【イラスト】花束をもって微笑むくどうさん

こんにちは。ブーケ(若い女性オストメイトの会)の工藤裕美子です。皆さんはストーマとか、オストメイトという言葉を聞かれたことはありますか。また、こういうマークをご覧になったことはありますか。

【イラスト】オストメイトを表すマーク。左下の腹部に、十字架が描かれている

ストーマ(人工肛門・人工膀胱)とは、さまざまな病気や障害、事故などが原因で、おなかに手術でつくられた便や尿の出口のこと。

そして、そのストーマがある人たちのことを「オストメイト」と呼びます。

私は20代のときに直腸がんでオストメイトになりました。同世代のオストメイト同士、悩みを相談したり話したりできる場が欲しいとの思いから、手術をしてから10年後に出会った仲間たちと、ブーケ(若い女性オストメイトの会)という会を立ち上げました。

今回はみなさんに、ストーマがどんなものか、そしてオストメイトの人たちはいったいどんな日常生活を送っているのか、お話できればと思います。

「オストメイト」、そして「ストーマ」を知っていますか?

ストーマはギリシャ語で口という意味を持ちます。ストーマになると排泄を自分でコントロールできないので、おなかにパウチ(専用の袋)を貼って排泄物をためて処理します。

ストーマのことは人工肛門や人工膀胱とも言うので、人工という言葉から、おなかに機械のようなものをつけていると想像される方もいらっしゃいます。そうではなく、ストーマは、自分の腸や尿管を使って、手術でおなかにつくられた排泄物の出口です。

永久的なストーマを持つオストメイトは、膀胱・直腸機能に障害をもつ内部障害者です。内部障害とは身体障害者福祉法に定められた身体障害の一区分。内部障害者であるオストメイトは、見た目ではストーマがあるとわからないため、誤解されやすいことが多いという悩みを抱えています。

でも実際にはオストメイトは、身体障害者手帳を持っている人だけで全国に20万人強、一時的なストーマの方も含めるとそれ以上いるといわれています。

ストーマには便が排泄される「人工肛門」と尿が排泄される「人工膀胱」があります。中には、人工肛門と人工膀胱の両方をもっている人もいます。人工肛門の場合は便を、人工膀胱の場合は尿を、我慢することや便意や尿意を感じて排泄することができなくなります。

ストーマをつくる可能性のある病気として、一般的には大腸がんがよく知られています。そのほか炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)などの消化管の病気、婦人科系、尿路系のがんや病気、そして事故や障害などでストーマをつくることも。

また、先天性の病気や小児がんで生後すぐや幼少期にストーマをつくることもあり、オストメイトには、赤ちゃんから高齢者まで幅広い年齢層の人々がいます。

ある日、突然宣告された直腸がん

私は1988年、23才のときに、直腸がんでストーマをつくりました。排便の度に出血していたのですが、痛みなどはなかったので、痔だと思い込み、1年ほどそのままにしていました。

ですが、やはり気になりはじめ病院へ。すると、検査の結果、肛門の出口のところにポリープができているとわかりました。切除のために入院をしたのですが、取ったものが悪性ということで、さらに大きく取っておかないと再発の心配が大きいとのことで、ストーマの手術を受けました。

ポリープを取れば退院して、普段通りの生活に戻れる。すぐに職場にも戻れる

私はそのくらいにしか考えていませんでした。

一度目のポリープを取る手術後の入院中に、母が医師から呼ばれました。病室に戻ってきた母に聞いても、全然話が理解できず、そのあとすぐ自分で医師に聞きに行きました。

そのとき宣告された病名は、「直腸がん」でした。

母はがんと聞いただけで、動揺してしまっていたようです。ですが、私自身は、すごく具合が悪かったいうわけではなかったため、全く実感がありませんでした。聞いたときは「ああそうですか」となんだかふわふわした気持ち。

よく「がんだと聞いて頭が真っ白になった」と聞きますが、私の場合は、まるで他人事みたいな感覚でした。

オストメイトになると聞いたときも、すごくショックだったわけではありませんでした。私は以前から病気にしても、障害にしても、誰にでも起こりうることと思っていました。もちろんそれまでとは違う排泄方法になり、戸惑いもしましたし、慣れるまでは大変でした。

