【写真】笑顔で並ぶプロジェクトメンバー4人

社会を多様性ある状態に近づけるため、私たちには何ができるでしょうか。

たとえば少数派ニーズに応えるための「インクルーシブデザイン」という手法では、エクストリーム(極端な例)を理解することから、メインストリーム(主流)でのイノベーションが生まれると考えられています。

また、ユニバーサルデザインの観点から考えれば、マイノリティにとって利用しやすいサービスは、その他のすべての人にとってもポジティブな効果をもたらすことがあります。

今まで見過ごされてきた“小さな声”の先には、新しい未来の可能性が散りばめられているのです。

“社会的マイノリティ”の人たちを含む、すべての人が生きやすい社会を築いていきたい−−そんな思いで、困難を抱える当事者と彼らをサポートする活動事例をメディアを通して発信してきた「soar」は、頼もしいパートナー「issue+design」と共に新しいデザインプロジェクトOURSをスタートすることになりました。

「誰も取り残さない社会」をつくることを目指すこのプロジェクトは、何を目指して生まれたのか。そのきっかけやビジョン実現に向けた思いについて、NPO法人soarの工藤瑞穂、モリジュンヤ、issue+designの筧裕介さん、稲垣美帆さんが語ります。

社会的マイノリティ×デザインをプロジェクトに

【写真】対談で話をするsoar代表、編集長のくどうみずほ

工藤瑞穂(以下、工藤):従来のプロダクトやサービスはマジョリティに向けてデザインされたものがほとんど、マイノリティの小さなつまづきやニーズに対して十分に行き届いていない状況がありました。soarの取材を通じて、それをより強く感じるようになりました。

モリジュンヤ(以下、モリ):最近は、顧客ロイヤルティを志向する経営の重要性や、ユーザーにしっかりと向き合い、ヒアリングすることの重要性を認識し始めている企業も増えています。これは、社会的マイノリティの声に耳を傾けてもらう上でも追い風になるのでは、と考えています。

これまでは社会的マイノリティの声は小さいから、ビジネスにならないから、と切り捨てられてしまっていました。ですが、小さいニーズから新たなビジネスの種を発見することがある。

【写真】対談で話をするsoar副理事もりじゅんや

工藤:誰かの困りごとの解消は、多くの人にとって暮らしやすい社会の実現につながる可能性があります。さらに、これまでになかった視点を活かしたサービスづくりを行うことで、新しいスタンダードを生み出すことにもつながる可能性もあります。

企業にとっても、多様なユーザーに向き合うのは、価値があるのだということを、示していかなければならないと思っています。実際に、私たちのところに「soarに登場するような多様な人々の視点をサービスに活かし、アップデートしたい」というご相談や、「ダイバーシティの実現に向けて自社が出来ることはなにか」という質問も企業からいただいています。

なので、マイノリティの声を聞くのみならず、実際に企業のサービスをデザインしていく上でissue+designとご一緒できるのは、とても頼もしいです。

筧裕介さん(以下、筧):ありがとうございます。issue+designは「社会の課題に、市民の創造力」を合言葉に、行政・ 市民・大学・企業が参加し、様々な社会課題解決にデザインと共感の力で挑む共創型プロジェクトを行ってきました。テーマは医療、教育、防災、まちづくりなど、多岐に渡ります。

【写真】issue+designのプロジェクトである親子健康手帳

稲垣美帆さん(以下、稲垣):たとえば、自分のストレス状況を客観的に把握するためのウェブサービス「ストレスマウンテン」の提供や、地域創生のためのノウハウを学ぶデザインスクール「地方創生スクール」の運営。子育てに関する課題を解決するための「親子健康手帳」など、様々なプロジェクトを展開しています。

筧:色々な課題とデザインをかけ合わせてきて、今回のOURSは社会的マイノリティとデザインを掛け合わせる挑戦です。このテーマに取り組む上で、soarと一緒にやりたいなと思って。

工藤:ありがとうございます!

