【写真】笑顔で並ぶ登壇者4人

身近な人がこれまでまわりに隠してきた大切なことを、私に打ち明けてくれたことが、これまでに何度かありました。それは私が、“カミングアウト”の場面に立ち会った瞬間だったと思います。

あのとき、私は両極端な2つの気持ちのあいだで揺れ動いていました。ひとつは、「信頼してもらえているんだな」というポジティブな気持ち。そして、もうひとつが、「ここで何かを間違えたら、これまでの関係を壊してしまうのではないか」という自分の言動に対してのネガティブな気持ちです。

そんな2つの感情をいったりきたりしながら、いろいろなことを考えて、言葉を絞り出したり、相手を抱きしめたりしたこともあります。

でも、あのときの私の言動は正解だったのだろうか…。時間が経ってからそんなふうに思い返して悩んでしまうことも。

もしかしたら、私に大切なことを話してくれた人も、「話して良かったのかな」と後悔の気持ちを持っているかもしれません。

今回のイベント「カミングアウトはする“べき”なの?自分の物語を生きるための選択を考える」は、あのときの自分はどうしたらよかったのかという問いに、ヒントをくれるようなテーマ。

きっと、心に秘めた人に言えない事実や感情がある人も多いのではないでしょうか。そしてそれを誰かに伝えたいと思う瞬間が、またはあなたに伝えたいと思う誰かがこの先あらわれるかもしれません。

どうしたら、カミングアウトのその先も、その人とより良い関係を築いていけるのでしょうか。

自身のセクシュアリティや病気のカミングアウトを経験してきたゲストのお二人と一緒に、“カミングアウト”をめぐるそれぞれの物語や考え方についてお話しました。

トークのテーマは、“カミングアウト”

【写真】登壇者4人が笑顔で話をしている

今回のイベントは当初イベントスペースでの開催が予定されていましたが、新型コロナウイルス感染予防のため、急遽、誰でも参加することができるオンラインでの開催となりました。soarのイベントをオンラインで行うのは初めてのこと。

そんなこともあり、少し緊張の面持ちで登場したのがモデレーターを務める鈴木悠平、ゲストの外山雄太さん、奥井裕斗さんです。トークはそれぞれの自己紹介から始まりました。

今回モデレーターを務めた鈴木はsoarの理事で、自身も取材や執筆を行う文筆家でもあります。

【写真】配信のカメラに向かって話をする鈴木

鈴木:人が生きていくうえで“自分の物語”を紡いでいくことは、とても大切だと思っています。いろいろな人たちが困難や生きづらさを抱えているけれど、「わたしはこんなふうに生きている」という物語には、その人の人生を肯定し、支える力があると思うんです。

ゲストトークに先立って鈴木が語ったのは、“カミングアウト”という言葉が持つふたつの意味。ひとつは、もともとこの言葉が持つ「自分の性的指向や性自認に関することを誰かに伝えること」。ふたつめが「自分にとって大切な言いにくいことを誰かに伝えること」です。

最近では、セクシュアリティの話題に限らず拡張した後者の意味合いでこの言葉を使う人も増えてきました。

これからカミングアウトについての話をするにあたり、自身のセクシュアリティを「生まれたときの身体的性別と性自認が一致している、異性愛の男性」と紹介した鈴木。

鈴木:性的指向や性自認に関するカミングアウトは、した人、された人、それぞれの物語にかかわる出来事です。必ずしもスムーズにいく場合ばかりではありませんし、人によって、受け止め方や、受け容れるまでにかかる時間もさまざまです。僕自身は、もともとの意味におけるカミングアウトを、お二人のように経験したことはありません。

一方で、今日このイベントを見てくださっていて、カミングアウトについて考えたい方は、必ずしもセクシャルマイノリティの方だけではないと思います。自身の障害や病気をまわりに伝えたいけど、伝えられない人など、さまざまな方がいるのではないでしょうか。ゲストのお二人のカミングアウト経験を聞きながらも、広い意味での“カミングアウト”も含めて、みなさんと一緒に考えていければと思っています。

