【写真】子供がご飯を食べている写真や玄関に大量の靴がある写真などがある

「今度、里親や養子縁組のご家族の写真展をしようと思って、いま撮影をしているんですよ」

長年お仕事をご一緒している写真家の江連麻紀さんからそのお話を聞いたとき、一瞬にして、「わぁ、その写真を見せてもらいたい」と前のめりになっている自分がいました。

死別や親の病気など、何らかの理由で生みの親と暮らすことができなくなった子どもたちを、社会的に保護し、育てようという試み「社会的養護」という言葉が、最近日本でも多く聞かれるようになっています。

血の繋がった保護者と一緒に暮らせない間の一時的養育を任される「里親制度」、経験豊かな養育者が家庭に複数の子供を迎え入れて養育する「ファミリーホーム」、そして思いがけない妊娠等の諸事情が原因で、生みの親の同意がなくても子どもを身の危険から救済するために養親に託される「特別養子縁組」。

そのしくみや成り立ちのルールは様々ですが、血が繋がっていない親子が、新しくかぞくを作る、社会みんなの手を借りて子どもを安全に育てるという目的には変わりありません。

血縁があってもなくても、子どもたちみんなが健康に生活できる社会であってほしい。私自身、子育てをする中でそういった思いは抱くものの、実際、これまで私は養子縁組をしたり、里親家庭で育っている子たちをあまり知りませんでした。わが子が通う地域の学校にも、そういうお友だちはいるかもしれない、と思うことはあります。でもそうした情報はひっそりと隠されたまま。どこか自分の生活とはかけ離れたようにも感じていました。

江連さんは10年近くにわたり、いろいろなかぞくの妊娠・出産にまつわる写真を撮り続けています。私も仕事でご一緒し、暖かいストーリーを感じさせるかぞくの写真を撮る人だということはよく知っていました。

「江連さんの写真なら、里親や養子縁組のかぞくのありのままの姿が見せてもらえるかもしれない。私が知らないことを教えてもらえるかもしれない」

そこで、今回、江連さんが関わるこの写真展プロジェクトフォスターについて詳しく伺うことにしたのです。

「“みんなで子どもを育てる”っていいね」を見える形に

【写真】インタビューに答えるえづれまきさんとそれを見守るしらいちあきさん

左:写真家の江連麻紀さん

「フォスター」は、里親家庭・ファミリーホーム・養子縁組家庭の写真展とトークイベントを行うプロジェクトです。写真家の江連麻紀さん、家族社会学を研究する静岡大学教授の白井千晶さん、横浜を活動拠点にしている子育て支援団体「NPO法人Umiのいえ」代表齋藤麻紀子さんの3人が中心となって展開しています。

全国養子縁組団体協議会」の代表理事や、「養子と里親を考える会」の理事を務める社会学者の白井さんの知り合いを中心に、里親制度や養子縁組の家庭のありのままのかぞくの日常の姿を撮影。それを多くの人たちに見てもらうだけでなく、全国で予定しているイベントでは、当事者や関係者らのトークショーやお話会を交えて、「かぞくとは何か」を参加者を含めて皆で考えていこうという日本で初めてとなる試みです。

そもそもこのプロジェクトはUmiのいえの齋藤さんの呼びかけで始まりました。Umiのいえは「いのちの学び」というテーマで、様々な講座や語り合いが開かれている場所です。子どものいる人、いない人、支援している人などいろいろな人が集まる、まさに「みんなで子どもを育てる」場の一つです。

江連さん:umiのいえで家族撮影会があった時に、麻紀子さんとごはんを食べ終わって台所でお皿を洗っている時に、「ねえ、里親とか養子の家庭の撮影をやってみない?写真展とかいいと思うんだけど」といつものように、ふわっと提案されたんです。私も「はい、ぜひやりたいです」という感じで。その日のうちに白井さんに声をかけて、「いいね!やろう!」と返事をいただきました。

Umiのいえ女将の齋藤麻紀子さん。数多くの講座を主宰。台所でいつも利用者に温かいお茶やごはんを用意してくれます。(写真提供:江連麻紀さん)

