【写真】ボールを追う電動車椅子の選手たち。集中している様子が伝わってくる。

©JPFA Referee Commission

人は夢や目標を持つことで日々を生き生きと過ごすことができます。一方で、それをあきらめざるをえない状況になるのは苦しいもの。

私の友人も、身体の故障によって打ち込んできたスポーツの夢をあきらめなければならなくなり、意気消沈していた時期がありました。彼女は他に目標を見つけて立ち上がりましたが、その心境に至るまでにはずいぶんと葛藤があったようです。

今回ご紹介する「電動車椅子サッカー」は、重度の障害がありながらも世界の頂点を目指し、大きな夢を描いている選手たちがたくさんいるスポーツです。

手、あご、足など身体の一部が動けば誰でもできるので、今までスポーツをすることをあきらめていた人も、電動車椅子に乗ればプレイできる。そして、頑張れば全国で活躍できる選手になれる。

まだ日本ではあまり知られていないスポーツですが、選手たちは今、大きな挑戦をしようと一歩踏み出そうとしています!

指先で動かし全身でぶつかる。電動車椅子サッカーの魅力とは

電動車椅子サッカーは、ジョイスティック型のコントローラーを操りプレーする「足で蹴らないサッカー」です。バスケやテニスなどの車椅子スポーツは腕の力が必要とされるものも多いのですが、電動車椅子サッカーは指先やあごで車椅子を操ってプレーするため、比較的重度な障害があっても競技することができます。

1チーム4人、20分ハーフで行われ、ピッチはバスケットボールとほとんど同じ。車椅子にとりつけたフットガードというフレームをスパイクがわりに、直径約32.5cmのボールをさばきます。

【写真】電動車椅子サッカーのワールドカップでの様子。それぞれが懸命にボールを追っている。

2011年にフランス・パリで行われた第2回電動車椅子サッカーW杯の様子。

そのプレーの様子は、非常に激しいもの。国際的に“Power Chair Football”と言われるとおり、パワフルな戦いがピッチの上で繰り広げられます。車椅子がぶつかりあうような激しいボールの奪い合い、のびやかなパス。そして、360°回転してボールを打ち込む回転シュート!華麗な技を次々に決め、仲間との連携でゴールを奪うその様子は、目が釘付けになるほどの迫力です。

あきらめていた人もアスリートになれるスポーツ

現在、日本には約300人の電動車椅子サッカーの選手がいます。なかには、手足が不自由で歩くことや手動の車椅子に乗るのが困難だったり、上体や首の保持が難しかったりと、重度な障害を持つ方も。これまで身体的なハンデから、やりたいことをあきらめてきた方も少なくありません。

しかし電動車椅子サッカーは、身体の一部を動かすだけでプレイすることができ、全国で活躍する選手になることも可能。障害の重さにかかわらず選手全員が平等に夢を見ることのできるスポーツなのです。

重度な障害が多いけれど、それを感じさせない。サッカーの素晴らしい魅力が詰まっているスポーツです。

そう語るのは、2015年度関東代表チーム監督の眞島さん。

サッカーをプレイするにあたって、選手は自分の体の状態をチームメイトやスタッフに伝える必要が出てきます。眞島さんによると、障害としてではなく、自分の“個性”として体の状態を伝えられることで、「自分のやっているサッカーはスポーツだ、自分はアスリートだ」と思える選手が増えているのだそう。

電動車椅子サッカーとの出会いによって人生が変わった選手はたくさんいると話します。

【写真】審判やスタッフと笑顔を交わす選手たち。

©JPFA Referee Commission

3回目のW杯で目指すのは世界の頂点

2017年7月、アメリカのキシミー市で開催される「第3回FIPFAワールドカップ」(電動車椅子サッカー世界大会)に日本代表チームも出場することが決まっています。第1回大会は全7チーム中4位、第2回大会は全10チーム中5位という成績でした。今年の第3回大会で目指すのは、もちろん優勝!以下でご紹介するのは、本気で世界の頂点を目指している選手たちの決意表明です。

東武範さん:僕の目指しているのは日本代表になることではなく、日本代表になって世界の頂点に立つことです。そのために己の全てを捧げ、結果を残します。結果を残し、たくさんの方にこの競技を知るきっかけになれたら最高です。

【写真】体育館で練習をするとうぶさん。

電動車椅子サッカー選手、東武範さん

塩入新也さん:これまでの合宿を通して選手皆んなで創り上げてきたサッカーをW杯で出し切り「優勝する」という目標をチーム一丸となって戦ってきたいと思います。

【写真】真剣な眼差しでボールを追う、しおいりさん。

電動車椅子サッカー選手、塩入新也さん

結果にこだわるアスリートとしてのまっすぐな決意、そしてこのスポーツを日本で広めていきたいという強い意志が伝わってきます。

そんな選手たちを応援すべく、日本電動車椅子サッカー協会では現在クラウドファンディングに挑戦中です。

資金は、W杯を戦う代表選手8名分の渡航費と、選手たちの生活を支える介助者、現地滞在費の一部として使われます。日本から海外への移動や電動車椅子のメンテナンス費用、また帯同する介助者分の渡航費用などの負担を軽減することで、選手たちの挑戦を後押しすることができます。

障害の重さにかかわらず同じ夢を見たい

現在、日本代表として活動するメンバーであっても、「プロ」として契約している方はひとりも存在しません。

平日は一般企業に勤めながら、週末に所属チームと合流して体育館で練習。そして、車椅子のメンテナンスや遠征費などを自己資金でやりくりしています。年間で200万円程の資金が必要だという厳しい現状の中、必死に働き挑戦を続ける選手たち。金銭的なサポートが求められています。

【写真】会社でミーティングに出席する選手。穏やかな空気が流れている。

選手は皆、会社に勤めながら活動を続けています。

日本電動車椅子サッカー協会の松下さんは言います。

歩くことが出来なくなる。それは私達の想像を遥かに超えるほど、辛いことです。障害の度合いによっては生きていくこと、生活することも大変です。

電動車椅子サッカーは彼らの生きる希望になっています。彼らは電動車椅子に乗ると、笑顔で躍動します。ダイナミックで華麗なプレーを見ていると、彼らに障害があることを忘れてしまうほどです。

【写真】体育館で並ぶ3人の選手たち。楽しそうな雰囲気が伝わってくる。

ピッチの上で、障害の重さは関係なし。サッカーの実力がすべてです。

選手たちの姿から、思い描く夢の大きさもまた、障害の重さによって変わることはないのだという力強いメッセージが伝わってきます。電動車椅子サッカーがもっと多くの人に知られるメジャーなスポーツとなれば、「障害があったとしてもチャレンジをしたい」という人も増えていくかもしれません。また、試合での選手たちのエネルギー溢れるプレイは、見る人にも大きなパワーを与えてくれるのではないでしょうか。

今回のワールドカップへの出場がそのきっかけとなるよう、ぜひたくさんの方に選手たちの夢を応援していただけると嬉しいです。

関連情報:
日本電動車椅子サッカー協会が挑戦しているクラウドファンディングはこちら

日本電動車椅子サッカー協会ホームページ
http://www.web-jpfa.jp/

電動車椅子サッカー紹介動画
https://www.youtube.com/watch?v=c1Hdr9RqHz0
https://www.youtube.com/watch?v=pkd2Pj4PzEU