【写真】自由にコップに絵を描くこどもたち。部屋の壁には様々な肖像画が並んでいる。

障害や性別、国籍といったフィルターは、時に人々の持つ個性や力を見えにくくするのではないかと思う瞬間があります。

「日本人だからこうだ」、「発達障害だからこうだ」ではなく大事なのは、1人1人と真摯に向き合い、個性を見極め、関係性を築いていくこと。

それは私が発語の困難な家族と長い時間をかけて関係性を重ねていくなかで、自ずと見えてきたことなのかもしれません。

人々が持つ特徴を「垣根」ではなく「個性」として理解し、自由に発揮することが出来れば、1人1人の「生」は豊かになるのではないでしょうか。

そのためには、適材適所で個性を生かすことの出来る環境や仕組みを整える必要があると切に感じます。

市民団体やコミュニティアートセンター、福祉施設として機能、「たんぽぽの家」

 

【写真】たんぽぽの家ウェブサイトのトップページ。様々なアートプロジェクトの情報が掲載されている。

皆さんは、奈良県にある「たんぽぽの家」をご存知でしょうか。

「たんぽぽの家」は、自分らしく生きたいという個人の願いを’共感’という方法でとらえることから生まれてきた市民活動。

「やさしさ」を活動の基調とし、たくさんの試行錯誤と多くの人のつながりを通して、文化と夢のある社会づくりに取り組んでいます。

3つの組織で成り立つ「たんぽぽの家」。

1つ目は、「一般財団法人たんぽぽの家」。「アート」と「ケア」の視点から多彩なアートプロジェクトを実施し、ソーシャルインクルージョンをテーマに、アートの社会的意義や市民文化について問いかける事業を展開しています。

2つ目は、「社会福祉法人わたぼうしの会」。障害のある人、子どもや高齢の人が安心して地域のなかで生きていくことを支えるために、「アート・ケア・ライフ」という視点を柱に、社会福祉サービスを提供しています。

3つ目は、「奈良たんぽぽの会」。いのちや個性を大切に、だれもが生き生きと暮らせる社会の実現をめざし、たんぽぽの家の運動を支えるボランティア団体として機能しています。

そして現在、2つ目に挙げた「社会法人わたぼうしの会」では、障害のある人たちと新たな働き方と未来の仕事づくりに挑戦するプロジェクトが行われているようです。

障害のある人たちと新たな仕事や働き方を、「Good Job! センター」

「社会福祉法人わたぼうしの会」が、2016年8月、奈良県香芝市に設立する「Good Job!センター」。

「Good Job!センター」は、分野、障害、性別、国籍を超えた人たちが出会い、協働するための場所になるんだそう。

【写真】楽しそうにアートのワークショップに参加する参加者。集中している人もいれば笑顔がみられる人もいる。

アート・デザイン・テクノロジー・サイエンスなど、幅広い分野の人たちが集うモノづくりの拠点として機能し、障害のある人たちとともに新たな仕事や働き方を生み出す場所を目指しています。

新しい拠点づくりを目指す「社会福祉法人わたぼうしの会」。これまでにも障害のある人の活動に文化や芸術をとり入れ、展覧会や地域のアートプロジェクト、セミナー、ワークショップなど、障害のある人の社会参加のために機会づくりを行ってきました。

「社会福祉法人わたぼうしの会」が生み出してきた協働の機会

奈良県芸術祭「HAPPY SPOT NARA」は、障害の有無にかかわらず障害のある人のアート作品を楽しめる様々なプログラムを持つ地域プロジェクト。主催は奈良県で、企画はたんぽぽの家が行い、他の福祉団体やアート関係者等からなる運営委員会を設けて、地域で役割を担う人々と一緒に取り組んでいます。

2007年には、障害のある人たちのアートを仕事にできる環境づくりを目的に、障害のあるアーティストの著作権使用の窓口となり、広告や商品のデザインに使用したい企業との橋渡しを担う 「エイブルアート・カンパニー」を設立しました。

【写真】Good Job展の会場。たくさんの参加者が展示を真剣にみている。

2013年度からは、障害のある人の就労や生活の現場から生まれる“新たなしごと・はたらき方”を発見し紹介する「Good Job!展」を開催。

展示される障害のある人たちの表現から生まれたプロダクトの数々は、これまでの福祉や障害者のイメージを覆すほど、魅力的でエネルギーに溢れたものばかり。昨年12月に渋谷ヒカリエで行われた「Good Job!展」にも、多数の来場者が訪れました。

【写真】展示のひとつであるふく福たまご。たまごのパッケージに10個の綺麗なたまごが並んでいる。

ふく福たまご(ふくふくファーム×アカオニデザイン)

2016年には、手績み手織りの麻織物を扱い続け、300周年を迎える「中川政七商店」との協働で、職人の高齢化や後継者不足などにより徐々になくなりつつある郷土色豊かな玩具を、改めて自分たちの手で生み出す「今から100年後に残る郷土玩具」に挑戦しています。

プロジェクトの関わり手を増やすために求められるデジタル工作機械

【写真】トナカイのはりこ型をつくり並べている。

新たに動き始めた「今から100年後に残る郷土玩具」プロジェクト。100年後も製作した人々の想いが玩具として残り続けるなんて素敵ですよね。

その製造過程には、「昔のよいところは生かしながら、いろんな人が作りやすくなる方法」を模索するなかで、3Dプリンターで樹脂製の張子(はりこ)型を作っているんだそう。

3Dプリンタやレーザーカッターなどのデジタル工作機械は、一人ひとりの感性をカタチにすることができ、創造性を高めるものとして期待されています。

特に、レーザーカッターは、光で素材を裁断したり、焼印をいれたり、穴をあけたり、彫刻をしたり、さまざまな加工を行う機械ですが、障害のある人がフリーハンドで描いたかたちを活かしたプロダクトをつくったり、さまざまな人たちがイメージを形にすることを助けることができたり、表現の可能性を広げたモノづくりに挑戦することが出来るそうです。

クリエイティブな環境を整え、表現者を増やす

【写真】男性が大きなレーザー彫刻システムを操作している。とても大きく男性の腰ほどの高さがある。

現在、「社会福祉法人わたぼうしの会 GoodJob!センター設立準備室」は、活動に共感した人々から資金提供を募るクラウドファンディングを通して、新たに設立する「Good Job!センター」にレーザー彫刻システムを設置するための資金を募集しています。

「Good Job!センター」は、さまざまな人々の集うモノづくり拠点として、一人ひとりの表現の多様さを活かし、創造性を高めるものとして、このデジタル工作機械(レーザーカッター)が必要だと確信しているそうです。

提供した資金の額によっては、「たんぽぽの家アートセンターHANA」に所属するアーティスト、中村真由美さんのイラスト付きメッセージカードや障害のある人たちのイラストがデザインされたカップ、その他さまざまな作品を受け取ることが出来ます。

障害のある人々のイメージやインスピレーションをモノづくりに落とし込むことを容易にするレーザーカッターや、人々が持つ個性をクリエイティブに社会へ反映される拠点を整える支援者として、こちらから彼らの挑戦を応援してみるのはいかがでしょうか。

あなたの一押しが、障害のある人たちの生きる場づくり、そして個を支え合う新しいコミュニティを生み出し、これまでにないはたらき方を創出することに繋がるはずです。

 

関連情報:

一般財団法人たんぽぽの家 ホームページ
Good job!展 ホームページ

(ライター/江口春斗)