【写真】笑顔で座っているおかだたいようさん

「私は、たぶん大丈夫」という、なんの根拠もない自信。ちょっとしんどくなっても、「あんまり人に頼りすぎてもなぁ」と遠慮してしまう気持ち。

そんな毎日を積み重ねすぎたのか、ある日、突然、思うように原稿が書けなくなったことがありました。ひたひたと私の中で静かに溜まっていた何かが、一気にあふれ出てしまったように。

「人に迷惑をかけてはいけない」という気持ちが強い人が多いと思うんです。だけど、もしいま、あなたの目の前で誰かが倒れたら、絶対に助けるでしょう?きっと迷惑だなんて思わないから大丈夫。

臨床心理士である、岡田太陽さんの力強い言葉が胸に響きました。

目に見える症状や傷があったら、みなさん、すぐに病院に行って手当てをしますよね? それは、心もまったく同じなんですよ。

その通りだなあ、と思う一方で、自分の思考や行動を変える難しさも感じます。

どこまでが「甘え」でどこからが「不調」なのか。いきなり「心のメンテナンス」といわれても、どうしていいかわからない人が大半なのではないでしょうか。体の不調なら、病院に行けばいい。じゃあ心の場合は?

自分が「心の不調」を感じたとき、また「心の不調」を抱えている人が近くにいるとき、具体的にどう対処していけばいいのか……。

私たちは、臨床心理士/カウンセラーとして活動している岡田太陽さんをたずね、詳しく教えてもらうことにしました。

岡田太陽さんのカウンセリングルームをたずねて

おうかがいしたのは、JR高田馬場駅から10分ほど歩いたところにあるマンションの一室。岡田太陽さんは2018年4月、先輩から引き継ぐ形で、ご自身のカウンセリングルームを開設されました。

【写真】アジア民族雑貨や暖かい色の光がリラックスできる空気を作り出している

どっしりとしたソファと、アジアの民族雑貨などが並ぶ、落ち着いた空間。おとずれた人がゆったりとリラックスできるよう、配慮されているのがよくわかります。

【写真】アジアの民族雑貨。輪っかに吊るされた針に鳥の羽がぶら下がっている

このカウンセリングルームのポイントの一つは、“広さ”なんです。ここで、ちょっとした研修やワークショップなども開きたいと思っていて。

1対1のカウンセリングを必要としている方だけじゃなく、普通に生活はできているけど、「ちょっとしんどいことがある」くらいの人たちも気軽に参加できる場にしていきたいんです。少しだけでも、元気になって帰ってもらえるような。

そんなカウンセリングルームの一画で、私たちはインタビューをはじめることにしました。

【写真】笑顔のおかだたいようさんとライターのおおしまゆうさん

カウンセリングの基本は、「あなたの話に耳を傾ける場所」

聞き手/大島悠(以下、大島):こうして実際にカウンセリングルームにお邪魔し、カウンセラーである太陽さんとお話してみると、素直に「しんどくなったら話を聞いてもらえるんだな」と安心できるのですが……。

はじめて心の不調と向き合っている人は、きっと「カウンセリングを受ける」ということ自体に、ハードルを感じてしまうケースが多いと思うんです。

岡田太陽さん(以下、岡田):うん。そうでしょうね。本当はもっと気軽に、「ちょっとお茶を飲むついでに話をしにいく」くらいの感覚できていただいても、全然いいんですけどね。

大島:その感覚をもっている人は、まだまだ少ないかもしれません。今日はそんな方たちのために、「カウンセリング」とは何か、というところから教えてください。

【写真】真剣な表情でインタビューに答えるおかだたいようさん

岡田:一言で説明するのはなかなか難しいですが、まず大前提として、カウンセリングとは「あなたの話を聞く場所」であるということ。それが基本かなと思います。

これまで、あなた自身が誰にも言えなかったことを話してもらう。カウンセラーには絶対的な守秘義務がありますから、みなさんのお話が外に出ることはありません。

大島:「話を聞く」ことがメインになるんですね?