マイノリティゆえに経験した辛いことを忘れたくない

【写真】真剣な表情になる外山さん

1人めのゲストは外山雄太さん。ご自身がゲイであり、LGBTやダイバーシティに関わる講演や研修を提供する株式会社Letibeeの代表取締役を務める外山さんは、アートディレクターやグラフィックデザイナー、イラストレーターとしても活躍しています。

外山さんは、北海道の小さな町、増毛で生まれました。「男の子だからこうしなさい」「女の子はこうしなさい」…というような、保守的な価値観の環境で育ったといいます。高校生になった外山さんは、同じ部活の男性の先輩と恋愛関係になりました。しかし、彼は将来、女性と結婚して子どもが欲しいのだと外山さんに打ち明けたといいます。

外山さん:結果的に彼は離れていって、大失恋をしました。お付き合いをしていたときも外を歩くとき夜は手を繋ぐけれど、昼間は繋いでくれなかったんです。お互いを好きなのに一緒に居続けられないのはなぜかなと考えて、悲しくて悔しくて。とうとう抱えきれなくて当時の仲間に自分のことや先輩との恋愛について相談しました。思い返すとそれが僕にとって一番最初のカミングアウトです。

そのときカミングアウトした相手のなかには、先輩のことを知っている仲間もいました。無意識ではあるけれど、先輩のセクシャリティについてもアウティングしてしまったことになります。外山さんはそれを今も反省していると話しました。

その後、大学在学中には両親にも自分がゲイであることをカミングアウト。現在はまわりから認められて、LGBTだからと特別視されることのない環境にいるからこそ、社会での差別に対して鈍感になってしまっているところもあるという外山さん。でも、自分がマイノリティゆえに体験した悲しいこと、辛いことは忘れたくないといいます。

外山さん:僕が今、こうして日々ゲイであることを悩まずに生活できているのは、結果論でしかないと思っています。個人のストーリーとしてはそれでいいのかもしれないけれど、セクシュアルマイノリティであることでしんどさを抱えてしまう人が生まれる構造は無くなっていないと思います。

僕は自分自身の子どもを育てる機会は今後ないと思うのですが、どうしたら次の世代により良い形で今の社会を手渡せるだろうか、ということは考え続けたいと思っています。

今回のイベント登壇にあたり、初めて会社にカミングアウト

【写真】ご自身のことを語る奥井さん

2人めのゲストは、奥井裕斗さんです。会社員として働く奥井さんは自身がゲイであることを周囲にあまり伝えることなく生活してきたといいます。ゲイであること以外は平凡だと思っていた奥井さんの人生ががらりと変わったのは、4年前のことでした。

奥井さん:HIV感染症だと診断されたんです。ものすごくショックで、もう平凡な人生は送れないと思いました。まわりから“石を投げられて”過ごすのが残りの人生だと考えていたのですが、あるとき「いや、これは自分の中で自分に石を投げているんだ」と気付いて、もういちどショックを受けました。そんな自分を変えていくための手立てが、僕にとってはカミングアウトでした。

HIV感染症は、HIVというウイルスが体の中に入って体の免疫機能を低下させてしまう病気です。感染経路は、性行為・血液感染・母子感染。かつては治療法のない病気でしたが、現在は一日一錠の薬を飲むだけで血液から検出されないレベルまでウイルスを減らす治療があり、健康を維持できるようになっています。

治療法が劇的に進歩しているのにもかかわらず、世の中にはHIVを持つ人への理解が進まない現状があります。だからこそHIV陽性者のなかには家族や職場、かかりつけ医やパートナーにすら自分がHIVを持っていることを伝えられない人が多くいるのだそう。

奥井さん:そんな中で僕は、ゆっくりと少しずつ、でもいろいろな人にゲイのこと、病気のことを伝えてきました。親にも伝えたし、以前の恋人や趣味サークルの仲間にも伝えました。でも、会社ではゲイであることはオープンにしたけれど、HIV感染症のことは伝えられていなかったんです。

