子どものころ、安心できる時間はどんなときでしたか?

友達と一緒に遊んでいるとき、家族と一緒にごはんを食べる時間、一人で本を読んでいるとき。さまざまな情景が目に浮かぶのではないでしょうか。

だけど、もしそんな安心できる時間や場所を突然失ってしまったら…。

今回ご紹介したいのは、地震により仮設住宅で生活を続ける子どもたちに、安心して学習できる居場所づくりを行う「ましき夢創塾」のプロジェクト。ましき夢創塾では、地震により仮設住宅で生活を続ける子どもたちに、安心して学習できる居場所づくりを行っています。

仮設住宅に住む子どもたちが安心して学べるように

ましき夢創塾は、熊本県益城町にある放課後学校です。平日の16時半から約1時間半、益城町に2つある中学校の空き教室を1つずつ借りて、カタリバの職員と地元の大学生ボランティアが、子どもたちに勉強を教えています。

個別指導を行って子どもたちが勉強に遅れないようにサポートしたり、テスト前に復習をしたり。さらに「テスト勉強の仕方のコツ」も伝えたりしながら学習を進めているのだそうです。

また、益城町内の中学校の行事サポートの一環として、職場体験学習も行っています。地震の影響で職場体験学習の受け入れが難しい職場も多いという現状。しかし農家や、予備校講師、消防士などさまざまな職種の方と交流できるような機会をつくっているのです。

震災直後に活躍した消防士の姿が印象的だったのか、消防士は子どもたちの中で人気の職種なのだそうです。

そのほかにも、19時から21時までは2つの仮設住宅団地の集会所を間借りして、夜の学習会を行ったり、地元の大学生や地域の大人たちと自由にコミュニケーションを取れるような環境もつくっています。

震災によってこれまでの生活から急に環境が変わり、気づかないうちに心身に大きなストレスがかかってしまっている子どもたち。彼らにとっては、震災後の家庭環境や他愛もないことまで気軽に話せる場所が必要です。カタリバには臨床心理士の資格を持つスタッフも在籍しており、必要に応じて専門家の指示も仰ぎながら、子どもたちが安心して過ごせる「居場所」づくりを目指しています。

子どもたちの未来を創る認定NPO法人カタリバ

ましき夢創塾を運営しているのは認定特定非営利活動法人カタリバ(以下カタリバ)です。

カタリバでは、どんな環境で育った子どもたちも「未来は創り出せる」と信じられる社会づくりを目指して、さまざまな教育活動を行っています。

積極的に行っている活動の1つが、高校生の進路意欲を高めるために行われるキャリア学習プログラム「カタリ場」。大学生の先輩の話を聞いたり、自分の悩みや目標について話すことで、高校生がもっと自分に自信を持ち、主体的に進路を選べるようにサポートをする授業です。

そして、2011年から運営しているのが被災地の子どもたちのための放課後学校「コラボ・スクール」。現在は宮城県女川町、岩手県大槌町、福島県広野町で開かれており、ましき夢創塾もこの1つです。

カタリバでは、子どもたちが持つやる気や思いなどを大切に活動をしています。もし今の自分に悩んでいたとしても、これからの未来をイメージし、目標を持てるようになってほしい。そのような思いで、子どもたちに向き合っているのです。

寄り添うことで子どもたちの可能性を広げたい

ましき夢創塾の塾長を務めるのは、カタリバディレクターの今村 亮さんです。

今村さんの故郷は熊本県熊本市。故郷に大きな地震があったと知って、いてもたってもいられず、熊本地震の数日後には支援物資を持って熊本へ向かいました。

地震で崩れたデコボコの道を移動しながら、少しずつ「ふるさとは被災地になってしまったんだ」という実感が湧いたのです。

当時はまだまだ余震が続いており、安心して眠ることもできませんでした。昼には復旧作業をしていた人々が、夜になると車中泊をしたり、避難所に出向くために次々と車に移動を始める方も多かったそう。建物の崩壊に巻き込まれる危険性が少ない学校の校庭は、車中泊をする人でいっぱいに。多くの人が狭い車中や避難所で不安な夜を過ごしていました。

また、震災後に避難所や狭い仮設住宅に移り住んだことから、子どもたちが落ち着いて学習をできる環境を失ってしまったと今村さんは感じたそうです。

仮設住宅は壁が薄く、子どもたちは一緒に暮らす家族にも気を使いながらの生活を余儀なくされています。実際に子どもたちから「テレビを見ている家族の横では、集中して勉強することができない。でも『テレビを消して』とは言いづらい」と聞いたこともありました。

子どもたちが本当に安心できるようになるためには、安全に過ごすことができる居場所と、周囲からの支えが必要だと思ったんです。

こうした思いから、今村さんは放課後学校をつくることを決意。地震から2か月ほど経った2016年6月に、被害が最も大きかった益城町に「ましき夢創塾」を開きました。

ましき夢創塾を利用する子どもたちの中には、仮設住宅に入居したことで、これまで仲が良かった友達と離れてしまい、寂しい思いをしていた生徒もいるそうです。

さらに、地震から2年経とうとしている今でも「眠れない」「目が覚めてしまう」などの不眠の症状を訴える子どもたちも多いといいます。

被災したときの感情や経験は思い出すのも辛いものです。だからこそ、子どもたち1人ひとりがやりたいことにチャレンジできるよう、大人が寄り添ってあげたい。そうすれば、子どもたちはきっと乗り越え、可能性を広げていってくれると思うんです。

ましき夢創塾のように、気軽に集まることができて、友達や大人に悩みや思いを話せる環境があることは、子どもたちの心の支えになっています。

熊本仮設住宅最後の中学生が卒業する日まで運営をつづけるましき夢創塾

益城町に住む中学生のべ4500人が、ましき夢創塾で学びを深めてきました。現在も、200人以上の子どもたちが通っています。

子どもを持つ世帯のほとんどが、2019年3月末までに仮設住宅から引っ越しができると言われています。仮設住宅に住む中学生みんなが安心できる居場所を手にするまで、ましき夢創塾は運営を続けたいと思っています。

しかし、ましき夢創塾は国から補助をもらっての活動ではありません。使える寄付金も多くはなく、2019年まで運営を続けるためには人件費などをまかなうための資金が必要です。

そこで現在、益城町以外の人の力も借りようとクラウドファンディングに挑戦をしています。

今のわたしにできることって何だろう?

地震から約2年。瓦礫が撤去され、空いた土地には新しい建物が建ち、必要なものが手に入りやすくなり、震災前の町に少しずつ近づいているようにも見えます。

これからも、少しずつ町が笑顔を取り戻していくためには子どもたちの笑顔が必要不可欠です。そのために、私には何ができるだろうかと問いかけてみて、「被災地で活動を重ねる方の声を届けることも、小さな一歩かもしれない」と思っています。

きっと、生き生きと過ごす子どもたちの笑顔が、地域全体を元気にし、未来を変えていくことでしょう。そのためには、ましき夢創塾のように心許せる「居場所」が欠かせないのだなと感じます。

ましき夢創塾が取り組む、子どもたちが安心して学び、安心して人と関わることができる居場所づくりに共感した方は、ぜひクラウドファンディングでの応援もしていただけると嬉しいです。

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