2021年5月14日

各位

特定非営利活動法人soar代表理事 工藤瑞穂
問い合わせ先 soar.office@soar-world.com

 

一連の対応経緯の共有と代表理事からのご説明について

 

 この度は、当団体の元理事による性加害行為により、被害に遭われた方々はもちろん、関係者のみなさまや、本件に心を寄せてくださっている全てのみなさまにご心配、ご不安を抱かせるような事態が生じましたことを、当団体として、改めて深くお詫び申し上げます。

 また、先般、特定非営利活動法人soar(以下、「当団体」といいます。)から出させていただいた各お知らせ(「理事解任のお知らせ」、及び、「活動体制等の改善に向けた取り組みの進捗について」。以下併せて、「本件お知らせ」といいます。)の内容につきましても、関係各所から様々なご意見・ご批判等をいただいており、いずれのご意見についても真摯に受け止めております。

特に、以下の各点については、当団体のこれまでの活動の一部や、各種判断等において、反省すべき点があったことに起因しているものと痛感しております。

・当団体が、元理事の性的な加害行為の端緒を認識し、その背後にある性加害の構造を正確に把握する機会がありながらこれに係る処分の実施には直ちには至らず、結果として、詳細な調査への着手が遅れたこと。

・法人内外において、元理事に権威性が生じていたことや、役員と各スタッフとの間で必ずしも自由闊達な意見交換がしにくい構造が生じる危険性があったことについて、十分に意識を向けることができておらず、今回の事案に至るまで、相談窓口の設置等の施策を講じることができていなかったこと。

 本件解任処分・公表の実施(以下、併せて「本件」といいます。)については、当団体としてこれまで、やむをえず、種々の理由から発信できない情報や実施できない措置がありました。

 しかし、理事解任の公表から相当期間を経て、公知の事実の範囲が変化したこと(当該元理事が当団体に予告なく一方的な内容の情報発信を複数実施していることや、外部の第三者の方による情報発信など)のほか、当団体としての新たな情報発信の適法性・相当性を担保し得る状況が生じたと判断できたことなどから、この度、上記反省すべき点を踏まえた実効的な改善を順次進めていくための前提として、まずは一部事情について可能な範囲でご説明させていただくこととしました。

 本リリースでは、下記のとおり、本件に関して当団体として考慮せざるを得なかった事由とともに、本件に関するFAQと、当団体理事からみなさまに向けたご説明等を掲載いたします。

〈目次〉
1 本件に関して当団体として考慮せざるを得なかった事由について
2 本件に関するFAQ(主だったご質問とその回答)
3 代表理事・工藤瑞穂からみなさまへのご説明

 なお、当団体としてはこれまでに、以下の取り組みをすでに実施しておりますが、引き続き、被害の申告をいただいた方々(処分対象事案に係る調査にご協力くださった方々。以下、「被害申告をいただいた方々」といいます。)や、別途相談窓口に被害に係るご相談をお寄せくださった方々の各種ケア、お寄せいただく声に最大限配慮しながら、これまで以上に、より安全に関わることができる組織づくりやビジョンの実現に向けた活動体制の構築を目指してまいりたいと考えております。

・発信情報の事前確認
 「本件お知らせ」はいずれも、修正がなされる都度、被害申告いただいた方々の確認作業を経ております。

・外部相談窓口の設置
 当団体は、公表と同時に相談窓口を開設しており、4月16日付けリリース時以降は、外部相談窓口として、ビジネスと人権や障害者の権利問題に取り組む佐藤暁子弁護士に担当をお願いしています(なお、窓口の詳細、及び、相談がなされた後のプロセスについては、後記のFAQをご参照ください)。引き続き、当団体関係者(元関係者含む)による適法性に疑義を生じさせる、または不相当な言動等による被害にあわれた方は、相談窓口にご相談いただけますと幸いです。

