日常の中で多くを占める、「仕事」の時間。きっと仕事をとおして自分を輝かせて生きていきたい、可能性を見出したい、と思っている方は多いのではないでしょうか。

でも、どうすればそんな働き方が実現するのか、その方法がわからず悩んでいる方もいるかもしれません。特に障害や病気などのハンディキャップがある方や、高齢者の方が対象の場合は、なおさら難しいはずです。

人それぞれが持つ個性や可能性を活かしてこの社会で働くには、どんな環境づくりをしていったらいいのだろう。

そのヒントを見つけるため、soarでは2017年4月26日(水)に読者向けイベント「その人の可能性を活かす仕事のつくり方〜障害者や高齢者が笑顔で働ける場づくり〜」を開催しました。 ゲストスピーカーには、以前soarで取材をさせていただいたお二方をお迎えしました。

一人目は、BABAラボの代表 桑原静さん。おばあちゃんになっても生き生きと働き続けられる、モノづくりの工房「BABAラボ」を運営しています。二人目は、社会福祉法人福祉楽団の在田創一さん。障害者を雇用し、豚肉の製造から販売までを行う「恋する豚研究所」をはじめとして、様々な事業を行なっています。

来場者は平日の開催にも関わらず、なんと50人以上!まずは参加者同士の自己紹介タイムからイベントが始まりました。

自身の可能性やできることに焦点を当てて、そこを伸ばしていく

まずはじめに、NPO法人soar代表理事/soar編集長の工藤瑞穂より、soarの活動紹介と、今回のイベントについての説明がありました。

soarの取材では、高齢の方や障害のある方が働いている場所を訪ねることが多くあります。そこでは、「高齢者だから」「障害者だから」というように考えるのではなく、その人自身の可能性やできることに焦点を当てて、そこを伸ばしていくという働き方が実現していました。さらには、仕事だけではなく地域社会の中でその人の居場所を生み出していく、という素晴らしい取り組みが数多くあったのです。

イベントのテーマのでもある「仕事」ということばの考え方について、以下のように述べられ、オープニングトークは締めくくられました。

仕事って決してお金生み出すことだけではなく、例えば頼んでもいないけどいつもゴミを拾っているおじいちゃんとか、町内会の人たちが一緒になって廃品回収するとか、お金にならない仕事も立派な仕事だと思うんです。それで世界が回っているのかなと思っています。そんな幅広い働き方や、仕事づくりについて、今日は考えたいと思います。

 

おばあちゃんたちが生き生きと、自分らしく働く場所作り。

最初のゲストスピーカーは、BABAラボ代表の桑原静さんです。「おばあちゃんたちの力を活かしてて色々なことにチャレンジしていこう」という思いで、2011年にBABAラボを立ち上げました。

「100歳まで自分らしく働き続けられるモノづくりの工房」として最初に始まったのが埼玉工房です。ここでは主に、おばあちゃんが使用できる「孫育てグッズ」を製作しています。商品は、力の弱い高齢者でもお孫さんを抱っこできるようにと開発した抱っこ布団や、数字が見やすく持ちやすい哺乳瓶などがあります。

立ち上げ当時はなかなか人が集まらず、定着するまでには2年ほどかかったのだそう。今ではおばあちゃんたちや、40代のお母さんたちなど、幅広い年齢層の方が働いています。

BABAラボの働き方はとにかく自由。おばあちゃんたちは、裁断、縫製、ミシンなどの中から自分の得意な作業を選び、作りたい時に作って休みたいときは休むというスタイルです。

いろんな人がいろんな思いできているんです。そこそこお金が欲しいなという人や、みんなで作業するコミュニティが楽しいんだという人。休み時間におかしを食べたりお茶を飲んだり、そうした中で物作りするのが楽しいという人もいます。

子連れ孫連れ出勤可能です。保育士がいるわけではないんですけど、結構子連れで来る人はいて。みんなで目を配りながらやっているという感じですね。

BABAラボでは、おばあちゃんたちが働く上で、作業をとても細かく分業するという工夫をしています。アイロンがけや、包装袋に入れるだけの仕事もあるんだそうです。

また、歳をとるにつれて、これまでできていた仕事が視力の問題や体力的な問題で、できなくなってしまうということがあります。そんな時はできることに焦点を当てて、お願いする仕事を変えていくといいます。

おばあちゃんたちを見て、「これはできないんだな。でもこれならできるんじゃない?」というように、周りのスタッフとサポートしながら、その人の得意なことやできることを見つけていくようにしています。

「だから本当に手間がかかりますね。」と、桑原さんは笑いながら話します。

おばあちゃんたちの作業管理に時間がかかってしまうこと、さらに人件費もかさんでしまうことは、企業として課題でもあります。

桑原さんはこれらの困難に、BABAラボへの思いに共感してくれた、地域の人たちと繋がることで対応していました。例えば工房の大家さんは、元々の実家を地域のコミュニティの場としてBABAラボで活用してほしいという想いから、安い家賃で貸してくれているそう。社会とのつながりの中で助け合いながら、BABAラボは運用されているのです。

