もし、突然災害に遭遇したとしたらどうしますか?多くの人は、危険を感じたらすぐに走って逃げ出すことが出来ます。でも、高齢者や小さな子どもは、誰かのサポートを得なければ逃げることができません。 2016年4月に起きた熊本の地震では、高齢者や子ども、障害者など社会的に支援が必要な人々への対応が大きな課題となりました。非常時における彼らへのサポートは、特に重要であるはず。しかし、サポートを向上させる取り組みが、これまであまり進んできませんでした。 今まで結びついていなかった防災と福祉。この2つの領域ををつなぐ架け橋となる商品「LOOPS」がリリースされました!

防災用品を使ったおしゃれなブレスレット

【写真】4本の腕には実際にるーぷすが身につけられている。 LOOPSは、黒やチャコール、グレーの編み込みがスタイリッシュなブレスレット。実は、パラコードという防災用品を使って作られているアクセサリーなんです!パラコードはほどくと長いロープになり、災害時には荷物をしばったり、避難所で布をかけて仕切りにしたり。様々な用途に使うことが出来ます。 LOOPSのパラコードの編み込みは、愛知県にある福祉作業所が担当しています。防災と福祉という、異なる分野の掛け合わせは、どのようにして生まれたのでしょうか。

若い世代が防災に関わるきっかけをつくりたい

LOOPSを手掛けるyamory代表の岡本ナオトさんに、商品誕生のストーリーと、その背景にある防災と福祉の関係について、お話を伺いました。

【写真】笑顔でインタビューに答えるおかもとさん

yamory代表の岡本ナオトさん。

岡本さん:防災にかかわるようになったきっかけは、東日本大震災です。被災地復興に必要なのは仕事なんじゃないかと思い、被災地に雇用を作るプロジェクトを立ち上げたんですよ。けれど、そのプロジェクトは頓挫してしまって。ちょうどそのとき、非常食の宅配サービスとして展開していたyamoryに出会いました。そのコンセプトやサービスの内容が素晴らしいなと感動して、もっとyamoryを広めたいと思い、手伝うようになったんです。

こうして岡本さんは、2013年1月に前代表からyamoryの代表を引き継ぎました。

【写真】車椅子に乗ったりや高齢者体験をしながら街中で避難訓練を行う人たち

「[ ] to HOME」というyamoryの避難訓練のプログラムの様子。土地勘の無い場所で、ハンディのある人たちといかに素早く避難するか体験することができます。

岡本さん:防災って地味だし、発信力が弱くて訴求力がないんですよね。防災イベントをやっても若い人は集まりません。それは企画が面白くないからだと思って、楽しい仕掛けをしようと色々やってみたんです。結果として自分たちyamoryの活動領域も広がりました。

従来の防災の領域を超え、様々な活動を展開させてきた岡本さんでしたが、イベントを開催したり、プログラムを行う中で、ある葛藤を抱えるようになります。

岡本さん:企画を面白くして、人を集めてイベントをやると、参加者も楽しんで帰ってくれます。でも、イベントが終わった次の瞬間、防災のことを忘れちゃうんじゃないかと感じることがあって。 それなら、「ボウサイ」を前面に打ち出すことをやめようと思いました。何かものを買ったり、楽しそうだからとイベントに参加した結果、実は防災につながっていたっていうことが出来れば、もっと人々の防災力が自然に上がるんじゃないかと思うようになったんです。

「おしゃれ、かわいい」から踏み出す防災への第一歩

日常からの延長上にある防災への入り口づくりとして、岡本さんたちが新しく始めた取り組みがLOOPSです。 ブレスレットに使われているパラコードは汎用性が大きく、日常生活に取り入れやすい機能を持っています。その防災への架け橋としての可能性を感じ、アクセサリーとしてリデザインして販売することを決めたそうです。

岡本さん:yamoryの主な支持層って、実は30代の主婦で子どものいる女性なんです。でも、一番の支持層にマッチしたアイテムやサービスがこれまでなかったんですね。彼女たちはコストに対してシビアだし、余計なものはあまり買いません。LOOPSは1000円、2000円くらいで買うことが出来て、しかも防災につながるプロダクトだから、彼女たちも手に取りやすいんですよね。

【写真】椅子に置いてある鞄にはアクセサリー感覚でるーぷすがつけられている

障害者や高齢者の防災をデザインの力で変えたい

LOOPSのパラコードは、愛知県岩倉市にある福祉作業所によって編み込みが行われています。 福祉と関わるようになったきっかけは、岡本さんが障害者や高齢者、小さい子どもたちへの災害時の対応に抱いた違和感でした。