・各種ケア等の実施(一例)
 ご相談内容の性質やご相談者のご希望に応じて、監事、弁護士、理事(代表理事を除く)の一部又は全員という構成で、ご相談者のお気持ちを最大限尊重させていただきながら、ヒアリングを実施させていただいています。その際、ご相談内容の詳細ほか、ご不安な点や懸念点、当団体に求めることなどを広くお伺いし、医療的なケアが必要な場合は、適切な専門職や専門機関をお繋ぎし、法的なご相談への対応が求められた場合は、対応した弁護士から可能な限り回答させていただいた上で、外部の弁護士(相談窓口の担当弁護士や当団体の顧問弁護士とは異なる弁護士)をご紹介しています。

 

 

1 本件に関して当団体として考慮せざるを得なかった事由について

 本件についてご理解いただく上では、法的な観点、元理事側の対応、及び、周辺事情の変化という、それぞれの事情の変遷を時系列の中で把握いただく必要があるため、まず、FAQに先立って補足説明をさせていただきます。ただ、その詳細を網羅的に公表することは、当団体として負う守秘義務や後記の法的な観点から、現段階でもなおできかねますので、一部事情のみのご説明となります。ご了承ください。

 ここでは便宜上、時系列を以下の3つの期間に分け、(1)〜(3)の各期間において当団体として考慮せざるを得なかった事由を、現時点での公表が可能な範囲内でご説明させていただきます(なお、以下の説明はいずれも、既報の「活動体制等の改善に向けた取り組みの進捗について」において、「その調査・処分権限等の行使範囲には自ずと、民間の一NPO法人ゆえの事業範囲上の限界のほか、法的側面(適正手続の保障への配慮を含む。)と守秘義務の側面からの限界がありました」と記載させていただいた部分について詳述・補足する趣旨を含むものです。)。

(1) 調査開始後から処分の公表まで(2021年1月から同年3月まで)
(2) 処分の公表から相当期間の経過まで(2021年3月末から同年4月頃まで)
(3) 周辺事情が変化して以降(2021年4月頃から本リリース以降)

 

(1) 調査開始後から処分の公表まで(2021年1月から同年3月まで)

ア 当団体に対して直接被害申告のあった事案がいずれも、当団体の事業範囲(管理範囲)外、つまりプライベートな時間・場所で生じたものであり、かつ、被害申告いただいた方々が、役員・社員・従業員のいずれでもなかったこと。また、いずれの事案においても、当事者間での謝罪や話し合いがなされている状況であったこと。

イ 当団体としては、内部調査チームによるヒアリングにより明らかになった事実関係や元理事本人が認めた事実関係を前提に、被害申告いただいた方々が一個人として声を上げにくい被害発生の経緯や、関係者間のその社会的地位・関係性ゆえに自浄作用が働きにくい構造ほか、当団体としての理念や社会的責任などを総合的に考慮し、処分・公表の必要性・相当性を判断する必要があったこと。

ウ アのような発生経緯である以上、法的に見れば、当該加害事案においては、当団体も紛争当事者とはいえず、ゆえに元理事・被害者間での当該事案に関し、当団体として一定の処分を実施するとなると、それは、捜査機関でも行政機関でもない当団体が、NPO法人としての事業範囲や関係各法令(NPO法や弁護士法等)への抵触可能性を慎重に吟味しながら、当事者個人間の法的な紛争にあえて関わることを意味していたこと。つまり、団体としての適法な処分を実施するには、法的な根拠や権限、適正な進め方の整理が必須であったこと。

エ 元理事が、事案の発生経緯自体は大枠で認めたものの、一部言動を否認し、また、自身への処分については、主としてアの事情を理由に、当初から一貫して、「解任」ではなく「辞任」の措置を主張し、また、公表も拒否したため、当団体としては、手続き的にも内容的にも、事後的に法的に争う余地ができる限り生じないように解任・公表を実施する必要が生じたこと(なぜなら、仮に当該解任や公表が訴訟などの法的手続きにおいて争われることとなった場合、今後NPOが役員不祥事事案に対応するに際して積極的な措置を躊躇させる参照事例になりかねず、また、加えて、被害申告いただいた方々が、法廷の場に出ることや再度証言の提出を求められるなどの恐れがあり、そのような事態を回避する必要があったため。