岡田:そうです。さまざまなワークを通じたセラピーなどもありますが、それらを扱うカウンセラーやセラピストはおそらく少数派だと思います。ただ、カウンセリングの回数を重ねる中で、少しずつ“宿題”に取り組んでもらうこともありますが――。

大島:宿題、ですか。

岡田:そう。例えば、「これから毎日、腹式呼吸をしてください」とかね。深い呼吸は、自分の交感神経と副交感神経をコントロールするための、最も簡単な方法なんです。その方の状態に合わせて、いろいろな手段でセルフメンテナンスの練習をしてもらうことはありますね。

ちなみに僕が臨床心理士の資格を取って、はじめてひとりのお子さんを担当したときは、「一緒に窓の外を眺める」ところからスタートしました。まずはお互いのことを知り、信頼関係が生まれないと、本当の意味で“話を聞く”ことはできませんから。

【写真】インタビューに答えるおかだたいようさん

大島:誰にも言えないことを話せる場所ーーまず、初対面の人に自分を開示しなければいけない、そのハードルもありますよね。

岡田:それはそうですよ。僕たちカウンセラーも、初対面の人と話すのは緊張します(笑)。カウンセリングは、対話を通じて少しずつ、少しずつ「あなたはどういう人なの?」と紐解いていく作業からはじまるんです。

だからできれば、少なくとも5回くらいは通うことを前提に考えていただけたらいいですね。なかなか、1回や2回のカウンセリングで何かを解決しようとするのは難しいです。お互いに歩み寄るプロセスの中で、「今このことに悩んでいて……」と、あなたが抱えていることを、ほんのちょっとでも話してもらえたら。それだけでも、ご本人にとってはいいことだと思うんですよね。

大島:そう考えると、自分が信頼できるカウンセラーの方と出会えるかどうかも、すごく重要な気がします。

岡田:カウンセラーも人間なので、どうしても相性はあると思います。それぞれに得意分野・不得意分野もありますしね。

大島:実際に「カウンセラー」として仕事をしているのは、どんな方たちなのでしょうか?

岡田:基本的には指定大学院(もしくは専門職大学院)を修了し、「臨床心理士」の資格試験に合格した人(※)を指します。ただ、その他の民間資格を取得し、カウンセラーやセラピストとして活動している人たちも多くいます。

大島:太陽さんご自身が、臨床心理士を目指したのはなぜだったのでしょう。前回のインタビューで、心理学への道を進むきっかけになったのは、1冊の本だったことをお話いただいていました。そうした心理学への興味が、具体的にカウンセラーの仕事と結びついたのはいつ頃でしたか?

【写真】質問に丁寧に応えてくれるおかだたいようさん

岡田:うーん。カウンセラーという職業を意識したのは、大学2年生の頃ですかね。ただ当時は、「自分の進むべき道はこっちだ!」と勝手に思っていたふしがあります(笑)。だから臨床心理士を目指すのは、僕にとってごく自然なことでした。

僕が中学生だった頃、ちょうど学校でのいじめや登校拒否の問題が注目されはじめていたんです。痛ましいニュースをたびたび目にして、悩んでいる子どもたちの役に立てたらいいなとは思っていました。

大島:それで、スクールカウンセラーとしてのキャリアをスタートされたのですね。

※2015年に「公認心理師法」が成立、2017年に可決されたことにより、心理学系初の国家資格「公認心理師」が生まれる。2018年秋に第一回の国家試験が実施される予定。

身体症状が出る前に。「もっと話を聞いてほしい」という小さな違和感を大切にして

大島:カウンセラーの方の存在を知り、「気軽に声をかけていい」ことを理解していたとしても、自分では「これは心の不調だ!」と判断できないこともあると思うんです。「こんなことで弱音をはいてはいけない」とか、「体調が悪いけど原因がわからない」とか……。

岡田:いやいや、身体症状が出てしまっているのは、もうだいぶ進んでいる状態なんですよ。僕たちからすると、そうなる前に足を運んでほしいんです。

大島:そうなんですか……!

岡田:ご家族や友達にあなたの悩みを話せたとしても、「本当はもっと聞いてほしいのに」「なんだか話し足りないな」と感じることも、きっとあると思います。その小さな違和感を、心のサインとして見逃さないでほしいです。

大島:「もう少し自分の話を聞いてほしい」という感覚。

岡田:そうそう。

大島:そうした違和感を感じたとして、次のステップとなる「じゃあどのカウンセラーさんのところに行けばいいのか」で、またみなさん悩まれると思うのですが――。

岡田:そこはね、正直、誰でもいいんですよ。カウンセラーじゃなくても。大事なことは、「とにかく誰かに話す」ということです。

【写真】真剣な表情でインタビューに答えるおかだたいようさん

だから家族でも友達でもいいし、教会の牧師でも占い師でもスナックのママでもいい。その“誰か”を思い浮かべるとき、選択肢の一つに「カウンセラー」を入れてもらえたら、僕はそれでいいと思っています。