今回soarのこのイベントに登壇するにあたり、初めて会社にHIV感染症のことをオープンにしました。上司の人たちからは「病気について教えてほしい」「イベント頑張って」と言っていただき、受け止めてもらえたと感じています。

相手は受け入れてくれるだろうか。そんな心配をしながら自分にとって大切なことを伝えてきた

【写真】奥井さんの話を聞いている様子

3人の自己紹介が終わったあと、トークセッションがスタートしました。

鈴木:ここまで自己紹介としてお二人に話をしていただきましたが、“カミングアウト”といっても、育ってきた環境やシチュエーションによってこれだけ違うんだということが分かりました。きっと今日この配信を見てくださっている人の数だけ、さまざまな形の“カミングアウト”があるのだろうなと思います。

カミングアウトを始めた頃の話をしてくれたのが奥井さんです。奥井さんがセクシュアリティや病気のことをまわりに伝え始めた頃は、「この人なら言っても大丈夫かな」と見極めながら、信用できそうかどうかで相手を選んでいたといいます。

奥井さん:でも今は、その人に伝えたい別の思いが先にあることが多いです。「ごめんなさい」とか「ありがとう」とか。それを伝えるためにはゲイのこと、病気のことを言わないといけない。だから伝える。以前のように信用できる人を探すのではなく、伝えたいことがあるがための“カミングアウト”に変わってきています。

最近の奥井さんは、カミングアウトをするとき「人に伝えるのか」「場に伝えるのか」を分けて考えているそう。思いを伝えたいときは1:1がいいけれど、受け取る側が一人で抱えきれないこともある。でも場に対して、つまり複数の人に対して同時に伝えれば、場の中で支え合い、抱える役割を分散することができる。奥井さんはそれを意識しているのです。

一方、現在LGBTに関わる仕事をしている外山さんは、ゲイであることを初対面の人に自己紹介で告げることもあるといいます。今は、「どんな仕事をしているんですか?」という質問に「僕自身がゲイなので」と会社の説明をしている外山さんですが、以前はそうではありませんでした。

外山さん:今でこそさらっと伝えることができますが、やはり最初の頃は「この人だったら言えるかな」「あの人なら受け止めてくれるかな」と言動などから判断し、様子を伺いながらしていました。

特に先輩との恋愛について相談した、一番最初のカミングアウトのときは本当にしんどい時期で、これ以上傷つきたくない気持ちが大きかったです。あの時期に、僕のカミングアウトが一度でも誰かに拒絶されていたら、今の自分はここにいないんじゃないかとすら思います。

カミングアウトを始めた頃について話してくれたお二人。共通するのは、当初は相手が信頼できるか、受け入れてくれるかを心配していたけれど、カミングアウトをする理由ややり方が少しずつ変化してきたそうです。

自分を受け入れてくれる人がいるから、強くいられる

【写真】真剣な表情で語り合う登壇者

続いて、カミングアウトをするタイミングについて意見が交わされました。苦しくて、自分では抱えられなくなってするカミングアウトもあるでしょう。でもそんな苦しい期間を越えると、じっくりとベストなタイミングを選んだり、待ったりすることができるようになる。また、ひょんなときにそのタイミングがやってくることもあると話したのは、奥井さんです。

奥井さん:HIV感染症と診断されて間もない時期に、検査入院のために会社を休んだことがありました。僕は、休む理由をどう伝えればいいかとても迷ったのですが、上司は入院すると伝えたら病名も聞かずに送り出してくれたんですね。

そのことに僕はずっと感謝していて、いつかお礼が言いたかったのですが、タイミングを見つけられずにいました。でも、今日のイベントがきっかけで、やっと伝えることができたんです。