「foster」とは、もともと英語で、「血縁や法的親子関係ではなく子どもを養育すること、またその親子同様の養育関係」を指す言葉。まさに、広い意味で、「みんなで子どもを育てる」を考えるというプロジェクトの誕生には、umiのいえを通じ、写真家、社会学者、子育て支援者という立場で親子に携わってきた3人の柔らかな視点がベースになっています。家族社会学の研究者である白井さんも、umiのいえでこれまで何度も講演や勉強会を行ってきました。

【写真】真剣な表情でインタビューに答えるしらいちあきさん

静岡大学で家族社会学を研究する白井千晶さん。

白井さん:umiのいえで不妊や妊娠についての講座をしていて、4年ほど前にも社会的養育についての講座をさせてもらっていました。その時は乳児院の写真や動画を流したり、お子さんを養子として託した女性に体験をお話していただいたりしました。

その方は私が長年お付き合いしている人ですが、なかなか自分の子どもを養子に出す経緯なんて話せることではありません。でも、umiのいえの温かい雰囲気にも助けられて、こうしたお話を聞かせてもらえる会が開けました。だから、今回、「“みんなで育てる”っていいよね」という齋藤さんからの話を聞いて、もしかしたらこの3人ならできるんじゃないかなと思ったんです。

4年前に白井さんの講座を聞いた江連さんもまた、里親家庭を撮影してみたいという思いを温めていたといいます。

江連さん:それまで私は社会的養護のもとで育つ子どもたちのことはほとんど知りませんでした。抱っこを求めて泣いている子どもたちの映像を見て、ショックを受けたのを覚えています。でも同時に、この子たちに会ってみたいな、と思いました。会って話を聞きたいなって。

それに自分の子どもを預けるお母さんの気持ちを聞けたこともとても大きかったですね。こういう気持ちでお願いするんだ、ということが初めてわかって。写真を撮らせてもらいたい、お話を聞きたいとその時からずっと思っていました。あの時も、白井さんに「写真を撮ってみたい」とお話ししたんですよね。

「かわいそうな子」とひとくくりにされ、隠されることが一番傷つける

【写真】質問に丁寧に応えてくれるしらいちあきさん

それでも当時は、里親家庭や施設、養子縁組のかぞくを撮影することはなかなか難しいことでした。その一番の理由は、社会的養護の元で育つ子どもたちへのプライバシー保護の問題にあるといいます。

白井さん:その難しさは今も変わりません。実際、こうした写真展は日本で初めての試みなんです。やりたいと思った人はいたかもしれないけれど、大抵は諦めざるを得なかったようで。まず未成年の場合は親権者の合意が必要ですし、児童相談所の承諾も必要。行政に申請するにも様々な手続きがとてもたくさんあって、なかなかたどり着くことは難しいのです。

里親家庭に引き取られたり、養子縁組をしたり、あるいは施設で生活をするこどもたちには、それぞれの理由があります。保護者が精神的な疾患を持っている場合もあれば、貧困状態に陥っていたり、ネグレクトや心身への虐待という厳しい状況からなんとか救われた、というケースなど、境遇はさまざま。

中には、児童相談所が子どもたちを一時的に保護し、そのまま里親家庭に引き継ぎ、生みの親には子どもたちの居場所を教えられないということも往々にしてあるのです。子どもたちの情報は、安易にオープンにしていいものではありません。

白井さん:社会的養護のもとにいるかどうかにかかわらず、SNSに子どもの顔と名前を掲載するのは気をつけなくてはならない世の中ですよね。でも、委託された子どもたちの場合の写真掲載禁止は、全く意味が異なります。

子どもの居場所やプライバシーが不特定多数に伝われば、実親がまだ育てられる状態になくても、押しかけてくるとか子どもを取り返しに来る、場合によっては危害を加えるということもあるわけです。たとえ、本人と里親が写真展に出ることをいいと言ったとしても、児童相談所がプライバシーと安全を守ろうとするのは当然のことなんですね。

