誰もが年を取るにつれ、少しずつ出来なくなることが増えていきます。目が見えなくなってきたり、耳が聞こえなくなったり、歩くのが難しくなったり。
けれど、「出来ないことが増える」ということは、若いうちはなかなか想像がつきにくいものです。私は、どこか「年をとることが怖い」という気持ちを抱えていました。
そんな不安な気持ちを吹き飛ばしてくれたのが、この商品との出会いでした。
この赤ちゃんの下に敷かれている小さなふとんは、「抱っこふとん」といいます。赤ちゃんを抱っこするとき、どう支えていいのかわからず、不安になりますよね。でも、これを使えば布団ごと抱えられるので、力の弱い人や慣れていない人でも安心して抱っこできるんです!
こちらの商品は、実はおばあちゃんたちのアイデアをもとに、おばあちゃん自身の手で作られました。「力が弱くなってきても、かわいい孫を抱っこしたい」。孫をいとおしく思う気持ちが、これまでになかった新たなプロダクトを生み出したのです。
高齢者だからこそ、社会を良くすることってできると思うんです。
「抱っこふとん」をはじめとした孫育てグッズを企画・販売しているBABAラボ代表の桑原静さんの言葉は、私の心に小さな光をともしてくれました。
年齢を重ねたからこそ持つ経験や、社会への新たな視点をもとに、年をとってもキラキラと社会で輝き続けることが出来るのではないだろうか。そう思った私たちは、年を重ねても豊かに生きるヒントを求めて、埼玉県さいたま市にあるBABAラボを訪ねました。
多様な年代の女性たちの笑い声が響く、赤い屋根の小さな工房
各駅停車のみが停まる駅に降りると、あたりに広がっているのは静かな住宅街。しばらくその住宅街の中を歩いていくと、赤い屋根の一軒家が見えてきました。カラフルな看板が掲げられたこのかわいらしいお家が、BABAラボの工房です。
「こんにちはー!」
扉を開けた瞬間、聞こえてきたのは女性たちの賑やかな笑い声。高齢者が働く場所と聞いて、もっと穏やかで静かな場所を想像していた私は、「すごく明るくて賑やか!」と驚いてしまいました。
一軒家をそのまま使っている工房の中は、製品を展示販売するショップ、布製品を作る工房、休憩スペースに分かれています。
明るい空気に包まれたショップの壁にはカラフルなBABAラボの文字が踊り、様々な商品が飾られています。
スタッフの皆さんは、それぞれの仕事に励む一方で、お客さんが来ると皆でお出迎えしておしゃべりを楽しんだり。
仕事とリラックスする時間のメリハリをつけながら、楽しんで働いています。
さっそく、この工房で作られている商品を見せて頂きました!
まず見せていただいたのは「しっぽトート」。このトートバックには、先が丸く持ち手のようになった、長いしっぽが付いています。これは、おばあちゃんがカバンの中のものを探しているすきに、お孫さんと手を離れてしまうことが怖かったという体験談から作られたそう。
「子どもたちは、このしっぽを見ると、自然とつかんで離さないんですよ。」と製造担当の桑原秀子さん(代表の桑原さんの実のお母さま)が話してくださいました。握ってみると、確かに不思議と落ち着く・・。
こちらのカラフルなTシャツは、おじいちゃんやおばあちゃんとお孫さんが、お揃いで着ることができる「おそろいTシャツ」。カラフルな色、かわいい動物の柄がたくさん揃っています!
