【写真】アライ先生キットの中身が並べられ、どれも可愛らしいロゴがあしらわれている。 多くの人が悩む思春期。世界が広がってゆく期待とともに浮かんでくる「自分って何だろう」「こんなことで悩むのは私だけ?」という不安、焦り。そんな時、自分の気持ちを話すことができる仲間に出会ったり、思いを汲み取ってくれる大人に出会ったりすることで、「1人じゃないんだ」とホッとした経験はありませんか? この時期、自分の性別や好きになる人のことで悩み、誰にも言えず苦しんでいる子どもたちがいます。 「あの時自分のことをわかってくれる先生が学校にいたら!」という思いから、20代のLGBTの若者と中学校教諭が中心となり、学校でLGBTへの理解を広げるためのプロジェクトが始まりました。

子どもたちに多様な性について教えるための教材「アライ先生キット」

今回ご紹介するのは、NPO法人ReBitが提供する中学校の先生向けの教材「アライ先生キット(Ally Teacher’s Tool Kit)」。「アライ(Ally)」とは、セクシュアルマイノリティのことを理解し応援する人のことをいいます。 日本では、多様な性のあり方について正しい情報を得る機会が少なく、多くの人が「LGBTの子どもがいる」ということを認識しにくい現状にあります。そのため、周囲の無理解からいじめや暴力を受けたり、誰にも相談できず不登校になってしまう子どもたちがいます。 こうした状況を改善するため、セクシュアルマイノリティについての知識を身につけ生徒をサポートできる「アライ先生」を増やし、子どもたちがありのままで過ごせる学校環境を生み出していく目的で、このプロジェクトは始まりました。

「LGBTを含めた全ての子どもがありのままで大人になるために」ReBitの取り組み

【写真】10年後の未来について、それぞれのメッセージを手に笑顔で写る4名。

プロジェクトを主宰するNPO法人ReBitは、「全ての子どもたちがありのままの自分を肯定して大人になれる社会を実現したい」という思いで活動する団体です。

LGBTに関する教員向けの研修や生徒たちへの出張授業をはじめとして、LGBTへの理解を促進するための様々なイベントを行っています。 プロジェクトの1つである「LGBT成人式」は、「ありのままの自分」を誇り、自分のしたい姿で祝福されることで、「成りたい人」への一歩を踏み出してほしいとの思いで始まりました。 また、「LGBT就活」プロジェクトでは、どんなセクシュアリティ(性のあり方)であってもそれが障壁とならず、自分らしく働くことができる社会を目指し、LGBTに向けた就活セミナーやイベントを実施しています。

【写真】笑顔で写るNPO法人リビットの6名のスタッフ。和やかな空気が流れている。

なぜ先生がセクシュアルマイノリティの知識を身につける必要があるのか?

ReBitが今回このプロジェクトに取り組むのは、セクシュアルマイノリティの子どもたちの身近に、理解ある大人を増やすためです。 日本においては、セクシュアルマイノリティの人は7.6%(※1)、40人のクラスに置き換えれば3人くらい存在するという調査結果があります。また、セクシュアルマイノリティの人がセクシュアリティを自覚する時期は小学生から高校生までの時期が多いとのこと。 一方で、周囲の無理解や正しい情報が不足するなか、いじめを経験したセクシュアルマイノリティの人は68%(※2)に及びます。学校が自分らしく過ごせる場所であるためには、先生たちの理解と子どもたちへの正しい情報の提供が欠かせません。

セクシュアリティは、進路・仕事・結婚・老後などライフプランの選択や、生き方そのものに関わる大切なこと。自分のセクシュアリティを自他共に認められないことは、人間関係の障壁、将来への不安、自尊心の低下など、様々な困難につながります。 周囲に1人でも理解者がいることで、明日を生きていける子どもたちがいます。そこで、子どもたちにとって最も身近な存在である学校の先生が理解者となる必要性があるのです。

