【写真】街頭に立ち遠くを見ながら微笑むよしおかゆうみさん

「家族のかたちは様々!“普通“なんて、ないんですよ」

  ファミリー心理カウンセラー・プリマリタル(結婚準備)カウンセラーのよしおかゆうみさんの言葉を聞いて、無意識のうちに「普通の家族像」をつくってしまっていたことに気づきました。  

児童心理学を専門とするゆうみさんは、これまで延べ2万組の親子に出会い信頼関係を築いてきました。20年間にわたり東京都の幼児教育に携わる傍ら、乳幼児期と思春期~青年期との連続性、自己表現と友達関係の発達などの実践研究に取り組み、都内メンタルクリニックにて思春期家族カウンセラー研修を経て独立。現在は、子どもの教育現場や家庭教育学級、夫婦・カップルを対象としたワークショップ等で、講師として活動中。子どもと大人が集う “asobi基地“ というコミュニティにも携わっています。  

これまでsoarでは様々な境遇の人にインタビューしてきましたが、人にとってもっとも身近な存在である「家族」の大切さを実感する機会が多くありました。たとえば、障害や病気のある人が生活していくために、家族のサポートはひとつの大切な要素です。そして不登校や引きこもり、うつの経験者にとっても、家族の事実の受け止め方や関わり方によって、自分を肯定できるかは大きく変わってきます。  

一方で、家族という小さなコミュニティにとらわれてしまうがゆえに、つらい思いをしている人もいるのが現状。家族だけで子育てをしていくには限界があり、今改めて地域ぐるみ、社会ぐるみで子育てをする必要性も見直されています。

シングルペアレント、ステップファミリー(子連れでの再婚)も増えていくなか、これまでの価値観とは違う新しい家族のかたちについて考え直す必要があるのではないかと思います。  

人間が生まれてから初めて出会う「一番最初の共同体」といわれている、家族。どうすれば常識や世間の目にとらわれず、自分たちらしい家族を築いていけるのでしょうか。

ゆうみさんへのインタビューを通して、「家族のかたち」について考えてみたいと思います。  

子どもの育ちと親子の関係に関心があった

【写真】緑の木々の前に立ち微笑むよしおかゆうみさん

工藤:まず、ゆうみさんのカウンセラーのお仕事内容はどんなものでしょうか?  

ゆうみ:今は「ファミリー心理カウンセラー」ということで、様々なご家族、親子、ご夫婦のカウンセリングやワークショップを中心にやっています。今、一番増えているのがステップファミリーという、再婚者同士や片方が再婚という人たちのご相談ですね。その他、保育や教育の現場でも、保育者、学校の先生から深刻な相談を受けることが多くなりました。  

工藤:ゆうみさんは児童心理学を学ばれてたと聞いたんですが、「子どもが好きだから学ぼう」と思ったんですか?  

ゆうみ:「子どもと遊ぶ」のがとても好きで!子どもが育っていく過程に興味があったんです。子どもってとてもおもしろいし、自分自身も子どもっぽい感性があるので「一緒にいるのが自然だった」という感じですね。

ゆうみさんはたくさんの親子が自分の子どもかどうかは関係なく、遊び学びあえる場を生み出している)

工藤:子どもの心理や教育に携わって、どんなことを感じましたか?  

ゆうみ:幼児教育の世界だけにいると、乳幼児や幼児までの成長で区切られてしまい、ちょっと見えない部分があるなと感じましたね。じゃあ、このあと子どもたちがどういう風に育っていくのか。様々な経験をすることで、何が子どもの中に耕されてそれがどう人間力となっていくのか。もっと広い視野で見たいと思うようになりました。

そこで、子どもの思春期・青年期のことを学ぶだけでなく、親子の関係を見てみたいと思い、思春期クリニックのお医者さんの門を叩きました。

工藤:クリニックでは様々なかたちの親子を見てきたと思います。たとえば、親との関係がうまくいっていない子だったり、離婚してシングルペアレント、再婚家庭の子などは「学校で自分だけ違って苦しい」という思いがあったりするんでしょうか?  

