【写真】笑顔で立っているえのもとゆりかさん

つらいとき、今自分の見ている世界がすべてなんじゃないかと思うことがある。
ここから逃げ出すことはできなくて、一生自分は苦しいままなんじゃないだろうか。

きっと誰にでもそんなときはあると思うし、私にもあります。

彼女は、「あれ、もっと力抜いて生きたら、なんかこの人みたいにいろんなものを軽々と飛び越えて、どんな状況も笑い飛ばして生きれるのかも」と私に思わせる人です。

LGBTの生きやすい社会を目指している株式会社Letibeeで働く、榎本悠里香さん。

悠里香さんを初めて知ったのは、去年インターネット上でたまたま目にした「OUT IN JAPAN」のフォトグラフでした。こちらは、日本のLGBTをはじめとするセクシュアル・マイノリティにスポットライトを当て、一流のフォトグラファーが彼らを撮影するというプロジェクト。

【写真】凛々しい佇まいのえのもとゆりかさん

「榎本悠里香、25歳、レズビアン。
今つらい環境にいる人も、それが世界のすべてだと思わないで、自分のペースで一歩踏み出してほしいなと思います。」

意志の強い瞳と凛々しい佇まい。そしてこのメッセージが印象的で、いつか会いたいと思っていた彼女と友人が引き合わせてくれました。

会ってみると本人は一言で言うと「ノリのいいお姉さん」。飾らないサバサバした性格が私にとってはとても新鮮で、一緒に会社を営む外山雄太くんとの掛け合いは、いつも周りを笑顔にしてくれます。世間の定めた枠の中にはけっして収まらず、いつも体当たりに自分の感情を爆発させて生きる彼女は、私にとってうらやましい存在でもあります。

そこからは時々イベント登壇やLGBTに関する調査をお願いしたりしているのですが、多様な生き方が認められる社会を目指して、日々いろんなことを考えているのだなあとひしひし感じます。

悠里香さんがこれまでどんな道を歩んできたのか、その熱意はいったいどこからくるのか。ゆっくり話を聞いてみました。

子どものころは自分の恋愛対象を確認する時間だった

【写真】微笑んでインタビューに応えるえのもとゆりかさん

工藤:今日はよろしくお願いします!

榎本:よろしくお願いします!

工藤:記事を見て、初めて悠里香ちゃんのことを知る人も多いと思うから、簡単に自己紹介お願いできますか?

榎本:私は今26歳で、大学を卒業したあと新卒でガイアックスという会社に入りました。今は株式会社Letibeeの代表取締役をしています。

工藤:去年出会ったころはまだ社員だったけど、今は代表取締役になったんだね!

榎本:そうなんです!今は一般企業やブライダル企業向けのLGBTダイバーシティ研修を中心に会社をやってます。

【写真】昭和らしい家具がある家でお母さんに肩車してもらっているえのもとゆりかさん

悠里香さんの子供時代、小さな頃からやんちゃな女の子だった

工藤:今はLGBTに関しての理解を広げていくことを仕事にしているけど、もともと悠里香ちゃんが自身の恋愛対象が女性だという自覚はいつからあったの?

榎本:思い返せば子どもの時から女の子が好きだったと思うんですけど、開き直ったのは22歳くらいだったんですよ。幼稚園の頃から女の子好きになることっていっぱいあったし、そこまで男性には興味がなかったです。中学のときは、「みんなは夢に女の子でてきたりしないんだ、そうなんだ、私みんなと違うかも」みたいな。思い悩むというよりは、それを話すほど自分の中でもかたまってなかったし、それを抱えきれないほど恋をしていたわけでも誰かに否定されてたわけでもなかったんです。

工藤:そうだったんだね。

榎本:中高生のときは男の子でも女の子でも、誰かを猛烈に好きになるということがないまま過ごしました。「開き直る」という状態に行き着くまでに、私の中では「確認する作業」の繰り返しだったかなと思います。よくわからないから蓋を開けに行こう、男性と付き合ってみよう、女性とも付き合ってみようみたいに。誰も「あなたはレズビアンです」だなんてはっきり言ってくれないし、言ってくれたところで、その時自分がそれを受け入れてたかはわからない中で、私は一体なんなんだろうっていうのを確認してきたんですよね。

工藤:男性と付き合っていた時期もあったんだ!

榎本:そうなんです。好きな人と一緒にいるのは素晴らしいことだと思っていたのに、付き合ってみた男性とうまくいかず、じゃあ、それはこの人が違うだけなのかと思って違う男性とも付き合ってみるんだけど、なんかやっぱ感覚が違う。人としてはすごく好きなのに・・・なぜだ!みたいな感じでした。そんなときに仲良い男友達に、「なんか私、女の子好きなのかもしれない」って打ち明けたんです。それが一番最初に人に「どうしよう」って相談した経験でしたね。

工藤:友達はどんな反応だった?

