【写真】屋上で爽やかな笑顔のさいとうゆうすけさん、あおきしょうこさん、おざわいぶきさん、さいよしみちさん

「社会全体で子どもを育てる」

理想としていくらそう唱えられていたとしても、私はこの社会の仕組みでそんなことは実現できるはずがないと思っていました。どんな環境に生まれたとしても、子どもたちがありのままで幸せに成長していってほしい。そんな誰しも心にあるはずの願いを実現する方法は、日々悲しいニュースが溢れる今の世の中にはないんじゃないだろうか。

でも彼らに初めて出会ったとき私は、「この人たちなら未来が切り開けるかもしれない」と心から思ったんです。

シビアな環境で生き抜いてきた子どもたちが、自分らしく生きていくためのサポートをするNPO法人PIECES。彼らの活動によって、かつて大人を信じることができず、未来に夢を描くこともできなかった子どもたちが生き生きとした表情に変わっていく姿を、何度も目の当たりにしてきました。

彼らが向き合うのは、子どもの貧困や虐待などとても大きな課題。でも、彼らはいつも軽やかで、ポジティブな空気を身にまとっています。

その光に引き寄せられ、今たくさんのひとが彼らの夢見る社会づくりに主体的に参加しています。

子どもたちに途切れないつながりを届けるPIECES

左から荒井佑介さん、青木翔子さん、小澤いぶきさん、斎典道さん

NPO法人PIECESは、2013年に設立された前身となる「DIC」を経て、2015年から活動を始めた団体です。

今の日本では、貧困、虐待、いじめや不登校など、子ども・若者を取り巻く様々な困難や生きづらさは年々深刻さと複雑さを増しています。そういった子どもたちは、家庭や学校、職場でつながりがなくなってしまった場合、自分ひとりの力で生き抜くしかなくなってしまうのです。

PIECESが実現したいのは、子どもたちにたいして生まれてから成人まで、子ども達が生きていく過程に「途切れないつながり」を提供すること。彼らの権利と尊厳を守り、どんな子どもも他者との信頼を築いて生きていくインクルーシブな社会をつくることがミッションです。

代表理事をつとめる小澤いぶきさん、荒井佑介さん。そしてソーシャルワーカーの斎典道さん、大学院で教育工学を学ぶ青木翔子さんの4人が中心となり運営されている組織です。

現在は、個別多様な子どもたちの課題や興味関心に寄り添い、その子を支えるサポートネットワークをつくる「コミュニティユースワーカー」の育成が主な事業。専門家だけではなく、市民・地域・企業など多種多様な大人を巻き込みながら、子どもたちの未来をつくることに日々尽力しています。

【写真】座って微笑むさいとうゆうすけさんとおざわいぶきさん

今回は私の数年来の友人であり、PIECESの共同創業者であるいぶきさん、荒井さんのおふたりにお話を聞かせてもらいました。

「いろんな環境で生きているひとがいる」と実感した子供時代

【写真】笑顔で立っているおざわいぶきさん
小澤いぶきさんは、天真爛漫でにこやかな笑顔が印象的な方。誰にでも同じように優しい眼差しを向けるいぶきさんのあり方に、私自身とても憧れています。

もともとはいぶきさんは児童精神科医。背景にトラウマ体験があったり、虐待を受けていたり、格差の中にいたり。医者としての13年間、精神的な疾患を抱えた様々な子どもたち、大人の方々に向き合ってきました。いぶきさんが子どもに関わる仕事を始めたのには、教師だったご両親の姿勢が大きく影響したのだといいます。

いぶきさん:父も母も高校の先生で、私が小さい頃から、いろいろな生徒がよく家に来ていたんです。普通に遊びに来ている高校生もいれば、泊まったりご飯を食べに来たり、土日に一緒に山登りいったりも。子ども心に、ちょっとしんどそうでなんとなく気になるお姉さんがいて、両親に「お姉さんどうしたの?」と聞いたことがあります。

そしたら、元気な人もいれば今はしんどい人もいて、様々な背景を持った人がいること。そして生徒のお母さんとも相談して、うちに来る方がホッとする時には来ていることを話してくれました。その時に母が、「お姉さんはこんな素敵なところがたくさんあるんだよ」と笑顔で話してくれたので、私は、お姉さんに得意な絵や折り紙を教えてもらったりもしました。

そのときに、「いろんな環境で生きているひとがいるんだなあ」って子どもながら考えたのを覚えています。

その時はいぶきさんにとっては、生徒たちはちょっと年上の一緒に遊んでくれるお兄さん、お姉さん。でも後に、「非行」と世間に言われるような行動をしてしまい、学校で問題児扱いされていたり、家に居場所がなくなってしまった子どもたちが多かったことを知ります。

進学は、医者を目指して医学部に。そして大学時代の児童養護施設を訪問したり、思春期の子の家庭教師をしていたことが、児童精神科医になることを決めたきっかけになったそうです。

いぶきさん:子どもたちは誰もが素敵な資質や可能性とかを持っていると思うんです。けれど育っていく環境によって、将来の選択肢が狭まってしまっているケースもあることを知りました。そして「学校に行かなきゃならない」など、価値観が強くあることのしんどさみたいなものにも、疑問を感じたんです。

関係性の中で、人は成長し変化していく

【写真】屋上で笑顔で立っているおざわいぶきさん。太陽の光がいぶきさんを明るく照らしている。
成人の精神科医を経て、児童精神科医になったいぶきさんが出会ったのは、様々な事情でシビアな環境を生き抜いてきた大人、そして子どもたちでした。

