障がい者、LGBT、病気を抱えた人、子供のいるパパママ、介護中の人…

職場には、それぞれ様々な事情を抱え、制約のあるなかで働いている人も多いはず。でも、誰もが自分の内側に力や可能性を持っている。じゃあどんな環境があれば、すべての人が自分の力を活かして働いていけるのだろう?

4月26日、社会的マイノリティに焦点をあてて情報発信を行っている本ウェブメディアsoarが富士通デザイン株式会社と共に、企業における障がい者やLGBTなど社会的マイノリティを含めた多様な人々の働き方を考えるイベント『多様な人の力を生かす職場のデザイン』を開催しました!

今回はそのイベントレポートをお届けします。

本イベントでは、soarと富士通デザイン株式会社が共同で行ったリサーチプロジェクト「企業における社会的マイノリティの働き方」の調査報告を行うとともに、LGBTや障がい者雇用の現状に詳しいゲストスピーカーからのインプット後、参加者の皆さんと多様な人々の力を活かす職場のデザインについてディスカッションを行いました。

働き方の制約がなくなる中、働くことへの制約は

まずは和やかな雰囲気の中、富士通株式会社総合デザインセンター、及び富士通総研実践知研究センター研究員の高嶋大介さんによる説明がスタート。 「多様な人たちをつなぐ場所を作りたい」と考えて作ったという今回の会場であるHAB-YU platform(ハブユー プラットフォーム)。

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なぜ今日このようなイベントをここで開催したかについて高嶋さんは、

「様々な会社が“働き方”に制約があるには取り組み始めているけれども、“働くこと”に制約がある、にはまだ手をつけていません。でもこの2つに線引きをするのではなく、同じように一緒に考えていかねばと考えました。労働環境が変化するこれからの社会で、制約のある人も力を活かしていけないと企業は発展しません。この多様な人たちの力を発揮できる働き方は何か?今日皆さんとこの場を使って考えたいのは、そんな多様な人たちが力を活かす職場のあり方です。」

と語ってくれました。

マイノリティに必要な配慮は、みんなにも必要

「今回は、障がい者やLGBTに焦点をあて、彼らが働きやすい職場をつくることで、企業にはどのような変化が生まれるかを富士通と共に調査しました。彼らが共に働くことで職場にどんな影響があり、そのためには何を大切にしたらいいのでしょうか。障がい者やLGBTをケーススタディに、多様な人々が共に働く職場には、どのようなことが必要かをみなさんと考えたいと思います」

ここから、工藤より様々な方へのインタビューの報告がスタート。自分の強みは言えるのに、弱みは認めないスタンスであるという多くの人の現状や、人材が適材適所に置かれていないのが問題であるという指摘など、現場の当事者だからこその声を紹介していきました。

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また、障がい者やLGBTがともに働くことが職場に与える影響についても報告。お互いをサポートし合うからこそのチームの団結力の向上、様々な人が働ける職場だという認識からの安心感や誇り、皆に分かるように説明せねばならないからこその言語化能力の向上など、様々な人々が共に働くからこそ生まれる良い影響は尽きません。 そして、障がい者やLGBTなどマイノリティを含む、多様な人々がこの持つ力を生かし、共に働く職場作りに必要な条件については、信頼して相談できる人事部の存在や、どのような人が働いているかを可視化して共有する、強みだけでなく弱みも共有するなどのポイントが挙げられました。ここに、本イベントにて行われるディスカッションへのヒントがいくつか隠されているようです。

「障がい者やLGBTだけではなく、彼らにとって必要だと言われている配慮や工夫は全ての社員に対して必要なことなのでは、という結論に至りました。 個人レベルで働き方を考え、強みや弱みを共有できる関係づくりをし、精神的な安心のなかで働くことが仕事のパフォーマンスにつながります。そして、全ての社員の多様な力を活かすための土壌をつくることが、社員の幸福度を高めるとともに、企業の発展にもつながるのではないかと思います。」

何に困っているかではなく、どうなればいいかを一緒に考える

次に、富士通株式会社総合デザインセンターで勤務されている松田善機さんより「聴覚障がい者の理解から生まれたICTツール」というテーマでお話がありました。松田さんは、自身も聴覚障害を持ちながら、デザイナーとして富士通で働いています。

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「私は幼少期から、周りとのおしゃべりにすぐ参加できないことに苦労してきました。聴覚障害者というのは、水の中にいるときや、ヘッドホンをしている時、遠くから話している時などのような状態が続いている、と想像していただくとわかりやすいかもしれません。

