【写真】様々な種類のお花を手に持ち、笑顔を向けるローランズスタッフ3人

原宿の繁華街から小道に入って少し歩いていると、ガラス張りのお店が見えてきます。ドアを開けると目の前に飛び込んで来たのは、ガラス張りの店内に、ピンク、黄色、青・・・色とりどりの花たち。

「なんて素敵な空間なんだろう」

思わず360度店内をぐるっと見回し、取材で訪れた私たちみんなに笑顔がこぼれてしまったほど。

【写真】ガラス張りの店内には植物が飾られ、おしゃれで落ち着く雰囲気

ここローランズ原宿店は、2017年5月8日にオープンした、カフェスペースが併設されたフラワーショップ。ここでスタッフとして働く人の中には障害のある方がいます。

みなさんは「障害者雇用」ということばにどんなイメージを持ちますか?

これまで生活の場で、障害者の方が働いている場面を見ることがあまり多くなかった私は、ローランズの働き方に魅了されました。障害のあるスタッフが生き生きと、楽しそうに働くローランズ原宿店に伺って、お話を聞いてきました!

障害者の働くフラワー&スムージーショップ「ローランズ」

【写真】カゴに詰まったアレンジメントをした花たち。思わず目を引く美しさです

ローランズは駒込、川崎にも店舗を構えるフラワーショップです。そして2017年5月、日本財団とが共同で行うプロジェクト「Flower Ring(花の輪)Project」として、原宿店がオープンしました。

【写真】野菜や果物を使ったスムージーにスープ、オープンサンドが並ぶ。どれも美しく美味しそう

併設しているカフェでは、果物や野菜を使ったスムージーやスープ、オープンサンドなどの軽食も用意。カラフルな花に囲まれた開放的なイートインスペースで、ゆっくりとカフェタイムを楽しむことができます。

【写真】レジカウンターからお客さんに微笑みを向けるスタッフ

原宿店は障害のある方がスタッフとして交代で働く、就労継続支援A型の店舗です。ここでは障害があるかないかは関係なく、それぞれのスタッフが皆で協力し合いながら働いていました。

【写真】取材をしている店内には、植物が並び、とっても癒される空間

「フラワーショップと障害者雇用」意外にも思えるこの組み合わせは、どのように生まれたのでしょうか。ローランズ代表の福寿満希さんに、まずは障害者雇用に関心を持ったきっかけを伺いました。

福寿さん:もともと私は学生時代、特別支援学校の教員免許取得のための勉強をしていて、教育実習の時に障害者の教育体制に注目が集まる一方、卒業後の受け入れ先が少ない現状を知りました。

「教育の場ではなくて、卒業後のことで何か障害を持つ方々のサポートができたら」当時の福寿さんにはそんな思いが漠然とあったのでした。

【写真】笑顔で話をするふくじゅみつきさん

福寿さんはその後、一度は企業に就職したものの、人に安らぎを与える花を仕事にしたいという強い思いを持ち続けていました。どんな小さな仕事も引き受けるなど、ひたむきに努力を重ね、ローランズを立ち上げます。

花に関するワークショップも引き受けていた福寿さん。ある時、障害のあるの方と共にフラワーアレンジメントを作る機会がありました。

福寿さん:障害者の方々と作業をする中で、彼らがとても器用にフラワーアレンジメントを仕上げていくことに気がついて。もしかしてお花の仕事って一緒にできるんじゃないかなって思ったんです。そこで初めて、「花」と「障害」がリンクしました。

そこから徐々に、一般の方に解放していた雇用の枠を、障害者の方向けに変えていったのだそうです。

個々の特性に応じて適切なポジションを任せていく働き方

【写真】スタッフが真剣な表情で花を運んでいる

ローランズの店内を見渡すと、年齢、性別ともに様々な方が働いている様子が見受けられました。

福寿さん:スタッフは障害者手帳を持たれている方がほとんどです。色々な方がいて、例えば精神疾患、身体障害、聴覚障害の方もいます。特に病気や症状の特定はしていません。