家族からのネグレクトや虐待、経済的な貧しさや学校でのいじめ。いぶきさんはそういった経験をしてきた子どもたちを「サポートしなければいけないかわいそうな子」として診るのではなく、これまで生き抜いてきてくれたことを尊敬し、一人の人間として信頼して関わっていきました。

誰かとの信頼関係を築くことによって、少しずつ自分の気持ちや願いが表現できるようになっていく。自分の人生を、自分で選択していく。いぶきさんは、そんな子どもたちの姿をこれまでたくさん見てきました。

いぶきさん:自分の気持ちを大切にしていい、何かをやりたいと願っていい。そう思えるような「安心安全な環境と信頼出来る人の存在」が子どもにとっては大事なんだなと思いました。

そして子どもとの信頼関係を築く大人は、けっして実の親でなくてもいいのだといぶきさんは言います。

いぶきさん:たとえば親御さんが貧困状態で孤立し誰にも助けを求められず、その結果子どもの虐待に繋がってしまったりすると、子どもの権利や尊厳が奪われてしまいます。家族の孤立は、そのまま子どもの孤立にもつながりやすいんですね。

親御さんはしんどいときに「助けて」っていえる人を探すのすら難しかったり、誰かに助けを求めていいことを知らないこともある。なので、何か起こる前から、子どものまわりお互い手を差し伸べあえる関係性をつくり、子どもの育ちに必要な機能や役割を家族だけが担わない状態をつくっていけたらと思ったんです。

この思いは、いぶきさんを強く突き動かしました。

そもそも病院に来て医療を受けられる子どもはごく一部。きっと誰も知らない環境で、つながりがなくひとりで生き抜いている子どもたちはたくさんいます。そしていぶきさんは2015年に医者をやめて地域に飛び出し、子どもたちの育ちを支えるNPO団体を設立しようと活動を始めたのです。

ホームレスのおじさんと関わって感じたのは「人って面白い」

【写真】笑顔で立っているさいとうゆうすけさん
もうひとりの共同創業者である荒井佑介さんは、いぶきさんいわく「生まれながらのソーシャルワーカー」。コミュニティユースワーカーのプログラムは、荒井さんの子どもたちへの関わり方がモデルになったというほど、いつも自然体で子どもたちとの関係を築いています。

子どもたちと楽しいことを企んでは、一緒に遊ぶように関わっている荒井さんは、自身もやんちゃな子ども時代を送りました。

荒井さん:「いたずらをいかに面白くやるか」をずっと企んでるような子どもでしたね(笑)。先生からの呼び出しも多くって、親にも本当怒られた!そのまま大人になった感じですね。

高校はサッカー部でサッカーに励み、卒業後は駒澤大学のグローバル・メディア学科に進んだ荒井さん。でも授業以外はほとんど大学には行かず、あることに夢中になっていました。

荒井さん:ホームレス支援をしてたんですよ。たまたま新宿駅に行ったとき、ホームレスのおじさんが座ってたので「具合悪そうですけど大丈夫ですか?」って聞いたんです。そしたら終電まで3時間ずっと身の上話をされて(笑)。おじさんが「君おもしろいからまた話そう。来週の水曜19時にマックで」って言うんです。それで初めて行ってから毎週おじさんたちと会うようになって、さらにおっさんの友達が増えていく(笑)。だから入口はボランティアじゃなくて、「友達として」だったんですよ。

荒井さんはホームレスのおじさんを支援をしたいという気持ちではなく、ただその人柄に惹かれただけだったといいます。

荒井さん:面白い人たちが多いんですよ!生きるための知恵をいっぱい持ってるし、みんなの社会のレールに乗ってない感じがいいなと思って。もちろん大変な状況な人もたくさんいるんですけど、「人って面白いなあ」と感じたのが大きなポイントですね。

実は、おじさんたちに農業で仕事をつくろうとNPO法人を設立したにも関わらず、おじさんたちが失踪してしまったという苦い経験も。その後ホームレスの方が雑誌の路上販売を行う「THE BIG ISSUE」でのインターンも一年間経験し、さらにホームレス支援にのめりこんでいきました。

そんな荒井さんに転機が訪れたのは、大学3年のときに起きたリーマンショックだったといいます。

荒井さん:その頃一気に、20代〜30代の若者のホームレスが増えたんです。彼らと路上で話してみると、みんな幼少期から家にお金が無かったり、虐待されていたりするんですよ。養護施設に入っていたり、親から縁切られた子もいれば、就職につまずいてそのまま路頭に迷っている子もいました。

大人の貧困には、生まれ育った家庭や幼少期の経験が大きく影響していると気付いた荒井さんは、だんだんと子どものサポートに関心が向いていきます。そして、学習支援をとおして中学生の子どもたちに関わりはじめました。

支援につながっていない子どもをキャッチして関わる

【写真】微笑んでインタビューに応えるさいとうゆうすけさん

たくさんの子どもたちに出会うなかで、荒井さんは徐々に学習支援だけでは解決できない問題に気づき始めます。

荒井さん:困っていたとしても、学習支援には繋がらない子がいっぱいいるんですよ。家庭環境が理由で勉強どころじゃない子たちもいるし、それこそ非行に走ってしまう少年たちは学習支援には来ないですよね。高校に入れたとしても、いじめがあったりして中退する子もいます。高校になるとサポートは途端に減り、地域の人たちの目も届きにくくなるんです。なので、「学習支援には来ない子をいかにキャッチしてケアするか」、そして「彼らとどうやって継続して関わりつづけるか」が僕のテーマでした。