そのうえで、あなたが「カウンセラー」を選ぶとき、どうするか。まず、はじめてカウンセリングを受ける方は、可能であれば臨床心理士の資格をもつ人に声をかけるのがいいかもしれません。カウンセラーにもそれぞれ専門領域があるので、ホームページなどを見て、自分の悩みに近いことを専門にしている人を探してみてください。

大島:第一歩は、ホームページで探すということですね。ただ、限られた情報をたよりに選んでも、実際にカウンセリングを受けてみたら「なんかちょっと違う……」と感じることもあると思います。自分と相性が合う・合わないは、どんなところで判断すればよいのでしょうか?

岡田:それはもう、「自分が心地よく話せるかどうか」ですね。何が心地いいかは人それぞれなので、カウンセラーに遠慮する必要はありませんよ。カウンセラーから、たくさんワークや宿題を出されることが苦痛になってしまう人もいれば、「ただ黙って話を聞くだけで何もしてくれない」と不満を持つ人もいます。人によって、何が心地いいかは違って当然なんです。

さらに人だけではなくて、場所との相性もあります。僕のカウンセリングルームはけっこう物がたくさん置いてありますが、ごちゃごちゃしている場所がダメで、何もない真っ白な部屋を好む人もいますから。

太陽さんのカウンセリングルーム。照明も落ち着いたものにしている

大島:シンプルに、自分が「心地いいかどうか」で判断していいんですね。

岡田:そう。あなた自身の感覚に従い、選んでいいんです。

お金のことも時間のことも、できる限りの提案をするために、不安はすべて伝えてほしい

大島:カウンセリングを受けるとき、少なくとも5回以上は通ってほしい、というお話がありました。人によって適切な回数、期間はそれぞれだと思いますが、やはり継続を前提に考えた方がいいですか?

岡田:そうですね。5回、10回……と、対話を重ねていくのがカウンセリングの基本です。通い続けていただくためにも、物理的な距離のこともできれば考えていただきたいです。できる限り、自宅から通いやすい距離や場所にあるカウンセリングルームを見つけるのが一番。

ただ、カウンセリングに通っていることを周囲の方に知られたくないケースもあると思います。そうした場合は、あえて生活圏から離れたところで探してみてもいいかもしれません。

大島:なるほど。通う場合、どのくらいの頻度でお話を聞いてもらうのがよいのでしょうか。

岡田:はじめは1〜2週間に1度を目安に通っていただき、様子をみて少しずつ間を空けていくことが多いです。ただ、みなさんにお願いしているのは「1ヶ月以上、間を空けないでほしい」ということですね。

僕の場合、カウンセリングに入るときに「この1週間はどうでしたか?」という振り返りからはじめるんです。その人の“現在の状態”をひもとくために。それが「1ヶ月どうでしたか?」となってしまうと、ご本人も覚えていないことが多く、確認に時間がかかってしまう。せっかく時間を作って足を運んでもらっているのに、それは非常にもったいないです。

【写真】丁寧に質問に答えてくれるおかだたいようさん

大島:ただ、定期的に回を重ねるとなると、通う側としては費用面の心配も出てきてしまうんですよね……。カウンセリングにも、相場の料金がありますか?

岡田:料金はカウンセラーによってまちまちですが、平均的な相場が近いのは、マッサージや整体の費用感だと思います。10分あたり、大体1,000円くらいでしょうか。だから1時間だと、5,000〜6,000円ほどの料金をいただいているところが多いかな。

病院のように保険が適応される診療ではないので、決して安価なものではありません。だから、金銭的な事情があるのなら、それも含めて事前に相談してもらえたらと思います。

大島:それは、具体的にどのようにご相談すればいいでしょう?

岡田:とにかくシンプルに、事情をそのままお話ください。お金の心配があるなら、まずは「このくらいの予算が限度」と教えていただけると助かります。そうすれば、僕たちカウンセラーは「限られた回数の中で、あなたに対して何ができるか」を考えることができます。それはお金だけではなくて、時間についても同じです。

大島:時間的な制約がある場合も、ご相談できるということですか?