ゆうみ:今家庭環境は実に多様で、シングルペアレントや再婚家庭は非常に多くなっています。むしろ初婚家庭で、何の問題もない家庭のほうが逆にめらずしいんですよ。今、みんな幻を見ていると思うんです。

工藤:幻、ですか。

ゆうみ:「うちの家族はこんなに幸せです。うちの夫婦はうまくいってます」って人前で振舞ったり、facebookに仲の良い写真を載せたり。見る側も、そういった他人の幸せそうな面ばかり見ているから、うまくいっていないのは自分だけ=恥ずかしい、という勘違いが起きます。

人にはうまくいってない部分は見せられないし、子どもにも学校で辛い思いをさせたくないから、問題を隠そうとする。でも、ふたを開けてみたら全然違うことが多いんです。

思い通りにいかない子どもの行動の裏にあるもの

【写真】インタビューに真剣に応えるよしおかゆうみさん
工藤:ゆうみさん自身も里親として子どもを育てられていたと聞きました。  

ゆうみ:はい、里親のような、という表現が正しいのですが、それぞれ異なる時期に4人の子どもたちと生活をさせていただきました!他にその子をみる人がいなくて、自然にそういう状況になっちゃって、結局私と主人のところに舞い込んできたんです。事情があって小さい頃から預かっていた姪っ子姉妹だけは、正式に家族として暮らしました。そしてある時期がきたら、子どもは自分からが自立していくんですね。  

工藤:4人も!里親は、実親の病気や離婚などの事情で家庭で暮らせない子どもたちを、一時的の養育するものですよね。養子縁組と違って親子になるというわけではないため、関係づくりが難しそうな気がします。ゆうみさんは、子どもとは「お父さん、お母さん」として関係をつくっていったんですか?  

ゆうみ:最初はそうしようとしたときもありましたね。お母さんに虐待を受けていた子を預かったときなんかは、まだ私の中に固定観念があったんですよ。その子が母親を恨まないようにしなくちゃいけないとか、母親ができなかった穴埋めをして完璧にお母さんの代わりをつとめなければいけないとか。自分の中でつくられた理想、きれいごとでしたね。

でも、その子がそれを見事に払拭してくれました!そんなことを思って接しても、逆のことが子どもに現象として現れる。「え、なんで私は優しく言ってんのに、この子は感情的になって反発するの?」とか。まず自分の感情がそこに追いつかなくなるんですよ。  

工藤:ゆうみさんの意図とは違う行動が出てくるんですね。  

ゆうみ:いわゆるわざと困らせる態度をとって愛情を図る「試し行動」が起きるんです。 例で言うと、私が知ってる里親さんの子どもはもう小学生なんですが、「おむつを取り替えて」とか「哺乳瓶買ってきて」と、お母さんにものすごい命令をするんです。里親さんはその子の欲求をまるごと受け入れて、本当に赤ちゃんに接するようにしてあげるんですが、それがずっと終わらない。もうまとわりついて離れなくて、背中に乗るし這いまわるし、大変な毎日だったそうなんです。  

工藤:赤ちゃんに戻る、そんなことが起きるんですね!  

ゆうみ:何ヶ月か毎日のように、子どものねだるとおりにやってあげたそうなんです。そしたらある日突然パタっと「もういらない」と卒業したんですよ。その子にとっては、親に甘えられなかった時期を里親が代わりにやってくれたっていうことなんです。そこからは徐々に里親さんを「お母さん」って呼ぶようになりました。  

工藤:反抗していたのは、関係を築いていくために必要な通過儀礼のようなものだったんでしょうか。この人は信頼できるひとかを確認する、というような。  

ゆうみ:そうですね!それに私は、里親でも再婚家庭でも同じだと思うんですけど、無理に「お父さん、お母さん」って呼ばせることはないと思うんです。子どもが自然に思ったらそう呼ぶだろうし、おばさんって感じるかもしれない。名前にさん付けや、あなたなどと呼ぶかもしれない。子どもが感じてる距離感で自分のことを呼ばせてあげるっていうのが、一番子どもにとっては心地よくて、信頼関係もできやすいんじゃないかと思いますね。

