【写真】子供たちがそれぞれに体を動かし、表現している

合唱祭やクラス劇、ピアノの発表会など、誰もが少なからず、舞台に立った経験があるはず。みなさんは、「舞台」に立ったときのことを覚えていますか?

私が自身の思い出を振り返ると浮かんでくるのは、熱いスポットライト、自分の鼓動、そして鳴り止まない拍手。舞台は自分を表現し、他人から認めてもらえる、特別な場所でした。

「自分を表現したい」という気持ちは、きっと誰しもあるもの。しかし、とりわけ障害のある子どもにとって、舞台に立てる機会は限られているのが現状です。

福井県福井市に、障害の有無に関わらず、ただ舞台に立つことが好きな人が集まり、自分を表現できる「みんなで舞台に立とう!」という活動があります。

和太鼓・ダンス・音楽劇からなる「みんなで舞台に立とう!」

【写真】練習前の風景。子どもたちがリラックスした表情で、思い思いに友達と過ごしている

「おはようございまーす!」

静かに雪の降る朝10時前。福井市内のとあるダンススタジオに、お母さんやお父さんに連れられて子どもたちが続々とやってきました。子どもたちの多くは、特別支援学校に通う生徒たち。発達障害やダウン症など、それぞれに障害があります。

子どもたちがやってきたのは「みんなで舞台に立とう!(通称:みなぶた)」の練習のため。

【写真】舞台でポーズを決める子どもたち

みなぶたは2005年に始まった、誰もが舞台に立ち自分を表現する活動。12年のあいだ、保護者・ボランティア・講師の方々による実行委員会形式で運営されてきました。毎年4月に、和太鼓・ダンス・音楽劇の3つのステージからなる公演を開催しており、取り上げる題材は、ディズニーやジブリ、昔話などさまざま。みなぶたの公演には、例年300人をこえる観客が集まるのだとか!

和太鼓・ダンス・音楽劇からなる「みんなで舞台に立とう!」

今日はダンス練習の日。みんなでマイケル・ジャクソンの「スリラー」を踊ることになりました!ダンスの先生が前に立ち、自分をお手本にしながら、踊りを手ほどきしていきます。

【写真】スリラーのダンスを練習する子どもたちは、笑顔を見せている

「ここで、お客さんの方を向いて手を広げる!」

難しい振りに、初めはみんなついていくのに精一杯。しかし、同じ振り付けを2回、3回と繰り返すうちに、いつの間にかみんなの踊りが揃っていきます。その間、先生は踊りが苦手な子にそっと寄り添い、ひとつひとつの動きを丁寧にフォローしてあげていました。

こっそり親御さんたちも、子どもたちの後ろで一緒にダンス。終始なごやかな雰囲気で、誰もがその場を楽しんでいる様子が感じられました。

【写真】子どもたちの後ろで、こっそりダンスを行う保護者の方々

練習を見ていると、ひとつのことに気が付きます。それは、みんながとても「自由」だということ。先生がダンスを教えている横で、走り回ったり、寝そべったり。みんな、思うがままなのです。

それを見て、とがめる人はいません。むしろ、まわりの大人たちも嬉しそうにそれを見守っています。それはまるで、誰もが「そのままでいいんだよ」と言ってくれているよう。子どもたちが安心して笑っていられるのも、空気感を参加者みんなが共有しているからなのでしょう。

【写真】リラックスした笑顔でダンスを楽しんでいる男の子

毎年、公演が終わると「もう終わっちゃった…」ってすごく寂しそうなんですよ。

そしてまた、練習が始まる10月頃になるとそわそわし始めて「みなぶたの練習、そろそろじゃない?」って言うんです。

練習がある時期は、朝になると起こされて、気づいたら水筒にお茶も準備していて、子どもに『もう出る時間やで!』って急かされるんです。

参加者の親御さんに伺ったエピソードから、みなぶたの楽しさが伝わってきました。

きっかけは、子どもたちの欲のない表現!