オ 以上を踏まえ、当団体は、加害事案の調査・処分・公表に関しては、少なくとも以下の各要件の充足が必須であったこと。

・定款に基づく解任事由の有無の認定と、同認定に必要な限度での権限が担保された調査チームによる調査

・慎重な事実認定に基づく調査結果を前提とした、可能な限り適正手続を保障した上での解任決議の実施
(具体的には、本件では調査チームにより、被害申告いただいた方々のみならず元理事についても時間をかけたヒアリングが実施された上、調査報告書が作成されています。また、元理事に対しては別途、社員総会での弁明の機会が確保されたほか、処分理由通知書の作成・送付も実施されています。さらには、本件お知らせのうち、「理事解任のお知らせ」について、被害申告いただいた方々のご了承を得た上で、事前に元理事にも確認の趣旨での共有がなされており、かつ、その一部内容については、同様に被害申告いただいた方々のご了承を得た上で、元理事の修正要求が反映されています。)

・元理事の加害行為の申告が当団体の関係者に対して被害者から直接なされたことや、本件が定款に基づく理事の解任事案であることなど、本件固有の事情のほか、NPOに求められる法的責任や社会的責任、さらには、他のNPOにおける不祥事事案(ガバナンスが問われた事案)への対応と比較した上での相当性などを考慮した公表の実施(この点、当団体が、本件に関して適法・適式な対応を遂行できるかどうかが、今後のNPOに求められるガバナンスの参照事例の一つとなり得るため、他のNPOにおける不祥事事案との事実関係や処分・公表内容、公表範囲との比較については慎重に検討しました。)

 

(2) 処分の公表から相当期間の経過まで(2021年3月末から同年4月頃まで)

カ 事後的に「解任」「公表」の適法性・相当性に疑義を生じさせる措置や、名誉毀損の主張の余地が生じるような事態は避ける必要があったこと(その理由は、主として上記下線部)。具体的には、元理事側が、法的手続を採る姿勢を未だ撤回していない現状においては、

・同人が理事ではなく、あくまで「元」理事という、当団体の調査がもはや及ばない主体であること

・定款に基づく解任権限があった(1)の時点までとは異なり、事案の掘り起こしや第三者間の法的紛争への能動的な介入は、事後的に、翻って「解任」「公表」が恣意的な処分・措置であったとのではないかとの疑義(つまり、適法性や相当性に係る反論の余地)を生じさせかねず、加えて、NPO法人としての事業範囲や関係各法令(NPO法や弁護士法等)の制約上、避ける必要があったこと

等の事情を前提とせざるを得なかったこと。

キ 他方で、一個人が声を非常に上げにくい被害発生の経緯や、関係者間のその社会的地位・関係性ゆえに自浄作用が働きにくい構造ほか、当団体としての理念や社会的責任などを総合的に考慮し、公表に伴う各種への影響に配慮や、再発防止策の策定・実施の必要性を判断する必要があったこと。

ク 以上を踏まえ、処分公表後の措置のうち、当団体としての例外的な追加調査に関しては、少なくとも以下の要件の充足が必須であったこと。

・当団体(相談窓口を原則とするも、これに限られない)に対し、被害にあわれた方ご本人からご相談をいただくこと
(なぜなら、外部の紛争事案への能動的な介入は、法的根拠も権限も乏しい状況の中で、さらに上記オの各要件の充足という建て付けを大きく超えることになり、上記下線部のリスクがさらに高まるため。また、今後、仮に元理事の過去の加害行為の告発が、独立した複数人から散発的になされるなどの事態が生じた場合、当団体として、どの方のどの時点のどの被害に対して能動的に関わるかの適法かつ合理的な選別が極めて困難であるため。)