お父さん、お母さんの問題が子どもの心へ与える大きな影響

10代から夫婦、家族まで。ゆうみさんはカウンセリングで様々な人と関わっている。

工藤:お父さんお母さんが実親という以外の家族のかたちが発端となって起きてくる問題として、他にどのようなものがあるのでしょうか。

ゆうみ:親が離婚した場合だと、いろんなことが起こってきます。たとえば離婚して子どもがお母さんに引き取られ、お母さんがものすごくお父さんを憎んでるとしますよね。子どもって思春期に入ったときに、ものごとに全て善悪をつけようとするんですよ。これはいい、これは悪い。この人はいい人、悪い人って。  

工藤:確かに、子供ははっきりと善悪を分けようとするところはあるかもしれません。  

ゆうみ:だからお母さんがあまりに泣いたりお父さんを罵倒したりすると、子どもは「お母さんがいい人で犠牲者」であり、「お父さんはものすごく悪い人」って位置づける。そこでマインドコントロールみたいなことが起きてしまいます。  

工藤:ちょっと、よくないですね。  

ゆうみ:ええ。だから大人になってから振り返ると、「子どものとき、私はお母さんのことを神だと思っていた」という話も出たりするんですよ。お母さんは神だから、お母さんのいうことが全て。「お母さんがこうしなさいって言ったからそうしなくちゃ」、「お父さんはこんなところがあってすごく悪い人なんだ」という思いこみが積み重なって、父親がすごく憎くなっていきます。  

工藤:そうなると、お父さんの存在はどうなっていくんですか?  

ゆうみ:「父を憎んでいる。だけど自分の中にはお父さんの血が半分流れている」と、ある日気がつくんです。そして、アイデンティティがうまく築けなくなるんです。だから、離婚で自分がどんなに辛く苦しい状態でも、自分のパートナーだった人を子どもの前で非難したり、感情を揺さぶって子どもの心をコントロールしようとするのは、絶対にしてはいけないと思います。子どもは自分の成長を止め、親の犠牲になってしまいますから。  

工藤:お父さんお母さんの問題が、子どもの心にまで影響を与えてしまうんですね。  

ゆうみ:そう、その後に生まれるのは子どもの自己否定。自尊心が低くなる現象です。私が相談相手になっていた子が、「私の中にいっぱい人がいて、悪い子もいて。その悪い子がどうしても好きになれない」っていう言い方をしたんです。自分の全てを受け入れて統合することができなくなるんですよね。

喧嘩をしても、仲直りを見せてあげることが大事

【写真】インタビューに笑顔で答えるよしおかゆうみさんとライターのくどうみずほ
工藤:もし離婚をするとなったとき、子どもはその様子に気づくものなんでしょうか。  

ゆうみ:絶対気づくと思います。子どもはお腹で感じるので、気づきます。子どもは小さければ小さいほど万能感があって、なんでも自分と関連付けちゃうんですよ。自己中心性が強いんです。

たとえばお父さんとお母さんが喧嘩していると、「ああ自分のせいだ」と思って悲しくなっちゃう。自分を責めちゃう。「じゃあ、もっと僕がいい子にしてれば仲良くなるんだ」と思って、一生懸命いい子に振る舞う。「こんなのできたよ、こんなの描けたよ」と必死で機嫌をとる。  

工藤:自分のせいだと思って、なんとか自分が仲を取り持とうとするんですね。  

ゆうみ:するとその子は、自分の意志というよりは、親に仲良くしてもらうために自分のエネルギーを使うことになってしまいます。子どもの前で口論をしないのは鉄則だけれども、時には喧嘩するだってありますよね。でもそのあとにちゃんと仲直りするところも見せてあげたらいいんです。そうすれば、「あ、どんなに仲良くてもケンカはするんだ。でもごめんねって言ったらまたラブラブに仲良くなれるんだ」って学ぶんですよね。  

工藤:大事なのは「喧嘩しても、仲直りができるんだ」と示してあげることなんですね。  

ゆうみ:そうです、ちょっと恥ずかしくても子どもに仲直りを見せてあげることが大事なんです。「俺が悪かったよ、言い過ぎたよ、ごめんね」ってハグするとか、「さっきはごめんなさい」ってチュってするとか。  

離婚はネガティブなことではなく、これからの幸せつくるポジティブなこと

子どもの心理や遊びなどのテーマで講演会を行っている

工藤:それでももし喧嘩が続き、どうしても離婚をしなければいけないとなったとき、どう子どもにどう伝えたらいいんでしょうか。  

ゆうみ:もし工藤さんならどうしますか?どう伝えますか?  

