【写真】笑顔で座っているさくらもとまりさんととくだゆうとさん

心がつらくて、どうしようもなくなったとき、その状態から抜け出す方法を知っていますか?

以前、私は家族の問題で心身ともにくたびれてしまったときがあります。身近な人にさえ、いえ、身近な人だからこそ、うまく相談することができませんでした。なんとか打ち明けても気持ちを受け止めてもらえたように思えなくて、さらに落ち込んだり……。

振り返ってみて、あのとき心の重荷を減らすためにどんな手段があったのだろう、と考えてしまいます。

選択肢のひとつに「カウンセリング」もありましたが、当時の私にとってはすごく遠い存在。だから、自宅からオンラインで気軽に受けられるカウンセリングがあることを知ったとき、「それなら受けられたかも……」と思いました。そこで、オンラインカウンセリングサービス「cotree」(コトリー)の代表・櫻本真理さんと、臨床心理士の徳田勇人さんに、お話をうかがってきました。

自分の経験から生まれた、カウンセリングサービス

【写真】微笑んでインタビューに答えるさくらもとまりさん

cotreeの創業者である櫻本さんのことは、以前にsoarの記事で読んだ方もいるかもしれません。大学卒業後に金融の世界に飛び込んだ櫻本さんは、証券アナリストとして日々忙しく活躍していました。しかし、次第に違和感を覚えるようになっていったと言います。

櫻本さん:なんでも数字で考えることに慣れていくうちに、自分のなかの感性が失われていくような感じがあったのです。「合理的か合理的でないか」が、自分の生活さえ支配するようになりました。無駄な時間をなくして生産的でなくてはならない。自分の気持ちよりも会社に求められる自分でなくてはならないと思うようになって……。

次第に睡眠障害などの不調に悩まされるようになり、受診したメンタルクリニックで軽度のうつ病と診断されます。3種類もの薬が処方されたことに疑問をもったものの、そのときにカウンセリングは受けませんでした。

櫻本さん:大学で心理学を学んでいたので、カウンセリングのことは知っていたんですよ。でも、そのときは受けられなかった。ただでさえ心身がつらいのに、値段のこととか、自分に合ったカウンセラーがいるだろうかとか、いろいろ考えるうちに「もう、いいや」って。受けるまでにいくつものハードルを感じたんです。

当時の不調は「こうあらねばならない」という思い込みや自分の感情に鈍感になっていたことなどが、睡眠障害というかたちとなって表れたもの。あのときに必要だったのは、薬ではなく、そうした「無理」に気づき、自分に立ち返ることだったと櫻本さんは話します。

カウンセリングはそのための方法のひとつ。しかし、多くの人にとってカウンセリングが気軽に利用できるものではないことも、身をもって感じていました。

あのとき、どんなサービスだったらカウンセリングを使っていたのか――櫻本さんがそんな自分の経験を生かして2014年に設立したのがcotreeでした。

cotreeが提供しているのは、ビデオや音声、テキストメッセージを使ってオンラインで受けられるカウンセリングサービスです。

パソコンかスマホがあれば自宅や好きな場所から受けられるため、近くにカウンセリングルームがないという人でも利用できます。オンラインにしたことで、通っていることを周りに知られたくない、初対面の人と顔を合わせて話すのが不安、といった心理的なハードルを下げてくれるのです。

また、仕事で帰りが遅い人なども利用できるように夜間も対応。一般的な対面カウンセリングに比べると、料金も低く設定されています。cotreeには、櫻本さんが感じたカウンセリングを受けるまでのさまざまなハードルを下げる工夫がされています。

じっくり書くことで、自分と向き合うプログラムも

実際に、cotreeを利用するときには、2つの相談方法から選ぶことができます。ひとつは、ビデオや音声を通じて行うカウンセリングで、対面で行う一般のカウンセリングに近いもの。料金は1回45分4,000円~です。

サイトから希望するカウンセラーのスケジュールを確認して、空いていれば当日でも夜間でも利用可能。次の予約まで何日も待つ必要がなく、「いま話を聞いてほしい」というときに利用できることは、安心感にもつながります。

もうひとつは、「パートナー・プログラム」と呼ばれる、テキストメッセージでのやりとりです。「セッションノート」と呼ばれるLINEのような画面を使って、カウンセラーと文字でのセッションを行うものです。

決められた期間内であれば、利用者からは何度でもメッセ―ジを送ることができ、カウンセラーからは24時間以内に1回のペースで返信が届きます。料金は期間によって異なり、1週間で3,000円、1か月間で10,000円など、希望に合わせて選べます。スマホからいつでもどこでもメッセージを送ることができるので、こちらのほうがより気軽に受けられるかもしれません。