多くの学習支援は子どもが中学3年までで、高校入学してからは関係が途切れてしまうことが多いなか、荒井さんは一度関わった子との関係を続けていきました。その後、足立区で個人宅を開放して子どもたちが集まる場をつくっている女性と知り合った荒井さんは、定期的に勉強を教えに行くようになります。

荒井さん:ピンポンも鳴らさず「腹減ったー」って家に入ってくるような子ばっかりでしたよ(笑)。その子たちに最初勉強を教えてたんですけど、しばらくするとみんな「勉強したくない」って言い出して!だから一緒にスーパーに行って食材買ってごはんつくったり、花火して遊んだりしてました。

【写真】砂浜での楽しそうな子供たちとさいとうゆうすけさん。

そこで出会った子どもたちの8割くらいが、母子家庭で育っていたり不登校だったり、何かしらの事情を抱えていたそう。そしてみんな寂しさを抱えていて、人とのつながりを求めていたのだといいます。

荒井さん:学校でも問題児扱いされるから、「誰かから認めてもらいたい」って思ったときに、彼らには仲間しかいないんですよ。仲良くなると「家帰ってもごはん無いんだよね」とか「学校で勉強したくないんだよね」って話をぽろっとしてくれて、みんないろいろ抱えてるんだなあと思いました。家がゴミだらけだったり、親がアルコール依存症で暴れることがあったり。家庭がそんな状況だったので、彼らが荒れてしまうのも仕方ないなって思ったし、やっぱり支援にはつながっていないんですよ。

荒井さんはその経験を経て、「様々な環境で生きている子どもに大人が継続的に関わり、課題に個別にアプローチしていけるような仕組みをつくりたい」と考えるように。大学を卒業して会社に勤め始めてからも、退勤後に毎日子どもたちに会う生活を続けながら、そのかたちを模索してきたのだといいます。

子どもと大人が自然につながれる接点をつくる

【写真】屋上で微笑んでいるさいとうゆうすけさんとおざわいぶきさん
それぞれに思いを持って活動をしていたいぶきさんと荒井さんが出会ったのは、2年前。お互いに「活動を広げていくためには、もっと人のネットワークが必要だ」と悩んでいたところ、共通の友人が紹介してくれました。

いぶきさんは荒井さんに初めて会ったときにまず、「こんな人が増えたらいいのに!」と思ったのだそうです。

いぶきさん:今ある仕組みで、医療や福祉などの支援につながってうまくいく人ももちろんいれば、難しい状況にある人もいます。「自分で支援につながる」って、エネルギーがないとき、誰かと関わるのがしんどいときは難しい。だから、困ったときに自分から出会いに行ったり、来たくなってしまうような場や関係を作っていくのが大事だと思います。

荒井は出会ったときすでに、自ら子どものもとへ出向いていました!そして「子どもの日常に途切れずに緩やかに関わること」「いろんな人や機会とつないでネットワークをつくる」ということを、勉強を積み重ねながら「生き方」として体現していたんですね。

困難を抱えているにも関わらず、自ら支援にたどりつけない人々に対して、積極的に働きかけて支援するアウトリーチ。荒井さんのこれまでの子どもとの関わりは、まさにアウトリーチそのものだったのです。

そして子どもが健やかに育つ日常を生み出すには、けっして医療や福祉などの専門性だけではなく、市民性も必要だと改めて感じたといういぶきさん。

話し合った結果、お互いが同じことやろうとしていると気づき、すぐに「一緒にやろう!」と意気投合したふたり。まずは、様々な大人が子どもたちと関わる場づくりを進めていきました。

【写真】食卓を囲むように大人と子供が数人おり、様々な料理が並んでいる。

地域の人に家開きをしてもらって、みんなでご飯を食べる機会や勉強を学ぶ場をつくったり。多様な大人が子どもと出会う機会の場のひとつとして、スポーツ大会も開催しました。

荒井さん:僕が仕事帰りにスーツで彼らに会いに行くと、「スーツ着てる人、見たことないわ」って言うんですよ。親がパート勤めだったり、働いてなかったりする子どももいるからだと思います。僕のスーツを脱がして着るんですよ!写真を撮り始めて「俺似合うな。スーツ着る仕事しようかな」って言い出したり(笑)。育った環境によって文化の偏りがすごくあるんだなって思いましたね。それと同時に逆に企業で働いている大人たちも、全然子どもたちの世界を知らないということに気づいて、彼らをつなげることで何かが起きるんじゃないかと思ったんです。

【写真】体育館でドッジボールをしている人もいれば、休憩している人もいる。

その頃ある企業のCSR担当者に、「荒井くんって会社外で何をしてるの?」と興味を持ってくれた人がいたので、子どもたちをオフィスに連れていったのだそう。それをきっかけに意気投合して「ドッジボール大会やりましょうよ!」と盛り上がり、大人と子どもがドッジボールをしながら交流していく場が生まれたのです。

荒井さん:子どもたちがその企業のことをネットで調べ始めたんですよ。「売上ヤバい!」「億ってなんだ」「時給いくらだろう?」って会話してるのを見るのが面白くて(笑)。彼らはちょうど高3だったんですが、卒業後に就職することを迷って専門学校に行くことにした子がいたのは、そういった出会いも大きかったのかなと思います。「こういうアプローチいいな。会社の肩書きとかが関係なく大人も素になってくれるし、自然に子どもと大人と接点が作れるし大事だな」と思うようになりました。