榎本:その時も友達はネタの一つくらいに思ってたのかもしれないです。大学近くの駅前のベンチに超飲んだ後に座って、「もうあたしー、女の子好きなのかもしんないー」みたいに言って(笑)。反応はあまり覚えてないです、もう俺は帰るわ、みたいに帰ったっていう。そのくらいしか覚えてないです。まわりに悩みを打ち明けるみたいなところでは、大学のときが一番抵抗があったかもしれないですね。

大学時代に初めて女性に本気で恋をした

大学時代は留学をしたり、海外旅行を友人と楽しむことが多かった

大学時代は留学をしたり、海外旅行を友人と楽しむことが多かった

工藤:ここまでは男性と付き合ってみたけど「違うな」と感じる経験が続いてきていて、女性に恋をして付き合いたいと初めて思ったのはいつだったの?

榎本:実は「すごく女の子好きになって、恋い焦がれて」という経験を初めてしたのは、大学時代に留学をしたときだったんです。その気持ちを自分の中で受け止めきれなくなって、お酒に酔ってその子に好きだということを伝えてしまって。でも私も伝え方として重い伝え方をしちゃったと思うし、相手も相手で悩んだだろうな。その時はけっこう落ち込んだ感じでまわりの友達にも相談したりしてましたね。なんか酔った勢いで言っちゃうみたいなのばっかですね。(笑)

工藤:そんな経験があったんだね。

榎本:そこからは自分がバイセクシャルなのかなぁと思って、すっかり開き直ったんです。どのくらい開き直ってたかっていうと、大学の四年くらいに、留学の時にさぼりすぎちゃったんで「単位とらなきゃ、やべえ卒業できない!」みたいになって(笑)。それでとった授業に、いろんな有名な人を講師に招いて話を聞くって授業があったんです。課題の一つが、「次の授業までに世界を変えてきてください」っていう課題だったんですが、もちろんのことながら直前まで全くやらずやばい状態。授業で次々みんなが発表してくんですけど、「どうしようどうしよう、なんかあったっけな。最近言ったわけじゃないけど、お兄ちゃんにカミングアウトした話しよう!」と思って。それってイコール、授業内でカミングアウトするってことじゃないですか。

工藤:それはすごい。

榎本:とりあえずマイクを持って、生徒が50人くらいいる教室の前に出て発表したんです。「こんにちはー!私バイセクシャルなんですけどーってことをお兄ちゃんに言いました!それで、お兄ちゃんの世界を変えました!」って(笑)。で、「おおー!」みんな拍手!みたいになって。

工藤:うん、悠里香ちゃんの性格を知ってるからその光景すごく想像できる!

榎本:しかもその時に来てた講師の人が、テレビでLGBTの特集を担当した人で、「いいと思うよ」って言われたんです。でも余談なんですけど私、「いいと思うよ」って言われるのあんまり好きじゃなくて。あなたにいいと思うよって言われなくてもわかっているし、いいとか悪いとかって話じゃないからって思っちゃうんです(笑)。

工藤:そうなんだね。

榎本:そのとき、授業が終わった後に駆け寄ってきて、「ちょっとあとでお話聞いてもいいですか」と話しかけてきた女の子がいたんですよ。その子も女の先輩を好きになっちゃって、悩んでたんです。私3分しか話してないのに、「今日話を聞いて勇気出ました」って言ってくれたんです。そのあとその子は、先輩に好きだって言ったんですよ!先輩には、「恋愛対象としては見れない。だけど言ってくれたのは嬉しいし、後輩として好きって気持ちは変わらないから、これからもよろしくね」って言われたらしいんです。だけどその子は「言えてよかったです」って言ってくれて。私としては、一個課題終わったラッキーくらいの気分だったのに、そんなこと起こるなんてすごいって思いましたね。

全て取り払ったときに、それでもやっぱり「私はレズビアンだ」と開き直った

【写真】当時のことを思い出しながら話すえのもとゆりかさん

工藤:そんな感じで大学時代を過ごしていって、卒業後は株式会社ガイアックスに勤務して。

榎本:もともとITに興味があったわけじゃないんですけど、海外に関する事業がしたかったのと、ガイアックス社員の人柄のよさに惹かれて新卒で入社しました。私は面接の段階で、自分のセクシュアリティについて話をしたんですよ。LGBTフレンドリーな会社に入ろうと意識していたわけではないんですが、オープンな空気の会社を無意識に選んでいたと思うし、「ゲイとかレズビアンとかちょっと」みたいな話があるなら、この会社は難しいなと思っていたので。

工藤:具体的にはなんて言ったの?