 

(3) 周辺事情が変化して以降(2021年4月頃から本リリース以降)

ケ 公知の事実の範囲の変化や新たな情報発信の適法性・相当性を担保し得る状況が生じたこと

コ 既報の「活動体制等の改善に向けた取り組みの進捗」記載の内容の実施・公表と、それらに関する関係各所からのご意見を踏まえ、当団体としての今後の活動方針等の策定に着手し始めていること

 

2 本件に関するFAQ(主だったご質問とその回答)

Q. 本件お知らせにおいて、解任処分の対象となった行為を「加害行為」と端的に記載していたのはなぜか。

A. 本件が、刑事事件化や民事訴訟化がなされていない事案であり、慎重な事実認定に基づく調査結果を前提とせざるを得なかったことから、本件お知らせの記載内容はいずれも、調査チーム作成の調査報告書の内容を踏まえ、まずは被害申告いただいた方のご意向を最大限尊重しつつ、元理事からの修正要求等の各種事情も考慮した上で、理事会での審議を経て決定されました(なお、本件お知らせはいずれも、修正がなされる都度、被害申告いただいた方々の確認作業を経ております。)。

Q. 本件に関連して、soarが相談窓口への相談にしか対応しない旨の方針を採っているのであれば、それはなぜか。

A. 当団体の外部で発生した紛争事案への能動的な介入は、法的根拠も権限も乏しい状況の中で、元理事の解任や公表が事後的に、翻って恣意的な処分・措置であったとのではないかと法的に争われるリスクを高め、また、その結果として、本件調査にご協力くださった被害申告いただいた方々が、訴訟などの法的手続きにおいて、処分の適法性・相当性に係る判断に必要な限度で再度証言の提出を求められるなどの事態をも生じさせる恐れがあり、それらリスクを回避することが必須であったためです。また、そのほか、今回の事案に関しては、当団体が適法・適式な対応を遂行できるかどうかが、今後のNPOに求められるガバナンスの参照事例の一つとなり得るといった理由や、今後、仮に元理事の過去の加害行為の告発が、独立した複数人から散発的になされるなどの事態が生じた場合、当団体として、どの方のどの時点のどの被害に対して能動的に関わるかの適法かつ合理的な選別が極めて困難であるためといった理由もあります。詳しくは、上記1記載の各事情をご参照ください。

Q.soarの相談窓口に相談した場合、どのようなプロセスで、どのようなケアがなされるのか。

A. すでに実施されているプロセス及びケアの各内容については、以下のとおりです。

・プロセスについて
 当団体は、公表と同時に相談窓口を開設しており、4月16日付けリリース時以降は、外部相談窓口として、ビジネスと人権や障害者の権利問題に取り組む佐藤暁子弁護士に担当をお願いしています。

外部相談窓口
担当:ことのは総合法律事務所 佐藤暁子 弁護士(東京弁護士会)
主なご経歴:https://kotonoha-law.com/lawyer/sato
相談フォーム:https://forms.gle/HNeyrbuMCUcPZQcK9

 ご相談いただいた内容は、上記担当弁護士しか確認ができない仕様となっています。担当弁護士の方でご相談内容を確認させていただいた上で、アドレスなど連絡先の記載があったご相談については、可能な限り速やかに、ご相談へのご回答か、またはヒアリングの調整のご連絡をさせていただきます。また、担当弁護士の方で、当団体としての継続的な対応や内部的な検討が必要であると判断したものについては、事案ごとの個別事情に十分配慮し、個人情報の管理を徹底しつつ、その後の進め方について監事や、社会福祉士資格を保有する理事と協議します(なお、ご連絡先の記載がないご相談についても、ヒアリングの実施ができない点を除けば、同様のプロセスで進められます。)。