岡田:はい。症状によっては10回ではとても足りないケースもありますし、さすがに「パニック症状を、1回でなんとかしたい」といったようなご要望には応えられません。ただ少しでもあなたの事情が事前にわかっていれば、できる限りの対策を考えます。例えば、「3ヶ月後にどうしても飛行機に乗らなければならないので、それまでに症状の緩和をしたい」とかね。

【写真】真剣な表情でインタビューに答えるおかだたいようさん

大島:なるほど、目標の地点に向かってカウンセリングをしてもらうこともできるのですね。パーソナルトレーニングジムみたいに。

岡田:そうなんです。ただ時間が限られている分、「ご自分の生育歴を、詳しく事前に書き出してきてください」とか、「ご自宅でこうしたセルフメンテナンスをしてください」とか、ご協力をお願いすることが増える可能性もあります。

大島:カウンセリングを受けるにあたり、事前にそうしたご相談ができることすら知りませんでした。

岡田:ほとんどの方が、そうだと思います。不安なこと、困っていることはどんどん相談いただいていいんですよ。だって安心するためのカウンセリングなのに、行く前に不安だらけじゃ、そりゃあハードルも上がりますよね(笑)。

それに、カウンセリングは、あなたに秘密があればあるほど時間がかかってしまうものなんです。だから「本当にこんなこと言って大丈夫かな?」と思うことまで、何でもお話いただき、オープンにコミュニケーションを取りながら進めていけるのが一番いいと思っています。

いざカウンセリングを予約。それでも当日の体調に不安が残るときは

大島:「いざカウンセリングを受ける」と決意し、事前に不安なことをご相談できたとしても、体調によっては、当日家から出られないこともあると聞きます。

連絡できずドタキャンしてしまい、気まずくなって別のカウンセリングを受けようとし、またキャンセルを繰り返す……そんなスパイラルに陥ってしまう、と。そんなとき、カウンセラーの方はどう感じているのでしょうか。

岡田:それは、カウンセリングではよくあることです。自分の1週間後の体調がどうかなんて、誰もわからないのは当然ですよ。あなたが罪悪感を感じることはありません。そうした不安がある方も、カウンセリングの申し込みをする時点で相談してみてください。「体調によっては、当日行けるかどうか、不安があります」と。

大島:そうした不安も、オープンにしていいんですね!

【写真】微笑んでインタビューに答えるおかだたいようさん

岡田:はい。ただカウンセラーも時間枠を押さえて仕事をしているので、すべてのご要望にお応えできるかはわかりませんし、カウンセラーによっては「それだと予約は難しい」という場合もあるかもしれません。

大島:ほかのクライアントさんもいるでしょうし、キャンセル料も発生しますしね……。

岡田:だから先の予定を組むのが不安なときは、例えば「今日は体調がよいので外に出られそう」という日に、「当日予約できますか?」と聞いてみるのもアリです。空き時間や状況次第では、柔軟に対応できることもありますから。

とにかく、本当に気軽に何でも聞いてください。わからないことがあったり、不安が大きかったりするのは当たり前のこと。誰だってはじめはそうなんです。あなたの抱えている事情を教えていただけたら、僕たちカウンセラーも精一杯、できる限りの提案をしていきます。

家族や友人・知人の「心の不調」を感じたときは、“いらないお節介”を

大島:ここまでは、自分がカウンセリングを受けるケースについておうかがいしてきました。今日はもう一つ、「家族や友人・知人が心の不調を抱えているとき」の対応を教えていただきたいです。周りの人がとても辛そうにしているとき、心の不調がありそうなとき、どうやって手を差し伸べたらいいんでしょうか。

岡田:それは、本当にめちゃくちゃ悩みますよね。ただ一つ言えることは、“いらないお節介”はとても大事だということです。

大島:いらないお節介。

【写真】インタビューに答えるおかだたいようさんとライターのおおしまゆうさん

岡田:そう。僕も「大丈夫?」と口を出して、「大丈夫じゃないのに、大丈夫? って聞かないで」と相手から噛みつかれたり、反発を受けたこともたくさんあります。

でも、とにかく一人にしないこと。「何だかしんどそうだから」といって、周りが関わることをやめてしまう方が、本人を苦しめることになります。

悩んでいる当の本人は「周りに迷惑をかけている」とか、「こんなことで悩んでいるのは自分だけかもしれない」と感じているから、余計にそう。距離を置こうとしたり、あまり話さなくなったり……でもそうしているうちに、その人自身がどんどん孤独を深めてしまうんですよ。

大島:とにかく関わり続ける。どんな風に声をかけていけばいいでしょうか……?

