こんにちは!soar編集長の工藤です。

社会的マイノリティに焦点をあて、人の可能性が広がる瞬間を捉え伝えていく「soar」を始めてもうすぐ半年になります。

おかげさまで様々な方にsoarの記事を読んでいただき、読者の皆さんとは直接お会いしたことはなくてもSNSでつながりが生まれ、日々twitterなどを通してやりとりしています。

ある日の深夜、こんなことをツイートしました。よく障害者や難病患者のストーリーを、伝えるメディア側が「かわいそうな人が努力して成功して、本当に素晴らしい」といった雰囲気の感動のストーリーに仕立て上げているのではないかという声をききます。

soarはけっしてそのような意図はなく、「この人の生きる姿をできるだけありのままに鮮明に伝えたい」と思い記事を書いているのですが、うっかり前述のようにならないよう自戒の気持ちを込めてツイートしました。

そうすると、深夜にもかかわらずある方からリプライがあったのです。

「健康な人の支援なしには、生きられないし、やりたいこともできない」
これは、健康な時にはわからなかったことで。だから、soarみたいなメディアができるって、希望でもあるというか。

メディアづくりって、しんどいことも多いと思いますが、私は期待して見ています。 疾患持ちなどマイノリティー内だけで閉じがちな世界を破れるのかもって。

「当事者でも支援者でもない」その立ち位置で当事者と対峙するの、すごく難しいだろうと…。 でも、私は「そういう人にこそ、主体的に関わりに来て欲しい!」。患者だけではできないこと多いので。

このリプライをくれたのは、佐藤まゆ子さん。思いがけない応援の言葉に嬉しくなり、何かの病気の患者さんなのだと思いプロフィールを見てみると、こんな病名が書かれていました。 

「慢性疲労症候群(CFS)」

そういえば、同じ病名の患者さんが数人、よく私のツイートをリツイートやお気に入りにしてくださっていました。聞き慣れないその病気について調べてみると、「身体を動かせないほどの疲労が長期間にわたって続き、日常生活に支障をきたすほどになる病気」と書かれています。

それを見て、「そうか、日常生活や働くことも難しくなる病気だからこそ、家でスマホでSNSを使い、情報を収集したり自分も情報発信をしているんだ」と気づきました。

記事公開をした今日、5月12日は「CFS世界啓発デー」と定められていて、ここ一ヶ月ほどはさらにいろんな患者さんがCFSについての情報発信を行っています。

慢性疲労症候群ってなに?

まず、「慢性疲労症候群(CFS)」という病気について。CFSは、元気だった人がかぜなどの感染症などをきっかけにして、それ以降激しい疲労感や倦怠感が長期間続く病気です。これまでできていた家事などの日常的な作業をしたり、体を動かすだけで、体調が悪化して動けなくなることも。

微熱や筋肉痛、関節痛、睡眠障害など体の症状だけではなく、思考力・集中力の低下といった症状がつづいて、日常生活に『重篤な支障』を来します。

脳神経の炎症が理由ともいわれていますが、原因は未解明。いまだに治療法も発見されていなく、日本では難病指定にもなっていないことで必要なサポートがなかなか受けられない病気なのです。

はしかにかかったことがきっかけで発症した慢性疲労症候群

講演会での佐藤さん

講演会での佐藤さん

CFSの患者である佐藤さんとは、リプライをくださったことで一度お家までお伺いして話を聞いてから、友人としてお付き合いさせていただくようになりました。体調のいいときはsoarのイベントにも参加してくださっている佐藤さん。CFSについて、どんな毎日を送っているかについて伺ってみました。

佐藤さんは現在41歳。今はお母様と都内の集合住宅で2人暮らしをされています。

もともと人材系の企業で働いていて、趣味でフルマラソン42.195㎞を走るほど活発だった佐藤さんですが、2007年にはしかにかかって40℃の高熱が続き入院したのだそう。どうしても部屋の中で布団からうまく立ち上がれず、12日間仕事を休み熱が下がった後も、体調が万全になることはありませんでした。

