時、イルカに会いに行くツアーの取材をしていると、立て続けに「海やイルカが自閉症の子どもやうつ病によい効果をもたらす」という話を聞き、海の持つパワーに次第に惹かれるようになりました。

そんな時、目に飛び込んできたのが、Ocean’s Loveの活動でした。

【写真】2人の女の子が、ボディスーツを着て砂浜で笑っている

Ocean’s Loveは、今年で12年目を迎える障害児のためのサーフィンスクールです。代表を務めるのは、プロサーファーであり、モデル、ヨガ講師でもあるアンジェラ磨紀バーノンさん。

アンジェラさんは18歳まで日本で育ち、現在はハワイに移住をしています。お兄さんが障害を持っていたことから、「自分に何かできることはないか」と考えていたところ、ハワイで出会った自閉症の子ども達がサーフィンを体験するスクールに出会います。そこからヒントを得てスタートさせたのが、Ocean’s Loveです。

子ども達と親御さんの笑顔、ボランティアの愛情に包まれた1日

【写真】オーシャンズラブのメンバーが、砂浜で撮影した集合写真。元気よく手をあげて写るメンバーもいる

Ocean’s Loveのホームページを見てみると、どの写真にも子ども達の笑顔があふれていて、サーフィンを楽しんでいる様子が伝わってきます!

ぜひ一度活動に参加してみたい!

そう思い、8月末に愛知県伊良湖で開かれたスクールに、ボランティアとして参加してきました!

スクールは、サーフィン体験、ビーチクリーン、ランチ、思い出作りと9時から14時半くらいまでのスケジュールがあります。

約100名のボランティアは7時半に集合。ビーチのゴミを拾ったり、貝殻はじめ危険物を避けたりと、子ども達を迎える準備を始めます。同時にキッチンカーでは、炭が起こされランチの準備がスタート。

ボランティアが参加する朝礼では、アンジェラさんからこんな言葉がありました。

【soar】海の前で、微笑みながら話をするアンジェラさん

今日参加する子ども達にとって、サーフィン体験は一生に1回だけのチャンスになる可能性もあります。その経験、子ども達の挑戦を1日通して愛情たっぷりにサポートしてください。そして親御さんが子ども達から離れ、親同士の交流を持つ機会でもあります。適度な距離を保って、親御さんの時間をキープしましょう。

また、ボランティアの方も今日の目標を掲げましょう。それは“自信を持つ”ということです。自分が相手に何かをすることができたという経験を通じて、自分も成長することができると思います

この言葉だけでも、わたしは聞きながら涙が出てしまいました。この活動に込められた想いが、しっかりと伝わってきたからです。

スタッフが安全面に気を配り、子どもたちが安心して楽しめるように

9時になると子ども達が集まり始め、ウエットスーツに着替えて準備体操。

今回は一人で参加する子ども、兄弟姉妹で参加する子どもなど約10組の参加がありました! 一人ひとりに対して、「リーダー」「海スタッフ」「陸スタッフ」「キッズサポート」と4名が付いて、サーフィン体験をサポートします。リーダー役の人はボランティア経験が長く、そしてサーフィン経験もある人が付き子ども達の安全面をカバー。

今回は伊良湖のサーフィン協会のメンバーも入り、海での安全に配慮しながら、スクールが進んでいきます。

【写真】安全講習を砂浜で行う様子。砂浜に置かれたサーフィンボードの上で立つ練習をしている

朝は全員で集まり、参加する子ども達の自己紹介からスタートするのですが、恥ずかしがって、名前を言えない子どもも中にはいます。でも、安全講習を受け、海に入り、波に乗ると……。ガラリと様子が変わって、「もう一回! もう一回!」と何度も海に戻りたがる子ばかりに。

天候の関係で波が少ない状態でしたが、サーフィン経験のあるボランティアがうまく波に乗せる他、海に出てサーフボードと戯れるだけでも楽しそうです。

どの子もみんな、キラキラと笑っていますし、途中大きな声を上げる子がいても、その声は海が優しく吸収してくれ、他の人に気兼ねすることなく、のびのびと過ごすことができます。