手続きに次ぐ手続き。それでも、今回はこの3人で写真展をやってみたい、やれるんじゃないか、そう思った理由は、まさにそのプライバシー保護の影にいる、里親や子どもたちの姿を知ってもらいたい、という思いにありました。

白井さん:子どもたちの安全を守ることは何より大切で、必要なことです。でも、様々な里親家庭と関わっていくうちに、プライバシーという名の下に、社会的養護を受けている子たちの個性が削ぎ落とされていくのでは、という気持ちが募ってきました。

子どもたちは「施設育ちの子」「親と暮らせないかわいそうな子」という認識でみられることも多く、どんな夢があってどんな子で、ということが見えなくなってしまう。情報が遮断されることで、里親という存在も、他の人からどんどん遠い存在になってしまう。

それでは、社会で子どもを育てるということにはならないのではないか。何より、「かわいそうな子」「大変な家庭」とまとめられてしまうことが、結局は一番子どもを傷つけてしまっているのではと思ったんです。

日本全国に散らばる、普通の「かぞく」の日々を伝えたい

危害が出ないようなかたちで、里親家庭や養子縁組のかぞくのありのままの姿を写真に収め、一つ一つのかぞくのストーリーを伝えられることはできるんじゃないかーー3人の思いが一致し、2017年7月、フォスターは動き始めます。

煩雑な行政の手続きのための資料をもとに、まずは白井さんがこれまでの里親の会の活動で出会った中で、「この人たちのことはぜひみんなに知ってほしい」という方たちへの依頼が始まりました。

「これまで何家族くらいを撮影したのですか?」という質問に江連さんは少し考えながらこう答えました。

江連さん:厳密には12家族。でも私たちは大きくは地域で分けて考えていて、長野、広島、東京、千葉、北海道の6つのファミリーです。つまり、里親と子どもたちという組み合わせだけでなく、そこに生みの親も写ってくださったところもあるし、ファミリーホームで何組もの子どもたちが一緒に暮らしている場合もある。二つの里親家庭が近所で支え合っているところもある。撮影をしてみて、家族の境界線って本当はすごく曖昧だなと思ったんです。それがすごく素敵なことだな、って思うんです。

家族の境界線が曖昧な理由。それは今回、フォスターのプロジェクトに賛同し、撮影を許可してくれたかぞくの多くは、子どもたちの実親との直接の交流を続けている家庭だった、ということにもありました。

白井さん:普通はなかなか預け親と引き受けた親との間に交流はないんです。場合によっては、児童相談所や裁判所に「無理やり子どもを取られた」「引き離された」と思っている実親もいます。そうでなくても全く会えなかったり、たまに会えても児童相談所で面会したりするだけ、ということも多い。預け先の情報は一切渡されていないこともめずらしくありません。

でも、私たちが知り合った里親さんたちは、子どもを預かる前から、もっと言えば妊娠で困っている女性が子どもを産むか産まないかというところから支えて、信頼関係を築いて来られた方も多かったです。

撮影依頼をするには、まずは里親と子どもたちに意向を聞き、本人たちがいいと思えば、親権者と行政に許可を得る。行政の許可を得ることは大変でも、当事者の方たちからの許可は思うよりずっとスムーズに取ることができたと二人はいいます。

【写真】インタビューに答えるえづれまきさんとそれを見守るしらいちあきさん

江連さん:まずは子どもたちに、「こういう写真展の話があるけどどう思う?」と聞いてくれて、本人がよければ、実親さんにも直接、「私はいいと思うのだけれどどうですか?」と聞いてくれる。撮影の際には、実親さんにもお会いしましたが、「この人たちがいいっていうなら、いいんだろう、と思った」と里親さんにすごく信頼を寄せていらっしゃるんです。

それでも中には、児童相談所から許可が降りず、「この子は顔は出せない」というケースもあったといいます。

白井さん:児童相談所としては、安全を守らなくてはいけないので、その判断は仕方がないと思います。でもただ否定するのではなく、どの行政も担当の方が親身に相談に乗って考えてくれました。