工藤:どうでしょう…。「私たち、お互いの幸せのために離婚するんだよ」みたいなことを言うような気がします。  

ゆうみ:そうですね。離婚がマイナスの選択だと、子どもには言わないほうがいいんです。プラスの選択で、幸せのために離婚を選択したと伝えることです。「私たち夫婦2人だけじゃなくて、あなたも含めたみんながそれぞれ幸せになるために、ちょっとパパとママは別々に生活することになったの。」と。けっしてマイナスなことではないんだ、と子どもがナーバスにならないよう伝えるのが大事です。  

工藤:離婚がネガティブなことではなく、今後のためだとポジティブに伝えるということですね。  

ゆうみ:はい。ちなみに先進国で親権が片親だけというのは日本だけ、ほとんどの先進国が共同親権です。だから日本ではときどき「引き離し」というのが起きるわけです。

工藤:引き離し…?

ゆうみ:たとえばお母さんが、お父さんが憎いあまりに、お父さんがどんなに悪い人かって子どもに言い聞かせて会わせないようしてしまったりする。そうなると子どもがお父さんを大好きだとしても、「お父さんのところに行ったら、お母さんに嫌われて自分も捨てられちゃう、行き場がない」と思い、お母さんの味方になるしかなくなっちゃうんですね。  

工藤:それしか自分が生き残る道がない。  

ゆうみ:そうすると、「お父さんに会いたい」って気持ちがどこかに追いやられてしまって、心にものすごく暗い闇をもつことになってしまいます。会いたいのに会えない、お父さんのことが好きなのに会えない、もう愛されてないんじゃないか。いろんなことを考えるわけですね。本当に、父には捨てられちゃったのかなあって。  

工藤:それはつらいですね。  

ゆうみ:でも、離婚は言うなれば夫婦の勝手で。結婚の契約をしっかりしたけれど何かあって決意が崩れたわけですから、責任は夫婦にあるわけです。もちろん人生には過ちも変化もあります。「パパとママは、これまでうまくいくようにすごく頑張ってきたんだけど、これからは、別々にそれぞれの人生をちゃんと歩いていったほうが家族も幸せになれると思う。だからこういう選択をしたよ」と伝えること。「わかってもらえるかな?」と理解を求めることが大事です。  

「離婚をしたって愛情は変わらないよ」としっかり伝えて

工藤:離婚をするときに、もっとも気をつけるべきことはなんでしょうか?  

ゆうみ:離婚の問題から、子どもを外さないことですね。それは離婚はマイナスの傷を受けるような出来事、いけない出来事だっていう思いこみがあるからだと思います。だから、子どもになんて説明すればいいんだろうと考える。でもある日突然、「あなたはお母さんと住むのよ、お父さんと会っちゃダメよ」って言われたらどんな気持ちになるでしょうか。「あれ?僕は家族じゃなかったの?」と感じると思うんですね。  

工藤:確かにそうですね。でも幼い子には、離婚をどういうふうに伝えたらいいか迷います。  

ゆうみ:もちろん、子どもの年齢に合わせなきゃだめです。子どもの年齢にふさわしく、ちゃんと納得できる言い方で。「あなたも家族の一員だから言うけど、あなたのこれから先のことはすごくよく考えた。環境もなるべく変えないで、今までやってきたことがそのままできるようにするね。でもちょっと学校はどうしても変わらないといけないんだけど」と伝える。そうしなければ、子どもも不安になってしまいます。  

工藤:子どもの不安に対しては、どう接してあげればいいんでしょうか?  

ゆうみ:意外と子どもはいろいろ考えていますから、持っているであろう不安をちゃんと言ってあげることです。たとえば「お父さんが遠くに行っちゃったら、おじいちゃんとおばあちゃん会えないのではないか」と心配になったりもするんです。子どもにとっては、おじいちゃんとおばあちゃんと別れるってものすごく辛いことなんですよ。親権が片方になっちゃうと、「お父さんと離れる=お父さんの実家も離れる」となってしまいますから、そのへんを家族の一員として子どもにちゃんと話すことが大事です。

工藤:不安になりそうな点を、ひとつずつ説明してあげるといいんですね。

ゆうみ:そして何より、「これからもあなたのお父さんとお母さんであることは変わらないよ。愛情も変わらないよ」と伝えてあげなきゃいけないです。それが子どもが一番心配してしまうところだと思います。