榎本:今は自分はレズビアンと言っていますが、その頃は男性ともお付き合いしたことあるし、女性も好きだけれど今は女性のパートナーがいるわけでもなかったんで、面接では「自分はバイセクシュアル(男性と女性いずれの性に対しても魅力を感じる)です」と言ったんです。そしたら「そうなんだー」くらいの反応だったんで、そのまま流れで入社しました。

工藤:企業面接の時に言えるっていうのが、悠里香ちゃんもガイアックスもすごいね!私が就職活動をしていた10年前からは考えられないです。よく家族へのカミングアウトも話題になるけれど、悠里香ちゃんはどうだった?

榎本:実はお兄ちゃんお姉ちゃんには私は大学生の時から言ってたんですよ。「なんか私女の子も好き。」「そうなんだ!」って感じでした。なので、「家族になんて絶対言えない」みたいな感覚は私の中で少なくて。しかもまわりにゲイやレズビアンの友達で近しい人があんまりいなかったんですよね。だから、そういう話ってリアルじゃなくて。でも会社に入って、いろいろと遊べるお金もできて世界が広がった時に、意外とこの環境は恵まれているんだなって気づいて。

工藤:そうなんだ。

榎本:でもやっぱり自分の中で今までは、「とはいえ社会的に結婚とか、社会的に生きていくためにはこのままだとダメかも」みたいに考えてた部分があったんですね。でも働いていろんなことを経験して、「全部一旦排除して、どっちなの!?」ってなったとき、「ああ、私女の子好きだわ」って思いましたね。大学時代の22歳でバイセクシャルだと思って開き直って、24歳でレズビアンとして開き直ったっていう感じです。

レスビアンだとオープンにできる、自分だからこそやれること

【写真】真剣にインタビューに応えるえのもとゆりかさんとライターのくどうみずほ

工藤:レズビアンだと開き直るところを経て、LGBTが生きやすい社会をつくりたいって思うまではどんなことがあったの?

榎本:「私って恵まれてるんだな」ってところから、「私は発信していったほうがいいんじゃないか」と考えが変わったのが、私にすごい好きな女の子ができたことなんです。その子も女の子が好きで、でも決定的に違ったのが、その子の親がLGBTを受け入れてないから家族にも言えないし、周りの誰にも言ってなかったんです。その子自身も世間一般で言われる”家庭”がほしいし、子供がほしいと言っていて。

工藤:それはきつい状況だね。

榎本:会って最初からお互い好きだったんですけど、結局男性からプロポーズ受けて結婚したんですよね。そのとき私もまだ社会的に・・・とか考えていたところだったので、「オッケー、おめでとう!」と言いつつも、ショックだったんですよ。強がってたんですね。それで最終的にはむこうは結婚しているから、もう会わないようにしようって私から距離を置いて終わらせたんですよね。そのときは、「じゃあ友達でいよう」とはできなかった、当時の自分の器では受け入れられなくて。

工藤:そうだったんだ。

榎本:そこから私は、「好きなもの同士なのになんで一緒にいれないんだろう」って思うようになったんです。もしその子の家庭が、「全然いいよ、好きな人が好きならそれでいいじゃん」って育てられてたら、未来は変わってたのかなって思い始めて。向こうは別に身売りしたわけじゃないし、幸せだと思ってそっちの道を選んだんだから幸せになってほしい。でも、「じゃあ私はどうするの」って考えた時に、個人レベルでは確かに今の状態でも全然生きていけるし、ほんとにどうしても窮屈だったら、英語もできるんだし海外いけばいいや、くらいに思ってたんです。だけど、私のこの「発信できる、オープンにできる」って状態って、もしかしたら今の日本にとっては価値があることなのかもしれないって思ったんですよ。

工藤:「女の子だけど、女の子が好き」っていうことが、自分だけの出来事だったのが、もっと広い社会で起きていることとつながったんだね。

榎本:そのときにガイアックス社長の上田さんと話してて、「LGBTのこととか、やったほうがいいと思います~」って言ったんです。そしたら社長が「じゃあ、僕がビジコンで審査員した時に、優勝した団体がいてLGBTのことやってたから連絡とってみよっか」って言ってくれて。それがLetibee、外山との出会いなんです。ガイアックスはもともと社風で「フリー・フラット・オープン」っていうのがあって、多様性が大事だよねって思ってる社風だったからこそ、やるべきだって思ってくれていて。社長自身、私を応援してくれていて「もっといけよ!」って言ってくれてるからこそ、Letibeeにも出資してくれたんですよ。私は今の環境の中で自分が幸せだと思う道を選べばいいだけかもしれないけど、「私とその女の子の関係と同じような状況に置かれる二人が10年後にいたらやだな、20年後にいたらやだな」と思って。「自分にもなんかできるあるんじゃないか」ってところから、Letibeeにつながっていったんです。