岡田:注意したいのは、決して、「あなた、うつ病じゃないの?」なんて言っちゃダメだってことです。病名を診断するのは、あくまでも医師の仕事。そうではなく、とにかく自分の主観で話せることを伝えてください。

「私には、あなたがとても辛そうに見える」「何か、助けが必要そうに感じる」とかね。

また別に、悩みをムリに聞き出そうとしなくたっていいんですよ。「お茶に行こう」「ネイルサロンに行ってみよう」など、ちょっと日常から離れて息抜きできるようにするとか。もしできることなら、「私がついていくから、一緒にカウンセリングに行こう」と声をかけてほしいですね。

大島:そうか。カウンセリングは、家族や友人についてきてもらってもいいんですね。本人がカウンセリングに抵抗がある場合、どう話したらいいでしょう。

岡田:「私ではあなたの状態が判断できないから、1回プロに相談してみない?」と伝えてみるのはどうでしょうか。もしくはカウンセラーに直接、「こういう状態の人がいるんですが、どうやってカウンセリングに連れてきたらいいでしょうか?」と相談してみてもいいと思います。

大島:なるほど、自分がカウンセリングを必要としているときはもちろん、身近な人がつらそうで心配になったときも、相談することができるんですね。

岡田:はい、もちろんです。カウンセリングは、そんなときの窓口だと考えてください。

【写真】笑顔でインタビューに答えるおかだたいようさん

僕たちカウンセラーは、明確な診断を出したり、薬を処方したりすることはできません。ただカウンセリングを通してご自分の状態がわかれば、そこから病院を受診するなど、次のステップに進んでもらうことができるはずです。

大島:確かにカウンセリングを、「心の不調」を感じたときの窓口の一つだと考えると、かなり足を運ぶハードルが下がるような気がします。

打ち明けられた重大な相談ごとも、一人では抱え込まないで

大島:友人や知人から重大な相談ごとを打ち明けられて、それを一人で全部受け止めようとして抱えきれなくなってしまう……ということもありますよね。そうした場合は、近しい人と協力したりした方がいいですか?

岡田:いや、大事なことを打ち明けられたなら、簡単に他の誰かと共有したりはしない方がいい。みなさん誰しもそうだと思いますが、自分の悩みを話すとき、「誰に話すか」はものすごく厳選しますよね?

大島:……確かに、その通りですね。

岡田:本人からすると、「話しても大丈夫な人」をめちゃくちゃ選んでいるんです。それは相手があなたを心から信頼しているということ。だからこそ、その関係性は大事にしてほしいですね。

とはいえ、打ち明けられた悩みを一人で背負おうとすると、二次受傷を引き起こしかねません。そんなときも、カウンセラーを使ってくれたらいいと思います。「友人からこんな相談をされていて、一人で抱えきれなくて辛いんです」って。

【写真】真剣な表情でインタビューに答えるおかだたいようさん

大島:なるほど。カウンセリングなら、自分の人間関係の“外側”で、相談ができるんですね。

岡田:そう。あなた自身の相談じゃなくたっていい。ご友人の問題を解決するために、一緒に対処法を考えることもできます。だから、あなたが「ちょっと大変だな」と感じたら、一度はプロに声をかけてみてほしいと思います。悩みを打ち明ける本人も、あなたを苦しめたいとは絶対に思っていないはず。そう思いませんか?

回復の兆しは、本当に小さな行動の変化に現れる

大島:今日お話をうかがっていて、本当に、カウンセリングについて知らないことばかりだったと痛感しています。最後に、カウンセリングを受けた方の「回復」についてお聞きしたいです。5回、10回……とカウンセラーの方との対話を重ねていくなかで、人はどのように「心の不調」から回復していくのでしょうか。

岡田:わかりやすくいうと、回復とは「コントロール力を取り戻す」ことだと思うんです。

大島:「コントロール力」ですか。

岡田:そう。自分で、自分の心をコントロールできている状態。気分のアップダウンは多少あったとしても、社会に適応できている、という。

大島:身体に出ていた症状が和らぐとか、不安な気持ちがあっても対処ができるとか——?

