【写真】街頭で笑顔で立っているいわもとゆうきさん

「普通」という枠組みに入らずとも、それぞれの場所で生きていける。そんな社会を作りたいですね。

そう話すのは、大人の発達障害で苦しむ人をサポートするウェブサイト『発達障害の「生き方」研究所 | Hライフラボ』を運営する岩本友規さんです。

岩本さんは大人になってからアスペルガー症候群、ADHDの診断を受けました。でも現在は自分の特性に合った活躍できる分野を見つけ、レノボ・ジャパン株式会社のサプライデマンドシニアアナリストとして働いています。

実は、この記事を書いている私にも、発達障害のある弟がいます。発達障害とは、いったい何なのか。その答えは、19年間共に暮らしてきた今なお、分かりません。

自閉症やアスペルガー症候群、ADHDといった発達障害のある子どもたちが通う特別支援学校に足を運べば、障害の特徴や程度もさまざまで、一概に「発達障害」という1つの単語で括ってしまって良いのだろうかと考えてしまうのです。

障害のある人たちは「出来ない」部分に注目されがちですが、「出来ない」部分を出来るようにするためにはどうすればよいのか。そもそも彼らにはどんな特性があって、何を得意とするのかという、一人一人の良さを見つめることが出来ていないように感じます。

でも岩本さんは出来ない部分ではなく、自分自身の得意なことや好きなことに目を向け、活かすことで生き生きと働きながら人生を送っています。岩本さんは、これまで発達障害とどう向き合い、自分の特性を活かす生き方を見つけていったのでしょうか。

障害の有無にかかわらず、人が自分を活かして生きていくヒントがあるのではないかと考えた私たち。発達障害で生きる人々やその家族に向けて、ブログや書籍を通して自身の気づきと体験を発信し続ける岩本さんに、お話を伺いました。

岩本友規(いわもと・ゆうき)さん レノボ・ジャパン株式会社のサプライデマンド(需要供給) シニアアナリスト。ブロガー。

1979年東京都生まれ。勤務先ベンチャー企業の倒産など4回の転職を経験。前職のモバイル通信キャリアで過労によりうつ病を発症し、休職。復職後にアスペルガー症候群、ADHDの診断を受け、現職へ障害者として転職。

現職ではアスペルガー症候群の特性である分析・パターン思考を活用して需要分析を担当。

仕事のかたわら、自らと同様に国や自治体の制度的支援にかからないような、高機能・グレーゾーンの大人の発達障害で苦しむ人をサポートするため2015年3月に立ち上げた『発達障害の「生き方」研究所 | Hライフラボ』は、開設から累計70万PV以上を集めている。

著書: 『発達障害の自分の育て方』(主婦の友社)

発達障害という診断は、納得感の方が強かった

 

【写真】真剣な表情でインタビューに応えるいわもとゆうきさん

 

物腰柔らかで穏やか、けれども語り出される言葉には確かな芯がある。岩本さんとお話をしていると、そんな印象を受けます。

岩本さんが「発達障害である」という診断を受けたのは32歳のとき。高校時代からプライオリティーを一番における親友がいなかったり、大学時代には部屋を片づけらず後輩から咎められたり。幼少期から、大学時代に至るまで、周囲の人々と多少のズレを感じることはあったそうですが、「発達障害」だとは思ったこともなかったと言います。

岩本さん:学生時代に感じていたやりづらさみたいなものも、それが「生きる」ということだと。みんなが感じていることで、たまたま今は自分がそれを感じているだけだと、何となくやってきたのはありましたね。

現在は、「レノボ・ジャパン株式会社」で勤める岩本さんですが、前職はモバイルキャリア通信会社で勤めていました。

当時は、似たようなたくさんの仕事を同時に並行して行うことや、期限に間に合うよう他部署と連携するなどの優先順位づけ、そして人間関係に苦手意識を抱きながらも懸命に仕事をこなしていたそう。