ずっと言えなかったことや思いを上司に打ち明ける。そのタイミングはこれまで、互いの信頼関係を築いてきたからこそやってきたものなのではないでしょうか。

苦しくてたまらない時期を越えてからのカミングアウトについて、自分でタイミングを選べるようになることに同意した外山さん。でも、それは自分にとっての“セーフプレイス(安全地帯)”があるからだと言います。

外山さん:すでに僕の存在を肯定して受け入れてくれている人たちがいるということが、僕の自信に繋がっています。それが僕にとっての、安心できるセーフプレイスなんです。仮に新しく出会ってカミングアウトした相手がゲイである僕の側面を受け入れてくれなかったとしても、僕には帰る場所がある。それが、苦しくて抱え切れなくなって衝動的にカミングアウトをしていた時との大きな差だと思います。

それに大きく頷いたのが奥井さん。セーフプレイスが広がってきたからこそ、伝えるときに相手のことを配慮する余裕も生まれたといいます。

お2人の話を受け、鈴木はこう語りました。

鈴木:しんどくて、その状況から脱するために誰かに自分の状況を伝えたいという時期を過ぎると、カミングアウトの意味がその人の文脈のなかで変わってきたり、カミングアウトの方法が変わってくるのかもしれませんね。

抱えきれなくなったがゆえのカミングアウト、準備をしたりタイミングを計ったりししてからのカミングアウト。どちらの経験もあるお二人のお話から、さまざまな状況が見えてきました。

カミングアウトする側もされる側も時間をかけて咀嚼することで、新しい関係に

【写真】笑い合う外山さんと奥井さん

お2人にとってカミングアウトにおける大きな体験のひとつが、家族へのカミングアウトです。外山さんと奥井さんは、お二人とも家族へのカミングアウトを経て、現在に至ります。お二人は、家族へカミングアウトしたときのことを話しました。

外山さんが家族にゲイであることをカミングアウトしたのは、関東の大学に通っていたとき。当時まわりの仲間たちにはフルカミングアウトをし、自分を偽ることなく暮らしていましたが、両親には話すことができないでいました。

そんなとき、大学4年生で創業した株式会社Letibeeが外山さんの出身である北海道の新聞に取り上げられることになったのです。「新聞を経て両親に知られるのは嫌だ。伝えるなら自分の口で」外山さんは実家に帰り、直接両親に伝えることを決意しました。

厳格な両親は息子がゲイであることを受け入れてくれるのだろうか。恐怖でいっぱいだった外山さんはTwitterで「今から親にカミングアウトします!」と宣言。そこにはたくさんの応援メッセージが届きました。

勘当されるかもしれない。そこまで覚悟して、外山さんは目の前の両親に自分がゲイであることを両親に伝えたのです。

外山さん:いざ伝え終わるとなんだか安心しちゃって。Twitterにいただいた応援メッセージも「支えてくれる人たちに囲まれて幸せに暮らしてるよ」と伝えたくて親に見せました。なんだか胸がいっぱいで涙が止まりませんでしたね。

外山さんのお父さんは、そのときこんな言葉をかけてくれたといいます。

“びっくりしたし、ショックな気持ちもある。今はまだ受け入れられてないし、今後も受け入れられるかどうか、正直わからない。でも、お前がお父さんとお母さんの子どもであることは変わりないし、勘当なんてするはずない。自分で決めた人生を自信と責任を持って生きなさい”

受け入れられるようになるまで少し時間がほしい、と話したお父さん。外山さんはその言葉に、嘘がなく正直に向き合ってくれたと感じたそうです。

外山さん:それから数年後、父と話をしていたときに、なんの脈略もなく「もう大丈夫だ」って言われたんです。なにがどう大丈夫なのか詳しくは聞いていません。でもカミングアウトしたときに「受け入れるまで少し時間がほしい」と言っていた、その答えなんだろうなと感じました。父自身が数年のあいだに咀嚼して、本当の意味で受け入れてくれたんだと思ったんです。

奥井さんが自身がゲイであると両親に伝えたのは、“衝動的に”だったといいます。泣きながら口をついて出たのは「ごめんなさい」という言葉。長男として家が継げないことに自分が強い罪悪感を持っていたと、そのとき気づいたそうです。