筧:僕もずっとsoarのことは見ていて、メディア運営を通して様々な課題に触れているなあと感じていて。

issue+designでも以前、化学物質過敏症の子どものための机と椅子を制作してほしいという依頼を受けたことがありました。

モリ:そんな症状があるんですね。

【写真】話をするissue+designのかけいゆうすけさん

筧:そうなんです。木材は基本、何もしていない無垢材と呼ばれるものでも塗装するし、接合時に必ず化学物質を使わないといけないんですね。

もし、化学物質を使わず木材だけで机と椅子が完成したら、きっと化学物質過敏症ではなくても肌が敏感な人や、オーガニックなものを好む人にもニーズがあるかもしれない。

それを思いついたとき、課題をクリアするのは難しいけど、社会的マイノリティの人が抱えている課題の先には、世の中の未来のニーズとか、本来あるべきものづくりのかたちとかがあるんじゃないかと感じたんです。

コラボレーションするから可能になること

【写真】対談で話をするsoar代表、編集長のくどうみずほ

工藤:それが今回のプロジェクトを思いついたきっかけだったんですね。

筧:そう。ただ、僕らはこれまで課題を抱えている人から依頼を引き受けてきたけれど、それだと受け身のアプローチなんですよ。一方、soarでは課題に能動的にアプローチしているから、一緒に活動することでより大きなインパクトに繋げられると思ったんです。

工藤:soarはこれまでウェブメディアの運営を通して、様々な情報を集め、発信してきました。社会に存在する課題はたくさんつかんでいるし、当事者との距離も近いです。

でも、メディアだけで課題を解決するのは難しい。私たちは今ある困難や解決策を可視化して、情報届けることしかできないという限界を感じていました。

社会を変えるためには「デザイン」に強みがある人たちとの協働が必要だなと考えていたんです。お話をいただいて、issue+designと一緒なら新しいチャレンジができると思いました。

【写真】話をするissue+designのかけいゆうすけさん、いながきみほさん

稲垣:課題を解決したい、かたちにしたいと思っていたsoar。かたちにできるけど課題をつかめていなかったissue+design。やりたい方向は一緒だったから、プロジェクトを通して実現していこうということになったんですよね。

誰一人取り残されない社会をデザインするために

工藤:OURSでは、当事者へのインタビューやその周囲の調査を行うことで、課題や解決策を考えたり、事業開発の機会のリサーチ行います。ここにはsoarがこれまで築いてきた関係性が活きると思います。

自身の当事者性や経験を用いて、同じように苦しむひとが減るよう、誰かに貢献したいという思いを持っている方は本当に多いんです。そういった人の意見が活かされるのは、社会にとってとても有益だと考えています。

稲垣:そこからさらに市場の規模や事業としての可能性、課題を解決するための道のりを、アンケートを実施して定量調査します。

そしてデザイン企画の始動。これにはデザイナー、エンジニア、そして課題の当事者や支援団体も含めたチームとしたいと思っています。そして最後に地方自治体や支援団体の協力のもと、地域や施設などで実験を行い事業として確立できるよう検証していく。こんな流れを想定しています。

【写真】考えながらインタビューに応えissue+designのいながきさん

筧:企業のニーズや状況に応じて、いろいろなソリューションの提供が考えられます。リサーチレポート、プロトタイプの制作、商品化など。企業によってはプロトタイプまで制作できても、サービスやプロダクトとしてすぐにリリースすることは簡単ではないでしょう。企業内の基準の突破やリスクの把握、事業性の判断など壁がいろいろとありますから。

モリ:このプロジェクトは企業のフェーズに合わせて、ある程度柔軟に対応できるパッケージにしていきたいですね。でも、せっかくつかんだニーズや生まれたアイデアは活かしていきたい。

筧:OURSでは、開発過程であっても課題解決の見込みがあるものは、自分たちでかたちにして販売するなり、自治体の中でサービスとして運用しはじめてみたり、とにかく進める方法をとってみようとも思っています。プロダクトを何万台も作ることは難しくても、10台、100台であればissue+designでもこれまでにリリース経験がありますし、実現できる。

モリ:デジタルファブリケーションの技術の発達や、カスタムオーダー、パーソナライズなどを前提とした商品やサービスが登場してきていることも追い風になっていると思います。今では、大量生産でなくとも、小ロットでの生産も現実的です。

【写真】対談で話をするsoar副理事のもりじゅんや

筧:完成したいいものを当事者に届けて、もし高く評価してくれたなら、また次の世界が見えてくると思うんですよね。僕は最後までつくることに異常な執念があるんです(笑)

工藤:課題を感じている人に、スピーディに解決策を実装することは必要なことですよね。soarを運営していると、自分は使えないものがあって何かを楽しめないという声もよく聞くんです。例えば、エレベーターの設置されていないビルでは、車椅子の人が利用できないこともありますよね。