子どもの新たな一面と楽しむ姿を見られた。子ども達に対して自分にもできることがあった。

子ども達がサーフィンを楽しんでいる間、親御さん達は浜辺から嬉しそうに我が子を見ていました。

その内のお一人、ADHDのあるお兄ちゃんに健常児の弟の2名を参加させていた方に話を伺ったところ、こんな話をしてくださいました。

昨年は抽選にもれてしまったので、やっと今年参加できました。二人とも人見知りするのではないかと気になっていましたが、こんなに楽しんでくれるなんて、来てよかったです。ふだんお兄ちゃんの病院や習い事に時間がかかってしまい、弟には何もしてあげられていないんです。それが気になっていて・・・・・・。こんなふうに障害児も健常児もどちらも参加できるイベントって少ないんですよ。情報も少ないですしね。今日はふたりとも参加できて、同じ時間が過ごせたことが、本当に嬉しいです。

子ども達のそばにずっとついて、サポートしているボランティアのみなさんも笑顔がいっぱい!今回2回目の参加だというボランティアの方にも話を伺ってみました。

サーフィンができるわけではないので、自分に何がサポートできるだろうかと考えていたのですが、楽しんでいる様子が伝わってきて、こちらまで嬉しくなってしまいました。わたしでも役に立つことがあったんだなって。何度も参加しているボランティアさんがいるのも納得ですね。みんな子ども達を楽しませようという気持ちが伝わってきて、スクール全体がポジティブな気持ちに包まれていると思います。

 【写真】アンジェラさんが着用している、オーシャンズラブのTシャツがアップで写されている

サーフィンスクールだけでなく大人や社会と関わる場でもある

サーフィン体験が終わると、ビーチクリーン。そして、お待ちかねのランチタイム。

メインはご飯の上に炭火焼きのハンバーグをのせたハワイの定番料理「ロコモコ」。ソーセージやトウモロコシのBBQなども添えられます。

BBQも障害を持つ子どもにとっては体験しにくいものだからという思いでメニューに加わったもの。障害児が小学校高学年ぐらいになってくると親御さんの体力がついていかなくなることが多く、海という場所がどんどん遠のいてしまうそうです。こうして海に来ることもなかなかできず、海でのBBQはほとんどの子が初めての体験とのこと。

サーフィンで疲れた子ども達は、大ボリュームのランチを平らげていきます。「ふだんはもっと好き嫌いをするのに……」「こんなにたくさん食べるなんて……」などの言葉が親御さんから聞こえてきます。

【写真】緊張した面持ちで、パックされた食品を渡す男の子

キッチンカーではこの日、一人の男の子が職業体験をしていました。男の子は発達障害を持ち、過去にOcean’s Loveのサーフィンスクールに参加したことがあるのですが、今回は、料理のサポートや配膳など、大人と一緒になりスタッフとして1日を過ごします。

食後は、フォトフレームに貝殻を付けて思い出作りを。貝殻を重ねてレイアウトに工夫するなど、それぞれの個性が光ります。そんな時にも傍らには4名のボランティアが。「よくできたね!」「すごくかわいい!」など声が次々にかかり、子ども達は得意そうに作品を仕上げていました。

この日は特別にスイカ割り体験も。背の順に並んで、どんどんスイカ割に挑戦します。

【写真】目隠しをとり、割れたスイカを見て笑う女の子

からだいっぱいで「楽しかった!」という気持ちを表現してくれる子どもたち

盛りだくさんの1日はそうして過ぎてゆき、帰りの時間となると、「帰りたくない」「もっとここにいたい!」「もう一度サーフィンをしたい!」「帰り道でサーフボードを買ってよ!」なんて声が聞こえてきます。

ボランティアが見送ると、見えなくなるまで手を振り続ける子ども達。今日という1日がいかに楽しかったかを、身体中で表現してくれているように思いました。

子ども達を送り出した後は、ボランティア全員で片付け作業を。

片付け終了後には、ボランティアへのお礼として、ドリンクや開催地近隣の作業所で作られたクッキーが配られます。全国各地の作業所で作られたクッキーを試しているという、アンジェラさんお墨付きのクッキー。「人へのお礼を渡す時にこういったものを選ぶことも、簡単にできるサポートです」とアンジェラさん。

そうして幕を閉じたパワフルなスケジュール。その後、アンジェラさんにお話を聞く時間をいただきました。

障害のある人もない人も、当たり前のように一緒に生活できたら

【写真】ライターのしいなさんとアンジェラさんが、明るい笑顔で話している様子

椎名:今日はありがとうございました! 子ども達の様子、ボランティアの方の愛情たっぷりの気持ちに何度も感動しました。

アンジェラさん(以下敬称略):ありがとうございます! ボランティアの方は何度も参加して下さる方が多いんですよ。お互いに会いたくて、ボランティアに参加して下さる方もいるくらいです。