・ケアの内容について(一例)
 ご相談内容の性質やご相談者の共有範囲等についてのご希望に応じて、監事、弁護士、理事(代表理事を除く)の一部又は全員という構成で、ご相談者のお気持ちを最大限尊重させていただきながら、ヒアリングを実施させていただきます。その際、ご相談内容の詳細ほか、ご不安な点や懸念点、当団体に求めることなどを広くお伺いし、医療的なケアが必要な場合は、適切な専門職や専門機関をお繋ぎし、法的なご相談への対応が求められた場合は、対応した弁護士から可能な限り回答させていただいた上で、性被害の領域を専門とする外部の弁護士(相談窓口の担当弁護士や当団体の顧問弁護士とは異なる弁護士)をご紹介します。

Q. なぜこのタイミングで背景事情等を説明するに至ったのか。隠蔽の意図があったのではないか。

A. 隠蔽の意図は全くなく、かえって当団体としては、各種の法的リスクがあり得ることを認識した上で、解任処分と本件お知らせの発信を実施しております。その上で、その公表内容が限定的であったのは、法的な観点、元理事側の対応、及び、周辺事情の変化という、それぞれの事情が時の経過の中で変遷していくことを前提に、当団体としての守秘義務や解任処分・公表の適法な遂行、被害者のプライバシー保護などの法的な理由があったためです。

しかし、本件について、公表から相当期間を経て公知の事実の範囲が変化した(理事解任の公表直後から、当該元理事が当団体に予告なく一方的な内容の情報発信を複数実施していることや、外部の第三者の方による情報発信など)ことのほか、当団体としての新たな情報(当団体として、これまでやむをえず、種々の理由から発信できない情報や実施できない措置があったことの一部)の発信の適法性・相当性を担保し得る状況が生じたと判断できたことなどから、この度、当団体として反省すべき点への実効的な改善を順次進めていくための前提として、一部事情について可能な範囲でご説明させていただくこととしました。

Q. 内部調査チームによる調査では不十分ではないか。第三者委員会による調査など、第三者による調査を実施する必要があるのではないか。

A.今回の内部調査チームによる調査は、日本弁護士連合会が策定・公表している「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」に準拠した、NPOとしては極めて厳格な手続きにより実施されたものです。

具体的には、今回、調査チームの実務上の責任者として、元理事の処分に係る調査を主導した小野田峻弁護士はもとより外部の弁護士です。また、調査チームにより進められた各種活動(調査対象とする事実(調査スコープ)の設定、各種ヒアリングの実施、事実認定及び評価)はいずれも、代表理事から独立して実施されました。さらに、理事会に上程された調査報告書の起案権は調査チームのみにあり、代表理事だけでなく調査チーム以外の理事らはその作成に関与することはできず、かつ、その記載内容は、当団体の処分判断にとって有利な事実だけでなく、不利な事実も併せて記載されています。

 なお、当団体が、元理事の性的な加害行為の端緒を認識し、その背後にある性加害の構造を正確に把握する機会がありながらこれに係る処分の実施には直ちには至らず、結果として、詳細な調査への着手が遅れたこと、及び、法人内外において、元理事に権威性が生じていたことや、役員と各スタッフとの間で必ずしも自由な意見交換がしにくい構造が生じる危険性があったことについて、十分に意識を向けることができておらず、今回の事案に至るまで、相談窓口の設置等の施策を講じることができていなかったことについては、今後、外部の有識者の方々や第三者機関のお力をお借りすることも視野に入れ、検証・改善の施策を講じていく予定です。

Q. 本件に関して、代表理事以外の役員から情報発信がなされていないのはなぜか。

A. 事後的に「解任」「公表」の適法性・相当性に疑義を生じさせる情報発信や、名誉毀損の主張の余地が生じるような事態を避ける必要があったためです。加えて、本件を適切にご理解いただくには、前提として、本件お知らせ記載の内容をご一読いただく必要があったほか、法的な観点、元理事側の対応、及び、周辺事情の変化という、それぞれの事情の変遷を、時系列の中で、誤解なく把握いただく必要があったため、当団体として発信する情報については一元化させていただきました。詳しくは、上記1記載の各事情をご参照ください。

