【写真】利用者のおおたさちえさんと街道を一緒に歩くすずきたかみちさん

突然ですが、おにぎりの具は何が好きですか?

好きな具が思い浮かんだら、コンビニのおにぎりの陳列棚を思い出してみてください。私たちが、好きな具のおにぎりを選べるのは、「明太子」や「鮭」などのラベルを読むことができるからです。

気になった新発売のドリンクを頼めるのも、レジ横のメニューを読むことができるから。

普段は意識していませんが、私たちは視覚からたくさんの情報を得て生活をしています。

では、視覚から情報を得られない視覚障害者の方々はどんな風に日々を過ごしているのでしょうか。いろいろな不便が想像されますが、特に外出するときは不安なことも多いのではないかと思います。

そんな視覚障害者の方に付き添い、視覚情報を口頭で伝えながらお出かけをサポートするサービスを「同行援護」といいます。もし、お出かけのときに視覚情報を伝えてくれる誰かが隣にいてくれたら。きっと心強く、外出しようと思う方が増えるはずです!

でも、視覚障害者の方にとって安心につながるはずのこのサービスは、視覚障害者当事者でも知らない方が多いのだとか。

そんな同行援護専門の事業所otomoが足立区で発足。同行援護に留まらないさまざまな新しい取り組みを行っていると聞き、早速代表の鈴木貴逹さんに会いに行ってきました!

otomoが取り組むのは同行援護、そして視覚障害者が“出かけたい”と思える場所をつくること

【写真】笑顔でインタビューに応えるすずきたかみちさん

初めまして!

待ち合わせのカフェで私たちを待っていてくれたのは、otomo代表の鈴木貴逹さん、アドバイザーの椎野紗綾香さん、そして利用者の太田佐千枝さんです。

【写真】笑顔でインタビューに応えるしいのさやかさんとおおたさちえさん

3人はまるでお友達同士でお茶を飲んでいるような、とても親しげな雰囲気。“介助する側”と“利用者”には隔たりのようなものがあるのではないか…という私の勝手な想像は、3人にお会いした瞬間に打ち砕かれました。

otomoは、鈴木さんが2017年4月にオープンした同行援護専門の事業所。視覚障害者の方のお出かけに同行し、必要な情報を口頭で伝えるほか、代読や代筆などの援助を行っています。

これまで訪問介護や高齢者介護の事業所が、サブ的に行っていることが多かった同行援護。利用者側で好きな時間を指定したり、長時間の利用が難しいという現状がありました。otomoはまだ珍しい同行援護専門の事業所として、これまでなかなか汲み取ることが難しかった利用者のニーズに応えています。

【写真】白杖を持って歩くおおたさちえさんとすずきたかみちさん

視覚障害者の方が同行援護を利用できる時間は、区や市によってさまざま。ちなみにotomoがある足立区では一人当たり64時間と定められています。これは、20時間ほどしかない地区もあるなかでとても長い方なんだそう。

そして、同行援護はあくまで余暇活動や社会参加のための外出サポートです。仕事に行くなどの経済活動や、家の中での活動には利用できません。

【写真】真剣な表情でインタビューに応えるすずきたかみちさん

「余暇活動や社会参加とは言っても、やはり同行援護がメインでない事業所だと短い時間でしかサービスが利用できなかったりするようです。otomoでは、長時間の外出や旅行にも対応しているんですよ」と鈴木さん。

【写真】視覚障害の方にインストラクターがヨガを教えている

otomoでは、視覚障害者のためのヨガ教室やiphone教室などを開催し、視覚障害者の方が「出かけたい!」と思えるような場所作りにも取り組んでいます。

【写真】iPhoneを操作する視覚障害の方

同行援護は、利用者の「お出かけしたい!」という気持ちがあって初めて成り立つもの。「今まで家のなかに閉じこもりがちだった方が外に出るきっかけ作りをしたい」と鈴木さんは話します。

両親の離婚、そして初めて知った母親の視覚障害

鈴木さん:実は、僕の母親は視覚障害者なんです。

そう切り出したのは鈴木さん。お母様が視覚障害者だと鈴木さんが知ったのは、小学校低学年の頃だったそうです。

【写真】真剣にインタビューに応えるすずきたかみちさん

鈴木さん:もともと母の目が悪いということは知っていました。でも僕が小さい頃には自転車にも乗っていましたし、気に留めていなかったんです。小学校低学年の頃に両親が離婚したんですが、そのタイミングで初めて母が視覚障害者だということを知らされました。