様々な大人と出会うなかで、子どもが自分の興味関心に気づき、今度は自分の好きなことややってみたいことにチャレンジしていく。そのプロセスが子どもの成長につながるとふたりは確信していきます。

子どもたちの願いを一緒にかたちにしていく

そこからPIECESはたくさんの大人を巻き込みながら、プログラミングやアート、デザインなど自分自身が興味あるものを子どもが体験できる機会づくりをしていきます。

荒井さん:高校を出た後に就職する、大学に入り就職する。そういう多くの人が歩んでいるルートしか見せられないことはもったいないし、子どもにとって窮屈だと思うんです。社会にはもっと多様なルートを歩んでいる人がたくさんいる。それを知るだけでも、心が軽くなるだろうし、「こういう生き方をしていいんだ」と思えます。変わった道を歩めというわけではないですが、人と違った人生でもいいから、その子にあった人生を一緒に歩んでいくサポートをしたいなと思ったんです。

プログラミングに憧れていた子どもが自分の作品を作り始めたり、アートが好きな子どもが作品を展示する機会を得たり。PIECESのサポートによって、いろんな子どもが自分のやりたいことへの一歩を踏み出していきました。

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いぶきさん:子どもは自分で何かにチャレンジするタイミングも、成長するペースも、個別多様です。子ども一人一人のタイミングや成長を大切にしたいですね。それは、大人が目的を決めてそこに向かわせるんじゃなくて、「子どもが自分で決めていく」環境をつくるってことでもあります。

子どもたちが荒井と一緒に様々な人と関わっていくなかで、好きなことに夢中になったり、「できた」っていう経験を積み重ねていたら、結果として「困難を乗り越えていた」っていうこともあるんですね。だから、しんどい状況の子どもがいたとしても、「困難」だけに目を向けるんではなく、「子どもの奥にある願いや欲求、いろんな資源に目を向ける」ということを大切にしていきたいと思っています。

人を信じることができなかった子どもが、荒井さんに出会って仲良くなり、信頼し始める。信頼している荒井さんがつくる機会だからこそ参加できて、そこからいろんな大人に会って多様な生き方を知り、自分の好きなことを見つける。そしてチャレンジをし始め、壁にぶつかったとしても周りの大人に支えられながら成長していく。

私自身、PIECESの活動を通してそういう成長を遂げていった子どもを何人も見てきました。

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荒井さん:私は子どもをいろんなとこに連れていって、いろんな大人との出会いをつくるので、子どもは困ったときに自分でその大人に相談しに行ったりもするんです。私は子どもにとっての選択肢のひとつだし、それ以外の大人っていう選択肢もある。その状態が健全だなと思うんですよ。まあ、自分のところに相談こないと寂しいなと思う時もありますが(笑)。

子どもが頼る人が一人の支援者しかいなく、そこが依存関係になってしまっては、支援者との関係が途絶えてしまったときに頼る先がありません。だからこそ、頼れる先を分散し、様々な大人がその子どもに関わり見守っていくような体制が必要なのだといいます。

いぶきさん:子どもたちのしんどさの背景にある課題を解決するために、医療、学校、行政、NPOなど様々な人たちが日々活動しています。でも子どもたちが孤立している背景にある虐待やネグレクト、貧困といった課題は複雑に絡み合って存在し、個別の組織の力だけでは解決が難しいんです。 だからこそ様々な課題の連鎖を予防するためには、様々なセクターが手を取り合って有機的なネットワークをつくり、みんなで子どもたちをサポートしていくことが必要だと思います。

子どもを支える有機的なネットワークを構築していくためには、荒井さんのようにそれを可能にする人材を生み出していかなければいけない。そのために始めたのが、子どもたちの人生に伴走していく支援者「コミュニティユースワーカー(以下CYW)」を育てるプログラムです。

いぶきさん:日々の自己決定、人との信頼関係の積み重ねで子どもたちは成長していきます。だからこそ、日常的に多様な出会いや機会があることが大切です。そんな日常を子どもと養育者、周りにいる地域の人たちと共に丁寧につくっていく、途切れないつながりを生み出していくような人材を、社会に増やしていきたいと思いました。

子どもの伴走者としての「コミュニティユースワーカー」

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こうして生まれたCYWは、妊娠期から20歳を超えるまで、途切れることなく継続的に子ども達に伴走する支援者のこと。CYWは子どもたちが抱える課題や興味関心に寄り添い、子どもたちの可能性を広げていきます。また、子どもたちと関わる中で見えてくるニーズに対して、多様な大人を巻き込み機会を生み出していくハブになるという役目もあるのです。

コミュニティユースワーカーの育成プログラムは、教育、福祉、医療それぞれの専門性とエビデンス、コミュニティづくりの複合的な視点から、開発しているそう。荒井さんがこれまでやってきたことをベースにし、そこにいぶきさんの持つ医療・斎さんの持つ福祉の専門性を取り入れ、青木さんが学習プログラムを作成。ゼミ形式のスタイルをとり、研修だけでなく子どもに直接関わる実践から学んだことの振り返りをしていきます。

長い準備期間を経て2016年4月に一期生の募集を始めたところ、なんと60人の応募があったそう!選考の結果、一期生には企業で働く人、行政職員、NPO職員、学生など、年齢や職業も多様な8人が選ばれました。

【写真】笑顔のピーシーズのコミュニティユースワーカーのみなさん。

CYWは半年間をかけて子どもの抱える困難さに関する専門的な知識、子どもたちと信頼関係をつくっていくための関わり方、柔軟に人とのネットワークをつくってくためのスキルなど、様々なことを学びます。