でも、がんもストーマも、不思議と「なんで私が…」とか「何も悪いことしてないのに」とか、そういうことは思わなくて、「なってしまったなあ」という感じだったのを覚えています。

ストーマになってから変わったこと。変わらなかったこと

【イラスト】布団から上体を起こし窓の外を眺めるくどうさん

ストーマになって一番心配だったのは、「元の生活に戻れるのか」ということでした。

ストーマのケアはうまくできるようになるのか。
今までの服は着ることができるのか。
仕事には復帰できるのか。
職場の人や友だちに話したらどう思うだろうか。
子どもを持つことはできるのだろうか…。

段階を経て、いろんな場面で不安や心配、悩みがありました。

ストーマには括約筋がなく、排泄を我慢することができないため、おなかにストーマ用の装具(パウチ)を貼って排泄物をためて、処理をします。慣れるまでは装具がちゃんと装着できなくて剥がれたり、漏れたりといった失敗が何度もありしました。下痢になると水様便がたくさん出るため、すぐにパウチがいっぱいになるので、何度もトイレに行ったりすることも。4~5日で装具を新しいものに交換するのですが、交換しなきゃいけないと思うとその日が近づくにつれて、とっても憂鬱になったりもしていました。

私は、ストーマになった当初は毎日泣いてばかりいました。

でも日にち薬とはよく言ったもので、一日一日、ストーマのケアに慣れていくとともに元気を取り戻していきました。だんだんと、装具交換もあまり憂鬱にならずにできるようにもなりました。今ではストーマがある自分が普通になっています。

仕事はしばらく休んだあと、一旦退職することになりました。同じ職場に術後半年くらいでパートとして復帰できたときには、とてもうれしかったです。ストーマになってもそれまでと変わらず、何でもできたことは、私の自信にもつながりました。

ただ、排泄の障害は汚いと思われるのではないかと恥ずかしい気持ちが先に立ち、カミングアウトは難しかったです。ガスの音や漏れたりしないかなどが不安で、友人と外出するのも最初のころは控えたり。ストーマになったということも、本当に仲のいい友人にしか言えず、言えてない人とは一緒に出かけられなくなったりもしました。

あの頃は、職場でも上司と親しい同僚くらいにしか話せていませんでした。今では、かなりオープンにしていますが、それはこういう活動をしていて名前が表に出ることが多くなったから。もし立場が違っていたらオープンにはできていないかもしれません。

当初、私は結婚5ヶ月でストーマになり、夫婦仲はぎくしゃく。一度相手に、「もし結婚前にがんやストーマになっていたらどうしてた?」と聞いたら、「悪いけど結婚してなかったと思う」という返事でした。ショックというより、なんとなくそんな気がしていたから聞いてみたような気がします。そんなふうに思われていては一緒にいられない…。しばらくして、私は離婚しました。

その後、出会いがあり今の夫と再婚しましたが、人それぞれだなと実感しています。いろんな話を聞いてみましたが、相手によって、オストメイトであることが離婚のきっかけとなったり、結婚に何の支障もなかったり。人間いろいろですね。

ストーマのことを知ってほしい。でも同時に打ち明ける難しさも

オストメイトは内部障害なので、外見では判断ができません。最近では、オストメイト対応トイレが増えてきていますが、使用して出てきたときに、「あなたが使うところではないでしょう」と注意されたという声をよく聞きます。

そういう方々には悪気はないのだと思いますが、言われた当人はとても悲しくなってしまいます。

また、温泉や公衆浴場などでの入浴拒否もしばしば起こっています。ストーマ装具を必ず装着する等のルールやマナーを守って入浴すれば、便・尿などの排泄物が漏れたりすることもなく、衛生上の問題はありません。でも入浴施設側の理解不足や、他の入浴客からの誤解と偏見によるクレームにより、入浴を拒否される事例も発生しています。

スイミングクラブやスポーツクラブで、入会したくて説明を聞きに行ったときに、オストメイトであることを話したら断られたという話もあります。

ストーマは外見からはわからない内部障害です。どのような障害なのか一見しただけでは伝わらないため、オストメイトは周囲のストーマに関する無理解から生じる摩擦に苦しむことが少なくありません。

