【写真】シルクヘッドスカーフをお洒落に身につけるつのださん

色鮮やかでオシャレなヘッドスカーフは、華やかさをプラスしてくれる素敵なファッションアイテムです。でもこちらのヘッドスカーフは、百貨店などではなく、とある病院内で販売されています。いったいなぜでしょうか?

実はこちらのLINOLEA-リノレア-」というヘッドスカーフブランドは、多発性脱毛症や抗がん剤治療などで髪を失った女性のために作られたもの。女性のデリケートな肌に負担がないよう、限りなく肌に優しい群馬県産のシルクが使われています。

以前、soarのインタビュー記事でご紹介させていただいたときは製作中だったスカーフが、2016年12月に販売開始されました!

「髪を失っても、おしゃれを楽しむことができ、前向きでいられるように」。
そんな思いの込められたヘッドスカーフ完成までのストーリーをお届けします。

髪を失った自身の経験を活かしてできることは何だろう

ヘッドスカーフの生みの親は、合同会社Armonia代表の角田真住さんです。角田さんは2012年に2人目のお子さんを出産し、授乳を終えた頃に多発性脱毛症を発症しました。

【写真】笑顔でインタビューに答えるつのださん   

角田さん:ふと気づいてみたら頭につるつるしたところがあるんですよ。家族に見てもらったら「禿げてるよ」って言われて。病院へ行ったら、1つだけじゃなくてあっちにもこっちにもたくさんあるって言われました。

複数箇所の脱毛症は1箇所のものに比べて治りづらく対処療法がまだ見つかっていないこと、服用予定の薬に副作用があることを医師に伝えられた角田さんは、自分の幸せのために治療をストップすることにしました。

脱毛症だとわかってから半年後、もともと「人の役に立つことをしたい!」と思っていた角田さんは、自身の経験を活かして何かできることを探すためにビジネススクールで学び始めます。そのときに生まれたのが、脱毛症の方のためのヘッドスカーフを製作しようというアイデアです。

角田さん:抗がん剤の副作用で髪を失ったがん患者さんのための帽子も売られているんですが、すごくださいんです。それをかぶって外に行けないし、お見舞いに来てくれた人の前に出るのは嫌だなって。それで、ファッションとして楽しめるようなものが欲しいと思いました。

優しいシルク生地を使った自信を与えるヘッドスカーフを作りたい

ヘッドスカーフのアイデアが生まれた背景には、乳がんでお友達を亡くされた角田さんの忘れられない経験もありました。

角田さん:彼女は治療が終わって元気になって、髪の毛が元に戻ったら友達に会いに行く」って言っていたけれど、治療が終わらずに亡くなってしまって。棺の中にいる彼女を見たときに頭の部分は隠されていたんですよ。そんなことを気にして、最後に話もできなかったのかと。なんで髪の毛なんてって。でも自分がそうなってみると、気分が落ち込んでいて髪の毛もない状態で、華やかにしている昔からの友達に会いに行くのがどれだけハードルが高いかがわかりました。もし、このスカーフが彼女の元にあったら、私は最後に彼女に会えたんじゃないかなって。そういう気持ちもあるんです。

「髪を失った女性に自信を与えられるようなヘッドスカーフを作りたい。」思いが固まった角田さんは、いろいろな人にヘッドスカーフの構想を話している中で、裏地にシルクを使うのがいいのではないか?というアイデアをもらいます。

【写真】実際にスカーフを手に取りながらヘッドスカーフについて語るつのださん

角田さん:「弱った肌に使うのであればシルクがいいよ」って。私の地元の群馬は特に富岡製糸場が世界遺産になったりしてシルクが特産品なので、差別化を図れるとアドバイスをもらったんです。

そしてアイデアを発信し、ヘッドスカーフ製作を実現するためのクラウドファンディングを募ったところ、なんと開始からわずか10日で目標金額を達成!たくさんの共感と応援に支えられて、ヘッドスカーフ製作プロジェクトが始まりました。

こだわりゆえに製造業者が見つからない・・・助けてくれたのはビジネスパートナー

ところが、使用する素材へのこだわりゆえに、ヘッドスカーフの製造を引き受けてくれる業者がなかなか見つかりません。

角田さん:私が使用するシルクニットは繊細で伸縮性が高いので、縫製が難しいんです。それに表地(ポリエステル)と裏地(シルク)で違う素材を組み合わせるので、とっても難しい技術が必要になります。技術的にハードルが高い上に注文できるロット数も少なくて、業者さんからすると手間だけがかかるような依頼になってしまいました。

また、業者とのやりとりでは専門用語がたくさん飛びかいますが、アパレル業界で働いたことのない角田さんは、言葉を聞きとり理解するのも一苦労でした。

角田さん:業界用語が通じず、法人格も持っていない、どこの誰かもわからないど素人が無茶な依頼をするんですから、断られて当然ですよね。

しかし、角田さんは質の妥協をすることもプロジェクトをあきらめることもできなかったため、引き受けてくれる業者を探しつづけていました。

【イラスト】スカーフ完成前のイメージ図

スカーフ完成前のイメージ図。角田さんの思い描いたスカーフをつくってくれる業者を一生懸命探しました

その最中に、角田さんはビジネスパートナーとなるデザイナーの海老名美保子さんに出会います。海老名さんが製造業者との対応についてのアドバイスをくれたり、必要なデータを揃えてくれたおかげで、ついに引き受けてくれる業者が見つかったのです!