荒井さん:子どもの関係づくりのコミュニケーション、行政や地域の人たちとのコミュニケーション、企業に協力を得るためのコミュニケーションって全部違うんですよ。それをちゃんと使い分けられることが、CYWには必要なんです。

【写真】笑顔でインタビューに応えるおざわいぶきさん

いぶきさん:コミュニケーションは言葉だけじゃなく、表情や目線など様々。そして子どもそれぞれコミュニケーションの仕方は違うので、関わり方も子どもによって違います。それは自分や社会にある価値観を一旦置いて、子どもと過ごす日々で起こる様々なことに関心を向けていくなかで、やっと生まれていくんです。

ひとつ疑問として浮かぶのは、「どうやって困っている子どもたちをキャッチするのか」ということ。学校や行政など、すでに子どもを支える役割がある機関ならそれは可能かもしれませんが、一般市民ができることなのでしょうか。

荒井さんは、「支援機関に所属していないからこそできることがある」といいます。

荒井さん:CYWは、子どもにとって身近な「お兄さん、お姉さん」を育成して、課題が深刻化する前になんとか子どもに出会い、支援に繋げようとする取り組みなんですね。まずひとりの子どもにとって身近な存在となり、子どもたちのコミュニティに入っていくことができれば、その子の周りの「友人」にもリーチすることができます。対象となる子どもたちの周りには、似たような課題を抱えている子が多いので。

まさに荒井さんがこれまでしてきたことにヒントを得た、直接子どもたちと繋がるこの方法を「芋づる式アウトリーチ」と呼んでいるそう。学習支援や地域で子どもが集まりやすい場所を通して、ひとり子どもと出会うことができれば、そこから自然につながっていくのだといいます。

そしてそういった子どもと関わっていくために大事なこととして、まずはCYW自身にが自分に向き合って、自分を理解するのが大切です。

荒井さん:「自分はこういう教育を受けてきたから」「社会でこう言われたから」ということが邪魔をして、子どもたちの行動の背景や、心の奥底にある気持ちなど、ありのままの姿をちゃんと見れない場合も多いんです。なので、CYWのプログラムはそんな自分との闘いという部分もある。自分の見えないルールや判断基準を、子どもに押し付けてはいけないですよね。なので、「どうして子どもにそういう関わりをしたのか?」とメンバーと一緒に振り返りながら、自分で自分のことに気付いていくのが、このプログラムの特徴かなと思います。

10代のシングルマザー、夢に向かって進む子どもたちをサポート

2016年5月に始まったCYW一期生の活動からは、様々な成果が生まれています。半年間で支援を届けた子どもはなんと190名。うち約40%は中学生、約20%が高校生、若者だったのだそう。子どもへの主な関わり方は一対一の個別支援で、板橋区、足立区、豊島区が主な活動地域です。

活動内容は、子どもたちの生活支援や引きこもり・不登校の子の家庭訪問、高校中退者の高卒認定試験のサポートや就業支援など多岐に渡ります。

左が塚原萌香さん

左が塚原萌香さん

その活動のひとつが、10代で妊娠・出産をしたシングルマザーのサポート。保育士のCYW一期生・塚原萌香さんは、自身の親子関係に溝があったことから、ずっと親と子の関係の在り方に関心があったのだそう。そこで、妊娠期のママに関わることで親子関係に悩む子どもたちがより生きやすくしたいと考えました。

現在は、PIECESが連携している妊娠期の相談支援機関「にんしんSOS東京」や地域の方からの紹介で、10代のシングルマザーに関わっています。

【写真】古民家を活用した10代シングルマザーの子育てサロンの様子。畳や障子があり、小さい子供が遊んでいる。

古民家を活用した10代シングルマザーの子育てサロンの様子

多くの10 代のママが高校を中退しているので、希望があれば高卒認定の勉強を教えたり、助産師や地域のお母さんの協力を得て子育てに対するアドバイスをもらえる場をつくったり。安心して子育てができて、自分のしたいことにもチャレンジできる体制を地域で生み出すために、塚原さんは日々奮闘しています。

実は私たちsoarも、子どもたちの活躍の機会づくりに関わらせていただいていて、soarのイベントでは現在、調理師を目指す高校生の中村碧海(あおい)さんがケータリングのお手伝いをしてくれています。

左から阿部さん、碧海さん、坂本さん。二人のサポートもあり、碧海さんはどんどん料理のスキルアップをしています

左から阿部さん、碧海さん、坂本さん。二人のサポートもあり、碧海さんはどんどん料理のスキルアップをしています

碧海さんのサポートをしているのは、CYWの坂本竜作さん。もともととても人見知りで、自分の考えを口にすることができなかった碧海さんですが、イベントで出会ったケータリング担当の阿部裕太朗さんのお手伝いをするように。

今では自分でメニューを考案し、阿部さんと一緒に調理を担当してくれるまでに成長しました。

【写真】メニューやPIECESの活動についてイベントで説明してくれる坂本さん

メニューやPIECESの活動についてイベントで説明してくれる坂本さん

【写真】あおいさんがあべさんと一緒にメニューを考案してつくったケータリング。とても美味しそうだ。

碧海さんが阿部さんと一緒にメニューを考案してつくったケータリング

碧海さんが阿部さんに作り方でわからないことを質問して作れる料理の幅が広がったり、お客様から「美味しかった」と感想をもらったり。碧海さんに関わる大人が増え、本人もどんどん自信をつけていくことが、坂本さんにとっては嬉しくてたまらないそうです。