大変だなっていうのもあるんですけど、どちらかというとみんな楽しみながらやっています。いつかは自分が通る道なので。

おばあちゃんたちの自信をなくさせない。一人一人と向き合うということ。

桑原さんがおっしゃるように、誰だって歳をとるとできないことが増えてしまうもの。BABAラボではそれを受け入れた上で、おばあちゃんたち高齢者の役割を作るだけではなく、「自信をなくさせない」ことを実現しています。そのためのコツやヒントはあるのでしょうか。

これは本当に難しいんですよね。人間なので個々に、好きなものも得意なものもレベルも違うので。一つ言えるのは、60代だからこうだとか、女性だからこうだろうとか、とにかく先入観を何も持たないことでしょうか。

また高齢者になればなるほど、言われたことは我慢してやるということに慣れてしまっている方も多いそうです。

戦争を経験された方は特に、言われたことをやるっていうのが当たり前だと感じている気がしています。なので、「本当は何がやりたいのかな」とか、「どういうことが得意なのかな」と、一人一人をちゃんと見ていくしかないのかなと思いますね。

今後については、全国で少しずつ、100歳まで働けて繋がれる場所を増やしていきたいと考えているそう。2016年には、岐阜県池田町の「道の駅池田温泉」にて、地元のメーカーが「BABAラボ ぎふいけだ工房」をオープンしました。この工房は、地元の高齢者が集まる場所となり、商品開発や製造に取り組むとともに、地域コミュニティが育まれる場となっています。その他の企業からも「BABAラボのような場所をつくりたい」という声が上がっているとか。

桑原さんは今後、まずはおばあちゃんたちや、おじいちゃんたちも含む高齢者のコミュニティの特徴を掴みながら、ノウハウをためていくことを目指していきます。その先は、シニアのコミュニティや、仕事の場を作ることに関して、深いサポートをしていきたいと考えているそうです。

それが終わったころには自分もシニアになって、BABAラボで逆に働けるのも楽しいのかなと思いながら、毎日仕事をしています。

 

桑原さんは「おばあちゃんたちに生き生きと働いてほしい」という強い思いを持って、そのためにたとえ困難があっても、楽しんで前に進むという姿勢で、BABAラボをここまで育ててきました。

「スタッフ一人一人の視点に立ち、できることを考える」姿勢の桑原さんの存在は、スタッフからみると、「できなくても、それを受け入れた上でできることを一緒に考えてくれる人」ではないでしょうか。こんな人が近くにいてくれたらとても心強いはず。

仕事だけではなくあらゆる状況で「できないと言えない、失敗できない」場面が、社会にはあります。「できない」と言うと受け入れてもらえないことは、その人を追い込み、辛い状況をも生み出しかねません。

本当は誰だって、得意なこと、苦手なことがあるのは当たり前のことです。「できないことがあっても、ありのままで受け入れてもらえる」そんな環境が広がることで、多くの人がのびのびと働くことのできる場づくりに繋がっていくのではないでしょうか。

消費者が自然と福祉に貢献できる仕組みづくり

続いてのゲストスピーカーは、社会福祉法人福祉楽団の在田創一さん。福祉楽団は、障害者も健常者も関係ないという考え方で、高齢者・障害者向け施設の運用や、こだわりの豚肉を展開する「恋する豚研究所」の運営、地域の場作りなどに取り組んできました。

在田さんは恋する豚研究所の運営や福祉サービス全般に関わり、現在は杜の家なりた施設長を務めています。

まずは恋する豚研究所の事業が始まったきっかけを話して下さいました。

もともと福祉楽団の元理事長は養豚家で、こだわりの餌を使って健康で美味しい豚肉を育てていました。でも市場で正当に評価がされない現状があったのだといいます。一方で福祉業界では、障害を持った方は1ヶ月働いても、13000円程度しか賃金がもらえないという課題がありました。

そこに対して何ができるかということで、せっかくいい豚肉があるから、活用して障害持った人が生肉をスライスしたり、ハムやソーセージを作ったりする仕事を生み出していければいいんじゃないか。それを売って利益を出して、障害を持った人の給料に繋げればいいんじゃないか。そんな考え方で始まっているのが恋する豚というプロジェクトです。

「福祉を売りにも言い訳にもしない」そういう売り方をしていこうということ。これって単純で、要は「障害を持っている人が作ったから買ってください」ではなくて、「本当に美味しい豚肉だから買ってください」という、商品で勝負していくような売り方をするということ。それが結果的に障害を持った人の給与につながるだろうと思っているんです。

そして恋する豚研究所では、パッケージのデザインや、レストランの建築にもこだわりを持っています。そうするとお客様は、「おしゃれだから」「建築が素敵だから、」「豚肉が美味しいから」といった理由で、豚肉を買ったりレストランを利用するのです。