それに実の親としては、養子に出した子や人に預けたわが子が、別の家庭の子として写真展に出るというのは、やはり戸惑いがあることだと思うのです。それでもこの人のところなら、とOKを出してくれる、その信頼関係を築いてきたかぞくの姿が素晴らしいですよね。そのありのままの日常をみていただきたいなと思いました。

お産、精神障害、里親家庭。3つのテーマが一つにつながった

6ファミリーのうち一つ北海道のかぞくは、社会福祉法人「浦河べてるの家」(以下、べてる)の理事でソーシャルワーカーの向谷地生良さん(北海道医療大学)の家庭でした。べてるは、精神障害などを抱えた当事者と町の有志が起業をして働き、ともに暮らすことを目的に設立された地域活動拠点です。江連さんはひょんなことからべてるの存在を知り、以降7年にわたり撮影を行っています。

江連さん:向谷地さんのかぞくとは撮影を通して親しくさせていただいていて、娘さんの一人が預けられていたというのは知っていたんです。向谷地さんご夫婦にも血の繋がったお子さんは3人いて、他にも精神障害を持つ患者さんのいろいろな家の子を預かっているような家庭だから、誰が法的な実子か里子かなんて誰も気にしていない。

私も忘れていたのですが、フォスターを始めていくうちに「そういえば里親家庭だった!」と思い出して(笑)。お願いすると、「そうか?僕、里親だったね。でも、うん、いいよ」といつものように快諾してくださったんです。

右からべてるの家理事向谷地生良さん、向谷地家に預けられていた”よしめぐ”さん、母の悦子さん、長男の宣明さん。向谷地家で育った子どもは多いが、正式に里子になったのは”よしめぐ”さん一人。宣明さんと2人の姉妹は、近所の別の家庭でも過ごす時間が多かったといいます。(写真提供:江連麻紀さん)

江連さん:向谷地さんの家庭は面白いんです。自分のところにはどんどん子どもたちを受け入れるのに、血の繋がった3人の子たちは逆に別に「父さん・母さん」と呼んでいる存在の人がいて。ほとんどの時間を近所の牧師さんの家だったり、仕事を共にしている医師の家だったりで過ごしていたりもする。

誰が自分の子どもか、ということへの垣根が本当に低いんです。でも改めてお話を聞くと、向谷地さんの家だけでなく、浦河という町の中で支えが必要な子どもたちが誰かの家で育つということが自然と行われていました。

親が子どもを手放さざるをえない状況になるには、いろいろな理由があります。統合失調症などの精神障害や、アルコール依存症やギャンブル依存症が原因になることも、その理由のひとつ。

でも、べてるがある北海道浦河では、精神障害を抱えていても当事者がどうしても子どもがほしいと願い、赤ちゃんを授かった場合には、当事者の事情を一番に考え、地域に暮らす仲間や医療・福祉関係の人たちの手を借りながら、一緒に子どもを育てるケースがこれまでにいくつもあったといいます。

江連さん:当事者会議で、「あの先生に預けたら安心だ」なんて勝手に決めてしまったこともあったみたいで(笑)。頼まれた方もそれを受け入れてお子さんの面倒を見たり、障害を抱えているお母さんも調子がいいときは一緒に子どもと過ごしたり、そんなことが当たり前に行われています。私自身、そんな浦河町のみなさんを見ていると視野が広がりました。

【写真】質問に丁寧に応えてくれるえづれまきさん

もちろん最初は大変なこともあったはず。それでも障害や病いがあっても一緒に生活しようという浦河という町では、30年以上の試行錯誤や経験を経て、子どもをみんなで育てるということが可能になったのだといいます。

江連さん:以前私は、お産をライフワークとして撮っていました。でもその後、べてるに出会い、様々な精神障害を持つ人とも繋がることができ、どうしても子どもを育てられず預けるお母さんがいる、という事情を知ることができた。

だからこそ、今回フォスターの撮影にもなんの先入観もなくすっと入れて、里親家庭の日常の写真が撮れたんだと思っています。お産、べてる、フォスターという別々のテーマが、一つの流れになってつながった気がしました。