最初にご紹介した「抱っこふとん」も実際に使わせていただきました!抱っこしていて、確かにとても安心感があります。
「抱っこして寝てしまった赤ちゃんを布団に寝かせると、起きて泣いてしまうことが多いんです。でも、抱っこ布団を使うと、置いても起きないで寝ていてくれるんですよ。」と秀子さん。
おばあちゃんたちだけでなく、お母さんたちにも嬉しい商品です。
「100歳まで働ける職場」をコンセプトにするBABAラボ
これらの商品を作っているBABAラボは、都会で暮らし「働きたい」と思っている高齢者が、年をと取っても自分の能力を発揮して働くことが出来る場として、代表の桑原静さんによって、立ち上げられた工房です。
桑原さんに、BABAラボ設立までの経緯をお聞きしました。
桑原:BABAラボを始める前は、NPO法人コミュニティビジネスサポートセンターに勤めていました。ビジネスを立ち上げたい人々のサポート側にいたんですね。でも、自分で事業を立ち上げた実績がないので、口先だけのコンサルになってしまうんじゃないかという不安があって。
いつか自分も現場を持って事業をやりたいと考えていた桑原さん。道に迷っていた桑原さんが起業を決意したのは、ご自身のおばあちゃんがきっかけだったといいます。
桑原:大学生のとき、おばあちゃんと一緒に住んでいました。そのときおばあちゃん、パチンコばっかり行ってたんですよ。いろいろなことが出来るのに、なんでパチンコばっかり行ってるんだろうって私は思っていて。おばあちゃんの友だちもまだまだ色々できるはずなのに、力を発揮できる場所がないっていうことに気づいたんです。それで、「おばあちゃんたちが活躍できる場をつくりたいな」と思いました。
今後、日本では高齢化が急速に進むといわれています。近い将来、「高齢者が、自分の可能性を発揮できる場所がない」ということは、大きな問題になるのではないか。 そう考えた桑原さんは、自らその場を作ることを決意します。
そして、2011年、これまでの仕事を辞め、シゴトラボ合同会社を立ち上げて、BABAラボをスタートさせたのです。
商品をつくることもままならない日々を越えて
桑原:最初は、私のおばあちゃんと、母と始めました。でも、全然他の人が集まらなくて・・。住宅街で始めたから、「宗教じゃないか?」って近所の人に怪しまれたりもして。母は「つまらない」と言って帰ってしまうし(笑)、特にやることもない。仕方ないから、私とおばあちゃんは、近くのラーメン屋でラーメン食べて帰るっていう日が、しばらく続きました。
「商品をつくるまえに、まずはコミュニティだ!」と考えた桑原さんは、ご近所のひとたちとコミュニケーションを取り始めます。
手芸のワークショップを開いて、集まった人一人一人に声をかけたり、手作りの新聞を作って近所に配ったり。そうした地道な活動が功を奏して、だんだんと人が増えていくようになりました。
そして3年を費やして、今のようなBABAラボのコミュニティが生まれていったのだそうです。
コミュニティが安定するに伴って、だんだんと商品の売り上げも伸びていきました。しかし、そこでまた新たな問題が発生します。手芸品は作るのに時間がかかるため、安定した供給が難しく、市場を広げていくことが難しかったのです。
市場の拡大を目指し、桑原さんたちは工業製品の製造をスタートさせます。2016年8月、第一弾として「ほほほ ほ乳瓶」が発売されました。BABAラボのおばあちゃんたちの意見を取り入れて、握りやすい形状、通常よりも大きな文字で書かれた目盛りなど、高齢者でも使いやすいデザインになっています。
自分の役割がある居場所をつくる
BABAラボで働くおばあちゃんたちは、ここに何を求めてやってくるのでしょうか?
桑原:「居場所」だと思います。最初に来てくださった方は、旦那さんを亡くした直後だったらしくて。旦那さんが定年退職して、東京から埼玉に引っ込んできて、っていう人も、多かったですね。
公民館でもいろいろな講座はやっているけど、それだけでは物足りない。もっと自分に「役割」がほしいって感じるんじゃないかと思います。
おばあちゃんたちの「居場所」、そして「役割」をつくる。それは、決して簡単なことではありません。
ここに働きたいとやってくるおばあちゃんたちは、元々裁縫が得意だった人もいれば、苦手な人まで様々。また、年齢もバラバラなので、出来ることも異なります。
その上で、どうやっておばあちゃんたちは自らの「居場所」、そして「役割」を見つけていくのでしょうか。