ですが、積み重なる残業と疲労から、感じたことのない大きなストレスが生じます。ある日の朝、仕事へ行こうとしても起き上がれなくなるまでになってしまいました。

会社の近くのメンタルクリニックで診察を受けると「うつ病」の診断が下され、約1年の休職生活に。その後違うメンタルクリニックで問診を受けると、興味やコミュニケーションに特異性が見られる「アスペルガー症候群」、不注意や多動性、衝動性の症状が表れる「ADHD」がうつの根底にあると分かったそうです。

でも、発達障害自体、全く知らなかったんです。大きな会社に入ってから、仕事をしていくなかでどうしても不調になることが多くなって、医者にかかってある薬を頂いたんですね。調べてみると、「発達障害」の方に出される種類の薬で。医者に聞いてみると、「そう、発達障害です。」と。

もし自分が『発達障害』であると日常生活のなかで、告げられたとしたら…。私は、すんなりと受け入れられる自信がありません。でも岩本さんは、戸惑いよりも納得感の方が強かったと話します。

岩本さん:電話応対や数字の入力、作業スピードなど、今までの仕事上でだめだったことの原因が分かって、腑に落ちたというか納得感がありましたね。どうしても上手くいかない時期もありましたから。

当時、既に結婚して家族もいた岩本さんは、「発達障害である」ということよりも、「今後どのように働いて家族を養っていくか」という不安に意識が向いていました。診断から約1年間同じ会社で働き続けたものの、責任の大きい仕事に、「自分の特性に合った仕事、負荷の低い仕事に就かなければ、きっと体力も精神力も持たない」と感じるようになっていきます。

障害者雇用は、自分を有利にする選択肢だった

 【写真】当時のことを思い出し、少し噛み締めながら話すいわもとゆうきさん

一般雇用で障害を隠して働くのか、障害をオープンにしながらも一般雇用で働くか、それとも障害者雇用の枠を利用して働くのか。打開策の見えないなかで岩本さんは悩みました。

岩本さん:僕はもう、どうやって生きるかそれしか考えなかった。「発達障害」をオープンにするしないよりも、少しでも自分と家族が暮らしていける方法は、どの選択肢なのかということしか考えなかったですね。

100%の理解や支援が得られないなかで、働き続けることに難しさを感じた岩本さん。障害者雇用を利用することで、その分だけ自分に合った求人を探すことが可能になり、働き方の幅が広がるのではないかと考えました。

最終的には、「働き口や選択肢が増える、配慮が得られる」という想定から、継続的に仕事をして家族を養っていくために、障害者雇用を利用して働くことを決断。

一方で、社会人になったあと人生の方向性を探るべく「生き方」、「人生」、「教育」分野の本を読みあさっていた岩本さんは、時間の感覚が変わる作業が優れた成果を上げるうえで大切だということを学んでいました。

振り返ってみると、過去に経験した「データ分析」の仕事だけは、食事やトイレもそっちのけになるほど、時間を忘れて集中して仕事を行うことが出来ていたことに気づきます。「これにかけるしかない」と思った岩本さんは、自らの特性に合ったデータ分析の手法を独学。普段の仕事のなかでも意識して使っていくうちに、仕事も少しずつ楽しくなっていったそう。

その後「データ分析ができる」という特性を活かし、障害者雇用での転職活動を開始し、現在の「レノボ・ジャパン株式会社」に就職することができたのです。

自分だけでなく周りの発達障害に苦しむ大人をサポートしたい

【写真】真剣な表情でインタビューに応えるいわもとゆうきさんとライター

レノボではアスペルガー症候群の特性である分析・パターン思考を活用して、需要分析を担当。所属部署において個人優秀賞を受賞するなど、実際に働いてみた結果、障害者雇用を利用して働くという選択は間違っていなかったと感じたそうです。

岩本さん:今のデータを扱う仕事は、障害者雇用以外でその職種を見つけることが出来なかったんですよね。当時30歳を超えていましたから、転職をするのであればスペシャリストでないと採用されない。そのなかで未体験でも今の仕事に就くことが出来て、ある程度の成果を残すことが出来たということは良かったと思います。