ある程度聞こえているなら言葉がわかるのでは、とも思われがちですが、音が違って聞こえることもあるので何を言っているのか聞き取れないことが多いのです。また、言葉を話せない人がいるのは、話したくないからではなく、発音の仕方がわからないといった問題があることが多いようです。 厚労相の「障碍者雇用実態調査」によると、働いている聴覚障害者のうち5人に2人は転職を経験しているとあります。つまり、100人いれば40人は転職経験ありということです。その主な理由のひとつに、職場の人間関係が挙げられます。私も人間関係に悩んでいます。それをどうにかしたくて、私は開発を始めました」

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松田さんが開発されているというのは、聴覚障がい者のニーズによって開発したというLiveTalk(ライブトーク)。会議や打ち合わせなど複数人が情報を共有する場において、発話者の発言を音声認識し、即時テキストに自動変換して複数のパソコン画面に表示することで、参加者全員がリアルタイムに情報を共有できるソフトウェアです。聴覚障害者の発言用にスタンプや定型文、キーボード入力ができることが特徴となっています。

「これができる前はずっとほかの聴者の方に相手が話していることをパソコンで打ってもらいながら、ミーティングをしていました。しかし打っている間も話がどんどん進んでしまうと支援する側も打つのに精いっぱいでなかなか会話に参加できないし、何より私もついていけないしで、お互いに疲れるという課題がありました。でも、そんなふうに困っていることを伝えられる環境が富士通にはありました。

そこでどうしたらよいかをメンバーで話し合いし、例えば聴者にもヘッドホンをしてもらうなど、私の疑似体験をしていただきながら、会議において「こうしたらよいのでは」といったアイデアを出し合いました。それでこのLiveTalkができたのです」 「この製品ができたのは、何に困っているかではなく、どうなるといいかを考え、皆で一緒に考えられたこと、理解ある上司や同僚など、開発に賛同する方々が増えていったこと、また自分のためではなく、みんなのためのツールにしていったこと、にあると思っています。みなさんの協力なしにはできませんでした。」

<松田さん本人が出演するLiveTalk紹介映像>

松田さんは聴覚障がい者への理解がない職場だと開発はできなかった、と話しました。 実は、本イベントは全編に渡り、このLiveTalkでスクリーンに随時何を話しているかを映し出しています。誰にでも参加できるイベントになるように、そんな松田さんの思いが込められたツールが、ここでも大いに一役買っていました。 

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配慮を学ぶのではなく、なぜ配慮したいのかを考える

次にお話をしてくださったのは、株式会社Letibee(レティビー)代表取締役の榎本悠里香さん。自身も性的マイノリティーであることをオープンにし、LGBTに関する調査機関「LGBTマーケティングラボ」、LGBT とアライアンスのための生活を豊かにするメディア「Letibee LIFE」の運営や、企業向け研修などのプロデュースを行なっています。

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「私たちの事業はLGBTというものを社会問題にどうアプローチしていくか、というのをきっかけに立ち上がった会社です。今は私が代表をしていますが、LGBTに関する様々な情報を届けるメディア、またLGBTにまつわるマーケティングや研修を行っています。まずは、そもそもLGBTってなに?というところからお話をさせてください。 LGBTとは、レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイ(両性愛者)、トランスジェンダー(性別越境)の4つのことを指します。」

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トランスジェンダーは、性同一性障害と訳されることが多いのですが、翻訳としては最適ではなく性を超えるという意味合いのほうが適切だとも解説する榎本さん。

「さて、LGBTの世界をとりまく状況を見るには、各国の同性婚の進み具合を見るのが一番わかりやすいかと思います。アジアより欧米各国の方がやはり進んでいますよね。人権の意識がアジアの国々よりも高いといえます。企業でいうと、見たことある、聞いたことあるという会社ほどダイバーシティを推進しているんです」

日本も、渋谷区がパートナーシップを成立させたり、最近のニュースだとPanasonicが2016年4月から社内規定を見直していく動きをみせている状況で、何か取り組むべきなのでは、という姿勢が各企業から見え始めていることについても触れました。 ここで突然、参加者に向かって「なぜ私の話を聞いてくれているんですか?」と問いかける榎本さん。

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彼女曰く、「世の中の大半のことって、自分の本当にしたいことだけで成り立っているのかというところが疑問で。なんでダイバーシティに取り組むべきなのか?みなさんどうお思いですか?」とのこと。 参加者からは「たくさんのひとがいた方が、クリエイティブな組織になるとは思う。まざりあったほうがもっと面白い世界ができるのでは」などの意見が返ってきました。 「わたしは“社会にとっていいことだから”というよりも、みなさんのほうが実は枠からはずれることができない息苦しさを抱えていて、それをなんとか崩したいという思いがどこかにあってマイノリティへの配慮やダイバーシティの推進を求めているのではないかとも思うんです。」とのこと。

