こんにちは!soar編集長の工藤です。

「過敏性腸症候群」という症状をぜひ取り上げてもらえませんか?

ある日soarにこんなメールが届きました。聞きなれない病名を検索してみると、お腹の痛みや不快感に下痢や便秘を伴う症状のことなのだと初めて知りました。

問い合わせをくれた方は、その症状のなかでもガスがよく出てしまうという症状で悩んでおり、日常生活の様々な場面で「ガスが出たらどうしよう」と緊張しているのだそうです。

排泄に関わる悩みは人に相談しにくいし、悩んでいるひとはきっと多いのではないだろうか…。ぜひsoarで記事として取り上げ、社会での理解を広げられないかと考えているとき、たまたま知人に過敏性腸症候群の症状がある渡邉智子さんを紹介していただくことができました!

今回は智子さんの日常生活やどんな風に症状と付き合っているのかというお話を通して、過敏性腸症候群について知っていただけたらと思います。

過敏性腸症候群(IBS)を知っていますか?

【イラスト】猫たちに囲まれながら微笑むともこさん

はじめまして!渡邉智子といいます。私は一般企業に勤めるごくごくフツーの女性です。

みなさんは、過敏性腸症候群(以下IBS)という病名を見たり聞いたりしたことがあるでしょうか?一般的な腸内の検査をしても異常は見つからないのに、下痢や便秘を繰り返したり、お腹にガスが溜まったりする症状のことを指します。主に下痢の症状の場合は「下痢型」、便秘症状の場合は「便秘型」、下痢と便秘を交互に繰り返す「混合型」、その他「分類不能型」に分類されるているそうです。

私は数年前から下痢型IBSを抱えています。今回この病気のことを紹介する機会をいただけたので、私の経験ではありますが、みなさんにお話させていただきます。

ただの「お腹の弱い子」から通勤中の腹痛に悩まされるように

もともと私はお腹が強い方ではありませんでした。中学・高校ではテストや受験で熱を出してお腹を壊したり、冷房でお腹を冷やして下してしまったり。しかし、それも日常生活に支障が出るほどではなく、大学入学以降はほとんど症状も出ずに過ごせていたので、自分自身でも「ちょっとお腹が弱いくらいかな~」という感覚でいました。

生活に支障をきたすようになったのが、約3年前です。食中毒に遭って以来、お腹を壊すことがとても多くなりました。当時通勤時間が長かったり、仕事環境に悩んでいたことのストレスも腸内環境の悪化に拍車を掛けていたと思います。

下痢型IBSの症状でよく聞くのが、すぐトイレに行けないような状況で「トイレに行きたくなってしまったらどうしよう」という不安感からお腹の調子を崩してしまうという声です。

私にとって「すぐトイレに行けない不安な状況」は、「通勤中の電車」でした。

朝の通勤ラッシュ時間帯の電車は、空いてる時間帯より時間がかかったりしますよね。快速や急行を使うと一駅一駅の感覚も長く、場合によっては15分以上駅に停車しないことがあります。「15分程度なら大人だしトイレ我慢できるんじゃないの?」って思われる方が多いと思うのですが、実際は私にとってはけっこうギリギリなんです。。。

症状としては下痢なので、お腹が痛くなる→トイレに行きたくなるという流れは、一般的な下痢の症状と同じです。

でも私の場合は、お腹に異変を感じてからトイレに行くのを我慢できる限界までの時間が、だいぶ短いです。10分くらいが限度という感覚でしょうか。だから、お腹に違和感を感じ出した時点でトイレを探し始めないと厳しいんです。

違和感から、だんだん腸がぎゅーっと捻れたり圧迫されたりするような痛みを感じだして、マンガの表現のような「ゴロゴロ」という音がお腹からしてしまったりします。そうなると、粗相してしまわないようにお腹に全神経を集中させることで精一杯になります。

お腹が痛いことで、精神的にもつらい状況に

私は粗相してしまったことはないのですが、「ダメかも」って思ったことは何度もありました。電車が遅延して駅の手前で停車してしまったり、途中下車して駆け込んだトイレが混雑していたり…そういう時はホントに嫌な汗をかきますし、お腹の状態だけでなく精神的にもかなり辛くなります。