子どもたちには障害のことを伏せておこう、という方針だったお父様と離れたことで、鈴木さんはお母様の障害を知ります。まだ幼かった鈴木さんは、両親の離婚と母親の障害を知る、という大きな二つのできごとに混乱したのだそうです。

「とは言っても」と、鈴木さんは明るく切り返します。

鈴木さん:母の目はもともと悪くなっていたわけですし、その日を境にどうこうというわけではありません。弟がいるんですが、僕も弟も母の見えない部分をケアしながら、普通に生活していました。

お母様は徐々に「怖いから」と自転車から遠ざかり、お店で商品に貼られている値札が見えなくなり、初めての場所では迷ってしまうようにもなりました。だんだんとその視力が落ちていることがまだ子どもだった鈴木さんにも分かったといいます。

自分が好きなものを選択できないという、視覚障害者の困難

【写真】過去を思い出し、少し辛そうな表情をするすずきたかみちさん

鈴木さんがお話してくださった、お母様の印象的なエピソードは、冒頭のおにぎりの話に繋がります。

鈴木さん:母は買い物に行っても自分が何を手にしているか正確には分からないんです。コンビニに行っても、同じような形のおにぎりがたくさんありますよね。とりあえずいっぱい買って、家に帰ってからひとつずつ味を確認していたことがありました。

鈴木さんは、視覚障害者にとっては、自分の好きなものを選択するのが難しいということに改めて衝撃を受けたといいます。必ずしも全員が白杖を持っているわけではないので、確かに私たちその存在に気づくことは、難しいのかもしれません。

コンビニの店員さんも、もしおにぎりの陳列棚の前にいる人が目が見えなくて、どれが自分の好きな具なのか分からず困っていると知ったら、きっと手を差し伸べてくれるはずです。でも、忙しそうな店員さんを呼び止めて何か質問することに気が引けてしまう、という経験をしたことがある人もいるのではないでしょうか。呼び止められない鈴木さんのお母様の気持ちは良く分かります。

なかには、外出で嫌な思いをして外を出歩くことをやめて家にこもってしまう人もいるという鈴木さん。

鈴木さん:実際、外に出なくても困らないという人もいます。同居している家族にいろいろなことを代行してもらっていたり。今はインターネットもあるので、ネットラジオを自由に聞くこともできます。でも、インターネットは視覚障害者にとって、思いがけない情報を得られるツールではないんです。

取材前に、視覚障害のある方が使うツールを調べていた私。その中の1つが「インターネットの画面読み上げソフト」です。そのソフトを使いこなすことができれば、インターネットは良い情報源になるのではと考えていたので、その言葉に驚きました。

鈴木さん:もちろん、読み上げ機能は便利なものだと思います。たとえば、“この近くに美味しいおそば屋さんないかな?”と必要な情報を検索するぶんには問題ありません。でも、僕たちが普段インターネットから「思いがけない情報」を得るのってバナー広告からだったりするんですよ。その部分は読み上げ機能で網羅できないんです。

確かに私たちはインターネットから、「検索したこと以上」の情報を得ています。それも視覚から情報を得ているからできることなのだと思い知りました。

視覚障害者の母親を持ちながら、知らなかった「同行援護」との出会い

【写真】インタビューに応えるすずきたかみちさん

お母様のエピソードや視覚障害者のお話を聞いていくうちに、鈴木さんご自身のことを伺いたくなりました。

同行援護専門の事業所を立ち上げた、と聞いたときから鈴木さんはこれまでずっと福祉関係のお仕事をされていたのかなと想像していました。でも聞いてみると、otomoを立ち上げる以前は10年以上広告制作の会社で代表を務めていたそう。全く違うお仕事をしていたことに、びっくり。広告制作のお仕事からどんな風に「同行援護」が繋がったのでしょうか。

鈴木さん:地域で起業したり、団体活動をしている代表が集まる会合に出席したとき、ある事業所の方と名刺交換をしたんです。名刺交換をすると、どんな会社なのかなといつも検索しているのでその事業所も調べてみました。すると『視覚障害者ガイドヘルパー養成研修』という文字が目に入ったんです。

そこで初めて同行援護を知りました。2016年8月頃のことです。視覚障害者を家族に持つ僕ですら、そのとき初めて知ったというのが衝撃でしたね。

同行援護と出会った鈴木さんは、すぐにその事業所の方に連絡を取ります。「視覚障害者ガイドヘルパー養成研修」を受講したいと掛け合い、同行援護の仕組みや資格についていろいろと教えてもらいました。

