【写真】サイボーグの義足を持ったえんどうけんさんとハンディを持ったこんどうげんたさん

常識は変わる。 一時期、当たり前だったことが、その先もずっと変わらなかったことはありません。障害も、それを補う技術の発達によって、少しずつ変化してきました。 これまでに「点字」「補聴器」「眼鏡」など様々な技術が発明されてきました。

現代では、眼鏡をかけていても、その人を視覚障害者と呼ぶことはありません。新しい道具や機器が発明されることによって、それまでの常識は過去のものとなっていきます。 現代においても、いくつか素晴らしい発明によって、常識に衝撃が走りました。

アスリート向けの美しい義足を開発するXiborg、次世代型電動車椅子を開発するWHILL、電動義手を開発するexiii。こうした人々が、これまでにない視点、技術、デザイン性を持ってプロダクトを開発し、世に送り出したことで人々の感性を震わせました。 ですが、まだまだその恩恵に預かれる人は多いとはいえません。ハードウェアから変化をもたらそうと活動を続けてきた人たちにとって、現在地はどう見えているのでしょうか。

義足と義手の見方を変えたXiborgとexiii

Xiborgとexiii、それぞれ義足と義手を開発するベンチャー企業です。

【写真】サイボーグの義足。光沢がある。 Xiborgは、バイオメカニクスを考慮した競技用義足の開発、義足に合わせた選手育成、ロボット義足の開発などを手がけています。

exiiiは、スマートフォンと接続して柔軟な動きをする筋電義手を開発しました。exiiiの義手は3Dプリンターで部品を作成することによって、義手の組み立てを容易にし、様々な色でプリントすることや、義手の修理を可能にしました。

彼らは技術、デザインを持ってプロダクトを開発し、人々の義足や義手に対する意識を大きく変えました。Xiborg、exiii、共に最初にプロダクトを目にしたときの驚きは今でも忘れられません。 今回、Xiborg代表取締役遠藤 謙さんと、exiii創業者・NPO法人Mission ARM Japanの近藤 玄大さんのお二人に、より多くの人々に義手や義足を届けていくために必要なことは何か、お話を伺いました。

義足で走る喜びを多くの人に届けられる「図書館」をつくりたい

【写真】真剣な表情でインタビューに応えるえんどうけんさん

モリ:この過去5年くらいで、社会的な空気や人の認識、理解度が変わってきたという実感はありますか?

遠藤:ありますね。スポーツの世界でいうと、2008年にオスカー・ピストリウスという義足のランナーが裁判になった。彼がオリンピックに出場することに対して国際陸連がだめだという判断をして、でも最後は出場が認められたんです。

モリ:そんなことがあったんですね。

遠藤:日本ではほとんど話題にならなかったんですけど、彼の登場によって、400メートルを40秒台で走れる義足の選手がいるって、世界中のみんなが気づいた。それから彼は、4年後のロンドンパラの400メートル走で金メダルをとって、オリンピックでは準決勝まで進んだ。そういった出来事があって、義足で走ることに対する考え方が大きく変わりました。僕にとっては、その2008年がトリガーになっています。

モリ:その出来事が追い風になっている。

遠藤:東京でのパラリンピック開催も追い風になると思います。メディアを見ていても義足で走る人が増えてきた印象です。ただ、アスリートが注目される一方で、走りたいのに走れないという人たちが追いやられているようにも感じられます。

モリ:アスリート以外の人たちが走る機会に恵まれていない?

遠藤:そうですね。Xiborgとしては、競技用義足をずっと作り続けていて、目指しているのは常に「世界最速」なんです。アスリートと一緒に、世界一になりたい。でも、この義足だけでアスリートの人たちと一緒に頂点を目指すという話になると、その恩恵に預かれる人って限られてしまうんですよね。僕たちは、走る喜びや楽しさをより多くの人たちに届けたいと思って義足を開発しています。

モリ:義足で走ることが難しい理由はどういったものなんでしょうか?