岩本さんはあるプレゼン塾を受講したときに、自分が本気を出せるもの、情熱をかけられるものに気づくと、本当の行動力やコミュニケーション力が出てくることを学びました。そして、「多少のつらさが関係なくなるぐらい、人生で実現させたいことを持った方が生きやすい」という考えを持つようになったのだそうです。

自分の特性に合った分野の能力を伸ばすことに全力を傾け、自身の居場所を作り出した岩本さん。働きつづけるにつれて発達障害の症状が改善されていき、だんだんと自身の関心は同じように大人の発達障害で苦しむ人たちへと向けられるようになっていきました。

「自分だけでなく、『周りの人の自立を助ける』ことを人生のなかで実現させたい。」

岩本さんは、働くことや生きることで困難を抱える人々が、生きる目的を見出していくために自分に何が出来るのかを考えたといいます。そして様々なジャンルの人との対話を通して、経験や学習を積み重ねるなかで培った生き方や考え方を「生き方3.0」と銘打ち、自身のウェブサイトから発信し始めました。

 

オープンにすることで、他の人の役に立つ

あ-

現在仕事の傍ら、ウェブサイト『発達障害の「生き方」研究所 | Hライフラボ』の運営。昨年は、自身の生き方や体験に基づいた大人の発達障害を克服する方法を綴った、書籍『発達障害の自分の育て方』も出版しました。

岩本さんが自分の経験や感じたことを、自身のなかに留めておくのではなくて、外に向けて発信していこうと思ったきっかけは、転職後に読書会やイベントなど様々な場へ足を運んだことにあります。

岩本さん:レノボで働くようになって自分がだいぶましになったときに、以前の自分と同じように、苦労をしながら働いている人で、集まるイベントを立ち上げたことがあったんですね。来てくれた人たちと話すと、自分の想像以上に困っている人がいて、改めて昔の自分が困っていたこと、そして今の自分の状態が改善されていたことに気付いた。その状態の改善についてどんな変化があったのか分析を行っていたこともあって、他の人の役に立つことがあるかもしれないことは、オープンにしていかないといけないなと感じたんですね。

 

もともとは少数精鋭の今の会社で働くにあたり、そのレベルの高さに不安を感じて勉強やイベントへの参加を始めたのだそう。その行動は以前とは異なる物の見方を生み出したり、集中力、注意力、コミュニケーションの点で良い変化を及ぼしたり、「発達障害」の症状の改善にも大きく役立ったといいます。

岩本さん:全部結果なんです。他の部分をカバーしようとして何かを得たわけではなくて、興味のあることについて経験や知識を積むなかで、いつの間にか出来なかったことが出来るようになっていった。あくまで、自分がやるべきことをやれるようになっていったという感じですね。

【写真】soarのイベントに足を運んでくれた時、近くの人と楽しそうに話すいわもとゆうきさん

soar主催のイベントにもよく足を運んでくれる岩本さん。日常的に、様々な人との交流の機会をつくっています。

「発達障害」のある人たちが未体験の物事に取り組もうとするとき、周囲の人々は危険や事故を恐れて「やらせない」方向に持っていきがちだと感じますが、岩本さんは多様な経験を得るなかで自らの可能性を広げていきました。

岩本さん:経験をすることに対して、制限はするべきじゃないと考えています。彼らは、学生時代に、「出来ないことが良くないことだ」という認知を持っているはずなんですね。経験をして出来ないと落ち込んでしまう人もいますが、それも認知の問題であって、「出来ないから悪いわけじゃない、点数が取れないから出来ないわけじゃない」ということをいかに分かってもらえるかが重要だと思います。

「自分と他の人は違う世界に住んでいる」、「他の人に必要なものが、自分に必要なわけじゃない」といった、人はひとりひとりが違うのだということ。それを幼少期から障害の有無にかかわらず、実感させてあげることが重要なのかもしれません。

学校やコミュニティの枠に入ることのできなかった子どもたちに、自分の感じ方と学校のスタイルが合わなかった場合は自分から離れていっていいんだと伝えることも重要ではないかと岩本さんは話します。