「アライ先生キット」3つのステップ、充実した内容

今回、中学校においてのセクシュアルマイノリティへの理解を促進するために配布される「アライ先生」教材キットは、以下の3つで構成されています。

<1> 先生のためのハンドブック

【写真】アライ先生キットの中に入っている、先生のためのハンドブック。ここにも可愛らしいアライグマのロゴがあしらわれている。

セクシュアルマイノリティに関する基礎知識・子どもたちの 困りごと・相談されたらどうしたらいいかを知り、適切な対応を行うための方法がまとめられています。セクシュアルマイノリティの大学生たちが中学生時代を振り返ったエピソードなど、当時の子どもたちの切実な声も多数掲載。とても読み応えのあるハンドブックになっています。

<2>レインボーシール・「アライ先生」シール (アライグマ)

【写真】アライ先生キットの中に入っている、レインボーシールとアライ先生シール。鉛筆立てや出席簿に貼られている。

6色のレインボーは、セクシュアルマイノリティを理解・応援していることを表す国際的なシンボル。多様な性について気軽に相談できるよう、この可愛いシールを名札・ノート・学級プレートなど生徒の目の届く場所に貼り、その趣旨を説明します。シールを多目的トイレの看板に貼ることで、どの性別の生徒にとっても利用しやすくなります。

<3>授業のための教材セット 

道徳の時間に多様な性について授業を行うための、指導案と指導の手引きです。セクシュアルマイノリティの基礎知識や学生の声が多く入っている15分の映像教材、生徒が理解を深め自ら考えるために活用できるワークシートも備わっています。 この3つのステップで、先生たち自身が基礎知識を理解し、授業の中で多様な性について正しい情報を子どもたちに提供できるようになる。そして、セクシュアルマイノリティの理解者である「アライ先生」となるまでを支援します。 「アライ先生」教材キットは、全ての資料をHPから無料でダウンロードでき、授業でそのまま使うことができます。また、中学校の先生には、映像DVDやハンドブック・配布資料などをまとめたパッケージを無料で送付可能とのこと。中学校の先生以外の方も購入したり、中学校へ寄付することもできます。

「多様な自分やあなたがいていい」ReBitの思いと、目指す未来

ReBit代表理事の藥師実芳さんはこう語ります。

私自身、中学生の頃はトランスジェンダーであることを誰にも相談できず、自分は大人になれないのではと毎晩布団の中で泣いている子どもの一人でした。この教材キットの活用により、学校現場において『アライ先生』が増え、子どもたちに多様な性に関する正しい情報が伝わることで、以前の私のようなLGBTの子どもにとっても、過ごしやすい学校になっていくことを願います。

ReBitの活動から伝わるのは、「あなたはあなたでいていいいんだよ」という、大人である私をも励まし勇気づけるメッセージ。今回の「アライ先生キット」にも、自分のセクシュアリティに悩む人たちへの暖かな思いが詰まっています。 この「アライ先生キット」が、中学校の先生だけではなく、子どもに関わるあらゆるひとのもとへ届くことを願っています。

関連情報: NPO法人ReBit ホームページ  教材のダウンロードはこちらから

参考: ※1:諸外国の調査ではLGBTは概ね2-5%程度などと推定されている(釜野さおり・石田仁・風間孝・吉仲崇・河口和也 (2015):性的マイノリティについての意識調査2015年全国調査報告書,207ページ)。国内の調査ではLGBTは7.6%(平成27年 電通ダイバーシティラボ)や、8%(平成28年 LGBT総合研究所)といった結果がある。 ※2:いのちリスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン 平成25年度東京都地域 自殺対策緊急強化補助事業 「LGBTの学校生活に関する実態調査(2013)」 ※3:中塚幹也(2010)「学校保健における性同一性障害:学校と医療の連携」『日本医事新報』4521:60-64 ※4:日高庸晴ほか(2007):厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究推進事業 ゲイ・バイセクシュアル男性の健康レポート2