角田さん:群馬県桐生市の業者さんが、無理を聞いて引き受けてくれることになりました。後でそのことを業界に詳しい方に伝えると、「素晴らしい技術を持った有名な業者さんだよ」と教えていただいて。本当に感謝でいっぱいです。

ビジネスパートナーと出会えたことで、角田さんのプロジェクトは大きく前進しました。ひとりでしているときとまったく違う『楽しさ』を強く感じながら、これからは海老名さんと二人三脚で事業を進めていくそうです。

『患者さんにとっての福音だ』と応援してもらえたヘッドスカーフ事業

ヘッドスカーフを広め、届けるための活動にも積極的に取り組まれている角田さんは、2016年9月に、クラウドファンディングで集まった資金を資本金として合同会社Armoniaを設立しました。またその翌月には、とある学会で企業展示をおこないます。

【写真】ヘッドスカーフの展示前で満面の笑みを浮かべるつのださん

アピアランスケアの重要性の高まりもあり、学会での企業展示は看護師などから大きな注目を集めた。

角田さん:私は現在も大学病院で働いているのですが、もともとこのヘッドスカーフ事業は、勤務先の大学病院には内緒で進めていました。でも、ビジネスコンテストに入賞したことで新聞に載ってしまって周りに知られてしまったんです。何か言われるかもしれない、と心配していたのですが、それどころか先生方は皆「患者さんにとって福音だ」とすごく応援してくれて!先生が大会長をしている学会で企業展示をする機会までいただいたんです。

このように最近は、アピアランスケア(患者の外見のケア)を大事にする病院が増えてきているのだそう。看護師のみなさんも興味を持ってくれたことで、角田さんはヘッドスカーフの必要性をさらに強く感じることができたといいます。

コンプレックスが個性に変わるきっかけをくれるヘッドスカーフ

製造業者やデザイナーの協力、たくさんの方の応援に支えられて完成したヘッドスカーフ「LINOLEA-リノレア-」は、2016年12月から公式ホームページと群馬県にある日高病院内の売店で販売されています。日高病院では、抗がん剤治療室にサンプルが置かれていて、患者さんが治療の合間に手に取って試せるようになっています。

【写真】病院内に様々な種類のヘッドスカーフが展示されている

「LINOLEA-リノレア-」のヘッドスカーフは病院内で患者さんの手に取りやすい形で置かれている。

角田さんが試着を勧めてみたところ、「気持ちがとても明るくなった!」と喜ばれその日のうちに購入された患者さんもいたそうです。こうした患者さんがひとりでも多く増えてほしいという思いを持って、角田さんは活動を続けています。

角田さん:最近、脱毛患者の方とよくお話をさせていただくのですが、私が考えていたよりもずっと深く悩んでいる方がたくさんいらっしゃいます。でも、「髪を失ったことで自分への自信まで失わなくていいんですよ!」と私は大きな声で伝えたい。

角田さんは、患者さんが脱毛をコンプレックスとしてではなく個性として捉えられるように、お手伝いができたらと考えています。

【写真】笑顔で前を見つめヘッドスカーフへの思いを語るつのださん

角田さん:今の私にとって、脱毛が神様からの贈り物のようなものに変わったのは、いろんな人に理解してもらえて、応援してもらえたから。それに、自信を持つには「素敵だね」と周りの方から言ってもらうことがとっても大事だと思うんです。そんなきっかけのひとつに、ヘッドスカーフがなったらいいなって思います。

ヘッドスカーフを身に付けることで、自信を持ち、笑顔で大切な誰かに会いに行ける女性がひとり、ふたりと増えるとします。すると、彼女たちから笑顔をもらった方もまた、自分が抱える何かしらの困難とポジティブに向き合うことができるような連鎖が生まれるのではないかと思います。

世界一優しいヘッドスカーフが届けてくれる「自分が抱えたコンクプレックスは、捉え方を変えればかけがえのない自分らしさになるかもしれない」というメッセージは、私自身の心にもあたたかく沁み込みました。

 

関連情報:

LINOLEA-リノレア-」公式ホームページ:http://scarf.co.jp/

現在、ヘッドスカーフのサンプルやカタログを置かせていただける病院(抗がん剤治療施設、皮膚科など)も募集中です!

 

(写真/馬場加奈子)