これまでの経歴や技術よりも、今この仕事がしたいと言ってくださる方や、お花やカフェが好きな方、そういった気持ちを持っている方と一緒に働きたいと思っています。

ローランズでは作業の多くを障害者スタッフに任せているといいます。スタッフの皆さんはそれぞれ、花束の製作、生花の手入れ、フロント、バックヤードなど、作業ごとにチームに分かれて働いていました。

【写真】光が差し込み明るい雰囲気の店内を掃除するスタッフ

福寿さん:スタッフには様々なチームの業務を経験しながら、自分の得意なことを探してもらうんです。そのあとは得意を生かせるチームで頑張ってもらうという体制です。

レジでの接客や、バックヤードでフルーツを切る担当など、まずはなるべく一つのことを何度も繰り返して覚えてもらいます。仕事が円滑にできるようになってくるとだんだん自信がついて「これが得意なんです」と胸を張って言えるようになる。そうやって楽しく続けてもらえればなって。

でも、自分の得意なことってなかなかわからないこともあるのでは・・?どうやって見つけるのだろうと、気になって思わず聞いてみました。

福寿さん:なんども、なんども一緒に失敗しながら、最終的にたどり着きます。これはできなかった、これは少しできた、これはすごくできた、と繰り返して、すごくできたところで活躍してもらうようにしています。

ただ、失敗したことやできなかったことに、すごく落ち込んでしまう人もいるんです。例えば「接客をしたい!」と意気込んで入ってくれたスタッフが、実際やってみると緊張してしまって人前で全く話せなかったということがあったり。

どんな人でも失敗したら多少なりとも落ち込んでしまうもの。福寿さんは失敗をどのように捉え、スタッフの方々に寄り添っているのでしょうか。

福寿さん:失敗を経験することで「できなかった」「苦手だった」ということがわかる、それ自体で前に進んでいると思っています。なのでスタッフには「失敗したとしても進んでいるんだよ」ということを伝えるようにしてます。

これは私たちも同じで、障害があるかないかは関係ないのかなと思いますね。

失敗によって苦手なことや、できないことがわかる。じゃあそれに対してどうするのか。もう少し頑張ってみることもあれば、方向性を変えて他のことに挑戦してみることだってある。私たちも、日々このサイクルを繰り返しながら生きてることを実感します。

障害の有無に関わらず、スタッフ皆と協力してお店をつくる

【写真】取材に応えるすぎさきさん

ローランズ原宿店では最大約20人の障害者スタッフが交代で働いています。そのスタッフたちへの指示出しや、研修業務などを始め、お店全体の管理を行うのがショップリーダーの杉崎保乃さん。

杉崎さんはスタッフと一緒に休憩をとったり、バックヤードで話をしたりと、常に自然体でスタッフに接しています。身近な存在としていつも側にいながら、スタッフを「平等」にみることを心がけているのだそうです。

杉崎さん:症状や診断は様々なので、一人一人に配慮はしています。その上でそれぞれができる範囲で”責任感”を持ってほしいとは思っています。なるべく休まないこと、遅刻をしないこと、お願いしたことを最後までやり切ってもらうなど。

それぞれ何ができるかは様々なので、その人の中で「頑張っている」ことを評価する。そのために普段から平等に、みんなの仕事をよく見るようにしています。

話し合いで希望を聞いた上で、ステップアップできるよう一緒に考えることもありますね。でもあくまでも希望を聞いて、本人の嫌なことはしなくて良いと考えています。

正しい評価をしてもらえることがモチベーションに繋がることは、きっと誰にでも当てはまるのはないでしょうか。

杉崎さん:でも、何か特別なことをしているという感じではないんですよ。スタッフの皆から気を遣ってもらったり助けてもらうことも本当にたくさんありますし・・

杉崎さんの様子からはスタッフとの強い信頼関係が伺えました。

杉崎さん:原宿店のオープン準備の段階から、何かあるたび「どうしたらいいか」を、障害者であるかどうかは関係なくみんなで相談して、スタッフの力を借りてここまでやってきました。みんなでお店を作るというこの形を崩さずにいきたいと思っています。