遠藤:板バネは1本あたりの値段は約20万~60万円と高価です。にも関わらず、ユーザーが試し履きができる場所はほぼなく、使ったことがない方がほとんど。練習のためには、安全面に配慮し、陸上競技場など障害物のない安定した場所が必要になります。加えて、誤った装着は怪我の元となるため、義肢装具士の同伴が必要となります。これだけの条件を満たすことは難しい。

モリ:そうなると、多くの人が義足で走ることは難しいですよね。

遠藤:そうです。ロボットや様々な義足の開発は続けていて、今まさに製品化のプロセスを考えているところです。ただ一方で、競技用の義足に関して僕たちに何ができるかも考えていました。「この義足を履きたい」と言ってくれる人が大勢いたのに、その声に対して何もアクションできていなかったので。何かできることはないかって考えていたんです。

モリ:義足をより多くの人に届ける方法はないかって考えた。

遠藤:佐藤圭太選手が帯広で合宿をしていたときに、健常者の小学生と一緒にランニング教室を開催しました。そのとき佐藤選手が「こうしてたくさんの小学生に教えるのは楽しいけれど、1人でもいいから義足ユーザーの子が走り始めるきっかけになるようなことも教えたい」と言っていたんです。

モリ:なるほど。

遠藤:それで検討を始めました。ただ、ビジネスとしても成立して、なおかつ患者さんが走ることができる環境は何かって考えたときに、「売る」や「レンタル」での提供は厳しい。そこで、スケートリンクのような施設を思いついたんです。

モリ:スケートリンクですか。

遠藤:スケートリンクのような施設があって、患者さんはそこに来て、義足を選び、自分ではめて走って、自由に義足を替えて、走る。これが一番敷居が低い「走り出す」環境なんじゃないかと思いました。僕らが使っているクラウドファンディングサイト「ReadyFor」の佐藤さんが「義足の図書館」と言って。それで現在、クラウドファンディングに挑戦しています。僕はずっと「スケートリンク」を推してたんですけどね(笑)

モリ:図書館という言葉を選んだのにはどういった理由があるんでしょうか?

遠藤:学びたいと思う全ての人々が自由に本を手にすることができるように、「走りたい」と願う全ての人々が自由に競技用義足を手にすることができる、そんな空間を目指している思いを込めています。

モリ:それで図書館だったんですね。なぜ、走るという行為が大切になるのでしょうか。個人の「走りたい」という思い以外に、大切な要素はありますか?

遠藤:病院に入院した人はリハビリをして退院しますよね。早く退院しないと病院の経営に打撃を与えてしまうので、病院側はなるべく早く退院させたい。だから、かろうじて歩ける人は早く退院して、社会の中で歩かなければいけなくなる。でも、リハビリ室の中でかろうじで歩ける人、病院の周りでかろうじて歩ける人って、いきなり社会に出てもうまく歩くことができない。

モリ:街中で歩くのはハードルが高そうですね。

遠藤:義足で走れる人は安定して歩けるし、歩き方もきれいなんです。だから、走ることができるようになることは、普段の生活がしやすくなるということ。それを実現するために、「義足が高いから」といったことが障害であるなら、それは絶対に解決したいんです。

モリ:なるほど。現在挑戦中のクラウドファンディングには、そういった背景があったんですね。クラウドファンディングをしてみて、反響はどうですか?

遠藤:反響はどうでしょうね……。クラウドファンディング自体、これまでも試してみたいという気持ちはあったんですが、経験がなかったので二の足を踏んでました。最初は500万円くらいでスタートするつもりで相談していたんですが、盛り上がっちゃって(笑)全体で5000万円ほど必要になるプロジェクトだったので、「最初のコストはクラウドファンディングでやりましょう、目標額は1500万円で!」とReadyfor代表の米良さんに言われたんです。

【写真】笑顔でインタビューに応えるえんどうけんさん

モリ:なかなか大きな目標ですね…!

