【写真】楽しそうにする子どもに寄り添うやまもとさん。
みなさんは、病気で入院した経験はありますか?

私は小学生のころ盲腸にかかり、人生で一度だけ入院したことがあります。堂々と学校を休めて、友だちがお見舞いに来てくれて、はじめは楽しいかもと感じた入院生活。でも2日、3日と経ったころには、読書とゲームしかすることがなくなってしまいました。たった一週間の入院でしたが、早く学校にいきたい、友だちと遊びたいと辛い思いをしたことを覚えています。

では、もし入院生活が一年、二年と続き、外へも出られず、友だちにも会えないとしたら、子どもたちの人生は一体どうなってしまうのでしょうか?

鹿児島で、病気で長期間入院し、外に出られない子どもたちに360°動画をつかって「健康な子どもと同じリアルな体験」を届けるプロジェクト「CurEd(キュアード)」が始まります。

長期入院の子どもたちに「健康な子どもと同じ体験」を届けたい!

【写真】カメラに向かってポーズを決める子どもに、そっと手をのばすやまもとさん。穏やかな空気が流れている。CurEdは、鹿児島大学医学部の山本道雄さんが立ち上げたプロジェクト。長期入院の子どもたちに、森の中で昆虫を見つける、都会の人混みを歩くといった「健康な子どもと同じ体験」を届けることを目的としています。

山本さんがCurEdを始めたきっかけは、大学の病院実習での経験でした。小児科の実習では、実際に入院している子どもを担当し、ケアや治療計画に携わります。担当になったのは、小学校の入学直前に重い病気だと診断された男の子。彼はベッドで、一日中ゲームばかりしていました。

「この生活を年単位で続けていたら、この子の将来はどうなってしまうのだろう。」山本さんは疑問と危機感を感じたといいます。

子どもの頃の一年は、将来に大きく影響を与えます。長期入院の子どもたちは外へ出て遊ぶことは難しく、病院内にも子どもたちが楽しめる設備は多くありません。その結果、子どもたちの選択肢はどうしてもゲームしかなくなってしまうのです。

小さいころって、親に山や海へ連れていってもらい、美しい景色を見て、すごいな、キレイだな、と感じる経験を、誰もが当たり前にするものじゃないですか。長期入院の子どもたちは、一年ものあいだ、それを経験できません。これは、すごい不利益だなと感じました。

そこで、彼らに様々な自然体験や社会経験を届けたいと始まったのがCurEdでした。

入院で感じた、まわりとの違和感

長期入院の子どもたちを救いたいと行動する背景には、実は山本さん自身の経験もあるのだといいます。山本さんは幼い頃からぜんそくがひどく、1,2ヶ月単位での入退院を繰り返していました。

入院生活から学校に戻ると、自分がすごく遅れている感覚になったり、そこにいることに違和感があったりして「なじめない」と感じてしまうんです。一ヶ月の入院ですら、まわりと感覚がずれてしまっている。では、半年、一年という期間を病院で過ごしてしまったら、修復できないくらい感覚がずれてしまうのではないかと思ったんです。

長期入院の子どもたちは、入院生活を通じて、だんだん消極的になってしまう傾向があるといいます。

病院は、とても閉鎖的な空間。壁もベッドも真っ白で、自然のものはありません。まわりには大人しかおらず、思い通りに騒いだり、走り回ったりすることもできない。その結果、退院して学校に復帰しても友達の輪に入れず不登校になったり、進学や就職がうまく行かず、自ら未来を閉ざしてしまう子も多くいるのだとか。

360°カメラで、まるでそこにいるかのような体験を。

【イラスト】360°の映像を映し出すスクリーンの全体図。

こうした環境を変えるべく山本さんがチャレンジするCurEdは、「360°カメラで撮影した映像を、長期入院の子どもたちに届ける」という取組みです。

長期入院の子どもたちがしてみたい自然体験、社会体験をリクエストし、スタッフが360°カメラで実際に動画撮影する。その360°映像を、魚眼レンズ型プロジェクターをつかって、プラネタリウムのようなドーム型スクリーンに投影することで、自分がそこにいるかのような体験を味わってもらうことができます。これにより、病院にいながらにして、森のなかで昆虫を見つけたり、都会の人混みを歩いたりといった、将来に役立つ様々な体験ができるようになります。 こちらは森の中を歩いてクワガタを捕まえる360°動画。PCやタブレットをつかえば、スクロールして好きな視野を見ることができます! (スマートフォンで見る場合は、スマートフォンを持って見る方向を変えると全視野を見ることができます。 スマートフォンの方はこちらから)

例えば、森のなかで昆虫を見つける体験をしたら、いまゲームをしている時間が、1時間でも昆虫図鑑を見る時間に変わるかもしれません。あるいは、海のなかにカメラを沈めたら、魚に囲まれる体験ができて、どんな魚がいたんだろうって魚図鑑に夢中になるかもしれない。病院にいても、子どもたちが自分で興味のあることを見つけて、突き詰められるようになったらいいなと思うんです。

長期入院の子どもたちは、いまは病院に閉じ込められ、ゲームしかやることがありません。山本さんは、1日1つでも360°の映像を届けてあげることで、彼らの生活を変えていきたいといいます。

医療と教育をつなぐ

【写真】仲間たちと一緒に笑顔で写るやまもとさん。

CurEdの実現に向けて360°カメラやドーム型スクリーンを購入するため、山本さんらによるクラウドファンディングが始まっています。

長期入院の子どもたちの教育環境は、まだまだ知られておらず、あまり重要視されていません。しかし、長期入院の子どもたちは、様々な体験をする機会を今まさに奪われているのです。僕たちは、こうした教育環境を変えていきたいと思っています。

リターンには、ロゴタオルやTシャツのほか、実際に子どもがリクエストし、撮影した自然体験映像の配信を受けることもできるのだそう!

「CurEd」は、治療 「Cure」と教育「Education」を合わせた言葉。このプロジェクトを出発点に、長期入院中の子どもたちでも、様々な体験ができる仕組みづくりに取り組んでいく予定です。CurEdが始める挑戦を、ぜひみなさんも応援していただけると嬉しいです。

関連情報: クラウドファンディングへのご支援はこちらからお願いします。