「今まで自分が生きてきた中で、自分がこうしたいというだけで人生を決めてきた人たちは非常に少ないと思います。私、先々週、ふと自分が幸せを感じていないことに気づいて。世間一般で見れば、好きなことで会社やってるじゃないかと思われているはずなのに、と。それを考えてみると、私今まで「べき」論で生きてきたからなのだと思ったんです。避けられないけど人と違う部分があるらしい、ということに気づいた時に、うまく生きて、ダメージを受けないようにこうしておくべきだ、ということに捉われ始めたのかもと思いました。

社会のためと言いながらそれを鎧にしてファイティングポーズをとっていても本当に必要な配慮は見えてこないと思うんです。押し付けられた配慮、ガードが上がったままのコミュニケーションでは本当のダイバーシティは生まれてこないと思ってて、結局みんな80点くらいの正解しか話さなくなってしまう。そしてそのうち疲弊します。本当の人と人の対話がないとどんなにいろんなバックグラウンドを持った人間が集まってもダイバーシティは生まれない。そして、その対話を生むためにはファイティングポーズを下すことが必要だと思います。」

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ここで、セクシャルマイノリティは見えないマイノリティとも呼ばれます。隠そうと思えば他のマイノリティよりも断然に隠しやすい、と語る榎本さん。

「つまり、うまくやり過ごして生きることが上手なんです。だからいかにまず自分たちがファイティングポーズをいかに下ろしていくかを考える、それがダイバーシティに近づく一歩になると思うんです。 例えば視覚障害者の方が目の前にいた時。困ってる相手に対して上手にやらねばと思って、助けられなかったりしてきたんです。でも今なら、何がして欲しいですか、とハッキリと人に言えるようになってきました。社会も組織も結局は人から生まれるものです。

一対一が集まっていくことで、社会が生まれます。レズビアンとして一般企業に就職して2年間働いてきて、自分の中でダイバーシティとは何かを考え続けてきてたどり着いたのは、自分が何をしたいのかそれを相手にぶつけられること、だと思いました。配慮を学ぶのではなく、なぜ私は配慮をしたいのだろう、というところをまずは考えて欲しい。そしてそこから、こんな配慮が生まれたんだけどどうかな、という議論をしてほしい。私はそう思います」

榎本さんは凛とした表情で、語り終えました。

障がい者が活躍できていない社会なんてイケてない

最後の講演は、株式会社LITALICO(リタリコ)の市橋拓さん。市橋さんによると、「障害のある方が就職をするためのサービスを運営しているWINGLE事業部で企業様の雇用相談などを担当しています」とのこと。 最初は、そんな市橋さんの会社の紹介から始まりました。

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「弊社の理念は『世界を変え、社員を幸せに』です。関わる人と社会の幸せを実現することが自分たちの幸せにつながるという意味が込められています。ビジョンは「障害のない社会をつくる」です。障害は人ではなく、社会の側にある。社会にある障害をなくしていくことを通じて、多様な人が幸せになれる「人」が中心の社会を作ることを目標にしています」

そして市橋さんは、突然こんな質問を始めました。

「ここでひとつ質問です。みなさんの中に、メガネやコンタクトを使っている人はいますか?(ここで過半数以上が手を挙げました) おお、とても多いですね。これがもし200年前だったなら、みなさんは視覚障がい者だと言われていた……かもしれません。このように、社会の文明の発達によって、または状況が変わることによって障がいは見えなくなったりするものです」

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どきっとするような、でも当たり前の事実に驚かされる中、話は続いていきます。

「日本には788万人の障がい者がいます。そのうち労働可能人口324万人の中で、働いている人はわずか14パーセント。一部の方は福祉施設で働いていますが、月の平均収入は1万4千円程度と、自立することが難しい状況です。 つまり今は、障害のある人たちにとって就労しにくい状況です。働けない状態が長期化することで悪循環になっていきます。

働くことで人生を好循環にしていく、これが弊社の目指す方向性です。 50人以上の会社では障害者の雇用義務があり、2パーセントは障害者を雇用する必要があります。これを怠ると、社名公表までされることもあります。この2パーセントという数字は、身体障害者・知的障害者を対象にして算定されていましたが、2018年には精神障害者も雇用義務化され段階的に引き上げられる予定です」

市橋さんは、国が民間事業者の精神障害者の雇用を徐々に進めようとしていても、なかなか進んでいない状況があります。身体障害の方は、目に見える障害ですが、精神障害の方は目に見えない障害です。なので、何をどうサポートをすればいいのか、受け入れる側もわかりにくいのだといいます。