こうして同行援護について情報を集めるうち、「自分で事業所を立ち上げて同行援護をやろう」という思いが鈴木さんの中で生まれたのです。

これまで福祉の世界とは無縁。立ち上げ時の困難を乗り越えられたのは力強いパートナーが現れたから

【写真】笑顔でインタビューに応えるしいのさやかさん

資格を取り事業所立ち上げに向けて動き出した鈴木さん。そのなかで一番苦労したのが「人」だったのだとか。
介護事業所を立ち上げるには、さまざまな人員要件を満たさなければいけません。これまで福祉とは無縁の仕事をしてきた鈴木さんには、この業界で全く人脈がありませんでした。

そんなときに“偶然”出会ったのが、後にotomoのアドバイザーになる椎野紗綾香さん。福祉関係の専門学校で先生をされている椎野さんは、キャリア面でも資格面でも、otomo立ち上げのパートナーとしてまさに適役。鈴木さんから誘いをうけたとき、椎野さんはどんな気持ちで引き受けたのでしょう?

「人柄が良かったから?」と冗談を言う鈴木さんに、「ちょっと違う」と椎野さん。

「じゃあイケメンだったから?」
「もっと違う!!」

お二人のやりとりに私も思わず笑ってしまいました。

椎野さん:最初に話を聞いたとき『じゃあやる』ってすぐに乗っかりましたよ(笑)!勤めている専門学校は副業がOKでしたし、なによりotomoがやっていくのは誰も悲しませない、ハッピーな事業だなと思ったのが即決の一番の理由です。

椎野さんという力強いパートナーを得た鈴木さんは、2017年2月東京都に事業所設立を申請。そしてその2ヶ月後にotomoをオープンさせました。

“同行援護”に同行!

【写真】取材場所から外に出て行くしいのさやかさんとおおたさちえさん。おおたさんは白杖を持ち、しいのさんの腕を掴んでいる

ここで、利用者の太田さんと鈴木さん、椎野さんが同行援護でお出かけするということで、私たちも同行させてもらえることに!

まずは、太田さんと椎野さんのペアで街歩き。ふたりは腕をぐっと組みます。椎野さんの腕にはバンダナが巻かれていました。これは、汗で利用者に不快な思いをさせない工夫なんだとか。

【写真】お店などがあり、二車線の歩道がない道路の橋を歩くおおたさちえさんとしいのさやかさん

この日歩いたのは、歩道がなく、車の交通量も多い道でしたが、二人は慣れているのかしっかりとした歩みで進みます。

「下りの段差が1段ありますよ」
「今は●●前の駐車場に差し掛かったところですよ」

椎野さんが太田さんに口頭で情報を伝えます。

八百屋さんの前を通ったときには「あ、八百屋さんに梨が並び始めました」と、視覚情報から得られる季節感を太田さんに伝えていたのが印象的でした。

【写真】歩きながら笑顔で話すしいのさやかさんとおおたさちえさん

歩いているあいだ、二人は時折爆笑しながらまるでお友達のようにおしゃべり。おいしい焼き鳥屋さんの情報交換をしたり、映画の話をしたり、堅苦しい雰囲気は全くありません。そんな様子を見ながら鈴木さんがこんなことを話してくれました。

鈴木さん:同行援護ってやっぱり人間性とかコミュニケーション力とか、相性が大切だと思うんです。だって、同行援護じゃなくても、もし気の合わない誰かと何時間も黙って一緒に歩くなんて辛いじゃないですか。同行援護はただ一緒に歩くだけの仕事ではないので、ガイドの仕方がうまいとか、説明が分かりやすいとか、もちろんそういうのも大事なんですが、やっぱり一番は、人柄とか人間性です。

椎野さんに同行援護で気をつけていることを伺ってみると、「たくさんあるけど…」と少し考えてから、私に「目をつむって」と言いました。

言われるがままに目をつむる私。「ここ、つかんでてね。前に歩き出して」と同行援護のデモンストレーションをしてくれました。想像していたよりずっと安定感があり、安心して歩けます。そう伝えると、それは椎野さんがぎゅっと脇をしめているからだと教えてくれました。