【写真】質問に丁寧に応えてくれるさくらもとまりさん

櫻本さん:パートナー・プログラムは、よりハードルが低いというだけではなくて、自分のペースでやりとりができ、時間をとって書くことによって自分の気持ちと向き合えるのが特徴です。時間が経ってからメッセージを見返すことで「あのときの自分は、こう感じていたんだな」と自分の変化を確認するときにも役に立つのです。

パートナー・プログラムを通じてカウンセラーと信頼関係を築いてからビデオカウンセリングに変えたり、両方を使い分けて利用している人もいるそうです。私の場合、最初からビデオだとちょっと緊張しそうですが、パートナー・プログラムなら抵抗なく始められそうな気がしてきました。

でも、その前に、まだ聞いてみたい質問があります。それは「どれくらい心がつらかったら、カウンセリングを受けるものなのか」ということ。「世の中にはもっと大変な人がいるのに、これくらいの悩みで受けてもいいのかな?」という不安が、カウンセリングにためらいを感じる理由のひとつだったからです。

そこで、cotreeで実際にカウンセリングを担当している臨床心理士の徳田勇人さんにも、お話に加わってもらいました。

「心のフィットネスジム」として使ってほしい

【写真】笑顔でインタビューに答えるとくだゆうとさん

「カウンセラー」というと、「白衣を着た偉い先生」みたいな人を勝手に想像していたのですが、おだやかで話しやすい雰囲気の徳田さんは、むしろ「近所のやさしいお兄さん」といった印象です。

徳田さん:カウンセリングを受ける基準は人それぞれ違いますが、生きづらさとか、わかってほしいとか、変わりたいなって気持ちがあるのなら、早めに受けてみてほしいと思います。

日本には「我慢する美学」みたいなものがありますけど、我慢することで状態をひどくしてしまうこともある。カウンセリングの本質は、対話的に自分への対処能力を育てていくプロセスです。カウンセラーと対話しながら、自分の思いや考え方のクセに気づいて、それを変えていくことで問題の解決や軽減を目指すものなのです。

以前は医療機関で働いていたという徳田さん。なんと、soarに掲載された櫻本さんのインタビューを読んで、cotreeに参加したいと決めたそうです。

徳田さん:精神科を受診するのって、やっぱりハードルが高いじゃないですか。病院では出会えない人も多いだろうなとずっと感じていました。カウンセリングを必要としている人にもっと違う形でかかわれないかと考えていたときに、soarの記事に出会ったのです。cotreeでは、本当にいろいろな人がカウンセリングを利用してくれています。

【写真】真剣な表情でインタビューに答えるさくらもとまりさんととくだゆうとさん

櫻本さん:うちのサービスを使ってくださる方の8割は、病気とは診断されていない状態の方なんです。生きていれば不安や苦しみは生じるもの。少しでも不安を感じたときに、それに向き合って消化する方法としてカウンセリングを使ってもらっています。セルフメンテナンスみたいな感じですよね。だから、私たちはcotreeを「心のフィットネスジム」と呼んでいるんです。

ジムやマッサージに通うみたいな感覚で受ければいい――そう思うと、なんだかカウンセリングが急に身近なものになってきました。

利用者の抱える悩みに合わせたマッチング

現在、cotreeにはカウンセラーが約80名所属しています。年代は20~60代と幅広く、臨床心理士だけでなく、キャリアコンサルタントや産業カウンセラー、さらにはマインドフルネスの専門家まで、さまざま資格を持つ人が揃っています。それは、利用者の性格や抱える悩みによって、その人に合うカウンセラーが違うため。

櫻本さん:経歴や資格ももちろん大事ですが、いちばん重視しているのは人柄です。利用者さんと誠実なかかわりができるかどうか。オンラインの場合は、非言語の微妙なニュアンスが伝わりにくいので、相手が置かれている状況や気持ちに思いをはせる想像力がより必要になってくるからです。

cotreeのサイトでは、カウンセラーとのオンライン・マッチング診断も無料で受けられます。いまの状態や相談したいテーマなど、全部で22問の回答を選んでクリックしていくと、最後にマッチングされた数名のカウンセラーが提案されます。顔写真、経歴、得意な分野などを確認して、どの人にしたいかを選ぶことができるのです。

もし、マッチングされたカウンセラーにピンとこなかった場合には、事務局と相談して希望に合った人を再度提案してもらうこともできますし、途中でカウンセラーを変えることも可能です。

【写真】笑顔でインタビューに答えるさくらもとまりさん

櫻本さん:育児中の方や海外に引っ越した方、歩くことが難しくて外に出られない方など、高い技術はあるのに活躍の機会が少ないというカウンセラーにとっても、自宅でできるオンラインサービスは貴重な場になっています。それに、海外在住カウンセラーの時差を利用することで、24時間体制でのカウンセリングも可能になっているんです。

cotreeに寄せられる悩みのなかで、いちばん多いのはやはり人間関係だそうです。ただ、それ以外にも、仕事や家族、子育てのことからダイエットまで、幅広いテーマの相談が寄せられています。