桑原:自分が出来ることがないか、空いている穴を探す感覚ですね。
BABAラボには、すごいアクティブなご案内係のおばあちゃんがいるんです。先日、デンマークからの視察団が来たんですが、彼女は言葉が通じないこともお構いなく、ガンガン話しかけていました(笑)。
でも、彼女はミシンが得意ではないんです。それで、いろいろ考えた末に、私はこういうのがいいわって広報係を始めて。それから生き生きし始めたんですよ。彼女みたいに、みんなここに通いながら、他の人の手も借りて、少しずつ自分で役割を見つけていますね。
自分にしかできない役割が、人を明るくしてくれる
BABAラボで働いている人は、実際にどんな思いをもって働いているのでしょうか。働いている皆さんにも、お話を伺ってみました。
まずお話を伺ったのは、田村和子さん。
普段は、「抱っこふとん」に使う布のカットを担当されています。「抱っこふとん」には赤ちゃんの肌が直接触れるので、柔らかい素材の布が使われています。そのため、すぐに布が曲がってしまい、裁断が本当に大変なのだそう。しかし、もともと趣味で手芸をやっていた田村さんは、その経験を生かして、難しい裁断作業も次々とこなしていきます。
「田村さんが来てくれて、本当に助かっているんです」と、秀子さんに言われた時に、嬉しそうにはにかむ顔が印象的でした。
田村:最初、BABAラボはテレビで見て知ったんです。そのときは「こういうところがあるんだな」と思っただけだったんですけど、そのうち、娘がここを紹介してくれて。「おばあちゃんにぴったりのところよ」っていうので、一緒に来てみたんですね。そしたらみんな和気あいあいとしてやってたのをみてね、じゃあやってみようかって。
田村さんはここで働き始めてから、一人で手芸をやっていた頃の自分とは変わったといいます。
田村:やっぱり、けじめがつけられますよね。ここに来なくちゃいけないとなると、朝から計画的に動かなくちゃいけない。
それから、いつも家では、一人で縫い物をやってたでしょ。だまって、黙々と。でもここにきてみんなと会話ができるようになって、自分でも性格が明るくなったんじゃないかなって思うんです。
もともとの自分の趣味を生かしつつ、自分の「仕事」としてやるべきことにしっかりと向き合っている田村さん。ここBABAラボで、自分にしかできない「役割」、そして一人だった時よりも明るくポジティブになれる「居場所」を見つけていました。
次に、BABAラボの最年長スタッフ、中村絹子さんにお話を伺いました。
中村さんは、代表の桑原さんの実のおばあちゃん。BABAラボ開設当初からのスタッフです。普段は、洗濯バサミを使った小物作りをされています。
そしてもう一つ、絹子さんには大事な役割が。それは、ここに遊びに来た小さい子どもたちと遊ぶことです。
絹子:子どもさんがもう、大好きでね。小さい子どもさんは私の膝に飛んできてくれたりするの。ここだと、みんな「おばあちゃんおばあちゃん」って言ってくれるのよ。
「絹子おばあちゃん」と呼ばれ、皆に親しまれている絹子さん。子どもたちだけでなく、ここに通う若いお母さんたちも、「おばあちゃん」と呼んで頼りにしてくれているそうです。
絹子:以前、ここに通っていた子どもさんが、「元気で働いてるから、表彰状あげる!」って言ってくれたんですね。「100歳まで生きて!」って。わら半紙みたいな紙だったんですけど、本当にうれしかったですね。
絹子さんは私たちに、あるものを大切そうに見せてくれました。それは、絹子さん個人の名刺。名前のうえには、「子どもの味方」という役割が書かれていました。
絹子:おばあちゃんの名刺まで作ってくれて、みんなに大事にされて、子どもさんも遊んでくれてね。普通は、なかなかこんなことないと思いますよね。ありがたいよね。
そこにちょうど、小さなお子さんが若いお母さんスタッフとBABAラボにやってきました。彼は、来るやいなや、絹子さんのところに一目散に飛んでいきます!そしてとても仲よさそうに、小物を一緒に作ったりしながら、ずっと一緒に遊んでいました。
どれだけ年を重ねても、その人にしか出来ない大切な役割がある。「みんなのおばあちゃん」絹子さんが、子どもと遊ぶ姿をみて、私はそんな思いをより強くしたのでした。
誰もが居られる、多世代の場
私たちが取材をしている間、千葉から来たというお客さんが来たり、今日は来る予定ではなかったというスタッフの方が小さいお子さんを連れて来たり、入れ替わり立ち替わり、本当に様々な人がこのBABAラボに集まってきていました。
