ホワイト、ネイビー、ブラック、ベージュ……ベーシックな色使いに、どこか温もりのあるいぐさのアクセント。サンダルを履いて、クラッチバッグを片手に、そよ風の吹く散歩道を歩いたら、すてきな女性に見えるかも。上の写真を初めて見たとき、ちょっと気取った自分の姿を想像してしまいました。
もう一つ目に留まったのは、シンプルなデザインに映える「SUSU」の文字。ブランド名は「SUSU Journey from/to Cambodia」といいます。実はこれらのプロダクト、カンボジアの農村で暮らす女性たちが一つ一つ手作業で作っているのです。
勇気を持って新しいことにチャレンジするとき、カンボジアでは「SuSu(スースー)」と声をかけ合うのだそう。貧しくて大切な家族やわが子を守れない。夢を描けない。そんな困難に負けず、一歩を踏み出そうとしている女性を応援するために、SUSUは生まれました。
カンボジア・シェムリアップ発の新ブランド
SUSUは、カンボジアのシェムリアップという町に店をかまえるファッションブランド。2016年2月、第一号店がオープンしました。シェムリアップにはカンボジアを代表する世界遺産アンコール・ワットがあり、店舗にも多くの観光客が足を運んでいます。日本国内ではオンラインショップで購入することが可能です。
ラインナップはバッグやポーチ、サンダルなど。バッグやポーチの底、サンダルの素足に接する部分には、カンボジア名産のいぐさを織り込んだ小さな畳のようなデザインがあしらわれています。
ミニトートやポーチに付いているカラフルなチャームも、いぐさで作られたもの。全6色のうちどの色が届くか分からないという、オンラインショッピングならではの楽しみもあります。
クチャ村の女性の手で作られるSUSU
SUSUの旅は、中心街から35kmほど離れた場所にあるクチャ村から始まります。この農村にある工房「コミュニティファクトリー」で、約60人の女性たちがプロダクトを作っています。観光で工房を訪れて、その場でプロダクトを買うこともできます。
「SuSu」はカンボジア語で「がんばって」という意味の言葉。気合いを入れるための喝ではなく、「あなたを応援しているよ」と背中を押す温かいメッセージです。工房で働く女性たちも、この言葉でお互いを励まし合っているそうです。
コンセプトは「ものづくりを通したひとづくり」。女性たちは、自分たちの手で良質なプロダクトを作り、それをお客様に届けるという過程を通して、自信や誇りを培っていきます。安定した収入を得ながら働くことで、彼女たちはものづくりを通して、人と協力する力や課題に向き合う力、自己管理や職業倫理といった生きる力を身につけることができます。
「かものはしプロジェクト」の新たな取り組み
SUSUを立ち上げたのは、認定NPO法人「かものはしプロジェクト」です。貧困家庭の幼い子どもたちが強制的に売られてしまう問題を解決するため、2002年、3人の日本人大学生たちによって始まりました。カンボジアやインドを拠点に、女性の自立支援をはじめとするさまざまな活動に取り組んでいます。
かものはしプロジェクトが始動した当時、クチャ村のような農村で暮らす人たちにとって、子どもが安全に学校に通うことは簡単なことではありませんでした。貧しい家庭に生まれた子どもの多くは、義務教育である小学校を中退し、日雇いの仕事などで家計を支えなければならなかったからです。中には、仲介人に「いい仕事を紹介する」とだまされて、人身売買・児童買春の犠牲になってしまう子どももいました。
このような子どもたちの命を守るため、かものはしプロジェクトは大きく二つの支援に取り組んできました。
一つは「子どもを買わせない」活動。人身売買の取り締まりの強化です。政府やNGOなどと連携しながら、警察官の訓練や犯罪防止のための啓発活動を行いました。
もう一つは「子どもを売らせない」活動。女性が安心して働くことができるコミュニティファクトリーを経営します。大人が安定した収入を得て、家庭の貧困を解消できれば、子どもは危険な仕事に巻き込まれることなく、学校に通うことができます。
かものはしプロジェクトの取り組みや、犯罪を取り締まる法律の制定、さらに国全体の経済が発展したことにより、カンボジアで人身売買の被害に遭う子どもの数は大きく減りました。
子どもをめぐる問題が解決してきた一方で、次に取り組むべき課題として見えてきたのは「女性の自立」です。コミュニティファクトリーを卒業した女性たちを待っているのは、もっと複雑で不確かな社会。ものづくりによって得た経験を糧に、胸を張って生きてほしい。カンボジア事業部は、SUSUのコンセプトでもある「ものづくりを通したひとづくり」をミッションに掲げ、かものはしプロジェクトを離れた新しい組織として活動する準備を進めています。