なかなか疲労感がとれず、足がうまく動かなくて階段から落ちて骨折してしまうこともありました。人間ドックでも特に変わった診断はなかったし、うつを疑って診療内科に行ったんですが全く問題ないと言われたんです。通勤すらしんどいけれど無理して出社していたら、メールも打つことも困難になり仕事では間違いが多くなり、結局2009年に退職することになりました。

この頃は、一緒に働いている方から見て「なぜ仕事のパフォーマンスがこんなに落ちてしまったんだろう」と思いつつも、体調が悪そうだけれど何か大きな病気をしているとは気づかないような状態だったのだそうです。

1日12時間寝てしまい全然起きれないし階段を上ることもできない、医者は問題ないと言うけれどこれは尋常じゃない。そう思ってインターネットで調べ始めた佐藤さんが見つけたのが、「慢性疲労症候群(CFS)」という病気でした。

CFSを診ることができる医者は日本に数名しかおらず、東京ではたった一か所の病院だけ。2010年1月にその病院で2ヶ月待ちで診てもらい、「CFS疑い」という診断が出て、その 2011年4月に大阪の病院でCFSの診断を受けました。

慢性疲労症候群への理解が得られない今の現状をなんとかしたい


<佐藤さんが出演したドキュメンタリー映像>

「慢性疲労症候群」という病名を聞くと、「ちょっと疲れやすいというだけの病気かな?」と思ってしまうのですが、その症状は名前から想像するよりもずっとつらいのだそうです。

疲労感はそれぞれですが、よく言われるのは「風邪かインフルエンザみたいな状態」だと思ってもらえるといいと思います。体の節々が痛くてだるくて動けない倦怠感がずっと続きます。

自律神経や交感神経にも影響があるので、佐藤さんは暑い日や寒い日は体温を調節できなくて出かけるのが難しい時があったり、日光が強い日に外に出るときは目が痙攣してしまうのでサングラスをかけないといけないのだそう。

あまり楽な時間はほとんどなく、3割の人はほとんどベットから出られないそうです。私は体調がいいときは自力で車椅子で外出することもありますが、重症の方だと家から自力で出られない、ベットから起き上がれないという患者さんも多いんです。症状が中程度でも家事をすると消耗しちゃうという人も多いので、就労している患者さんがとにかくすごく少ない状態なんですよね。

この病気のつらい部分は症状だけでなく、病気の認知度が低いことから障害者年金や障害者手帳を受け取ることができなかったり、お医者さんにも家族にもつらさを理解してもらえない人が多いこと。家族のために家事や仕事はしたいけどできない、でも怠けているというふうに思われてしまい、家族との関係が悪くなってしまう方もいるのだそうです。

私は母にちゃんと理解してもらえているレアなケースだから、頑張りたいという気持ちがあります。昨年はクラウドファンディングで開催資金を募り、医療関係者にも一般の方にも病気について知ってもらい、患者をサポートするような環境をつくりたいと思い、CFSについての講演会を開催しました。

人と同じように動くのもつらいなかで、佐藤さんはクラウドファンディングに挑戦したくさんの人に声がけし、講演会を成功させ、今はその講演記録をウェブ上にアーカイブする作業に励んでいます。

佐藤さんはtwitterなどSNSを使って、病気の詳しい症状や研究に関する情報などを発信しています。

誰にも理解されなくて、外に出れないしネットを使うのもやっとという人が多いんです。たいてい重症の患者さんは、「家族にも理解されなくて、でもなんとかしたい、いい情報はないだろうか」と頑張ってるなかで、「せめてこの病気が怠けとか嘘じゃないんだってことを知ってほしい」という思いで、twitterなどを使って発信してるんです。