面白いのは、いろんな人が来る中で大半の人が、「社会福祉法人だから、障害者福祉だから」みたいなのを意識していないっていうことです。 入り口は「福祉に貢献したい」「障害を持っている人に」なんて別に考えてもらおうと思っていないわけです。ただ結果が障害を持ってる人の給与になるっていう仕組みですので、入口を福祉にする必要は全くないなと思っています。

恋する豚研究所ではこうして、「障害者」という属性を意識することなく、ビジネスを成立させています。

「その人が何ができるか」で考える働き方。地域住民が自らが地域の担い手になる自然な形。

「障害者」という属性を意識しないという考え方は、働くスタッフに対しても同様です。恋する豚研究所では、働く人の障害の種類については指定せず、どんな障害のひとでも働ける環境をつくっています。

身体障害を持ってる人が事務作業をやっていたり、精神疾患の方が包丁持って肉切っていたりします。障害によってうちで働けるかどうかとか、そういうふうに考えているわけではないですね。

「その人が何ができるかで考えていく」という方針なので、単純に言えば障害者でも健常者でも変わらないでしょってことですね。その方の特性に合わせて、できることをやってもらう。特性に合わせて仕事を作っていくイメージです。それが上手くマッチングしていければいいかなと思っています。

福祉楽団では、他にも無料学習支援や食事サロン、子供食堂など、様々な事業を行っています。それらの取り組みの中で「誰もが福祉の担い手になりうる仕組みづくり」を自然に実現してきました。

例えば、埼玉県の吉川団地では、団地内に福祉楽団の事業所を設けています。そのうちの一部のスペースを開放したところ、子供から大人まで様々な人が出入りするようになり、自然と地域の交流が行われるようになったといいます。

さらにそこから子供との関わりが生まれ、事務所に来た子供が遊び疲れてお腹をすかしていたことから、子供食堂をやることになったのだそう。食材は地域のみなさんからの寄付で、食事を作るのは地域のおばちゃんたち。けっして福祉楽団の職員が主宰しているわけではないのだそうです。

福祉楽団や福祉専門職が全ての福祉を担うってことではなく、地域の人が福祉の担い手になるような、役割を持つような場所・空間を作っていけたらいいんじゃないかなと思っています。福祉楽団は場所と機会は提供しますけど、担い手はおばちゃん側ですよっていうことですね。

「福祉を提供する」いうスタイルから、「地域住民が自分たちで居場所を作って行く、役割を持っていく」という変化が生まれるといいなと思っています。

 

今回のイベントのテーマでもある、地域社会という観点からの「場づくり」。地域の場づくりとは、行政や企業などが関与し制度を整えていくものだと思われがちですが、在田さんのお話では、福祉楽団の手を離れて、地域の人々が自ら創る地域社会が成り立っていました。福祉楽団の手がけてきた数々の例は、地域内の関わりが希薄だと言われる現代社会で、大きな希望となりうるのではないでしょうか。

そして「地域社会」という名の大きな枠組みの中でも、一人一人の小さな行動が積み重なることで「場づくり」に繋がっていくのです。自分のひとりの小さな行動だとしても、福祉を担う一旦となるのかもしれません。

まだまだ活動を広げる福祉楽団。「誰もが地域の担い手になりうる仕組み」がますます拡張していくであろう未来がとても楽しみです。

参加者同士の交流タイムも

ゲストトーク終了後は、参加者でのパーティタイムが設けられました。

ケータリングを担当してくださったのは、soarではおなじみのフードコーディネーターの阿部裕太朗さん!

赤、黄、青など目を引くカラフルなドリンク、「恋する豚研究所」のお肉や旬の食材を取り入れたフードは大人気でした。

今回のイベントでは、障害者や高齢者などの属性に関係なく、全ての人が生き生きと輝ける仕事づくり、環境づくりのヒントになる取り組みを、数多く聞くことができました。

桑原さんがおっしゃっていた「おばあちゃんたちと接する時、先入観を持たない」こと。在田さんがおっしゃっていた「障害者でも健常者でも変わらない。その方の特性をみる」こと。

この二つには、「特定の属性ではなくその人自身をみる」という共通点があるように思います。これは仕事はもちろん、地域社会や、人間関係全般に当てはめて考えられることではないでしょうか。

ジェンダーや年齢、職業などの属性で人柄を判断されたとしたら、きっと誰だってやるせない気持ちになるでしょう。「属性ではなく内面を見てほしい、私自身を見てほしい」という思いはおそらく、多くの人にとって共通していることです。

「その人自身と向き合う」という姿勢は、家族や友人、職場、地域など、日常生活で人と接する多くの場面で実践できることでもあります。一歩踏み出し行動すことで、まずは個人が変わり、環境が変わり、そしてその先に、誰もが生き生きと働く社会の実現が見えてくるのかもしれません。

 

関連情報:

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(写真/馬場加奈子)