遠藤:僕は「ちょっと高いんじゃないんですか」って言ったんですけど、米良さんにうまく乗せられてしまって(笑)当初、想定していたより苦労しつつも、たくさんの方にご支援いただいていますね。

人の状態とニーズに合った多様な義手があっていいはず

モリ:お二人が開発されているのは、義足と義手。それぞれ人に身に着けてもらうものである点は共通かと思うのですが、違いもあるように思います。義手の場合は、どうですか?

近藤:自己表現だと思います。僕はバスケをやっていたんですが、手がなければプレーできない。楽器の演奏も、考えるだけで完結できず、手がないと表現できないので。1人1人異なった自己表現をするための器官として義手がある。

そう考えると、形も機能もまちまちだと思うんです。exiiiで作ったhandiiiやHACKberryは一例でしかありません。exiiiで提示したかったのは「example of exchangable extremety」。これは「交換可能な義手の一例」という意味です。

【写真】真剣な表情でインタビューに応えるこんどうげんたさん

モリ:いろんな義手があってもいいじゃないか、という考えを提示したかったんですね。

近藤:そうです。「ここまで先進的なデザインで、モーターが入って格好良くなくたっていいから、その人その人にあった義手を作っていこうよ」ということを伝えたかった。例えば、ウェディング用の義手にはクリスタルな外観にしてみたり。

モリ:シチュエーションによって使い分け、みたいなこともあり得るわけですね。

近藤:あと、先天性の方ってボディイメージ(人間が身体について持つ感覚)が右と左で同じ長さじゃないんですよね。健常者の方は「右も左も同じ長さにしてあげなきゃ」って思ってしまうんですけど、先天性の方にとっては生まれつきの長さの感覚があって。手の機能を先端に持っていくと、実は作業しづらかったりするんですよね。

モリ:なるほど…。つい左右で同じ長さにしようと考えちゃいますが、その感覚で作られた義手だと逆に使いづらいケースもあるんですね。

近藤:そうなんです。「肘の位置にお皿を乗っけるだけでも嬉しい」という意見もあったんですよ。そういう、様々なニーズを汲み取って、いろんなバリエーションの義手を作っていく必要があると思います。

モリ:人によって状態も、義手に求めていることも、様々なパターンがありそうですね。

近藤:現在の義手は福祉機器として定義されてているように思います。僕は物を持ったりする単純作業ができるだけじゃなくて、たとえばスポーツに特化した義手がもっとあってもいいと思うんですよ。バスケに特化した義手とか、野球に特化した義手とか。でも、スポーツ用の義手ってあまり知られていない。

モリ:たしかに、知らないです。

近藤:でも実際に、アメリカのTRSという会社が開発していたりするんです。広く認知はされていませんが。1人1人の個性や、やりたいことに合わせた様々な表情の義手がある、そんな世界を作りたいなと思います。

モリ:なるほど。近藤さんも、今回の遠藤さんのプロジェクトのように、handiiiを多くの人に体験してもらえるようなアクションされたことってありました?

【写真】真剣な様子でインタビューに応えるこんどうげんたさん

近藤:それは、これからやりたいことですね。僕は今、exiiiを辞めてMission ARM Japan(MAJ)というNPOで理事をしていて、そこでやろうとしています。MAJでは「図書館」ではなくても、それに似た「場」を作りたいと思っています。オンラインのようなバーチャルなコミュニティも含めて。

モリ:どのように広めていくのかって考えてらっしゃいますか?