家族が後押ししてくれても、自分の一番の応援団は自分

【写真】微笑んでインタビューに応えるえのもとゆりかさん

工藤:それでLetibeeに出向をして。

榎本:はい。さっき兄弟の話はしたんですけど、お母さんにカミングアウトしたのはつい一昨年、25歳の年末だったんです。Letibeeのことを本腰入れてやると今後いろいろ出てくると思うから、言わなきゃいけないなあってタイミングで。二人で話す機会があったんで話したんですけど、ちょうど子供の話になって。お母さんに「子供がいたほうがいいよ」って言われたときに、カミングアウトしたんです。

工藤:そっか、男性と結婚して孫ができてっていうロードマップをお母さんが描いているとしたら、レズビアンであるということは二人の子どもをつくるのは難しいということだもんね。

榎本:その時お母さんが言ったセリフがかっこよすぎて!とりあえず「まあそうなの」ってとこから始まったんですよ。「でも世の中の常識って変わるから、ゆりかは全然今の常識に合わせて生きていかなくていいよ、ゆりかが変えるのよ!」みたいな。その言葉くると思ってなかった!かっこいい!みたいな(笑)。

工藤:かっこいいお母さんだね!

榎本:母は私が小さい頃に離婚しているんですが、「その当時は結婚するっていうのが今よりもすごく当たり前だったし、そういう風にするもんだと思ってたから結婚したっていうところも正直ある。だけど、今の時代で自分が結婚を選ぶか選ばないかって言ったら、選ばなかったかもしれない」って言ってくれて。「でもお母さんは結婚を選んで、子どもが三人できたのはすごくよかったからゆりかにもそれを経験してほしい」って素直に伝えてくれて。お母さんにも言ったことで、去年の26歳の年末に帰ったときは、家族みんなで「子どもとかどうする?」みたいな話もできるくらいになってました。だけど、お母さんがそういう風に言えたのは、私が自分がレズビアンだということをちゃんと受け入れているからかもしれないです。

工藤:受け入れているから。

榎本:前イベントに登壇したとき、「あなたの一番の応援者は誰ですか」って聞かれたことがあるんです。「お母さんかなあ」とも思ったんですけど、でもやっぱりお母さんがそう言えるって思えるくらい、私が自分を応援してるんだなって伝わったんだろうなって思います。家族に受け入れてもらえてる人がいるいない含めて、どういう風に生きていくかっていうのを一番応援するのはやっぱり自分。お母さんめっちゃかっこいいって思うし影響はありつつも、最後の応援団は自分だと思うんです。

工藤:確かに、そうだね。LGBTの方の話を聞くと、大人になってからも苦しんでいて、周りの人に隠しているひとはたくさんいらっしゃる。なんで悠里香ちゃんは、堂々としていられるんだと思いますか?

榎本:個人的に、私はいじめられたりとか、レズビアンだ、セクシャルマイノリティであるっていうところにおいて、幼少期にトラウマがなかったっていうのが大きいかなって。さっきの女の子でいうと、家族がもともと「テレビにオカマが出てて気持ち悪い」って言うとか、そういう環境で生きてきたわけじゃないですか。私はそういうのはなかったし、別に特に「ゲイいいよね」っていうような家族でもなかったけれど、そこにネガティブなこともなかったことが大きいんじゃないかなって思いますね。

工藤:本人の性格もあるかもしれないけど、家族や学校の友人とか周りの環境の影響がとても大きいのかもしれないね。。

榎本:そうですね。LGBTって別に私たちの世代で特に多いわけじゃなくて、どの世代にも何パーセントかいるっていう中で、もしかしたら私がそれで声をあげるとか、顔を出して発言するとか、なにかしら活動することが、もしかしたら「LGBTへの反応が普通になるまでの20年」みたいなスパンを短くするかもしれない。正直なんだかんだ欧米の流れとかを見ていると、私が動かないと日本のLGBTの環境が変わらないとは思わないんですよ。どっちにしろ時間の問題だと思うので、そのうち普通になるとは思います。でも、私が声をあげたら少しでも早まるかもしれない。他の人も「私もやってみようかな」っていう影響を与えられるかもしれない。そう思ったら、やらない理由はないよなって。私がたとえば大事な人を人質にとられてどうしてもこの仕事を続けられないってわけじゃないし、誰も反対しないし、会社も応援してくれてて、家族もいいじゃんってなってる。「だったらなぜやらないの」って自分自身に対して思うから。

