【写真】BORDERLESS WEARの画面。男性が背中を向けて立っていて、凛とした空気が漂っている。

朝起きて、服を着る。今日の予定や気分、天気なんかと相談しながら、今日の一着を選ぶ。これを着たら、どんな自分になるだろう、どんな今日が待っているだろう。

そんなイメージをしながら、毎日着る服を選ぶ人は多いと思います。そして、ファッションが自己表現の手段になっている人もいるでしょう。

もし、そんな大好きな洋服を選ぶ自由と楽しみがなくなってしまったら?

たとえば、自分の腕が動かなくなるとする。お気に入りのシャツのボタンを留められない。ネクタイも締められない。私は、好きな服が着れない日々をもどかしく感じ、おしゃれをしたいと思うでしょう。

“BORDERLESS WEAR” 「すべての人が、快適にカッコよく着られる服を。」

そんな心配を吹き飛ばすファッションブランドが始動しました。すべての人が快適にカッコよく着られる服を届ける、ボーダレスウェアのファッションブランド『01』です。

ALS患者であり、ALS啓発団体「WITH ALS」の代表である武藤さん

【写真】街頭に立つむとうさん。腕を組み、こちらに笑顔を向けている。

『01』を立ち上げたのは、ALS患者である武藤将胤さんです。武藤さんはもともと広告プランナーとして活躍しており、プライベートでは音楽やファッションのイベントをプロデュースなどもしていました。そんな充実した日々を過ごす中、2014年10月にALSと診断されたのです。

ALSは、筋萎縮性側索硬化症と呼ばれる難病。体を動かす運動ニューロン(運動神経細胞)が侵される病気で、手足を動かすことが難しくなり、次第に食事や会話、コミュニケーションも困難になります。

発症してからの平均余命は3~5年と言われ、世界で35万人、日本には約1万人の患者がいます。極めて進行が速い病気で、現在治癒のための有効な治療法は確立されていません。

症状が進んでいく中でも、自分の言葉でALSについて発信していきたい。自分自身にできることを行動し続けていきたい。

そう決意した武藤さんは、一般社団法人「WITH ALS」を立ち上げました。

ALSの理解と患者のQOL向上を目指す「WITH ALS」

【イラスト】WITH ALSのロゴ。太い線で描かれていて、力強さを感じる。

「WITH ALS」は、ALS患者やその他難病患者、ご家族、非患者のQOL(Quality of Life)を向上させるため、ALSへの理解を促し、治療方法や支援制度を向上させることを目指しています。

活動のアプローチは、大きく2つあります。ひとつは、ALSや武藤さんのメッセージを伝える「Communication」というプロジェクトです。ホームページでは、「LIFE LOG」と題した映像が公開され、武藤さんの強い思いが語られています。

また様々なイベントで講演をしたり、学校で子どもたちに向けてALSや自身の思いを伝える授業を開催するなど、様々な方法で発信を続けてきました。

【写真】イベントで仲間とともに並ぶむとうさん。マイクを向けられて、前を見すえて話をしている。

 【写真】体育館で学校の子どもたちと一緒に集合写真をとる、むとうさん。明るい雰囲気が漂う。

もうひとつは、ALSや様々な障害と闘う人と健常者の垣根を超え、それを支えるテクノロジーを支援していく「人TECH」というプロジェクトです。

たとえば、JINS MEMEとコラボレーションした「FOLLOW YOUR VISION プロジェクト」。 音楽イベントでDJをすることができなくなってしまった経験から、ALS患者が発症後も比較的、正常に機能を保つことができる眼球の動きに注目し、DJとVJを眼の動きだけで同時にプレイするシステムを開発しました。また、その仕組みを応用して、照明、エアコン、カメラなど様々な電子機器をコントロールするアプリの開発をしています。

以前soarでは、電動車椅子「WHILL」によるALS患者向けの生活支援サービスについて、こちらの記事で取り上げさせていただきました。

「WITH ALS」では、年に1回必ず決めていることがあります。

武藤さん:毎年「WITH ALS」は、世界ALSデー、6月21日に新しいプロジェクトを発表して、ALSの患者さん・ハンディキャップを抱えた方に、明るくかっこいいニュースを必ず届けようと決意して活動を続けています。今年のALSデーには、僕たちは『01』というファッションブランドを立ち上げることにいたしました。

すべての人が垣根なく、快適にカッコよく着られる洋服を

武藤さんはプロモーション映像の中で、『01』の立ち上げのきっかけには、大好きだった洋服を着れなくなった実体験があったと話します。

武藤さん:実は僕自身も、約3年9か月前にALSを発症してから、どんどん日に日に手足が動かなくなってきています。大好きだった洋服も着れる服がどんどん限られていて、例えばボタンを留めることができず、シャツがもう着れなくなったりとか、ジップをあげることができず、ジーパンが履けなくなったりとか、本当に着れなくなった服というのがたくさんありました。

その経験をもとに武藤さんが考えたのが、障害の有無に関わらず、誰もがファッションを楽しめるブランドをつくるということでした。

武藤さん:僕たちWITH ALSはすべての人に、快適にカッコよく着てもらえる服を届けたい。そう思って、自分たちでファッションブランド、洋服という形で今回はコミュニケーションしていきたいと思って、ブランドを立ち上げることにしました。

【写真】BORDERLESS WEARの画面。男性が背中を向けて立っていて、凛とした空気が漂っている。

洋服は、すべての人がファッションを楽しめるように、工夫されています。

武藤さん:機能性とデザイン性、この2つをとても大切に追求してきました。デザイン性に関しては、スウェット素材であってもカッコよく着れる上質なものを追求してこの洋服を作りました。機能性という部分では、ボタンがつけられなくなったことでマグネットというボタンで代用できないか、また右腕にICカードのホルダーをつけることで、キャシュレスでも改札や自販機など日常生活を便利にできないか。そういった形で機能性というものを追求してきました。

ファッションにバリアがない世界を目指して

障害の有無に関わらず、ファッションを楽しむことができるような工夫は、徐々に広まってきました。しかし、ハンディキャップを抱える当人の実体験に基づいて、機能性とデザイン性の両面を追求した洋服は多くありません。

【写真】外で景色を見ながら、車椅子で佇むむとうさん。

武藤さんはこう語ります。

武藤さん:ハンディキャップを抱えた方も、健常者の方も、垣根なく着れるボーダレスウェアとして、このブランドを今日、始動していきたいと思います。

『01』には、「人は自らの意思で0から1を生み出すことで、 きっと世界は広がる、世界は変えられる。」という武藤さん自身の思いが込められています。これまでファッションを我慢していた人も、「これなら楽に着られるし、おしゃれだ」と、きっと可能性が広がるのではないでしょうか。

武藤さんの新たな一歩は、人々がどんな状況であってもファッションを最大限に楽しめる社会に向けての大きな一歩だと感じます。現在はオンラインショップから購入が可能ですので、気になる方はぜひ公式ホームページをご覧ください。

関連情報:

BORDERLESS WEAR 01 ホームページ

一般社団法人WITH ALS ホームページ

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