だから、電車が停車した時にお腹に違和感を感じていたら、「一駅様子を見よう」と思わずに下車するように気をつけています。そして、15分以上停車しない快速は利用しないようにもしています。

1時間ほどの通勤の間に、2~3回途中下車して駅のトイレに行ったりすることもありました。そうなると、どんなに時間に余裕をみて家を出ても会社には遅刻してしまいます。

無事にトイレに辿りついたとしても、ひどい時は30分ほどトイレから出られなかったりすることも…。そんな状況だと、体力もかなり奪われてしまって、その後仕事ができないくらいぐったりしてしまいます。

症状がひどい時は、2~3時間寝ないと回復できません。一般的な人が感じている「お腹が弱い」という度合いよりも、かなりつらい症状がでているのが実際のところです。

また、職場に着けばお腹が痛くなることはほとんどなく、とにかく朝の通勤電車で症状が出るのつらく、粗相してしまうんじゃないかという恐怖感を何度も味わってきたことが、私の頭と身体に染み付いてしまっていました。

「おかしいかも?」病院に行ったことで苦しさが軽減された

最初は症状に対して市販の下痢止めを使っていましたが、さすがに頻度も増えて何とかしたかったので病院に行くようにしました。

IBSのことは自分でも調べて知識はあったので、そう診断された時は「やっぱりな」という感想でした。正直な話、症状が収まってくれるなら何でもいい、という感じでもありましたが。

病院からの処方でいくつかの薬を試してみて、最終的には自分の症状に合う薬に出会うことができて、今はその薬を飲んで日々過ごしています。

まだ症状が出てしまうことはありますが、症状が出てしまった際の苦しさは以前よりは楽になったと感じますし、通勤中の不安はだいぶ軽減されました。とは言え、健康な人に比べるとお腹が弱い状態はまだ続いていて、それには周囲に理解してもらえる環境があってとても感謝してます。

自分の症状を伝えるのは、とても大切なこと

【イラスト】パートナーと一緒に猫を抱きながら笑い合うともこさん
つらい症状のなかでも生活ができたのは、周囲のひとが理解しサポートしてくれたことが大きかったと思います。

私は結婚しているのですが、夫とはもう数年一緒に暮らしてきているので、私がお腹が弱いことやひどい時の様子を知ってくれています。出掛ける時には、もしお腹が痛くなってしまっても余裕を持てるよう早めに家を出発したり、電車を途中下車してトイレに行ってしまうよなことがあっても、文句も言わず受け入れてくれます。

でも、これを周りの全ての人に求めることはさすがにできません…。親しい人には伝えていて大目に見てもらうことがままあるのですが、やはり腹痛で途中下車して度々遅刻したり、ドタキャンするようなことになってしまうと、また何か外出の約束するのが辛くなってきます。IBSの症状が出るのが怖くて、家を出るのも億劫になってしまうこともありました。

仕事の上司にもIBSのことは伝えています。症状や、それを抑えるために自分が努力していることを伝えるのは、必要なことだと思っています。

私の場合、企業のバックオフィス業務でキャリアを積んできているので、在宅で仕事が出来るスキルがあるわけでもなく、やはり外に仕事に行く必要があります。今の職場で働き始めて2年ほどですが、以前よりも通勤が負担にならない環境を探して転職をしました。

出社してしまえばお腹が痛くなることはないですし、内勤のためいつでもオフィス内のトイレが利用できる安心感があるので、通勤さえクリアできれば問題なく勤務ができるんです。「お腹が弱いというだけで病気ではないんじゃないか」と思う人も少なくないので、IBSのことや、自分の症状や対策を具体的に説明することは、周囲に理解してもらうためにとても大切です。

IBSで悩んでいるひとがいることを知ってほしい

私は自分の周りで他にIBSという人とは知り合ったことがありません。SNSで自分の症状を書いたりもしてますが、それに対して反応をもらったことも特にありません。でもインターネット上を検索すると、IBSで悩んでいる人たちが大勢いるんです。