櫻本さん:カウンセリングを利用してほしいのは、「ひとりではどうにもならないとき」なんです。不安や問題を抱えて考え込むと、同じループのなかで出口が見つからなくなってしまいますよね。カウンセラーからの問いかけを受けることで、ちょっとループから出られる瞬間が生まれる。

そこから、新しい見方ができるようになったり、行動を変えようというモチベーションがわいてきたりする。カウンセリングは、そうしたループから一歩抜け出るための手段なので、どんなテーマでも大丈夫なんですよ。

【写真】微笑んでインタビューに答えるとくだゆうとさん

徳田さん:たとえば「どうしてもダイエットが続けられない」という悩みは、自分の弱い部分を変えたいということでもありますよね。それは、人間関係や仕事の悩みとベースは同じなのです。

カウンセラーは「受け止めて」、「問いかける」

徳田さんがカウンセラーとして大事にしていることは、利用者の気持ちを、まず「受け止め」、そして「問いかける」ことだと言います。必要に応じて専門的なアドバイスもしますが、カウンセラーが一方的に何かをするのではなく、利用者といっしょに問題に向き合って、本人が変化のきっかけをつかむサポートをしていくのです。

【写真】真剣な表情でインタビューに答えるとくだゆうとさん

徳田さん:カウンセラーには、「学校の先生」や「お医者さん」みたいな側面もなくはないんですけど、むしろ「バディ(相棒)」を組むみたいなイメージ。悩みとか解決したいものがあって、それに対して二人で組んで方法を考えていきましょう、と。ああでもない、こうでもないと、一緒に話していく感じがいちばん近いかなって思います。

家族や友達に相談する場合、「心配をかけたくない」「弱いところを見せたくない」という感情が邪魔をしてしまうこともあります。また、「こうするべきだよ」「それじゃダメだよ」と一方的に言われると、かえって混乱してしまうことも……。その点、カウンセラーは第三者であり、つねに思いをしっかりと受け止めてくれる心強い存在です。

では、たとえば「仕事や育児のことで悩んでいる」とはっきり言葉にはできないような、モヤモヤとした不安や漠然とした焦りを抱えている場合でも、カウンセリングは有効なのでしょうか。

【写真】質問に丁寧に答えるさくらもとまりさん

櫻本さん:むしろ、そういう漠然とした不安や悩みを解きほぐすことこそが、カウンセリングだからできることだと思います。明確に悩みがわかっていたら、解決方法は見つけやすいですよね。漠然としているから出口が見つからない。「本当の問題は何か」を考えていくプロセスは、おそらくカウンセリングでしか行われないことです。一つひとつ言語化して認識していくプロセスがカウンセリングなんです。

利用者のなかには、「あれもこれも不安で、よくわからなくなってしまった」という人も少なくないそうです。モヤモヤした思いを誰かに話すことで、問題が整理されていくこともあります。徳田さんは、「一人で考えすぎて、からまってしまった紐」を少しずつほぐしながら「コアの部分は、どこだろうね?」と一緒に考えていくのがカウンセラーの役割なのだと教えてくれました。

環境を変えられなくても、気持ちは変わる

カウンセラーとのやりとり以外にも、「ダイアリー」や「教材・ワーク」などのツールを使いながら思考や行動を変えていくサポートをしています。たとえば、「ダイアリー」は、日々の気分や日常の変化を記録していくもので、カウンセラーとも共有します。自分のパターンを書いて読み返すことで客観的に理解し、変化のきっかけにより気づきやすくなるのです。

【写真】イヤホンを耳につけ、オンラインカウンセリグを行なっているとくだゆうとさん。

また、心の仕組みを理解するための教材なども用意されていて、「睡眠とは」「気分や行動、身体症状はどうつながっているのか」といった学びを重視したものから、「どんな感情の動きがありましたか?」といった自分で書き込んでいくワーク形式のものまで、約300種類もあるそうです。そのなかからカウンセラーがその人の状態に合ったものを選んでオンラインで配信します。

「ああ、私はこんな風に考えていたんだな」「このつらさの原因は、これだったのかもしれない」。そうやって自分自身と向き合っていくうちに、起きている出来事は同じでも、視点や感情が変わっていくのです。

徳田さん:仕事や家庭に悩みがあっても、環境をすぐに変えるのは大変ですよね。だから、まずは起きていることを客観的に整理してみませんか、と話していきます。そうするうちに、「前は許せなかったことが、気にならなくなりました」と言われることもあるんです。