近藤:義手を使うだけじゃなくて、作る喜びも伝えていかないと広まっていかないと思っています。exiiiの3人で、280人の方に届けようという話が出たこともあったんですが、3人でやり切るのは経済的にもモチベーション的にも現実的でない部分がありました。

モリ:たしかに、一つ一つを作るのも大変なのに、多くの人に届けようとするとexiiiだけではかなりの負担ですよね。

近藤:そこで、使う側が感じるプロダクトとしての格好良さだけではなくて、作る側の楽しさを伝えていこうと考えています。作る楽しさに触れる人が増えれば、「第2のexiii」「第3のexiii」のようなチームが全国各地にできてきて、そこから自発的に作ってくれる、そんな状態を思い描いてMAJでは取り組んでいきます。

モリ:使う人に義手が届く環境を作るために、そもそも作る人を増やすにはどうすればいいのかと考えたんですね。

近藤:そうですね。作り手を増やさないことには、義手のバリエーションも増えていきません。シンプルに、3Dプリンターの使い方やはんだ付けの仕方とかを教えていって、自分にも何かできそうだ、物を作っていけそうだと思える人を増やしていきたいと思います。

広めていく上で重要な役割を持つコミュニティ

モリ:義足や義手を広めていく上で、「作る」ということを軸にした「コミュニティ」の存在が重要なのではないか、と感じられます。近藤さんが作ろうとされているのはまさにコミュニティですよね。

近藤:そうですね。

モリ:遠藤さんは以前、インドで安価な義足の開発をされてましたよね。そのときの経験にヒントがありそうです。

【写真】向かい合って真剣あ表情で話しているえんどうけんさんとこんどうげんたさん

遠藤:インドに「ジャイプールフット」というNGOがいて、安価な義足を製作して無償で人々に提供していました。彼らがつくった3,000円の義足を見て、「同じ価格でもっとよくできる」と思ったんです。それで安価な義足のプロトタイプをつくって、インターンとして、ジャイプールフットが運営する診療所に滞在しました。

モリ:そのときに大切にしていたことは?

遠藤:コミュニケーションすることをとても大事にしました。ものづくりに現地の人を巻き込むんです。現地の人は、モノを作るのに必要な情報をヒアリングするための相手ではない。現地の人が主体的にモノづくりをしていけるような環境を作る。このやり方は、時間がかかりますが、現地の人たちが中心になる体制でやったほうが、その後につながるいい動きが生まれる。それが「MIT D-Lab」の基本的な考え方で、実践しました。

モリ:それで少しずつ、現地の人たちが自分たちで作るようになっていったんですね。実践してみて、何か発見などはありました?

遠藤:わからないってことがわかりました(笑)何を求められているかわからないし、「こんなのが必要なの?」というものを結構大事にしていたりする。これまでの自分の生活の中で出会ったことのないような人たちがたくさんいました。一人だけに聞いて「こうすればいいんだ」とやってみても、他の人は全然違う考え方をしていたり。

モリ:カオスですね(笑)そんな状態の中、どう進めていったんですか?

遠藤:「モノを作ってテストする」プロセスを早く繰り返すことによって、微調整しながら何かを作っていくことが一番合っていると思いました。形にすることで、周辺コミュニティの人たちが求めているようなものの輪郭が何となくはっきりしていきました。現地の人の要望で、「意味がないのでは」と思ったりしても、できるだけ設計に反映しました。失敗することも気づきになるからです。

モリ:ちゃんと失敗の経験をしてもらうことも大事なんですね。

遠藤:そうだと思いますね。「もっと良いものを作ろう、改善しよう」という選択肢がその人自身の中で生まれるためには、そういう経験をしないといけない。

モリ:いろいろな人達と一緒になってモノづくりをしていく上で、遠藤さんなりに気をつけていることはありますか?

【写真】インタビューに真剣な様子で応えるえんどうけんさん

遠藤:それぞれの違う意見を持っている人がたくさんいる中で、どれかを正解と判断するかがとても悩みますね。

モリ:たとえば、どういったことがあるんですか?