「じゃあ、脇を緩めてみるね」途端に足元が不安定に。まるで体ごと大きく揺さぶられているような感覚でした。

こんなふうに、介助者のほんの小さな動作で、利用者の方に与える安心感が大きく変わります。どんなに楽しそうにおしゃべりしていても、同行援護中は細部にまで気を配って、利用者のことを考えているのです。

“コンビニから宇宙まで”どこまででも同行するotomoのスタッフ

otomoのスタッフたちは、日々多くの利用者の同行援護を行っています。鈴木さんはスタッフの方々に「otomoでは利用者を『助ける』のではなく、『寄り添う』ように接しよう」と伝えているのだそう。

鈴木さん:利用者の荷物を持ってあげたり、椅子に座るときの介助などは利用者も望みません。他の事業所ではやるところがあるかもしれないけれど、otomoではやらないようにしています。

また、otomoでは利用者の服装の乱れについてはしっかりと伝えるようにしています。利用者のズボンのポケットが破れていることに気づいたあるスタッフ。決まっていることとはいえ、服の乱れを指摘するのは、利用者を傷つけてしまうのではないかと、気が重くなるそうです。

でもその指摘を利用者はとても喜んでくれ、その次の同行援護でズボンを買いに出かけたんだとか。利用者とのエピソードになると、鈴木さんも椎野さんもそれまでに増して笑顔が多くなります。

鈴木さん:otomoのコンセプトのひとつとして『コンビニから宇宙まで』というのを掲げていて、利用者のいろんな声に応えたいと思っているんです。

あるとき、「とあるお祭りに行きたい」という問い合わせがありました。その利用者によると、他の事業所からは同行援護を断られてしまったのだそう。その事業所は「利用者の方をそんな混み合っているところには連れて行けない」という判断をしたようでした。

でも、otomoは違います。「行きましょう!」と同行援護を引き受けました。そのとき、その利用者とそのお祭りに出かけたのが椎野さんです。

【写真】笑顔でインタビューに応えるしいのさやかさん

椎野さん:高齢の女性の方だったんですが、『昔、亡くなったおじいさんとここに来てね…』とプライベートなお話をたくさんしてくれました。通りかかった出店で目についたのが、今流行りの電球型の入れ物に入ったドリンク。あのインスタ映えするやつです(笑)。

ご存知ないだろうなと思って『出店では電球型の入れ物に入ったドリンクが流行っているんですよ。なかにゼリーとジュースが入っていて、ピンクとかブルーの蛍光色をしています』と説明しました。そうしたら、『買って帰っておじいさんのお仏壇に供えたいわ』って言ってくれて、嬉しかったです。

先ほどの同行援護でも、八百屋に梨が並んでいることをとっさに伝えていた椎野さん。その利用者の方は、思い出のあるお祭りを椎野さんの言葉でさらに楽しんだはずです。電球型のドリンクが、利用者の方の心のなかでどんな風に描かれたのか、とても気になります。

今はまだ聞こえない、当事者の声を聞きたい

この取材をさせていただいた2017年8月の時点で、otomoは発足から4ヶ月。さまざまな課題も見えてきました。

そのひとつが、同行援護というサービスの存在を、必要としているはずの視覚障害者当事者が知らないということ。でもどうして、同行援護の情報は当事者に届かないのでしょうか。

鈴木さん:行政が出している『障害者のしおり』という冊子に同行援護の記載はあります。でもいろいろな障害の方が読むとても分厚いものなので、目が見えない視覚障害者の方はなかなか同行援護の項目にまでたどり着けないみたいなんです。

同行援護を知らないけれど、必要としているはずの人たち。その人たちにピンポイントで情報を届けられれば苦労はないはず。でも、そんな方法はありません。そういった方々がどこにいるのか、どうやって暮らしているのか、知る術がないのです。

視覚障害者の方が新しい情報を得るのは、テレビ、ラジオ、そして家族や友人との会話からということは統計上で分かっているそう。社会的に同行援護を広く知ってもらうことが、巡り巡って必要な方に届く動線になると鈴木さんは話します。

鈴木さん:otomoの意義のひとつは、社会参加や外出が難しい人にアプローチして、社会参加のきっかけにしてもらうことだと思っています。

そのために必要なことは、当事者の声を聞き、理解すること。一度アンケートを取ってしっかりニーズを汲み取ろうとしたこともあったそう。でも、そこで思い至ったのが、そういったアンケートで声を発せられるのは、ある程度社会参加をしている人たちだということでした。