思わず羨ましくなる、かぞくの暖かい風景

【写真】子供がご飯を食べている写真や玄関に大量の靴がある写真などがある

玄関先に散らばった靴や、色とりどりサイズが違う洗濯物。食卓のすみで自分だけ大好きなうどんを食べている子ども。おどけた顔で子どもを見つめる“お母さん”。疲れた顔で“おかあさん”に寄りかかったり、おんぶをしてもらったり、料理をする“おねえちゃん”の足元にしがみついたり。喧嘩をしたり。

「日常の写真」と江連さんがいうように、フォスターのプロジェクトのために撮影した写真はどれも、どこにでもあるかぞくの風景です。

もしかして、子どもの数が普通より多いかもしれない。あるいは大人の数も多いかもしれない。ふつうの家族が大きくなった、ふつうの家族の風景がただそこにあります。

白井さん:今回、写真がNGとなり、撮影に参加できない子も何人かいました。その子だけのけものになるのは嫌だったので、子どもたちにインスタントカメラを渡して、日常の風景を撮影してもらったんです。そうすると子どもの視点でまさに飾らない「かぞく」の顔がいくつも見ることができました。

毎日の生活の中では、パンツ姿でビールを飲んでくつろいでいるし、近所の別の家でごはんを食べさせたりもするし。

一人の里親さんだけが全てを担っているわけじゃない。子どもたちが「かわいそうな子」と一括りにできないように、里親や養親が全てを受け入れる「聖人」、「善人」かというとそうではないんです。

【写真】写真を見ながらインタビューに応えているえづれまきさん

江連さん:聖人なんて一人もいなかったですよね(笑)。普通にキーって怒ったりするし。自分の子育てもこれでいいんだ、と安心したくらいで(笑)。もちろん里親さんはいろいろなことを勉強し実践しながら子どもたちを向き合っていて勉強になるんですが、「この子は預かった子だから」と接している人は誰一人いなかった、ということはとても印象に残っています。

ただ「かぞく」という感じしかない。一緒にごはんを食べるとか、話すとか笑うとか泣くとか。そういうことだけで子供は十分なんだとおっしゃった里親さんもいました。もちろん大変なことはあるし、子どもたちも悩みがある。でも、生活に重心を置いていくことで、安心して人間の当たり前の悩みを共有できている。まさにかぞくの姿だなと思ったんです。

もちろん特別な部分はある、と白井さんも言うように、実の親と一緒に暮らすことができない寂しさや切なさは計り知れません。心や体に傷を負った経験があるならなおさら、その人生が大変でないはずはありません。でも、それも含めて丸ごと受け入れて、一緒に生活をしていく、そういう役割を少しずつみんなが担うことができたら、居場所は少しずつ広がっていくのかもしれません。

ファミリーホームを運営しているある里親家庭は、元々は山村留学先として、学校に行けない子どもたちを一時的にホームステイさせる活動をしていたといいます。それがいつしか、家庭の事情もあり帰れない子が増えて、里親になっていった。

田んぼや畑で自分たちの食べ物を育て、みんなで暮らす中で元気を取り戻していく子も増えました。その写真を見ていると、思わず「楽しそう、羨ましい」という言葉が出てきてしまいました。自然に囲まれた生活環境、地域で暮らすいろいろな世代の大人や子どもたちが支えあう暮らし。都会で核家族で子どもを育てているとそう簡単には得られない、開かれたかぞくの姿があったからです。

長野県でファミリーホームを営む宇津さん一家。豊かな自然環境で土地の恵みをいただくことを大切にしています。(写真提供:江連麻紀さん)

白井さん:そう、この里親さんは子どもたちが学校で友達に「おまえの家、いいな」って言われる家を目指しているというんです。羨ましい、と言う気持ち、わかります。私もいつかは自分も里親としてこの世界を体験したいと思っているくらい。このご家庭は何年もかけて地域の人からの信頼も集めて、子どもたちは大きくなったら町の「なんでも屋」として近所の人の手助けをする、そうして関係が巡っていっています。