遠藤:アスリートが走っているとき、上半身と下半身にそれぞれ問題があったとしますよね。ある人は上半身から直そうと言い、ある人は下半身から直そうと言う。また別の人が、いや両方大事なんだから両方直そうと言ったりする。

どれが正しいのか、誰もわからない。たとえば、桐生祥秀選手が9秒台を出すためにはどうしたらいいかという問いに対して、明確な答えは誰にもわからない。でも、本人とコーチが仮説を持ち寄って、練習で検証していって、半年後に初めて結果になる。

モリ:正解はわからないから仮説を立てる。

遠藤:仮説を立てて、みんなで検証していく体制はすごく大事だと思いますね。あとは、みんなが納得して進めること。納得していないと結果が出なかったときに後で「お前のせいだ」ってなってしまいやすい。納得してから進めるのは、特に選手にとって一番重要ですね。

作る側も使う側もプロ意識を持つ

モリ:近藤さんはこれまでにオープンソースでの開発などにも挑戦されてますよね。コミュニティの中でものづくりをするときに意識していることはありますか?

近藤:「HACKberry」のデザインファイルをオープンソース化して、より多くの人々に開発に参加してもらい、製品としての完成度を高めることを目指しました。オープンソースが盛り上がったのは、exiiiの山浦の貢献だと思います。彼は、フォーラムで何か質問があったら、必ず反応するというのを繰り返してきて、その結果世界中の作りたい人たちが集まってきました。

モリ:近藤さんはどうされていたんですか?

近藤:僕はどちらかというと、ユーザー目線に偏っていたんです。ユーザーに焦点をあてすぎてて、使う人を増やすことや使う側のニーズを聞き出すことばかりに集中してしまって。外に出て話すのは僕が担当することが多かったんですが、ユーザーの話ばかりしてもなかなか広まりませんでした。まず、作る楽しさを伝えないことには、誰も作り始めません。

モリ:たしかに、使う側の話ばかりでは、作る人は増えないかもしれませんね。

近藤:思い返すとシンプルなことなんですけどね。exiiiからMAJに移るタイミングで大きく反省したのは、作る楽しさを伝えなければいけなかったということ。なので、MAJではexiiiの山浦・小西みたいな人をもっと増やせないかということを意識しています。

モリ:他に、何か意識されていることはありますか?

【写真】真剣な表情でインタビューに応えるこんどうげんたさん

近藤:MAJの理事の倉澤奈津子さんが、がんで右肩から先を離断している方で、最近よく「患者力」という言葉をおっしゃっているんです。

モリ:「患者力」ですか。

近藤:患者は義手の文脈においては主人公ですよね。同じ義手装具士さんでも、人によって流派が違ったり、体系化されていない部分もあったりする。そこで大事になるのは、患者がやり方についての率直な意見をどう伝えていくかなんです。論理的に考えることはもちろん大事だけれど、ウェットな部分で相手をどう巻き込んでいくかということも大事なんですよね。

モリ:義手を使う人にもできることがあるんですね。

近藤:これまで義手・義足を使う人は、あくまで「使う人」であって、積極的に発言することはあまりなかったんですよね。でも、「使う人」にもプロフェッショナルなスキルはあるはずなんです、きっと。「使う人」のスキルを「患者力」として伝えていきたいと倉澤さんは言っているんです。そのおかげで、MAJでは作る側も使う側もお互い一歩上のレベルで目線を合わせられるようになりました。

モリ:良いモノを作るには、作る側も使う側も両方レベルアップしていかないといけない。

近藤:そうですね。作る側は作る側の思いをしっかり伝えて、使う側も使う側にしか分からないことを伝えるプロになっていくと、コミュニティのレベルは上がっていくんだろうなと。