どうやって今は声を発していない当事者の声を聞いていくか、それはotomoのこれからの大きな課題です。

もちろん、otomoでは現在の利用者やスタッフの声を日々業務に取り入れています。 たとえば、これまでの同行援護は、何曜日の何時と決まった曜日や時間に行うことが多かったそう。otomoではホームページ上で空いているヘルパーの名前や時間が分かり、すぐに予約ができるシステムを取り入れています。

【写真】2017年10月のカレンダー。予約があるかどうかがすぐにわかる
「今日天気がいいからお散歩に行きたいな」などの利用者のリアルタイムな要望に応えることができるこのシステム。これはスタッフの「ホットペッパービューティーの美容室の予約みたいに同行援護の予約ができたらいいのに!」という声に鈴木さんが応えたものです。

スタッフから要望があった翌日には、ホームページ上にその予約システムを完成させたそう。このシステムは利用者からもとても好評。そして自分の声がすぐに形になるというのは、スタッフのモチベーションにも繋がっているようです。

“つながる人、みんな楽しく”otomoをつくる仲間たち

【写真】笑顔でインタビューに応えるすずきたかみちさん

otomoの理念は「つながる人、みんな楽しく」。誰かが疲弊して成り立つビジネスなら、やめてしまった方がいいと清々しい笑顔で鈴木さんは話します。

鈴木さん:『つながる人、みんな楽しく』の中で自分が一番楽しまないといけないと思っています。今めっちゃ楽しいんですよ!

同行援護をするスタッフも、「otomoを広めたいから名刺が欲しい」と積極的に事業に関わってくれているそうです。“みんなでotomoを一緒に作っていく”という思いを持った方々が、鈴木さんを中心に集まっていることが伝わってきました。

【写真】笑顔でインタビューに応えるおおたさちえさん

もちろん、この輪のなかには、利用者も。「otomoのスタッフは、身近な存在に感じられて、一緒にいる時間をとても楽しく過ごさせてもらっています」と話すのは、今回のインタビューに来てくださった太田さんです。

このインタビューの次の週末に、太田さんは椎野さんの同行援護で映画を観に行く予定なのだと笑顔で話してくれました。田端にある映画館「CINEMA Chupki TABATA」は、座席に搭載されたイヤホンで、場面解説の“音声ガイド”を聞くことができ、視覚障害のある方も映画を楽しめる場所なのだとか。

太田さん:田端はここから遠いし、映画もせっかく行くのだから2本見たいの(笑)。お尻が痛くなっちゃうし、夜も遅くなっちゃうわよって心配したんだけど、『ぜひ行きましょう!』って言ってくれて。週末が楽しみです。

視覚障害者の困りごとをひとつずつなくしていきたい

【写真】笑顔で街道を歩くすずきたかみちさん、おおたさちえさん、しいのさやかさん

鈴木さん:同行援護は、視覚障害者が外に出たり、社会と交わるきっかけのひとつにすぎません。今まで視覚障害者の方が困っていたことを、ひとつずつ無くせるようなサービスをotomoが作っていけたらいいなと思っています。

鈴木さんは、otomoのこれからについてそんなふうに笑顔で語ります。

利用者のなかに、当初は「どこに出かけたいですか?」という質問に「どこにも行かない」と答えていた方がいました。その方もお出かけを重ね、今は「次は卓球をやりたい」とお話しされているそうです。

まさに、同行援護をきっかけに社会との交わりを広げっていった利用者。それはまるで、心のなかにもともとあった種が、光や水を受けて芽吹き、葉を伸ばすようなイメージ。

太田さんも、「いつかotomoのスタッフとタンデム(二人乗り自転車)に挑戦したい」と話してくれました。太田さんと鈴木さん、または椎野さんがタンデムで風を切って走る姿が目に浮かびます。

障害があってもなくても、“やりたいこと”をいつも誰もが胸に持っておける。それが当たり前になってほしいな。そんな風に、鈴木さんたちとお話をしながら感じました。これから必要としているたくさんの人たちに情報が届くよう、私たちも同行援護を社会に広めてotomoを応援していきます。

そしてコンビニのおにぎりの話のように、社会のなかには周りからはそうと気づかれにくいけれど、不便を抱えている人や困っている人がいる。それをこの記事を読んでくださった方が心に留めてくださり、みんなで寄り添っていけたら嬉しいです。

関連情報

otomo ホームページ

(写真/田島寛久、協力/長島美菜)