【写真】さかいさんが、明るい笑顔で写っている

「みんなで舞台に立とう!」の活動を始めたのは、代表を務める酒井晴美さん。現役の中学校の先生で、かつアマチュアの演劇家です。

もともと酒井さんは中学校で、通常学級を担当していたそう。でも、通常学級の「子どもも大人も周囲に合わせなくてはいけない」空気感に、息苦しさを感じていました。

そこで一人ひとりの個性に向き合いたいと、特別支援学校に赴任。多様な障害のある子どもたちに出会い、酒井さんは「演劇家として、びっくりした」のだといいます。

この子らって、本当に欲がないんですよね。「よく見せよう」という欲がなくて、「好き」、「楽しい」という思いが溢れている。その「表現」がすごいなと思って。

私はアマチュア演劇をしていますが、「どう演じようか」と考えて、欲の塊で体がガチガチに硬くなってしまっているんです。それをこんなに軽々と越えていけるこの子らは、何者なんだ!と。そしてなにより、一緒にいて楽しいな、と思ったんですよね。

酒井さんは子どもたちを見ているうちに、「この子たちと一緒に表現したい、それを多くの人に見てもらいたい」という気持ちが湧き上がってきたのだといいます。

【写真】子どもたちと共にダンスを楽しむさかいさん

同時に酒井さんは、ある問題意識も抱えていました。

言葉は苦手でも、ダンスとかノンバーバルな表現が好きな子は多いんです。ただ12年前は、障害のある子たちが、ダンスや演劇を習いに行ける場所はほとんどなかったんですよね。発表する場所も、もちろんなくて。もったいないなと思ったんです。

そこで酒井さんが始めたのが「みんなで舞台に立とう!」の活動でした。2005年にはじまったみなぶたは、保護者やボランティアの方の協力を得ながら、もう今年で12年目を迎えます。

私自身がこの子らはすごくいいなって思いながら、どこかで「支援をしなきゃいけない」って思ってる部分が昔はあったと思うんです。でも、今はこの子らの可能性を信じられる。いろんなものに触れれば、いろんなことを引き出せると信じられるようになってきたな、と思いますね。

自分を自由に表現して生きるということ

【写真】ダンスの練習風景。子どもたちがそれぞれポーズをとっている

「みんなで舞台に立とう!」は、10月から4月までの半年間、毎週末練習しているそうです。「そのモチベーションはどこからくるんでしょうか?」と聞いてみると、その秘訣をとっても嬉しそうに教えてくれました。

大変なんでしょうけど、やっぱり、楽しいんですよね!この子らに会いたいな、一緒になにかやりたいなと思うし、やればやるほどやりたいことが出てくるような。いつまでたっても終わらない、というか!

酒井さんはその言葉通り、特別支援学校の卒業生を巻き込み、みなぶたの「オトナブ」を作り、また新たな活動を始めています。そしていつかは障害の有無に関わらず、いろいろな人を巻き込んで市民劇をやってみたい、と笑います。

みなぶたは「自分を、自由に表現する場所」。酒井さんの優しさや、自由に踊る子供たちの笑顔に囲まれていると、なんだか「そのままでいいんだよ」と言ってもらっているような気がします。

無意識に人の目を気にしてしまい、好きに鼻歌も歌えない日々を過ごしている人も多いのではないでしょうか。でもみなぶたでは、障害の有無も、大人も子どもも関係なく、誰もが思うがままに自分を表現している。練習に混じってみると、自分が普段、どれだけ周りを気にして、自分を縛りつけてしまっているのか気づかされます。

みなぶたは舞台を通じて、「自分を表現して生きる」とはなにか、私たちに問いかけてくれているのかもしれません。 (写真/森一貴)

関連情報: みんなで舞台に立とう! Facebookページ

4/16(日)、みんなで舞台に立とう!の集大成となる公演が開催されます!

■みんなで舞台に立とう!シーズン12
 ~ 踏み出した僕たちの道 広がる僕たちの世界 ~
・日時 2017.4.16(日) 14時開演 (13時会場:ロビー展示をご覧ください)
・会場 福井市文化会館
・料金 ¥500(高校生以下は無料) 全席自由
・お問い合わせ:NPO法人 福井芸術・文化フォーラム(0776-23-6905)