親がかけてくれた愛情が、いざというとき歯止めになる

【写真】子どもたちと一緒に笑顔を見せるよしおかゆうみさん

工藤:ここまでは離婚について聞きましたが、離婚後にひとり親家庭になった場合だとどのような悩みが相談されるのでしょうか。  

ゆうみ:そうですね、たとえば父子家庭ではお父さんの性格によってものすごく空気が違うんです。同じ父子家庭でも「孤軍奮闘型」といって一人ですべてお母さん役もやるし、「全て俺がやったるわ!」みたいな人もいるし、「いやあ、ほんとに僕はなんにもできないんで。家事も下手くそやし、ちょっと頼みます」って外に応援を頼める人もいる。一方で「うちの子ひねくれちゃうといけないから」って言って、そんなお金もないのに家を開放して、近所の子みんな呼んで面倒みて、助けてくれるママ友がたくさんいるお父さんもいます。  

工藤:ひとりで頑張ってしまうお父さんもいれば、うまくまわりの助けを求められるお父さんもいる。  

ゆうみ:父子家庭のお父さんの悩みとしてよくあるのが、収入が少ない減る、ということなんです。あるお父さんは子どもがすごく好きで、子どもと一緒にいたいという理由で、仕事を正規から非正規に変えてしまった。でも時間の自由と引き換えには自由になったんだけど給料が少なくなってしまい、「教育費って今後どれくらいかかるんでしょう」っていうご相談を受けたりします。進学の具体的な費用について話すと同時に、「お金をかけなくても、立派に成長する道もある」という話もしましたが、切実です。そのお父さんはいろいろ調べていて、すごく子どものことを考えているなって感じました。  

工藤:一生懸命に、子どもを想っていらっしゃる。  

ゆうみ:それだけ真剣に悩んだり、どうしようと落ち込んでるお父さんを見てる子どもは、「あ、お父さんはすごく僕のことを大事にしてくれてる」って思うはず。それだけで子どもは育つと思うんです。

工藤:大切にされていると肌で感じるんですね。

ゆうみ:もちろん先のことはわからないので、もしかしたら子どもは非行に走るかもしれない。でも、どこかでお父さんが愛情いっぱいかけて育ててくれたっていうのが、いざというときの歯止めになる。家に帰るきっかけになるんじゃないかって思います。結局、最後は「愛情」なんですよね。

もっと家族には多様なかたちがあっていい

【写真】インタビューに真剣に応えるよしおかゆうみさん
工藤:ひとり親家庭だけではなく、その後に再婚される方も多いと思います。相手の子どもと仲良くできなくて、悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

ゆうみ:そうですね、よくお母さんから聞くのが「私、のけものになってる」と感じるという声なんです。たとえば再婚したときに、お父さんと連れ子の娘さんがすごく仲良しという場合があります。娘も新しいお母さんと仲良くしようと努めるんだけれども、やっぱり今までの歴史があって、父と娘の絆には勝てないんですよね。そうするとお母さんはのけものにされちゃって、お父さんとの恋愛もちょっと冷めたりする。お母さんが、娘とお父さんの関係が羨ましくなっちゃったんですね。  

工藤:確かに、私が同じ立場ならそんな気持ちになってしまいそうです。  

ゆうみ:何より苦しいのは、その葛藤を表に出せないことなんです。ヤキモチやいてるなんて、娘にはそんなこと言えない、恥ずかしいと思っちゃうんです。旦那さんに言ったら「子どもにヤキモチを抱くなんて、お前がまだまだなんだよ」って言われるかもしれない。だから家族には言えないんです。友だちに相談するのも恥ずかしくてみんな我慢しちゃうんですけど、人間だから心のなかでそう思うのはしょうがないんですよ。当たり前なんです。  

工藤:「あの家庭、うまくいってないんだ」と思われたら恥ずかしいから、悩みを周りのひとに知られたくないっていう思いはあるかもしれませんね。  

ゆうみ:最終的には、「自分がこんな思いするのは未熟だからなんじゃないか」とほとんどの人が思ってしまうんです。そうじゃなくてみんな同じなんです。だけど、その思いにとらわれてしまうんですよね。  