椎名:このOcean’s Loveの活動は、アンジェラさんのお兄さんが障害を持っていたことをきっかけに始まったそうですね。

アンジェラ:そうです。日本で暮らしていて、障がいを持つ兄が生活するために、大変な思いをしなくてはならない様子を見ていました。例えば、遠足や運動会などの学校行事に参加をするならば、母の署名が必要で、できれば参加しないほうがよい……と促されてしまうこともあったんです。そんな経験があり、自分に何かできることはないか探していました。でもハワイに移ってみると、障がいのある人もない人も、当たり前のように一緒に生活していることが分かりました。障がいがあることで、社会から制限されることは少なく感じたんですね。

椎名:自閉症児のためのサーフィンスクールに参加したのもハワイだったとか。

アンジェラ:カリフォルニアから来ている団体がハワイで行っていたスクールに参加したんです。子ども達がサーフィンを通じて笑顔になり、見違えるほどイキイキする様子を見て、すぐに「これを日本でやりたい!」と思いました。

椎名:実際に開催してみて、子ども達の可能性や変化をどんな時に感じますか?

アンジェラ:今日も何度も波に乗ろうとする子ども達の様子を見られたと思いますが、ふだんは大人しい子も多いんですね。ですが、自然が持つヒーリングエネルギーに触れる、海という大きなものに接することで、閉じがちだった子ども達の心がオープンになるんです。海に浮いているだけで、お母さんのお腹の中にいた時のような安心感を得られるからだと思うのですが、その様子には毎回感動してしまいます。

椎名:障害児と健常児が一緒に参加できるというのは珍しい取り組みだと伺いましたが、それもアンジェラさんならではのこだわりでしょうか?

アンジェラ:そうなんです。大人になった今ならば、それは当たり前だったと分かるのですが、小さな頃、母の注目が兄に向いていることを、やはり寂しく感じたこともあります。だからOcean’s Loveでは、障がい児も健常児も、愛情たっぷり、周りからの注目たっぷりに過ごせるように。そして同じことを同じだけに楽しめるようにしています。

障害児のためだけでない、家族にもボランティアにも変化を起こすスクール

【写真】真剣な表情で語るアンジェラさんの横顔

椎名:活動は今年で12年目だそうですが、今は倍率が高いそうですね。

アンジェラ:ありがたいことに希望者がどんどん増えていて、茅ヶ崎では4人に1人くらいしか参加いただけなくなっています。抽選にもれてしまって、見学だけでも……とお見えになる方もいるんですよ。

椎名:晴れて参加できた親御さんからは、どのような声がありますか?

アンジェラ:「ふだん家では見られない表情が見られました」「ボランティアの大人達とも接することができて意外でした。その様子を初めて見ました」なんて声が多いですね。あとは、「この活動に参加してから夏休みの宿題をしっかりやるようになりました」という方もいらっしゃるんですよ(笑)。サーフィンができたという自信を持つことで、他の面にもよい影響が出ることがあるようです。

椎名:宿題にまで影響が……! わたしも先ほど、ボランティアの人と接する様子に感動してらっしゃる親御さんの声を聞きました。

アンジェラ:障がい児の多くは、日ごろの生活が特別学級と家との往復だけになってしまいがちです。社会との交流が減ってしまい、今日みたいに大勢の大人と交流を持つ機会がなくなってしまうんですね。すると大人になってから社会に溶け込むのが大変になってしまいます。だからこそ、こうして学校と家だけではない他の環境で、全く知らない人との交流を持つというのが大事なのです。

椎名:お子さんだけでなく、親御さんご自身が参加されてみてどうだったという声はありますか?

