子どもの頃、皆さんはどんな夢を抱いていましたか?
スポーツ選手になるため得意な競技に打ち込んだり、絵が得意だから漫画家になることを目指したりと、子ども時代に目指したゴールは様々にあったと思います。
成長するにつれて将来の夢は変わっても、得意なことや好きなことが誰かの喜びになる嬉しさは変わりません。
一所懸命作った手料理を、誰かが美味しいと食べてくれる。オススメの本を紹介したら友達が面白いと言ってくれた。そんなふとした瞬間が人生でもっとも幸せな瞬間の一つなのだと、私はいつも思います。
しかし世界を見てみると、好きなことを生かして自由に将来の仕事を夢をみることができる人は少数派かもしれません。そもそも様々な働き方があること自体、世界の大半の子どもは知らないというのが現実です。
今回ご紹介するのは、そんな子どもたちの夢の可能性を広げるプロジェクト。
カンボジアの子どもたち一人ひとりが”アーティスト”としてジュエリーをデザインし、実際にそれを制作・販売する「smileプロジェクト」です。
子どもたちがアーティストに。兵器から再生するジュエリーで笑顔を届ける
smileプロジェクトを展開しているのは、ジュエリーブランド「REBIRTH」です。REBIRTHでは、かつてカンボジアの内戦で使われた機関銃の薬莢を原料としアクセサリーを製造、販売をしています。生活するのに物資が足りていない中で、兵器が散乱しているカンボジア。そのような環境でも安定して何か作ることができないかという思いからブランドが立ち上げられました。
今回、REBITHが挑戦する「smileプロジェクト」のデザイナーはカンボジアの子どもたちです。このプロジェクトでは、子ども達の描いた絵が実際にREBIRTHのジュエリーのデザインとなり、ネックレスなどのアクセサリーとして遠く離れた私たちの元へ届きます。
活動を通して、アートとは無縁の生活をしていたカンボジアの子どもたちに表現する喜び、作る喜びを伝えていきます。
カンボジアに落ちていた一つの薬莢から考えた、伝えるべきもの
smileプロジェクトの活動を進めているのは、REBIRTHの代表である沓名美和さん。
6年前、中国に留学していた沓名さんは、発展が著しい街のなかで日中戦争の記憶とも言える建物が取り壊されていく現場を数多く目撃しました。
これはなくしてしまってよいのだろうか?
沓名さんは、戦争の記憶に蓋をされ発展していくことに危機感を感じたそうです。そして、旅行先で訪れたカンボジアの田舎町で拾ったのが、かつて兵器として使われていた薬莢でした。
これを再生して、どどめておくことはできないだろうかと思いました。負の遺産を美しいものに変えたい。私たちは戦争についてあまり考える機会がないからこそ、今後同じ歴史が繰り返されないよう、新しい形で伝えていきたいと感じたんです。
その思いをエネルギーに、沓名さんは兵器を人傷つけないアートへと再生させたジュエリーブランドを立ち上げました。
薬莢ジュエリーを通して知ってほしい”働くことの可能性”
REBIRTHでは、薬莢を再生するほか、歴史や働き方、そして人々の夢を再生させることを目指し事業を展開しています。
カンボジアに行ってみてから、カンボジアでは工場で働くなどが主流で、自分たちから見つけて働くような仕事は少ないことがわかったんです。彼らの将来の夢にアーティスト、カメラマン、ミュージシャンなどはありません。仕事が限られている中で、手に職をつけて自分たちがしたい仕事をできるようになったらいいなと思いました
彼らの名前はダバンとスタイニー。初めは学校にいけなかった彼らも、今はREBIRTHの工房で働きながら、現地の高校に通っています。働いて3年目の彼らは、一つ一つ手作りでジュエリーを作っていく職人技とも言える工程まですっかり板についているそう。なんでも任せられる心強いスタッフです。
表現できるものは本来みんな持っている。だから限られてほしくない
沓名さんはREBIRTHの活動をするかたわら、NGOが運営するフリースクールにて3歳〜5歳ほどの子どもたちを対象に美術の授業を行なっています。美術やデザインなどの授業は、カンボジアにはもともとありませんでした。ですが、沓名さんは子ども達の発想にはセンスには圧倒されることが多いのだといいます。
子ども達にとって、まず絵の具は筆で描くものじゃなくて、手で描くものなんです。そして外から葉っぱを拾ってきて絵の具と混ぜたり、描くときもすごく強く線を描いたり、驚くことはたくさんあります。
溢れる子どもたちのエネルギーを表現させる場所をもっと増やしてあげたい。子どもたちが作ったものをなんとかして外と繋げられないか。そう思い始めたのが「smileプロジェクト」でした。豊かな発想が表現された子どもたちの絵は、ジュエリーとなり、画用紙に描かれたのとはさらに違った輝きをみせてくれます。
ジュエリーひとつひとつに子ども達のびのびとした感性が詰まっていて、思わず「可愛いい!」と声に出してしまいそうな、魅力のあるものばかりです。
笑顔になれるのは、子どもたちだけではなかった。
私は、子どもたちにもっと仕事の可能性、夢を描く幅を広げて欲しいと思っています。表現する、つくる喜びを知り、そしてそれが世界の誰かを幸せにする。クリエイター、アーティストというすばらしい職業を自分の可能性にしてほしいと思っています。
子どもたちが様々なことを吸収し、多くの分野でたくさんの経験をしてほしいと熱く語ってくださった沓名さん。
活動を続けるにあたっては、もちろん大変なこともありました。現地の人にもなかなか薬莢を再生することの意味をわかってもらえず、原料を買ってきた方が早いのではないか、などと言われることも多かったそうです。
そしてやっと戦争のことに向き合えるようになった今だからこそ、いつか彼ら自身が意味をわかってジュエリーを届けてほしい。
そう熱く語る沓名さんの原動力はどこにあるのでしょうか。
この活動ができていることには本当に感謝しています。現地でやっていて日々思うのは、人のためにやっている人は続かないということです。この子たちのためというよりも、結局はどこかで自分のためになっているんです。みんなそうだと思うんです。人にやらされていることは嫌いだから、自分からやりたいと思わなかったら何も動けないと思います。新しいものができると感動して、だからやってるのかなって思います。
沓名さんらは現在、REBIRTHとして、smileプロジェクトの資金を集めるためクラウドファンディングに挑戦中。集めた資金で、今まで新聞紙などで代用されていた画用紙や、現地では足りていない絵の具などの画材道具を調達します。そして子どもたちにより良い環境で表現する喜びを届けるために使わます。
ネガティブな記憶を消し去るのではなく、それを受け入れ、美しいもの再生し次の世代へ伝えていく。その過程には子どもたちの力強い発想や夢がある。
そんな「smileプロジェクト」をたくさんの方に応援していただけると嬉しいです。
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