慢性疲労症候群を漫画でわかりやすく伝えたい

佐藤さんと出会ったことで、CFSについて少し理解できるようにはなったものの、どんな症状でどんな毎日を送っているのかピンとこなかったり、人に説明するときになんと言えばいいか困っていました。一ヶ月ほど前、ある日twitterに流れてきたCFSについてわかりやすく描かれた漫画、それがCFS患者のゆらりさんの作品でした。

擬人化したかわいらしいくまのキャラクターが、 CFSについて説明をしたり、その日常を伝えています。

【イラスト】ゆらりさんの作品の1枚目。くまのキャラクターが、慢性疲労症候群の症状について語っている

【イラスト】ゆらりさんの作品の2枚目。くまのキャラクターが、慢性疲労症候群の患者は常に脳を全力で活動させていることを説明している

【イラスト】ゆらりさんの作品の3枚目。くまのキャラクターが、慢性疲労症候群の患者は疲労から回復するのに時間がかかることを説明している

【イラスト】ゆらりさんの作品の4枚目。慢性疲労症候群は、心の病気ではなく体の病気であることを説明している

【イラスト】ゆらりさんの作品の5枚目。慢性疲労症候群の症状による痛みやアレルギー、周囲の人々の態度によって感じる辛さについて説明している

病気について伝えることは、そのつらい症状をしっかり伝えなければいけないので、どうしても暗いイメージになってしまいがちです。でもゆらりさんの漫画は、このくまがかわいらしく語りかけるように伝えてくれることで、柔らかい印象があり共感しやすい内容になっています。

聞いてみるとゆらりさんは、ベッドから出るのも大変ななか、少しでも理解を広めたいという気持ちでこの漫画を描き、スマホで撮影してtwitterに投稿しているのだそう。きちんと構成を練って、下書きもして、綺麗なタッチで描かれた漫画からは、ゆらりさんの一生懸命さと熱意が伝わってきます。

【イラスト】慢性疲労症候群の患者の日記をモチーフにしたゆらりさんの作品。起き上がりたくても起きられない辛さが描かれている

【イラスト】慢性疲労症候群の患者の日記をモチーフにしたゆらりさんの作品。作業をしようと思ってもすぐに力尽きてしまう状況が描かれている

ゆらりさんの漫画ツイートは、またたく間に何千人の人にリツイートされ、「そうそう、こういう症状なんだよね」「すごくわかりやすい」など、たくさんの人から共感の声が上がっています。

電子書籍化をのぞむ声もありますが、CFS患者のみなさんにとっては、体調がすぐれない日もあるのでなかなか難しいのが現状。今のところは、体調と相談しながら自分のペースで漫画を描き発信しているそうです。ベッドの上で懸命にこの漫画を描かれていると思うと、本当に感謝の気持ちでいっぱいになります。

様々なアクションが起こっている慢性疲労症候群世界啓発デー

毎年5/12のCFS世界啓発デーに向けて、この一ヶ月ほどたくさんの方が活動に励んでいます。

海外では「ナイアガラの滝」、日本では青森にあるアスパムなどが、CFSのシンボルカラーであるブルーでライトアップされます。青いものを身につけたり、自分の持っている青いものが写った写真などをSNSにアップする取り組みも行われます。

患者さんが中心となり行っている「Action For CFS 慢性疲労症候群啓発デープロジェクト2016」では、CFS啓発のポスターとポストカードを作成。そのポスターを購入し、店頭などに掲示している写真をSNSに投稿してもらっています。

そしてCFS患者であるツイッターネーム「春うまれ」さんは、ご自身でつくられた疾患啓発のための缶バッジをネット経由で販売するそうです。こちらの収益は、熊本地震の被災者の方へ寄付されるとのこと。

春生まれさんが作成した啓発缶バッジ

私は小学生の娘と幼稚園の息子がいるアラフォーです。今はもうほとんど家事も最低限しかできず、子育てもベッドの上から声をかけることくらいしかできない毎日です。

こんな私でもこの疾患の啓発のため、熊本や大分で地震の被害を受けた方のために、何かできることはないかと、ない知恵を絞って考えた結果の、このひとりプロジェクトです。

思うように体が動かないなかで、少しでも多くの方にについて伝えられるよう、患者のみなさんが励ましあいながら活動していることが、SNSを通して毎日のように伝わってくるのです。