カウンセリングのゴールはそれぞれなので、「これからは自分でやってみますね」と短期間でいったん終える人もいれば、「最初の問題は解決したから、次はこれを目指したい」とゴールやテーマを変えながら、長く継続される人もいます。

【写真】真剣な表情でインタビューに答えるさくらもとまりさん

櫻本さん:人がいちばん不安なのって「わからないこと」だと思うのです。自分のことがわからない、いま何が起こっているのかわからない、どうすればいいのかわからない……そういう漠然とした「わからなさ」が、カウンセリングを通じて言語化することで減っていくのです。

これまでにcotreeを利用した人から多くの感想が寄せられていますが、そのなかでも櫻本さんは、パートナー・プログラムを1年間利用した人からの言葉が強く印象に残っていると言います。それは、「疑似親として依存し反発し、受け入れていただくことで、自分でもわからないうちに大きく成長できていた気がします。実家に帰るような気分で、また活用させていただく日まで独り立ちした学生のようにがんばって乗り越えていこうと思います」というメッセージでした。

【写真】微笑んでインタビューに答えるさくらもとまりさん

櫻本さん:これを読んだときに、すごくうれしくて。うつになってしまう人って、まわりの人に頼ることができない、迷惑をかけたくないという、すごくまじめな人が多いんです。だから、迷惑をかけることを心配せずに依存できる場所をcotreeでは提供したいと思ってきました。

「しっかり甘えることできた」というのはすごく大切なこと。この利用者さんは、きっと実際の生活でも誰かに頼ることができるようになっていると思うんです。本当にcotreeを始めてよかったなと思えた言葉でした。

依存できる場所を増やすことが大事

【写真】笑顔で会話しているとくだゆうとさんとさくらもとまりさん

「人に頼ってはいけない」「自分で頑張りなさい」という言葉は、社会のあちこちに溢れています。でも、櫻本さんも徳田さんも「頼るのは大事なこと。人に頼ることで成長するんです」と強調していました。

徳田さん:誰の力も借りないで100%自立している人間なんていません。他者との関係のなかで気づくこと、物事が好転していくことは多いんです。カウンセリングでは、適切な依存先を一緒に探すこともします。依存先は趣味でもいいんですよ。そこから段々と、家族や職場の人とのかかわり方を変えてみる。そうやって依存先を増やしていくことも、カウンセリングで行うことのひとつです。

【写真】質問に丁寧に答えるさくらもとまりさん

実は、cotreeでは「頼る/頼られる関係」を広げていくための新しい事業「takk!」も始めたところです。

櫻本さん:カウンセラーだけでなく、普通の人同士が頼り合えるような仕組みもつくっていきたいんです。たとえば自分と同じような苦しみとか、同じ病気を乗り越えた人のアドバイスってすごく貴重だし、役に立ちますよね。「takk!」では、「私はこんなことができます」ということを登録して、それを見た人が気軽に相談を持ちかけられる仕組みです。

誰かに頼られることは、その人の力になる。そして頼った人が、次は頼られる番になるかもしれない。そうやって社会の中で、対話的なかかわりを増やしていけたらいいなと思っているんです。

今回、お二人の話を聞いて、私のなかでカウンセリングのイメージが大きく変わりました。いちばん印象的だったのは、カウンセリングが「自分を主体として育てていくプロセスである」ということ。

櫻本さん:自分で自分の人生をつくっていくためのプロセスのひとつがカウンセリング。自分の意思をもって人とかかわっていく方法を知ることでもあります。

社会的にも主体性が求められる場面がどんどん増えてきているのに、日常生活のなかで「自分と向き合う機会」はほとんどないですよね。こうした主体を育てていくプロセスって、いますごく必要とされているんじゃないかなと感じています。

カウンセリングで「自分を育てる」

【写真】木製のロッカーの上には植物が置かれており、暖かい空気を作り出している

「どうしていつも、ここでつまづくのだろう」、「もっと違う考え方ができないかな」と、頭ではわかっていても、自分一人で思考や行動を変えていくのは大変です。そんなときに、話を聞いてくれて、いっしょに考えてくれる存在は心強いもの。自分の考えや行動のパターンを知ること、そして人に頼ることができるようになることは、日常生活のさまざまな場面でも自分を支える力になりそうです。

そして、「心がつらくなったら、カウンセラーさんに相談してみようかな」と、いつでも頼れる場所があると知ることだけでも、気持ちが少し楽になります。それもきっと依存先を増やすことのひとつ。

お二人のあたたかい笑顔を見ていると「誰かに頼ってみてもいいんだ」と思えてきます。人に頼ることはネガティブではなく、ポジティブなこと――それに気づくことが、心のつらさから脱け出るための最初の一歩かもしれません。

【写真】笑顔のとくだゆうとさんとさくらもとまりさん

関連情報:

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(写真/田島寛久)