「私たちが運営している就労移行支援事業所は、障害者総合支援法が定める福祉事業の一つです。利用期間は最大2年間、ひとりひとりの目標や状況をヒアリングの上、個別に支援計画を作成します。 その人だからこその価値を発揮することを大切に、多様な個性と多様なニーズをつなぎます。 まだまだ日本の社会は、障害者のための求人が足りていません。障害者という言葉だけで、選択肢が全然少ないんです。多様な個性はあっても、ニーズが多様化していない。

ですので例えば、今まで障害者求人と言えば単純作業とかしかなかった会社に向けて、こういう求人をこういう風に出せばどうだろう、ということを他社の成功事例を元にアドバイスします。雇用形態も短時間や通院を認めてもらったり多様にしてもらう。 どんな時に体調が崩れるのか、どんなことを言われたら困るのか、とその人によって違う特性を分析して、目に見えない障害を見える化していく。そして、こう配慮すれば戦力になるなど、企業側のニーズを作っていくのも我々の仕事の一つです」

ここで市橋さんは実際にあった事例を紹介してくれました。

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「たとえば、気分障害のAさんは抽象的な表現や口答指示の理解が苦手でした。そんな彼には隣の席にいる人でも業務依頼はメールで行う、社内は静かで黙々と働くという会社を紹介すると、うまくマッチングが成功。 逆に、同じく気分障害のBさんはストレス解消は発散型。適宜面談することで安定を保つことができるタイプです。コミュニケーションが活発でウェットな人間関係のある職場で、上長との面談も頻繁に実施されていることを把握した上で、マッチングに成功させることができました。

このように同じ診断や障害名だとしてもそれぞれの障害のある方の特性を知って、分析して、企業さまのニーズや社風と合わせていくことがとても重要です。 障害は本人と環境の相互作用の中にあります。彼らを苦手な仕事につけるのではなく、その人のために仕事を作るぐらいの気持ちで動いています。」

多様な選択肢を用意することで、自分なんか働けないんじゃないか、という風に思っていた人が今では健常者より活躍する。そんなことが起きているのだと語る市橋さん。

「最後に。ほんの50年前、黒人の人たちって肌の色が違うというだけで差別されていましたよね。その時代を一生懸命変えていった人たちがいるおかげで、今ではそんな差別をするひとはナンセンスになりました。ほんの30年前、女性は女性というだけで一般職でしょ、と言われていました。しかし今では、女性が活躍していないのはイケてないよね、という風潮になってきました。だからこれを10年後、20年後、障がい者が活躍してないなんてイケてないよね、という風にしていきたいんです。今日ここに集まった人たちで、そんな未来が作れたら、と思っています」

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そう語る市橋さんの目には、揺るぎない未来への希望を感じ、筆者もハッとさせられました。

私たちが今、感じていること。そして、できること

ここで、参加者は1つのテーブルに、4〜5人ほどのグループになるように席替え。イベントの最後に話し合うテーマは2つ与えられました。

① 「多様な人が共に働く」という視点で考えたときに、今あなたが職場で感じている問題点は?

② 私が目指すのは【 】な職場、それに向かって私は【 】したい

これらのテーマが出された瞬間から、途端に各グループで議論がスタート。ここまでの講演内容も含めて、自分の職場で感じていた問題点や、こうすることができるはず、といった意見が飛び交います。学生の参加者からは、社会人の参加者への一般的な会社のシステムを尋ねる場面もあり、世代を超えて多くの意見が集まりました。 

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具体的には「人間中心の職場を目指したい」、「具体的には強みを引き出せる、弱みを自動化したりアウトソーシングしたりして、今ある事業に対して仕事を割り振るのではなく、こういう強みがあるからこの仕事を割り振る」、といったような声などが。

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他にも「みんなが本音でぶつかり合える職場を目指したい、それに向かって私は自分を素直にさらけ出す、ということを目指したいと思っています。そうすれば同じように皆、語り合えるのではと思ったからです」などの意見も最後には発表されました。

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当事者の気持ちを感じられる講演や、普段話さない相手とのディスカッションなどを通し、これからのダイバーシティを実現するためのヒントがたくさん得られた本イベント。これからの未来、より多様な人の力が発揮できる職場になるためには……参加者にとっては、その一歩を踏み出すきっかけになったに違いありません。 

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関連情報

コミュニティスペース HAB-YU platform

聴覚障がい者参加型コミュニケーションツール LiveTalk 

株式会社Letibee

株式会社LITALICO

(写真・馬場加奈子)