アンジェラ:先ほどの話とも少し重複しますが、子どもが小さな頃には、出来ることや反応など、まわりとの差が分かりにくいのですが、小学校低学年~中学年になると、周りとの差を感じるようになってきます。何かに通わせたり習い事をさせたりすることが難しくなってしまい、親御さん、特にお母さんは特別学級と家との往復だけになってしまいがちなんですね。すると社会との交流が減ってしまい、心がクローズしてしまう。でもOcean’s Loveに来れば、ボランティアが1日面倒を見てくれ、親御さん同士の交流を持つことができます。まわりに言えずにいた悩みを打ち明けたり、アドバイスをもらったりすれば、わたしだけでないんだという気持ちが心を開かせ、また社会とか関わってみようという勇気が湧いてくる。子どもがサーフィンに挑戦する姿を見て、自分も頑張ろうという気持ちになる。そんな機会になっているようです。

椎名:今朝、話されていた「自信を持つ」ということは、親御さんにも言えることなんですね。ボランティアの人にとっても、ただ参加するだけではない、特別な活動になっていると感じました。

【写真】しいなさんの前で、身振り手振りをくわえながら真剣な表情で語るアンジェラさん

アンジェラ:障がい者が周りにいないと、どう声をかけていいか分からない、どう接していいか分からないという気持ちから、障がい者との間に壁ができてしまいがちだと思います。ですが活動に参加してみて、「コミュニケーションを取ることができた」「あの子を笑顔にすることができた」と感じられれば、その壁もなくなるし、自信につながると思います。過去には、うつ病を患っている人で、ボランティアに参加された方もいました。自分のふさぎ込んだ心をどうにかしたいとここに来て、子ども達が挑戦する姿を見て、その方は心がオープンになったようです。

椎名:いろいろとお話を聞かせてくださってありがとうございます。最後に、Ocean’s Loveの今後の展開や目標を教えてください。

アンジェラ:全国でOcean’s Loveを開催したいという目標があります。それから、わたし達がいま一生懸命サポートしたいと考えているのは「職」の部分。今日はキッチンカーで男の子が働いてくれていたのも、その一環です。この活動に参加できた親御さん達は、「よい経験ができた」「有意義に過ごせた」と言ってくださいます。でもこの先、子ども達が大人になったとき、社会は我が子を受け入れてくれるのか不安を感じてらっしゃるんですよね。その部分もサポートしたいんです。Ocean’s Loveに障がい児自身もボランティアとして参加して大人や社会と関わることで、社会に出るタイミングになった時に新しい世界に溶け込めるようにしてあげたい。また、スポンサー企業の方にも参加していただくことで、障がい児とともに働く経験をしてほしい。それが障がい者雇用にもつながればいいと思っています。

自分にできることから始めてみる、それが自信につながる

 【写真】オーシャンズラブのスタッフ、ボランティアがポーズを取りながら楽しそうに写っている

はじける笑顔のスタッフ、ボランティアを惹きつけるのは、アンジェラさんのお人柄。

インタビューの終了間際、「大きな夢なのですが」と前置きをし、今後の個人的な目標としてハワイのマノアという地区に老人も子どもも、障害者も日本からの旅行者も、多くの人が集えお互いに相乗効果を生むコミュニティを作りたいと話してくださいました。

自分にできることを探し、使命と目標を持って進むアンジェラさん。言葉の一つひとつとまなざしには、決意と深い愛を感じました。

わたし自身、ボランティアに参加するまで、サーフィンができるわけではないし、子ども達のサポートができるのかなと不安な部分もありました。しかしスクールの時間が過ぎるうちに、ただ一緒にその時間を楽しむだけで、ケガがないようにと手を貸すだけで、十分なのかもしれないと思うようになっていったのです。

何度も波に乗ろうとする姿勢や笑顔から、浜辺を移動する際にギュッとにぎられた手から、子ども達の気持ちを感じることができたように思います。「わたしでもできることがあるんだ!」と思うこと、これは朝礼でのアンジェラさんの言葉、“自信を持つ”につながりました。

このような素晴らしい活動を紹介できることを嬉しく感じるとともに、一方で、「障害を持った子ども達のために、わたしに何ができるのだろうか」と考えてしまうこともあります。ですが、アンジェラさんが配られたようなクッキーを買ってみることから始めてもいいわけです。それはきっと、関心を持つことと同じことだなと思いました。

一人ひとりが、関心、興味を持つこと。それは障害を持つ人も持たない人も共に生きやすい環境を作ることの、第一歩だと感じています。

 

関連情報

この記事を読んで、Ocean’s Loveに参加されたいと思った方は、ぜひHPを見て参加要項やボランティア募集のページをご確認ください。

今年のスクールは全日程終了していますが、また来年の夏に活動がありますので、ぜひご参加ください!

Ocean’s Love ホームページ http://www.wingup-pt.com/oceanslove/

アンジェラ磨紀バーノン ブログ http://ameblo.jp/angelamaki/

 

(写真協力/Ocean’s Love、写真/坂上越郎)