工藤:そこから一歩、踏み出していくにはどうすればいいんでしょうか。  

ゆうみ:「正直でいる」勇気をもつことですね。正直に、自分をさらけ出すということ。感情的にわーってなるんではなくて、相手にわかってもらえるように、言葉にして伝える。そうしていないと、ある日突然爆発します。特に女性はこの関係をうまく維持しようと思うあまり、我慢しがちで、その我慢はマグマになってしまう。そしてこれは夫婦関係だけでなく、親子や家族でも同じなんです。

家族というシステムの中で、一人が問題を背負いこんでしまう

工藤:「マグマ」という言葉が出ましたが、家族のなかの誰かが抱えている苦しみや不安は、家族の他の誰かにも影響がもたらす気がします。私は、お母さんがうつ病になったことで、子どもも影響を受けて精神的に落ち込んでいき、発達に障害が出てきたという親子に出会ったことがあります。家族ってお互いに作用を与え合っているんだなと思いました。  

ゆうみ:そう、家族ってシステムでできているんですよ。子どもや親に起きている問題を解決するとき、「家族というシステム」全体に働きかけていく手法を「ファミリーコンストレーション」といいます。親子だけの関係ではなくて夫婦関係、時には親の育った家庭環境まですべて含まれてくる。そんな大きなシステムの中で子どもは生活していて、何か家族にゆがみがあると、まず子どもが影響を受けやすいわけです。  

工藤:一番弱い存在だから、というのもあるんですかね。具体的にはどういったことが起きるんでしょうか。  

ゆうみ:たとえばきょうだいが三人いる家庭で、上の姉と下の弟が全然平気なのに真ん中の女の子が優しい気性で、なぜかその子が「よどみ」みたいなものを全て受けてしまっているということがありました。その子によどみが集中しているおかげで、その家族=システムがかろうじてうまくいっている、バランスが取れている。おかげで本当の問題が見えない、ということが起きます。 そして、その子が不登校になったとします。すると、「この子が問題なのよ」とそこだけ見られてしまう。根本的な問題が隠れて見えなくなってしまうんですね。  

工藤:家族みんなの問題なのに、その子だけの問題にしてしまう。  

ゆうみ:そうなりがちですね。家族の中の誰かがそういう役目を負ってしまいます。子どもは自然とそれぞれ役を分担するので、「家族の中では自分はこういうキャラなんだ」と考えて振る舞う。でも外に出たら違うんですね。お母さんがよく外の人から自分の知らない子どもの側面を聞いて、「うちの子、そんなところがあるんですか?」って驚くことがあります。つまり家族ではその役は必要ないし出せないんだけど、外では出せるっていうことなんです。家では良い子、学校では発散型、という子もいます。

真剣に向き合う時間が本当の家族をつくる

【写真】微笑んでインタビューに応えるよしおかゆうみさん
工藤:では子どもがあまり精神的によくない状態であるとき、親はどうしたらいいのでしょうか。  

ゆうみ:自分の子どもを3人育てたあと、里親として9人の子どもを育てた知り合いがいます。彼女が一番最後に預かった子は中学生の男の子で、不良でどうしようもない、預かり手がない。いざその子を預かったら、全然家にいない。外で万引き、窃盗、異性交友、シンナー、なんでもやってくる子でした。そのたびお店や警察から電話がかかってきて、彼女が駆けつけたそうです。  

工藤:その繰り返し。  

ゆうみ:でも、「この子に必要なのは、この子の気持ちに一緒になってあげることだ」と思って、一生懸命尽くしたうです。ある日その子に、「私こんなおばあちゃんなのに、周囲にはあなたのお母さんって言って歩いてごめんね」って伝えると、「そうだよなクソババア」と返事が返ってきて。でも、そういう風に言えるようになったのも、ちょっと変わったなってうれしく思ったそうです。  

工藤:何か反応が返ってくるだけでも、変化してきたんですね。  

ゆうみ:とは言っても日々謝りに回るだけでした。ゲームセンターに行って盗みをはたらいたときは、お母さんお父さんも一緒にいって、「この子がほんとに申し訳ありません」と謝るんです。するとお店の人は、「あんたこんなに年をとってから産んだ子だから、かわいくてしょうがないんだよ。だから甘やかしてるんだよ」とどこでも言われるのだそうです。「あんた親としての育て方間違ってるよ」と、延々と説教される。説教に対して言い訳もせずに謝る年老いた里親の横で、その少年は黙っている。でもこれは、ボディブローのように効いたのではないでしょうか。  