Q. 解任処分の対象となった元理事の加害行為について、soarの理事らは、本件の調査開始前から把握していたのではないか。把握していて、それを放置していたのでないか。

A. 元理事の複数の性加害行為について、その具体的な態様を当団体の代表理事と副理事が把握するに至ったのは、調査開始時(2021年1月)以降です(他の理事らが把握するに至ったのは、調査チームからの報告がなされた時点(2021年2月〜3月)です)。

これ以前の時期の各種認識等の詳細を網羅的に公表することは、本件各事案の識別・特定を招く事態が生じる恐れがあるほか、調査対象となった被害申告いただいた方々や元理事に関する個人情報についても明らかになってしまう恐れがあるため、以下の内容、及び、後記の「3 代表理事・工藤瑞穂からみなさまへ」の範囲を超えたご説明は致しかねます。何卒ご了承ください。

・当団体の代表理事と副理事が、性的な加害事案の端緒(詳細は不明)を認識した最初の時期は、2019年12月から2020年1月にかけてのことでした。当時、代表理事と副理事は、元理事に対して一定の確認作業を実施していますが、個人間のプライベートにおける事案であったことに加え、元理事・被害者双方から、当事者間で謝罪等を含めたやりとりがなされている旨や、ヒアリングの実施などの法人としての介入までは求めない旨の連絡を受けていました。それに伴い、当該性加害事案の具体的な態様を把握するには至りませんでした。

・そのほか、2020年1月当時から調査チーム設置(2021年1月)までの当団体の代表理事の認識や葛藤、今振り返ってみて反省すべき点などについては、以下の「3 代表理事・工藤瑞穂からみなさまへ」をご参照ください。

 

3 代表理事・工藤瑞穂からみなさまへご説明

2021年3月10日の臨時社員総会において、私が代表理事を務めるNPO法人soarの理事(当時)であった鈴木悠平氏(以下、鈴木氏)を解任することを決議し、3月29日付けで解任を公表いたしました。この度は、元理事の処分対象となった性加害行為(以下、「本件事案」といいます。)、またsoarの各種対応において、多くの方にご心配、ご迷惑をおかけしてしまったことを深くお詫び申し上げます。

「1 本件に関して当団体として考慮せざるを得なかった事由について」の項目でお伝えしているとおり、これまで、団体としての情報発信は限定的なものとせざるを得ず、また、私個人としての発言は控えざるをえない状況でした。そのことが多くの人にとっての不安や懸念につながる可能性を認識しつつも、そのような状況にもどかしさを抱えていました。

ですが今回、公表から相当期間が経過し、理事解任に関する当団体の一連の対応について、様々な事情から、各種の懸念を考慮してもなお新たな情報発信をすることが問題ないという判断ができる状況となったため、代表理事として、そして一個人として、本件にどのように向き合ってきたかを述べたいと思います。

最初に、私が本件事案の一部を認識したのは、2019年12月から2020年1月にかけてでした。その際、鈴木氏の行為の内容については、抽象的な事情しか聞けておらず、被害が起きたのがsoarの事業範囲外のプライベートな時間・場所での出来事であったこともあり、自身がこの事案に対して強く介入することは憚られました。

もちろん、当時も、事態を見過ごして何も行動しなかったわけではなく、鈴木氏の行為に対して憤りを感じ、私、及び副代表理事から鈴木氏自身に対して確認を行い、依然として行為内容の抽象的かつごく一部についてではありましたが、自発的な申告を受けました。その後、相談してくださった方々からも、鈴木氏との間で謝罪等を含めたやりとりがなされていることを確認しましたし、鈴木氏自身からも、反省の言葉と、原因を考えたうえで再発防止策などの具体的な行動改善について共有を受けました。