カミングアウトを受けて、理解を示してくれた両親。でもお父さんには、「会社では言うな」と言われたといいます。奥井さんのためを思って言ったであろう言葉は、次のカミングアウトを考えるときのブレーキでありつづけたそうです。

奥井さん:それから十数年後のHIVのカミングアウトのときは、何週間もかけて準備しました。伝えたかったのは「大ごとではないから心配しないでほしい」ということ。このときもう父はいませんでした。話を受け止め切れない母が泣き出したり、パニックになってもずっとそばにいようと決めていました。

ところが、いざHIV感染症であることを伝えると、お母さんは泣くでもなく、パニックになるでもなく「あぁ、前に言っていたことね」とさらりと受け流したのです。

奥井さん自身忘れていたことですが、ゲイであることをカミングアウトしたときに、「HIVの検査も受けているから」と両親に説明していたのだそう。それを聞いたお母さんは、それからずっと、HIV感染症について気にしつつ「でも検査をしていると言っていたから、病気になったとしてもちゃんと見つけてもらえる。死ぬような病気ではなくなっている」という事実を、10年かけて受け入れてくれていました。

両親へのカミングアウトを振り返り、奥井さんは、子が親にカミングアウトするということは、互いに独立した1人の大人同士になる「親離れ・子離れ」を促すような一面があるのではないかと話します。

奥井さんにとって、忘れることのできないカミングアウトがもうひとつ。それは、HIVに感染したことを以前お付き合いしていた人に告げたときのことです。

奥井さん:感染させてしまっている可能性があったので、一刻もはやく彼に検査を受けてもらわなければいけませんでした。それなのに自分の迷いのせいで半年も伝えられなかったことに、僕はずっと自責の念を感じていたんです。彼は検査を受け、結果は陰性だったのですが、彼とはその後なんとなく疎遠になってしまいました。

自分はゲイなんだ。HIV感染症なんだ。…と事実をカミングアウトする場合でも、言葉の選び方、声や口調などから、事実以外の多くのことが相手に伝わります。

奥井さん:自分の気持ちの整理も出来ていない状況でカミングアウトしたことで、おそらく彼には僕がすごく苦しんでいることが伝わってしまったのだろうなと思うんです。あのカミングアウトはそのときしなければいけないものだったのですが、あの形でよかったんだろうかと今も思うことがあります。

自分で自分を受け入れられていない状況でカミングアウトが必要な場合は、専門家や相談窓口を頼るのもひとつの方法だと奥井さんは話します。そうやって自分の中で気持ちを咀嚼しながら、大切な人や必要ある人にカミングアウトをするタイミングをはかるのも選択肢のひとつなのかもしれません。

する”べき”でも、しない”べき”でもない。答えはそれぞれの心のなかに

【写真】過去を思い返しながら話をする外山さん

ここからは今回のイベントのテーマである、「カミングアウトはする“べき”なの?」という問いに対して、意見が交わされました。

鈴木:チャットには今このイベントのオンライン配信を見てくださっている方からさまざまなコメントが届いています。「自分の病気のことを家族に打ち明けられず悩んでいる」「自分もカミングアウトしたけれど、その後その人からの連絡が途絶えてしまった」とか、「お二人の言葉に救われた」などです。これらを踏まえてお二人にあえて聞きたいと思います。カミングアウトはする“べき”なのでしょうか?