工藤:社会への怒りで動いているわけではなく、「できる可能性があるんだったらなぜやらないの?」っていう自分への問いが悠里香ちゃんを動かしているんだね。

榎本:よく、私みたいな人が声をあげることによって、「静かに生きていきたい人もいるんだからほっておいて」って意見もあるだろうなとは思うんですけど、私はその人たちに無理にカミングアウトしてほしいんじゃなくて、「こういうことやる人がいてもいいよね」くらいの感じでいてほしいなと。その人たちがもし「LGBTがいてもあたりまえだよね」ぐらいの環境で育ってきたら、それでも同じこと思うのかなって思うと、違う人の方が多いんじゃないかなって思うんです。

自分の半径5mにいる人から意識を変えていく

【写真】真剣にインタビューに応えるえのもとゆりかさん

工藤:自分にできることをしようと決意したあとに、Letibeeの仲間になろうと思ったのはどうしてだったの?

榎本:自分の手の届く範囲でカミングアウトをするのに対して、テレビ、メディアやSNSのように不特定多数の人に向けてカミングアウトするって私の中でもう一つハードルがあって。最初に、今後を変えれることが私にあるかもしれないって思った時に、私はLetibeeの外山が何をしているにしろ、ゲイであるということをオープンにして「ゲイです、こういう事業してます」って顔を出して言ってるってことがすごいなと思ったんですよ。

昨年夏には、工藤が主催するイベントに外山くんと一緒に登壇をしてもらいました

昨年夏には、工藤が主催するイベントに外山くんと一緒に登壇をしてもらいました

工藤:外山くんのことは、私もメディアで見て知ってた!ゲイであることを公表して、就職せずに起業を選んだ意志あるところもすごいけど、発するメッセージが優しいなって思って応援したいと感じていたな。Letibeeで今、セクシュアリティに関わらずみんなが生きやすい社会を目指すなかで、そのためには一番何が必要だと思ってますか?

榎本:結局のところ、発信しかないんじゃないかなって考えているんです。方法として、法律を変えて、企業を変えてっていうのはあると思うんだけど、結局それって方法論の話であって。まず一個人で、私が確実に100%できることは、発信することだし、カミングアウトすることだし、こういう風にきいてくれる人に対して話すこと。今はメディアで取り上げてくれているけど、結局私と出会ったことで、今までレズビアンとか会ったことないよって人が、そうじゃなくなるじゃないですか。

工藤:他人ごとではなくなるよね。

榎本:しかもレズビアンとかゲイに嫌なイメージを持ってた人を変えれちゃったりする。それってすごい身近に世界を変えてる感がある。結局それの積み重ねだと思うし、私がそれで何人のひとの意見を変えたのかわからないけど、例えば企業研修やったあとって、「LGBTっていう言葉がニュースで流れてきても、いままでは記号のようにスルーしてたけど、話きいたり友達になったあとだと、目に入ってくるんだよねー」とか、「LGBTのことでこんなニュースあったよ」みたいな話をしてくれたりするんですよ。まずは高望みせずにそこだよなって思います。もちろんそこからほんとに、法を変えるっていうところに動くのももちろんなんですけど、まずは自分の半径5mからですよね。発信し続けていると私よりビジネスができる人から事業のアイディアももらえるし!

工藤:企業研修というとすごく大きなことに感じるんだけど、実際に対面で人と人が出会うってところだけ切り取ると、「半径5mの身近な世界」だっていう考えが私にとっては新しい視点かも。

榎本:ただ難しいのが、担当者レベルではやりたいと思っているところを、「じゃあどこまでの範囲で研修するの?会社全体でやるっていうことは採用ポリシーを変えなきゃいけないの」という話になってくると、次にいかないことがあったりします。でも今って、LGBTをやってないことがマイナスでない時代。今の時代、女性問題、男女格差に取り組んでいない会社ってマイナスじゃないですか。ワークライフバランスに気を遣ってない会社もそう。そこまであると、風潮としてそれがマイナスであればあるほど、「取り組んでいきましょう」って社内で広めやすいし通しやすい。でも今のLGBTの段階だと「取組みをやってる方がいいよね」という、0の状態を1にもっていくっていうのが課題。「なぜ今LGBTのことをやるの」ってところに対して、私たちは「確かにやらなきゃだめだ」って納得してもらえるようにしていかなきゃなあとは思う。

LGBTやレズビアンを気にしないっていう人に、あと一歩踏み込んでほしい

【写真】研修のことを思い出しながら真剣な表情でインタビューに応えるえのもとゆりかさん

工藤:研修にいってみて、企業ではどういう反応がある?