今ではsoarのメンバーや、イベントに遊びに来てくれる参加者までが、碧海さんのケータリングを楽しみにしています。これまで全くつながりのなかった大人たちが、ひとりの子どもの成長を見守り喜ぶ存在になっているのです。

「ひとりで生きていかなくていい、人に頼ってもいいんだ」

【写真】笑顔でインタビューに応えるさかうしりょうさんとちゃっくさん

左から坂牛さん、チャックさん

では実際、CYWがどんなことを考え子どもに関わっているのか、子どもはどんな気持ちでいるのか。CYWの坂牛怜さんと、坂牛さんが関わっている金子優馬さん(愛称はチャック)にお話を聞いてみました。

坂牛さんは来年就職を控える大学4年生、チャックさんは都内で会社勤務をする21歳の青年です。「しゃべるのがうまくないんで」と照れ笑いをしながらも一生懸命お話ししてくれたチャックさんを、坂牛さんは優しい声がけで気遣います。一目見ただけで仲が良いことが伝わってくるふたりの姿に、インタビューをする私もついつい笑顔になってしまいました!

坂牛さんはもともと日本の若者の自死・自殺に問題意識を抱えていて、大学でもそれについて学んだり、学生団体で活動したりしてきたそう。悩みを抱えている人ともっとちゃんと関われるようになりたいと思ったのがCYWに応募したきっかけの一つです。

坂牛さん:実は私自身が、子どもの頃から家庭環境や学校での人間関係で辛いことが続いていて、「生きてる実感」がずっとなかったんですが、周りの人の支えでなんとか立ち直りました。その支えへの感謝の気持ちがあって、自分も人を支えられる側になりたいなと思ったんです。PIECESは子ども若者が対象だし、子どもが育っていく過程に「もっと親や教師以外の大人が関わったほうがいい」という考え方にも共感して応募しました。

チャックさんは軽度の知的障害があるとみなされたため、障害者手帳を持っていて、これまで「障害者」というアイデンティティへの偏見に苦しんできたといいます。

【写真】真剣な様子でインタビューに応えるちゃっくさん

チャックさん:自分は学習面で問題があって成績も良くなくて、高校は普通学校ではなく特別支援学校に入ったんです。周りが普通学校に行ってるのに自分が特別支援学校に行くっていうのは、そのときは恥ずかしくて中学の友達にも言えなくて縁を切っちゃって。教員とも障害者と健常者という立場の差で上手くいかず、理不尽な対応をされることもありました。卒業して社会人になっても、お金や同僚のことで理不尽な目にあって……。卒業した学校へ相談しに行っても「それは、どこいっても同じことだから」と言われただけでした。その時、自分ひとりぼっちだなあって。

坂牛さんがCYWになり「チャックと気が合いそうだから関わってみない?」という荒井さんの一言で、よく話をするようになったという二人。いざ話してみるととっても気が合ったのだそう!そしてチャックさんが叶えたいことがあるとのことで、その相談に乗るところから二人の関係は始まりました。

坂牛さん:チャックはすごいよね!フルタイムで仕事してからパソコンの練習をしたり、企業のコンペに応募して準備したり。

チャックさん:坂牛さんはだめなところはとことんだめって言ってくれるし、いいところは褒めるし改善案も沢山出してくれて、頼りになる良い兄貴っていう感じです。だから一緒にいてすごい落ち着きます。

自分は昔から「人に甘えちゃいけない」って考えるくせがあって。障害者手帳を持ってる子は不利に扱われるかもしれないから隠していたし、先生にも親にも悩みを相談できなくて、ひとりで全部抱えこんでいかなきゃいけないって思ってました。でも誰も信用できないときにうっしー(=坂牛さんの愛称)も荒井さんも悩みを聞いて助けてくれたので、PIECESには本当に感謝しています。これからも坂牛さんみたいな人が自分に寄り添ってくれたら、すごくいいなと思ってます。

実は坂牛さんも以前は「独りで生きていかなきゃいけないんだ」という孤立感を抱えていて、チャックさんの姿には自分自身を重ねる部分があったのだそう。

特撮映画がすごく好きで、とくに「ウルトラマンを生んだ円谷プロでいつか働きたい」というチャックさんの夢を知り、自分も物語が好きだったこともあり話が盛り上がったというふたり。坂牛さんと一緒に映像制作の専門学校や円谷プロ本社に見学に行ったり、これからの進路を話し合って考えていくなかで、チャックさんはどんどん変化していきました。

今までしたいことがあっても、周りに「無理だ諦めろ」って言われてきたチャックさんが、どんどん自分で動くようになり、自分の夢を生き生きと語るように。

そんなチャックさんの主体的に行動する姿を見て、子どもの幸せを願うときには様々な資源が必要なので、専門家だけではなく、友人として関わる自分のような存在も必要だと考えるようになったそうです。

【写真】真剣な表情でインタビューに応えるさかうしりょうさん

坂牛さん:僕はチャックを救ってるとか支援してるわけじゃなくて、本当にできることをやるだけだし、友達に近い関係だからこそ別に自分がパーフェクトにならずにすむんです。チャックと関わって、人に寄り添う力だけじゃなく、本人のやりたいことを実現するためにいろんな人にお願いをしに行ってサポートをかき集めるっていう度胸がつきました(笑)。決められた枠組みでやるんではなく、自分で可能性をどんどんつくっていくというか。