その質問にお2人はそれぞれ「すごく難しい質問ですね」と口にしました。最初に発言したのは外山さんです。

外山さん:これがその質問の答えになっているか分かりませんが、する“べき”でもないし、しない“べき”でもないと思っています。それを決めないことが大切なのではないでしょうか。

タイミングは人それぞれにあると思うんです。カミングアウトしようとしている内容を本人がどれくらい受容できているか、それによってカミングアウトは全く別のものになると思います。相手に受け止める土壌があるかないかも、その後の関係を左右します。

僕はしてよかった、と後になってから思いますが、それも結果論でしかありません。それぞれのタイミングで、その人のしたいときにするのがベストだと思います。

奥井さんは、カミングアウトをする・しないがもっと対等で自由な選択になるべきだという思いから、“カミングアウトをする選択”がもっと選びやすい世の中を作っていきたいと答えました。

奥井さん:思うところは本当にいろいろあるのですが、すでにカミングアウトしている立場というのは、「すべきかどうか」を考えるというよりも、世間と向き合って「しやすい環境」を作っていく立場なのかなと思っています。

もし僕がカミングアウトしていない誰かに「すべきでしょうか」と問いを投げかけられたら、カミングアウトがもっと楽にできる世の中を僕は作っていきたいです、としか答えられないかもしれません。

人は、コミュニティや地域性、友好関係などに多くの影響を受けながら、それぞれに違う物語を紡いでいます。だからこそ、カミングアウトも「べき論」で語るものではなく、自分らしく生きていくために必要なタイミングで、必要な相手にするのが良いというのがお二人の共通した部分です。

“保留”にすることで、心に余白が生まれることも

【写真】真剣な表情で話をする奥井さん

お話は、カミングアウトに関わらず、「する」か「しない」かなどと、すべてのことに白黒つけなくても良いのではないかということにも広がりました。

とある海外ドラマを見た外山さんは、登場人物が「あなたの」と言ったあとに「彼氏か彼女が分からないけれど」と付け加えて恋人がいるか聴いたシーンにとても衝撃を受けたのだそう。

それは、“異性愛者なのか、同性愛者なのか、それは置いておいて本質を話しましょう”…という考え方をそのドラマの製作者に感じたからだといいます。

外山さん:僕自身も高校時代には「彼女いるの?」ってよく聞かれることがあったんですが、どう答えたとしてもなんだか嘘をついている気分になるんです。もしあのとき「パートナーは?」などと投げかけてもらっていたら、「いるよ」「いないよ」と素直に答えられた気がします。すべてをひとつひとつ明らかにしなくてもいいっていうスタンスを増やすことは、心地よく生きる人が増えるんじゃないかなと思うんです。

ここまでのトークを聞いた参加者からこんなコメントが寄せられました。

自分の病気のことをまわりに伝えて、ありのままをさらけ出して他者と関われるようになりたい。

これに奥井さんはこう応えました。

奥井さん:全部さらけ出したいという言葉から、言わないでいることがすごく辛いのかなと感じました。そういう方には、楽な気持ちになってほしくて「言わないことは悪くないよ、言わなくてもいいんだよ」と声をかけたくもなるのですが、実は僕自身その言葉に傷ついてきた立場なんです。

伝える・伝えないが対等な選択肢として存在していないなか、言わなくていいという言葉は「本当は言いたい」という思いがある人をかえって苦しめてしまう面があると思います。なので、もし声をかけるなら「いま言わなくてもいいんだよ」と伝えたいですね。思いが募ると「今言わなきゃ」みたいな気持ちになりがちですが、言うことはいつでもできるわけで、必ずしも「今」でなくてもいいんです。

白黒をつけないのは、けっして「する」「しない」という分け方だけではなく、「今」「今ではないいつか」…のように、さまざまな捉え方があるもの。心のなかにいつも「保留」をするスペースをつくっておくことが大切なのかもしれません。

矛盾を矛盾のまま抱えて生きられる社会に

【写真】テーマについて話し合う奥井さんと鈴木

カミングアウトをめぐる様々な思いを語ってきた時間の最後には、それぞれが改めてカミングアウトについて思うことを語りました。

鈴木:私たちは社会のなかで、いろいろなものに影響を受けたり、与えたりしながら生きています。さまざまな形のカミングアウトの物語があるんだなと今日お二人とお話しながら考えていました。