慢性疲労症候群患者でも自分の人生を生きたい、自分を活かしたい

このようなたくさんの動きは、患者のみなさんの切実な想いから生まれた行動だと佐藤さんはいいます。

病気になっちゃうと、社会からいないことになっちゃうんですよね。CFSみたいな病気は周りの人もどう接したらいいかわからないし、仕事もできないから職場との接点もないし、友達もいなくなる。それがすごく寂しくて。

病気についての理解が進むことは、患者だけでなくサポートに苦労されているご家族も救われるきっかけになります。まだ治療法も社会保障も整っていないけれど、せめて世の中にちゃんと病気が理解されて、患者もその家族や職場の人たちも希望が持てるような社会をつくりたい。そのために、今みなさんは自分ができることを続けているそうです。

患者さんも自分の人生を生きたい、家族のために何かしたい、働きたい。
「本当はしんどいんだよ。それでも自分を活かしたい、できるほんのちょっとのことでもしたい」って言える機会になったらいいなって。寝たきりだからってなにもできないわけでない、twitterで情報をリツイートするだけでも一つの活動ですよね。

働きながらの介護や子育ての問題、他の難病患者や障害者に関する課題などがあるなかで、なかなか理解されない疾患だし治るかどうかわからないけど、患者それぞれの個性や、持ってる力を発揮できる場があったらいいな。それをみんなで大きな動きとしてつなげたいなっていうのがポスターの啓発や缶バッジの紹介なんです。

私がなぜCFSの患者の皆さんの動きを応援したいと思ったのか。

それは、けっして皆さんの行動が社会への怒りや悲しみだけにまかせた行動ではないからです。同じ病気の人たちを励ます気持ち、もしかしたら今病気に気づかずつらい思いをしている人、そして未来に同じ病気になるかもしれない人への思いやりに溢れている。そう思ったんです。

今誰か苦しんでいるひとがいるのならば、小さくても自分のできることで力になりたい。

病気であろうがなかろうが、そう思うのは誰にでもある想いなのだと思います。

みんなが自分のできることで、自分の個性や特性を生かして行動を起こす。そして、たった一人にできることはとても小さいけれど、みんなで力を合わせたらきっと大きな力になる。

そんなとても大切であたりまえのことを、皆さんが改めて気づかせてくれたような気がしています。

小さくてもいい、自分にできることでぜひサポートを

今の患者のみなさんの一番の願いは、一人でも多くのひとにCFSの存在を知ってもらい、難病と認定され治療の研究も進むこと。私も自分にできることでこの啓発活動に参加できたらと思い、このコラムを書きました。

世の中では今、障害者やLGBTへの配慮については語られていますが、まだCFSは「みんなで考えてサポートしていかなければいけないんだ」と認知される土俵に上がれていないというのが現実。病気になる前と同じように就労や日常生活を送ることは難しいかもしれないけれど、患者以外の方の理解が進めば、きっと今よりも患者さんが暮らしやすい環境はつくることができると思うのです。

「知ってもらうこと」

ありきたりなようですが、これは本当に大事な一歩。

周りのひとにこの病気の話をしたり、情報をリツイートしてもらえるだけでも、きっと今よりもすこしだけ社会は前に進むはず。ぜひこの活動に、ご協力いただけると嬉しいです!

患者のみなさんも、私も、どんな人でも自分の力や可能性を活かして生きていける未来を願って。

関連情報:
佐藤まゆ子さん 講演アーカイブブログ

Action For CFS 慢性疲労症候群啓発デープロジェクト2016 ホームページ

CFS啓発ポスター、ポストカードの購入はこちらから

春うまれさんの缶バッジ購入はこちらから

ゆらりさんの漫画はこちらから

(イラスト/ますぶちみなこ