その時点で、「性加害行為」というものの有無やその詳細な内容の確認作業などに、私が第三者としてどの程度介入すべきかは、大変悩みました。

当時、被害申告いただいた方々からは様々なご要望やご意見をいただき、私としては、その方々のプライバシーや安全を守ることをまずは最優先とし、その上で、鈴木氏が本件事案としっかりと向き合い、かつ、再発防止に真摯に取り組む姿を間近で支えることが、相談してくださった方々に報いる行動ではないかと考えました。もちろんそれは、その責任を自分も負っていく覚悟を持った上での選択であり、相談してくださった方々のこと、また鈴木氏の双方のことを考え、当時の自分にとっては最善の選択をしたつもりでした。

現にその後は、鈴木氏も、個人的な関係性において加害が起こる社会構造や、加害者の更生などについて学び、社会に伝えていこうと努力を続けている姿を見せており、だからこそ、鈴木氏が自分を変えようとしていることを信じてきました。

しかし、2020年11月中旬から徐々に、鈴木氏が、私や副理事と約束していた行動(再発防止策等)を本当に継続してとっているのだろうかという疑念が生じてきました。そこで、2020年11月後半に、私と副代表理事、監事とで、鈴木氏との面談を行ったところ、詳細は不明でしたが他の性加害が疑われる事案が発生したことを認め、謝罪の意志を示したことや、より一層本格的に再発防止のための対応をとり始めているとの報告を受けました。

ですが、2020年12月24日頃を境に、当事者間のみでの対応を余儀なくされている被害申告いただいた方々のご負担や、この件に第三者の目が入らないことにより再発の蓋然性が高まるリスクを考えると、団体として、それまでの対応から一歩踏み込み、鈴木氏からの一方的な申告内容による判断ではなく、NPO法人として正式な調査を行い処分を決定すべきでないか、と私自身が思うに至り、その方向で法人としての対処を検討するようになりました。

とはいえ、仮に、調査の結果、性加害行為の内容が明らかになった場合に、それを公表することで、鈴木氏自身やそのご家族への様々な影響が生じるのではないかということが想像でき、正直にお伝えすれば、決断をするうえではやはり大きな葛藤や逡巡がありました。

それでも、被害申告いただいた方々の権利擁護を代言すべきではないか、soarが団体としての処分とその背景を公表し、相談窓口を設けるべきなのではないか。また、処分を受けることによって鈴木氏自身も改めて自身の行為や傾向と向き合う一助となるのではないか。そう考え、団体としての責任を果たすべきと決意するに至りました。

そこで、2020年12月29日に、のちに今回の調査や活動体制等の改善にご協力いただくことになった小野田峻弁護士にご相談のうえ、正式な対応プロセスについてご助言等をいただき、関係法令や定款を順守し、適正・公平な手続きで調査・処分を行うことを決めました。2020年12月30日には鈴木氏より辞任の申し出がありましたがこれを保留とした上で、調査チームによる調査の実施と、法人としての処分の要否や内容を追って決定する旨を伝達しました(同時に、鈴木氏の法人内における活動停止の措置を実施しました。)。

調査開始までの経緯は以上の次第ですが、結果的に調査の対応に着手する時期が遅れてしまったことは、団体として深く反省すべきことであると考えております。結果として、すぐに対応を行えば鈴木氏が他の性加害行為を起こすことを止めることができたかもしれない可能性があった点と併せ、被害にあわれた方々やその周囲の皆様に深くお詫び申し上げます。

2021年1月から開始された調査の詳細については、被害者の方々や鈴木氏との関係において当団体が負っている守秘義務等に関わりますので詳細はお伝えすることができません。ただ、深い反省と自戒を込めてここでお伝えできることがあるとすれば、調査に協力くださった被害申告いただいた方々が、鈴木氏や、soarをはじめとした鈴木氏の所属する団体やコミュニティのこと、さらには、鈴木氏の仕事や発信にエンパワーメントされてきた人たちがいると考えるがゆえに、かえって、より一層自身の痛みや悲しみを抑圧し、声をあげるのを我慢してきたことをまさに身をもって知ったという点です。