私の場合は症状が出るのが主に通勤電車ですが、仕事のストレスが影響する人もいて、重要な会議やプレゼンの時に下痢などになってしまう事もあるそうです。仕事の場面で症状がでる人は、重要な仕事が任されなくなってしまう不安も重なって、それもまた大変なのではないかと思います。

また、下痢や便秘、ガスといった排泄関係の話なので、人に話をしにくいという側面が少なからずあると思います。IBSであることを人に伝えたり、同じ悩みを持つ人と接点をもつのが難しかったりするのではないかとも感じています。特に女性は、人に知られたくないと感じる方も多いのではないでしょうか。IBS当事者の方には男女問わずIBSに悩んでいる人がいること、それを知ってもらえるだけでも嬉しいです。

そして、これまでIBSを知らなかった人たちにも、こういう症状があるということを知ってもらえるだけでも違うと私は思っています。実は自分もそうなんじゃないか、という気づきがあったとしたら、QOLを上げるために通院を検討してもらいたいです。

周囲のあの人がもしかしたらIBSなのかも、という心当たりがあれば、ぜひ話を聞いてみたり通院を勧めてみたりしてほしいです。

IBSの症状にはストレスが関わっているとされていますが、それが生じるシチュエーションは人によって様々。私のように通勤が辛い人もいれば、仕事中に症状が出る人もいます。

もし近くにお腹にトラブルを抱えてそうな方がいたら、ぜひサポートする気持ちを持って接してもらえたら、と思います。

小さな成功体験をひとつずつ積み重ねていく

【イラスト】「Step by step!」という文字がうつったパソコンと、微笑むともこさん
最近男性の友人と話していたら、そこまで生活支障はなくても、お腹が弱くて気を遣っているという人が複数いました。朝の通勤直後や、お昼休み後にはトイレに絶対に行くことになるのだそうです。人に話していないだけで、実際にはそういう人が多いのかなとも思います。そう考えると、IBSと診断される人との境は、実はそんなに大きくないのかもしれません。

一時期は症状がある不安から外に出るのが怖くなってしまったこともあった私ですが、その恐怖感を克服するには、「とにかく成功体験を積むしかない」と主治医から言われています。つまり、通勤途中にお腹を壊して辛く苦しい思いをしてきたのを覆す経験数を増やすことです。

今日はお腹が痛くならずに通勤できた、10分停車しない急行に問題なく乗れた、待ち合わせに遅刻せずに楽しく過ごして帰ってこれた。

そんな「できた!」という体験を増やして、頭と身体にそっちの記憶を染み付けていくんです。小さな成功体験を積み重ねていくことで、少しずつお薬も減らしていけるよ、と主治医にも言われているので、自分なりに小さなハードルを設けて努力しています。下痢を起こしてしまう不安も、実際に起きてしまったこともまだまだありますが、それよりも「できたこと」を自分に言い聞かせていくようにしています。

もし私と似たような症状で悩んでいる人には、一度病院に行ってみてほしいです。そして、以前通院してたけど諦めてしまっている人も、また通院してみてほしい。

私も半ば諦めていた時期があったのですが、通院したことでお薬の効果も感じられるようになり、気持ち的にもとても救われました。

排泄の問題ってデリケートなので、他人、もしかしたら医師にも話しづらいと思ってしまう人もいるかもしれません。でも、外出や人と会うことや、仕事が憂鬱になってしまうのは、QOLにとても関わることです。辛いと思っていることには、何かしら対応策があるはずです。

少なからず自分の努力も必要にはなりますが、自分の生活を充実させるためにも、デリケートなことであるからこそ早めに対処し始めてほしいなと思います。

できないことに目を向けるのではなく、自分の変化や今できることに思考を向けて

私自身の自分のIBSの症状に対するスタンスは、運悪くお腹を弱くして生まれてきて、運悪く悪い方にステップしてしまったな~、という感じです。だから、なってしまったものは仕方がないから、どうやったら上手く付き合っていけるか、を模索し続けています。通勤の負担が少ない職場に転職したり、食生活をいろいろ工夫したりしているのは、その一環ですね。