工藤:それは大変な状況…。  

ゆうみ:それでもなかなか非行はやまなくて、悪いことばっかり。でも、それも試し行動なんですよ。「俺がどんなに悪いことしても見捨てないでいてくれるかな」っていう行動。今まで誰も本気で愛してくれる人がいなかっただけなんです。

警察から一緒に疲れ切って帰宅したある夜、母親がふと「あんた、一緒に寝る?」と尋ねてみると、「いいよ、」と。それで、一緒の布団で寝てみたら、抵抗しないんだそうです。それが何日か続くうちに、すりすりと親のほうに寄ってきたんだそうですよ。

工藤:安心して心を開き始めたんでしょうか。  

ゆうみ:ええ、体の大きな中学生が、まるで幼稚園の子みたいに甘えてくっついてきて、親はそっと抱きしめて寝てあげる。それが何日か続きました。すると向こうから、「恥ずかしいからそろそろやめようよ」って言い出したそうです。それが”卒業”でした。ぴったりと非行をやめたんです。今その子は、理学療法士を目指して勉強中です。

工藤:お母さんの愛情が彼を変化させたんですね。

ゆうみ:私はその話を聞いて、家族って血のつながりではないんだなって確信をしました。どうしようもない弱さや脆さをさらけ出せる関係、思い合える関係性が重要なんです。  

ゼロから家族をつくっていく「決意」をたいせつに

工藤:血のつながりだけではない、真剣に向き合ってきた時間の積み重ねが家族をつくるんですね。結婚して家庭を築いていくのは、楽しみでありつつ私も不安があります。自分の家族をつくっていくにあたって、どういう心がまえで臨んだらよいのでしょうか。  

ゆうみ:時代が大きく変化しているので、家族はこういうものだという枠は一度取り払ったほうがいいです。「普通」っていう概念やフレームが幻をつくっています。普通の家族、普通のカップル、普通の結婚。

工藤:確かに私のなかにもありますね。

ゆうみ:普通の結婚はこう、初婚家庭はこうっていうイメージが頭にあるから、現実を見たときに「こんなはずじゃない」となるんですよね。夫はこうしてくれなきゃ、妻はこうすべきっていう枠があるために、いつも苦しい。でもそれって自分が決めつけてるだけなんです。なので、私が言いたいのは「どんな家庭や家族があってもいいじゃない」ってことなんです。

工藤:自分がまず多様な家族のかたちを受け入れるオープンな心にならないと。

ゆうみ:まず「こだわりを捨てて自由になる」意識が必要なんです。たとえば子どもに「お母さんと呼びなさい」と言ってしまったり、お母さん自身が「母親はこうあるべきなのに私はできない、こんな風に思っちゃう私はいけない」って自分を責めてしまうのも、こだわりからですよね。

工藤:自分のこだわりを他の家族にも押し付けてしまう。

ゆうみ:でも、親がまず自然体にあるがままの自分をさらけ出せば、子どもものびのびできるもの。「お互いに育っていく場所としての家庭」が生まれれば、すごく居心地がよくなるんですね。  

工藤:家族それぞれが成長の途中なんだ、という考えはすごくいいですね。でもあるがままをさらけ出したい一方で、家族は距離が近すぎるゆえの難しさもあるような気が。  

ゆうみ:そこで大事なのが、「対話」と「向き合う時間」です。人間の速度やキャパを超えて、時代の流れは速く、情報に溢れています。家族も昔と違って、知らないうちにそれぞれ住む世界が大きくかけ離れてしまうこともあります。だから、定期的に白地図を広げて「今、どこにいるの?どっちに進む?大型家族船で行く?それとも個人ボートで目指す?」など、軌道修正をするといいと思います。こだわりはなくして、家族を支え生かし合うための最適な進路をその都度探すんです。結婚前だったら、私たちはどういう関係性でいこうか、子どもが生まれたらどういう風にしようか、どういう生活をしたいか、お金はどうしようか。いろんなことをまず話し合ってみてください。