岡田:そうです。ただ、“症状”というのは、決して悪いものではないんですよ。どうしても、みなさん「この症状さえなければ!」「早くこの症状を解消しなきゃ!」と焦って考える方が多いんですけどね。

むしろ頭やお腹が痛くなったから、あなたは「休む」選択ができたのかもしれない。朝、どうしてもベッドから出られなかったのは、身体からの「もう限界だよ!」というサインだったのかもしれない。そういう側面があるということです。

【写真】質問に丁寧に答えてくれるおかだたいようさん

大島:身体からのサイン。「直さなきゃ」と、必要以上に焦る必要はないんですね。

岡田:はい、そうなんです。カウンセリングでは、そうした症状に対して少しずつコントロールを取り戻すために、「いま、困っていること」からあなた自身のことをひもといていきます。基本的には、お医者さんの問診と一緒です。

どんなときに症状が出やすいのか、何か引き金になることがあるのか、気象などの影響を受けるのか……ひとつひとつ、絡まった糸をほどくように質問を重ねていき、パターンやリズムを見つけていくのがカウンセラーの仕事です。一見するとカオスな状態を、構造化していく、という。

大島:人によるかもしれませんが、回復のきざしはどのようなところに現れるのですか?

岡田:やはり、行動に変化が出てきます。わかりやすいのは女性かもしれませんね。真っ先に、まず身なりが変わるんですよ。

大島:おお、そうなんですね。

岡田:メイクや髪型が変わるとか、ずっとつけていた大きなマスクを外してくれるとか、いつもボロボロだった靴がキレイになるとかね。

男性の場合は、ちょっとしたチャレンジがはじまることが多いです。

今まで行ったことのない場所へ行く、会いたくても会えなかった友人に会ってくる……。本当にちょっとした変化でも、ご本人にとっては大きな一歩なんです。

大島:自分で決めて、次の行動に移せるということですね。

岡田:そう、「決める」という行為も、コントロールの一つなんですよ。選択肢がいくつもある中から、自分で「これをする」と決めること。その小さなステップをいくつも重ねて、コントロールを自分の手に取り戻していくんです。

そもそも、「カウンセリングに行こう」「カウンセラーに話を聞いてもらおう」と自分から行動したことそのものが、大きな“決断”にほかなりません。それをあなた自身が「決めた」こと自体が回復につながるステップであり、とてもすばらしいことなんです。

「心の不調」で悩んでいる方の多くはきっと、その一歩を踏み出す手前で迷い、悩んでしまっている。だからこそ僕たちは、カウンセリングをもっともっと気軽に利用してもらえるようにしていきたいと思っています。どんな些細なことでもいい。「話を聞いてほしい」と感じたら、気軽にお越しください。いつでも待っています。

【写真】笑顔でインタビューに答えるおかだたいようさん

「心のメンテナンス」を、当たり前の選択肢に

かつて思うように仕事と向き合えなくなった私は、カウンセラーの方を含め、いろいろな形で自分の話を聞いてもらううちに、いつの間にかまた、ふつうに原稿を書けるようになっていました。

ほんの数ヶ月、ごく些細なことではあったけれど、一度「回復」を体験し、私は以前より少し、身軽に生きられるようになった気がしています。「いざというときは、カウンセラーの方に話を聞いてもらうこともできる」という安心材料を、実際の経験を通して、一つこの手にもてたから。

いつだって、“ちょっとお茶する”くらいの感覚で、カウンセリングルームをたずねる——。

病院へ行って身体の不調を治療するのと同じように、「心のメンテナンス」を当たり前に。

岡田太陽さんのお話を聞けば聞くほど、その選択肢を一人でも多くの人に知ってほしい、という気持ちが強くなりました。

【写真】笑顔で立っているおかだたいようさんとおおしまゆうさん

関連情報:

「絶望のなかにも必ず希望があるんだよ。そう伝えるのが僕の役目です」ーー被災地の先生と子どもを支えるスクールカウンセラー・岡田太陽さん

(写真/田島寛久、協力/野田菜々)

訂正:記事掲載時に、公認心理師という表記について誤りがありましたので、以下のように訂正させていただきます。大変申し訳ございません(2019/9/6 soar編集部)

<訂正前>
※2015年に「公認心理士法」が成立、2017年に可決されたことにより、心理学系初の国家資格「公認心理士」が生まれる。2018年秋に第一回の国家試験が実施される予定。

<訂正後>
※2015年に「公認心理師法」が成立、2017年に可決されたことにより、心理学系初の国家資格「公認心理師」が生まれる。2018年秋に第一回の国家試験が実施される予定。