私はもって生まれた性格なのか、多少つらい現状でも受け入れることにあまり抵抗がないんです。「なんで私にこんな症状がでてしまったんだろう?」と思い悩むことはあまりなくて、「まぁ、しょうがないかぁ」と受け止めて、「どういう時に症状が出て、何をすれば軽減されるか?薬や生活の工夫で何が変わってきたか?」という方向に思考が向いてるんですよね。病気とか怪我って運みたいなものが結構大きくて、そこを思い悩むのも限界があるんじゃないかな、と。

体を冷やさないよう服装に気を付けたり、腸に刺激のあるものを控えた食生活を送ったり、遠出をする時にはトイレの心配がいらないかを気にしたりと、お腹が健康な人よりは何かと面倒なことが多いですし、1~2ヶ月に1回は通院が必要です。でも、きっとそういう風に自分の体調と相談しながら過ごしている人って沢山いるんじゃないかと思うんです。

肌が弱い人は、皮膚科に通ったり低刺激のスキンケア用品を選択したりしているだろうし、眼が悪い人は、眼科に定期的に通ってコンタクトレンズを処方してもらって、毎日レンズのお手入れをするだろうし…。

そう考えると、IBSに限らず、自分の症状と上手く付き合えている人達ってたくさんいるんじゃないかなと思います。これは自分の症状を我慢しろって意味ではなくて、「何かしらの手段で自分の症状と上手く付き合えてる人は多い」というところに勇気をもらってほしいし、「大きく目立たなくても何かしらの症状を抱えてる人は多い」という認識で周りの人たちと接していきたい、という私の考えです。

そして、下痢をしてしまった時に落ち込むばかりでなく、「最近はお腹の調子がいいな」とか「電車に乗るときのハラハラ感が以前より減ったな」など、できてきている事に目を向けて、少しずつIBSの症状を軽くしていけるようにしたい。これからも私は、小さな成功体験を積みながら自分の症状と付き合っていこうと思います。

自分のつらさにも周りの人のつらさにも、気づいてあげたい

戻ってきました!工藤です。

「私ってお腹が弱いかも?」と感じても、きっと病院に行こうと考えたり治療できると思う方は少ないんじゃないかなと思います。それは「すぐ頭が痛くなる」とか、「寝つきが悪い」とか、日常でのさまざまな瞬間に感じる違和感も同じこと。

ちょっとでもつらいなと思ったらら、病院に行ったり、誰かに事情を相談してみることは、自分を大切にすることにもつながる。だから一人で抱えこまずにいてほしい。智子さんの文章からは、そんな優しいメッセージが伝わります。

そして冒頭にも書いた問い合わせをくださったガスが出やすいという症状の方からは、こんなメッセージをいただきました。

たとえ人がいる場所でガスが出てしまったり、頻繁にトイレに行く人がいたとしても、それに対して何かを言ったりしないでほしいなと思っています。何より「わざとじゃない」ことを知ってほしかったんです。

周囲の人たちに迷惑をかけることはつらいし、申し訳ないけれど、私たち自身もつらいんですね。心療内科、カウンセリングで治療を試みてる方もたくさんいるほど、直接命に関わるわけではなくても、本人にとっては苦しい症状です。

今回、soarさんに過敏性腸症候群を取り上げてもらうことで、少しでもこの症状が世間に広まることを、祈っています。

私たちが症状のことをちょっとだけ理解して、ちょっと周囲のひとに気を配るだけでも、今つらさを感じているひとも安心して過ごせる環境になるのでしょう。

過敏性腸症候群のこと、そして自分の症状とがんばって付き合っているひとがいること。そして少しの思いやりが大きなサポートにつながることを、わたしも改めて心にとめておきたいなと思います。

参考:
 日本消化器学会 機能性消化管疾患診療ガイドライン—過敏性腸症候群(IBS) 

(イラスト/ますぶちみなこ、監修/井上いつか)