桑原:お客さんもスタッフも、いろいろな年代の人がいますね。若いお母さんたちがいることも、助かっています。 ここはあくまでもおばあちゃんたちの働く場と言っていますが、やっぱりおばあちゃんたちだけだと、同世代を意識したり、ITやインターネット関係は難しかったりするので。
逆に若いお母さんたちからしてみると、おばあちゃんたちに子どもを見てもらえるから助かりますよね。おばあちゃんたちも子ども大好きだから、触れ合えることは大事ですね。
けれど、多世代の場を実現するためには、それぞれの年代のバランスを取ることが重要なのだと桑原さんはいいます。
おばあちゃんたちは子どもたちがいて嬉しい反面、遊び続けられる体力がなくて大変なときもあるはず。 多世代が存在するオープンな空気を保ちながら、お互いへの目配せも忘れない。だからこそ、誰もが安心してこの場に居られるのではないかと感じました。
高齢者の自信をなくさせない
若い人々の共働きも当たり前になってきている今、おじいちゃん・おばあちゃんたちに対して、求められている大きな役割があるといいます。それは、「孫育て」です。
桑原:若い世代はお金がないし、皆働いてる。だから同居はしないけど、おばあちゃんたちの近くに住んで、みんなで子育てしていくっていうのは、都会で定番になりつつあります。
しかし、年を重ねるほど、身体の機能が弱まってくることは、誰にとっても避けられない事実。そして、身体が衰えてくると、だんだん出来ないことも増えてきます。そして、そのことで自信を失い、ふさぎ込んでしまうおばあちゃんたちも少なくないといいます。
桑原:おばあちゃんたちって、やっぱり体の機能は衰えていくんですよね。目は本当に見えなくなるし、握力もだんだん弱くなるし・・。ちょっと失敗しちゃうこともあるんです。すると、ママたちに「なんでこんなことしたの!」とか「なんで間違ったの!」って怒られてしまう。そう言われると、「孫はかわいいけど、面倒見るのはちょっと怖い・・・。」とだんだん気持ちが落ちてしまうんです。
だから、彼女たちの自信をなくさせないようにする。「おばあちゃんの役割」を支えられるものがもっと増えてきてもいいと思っています。
おばあちゃんたちが自信を取り戻し、新しい役割を持つことをサポートするために、「孫育て」グッズを開発しているBABAラボ。
これから桑原さんたちは、おばあちゃんたちの持つクリエイティビティを発揮させる取り組みを、より広げようとしています。
おばあちゃんたちのクリエイティビティを生かす
今後のBABAラボの展開として、桑原さんはおばあちゃんたちの存在を生かしたソフト事業をもっと進めていきたいと考えています。
きっかけは、「この商品はどうしたらもっと高齢者に使いやすくなるか、アドバイスが欲しい」というように、BABAラボにいるおばあちゃんたちを頼りにした仕事が舞い込むようになってきたこと。
そこで、試しにおばあちゃんたちにアンケートを頼んだり、商品へのアドバイスを求めてみたのだそう。
桑原:この間、東京の和菓子メーカーの人にモニター調査を頼まれたんです。おばあちゃんたちの意見が聞きたいと言われて。そしたら、いつも商品を作っているときとは違う、ウキウキとした顔をしていたんです!すごい楽しかったみたいで、おばあちゃんたちも「もっとやりたい」って言ってて。
自分の意見を求められているっていうのは、やっぱり気持ちいいですよね。「自分が役に立っているんだ。」と思えると、存在意義みたいなものが感じられる。
桑原:今後は、手すりをちゃんとつけたり、メニューのフォントを大きくしたり、高齢者に優しい店づくりをやってみたいという飲食店とか、一緒にブラッシュアップできるようなソフト事業をしていきたいなと思っています。
おばあちゃんたちの自信をなくさせないためのものづくり、そしておばあちゃんたち自身がクリエイティビティを発揮して、存在意義を感じられる仕事をつくる。
その裏には、「誰もがいくつになっても、自信をもって生きていけること、自分の役割を全うできることを助けたい」という、桑原さんのおばあちゃんたちに対する深い愛情にあふれたまなざしがありました。
年をとっても、誰もが自分らしく生きていけるような社会を作りたい
私は以前から「高齢者が働く」ということについて、ずっと気になっていた疑問がありました。