できたら褒めてもらえる、失敗したら怒られる。だからやりがいを感じている。

【写真】優しい微笑みを浮かべているしまむらかずひろさん

続いては、カフェチームでスムージー作りを担当しているスタッフの島村和宏さん。島村さんは学生の頃に精神疾患を患いました。これまで障害者雇用を受け作業所で倉庫の整理や清掃をしたり、一般雇用でアルバイトなどを経験してきたそう。

島村さん:一般雇用での複雑な仕事は難しくて、うまくいかないことが多かったです。だけど作業所での仕事は誰にでもできるような単純作業で、もし間違えていても責任は伴わないのでやりがいがなくて。

一方ローランズでの仕事は、島村さんにとってこれまでとは違う働き方となりました。

島村さん:ここではできたら褒めてもらえますし、失敗したら怒られますけど、それにやりがいを感じています。

「いてくれてありがたい」って言ってもらえたりもして。僕は今まで自分のことを、社会から必要とされていない人間だと思っていたんです。でもここではきちんと認めてもらえるのが嬉しくて、今は働くのが楽しくて仕方ないんです。

今私の目の前でこんなにも生き生きと働き、満面の笑顔で話をしてくださる島村さんが、以前は「社会から必要とされていない」と感じていたなんて。ローランズの働く環境が、島村さんに良い影響を与えていることが伝わります。

それには、ローランズではスタッフ同士でいい関係性を築けていることも大きいのだと島村さんは続けます。

島村さん:みんなお互いの症状を理解しようという姿勢があって、自分の症状の話もするんです。お互いの症状についてアドバイスをしたり、嫌なことはしないように、自然と気遣いが生まれたりもしていますよ

最後に今後挑戦したいことについて質問すると、実は・・と話して下さいました。

島村さん:ちょうど今日、スムージー作りに関する試験に合格したんです!今後はお客様の前で作業することができるので、今はそれが楽しみです。

これからもどんどんステップアップして、働く時間も今は1日4時間ですがもっと増やしていって、ローランズと一緒に成長していきたいと思っています。

指示されるのではなく「一緒に考える」機会をくれる環境

【写真】インタビューに応えるスタッフさん

次にお話を聞かせてくれたのは、フラワーショップで生花を担当するスタッフさん。

発達障害の二次障害でうつ病の症状があるそうです。前職では一般就労で働いていましたが、体調を崩してしまったことから退職。ローランズでは今後フラワーギフトの制作など、生花を扱う業務を担う予定で、現在は主にお花屋さんの裏方業務を行なっています。

ローランズでは、スタッフ同士で「一緒に考えて働く」場面が多々あり、それがスタッフの働きやすさにつながっているとのこと。

「これをやって」と指示されるのではなく、「これをこうしたいけどどうしたら良いと思う?」と聞かれるんです。私は障害者だけど、スタッフの一員として認めてもらっているんだなと感じます。緊張感もあるけれど、やりがいがありますね。

言われたことだけを行う単純作業ではなく、個人が裁量を持って働くことのできる環境が、ローランズにはあります。

【写真】丁寧に花を揃えるスタッフさん

前の職場で人間関係でうまくいかないことがあって、仕事に対して怖いという気持ちがありました。でもこの職場なら自分を受け入れてもらえるんじゃないかな、と思っています。

早く生花の技術を身につけて、「これだけは私にできるんだ」と自信を持てるようになりたいです。

お客様には「福祉」だと気づかれないくらいが嬉しい

【写真】手でジェスチャーをつけて説明をするふくじゅみつきさん

スタッフの方々がさわやかな笑顔で働く姿、お店全体に広がる優しく穏やかな空気。そんなローランズの、企業として利益を生み続けることと、福祉を両立する工夫について、福寿さんに聞いてみました。

福寿さん:やっぱり、一定の基準を求めていきます。スピードもある程度求めますし、追いつかない場合はなんで追いつかないのか、どうしたらうまくいくかを、一人一人と一緒に考えます。

「一定の基準」とは厳しい言葉にも聞こえますが、基準があるからこそ、障害があっても自覚や責任、そしてやりがいを持ちながら働けることにつながっているのではないか。スタッフのお二人のお話を思い返しながら、私はそう思いました。