オストメイトは、自分の周囲の人々にストーマのことを知って欲しい、理解して欲しい、と思う反面、排泄の障害であることから、恥ずかしい、打ち明けにくいという、相反した思いを抱えています。そのため、多くの人にストーマとはどういうものか理解してほしいけれど、一方では偏見にさらされるのではないかという恐れから、自分がオストメイトであることをカミングアウトできない人もたくさんいるのです。

たくさんのオストメイトの先輩に支えてもらえたから、ひとりじゃないと思えた

【イラスト】「You are not alone」と書いたボードを持つくどうさん

私自身は、20代でオストメイトになってからたくさんの方に助けていただきました。手術を受けた病院では嫌な思いをしたこともありましたが、退院後に入会したオストメイトの人たちが集まる「公益社団法人 日本オストミー協会」での出会いは、私の沈んだ気持ちを変えてくれました。70代前後の方が多く、同世代の方はいませんでしたが、それでもオストメイトの皆さんと一緒にいることで、私はひとりじゃないんだと実感することができました。

そして、初めてストーマを診てもらった専門ナース、診察時間を長くとって私の愚痴をいつも聞いてくれた先生、何度も電話をしていろんな相談をしていた当時ストーマ装具メーカーに勤務されていた女性オストメイトの大先輩…。たくさんの出会いが、ストーマになってからの私の人生を支えてくれています。

前述の国内で一番大きなオストメイト団体「日本オストミー協会」には、術後すぐに入会しました。支部のみなさんと仲良くなって、私は「悩んでいるのは自分一人ではないんだ」と安心できました。いろいろな情報も教えてもらって、元気にもなれたし、「ストーマでも大丈夫、何でもできる」と自信がつきました。

ですが、平均年齢70才を超えている団体では、20代の私にとっては、自分の親よりも年上人ばかり。ストーマに関する悩みや問題はある程度解決できても、世代間のギャップは埋められず、20代の悩みを相談できる機会はほとんどありませんでした。

結婚生活のこと、妊娠や出産のこと、仕事のこと、カミングアウトのこと…。様々なことを話せる、分かり合える、同世代のオストメイトに出会いたいとずっと思い続け、それから10年経って、やっといい出会いがありました。

オストミー協会兵庫県支部主催の女性だけの集まりが開催され、同世代の女性オストメイトに出会うことができたのです。そしてみなさんと話をするうち同じような悩みを持っていることがわかり、若い世代の女性悩みを話せる場を作りたいという話になりました。

その後何度も話し合いを重ね、出会いから1年後の1999年に「ブーケ(若い女性オストメイトの会)」はスタートしました。最初は、誰も入ってくれなくても、自分たちだけでもいいよね、という思いでした。

まずはあいさつを兼ねた会報を作り、オストミー協会の支部や知り合いのナース、ドクターなどに「若い年代の女性オストメイトがいたら渡してほしい」とお願いしました。そこからスタートしたブーケは、少しずつ会員が増えていきました。

励まし合うことで勇気づけられる、「ブーケの会」

ブーケは、どんどんと全国に輪が広がり、現在は10代から50代の女性を中心に約400人の会員が登録しています。会員の中には、オストメイトではありませんが、ブーケの趣旨に賛同してくれた専門のナース(皮膚・排泄ケア認定看護師)も10数名いて、当事者だけでは解決しきれない悩みや相談に乗ってくれます。

活動としては、会報の発行、座談会や食事会などの行事が中心。他にも恋愛・結婚の悩みをはじめ、妊娠・出産、仕事のことや日常生活など、若い女性オストメイト特有の悩みを話し合える場を提供しています。

たとえばAさんは24才の時、直腸がんでストーマになりました。入院中にナースから、新聞記事の切り抜きをもらったことで、すごく勇気づけられたそうです。それは、私が取材を受け、自分の体験とブーケのことを話した記事でした。