「本当に良い」プロダクトを自分たちで作り、届ける
SUSUのプロジェクトを始めたのは、同団体共同代表の青木健太さん。2009年からカンボジアで活動し、コミュニティファクトリーを運営してきました。
青木さん:「教育の機会を得ることができず、字が読めない」「そもそも農村以外の生活を知らないので、夢が描けない」そんな女性たちが僕たちの工房にはたくさんいます。彼女たちと苦楽を共にして思ったことは、生きる力を身につけることは「自分の人生を生きる」ことだということです。
女性たちがものづくりを通して得るものは、仕事の技術だけではありません。「ミシンを使えるようになった」といった小さな達成感、同じ工房で働く人たちとのチームワーク、プロダクトが売れたときに感じられる大きなやりがい。これらの積み重ねが、将来の夢への一歩を踏み出す自信になると青木さんは言います。
「本当に良い」プロダクトを1から作る。新ブランドSUSUを世界で通用するブランドにするというチャレンジによって、女性たちはさらに大きな一歩を踏み出すことができるのです。
一本のいぐさから生まれるSUSUが、私たちの手に届くまで
SUSUを彩るいぐさは天然もの。太さや色が一本一本異なります。これらを手作業で選別し、大きな鍋で煮て染色したあと、2人一組になって手織り機を使い、1枚のマットに仕立てます。その後、裁断・縫製の作業を経て完成。厳しいチェックをクリアし、プロダクトとして売り出せると判断されたものだけが、店頭に並びます。
女性たちは初めから熟練の腕を持っているわけではありません。一つずつ手順を覚え、地道に作業に打ち込む日々。体調やモチベーションを保つのは大変なことです。彼女たちが気持ちよく働き続けることができるように、工房には給食や託児所のサービス、読み書きや社会でのマナーを学ぶ場が作られました。
ブランド立ち上げ当初、検品の壁を越えられた完成品はわずか30%。このような工夫が実を結び、今では90%以上のプロダクトを届けることができているといいます。
青木さん:これまでの積み重ねの結果で生まれたのがSUSUの商品。みんなと一緒に本当に良いものを作りぬいたからこそ、みんなで自信を持って届けたい。
第一弾ではトートバッグとサンダルを販売。2016年5月にはクラウドファンディングを実施し、集まったお金で新しいプロダクトを作ることができました。2017年5月には期間限定で東京に初めて出店。SUSUは少しずつ、でも着実に海を越え、旅路を広げているのです。
ものづくりを通して前に進んでいく女性たち
オンラインショップのサイトにあるSUSUの紹介動画には、工房で働き、未来への道を切り開いた20歳前後の女性たちが登場します。
トーイさん:常にプロとして仕事をすること、それを心がけるようになりました。プロ意識を持てば高いクオリティを目指して取り組むことができます。製品の仕立て、色、全てを美しく作ることで、よりよい商品をお客様に届けることができます。
マオさん:お客様がコミュニティファクトリーに訪れると、私はとても嬉しいんです。ファクトリーで手作りしている様子を見て、応援してくれる人が増えます。また、たくさんの人が共感してくれ、より多くの人が商品を買ってくれるからです。私たちの商品を買ってもらうことで、もっともっとたくさんの、恵まれない環境にある昔の私のような女性たちを助けることができます。
きらきらした笑顔と、自信に満ちた声で話す女性たち。見ている私も元気をもらいました。SUSUには、買ってくれた人も前向きに人生を歩めるようにという、もう一つの願いが込められているのです。
手に取ることで知る課題、海の向こうへ届く応援の声
デザインもコンセプトもすてきだと思い、一目惚れしたホワイトのクラッチバッグをオンラインショップで買ってみました。A5サイズの手帳や日記がすっぽり入って、使い心地は抜群です。
このバッグを作ってくれたのは、どんな困難にも屈することのない、私と同年代の女性たち。彼女たちは今、前に進もうとしている。海の向こうで、確かにがんばっている。だから私も、一緒に一歩を踏み出そう。初めて生地に触れたとき、そんな前向きな気持ちで胸がいっぱいになりました。
顔を見て「SuSu」と声をかけることはできないけれど、プロダクトを通して手を取り合うことはできるはず。1人でも多くの人に、この温かくて心強いメッセージが伝わってほしいなと思います。
関連情報:
「SUSU Journey from/to Cambodia」公式ホームページ、facebook、Instagram
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認定NPO法人かものはしプロジェクト公式ホームページ