岡本さん:災害時に特別なサポートが必要な人々は、災害時要援護者と呼ばれます。障害者や高齢者、小さい子どもや外国人など、まったく異なる特徴を持つ人々が、1つの言葉の中に含まれているんです。 でも障害のある方だって、障害の種類や程度で必要なサポートが全然違いますよね。身体に障害のある方や、高齢者は、どうしても逃げるのが遅くなってしまいますし。 災害時にサポートが必要な人々への対応は、まだ解決しなければいけない課題ばかりなんです。

災害時の社会的マイノリティの人々に対するサポートが、様々な課題を抱えていることに気づいた岡本さん。一方で、社会的課題の解決に対して、「デザインの力」が強い影響を持つようになっていることも感じます。

岡本さん:最近、デザイナーが福祉施設の商品を一緒につくることが増えてきました。自分たちの会社も、デザインをきっかけに社会課題を良くするサポートがしたいと考えていたので、防災と福祉に関しても、何か出来ることはあるんじゃないかと思うようになったんです。 でも、福祉分野とのつながりが全くなかったので、何をしたらいいのかわからなかったんですね。

自分たちが持っている能力を、障害者や高齢者の人々の防災にもっと役立てたい。でもどこから手をつけていいのかわからない。岡本さんは、自分たちが何も知らないということを受け入れ、まず福祉について知ることから始めようと決心します。

岡本さん:福祉施設やそこに来ている障害のある人や職員さんたちと関係性を作る。そうすることで、初めて自分たちには何が出来るのかということを考えられるんじゃないかと思ったんです。それでLOOPSを始めるにあたって、福祉作業所にお仕事をお願いさせていただくことに決めました。

【写真】ミシンの前で真剣な表情でパラコードを編む利用者さん

愛知県岩倉市の福祉施設「就労継続支援B型いいわーくす」の利用者さんがパラコードを編んでいます。

LOOPSが防災と福祉の架け橋に

こうしてスタートした防災と福祉の関係性づくり。岡本さんたちは、少しずつ関係性を深めていくきっかけを探っているところなのだそう。

岡本さん:先日、施設のスタッフの方から、他人には自分の言葉が全く発せなくなってしまうという障害のある人の話を聞きました。この方は、もしかしたら災害にあったときに、言葉が発せなくなくなってしまうかもしれない。だから周りの人がすぐに気づいてサポート出来るよう、何か個人の情報が載っているものを持たせられないだろうかということだったんです。 でも、自分がその人だったとしたら、幼稚園の子がしているようなネームカードをぶらさげるのには、少し抵抗がありますよね。ちょっとかっこよかったり、おしゃれに見える。そういう自分が素直に「持ちたい」と思えるものを作れたら、喜んでもらえるんじゃないかなって思ったんです。

障害者や高齢者の防災の現状を、少しでも良い方向に向かうサポートをするために、もっと福祉との関係性を深めていきたいと岡本さんはいいます。

岡本さん:これまでも福祉に対して興味はあったんです。でも、自分の身近なところに接点がなかった。正直なところ、障害者や高齢者のことを、どこか遠い存在のように感じることもありました。 そんな自分を変えるためにも、福祉についてもっと知りたいし、理解したい。LOOPSが、今までの自分、そして周りの人たちを、今まで関係性がなかったところに近づけてくれる、橋渡しのようなアイテムに育っていくといいなと思っています。

日常生活の延長から、防災や福祉へのきっかけを見つけるために

【写真】様々な種類のるーぷすを手に取り見つめる女性 防災と福祉。どちらも、いま日本社会が背負う大きな問題です。 若い世代を中心に、こうした問題に対する人々の関心はあまり強くないと言われています。けれど本当は、出来ることなら何か自分関わりたいと思う人も少なくないはず。私自身、防災に関してもっと行動できることはないだろうかと思ってはいるものの、なかなか具体的なステップが踏み出せず、もどかしく感じることがあります。 もし、日常生活の延長上にあるものが、防災や福祉につながっていたとしたら。もっと気負うことなく、防災や福祉に関わることが出来る人が増えるのではないでしょうか。そうした人が増えることによって、障害者や高齢者のような災害時に支援を必要とする人々が、少しでも良いサポートを受けられるようになることを願っています。 気軽に身に着けることから防災や福祉との関係性をスタートできる。LOOPSのような選択肢が、世の中にもっと増えていくことを楽しみにしたいと思います! LOOPSは、現在製作資金を募るクラウドファンディングに挑戦中です!気になる方はぜひ参加してみてください。

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