同じくらいの年で、同じ病気になり、ストーマになった私の記事は、「ひとりじゃないんだ」と思うことができたそうです。

Aさんは退院後ブーケに入会しました。その後、素敵な出会いがあり、結婚。妊娠・出産することもできました。病気になり、ストーマになり、彼とも別れ、仕事もやめることになり何もなくなったしまった…と思っていたAさん。でもブーケと出会ったことで、前に進むことができたそうです。

ストーマがあることで、妊娠・出産への不安を抱えている人は多くいます。ブーケには出産経験者も多いため、会報に体験談を掲載したり、希望があれば当人同士直接話したり相談したりできる機会を作っています。

もちろん、ストーマをなかなか受け入れることができない方も多くいます。なかなか私たちに悩み相談をしてくれない方でも、会員専用のメーリングリストに参加し、他の会員とメールを交わすうちに、少しずつ少しずつ元気になっていったりします。ストーマを受け入れることはできなくても、行事にも参加して楽しんでくれる人も。

ひとりじゃないんだ、同じ思いをしている仲間がいるんだ。それを実感できるだけでも、ブーケは誰かの役にたてているのかなと思います。

ストーマがあっても、学校も仕事もいける。恋愛も出産もできる。

【イラスト】花束を持って微笑むくどうさん

若い年代でオストメイトとなった場合、恋愛や結婚、妊娠、出産、学校生活、就労、社会生活など様々な問題に直面します。

でもストーマがあっても、普通に恋愛ができる。結婚ができる。子どもを持つことができる。

学校に行く、仕事に就くこともできます。

世間の誤解や正しい情報を得られないことから、「私には無理かもしれない」と思ってしまう人もいます。

もちろん病気や身体の状態によって、無理なこともあるかもしれませんが、それでもたいていのことはあきらめる必要はありません。

病気になったこと、ストーマになったことを悩んで生活するよりも、一度きりの人生、楽しまなきゃ損です。

ひとりじゃないと思えるだけで元気になれる。

ブーケはそんな思いで活動しています。もしもオストメイトで、一人で悩んでいる方がいたら、ぜひ一度連絡してみてください。

たくさんのひとに「オストメイト」を知ってほしい

最後に、オストメイトに馴染みがないみなさんにお伝えしたいことがあります。

最近、駅や公共のトイレなどで、おなかの部分に十字が描いてあるマークを見かけることが多くなりました。いったい何のマークだろう?と思われる方もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。

このマークは、オストメイトを表しています。オストメイトは排泄物をおなかに貼ったパウチにためてからトイレで処理するのですが、このマークのあるトイレは、オストメイトが排泄物を処理しやすい工夫が施されています。

オストメイトは全国に20万人以上います。病気や事故などの治療のために、排泄の場所を変更しなければならなくなったオストメイト。排泄の仕方は違っても、皆さんと同じように、日常生活はもちろん、学校や仕事、スポーツや旅行など楽しんでいます。妊娠・出産されている方もたくさんいます。便や尿の出るところが違うだけで、何も特別なことはありません。

オストメイトへの手助けは、普段、特に必要ありませんが、オストメイトトイレや身障者用トイレからなかなか出てこなかったり、出てきた人が元気そうに見えたりしても、「元気な人がなぜここを使っているんだ!!」ではなく、「あ、この人はオストメイトなのかな」と思っていただければだいたい当たっているかもしれません。

温泉や銭湯で、おなかのあたりに何か袋がついている人、大きな絆創膏のようなものを貼っている人を見かけたときも、その可能性があります。

見た目ではわかりづらい内部障害者であるオストメイトは、周囲の誤解からつらい思いをすることがあります。そのような状況が少しでも変わるよう、私たちは2014年に、「オストメイトを知ってもらおうプロジェクト」を始動しました。

オストメイトへの理解が進み、オストメイトの社会的認知が広がることを願い、オストメイトマークストラップやポスターの作成、「オストメイトってなに?」という小冊子作成など、オストメイトの認知度向上のための活動を続けています。

一人でも多くの方に、「こんな人たちもいるんだ」と、オストメイトの存在を知っていただけるとうれしいです。

関連情報 :
ブーケ(若い女性オストメイトの会) ホームページ
公益社団法人 日本オストミー協会 ホームページ
オストメイトを知ってもらおうプロジェクト 詳細はこちら

(イラスト:ますぶちみなこ)