僕のなかで、カミングアウトに大切なことのひとつが“時間”なのかなとも感じましたね。悩みを手放さずにカミングアウトをするタイミングを待つのにも、カミングアウトされた側にも事実を受容する時間が必要なのではないでしょうか。

カミングアウトをした後もした人、された人、両者がそれぞれに時間を重ね、咀嚼していく…。カミングアウトとは、その瞬間で終わるものではないのかもしれません。

外山さんは、カミングアウトにまつわる”矛盾”について話しました。

外山さん:今回も参加者の方から寄せられた声のなかに“ありのまま”という言葉が何回か出てきました。「ありのまま」でいる状態って実は相反する別々の感情を抱えていたり、矛盾をはらんでいるものだと思います。焦って自分の悩みや気持ちに答えを出したくなることもありますが、相反していることや矛盾していることを受け止めることは、僕が生きてきたなかで大切にしてきたことです。

人は矛盾や相反する感情を持つ、多面的な生き物なので「ゲイだからこうだ」とか、属性で語れることは多くないと思います。それぞれが人と向き合うときに、それを意識できたら、ちょっとずつ生きるのが楽になるのかなと考えたりしているんです。

カミングアウトについて悩む人、これからそういった悩みを抱えるかもしれない人に寄り添う形で話をしたのは、奥井さんです。

奥井さん:カミングアウトは一人ひとりの人生にとって大切な意思決定ですが、それを考える足場となる一般的な情報、例えば伝えたら何が起き得るのかとか、考え方の軸にどんなものがあり得るのかとか、そういった情報の社会的な蓄積や共有がされにくくて、個人は情報もないままゼロから一人で悩まなくてはいけない。今回カミングアウトのさまざまな形や考え方が出たことで、カミングアウトについて悩む方が考えたり、判断したりする材料になったらいいなと思います。

鈴木さんが“時間”とおっしゃっていましたが、僕自身がHIV感染症の診断を受けてからまだ4年も経っていないんです。比較的短い時間で辛い気持ちから回復して、こうして人前で病気のことを話せるまでになった理由は、おそらく僕の周りの人がああしろ、こうしろと言わずにいてくれたことなんだろうと思います。人間って矛盾があると解消したくなるけど、“矛盾を矛盾のまま抱えて生きる選択”が取り上げられずにいたのがよかったのかなと今は思います。

カミングアウトの前と後。その関係を繋いでいくために

【写真】笑顔の外山さんと奥井さん

急遽オンラインで誰でも参加することができるイベントへと変更された今回のイベント。参加者の方からは、チャットを通してこんな感想が寄せられました。

今回のイベントにはとても興味があったけれど、実際会場にいたら質問したり、感想を発言したりできなかったと思う。『カミングアウト』について話すこのイベントがオンラインの開催になって良かったです。

確かに、私自身もカミングアウトについて誰かと意見を交わしたことは、これまでになかったように思います。それは、人の生きる尊厳にも関わるとても大切なテーマだから。だからこそ、私自身もこのイベントに興味をひかれたのでしょう。

お2人のお話のなかで印象に残ったことがあります。

カミングアウトをしたときに、受け入れてくれた人がいた。だからその先のカミングアウトがしやすくなったということ。また、お二人ともカミングアウトをした後、しばらく時間が経ってから相手が受け入れてくれた経験があったことです。

私はこれまで、カミングアウトを受けたときにはその瞬間の言動で、全てが決まってしまうと考えていました。だからどういう言葉をかけたら良いのか、どういう行動をしたらいいのか、悩んでいたのでしょう。

この先もし、誰かにその人の大切なことを打ち明けられる機会があったら、「今はどう言ったらいいか分からないけど、これから一緒に考えていきたい」とそのときの素直な気持ちを伝えたいと思います。

相手をそのまま受け入れること、自分の素直な気持ちを受け入れること。それがカミングアウトの後の関係を築いていくための第一歩なのかもしれません。

外山雄太さん Twitter

奥井裕斗さん Twitter

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(撮影/川島彩水、編集/工藤瑞穂、進行/松本綾香)