人に子どもを預ける親が「ダメな親」じゃない。うしろめたさのない関係を作っていくこと

もう一つ、フォスターの写真で印象的なのが、写真の中に実親さんたちが写っている、ということです。子ども達は写真の中で、里親にも実親にも同じように甘え、体を寄せていました。白井さんは、それはこのフォスターの写真展を開催する中で、とても大切なコンセプトだといいます。

白井さん:いろいな事情はあるにせよ、子どもにとって自分を産んだ人を「なかったこと」にはできないですよね。生みの親のことを触れてはいけない存在のようになると、やはり傷つきます。「自分を産んでくれた人ってどんな人なんだろう」と言うこともできない状況ができることは、悲しいことだし、育ての親にとってもよくない。

だから今回は、子どもを里親に預けたり養子に託したりした方々にも出てもらいました。養子に託した一人の女性は、娘さんを育ててはいないけれど、養子に託した子をいつも思って、幸せを願っている人で。話を聞くたびにやっぱりお母さんだな、と思うんですね。彼女もフォスターに賛同してくれて。だから、その大事なピースの一つとして産んだ人に入ってもらうということは大切にしました。

生みの親と育ての親がオープンな関係を築くことは、冒頭で白井さんが言ったように、今の日本では“よくある風景”とは言えません。ただ、こうしたかぞくもいると知ってもらえることが、里親や養子縁組家庭への見方を変え「里親になってみよう、養子を迎えてみよう」という人の意識も変えていくのかもしれません。

【写真】最初にフォスターの撮影を引き受けてくれたファミリーホームの稲垣さん宅。7人の子供がいる

最初にフォスターの撮影を引き受けてくれたファミリーホームの稲垣さん宅。どの子の生みの親ともつながりを持っているご家庭。(写真提供:江連麻紀さん)

江連さん:生みの親と会ったことがない里親さんもいますし、子どもたちも生みの親に会えない事情を持っている子たちもいます。いつでも会える状況の子は少ないけれど、今回協力してくれた家庭の中には、生みの親である人が、子どもたちに会いに来られる時はきてもらえばいいし、運動会にも出てもらえばいい、という関係を築いているかぞくもありました。

あるお父さんは「里親さんと一緒にお酒を飲むのが一番美味しい」とおっしゃっていたし、ある女の子は「私にはお母さんが二人いるんだよ」と学校の友達に自慢したそうです。

今年成人を迎えた石川たくまくん(右)と、お父さんの石川貴洋さん。かつては経済的困難やネグレクト傾向もあり、たくまくんは里親に託されましたが、これまでたくまくんの運動会や里親家庭でのイベントには度々出席してきました。(写真提供:江連麻紀さん)

江連さん:お話を聞けた方たちは、子どもを託したことに対して後ろめたさがあまり感じられないんですね。「自分では育てられないけど、子どもは可愛いし、育ててくれる人もこの人なら安心だから」と。そういう信頼関係を築くことができるということこそ、素晴らしいのだと思います。

白井さん:子どもにとっては、やっぱり実の親は特別な存在なんですね。いろいろな事情はありますが、親のことを大切に思っている子も多いし、その時に、「どっちのママも好き」と言える環境を作ってあげることは、とても重要なことだと思います。

もちろん過去の経験から愛着障害を持っていたり、つらいことを思い出して苦しむ症状が出たりすることもあります。そんな時、里親が生みの親を悪く思ってしまうケースもあるんです。「この子にこんなにも大きなものを抱えさせてしまって」と。でも、それは誰にとってもつらいこと。実親が顔の見える存在になったら、里親との関係も変わってくることもあると思うんです。

【写真】向かい合って話をするえづれまきさんとしらいちあきさん

写真を見ながら、二人の話に耳を傾けているうちに、自分の中にもどこかで聞きかじった情報から、ステレオタイプや勝手な思い込みがたくさんある事に気がつきました。

里親家庭や養子縁組の家庭で育っている子は、どちらかの家を選ばなくてはいけないのではないか。子どもを預けた親はどこかで後ろめたさや自己嫌悪に陥っているのではないか。まして実親と里親がいつでも本音を言い合える間になるなどという事は無謀なのではないだろうか。子どもはどちらの親も選べなくなってしまわないんだろうか。