1人1人が見る世界を想像して寄り添うということ

【写真】微笑みながらインタビューに応えるいわもとゆうきさん

発達障害に対する認知が広がるなか、発達障害のある人々に対するサポート、手助けをしたいと考える人々もいると思います。ですが、時に「サポートしよう、サポートしよう」という気持ちが強くなりすぎるあまり、押しつけのような支援になってしまい、助けるつもりが追い詰めてしまう場合もよく見られます。

岩本さん:発達障害の人々は、世界をどう見ているのかということを、いろんな経験をした方ベースで、話を聞いた方が良いのかもしれないですね。苦しい状態に陥っている人というのは、他の人に見えているものが見えていなかったり、逆に他の人には見えないものを見ていたりするわけです。しっかりとイメージをして、そのときそのときのその人の世界に出来るだけ寄り添った支援をした方が良いのかなと思います。

健常者が考える「普通」という枠組に近づけようとする支援を受けたとき、もちろんその支援から一定の社会の枠に収まる場合もあります。でも、もし今の社会の枠組みのなかで働いて生きていくことが難しい場合、私たちはどんなサポートが出来るのでしょうか。

岩本さんは、「想像していくことの重要性」について話してくれました。

岩本さん:僕に多少あるアスペルガーの感覚からいうと、もしかすると重度の自閉症の人は他の人が喋っている音と、普段の生活のなかで聞く物音って変わらないのかもしれないんですね。何か耳のあたりでガタガタ揺れているなという感覚でしかない。そういう世界で生きている人たちに、どういった支援が適切なのかということは、その世界をイメージしないと分からないわけじゃないですか。言葉がない、もしくは言葉が分からない世界にいたとして、はたしてどういった社会や環境だと生きやすいのか、想像していくことが大事だなと思います。

そして、家族という立場から発達障害のある人に関わっていく際には、「100%の肯定」が重要だと言います。

岩本さん:僕は、その人自身が困難を抱えていたとしても、生活をしていけているのであれば、助けてくれと求めてこないのであれば、過度に干渉するべきではないと思います。家族として、「全面的にその人を100%肯定してあげる」ということが愛情だと思うんですよね。あとは出来る限りのことを、必要に応じてしてあげることかなと。

周囲に存在する発達障害のある人への関わり方、家族としての関わり方を、さまざまな切り口からお話をしてくれた岩本さん。自らも情報発信を積極的に行い、困難に苦しむ当事者の人々の視野を広げていますが、その発信の先にはどんな社会を実現したいと考えているのでしょうか。

岩本さん:今はよほどの能力がないと食べていくのが難しかったり、福祉の枠でお世話にならざるを得なかったりしますが、もう少し社会としてのあり方があるのではないかと感じています。みんな学校や社会といった「普通」という枠組へなんとか近づけようと頑張っていると思うんです。でもそうではなくて、「普通」を手繰り寄せずとも、それぞれの場所で生きていける社会にしたいですね。

 

十人十色の形を肯定していくこと

【写真】笑顔のいわもとゆうきさんとライターのえぐちはるとさん

今回の岩本さんへの取材で実感したのは、僕自身が気づかぬうちに発達障害という枠組に縛られていたことです。

できない部分をできるようにするのではなく、自分のできる部分を活かして生きていくためにはどうすれば良いのか。自分に合った制度を模索し利用することはもちろん、不安を解消するために情報や仲間を手に入れていくことなど、岩本さんのお話から、明日からの生活で取り入れていけそうなヒントをたくさんいただきました。

私も発達障害のある家族とともに生きるなかで、幸せなことだけではなく、時には辛いことがあったり、声を荒げたりしたくなるようなことがあったり。なかなか上手くいくことばかりではありません。

でも、上手くいかないときこそ今回の岩本さんのお話から学んだ、「受け入れること、肯定すること」を忘れずに自分には何ができるのか、彼らの世界を想像しながら寄り添って共に生きていこうと改めて思いました。

関連情報:

発達障害の「生き方」研究所 | Hライフラボ

岩本友規さんの著書 「発達障害の自分の育て方

2016年11月18~20日「日本LD学会第25回大会自主シンポジウム」登壇予定

(執筆/江口春斗、写真/馬場加奈子)