榎本:反応は、LGBTがもっと身近になりましたっていう意見があったり、私達は企業研修を受けてくれた人にレインボーカラーのステッカーを配ってるのでそれを貼ってくれる人が増えたり。「逆カミングアウト」って私は呼んでるんですけど、カミングアウトしたときに、「もっと早く言ってくれればよかったのに!」っていう反応が返ってくる場合がある。でも今の状態だと、弱い方からは言いづらいと思うんですよ。人生180度変わっちゃうかも、なこととも言えるし。

Letibeeが企業研修で配っている、LGBTフレンドリーであることを示すステッカー

Letibeeが企業研修で配っている、LGBTフレンドリーであることを示すステッカー

工藤:確かにそうだね。

榎本:そういう社会の風潮を変えるのはマイノリティだけじゃなくてマジョリティが必要不可欠で。目の前にいる人にしか伝わらない方法だけどステッカーを貼ったりとか、ソーシャルメディアで「LGBTのこういう記事が出てて、すごいよかった!」って発信するとか。私たちが発信する意味は、そういう発信をしてくれるマジョリティを増やすことなんじゃないかなって思います。企業研修をすると、それでステッカーを貼ってくれたりするのは嬉しいですね。

工藤:ステッカーで思い出したんだけど、アメリカで同性婚が認められたとき、Facebookでアイコンをレインボーに変える人がとっても多くて、それに対して批判もあったりしたのはどう思う?

榎本:ありましたね。あの議論、私は全然いいんじゃないかと思うんです。結局そこで議論になったのって、「お祭り騒ぎだからそれに準じただけで、レインボーの意味わかってないのにやってる人とかもいるじゃん」っていうことじゃないですか。お祭り騒ぎでもいいじゃんって、みんなそれぞれ人生ハードモードで生きてて、必ずしも自分が重要だと思うことを他人も重要だとは思ってないんだし。とりあえずその貴重な人生の10秒を使ってアイコン虹色に変えてくれたんだなって事実のほうがおもしろい。私は単純に、応援してる人って意外といるんだなっていうのを知れて嬉しかったですよ。

アメリカで同性婚が認められたとき、FBのプロフィール写真をレインボーに変更する人が多数いた

アメリカで同性婚が認められたとき、FBのプロフィール写真をレインボーに変更する人が多数いた

工藤:そうだったんだね!

榎本:私がステッカーをパソコンに貼ってほしいって言ってるのも、打ち合わせのときとかもパソコン開いている人も多いじゃないですか。そういうときに、たとえば私がまだレズビアンだということを言ってない、隠してる人だとして、打ち合わせ相手のパソコンが目に入って、「LGBTフレンドリー」って書いてあったら、相当ひねくれてない限りは「あ!そうなんだ」って思うと思うんですよ。その結果、カミングアウトするかどうかはまた別問題ですけど、でもLGBTの人の心の中にそんなに悪い気持ちは芽生えないんじゃないのって思ってて。私はそういうのを変えていきたいです。小さいかもしれないけど、結局は国も社会も人の集合体なので、感染させていきたい。

工藤:企業がLGBTフレンドリー宣言することのよさもその話に通じるんだね。

榎本:企業って、今の就活のあり方自体はどうかなと思いつつも、就職するって中高大から続く一般のゴールみたいな感じがあるじゃないですか。だから、その企業が何をよしとしてるのかっていうのは、子ども時代にも影響を与えていくんじゃないかなって気がしていて。だからこそ、企業が「あえて言う必要なくない?うちはもうフレンドリーだから。」って言うんだけど、そうではないと思ってます。個人もそうで、「俺自身はゲイとか全然気にしないよ、別に発信もしないけど。」っていうところに、私は「いや、あともう一歩!」と言いたくって(笑)。

工藤:あえてのあともう一歩!

榎本:私も将来的に、「LGBT支援宣言なんてものを、あえてしてたダサい時代があるんですね」って笑われる時代がくればいいなと思ってて。本当は自分が「レズビアン」であることとかもどうでもいいんですけど、でも今は、存在してないものと同じだから。だから言わなきゃいけない時代だと思うし、言っても迫害されない時代だと思うし。今はタイミングとして言いやすいと思う。昔から活動してきたり声をあげてきてくれた人が、もっとこうなればいいなと思ってた社会のイメージの途中の社会なんだろうと思うので。私が30年前に26歳だったらたぶん言えてなかっただろうけど、今なら言えるよ、っていう。個人的には、「企業も今なら言えるんじゃない?もう一歩いこう!」と思います。あえて「今、言う」ってことが大事で。

工藤:企業研修以外にメディアをやっているのも、そういう意図に近いものがあるのかな?