チャックとはまだ会ってから半年しかたってなくて、新しい可能性を切り開けましたなんて言えるものはないんですが、今後も一緒にいろいろやっていきたいです。

その言葉を聞きながら照れ笑いするチャックさんは、とても嬉しそうな表情をしていました。坂牛さんは一期生として半年間研修を受け、これからもコミュニティユースワーカーとして、チャックさんをはじめ様々な子どもと関わり続けていくそうです。

坂牛さん:PIECESでは、ひとりの子どもの幸せについて、いろんな立場の人が関わりながら一緒に考えるんです。それを経験して、「子どもが何かを決断して生きていく」っていう人生の営みにいろんな人が関わると、今まで考えてこなかったアイデアが出るんだなと思いました!「私こんな人知ってるよ、こんなスキル持ってるよ」と思ってもみなかったところから資源が舞い降りて、また違う可能性が開かれていく。それってすごく新鮮だなあって。自分自身、生きていくのにもっと人と関わっていいんだなあと思ったし、このサポートをこれからもっと一般的に広めたいなと思っています。

凛とした目で語る坂牛さんを見て、関わる子どもだけでなく、CYW自身の内面にも影響を与えていくプログラムなのだということを感じました。坂牛さんとチャックさんは、「支援する・される」の関係ではなく、いい影響を与え合いながらともに成長していっているのです。

多様な価値観を受容するCYWを全国へ

【写真】微笑んでインタビューに応えるあらいゆうすけさんとおざわいぶきさん
すでに多数の取り組みが生まれ、成果を上げ始めているCYW。これを受けて、PIECESはさらにCYWプログラムの改善をしていきたいと考えています。

荒井さん:彼らの成長はすごくあったんですが、まだ受け身かなと感じる部分もあります。専門家の意見も大事ですが、まず「一番にその子を見てるのはあなただよね。あなたはどうしたらいいと思う?」と問いかけたいときもあって。本当にその子のことを考えたうえで、覚悟持って踏み込み、地域の人と関係を作っていく動きを増やしていきたいですね。

子どもたちの関わりに正解はない。いかにその子のことを考え抜き、その子以上にその子の人生を考えることが大事です。私たちが取れるアプローチは無限にある。しかし、決定は子どもたち自身がします。それは忘れてはいけないと常に言い聞かせてます。

一期生が継続して活動していく一方で、12月からはCYW二期生の育成がスタートしています。この期間に、今後のサポートネットワークを広げていくための基盤を創るためCYW育成プログラムの研究開発を行っていくのだそう。

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さらに全国から「うちの地域でもやりたい!」という声が多数上がり、来期以降は東京だけではなく、全国の様々な地域に育成プログラムを展開していくことを目指しています。

いぶきさん:児童相談所の研修や、保育や教育、福祉などに関わる人の教育過程にCYWのプログラムを導入し、子どもの近くにいる人たちをエンパワーしていけるといいなと考えてます。そのためにもCYWのプログラムの質を高めながら、プログラムの効果検証をしてけたらと思ってますね。

荒井さん:毎回数十人の応募があるのですが8人しか選考できないのはとてももったいないので、専門性を活かしていろんな関わり方をしてもらえる仕組みをつくりたいなと考えてますね。少しだけでもいいから学びたいという人に向けて、カレッジみたいなものも構想しています。

ふたりの話を聞いていると、自身をちゃんと理解し、相手の気持ちを考え周りとコミュニケーションをとっていくことは、CYWに限らず様々な人が身につけるとプラスになる力でもあるように思います。

荒井さん:多様な価値観を受け入れる土壌はできると思いますし、どうやって人とコミュニケーションとっていくかという具体的なところも学べます。そういう意味では、こういう価値観を持った人たちが世界に散らばっていくのはすごくいいですよね。

企業や行政、教育機関等から協力を得ながら、どんどんCYWの輪が広がっていけば、自ずと多様性のあるインクルーシブな社会へと変化していくような気がします。

まるでアーティストのように新しい社会を描いていく

【写真】笑顔でインタビューに応えるあらいゆうすけさん
いぶきさんと荒井さんに「PIECESを一言で表すとどんな団体なんですか」と尋ねると、返ってきたのは意外なことに「アーティスト集団」「クリエイター集団」という答えでした。

荒井さん:子どもの貧困や虐待っていう深刻な課題に取り組んでいるからこそ、「これって楽しくない!?」という雰囲気を大事にしています。この子にはこんな素敵な面があった!っていう発見とか。

もちろん、子どもたちと密に関わるからこそ見えてくる、人間の強さや弱さ、そして寄り添う私たち自身の葛藤もあります。だからこそ、こんなに面白いことはないんじゃないかと思っています。

いぶきさん:関係性の中で、その子自身が自分の弱みだと思っていたことが強みになることもある。成長の過程で必要な関わりが変化していくこともある。だからこそ、柔軟な関わりのネットワークを作っていきたいし、その中での人と人の相互作用をちゃんととらえていきたいですね。

例えば子どもが何か始めたいことがあるけどお金がないときは、「わかった!じゃあお金どうやって集めようか」と一緒に考える。子どもの願いを叶えるために一方的にサポートをするのではなく、「子どもが実現したいことを一緒に創造していく」のがPIECESの子どもへの関わり方のように感じます。

いぶきさん:子どもに限らず、私たちは誰かと何かを一緒に創り出したり、支えあったりする関係性が日常の営みの中にあるから、人生の選択肢がちゃんとあるんじゃないかな。私は豊かな関係性がある環境をつくっていくうえで、「子どもも社会を作っていく協働者だ」という視点を大切にしたいんです。私たちがつくってあげるのではなく、「子どもと一緒につくっていく」。