モリ:「コミュニティのレベルが上がる」というのは良いですね。

近藤:オープンソースも世界中に広まりましたが、厳しく見るなら「広まっただけ」で、あまり進化はしなかったと思っています。予想外の進化はなかった。たとえば、マイクとスピーカーがついて電話になっているとか、より肌に近い柔らかい素材が提案されるとかI、IoT化されて、インターネットにつながっているとか。

exiiiがやらなくても、新しい動きが勝手に起こってくるような状態が理想でした。学会などで要素技術は進んでいるはずだから、色んな技術が集まってくるような場が理想的。

モリ:でも、実際は違った。

近藤:なかなか難しかったですね。そういう場を作るためには、作り手と使い手がお互いにもっとプロ意識とコミュニティを高めようという意識を持っていかないと。

遠藤:日常用の義足に関しては問題ないかもしれないですが、競技用義足に関しては、使う側も発信していくことが必要かもしれないですね。

モリ:そうなんですね。

遠藤:同じ義足でも使い方は1人1人微妙に違ったりするんです。それが、競技用義足についての研究がまだ十分にされていない要因。先人たちが積みあげたものはあるけれど、誰もが使えるようなレベルには達していません。アスリートの意見をくみ取りながら義足に反映していくことで、これまでよりコミュニティとしてのレベルが上がっていると思います。

社会はどこまでの「多様性」を許容するのか

モリ:ここ数年でも社会の許容度が上がってきたように感じています。このまま進むといいなと考えていたりするのですが、お二人はどうお考えですか?

近藤:最近は、生命倫理的な議論が本格的に行われる必要があると感じます。3Dプリント義手はかわいいもので、世界にはもっとすごい事例があります。

モリ:たとえばどんな事例なんでしょうか?

近藤:ニール・ハービソンというイギリス人は、もともと色が見えなくて、頭にセンサーを埋め込み、その波長に応じて振動の周波数を変えるみたいな手術を10年前にました。それで、紫外線も赤外線も感じられるようになった。

モリ:ええええ、それはびっくりですね。

【写真】向かい合って微笑んでいるえんどうけんさんとこんどうげんたさん

近藤:でも、彼の考え方ってすごい合理的なんです。こうした事例は、現に生まれていて、義手・義足に限らず、いろんなシーンで生命や身体の概念がかなり拡張してきている。海外にはサイボーグ専用の弁護士みたいな人もいたりするんですよ。

日本ではまだ、倫理観に抵触するような段階での議論はないですが、世界的にはこうした過激なことも起こってきている。こうした議論はこれからも加速しそうだなと感じています。

モリ:良くも悪くも、身体機能を人工物で補っていくことが当たり前になっていくと、どこまでが倫理的に許されるのかという線引きの問題が議論の的になりそうですね。遠藤さんはいかがですか?

遠藤:僕は倫理的に問題でなければ、人々はどんどん進めてしまうので、社会がいろんな事態を受け入れざるを得なくなるんじゃないかと思ってます。

モリ:社会がどうあれ、やりたい人はやってしまう。

遠藤:合理的でコストに見合うなら、やると思います。やりたい人はやる。やったからといって、その人が讃えられるわけじゃないですけどね。でも、やればやるほど人間の多様性を、さらに上回るような多様性を受け入れざるを得なくなると思います。

近藤:この点は、人によってかなり分かれると思います。僕の場合は小さい頃にバスケをしていた身体の感覚が、許容度を測る判断基準になっています。たとえば、コンタクトレンズは必要だけど、レンズによって視力が8.0もあるのはどうなんだろう、みたいな。

モリ:機能を拡張しすぎると違和感につながりそうですね。

近藤:ただ、先ほどのニール・ハービソンは、「トランスジェンダーを認めるのであれば、トランススピーシーズも認めろ」と言っているんです。環境問題が起こっているなら、体を変えて適応すればいいじゃないかって。これ突飛なようで、合理的に説明しているんです。どこまでがOKなのかという問いは、答えは出ないんですけれど、かなり考えさせられます。

エンジニアリングが拓く未来

モリ:社会がどこまでを受け入れるかは置いておいて、実際にエンジニアリングで可能なことは、この数年でもいろいろと増えてきていますよね。このまま技術が進歩を続けると、将来的にどのようなことが可能になるんでしょうか?