榎本:やっぱり圧倒的に足りないのは情報なんですよ。知らないものはみんな怖いので、結局のところ研修で話すうのも、私が個人的に話すのも、「LGBTは怖くないよ」っていうこと。よくテレビで、箱の中身はなんじゃろな、みたいなのあるじゃないですか。中身ははんぺんなのに、見るまでは「超こわい!」みたいな(笑)。あれと一緒だろうなと。怖くって叫んだりとかするけど、見えてれば怖くはない。今まで全然LGBTが可視化できていなかったし、それがリアルに伝わるって意味では研修ってすごい大事なんだけど、メディアでできるのはまた違う分野でもあると思うんです。

工藤:確かにメディアのほうが企業研修より確かに個人のエピソードを伝えることができるもんね。

榎本:そう。たとえば30代レズビアンの出会いみたいなのを、レズビアンの人に読んでもらうってのもそうだけど、ストレートの人も「なんだろう」って覗いてみたら、意外と自分の恋愛と同じようなこと書いてあるなみたいな。そこに自分なりの親近感や共通点なり、新しい発見みたいになったらいいなって。少しずつ、「全く見えないし怖い」っていうのがちょっと透明になって半透明になって、「あ、はんぺんだった」みたいになったらいいなと思ってます(笑)。

工藤:触れにくい話題をなかったことにしてきた、というのはあると思います。

榎本:そのせいで当事者自身もいろんな情報がわからないはずなんですよ。私もわかんなかったし。芸能人や有名人の話しかメディアには載ってない中で、誰かがHIVの体験談を語ったり、30代のレズビアンのインタビューが載ってて、自分が知りたかった30代になったらどうなるんだろうって話が読めたりするといいなって思うんです。より可視化する、より見えるようにするっていう。私たちが発信できるものは全て発信していく。で、その中で「あー怖いものじゃなかったんだ」って思ってくれた人たちが、一緒になって声を上げてくれていくっていうのを想像すると楽しいですね!

人生の不安はセクシュアリティによらず

【写真】笑顔でインタビューに応えるえのもとゆりかさん

工藤:LGBTに関しての理解って、企業だけでなく学校や教育の現場でも大事だと思うんだけど。

榎本:そうですね。でもそもそも今の若い人たちって、たとえば外国人の友達がいる人なんていっぱいいて、多様性が進んでいる国の文化の風を受けている人たちが増えている。LGBTについていい意味でどうでもいいって思ってる人たちが増えてきてるなあと思うんです。そういう人たちが先生になっていくし声をあげるし、遅かれ早かれLGBTが普通な社会になっていくと思うんですよね。だから大きい流れでいったら、別に私がやってることって私がいなくても進むことなんだけど、でも「そうなったら楽しいから、やらせてもらえるならやりたい!」みたいな。ラッキーですよね。

工藤:すごくいいね。

榎本:しかも今は私もそれを言える時代、なおかつ、それを言ったらおもしろがってもらえる、興味を持ってもらえる時代だから。飲み会で「レズビアンでーす!」っていったら、「絶対顔を覚えてもらえる」っていうお得感も私は勝手に感じてます。人を笑わせられるネタや人を感心させられるネタなんてつくるの大変なのに、それを私は生まれながらにして持ってる、みたいな(笑)。

工藤:そうやってなんでもポジティブに捉えて、ちょっとでもおもしろく生きていこうってところが好きだなあ。

榎本:ありがとうございます!私は学生時代って視点で考えたら、いじめにあったりして自分のセクシャリティをマイナスに捉えさせられる機会がなくて恵まれたなとは思っています。ただ、ちゃんと自分を幸せにしてあげられるように、居心地のいい場所を探して、選び続けてきました。

工藤:居心地のいい場所を探すのは大切だよね。とはいえ、東京だと人が多いから自分の居場所やコミュニティの選択肢がいっぱいあるけれど、人が少なくてある意味閉鎖的な違い地方では大変な思いをしている人もいるのではないかとも思う。

榎本:私たちがもっとそこに話しかけに行かなきゃいけないんだろうなとは思ってます。地方のLGBTだけが立ち上がるんじゃなくて、私たちみたいに今東京にいて「イェーイ!」って言える人たちが地方にいって、暴れまわるみたいなのが一番いいんだろうなと(笑)。県をまたいだ瞬間に、隣の県でも雰囲気はだいぶ違いますからね。「地方は地方で」じゃなくて、他人の意見を気にせずいれる私たちこそ、地方いっていろいろやったりしなきゃなあって。そのうまい仕組みを考えたいですね。

工藤:悠里香ちゃんは、自身がレズビアンであることで将来に不安ってあったりしますか?