ローランズでは「一緒に考える」という配慮も大切にしています。社会で働く上で、自分の目線になって一緒に考えてくれる人がいることは、どんなに心強いでしょうか。

福寿さん:スタッフのために、そしてお店を続けていくために、利益は出さなければならない。でも障害を売りにすることで物は売れないと思うんです。商品であるお花や、スタッフのサービスに魅力があるから買ってくださるんですよね。

障害者だからと商品を提供するレベルを下げるのではなくて、スタッフと一緒にそこを目指していきたいと思っています。

取材中、お客さんと笑い合いながら、一緒に花を選ぶスタッフの姿を何度も見ました。ローランズでは、障害者雇用を前面に出して運営をしていません。来店されるお客さんも障害者のスタッフが働いていることにあまり気づかないのだそうです。

福寿さん:ほとんどのお客様は障害者雇用だとは知らずに利用してくださっています。パンフレットには小さく載っているので、それを見て初めて知ったという方も多いですね。福祉だから買ってくださいという売り方はしたくないので、気づかれないくらいで嬉しいです。

障害者の働き方も多様になり、「好きなことを仕事にする」人が増えて欲しい

【写真】笑顔でこちらをまっすぐに見つめるふくじゅみつきさん

就労継続支援A型事業所で働く障害者の給与は、全国平均およそ6万8000円。ローランズではすでにこの数字を大きく上回っており、今後さらに上を目指していきたいと考えているそうです。

福寿さん:障害者雇用に関しては、色々なチャレンジをしている会社が増えているので、これから変わっていくんだろうなと思っています。私たちも素敵になっていく努力をしていくので、色々な業界が色々な形でトライして、“素敵な障害者雇用”が増えていってほしいです。

【写真】店内では植物だけでなく、お花が埋め込まれたようなデザインのコースターも販売している

福寿さんの考える「素敵な障害者雇用」とはどんなものか、こう続けてくれました。

福寿さん:それぞれの人が生き生きと働いている、この仕事が好きなんだといって働いている状態が「素敵」なのかなと思います。私たちはお花屋さんですが、それぞれの形があって良いですよね。

働き方の多様化が進む社会で、障害者の働き方も選択肢が増えて欲しい。好きなものを仕事にできる環境が整っていったらいいなと思っています。

【写真】働くスタッフ8人が並んでこちらを見て微笑んでいる

私自身かつては、仕事においてやりたいことができなかったり、自分を活かせない環境に苦しんだこともありました。もしかしたら「仕事が楽しい、やりがいを感じる」というのは、シンプルなようでもしかすると難しいことなのかもしれません。

スタッフのみなさんのお話を伺って、今仕事に対してやりがいを感じていると迷わず言える人は、障害者雇用に関わらずどれだけいるのだろうと、私の中に問いが浮かびました。

ローランズの存在は障害を抱えている方はもちろん、仕事を通して社会と接している全ての人にとって、大きな希望となる気がしてなりません。

「このお花、きれいですね」そう笑い合うだけでも、人と人の心は通じる

【写真】soar取材メンバーが楽しそうに花を選んでいる

帰り際、私たちも花を選び、スタッフのみなさんに花束をつくってもらいました。

【写真】小さな花束を丁寧にラッピングするすぎさきさん

「どのお花が気になりましたか?」
「私はこのお花が好きだなって。」
「これは今の季節しか咲かない花なんですよ。」

「このお花、きれいですよね」と笑い合えるだけで、なんだか目の前のスタッフの方と少し心が通じたような気持ちになります。

【写真】美しく目を引く小さな花束

【写真】カゴに入っているアレンジされた花たち。見ているだけでも気分が明るくなりそう

「お花という、無機質でない自然体の美しさに惹かれて、この仕事を選んだんです。」

そう福寿さんも話す通り、働くスタッフもまた花と共に働くことで癒しを得て、自分をも輝かせているように見えました。

美しい花に囲まれた空間には、スタッフもお客さんも、訪れる人全てが思わず笑顔になってしまうような不思議な力があるのかもしれません。まだまだ始まったばかりのローランズ原宿店ですが、今後たくさんの人々に幸せを届けていく姿を見るのが楽しみです。

関連情報:
ローランズ原宿店 ホームページ

(写真/田島 寛久)