遠藤:義手も義足も、間違いなく同じ方向に向かっているんじゃないかと思います。欠損された機能が人工物によって補完されるだけでなく、補完し切れていない部分も徐々に満たされていくはずです。

モリ:よりできることは広がっていくんですね。

近藤:この5年で3Dプリンターが流行して、いろいろな義肢装具が3Dプリンターで作れるようになりました。でも、僕はそのバリエーションを増やすことこと自体にはあまり魅力を感じないんです。今ある技術で一度作ってみて、材料のバリエーションが足りないとか、出力される前に取り込むデータが足りないとか、課題を浮き彫りにする。見えてきた課題を改善していけば、もう一段高いレベルで3Dプリンター技術が生まれるはず。そちらのほうに魅力を感じます。

モリ:課題を明らかにしていくことに魅力を感じるんですね。

【写真】インタビューに応えるこんどうげんたさん

近藤:そうです。たとえば、森川さんはexiiiの義手を使ってから、たくさんの種類の義手を使うようになりました。森川さんはHACKberryをつけている間は、幻肢痛が緩和していたんですが、たくさんの義手をつけてしまって、自分のボディイメージが変わってしまったことで、幻肢痛が悪化するという事態が起こってしまったんです。

モリ:そんなことがあったんですね。

近藤:森川さんがその体験をするまで、全くわかっていなかった現象でした。たくさんの義手をつけると、ボディイメージが分からなくなって幻肢痛が悪化するなんて。義手が1種類しかなかった時代には、わからないことでした。こうしたことも起こるとわかったことは、次の科学につながる。慎重にならなければいけませんが、幻肢痛の解明に少しずつ近づいていける気がします。

モリ:使う人が増えると、わかってくることも増えて、エンジニアも新たに生まれた課題の解決策を考えていくことができるんですね。

「福祉」の枠にとらわれない

遠藤:発信の自由度が高くなっていますよね。障害に対するアンタッチャブルな部分が露呈されてきて、「ここまでは書いていいんだ」という状況が生まれている。そこからちょっと踏み出したら炎上するんですけど。

モリ:たしかに、何がOKで、何がNGかはわかるようになってきたかもしれません。

遠藤:経済が衰退すると、これまで通りの手厚い保障はできなくなっていきます。そうなれば、障害者の人たちを支える新しいアプローチが必要になります。将来的な課題を合理的に解決するには、どうしたらいいかという議論が進んできた中で、障害者の中で積極的に社会と関わっていく人も多くなってきたんですよね。

【写真】向かい合って真剣な表情で話すえんどうけんさんとこんどうげんたさん

モリ:社会が変化してきたことによって、表出しやすくなったんですね。

近藤:こうした変化は大事ですね。義手や義足を求めている人と義肢装具士さんがいて、その二人の間でお金のやり取りがあって、ものが届く。そこに競争が働いて、実力のある義肢装具士さんがちゃんと稼げるというような自由競争が生まれればいいと思います。議論はいつも補助金ありきになってしまうことが多い。

モリ:一定の市場性が必要だと。

近藤:もちろん、福祉という枠は排除できません。困っている人、必要としている人には届く仕組みが必要です。でも、スポーツとかファッションにおける義手や義足は自己実現のツール。就労・就学を担保するためのものではないので、こうしたものに関しては国や自治体が福祉として動くのではなく、経済で動けばいいのではないかと思いますね。

遠藤:本当に保障が必要な人がいる一方で、今までは社会保険制度によって守られていたけれど、これからはテクノロジーによって社会生活に参加できるという人も出て来るはず。だったら、それをしっかりサポートしてあげようという時代になると思います。

モリ:福祉によって支えられる部分と「自分でほしい物は自分で買う」という動きがあると、市場の論理が入る。それがさらに広がれば、テクノロジーでサポートできる範囲も広がって、福祉や保険で支えなければならない部分は少なくなっていきますね。

近藤:現代人は、あまりペンを持たないですよね。パソコンがあれば十分。最近は、音声入力だってできます。環境が変わって「手」というツールが、必ずしも必要ではなくなってきている。だから、義手も福祉という枠からどんどん外れていくのかなと思います。

モリ:お二人とも、自分がやっていることは「福祉」だとは思っていないですか?