稲垣:そういった課題も解決していきたいですね。

工藤:あとは、プロジェクト進行が難しい理由の一つとして、開発プロセスに当事者が関与してこなかったことも挙げられると思います。思いの強い人が近くにいることで、絶対にやめられない理由ができてくる。実際にsoarでもそんなケースに出会いました。これまでは思いの強い個人が当事者とともに取り組むことの多かったマイノリティ向けのサービス開発を、企業が取り組むことも可能にしたいですね。

【写真】机の上の資料を見ながら話をする4人

デザインの力で希望が社会に広がる

工藤:OURSの取り組みが広まることをきっかけに、「デザインを用いて今ある課題は解決できるんだ」という希望も社会に広まっていってほしいなと思います。

issue+designを知った2013年頃、私にとってデザインの力で市民とともに課題解決に取り組むという手法は、衝撃的でとても希望を感じるものでした。

【写真】笑顔で話をするissue+designのかけいさん

筧:ありがとうございます。嬉しいですね。

モリ:僕は2009年ごろ、参加型のデザインプロセスや課題解決に興味があったとき、issue+designが出版した『震災のためにデザインは何が可能か』を読んだんです。その書籍からデザインの持つ可能性の広さに惹かれました。

【写真】書籍震災のためにデザインは何が可能かの表紙

工藤:issue+designのワークショップは、市民が自分たちの暮らす地域のことを考える機会を持ち、課題を出すだけではなくて、解決するための行動まで落とし込むところがすごいですよね。

筧:ありがとうございます。僕はもともと広告のデザインが専門だったのですが、短期間で消えてなくなるものではなく、長く社会に残る仕組みを作りたいと思って、都市や社会のデザインを学び、10年前にissue+designを立ち上げたんです。

この10年の活動を通じて、人間の持つ創造性の力を強く実感しました。ただ、一人の力だけでは、それは一過性のものになってしまいます。一人ひとりの力が重なり、繋がり、共鳴することで、個の力を超えた創造性が発揮され、社会を変える大きな力が生まれていくことを体感しました。

soarの皆さんと一緒に活動することで、社会的マイノリティの皆さんとそんな力を生み出す活動をつくれると嬉しいですね。

工藤:市民一人一人が創造力を発揮することを突き詰めるissue+designと組むことで、人々の意見や創造力が十分に活かされたプロダクトやサービスを企業とともに生み出し、よりよい暮らしをつくっていきたいです。

それによって、ゆくゆくは直接OURSプロジェクトを介在しなくとも、今までなかったことにされていた人たちの声を汲み取った社会に変化していくんじゃないかな。そこを目指していきたいですね。

筧:人は誰もが時に「マイノリティ」な存在なんだと思います。そして、そのマイノリティである瞬間は、その人らしい瞬間であり、その人にしかできない新しい価値を生み出せる可能性のある素晴らしい瞬間なんだと思います。

僕はその価値をカタチにしたい。社会のために役立つものにしたい。そんなプロジェクトを是非いろいろな方とご一緒させてもらいたいですね。

【写真】パソコンを開きながら対談をする4人

多様性ある社会の実現に向けて、社会が動き出しているいま。多くの人の暮らしの困りごとを解決したい、社会課題にアプローチしたいと考えている企業も多いでしょう。

新たなプロダクトやサービスの誕生によって、困難を抱える人がこれまであきらめていたことが可能になり、人がよりよく生きることのできる社会が実現できるかもしれません。

5%の声に耳を傾けることで、きっと社会は変わっていくはず。ぜひ私たちと一緒に、“誰も取り残されない社会”づくりに挑戦する企業をお待ちしています。

【写真】屋外で並ぶ4人

関連情報:
OURSプロジェクト プレスリリース
issue+design ホームページ

issue+design 10周年記念展示「SYNERGY つながり、共鳴し、創造する力。ソーシャルデザイン」

■神戸展
会期:2018年10月5日[金] – 28日[日] 9:00-21:00
(最終日は17:00終了・月曜休館[祝日、振替休日の場合はその翌日])
会場:デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)(兵庫県神戸市中央区小野浜町1-4)

■名古屋展
会期:2018年12月7日[金]-2019年1月20日[日] 11:00 – 19:00
(月〜木曜休館)
会場:アートラボあいち(名古屋市中区丸の内三丁4-13愛知県庁大津橋分室2階・3階)

詳細はこちら

(写真/馬場加奈子)