榎本:もちろん、たとえば結婚とか、法的なところはめんどくさいだろうなあとは思います。なので、できれば婚姻届一枚で済むんだったらそうなってほしい、早めに変わって欲しいと思いますね。別にマイナスじゃないんだから!でもレズビアンだからっていう不安はないかな。私、ストレートだったとしても不安ですね(笑)。いいパートナーに出会えるか不安だし、将来安泰な仕事についているイメージもあまりないし、むしろこの会社も安泰にしなきゃいけないんですけど。

工藤:うん、私も不安!

榎本:人生の不安はセクシャリティによらず。「不安っすよねみんな」みたいな!(笑)

レズビアンもLGBTも、今つらいどんな人でも、いろんな人に会って自分の世界を広げてほしい

【写真】真剣な表情でインタビューに応えるえのもとゆりかさん

工藤:最後に聞きたいことがあります。私の周りにも、ゲイやレズビアン、トランスジェンダーであることを周りの人に打ち明けられないことでつらい思いをしている友人がいます。悠里香ちゃんが彼らにもし声をかけるなら、どんな風に声をかける?

榎本:うーん、言えない時は言えないよね、確かにねー、心配ないよっていっても心配だよね。なので、自分の居心地のいい場所をひたすら探し続けるしかないんじゃないかな。その場所で「なんでこうなんだろう」ってウジウジ悩み続けているよりは。「ここはおもしろいんじゃないか、この人と話したらおもしろいんじゃないか」っていうところに会いにいくなり、オンラインで連絡をとってみるなり、なんでもいいので、ちょっとでも動くのが大事なんじゃないかな。んで、ウジウジして悩んでいるその枠が、どれだけ小さいのかっていうのをちょっとずつ広げるっていうことが、唯一そこに対する解決策だと思うし、それはセクシャリティに関係なくどの悩みに対してもそうだと思う。

工藤:確かにLGBTだけでない、いろんな人に言えることだね。

榎本:たとえば受験や就職に失敗して死んじゃうみたいなのとかも、本人にとっては大きな問題なわけだから、私はそれを一概に悪くは言いたくはない。でも「この世界を少し広げる」っていうことがあればなあと思うんです。「東南アジアとか行ったら働いてないけど楽しそうな人いっぱいいるよー!あったかいところにいきなよ!バナナ食べてればなんとか生き延びれるから!」みたいな(笑)。なんかそういう、世界を広げるっていうのは自分でできることだし、お金もそんなにいらないし、そのためにカミングアウトする必要もないし、ぜひ!って思います。いろんなふたをあけにいって、いろんな人に会って、世界を広げてほしいかなと思いますね。

工藤:世界を広げる、いいね!

榎本:やれることはいっぱいあるから、少しずつ広い世界を見た結果、それでもLGBTである自分が嫌いだってなるんだったら、その時は「一回私とお話ししましょう!もう一回考えましょう」って言いたいですね(笑)。

自分の居心地のいい場所でやれることをやる

【写真】笑顔で立っているえのもとゆりかさんとライターのくどうみずほ

改めてインタビューをしてみて、「この人の生き様に救われる人って、LGBTに限らずたくさんいるんじゃないかな」って思いました。

けっして悲観的にならず、自分にできることをとにかく一生懸命やる。でもどこか肩の力が抜けている。

時に失敗したり迷ったりぶれたりしながらも、それでもがむしゃらに走ることをやめない彼女。課題だらけでちょっと目をやると大変なことが溢れているこの時代を軽やかに生きる悠里香さんを見ていると、本当に世界が変わるスピードを早めてくれるんじゃないかなっていう気持ちになります。

あなたが思うよりきっと世界は広いよ、今いる世界がすべてじゃない。
自分の居心地のいい場所がきっとあるはずだから、探そうよ。

悠里香さんが発信するのは、LGBTだけでなく、小さな世界に自分を閉じ込めてしまって苦しさを抱えているすべての人へのメッセージ。今が不安で不安で仕方がない人も、広く世界を見渡してみたら、きっとすこし楽になれるのかもしれません。

悠里香さんのあり方に、なんだか心が明るくなった時間でした。

関連情報:
株式会社Letibee ホームページ

榎本悠里香さん  Facebook:twitter

レズビアン・LGBTに関する最新情報:
株式会社Letibeeが運営するLGBTラボが、「全国男女332名に聞いた、『LGBT認知度』に関する調査」を発表しました。調査からは、「『LGBT』という言葉の意味については約半数が「全く知らない」と回答」、「30代では男女間にほぼ倍の認知度格差」など、LGBTにまつわる人々の意識を知ることができます。

(写真/馬場加奈子、協力/森一貴、撮影協力/Fabcafe Tokyo