近藤&遠藤:思っていませんね。

モリ:最後に、これからの目標を教えてください。

【写真】笑顔でインタビューに応えるこんどうげんたさん

近藤:イケてると思えるものは、どんどんプロデュースしたいですね。2020年にはきっと多くの外国人が集まるから、羽田空港か成田空港の免税店の一角にMAJが絡んだ商品を並べてみたいです。義手もあれば、食器や服もあっていい。片手で使うのに便利な道具は、両手が使える人にとっても便利だと思うので。

モリ:それは面白いですね。空港にあったらつい寄ってしまいそう。

近藤:もう一つは、学べる場を作りたい。義手を作る過程は、総合科目のようなもの。エンジニアリングの技術だけじゃなくて、「患者力」ようなコミュニケーション能力も必要です効率的に学べる場があるといいですね。今の義肢装具の学校は、最低3年間通わないといけませんが、もっと早く学べると思いますし、本来学ぶべきことが現状では学べなかったりするので、カリキュラムを変えていきたいなと思います。

モリ:作る人を増やしていくための活動をさらに行っていかれるんですね。遠藤さんはいかがですか?

【写真】真剣な表情でインタビューに応えるえんどうけんさん

遠藤:目標の一つは、2014年からずっと掲げてきた「世界一」です。義足でめちゃめちゃ速く走ること。パラリンピックは世界中の誰もが注目する大会です。パラリンピックを一番盛り上げる方法は、スポーツを見ていておもしろいものにすること。陸上でいえば、速く走る人を何人も増やすことです。

モリ:それを2014年から取り組んできたんですね。

遠藤:当初は誰にも相手にしてもらえなかったし、文句を言われながらやっていたこともありました。でも、当初言っていたとおりに物事は進んでいます。今のところは。Xiborgの義足を履いた選手は去年のリオにも出てくれましたし、今年もアメリカの選手が履いてくれて、来年も1人増えるんです。だから、2020年の目標は100mを走る8人のうち、半分がXiborgの義足を履いているという光景を実現することです。

モリ:その光景を見るのが楽しみですね。

遠藤:義足のアスリートの活躍は、世界で注目されるようになってきました。2020年、東京で日本中の人が彼らの姿を目の当たりにします。そのとき、「自分も走りたい」と思った人のために「ここに来れば走れる」という受け皿を今から準備していきたいですね。

【写真】笑顔のえんどうけんさんとこんどうげんたさんさん、ライターのもりじゅんやとくどうみずほ

この数年で、義手や義足に対する意識は変わってきました。素晴らしいプロダクトが生まれることで、この先もさらに人の可能性は広がり、人々の意識も変化していくはずです。 ですが、それだけでは新しく生まれる義手や義足にアクセスすることはできません。

より多くの人に届けるためには、作り手が増えること、使い手がプロ意識を持つことなど、コミュニティとしてレベルが上がっていくことも必要になってきます。 誰かに任せきりにしていて、状況は改善されません。少しずつ挑戦のフェーズが変わっていく遠藤さんと近藤さんの活動から、刺激や新たな視点をもらいつつ、私たちは私たちにできることはなんなのかを考えていきたいと思います。

関連情報: Xiborgが挑戦するクラウドファンディングはこちらから! Mission ARM Japan ホームページ Xiborg ホームページ

(写真/加藤甫、協力/岡野あや、馬場加奈子)