「高齢者が働く」ということそのものは、今やめずらしいものではなくなってきています。しかし、高齢者が就く職種として、「保安職業・サービス職業」の割合が高かったり、さらにパートタイマーとして安い賃金で働く人々が多いというのが現実。 そこからは、社会が高齢者が働く環境をつくることに対して、まだまだ消極的であるということを感じます。
ますます働く高齢者が増えていくことが予想される中で、「これからの高齢者の仕事」はどうなると思いますか?そう桑原さんに聞いてみたところ、少し考えながら、まっすぐ答えてくれました。
桑原:30代の生産効率と80代の効率ってどうしても違うと思うので、雇用主が同じ賃金を払うのは厳しい部分もあると思います。
BABAラボでは、ここ縫ったらいくらとか、これ作ったらいくらというように料金メニューを作っています。1時間の間に10個も作れる人もいるけど、1個しか作れなかったっていう人も出てくる。でも、1個しか出来なかった人だって、一生懸命1時間頑張っていたんです。なので、働いた時間に対してあまりに賃金の差がでないように、手芸だけじゃなく、モニター調査などいくつか複数の役割を組み合わせて、ある程度の給与を目指すという方法をやっていきたいなと思っています。
それぞれができることを組み合わせ、ワークシェアをして働く方法。それは、おばあちゃんたちだけではなく、きっと若い人々にとっても必要な手段であるはずです。
桑原:作業を細かくすれば細かくするほど、だれでもできる作業って絶対出てくるんですよね。なんでそれを今までやってこなかったかっていうと、ワークシェアって、やっぱり管理が大変なんです。その日の体調をみて仕事を任せるとか。そういうことは今まで「できないこと」とされてきたんですけど、もうやらなきゃいけない時代に入っていくんじゃないかなって思っていて。
考えてみれば、子育てや介護に関しても、様々な働き方の工夫が必要です。けれど、日本はなかなかその対策が進んできませんでした。ようやく時短勤務や男性の育休取得が認知されてきたものの、少子化は既に進行してしまっています。
高齢化社会に対しても、全く同じ状況に陥ってしまうのではないか。いま対策を考えて、実行していかなければ間に合わなくなってしまうと、桑原さんは警鐘を鳴らします。
では、高齢者が働く場所として時代の先を行くBABAラボは、今後どんな働き方を提案していきたいと考えているのでしょうか?
桑原:BABAラボとしては、70代はこういうことができる、80代ではこういうことできるけど、こういうことはできなくなる、っていうようなノウハウを伝えていけるといいなと思っていて。他のおばあちゃんたちの取材もして、情報を集めて発信していきたいなと思っています。
高齢者ってやっぱりできることと出来ないこと、それから体の衰えっていうのはどうしてもあるんです。でも、体が衰えていっても出来ることが、必ずある。高齢者だからってあきらめるんじゃなくて、BABAラボだからできること、おばあちゃんたちだから出来ることを、世の中に伝えていきたいですね。
いくつになっても、自分の創造性を生かして生きる
取材を終えて、私たちは15時のお茶にお邪魔させていただきました。
小さなお子さんは絹子さんのそばからずっと離れず、その子のお母さんものんびりできていて。さっきまで一生懸命お仕事をされていたスタッフの皆さんも、楽しそうに、ゆっくりとお茶を飲んでいます。私たちも、今日初めてここを訪れたにも関わらず、気づけば皆さんに交じって、のんびりとお茶とおしゃべりを楽しんでいました。
「誰も違和感なく、その人らしくこの場にいられること」。これこそが、BABAラボが持つ魅力なのではないかと思います。
年を取ったら、社会の片隅で身を縮めながら、ひっそりと生きなければいけない。私は取材をする前、「年をとること」に対して、不安だけでなくそんなイメージすら持っていたように思います。 けれど、BABAラボでは、誰もが自分の仕事、そして存在する価値を感じながら、とても自然にこの場にいることが出来ていました。
誰もが、いくつになっても、自分のクリエイティビティを生かしながら、自信をもって生きていくことが出来る。 そんな社会のきっかけが、この小さな赤い屋根の工房からつくられていくことに対して、大きな希望を感じました。
田舎のおばあちゃんの家を訪ねた後のようなほっこりとした温かさに包まれて、私たちは、BABAラボを後にしたのでした。
(写真/馬場加奈子)