【写真】メガネ型ウェアラブルデバイス「JINS MEME」を使ってパフォーマンスをするむとうまさたねさん

私たちにとって、人生はいつも変化の連続。仕事、結婚、子育て、介護…。いい変化もあれば、ときに辛い変化もあります。

私自身、どんな変化も味方につけて、いい流れに変えていきたいと思いながら生きています。でも、ある日突然、大きな病という形で予期せぬ変化が訪れたら…?

コミュニケーション・クリエイターの武藤 将胤(むとうまさたね)さんは、約4年半前に突然ALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病を発症しました。体の自由が徐々に失われていくという困難な変化に立ち向かいながらも、武藤さんは、これまで誰も見たことがない「世界初の眼で奏でるミュージックフィルム」の制作に挑戦しようとしています。

眼の動きだけで、音楽と映像を奏でる!?世界初のミュージックフィルム

【写真】ライブ会場の背景に、むとうさんの名前が表示される

「世界初の眼で奏でるミュージックフィルム」は、EYE VDJというパフォーマンスによって初めて制作されるミュージックフィルムプロジェクトです。

EYE VDJとは、眼の動きだけで、DJ(ディスクジョッキー)・VJ(ビジュアルジョッキー)を同時にプレイし、国内外の音楽イベントやフェスでパフォーマンスをする活動のこと。これには、メガネ型ウェアラブルデバイス「JINS MEME」を活用したシステムが使われています。

JINS MEMEの眼電位技術は、視線の移動やまばたきの情報をリアルタイムで取得して、独自のアルゴリズムによりデバイスを動かすための信号に変換することができるものです。こうした技術を使って、眼の動きだけで音楽や映像を融合し、パフォーマンスをすることが可能になります。

そんなEYE VDJのパフォーマンス活動を通じてコンセプトが生まれ、制作されることになったミュージックフィルム。ミュージックフィルムを通じて、ALSへの認知・理解を広げ、研究開発費を集めることを目指しています。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)は、体を動かす運動ニューロン(運動神経細胞)が侵されて、体の自由が徐々に失われていく病気です。世界に35万人、日本にも約1万人の患者がいます。

「世界初の眼で奏でるミュージックフィルム」プロジェクトを主導している武藤さんも、手足を動かしたり、声を出したりすることが難しくなり、今は呼吸困難の症状も出始めているそうです。ただ、ALS患者は発症後も、眼球の動きは正常に機能を保つことができると言われています。これに着目して、武藤さんは、眼の動きだけでEYE VDJのパフォーマンスをすることを思いついたのです。

メガネ型ウェアラブルデバイスを使った、ALS啓発音楽フェス「MOVE.FES」でのパフォーマンス

ALS患者の世界を明るくするために。さまざまな可能性を広げる「WITH ALS」

【写真】WITH ALS のロゴ

独創的なミュージックフィルムプロジェクトを担うのは、武藤さん率いるALS啓発団体「WITH ALS」。ALS患者の症状や環境への認知・理解を広げ、治療方法や支援制度を向上させることや、ALSやその他の難病患者、その家族や周囲の人びとのQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を上げていくことを目指しています。

WITH ALSのスローガンは、「NO LIMIT, YOUR LIFE」。全ての人の人生に、きっと限界はない。そのスローガンのとおり、これまで誰も見たことがないような数々のプロジェクトに取り組んできました。

キーワードは、「コミュニケーション」と「人を支えるテクノロジー“人TECH”」。

例えば、ボーダレスウェアブランド「01」は、手足の自由が限られる人など、あらゆる障害の有無にかかわらず、「すべての人が、快適にカッコよく着られる服」を提供します。

【写真】ウェアブランド「01」の服を着て佇むモデル

また、若年ALS患者のために次世代型電動車いす「WHILL」をレンタルシェアするサービスも、昨年からスタート。介護保険が適用されない40歳未満のALS患者にとって、高額な電動車いすは手が出しづらいものです。けれど、このサービスがあれば若年層ALS患者の行動の自由が大きく広がります。

【写真】屋外でWHILLに乗り移動する男性

どのプロジェクトも、映像や音楽、ファッションなど多様なコミュニケーションツールと、最新のテクノロジーの融合により、「すべての人に」表現の自由を、ファッションを楽しむ自由を、行動の自由を届けるものです。まさに、クオリティ・オブ・ライフを向上して、未来を明るくするプロジェクトといえます。

傍観者でいたくない。未来のために行動し続けたい

【写真】真剣な眼差しでインタビューにこたえるむとうまさたねさん

「WITH ALS」代表の武藤さんは、元々広告プランナーの仕事をしながら、プライベートでも音楽やファッションのプロデュースをするなど、エネルギッシュに活動していました。そんな最中、28歳という若さでALSを発症。「なんで自分なんだろう」「どうしてこのタイミングなんだろう」と、悩み、苦しんだといいます。

でも、武藤さんの心には、次第にこんな思いが芽生えてきました。

ALSになった今だからこそ、社会を明るくするアイデアを形にしていくコミュニケーションをつくるのが、自分に与えられたミッションなんじゃないか。ALS患者の世界を明るくするために、今まさに自分が実践するべきなのでは。