工藤:みんなで行き先を決める、いいですね。

ゆうみ:そして話し合った末に、何かあっても乗り越えていこうと「決意」すること。「2人で意見が食い違ったときはこうしよう」とかいっぱい対話をして、「ゼロから一緒に家族のかたちをつくっていくぞ」と決意するのが大事です。

目の前の人と楽しさも悲しみも共有して生きていこう

【写真】笑顔で空を見上げるよしおかゆうみさん

工藤:これから大変なことも当然あるという前提に立って、最初に「決意」をすることが必要なんですね。そこから家族を始めていったあとは、どんなことを心がけたらよいでしょう。

ゆうみ:そのときは、自分のなかの違和感を大事にしてください。違和感を感じたら、「これはなんなんだろう」と自分の中を掘り下げるんです。それがもしかしたら全く受け入れられない場合もあるかもしれないけど、自分が学ぶべき課題をもってきてくれてるのかもしれないですから。

工藤:違和感って、怖くて見てみふりをしてしまいがちですもんね。

ゆうみ:違和感を大事にする一方で、「完璧にしないこと」も大事。夫婦って、絶対に一生、相容れられない部分があります。新婚当時はラブラブだからよくても、男女が長年生活していれば、思考や感覚の違いが際立ってくるのが当たり前。その時に相手を責めがちで、バトルが起きます。子どもができると、子どもに注目がいってあまり見ないで済むことも多いのですが。  

工藤:対話でわかりあうことも大事な一方で、人間だから相容れない部分があることも理解しないといけない。

ゆうみ:相容れない部分を無視しない。でも、それがわかったときにけっして深刻にならないこと。絶対に「わかってよ!」と迫ってはいけません。「別人格なのだから、完璧には理解し合えないのだ」と思ってたくらいのほうがいいんです。「そういうこともあるな。まあいっか!」って思ってみてください。そんな「まあいっか精神」ってとっても大事なんですよ。

工藤:「まあいっか精神」っていいですね!すべてを完璧に家族に求めるのではなく、足りない部分の役割を家族以外に頼ってもいいのかもしませんね。

ゆうみ:そうですね。1か所じゃなく、地域のなかでいろんなところと繋がっていくことが必要です。多様な可能性を引き出す関わりや、アメーバのような柔軟でオープンな関係性を家族から始める。そこから何か変わっていくんじゃないかな。子どもがもし親に甘えることができない状況だったとしても、親以外に甘えられる人や、好き勝手言えたりする場所があればいいんです。子どもがまわりにいるひとは、その役をみんな買って出てほしいなって思いますね。

工藤:わかり合える部分とわかり合えない部分もあるかもしれないけど、とことん素直に対話をする。そして自分にも相手にも完璧を求めず、まわりの人を頼ってサポートしあっていく。ゆうみさんに伺ったことは、夫婦や家族だけに限らず、人と人の関係性すべてに言えることですね。

ゆうみ:みんな、人に向き合えるようになってほしい。そのときそこにいる人と本当に時間を共有して、向き合って過ごそうよ。楽しさも悲しさも憤りも葛藤も共有しようよ。今こんな状態なんだよっていうのを、出し合おうよっていうことを伝えたいですね。
【写真】笑顔で立っているよしおかゆうみさんとライターのくどうみずほ
ゆうみさんの明るい笑顔と思いやりに溢れた言葉を聞いていると、なんだか「こうでなければいけない」という思い込みを捨てて、もっと肩肘張らずに生きていっていいのかなという気持ちになります。

様々な家族に触れてきたゆうみさんだから伝えることができる、「普通の家族なんてものはなくて、家族のかたちはもっと柔軟であっていい」というメッセージ。そしてインタビューを通して、血のつながりだけが家族ではなく、真剣に向き合う気持ちさえあれば他人であったとしても家族になれるのだと思いました。

家族との関わりで悩んだとき、私はきっとゆうみさんの言葉を思い出すでしょう。私も目の前の大切な人と向き合い、感情を共有することを忘れずに生きていきたいと思います。

関連情報: マインドパワー&ハッピーマジック ホームページ MCC 結婚生活相談センター ホームページ 任意団体 asobi基地 ホームページ

(協力/雨宮美奈子、森一貴、写真/馬場加奈子)