2019年12月から2020年1月にかけて、加害行為の一部を認識した当時のことを振り返ってみれば、そもそも私自身のNPO法人の代表として有しているべき法的な知識や、コンプライアンスやガバナンスの意識が不十分であったこと、様々な要因から声を上げづらい立場に置かれた方への想像力や寄りそう姿勢が不足していたこと、また、性加害行為の可能性を把握した時点ですぐに、事態の詳細や生じている複雑な感情について丁寧に聞き取り、専門家に適切に相談すべきだったことは、とても悔やんでおります。本当に申し訳ございません。

調査開始後は、ご協力くださった被害申告いただいた方々のケアに結びつくことをまず最優先に考えてきましたが、同時に、広く被害にあわれた方々やその周囲の皆様との関係においては、NPO法人であるがゆえの限界や、法的なリスクと制約にも直面し、その点にも葛藤がありました。

公表後の対応については、もちろん、私個人としては、事案の性質や発生経緯を問わず広く被害にあわれた方々に寄り添いたいという気持ちがありました。その一方で、どうしても法人として対応せざるを得ない中で、法的な根拠に基づかない、あるいは他の処分との整合性が図れない例外的な対応を採ることが、かえって法人としての処分に法的な疑念が生じてしまう可能性や、調査にご協力くださった被害申告いただいた方々に更なる負担を強いる可能性などの法的なリスクが高まってしまう恐れから、やむなく法人としての例外的な措置が許容され得る最低限のプロセスとして、開設した相談窓口に問い合わせいただく必要がありました。

今のところ、窓口に問い合わせてくださった方については、精神的なケアや法的な対応へのアドバイス等は実施できましたが、その一方で、NPO法人としての限界により全ての被害者の方が望む対応を行うことが難しかったことは大変申し訳なく、また、悔しい思いでいっぱいです。

ただ、変わらず当団体としては相談いただいた方にご希望を伺ったうえでできる限りの対応ができればと考えておりますので、引き続き当団体関係者(元関係者含む)による適法性に疑義を生じさせる、または不相当な言動等による被害にあわれた方は、相談窓口にご相談いただけますと幸いです。

なお、現在は「活動体制等の改善に向けた取り組みの進捗について」でもお知らせしたように、組織・活動体制等の改善に向けた取り組みに全力で注力すべく、対外的な活動・情報発信をいずれも一旦停止し、関係者の方々へのご説明やお問い合わせ等の対応を行っております。今後、活動休止期間は延長した上で、さらに組織体制や事業活動の見直しに注力していきます。

本件によって、複数の当事者が存在する中で発生した加害事案において、適時適切に実態を把握し、法人に課せられた関係各法令や定款等の取り決め、関わる人々の安全や権利を守りながら、それぞれの感情やコミュニティへの影響を配慮した上で最善の対処を行うという、その難しさと葛藤を経験いたしました。

団体として改善を行うべき必要性や、目指すべき未来との社会と現状の差分、その差を埋めるために求められるものの責任の重さを痛感していますが、2015年の設立当初から、soarは「誰もが自分の可能性を活かして生きる未来をつくる」というビジョンを掲げ活動しており、今もその思いは変わっておりません。

先述の通り、これまでの活動のなかで気づくことができなかった視点や人の痛み、自分たちの至らなさや改善点から目をそらすことなく、様々な人の意見に向き合いながら、団体としてどうあるべきかを問い続けたいと思います。また、組織として未熟な部分を自覚し改善に努めつつ、さらに社会に貢献できるNPO法人を目指し、私たちの新たな学びと実践をみなさまと共有していきたいと考えています。

今後も真摯に今回の問題と向き合い、みなさまに様々に意見を伺いながら、組織や活動の改善プロセスを共有させていただきます。真の意味でみなさまに信頼していただけるNPO法人となるよう努めてまいりますので、改めてよろしくお願いいたします。

以上