医師から宣告を受けた3ヶ月後には、自分の症状やこれから目指す活動を伝える動画を配信。凛とした表情で、「ALSだからといって自分の夢や成し遂げたいことをあきらめるつもりはない、行動し続けたい」と語る武藤さんの前向きな姿勢とパワーには、ただただ刺激と感銘を受けます。

発症直後に配信を始めた動画 ALS患者の症状や取り巻く状況を理解してもらい、治療方法や支援制度を向上させたい。ALSやその他の難病患者、その家族や周囲の人びとのQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を上げていきたい。そんなことを目指して立ち上げられた「WITH ALS」は、常に止まることなく、新しいプロジェクトを生み出しています。

「20年後の未来、必ずALSは治る病気に」。世界初の眼で奏でるミュージックフィルムにかける思い

【写真】屋外で車椅子に乗り微笑むむとうまさたねさん 武藤さんの揺るぎない行動を、ずっと支えているのは、「ALSを治る病気にする」という強い思いです。発症当時の映像でも、「絶対に最後まであきらめずに、この病気を治します」と力強く話していました。ただ、現在もALSの治療法は確立されていません。 ALSが進行すると、最終的には呼吸障害を起こすため、延命のための人工呼吸器の装着が必要となります。武藤さん自身も、延命処置として気管切開の手術を受け、人工呼吸器をつけることを決心しました。こうした延命処置については、QOLをどう考えるか、経済的な負担や介護体制など、さまざまな課題が関わってきます。 それでも武藤さんが延命措置を決めたのは、自分の行動で未来を変えていくため。

僕は、ALSという難病がいつか治ることを本気で信じています。その日まで、自分らしく行動し続けたい。絶対に生き切りたいと思っています。

【写真】ライブ会場でミュージックフィルムを操作するむとうまさたねさん ALSの治療薬や治療方法の研究開発を、もっともっと進めるために、何ができるか。そう考える中で、さらなる一手として生まれたのが、世界初の眼で奏でるミュージックフィルムでした。

20年後の未来、きっとALSは治る病気になっていると、僕たちは信じています。ALSの進行によって、声を徐々に発することができなくなった今だからこそ、僕はミュージックフィルムの力で、国籍、文化、障害、マイノリティ、さまざまな垣根を超えてつながり、伝えたいです。「KEEP MOVING(行動し続けよう)」と。その輪が広がることで、必ずALSが治る明るい未来は創れると信じています。

未来への希望を形にしたミュージックフィルムについて、「この作品の舞台である20年後の東京を想像するだけで、希望に満ちあふれています」と武藤さんは話します。ミュージックフィルムは、ALSがなくなっている20年後の未来を描き、人びとの寄付や支援がその未来にどうつながっていくのかを表現した内容になるそう。映像や音楽制作のパートナーとして、業界最高峰の世界的なクリエイティブ・ポストプロダクション・スタジオ「Cutters Studios」や、今注目の音楽プロデューサーチーム「DFT」も参加するといいます。 最高のチームとともに、新しいテクノロジーで未来を描いたミュージックフィルムは、想像するだけでわくわくします。 ミュージックフィルムは、ALS啓発音楽フェス「MOVE FES. 2018」で上映されるのを皮切りに、6月21日の世界ALSデーに世界中に発信される予定です。ミュージックフィルムの発信を通じて、ALS患者の症状や環境への関心や理解を深めるきっかけが、世界中に広がることが期待できます。

一人ひとりにできることを考え、行動し続けること。「KEEP MOVING」の輪を広げる武藤さんから学ぶこと

【写真】屋外で車椅子に乗りまっすぐ前を見るむとうまさたねさん 「身体の自由は奪われていっても、武藤さんの心や活動、人とのつながりは自由に広がっている」 武藤さんの姿を見ていると、そんな風に感じます。自分が置かれた状況や変化を受け止め、「自分だからこそできること」を考えて、行動する。そんな武藤さんのマインドは、障害や病気があるかどうかに関わらず、私たち誰もが学べるものではないでしょうか。

僕はALSを治る病気にするために、今自分にできる行動を続けていきたいと思います。例えばそれは、寄付をすること、新たな治療方法やテクノロジーを探求すること、言葉にすること。皆さんにも、今自分にできることを考え、行動し続けてほしいのです。医学の進歩も、テクノロジーの進化も、意志ある人たちが行動し続けてきたことで、生まれてきたと思います。

武藤さんは現在、ミュージックフィルム制作やイベント開催の費用を集めるために、クラウドファンディングに挑戦中。すでに目標金額300万円を達成していますが、5月末の期日までに200%達成を目指します。目標額を超える資金については、ALSの治療方法を見つけるための研究開発費を集める「せりか基金」と、WITH ALSのALS患者支援の活動に使われるそうです。

この世の中は、私たち一人ひとりの行動が積み重なって、形作られています。一人ひとりが行動することによって、自分たちで明るい未来をつくることができるはず。武藤さんのクラウドファンディングを応援することも、私たちができる行動の一歩です。ぜひ一緒に応援してみませんか?

関連情報: 眼で奏でる世界初MUSIC FILM制作 クラウドファンディングページ WITH ALS ホームページ