今子どもの貧困が課題になっており、学習支援や就労支援など様々な活動がされているからこそ、これまでにない「目的のない関わり」があってはいいのではないかと荒井さんはいいます。

荒井さん:もっと子どもとの関わりって自然でもいいのかなと思ってます。今って目的の無い場所ってなくて、学校に行くと勉強しなきゃいけない、家でもいい子にしなきゃいけないとか、彼らが純粋にいられる場所ってすごく少ないですよね。そういう無目的で居られる場をつくるときに大事なのが、彼らの趣味とか好きなことかなと思います。

楽しいから来る、何も考えずに来れる。日常がつらいとしても忘れられる場を作っていきたいですね。そこから大人に会って何かを学んだり、趣味に没頭したり。そのなかで学校の勉強を頑張ろうと思う子がいるかもしれないですし、もしかしたら就職に繋がる子もいるかもしれない。子どもたちのコミュニティを新たにつくっていくのが大事かな。

【写真】笑顔でインタビューに応えるおざわいぶきさん

いぶきさん:サポートの選択肢が広がるといいなと思います。その中で、私たちは「あなたは貧困状態だから助けてあげるよ」という一方的な姿勢ではなくて、「困難なこともたくさんあるよね。それでもなんとかなる文化を一緒に作ろうよ」っていう文化づくりにシフトしていきたいと思っています。

PIECESが目指すのは、子どもの貧困や虐待などの課題解決だけではなく、今の社会にある概念を問い直し、新しい文化をつくっていくこと。そういった意味でも、新たな未来をつくっていくアーティスト・クリエイター集団であるといえるのかもしれません。

荒井さん:しんどさの背景は様々だし、「子どもの貧困」って表面に出てる一つの課題でしかないので、その根っこにある社会そのものをちゃんと考えたいなと思っています。家族や学校、企業のあり方はこれからどんどん変わっていくと思います。そこを見据えたときに「じゃあどんな人の生き方があるんだろう」と考えて、既存の枠にはまらずにサポートしあえるコミュニティを作っていきたいですね。市民ひとりひとりが主体的につくるネットワークは子どもを育てることだけでなく、家庭、学校、行政、企業などの様々な課題を解決すると思っています。

いぶきさん:様々な課題が時代の変化とともに生まれていく、先のことが予測しづらい今の時代は、中央集権的な仕組みだけでは限界な気がしています。今、私たちが子どもや様々な人と一緒につくっている柔軟でネットワーク。それがいくつも生まれていけば、その先には多様なコミュニティがネットワークされ社会全体になっていくイメージが鮮明にあります。その方が健全で豊かだなと思うんですよ。

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目を輝かせ、「いつもワクワクしながらこの仕事をしています」と笑顔で語る荒井さんといぶきさん。お話を聞いているといつも、彼らの描いている未来を一緒に見ているような気がして、自然に気持ちが高揚していきます。

目の前のひとりひとりの子どもと向き合っていくことが、いつか大きく暖かなエネルギーとなり、優しい社会をつくっていく。そんなイメージが私のなかにも広がっていくのです。

子どもたちとストーリーをつくっていく楽しさを

最後に荒井さんは、こんなふうに言いました。

荒井さん:子どもたちとこういう関わりをしてるからこそ、本当にドラマみたいなエピソードいっぱいありました。こんなに深く人の感情に寄り添うことって、なかなかないと思うんですよ。目の前で大変なことを乗り越えて頑張ろうとしてる子を間近で見ている。その子たちのエピソードに自分が登場人物として出てくるっていうのは、すごくやりがいがあるなあ。いや、やりがいというか、嬉しいんです。

その楽しさが一番かなと思ってるので、いろんなひとに経験してほしいんですよね。子どもと関わると大人自身が成長もしますし、子どもたちとストーリーを作っていく楽しさを、多くの人に知ってもらいたいなっていうのが一番のモチベーションです。

【写真】屋上で笑顔のあらいゆうすけさん、おざわいぶきさん、あおきしょうこさん、さいよしみちさん、ライターのくどうみずほ

私自身も、「子どものために自分にもできることがあるんだ」「子どもと関わるのって楽しい!」と彼らに気づかされたひとり。数時間前まで全くの他人だった子どもたちといろんな話をして、素直に褒めると素直によろこんで感情を表現するそのあり方から、たくさんのことを学びました。

彼らが何かを選択し、チャレンジし、一歩一歩成長していく。ちょっとずつ、自分らしく笑えるようになる。そんな姿を見ると、なんだか自分が励まされエネルギーをもらっているような気になるのです。

年齢や立場が違っても、人は誰かに何かを与えるとき、自分も何かをもらっている。お互いに影響を与え合い、支え合って生きている。

そんなシンプルでとても大切なことを教えてくれたPIECESのみんな、子どもたちに心から感謝しています。

私が伝えたいのは、「子どもの人生に関わって、一緒に成長していくってとっても楽しいよ」ということ。PIECESを応援するのではなく、子どもたちと一緒に未来をつくっていきたい。この記事を読んだみなさんが、そんな想いを共にできる仲間になってくれたら嬉しいです。

関連情報:
PIECESは現在、コミュニティユースワーカーのプログラム開発費用を募るクラウドファンディングに挑戦中です!(支援の受付期限は2016/12/26まで)

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(写真/馬場加奈子、協力/倉本祐美加)