そんな事を思っている私に、江連さんは言いました。

江連さん:みんな、軸が子どもの幸せにあるんですよね。里親さんも実親さんも。子どもがどうしてもほしいから里親になるとか、取られたくないから、とかではなくて、この子にとって大事なことはなんだろう、実親さんのところに戻ったほうがいいのか、もう少しうちにいたほうがいいのか、という基準で真剣に考える人ばかりでしたね。

「この子が幸せになるには、どうしたらいい?この子はどうしたいんだろう?」そんなふうに問いかける事は、血の繋がりがあってもなくても、子どもと向き合う中で一番大切な事。

白井さん:私たちもまた、こうしたごかぞくに関わることで、自分の子育てを見直すきっかけになるんですよね。

見る写真展ではなく参加するプロジェクトとして「かぞく」のかたちを考えたい

フォスターの写真展は、2018年3月5日に東京板橋区で開催されるお披露目のフォト&トークイベントを皮切りに、横浜、熊本、静岡、宮城、再び東京と、全国を巡回する予定です。

白井さんたちは、この展覧会をたくさんの人に見てもらうだけでなく、「参加してほしい」と考えています。

白井さん:これは私たちが作る写真展、トークショーと言うだけでなく、もっと大きなプロジェクトだと思っています。取材させていただいた家庭以外にもメールで写真を募集したりもしますし、イベントに来てくださった方に感想を聞き写真と一緒に貼ろうかとか。「みなさんの反応や感じたこと帰ってきたことが写真展をまた作っていく」というかたちになればいいなと思ってます。

江連さん:今回取材させてもらった家庭でも、写真が出せるかどうか、本名を出すかどうかで家族会議をしてくださったんです。ある小学生の二人の兄弟は、「僕たちみたいに困ってる子どもたちのために、この写真展で里親さんが増えたらいいと思う。だから僕たちは、写真展に出るよ」といってくれたと聞いて、本当にすごい!と感動しました。

実際、お会いした時、「里親さんが増えたらいい、と言ってたと聞いたけど、里親さんってどういうところがいいの?」と聞いたら「すごく優しい」って答えていたんです。「ごはんもおいしい」って。そんなふうに自分たちのことを考えてくれることも良かったなぁ、と思うし。みんなと一緒に作っている感じがすごくしています。

【写真】笑顔で立っているえづれまきさんとしらいちあきさん

里親家庭や施設で、あるいは養子となって生活をする子は「かわいそうな子」。そんなふうに一括りにされることが一番子どもたちを傷つけているーー白井さんは冒頭でそう話していました。

私自身、この話を聞くまではどこかでそんなふうに「困っている子」として、実親と暮らせない子たちのことを想像していたように思います。気になってはいるけれど、その子たちがどんなふうな気持ちで日々を過ごし、どんな悩みを持ち、どんなことが好きで、どんな性格で、どんな悩みがあるか、そういうことを知りたい、と思うことさえいけないんじゃないかとも、どこかで思っていました。

でも見せていただいた写真のかぞくは、大人も子どもも皆笑ってこう語っていました。

「私たちの毎日は普通に楽しくて、普通に悩みがあって、普通に幸せだ」と。

子どもたちの日々の姿を写真で、言葉で知ることで、その存在がもっと近くなる。それは本当だな、と思います。自分にできることが何か、どんな風に手を差し伸べられるかはわからないけれど、周りを見渡して「いつでもうちに遊びにおいでよ」というところからでも、自分の中での「かぞくのかたち」は変わっていくのかもしれません。

「こんなかぞくってあるんだ」
「みんなで育てるってこういうことなんだ」

フォスターのプロジェクトが、そんな気持ちを全国に広めていくことを信じています。

【写真】笑顔のしらいちあきさんとえづれまきさんとライターのたまいこやすこさん

関連情報
フォスター ホームページ Facebookページ
NPO法人Umiのいえ ホームページ
江連麻紀さん ホームページ
全国養子縁組団体協議会 ホームページ
養子と里親を考える会 ホームページ
2018年3月5日フォト&トークイベントの詳細はこちら

(写真/池田昌子)