【写真】片手で持つてまるのお椀
大切な人と食卓を囲むとき、そこに会話があり笑顔が生まれたなら、食事はさらに美味しく感じられます。私にとって食事とは、人との関係を築くコミュニケーション方法のひとつです。

そんな時間を盛り上げてくれるのが、食器の数々。食事に合うお気に入りの食器を使うと、食べ物がより美味しく感じられるから不思議です。

ですが、たとえは障害のある人や高齢者など、従来の食器を使いづらいと感じる人もいるかもしれません。食事に不自由があることで、疎外感を抱くこともあるでしょう。

出来るだけ好きな食器を使って、自分の手で食事がしたい。

こんなふうに考えるのは、きっと多くの人に共通していることではないでしょうか。介護が必要になっても、美しくて良質のものを使って、自分で食事ができたならどんなに良いだろう。そんな思いが形になったような、岩手生まれの介護食器シリーズを見つけました。

食事を通して周りの人々や、社会とのつながりを持ち続けられるように。

そんな思いが込められた介護食器「てまる」を紹介します!

人々や社会の結びつきが生まれるように。願いが込められた食器たち

【写真】てまるの食器とスプーン

てまるは介護食器としての「機能性」と「風貌の美しさ」を兼ね備えた、岩手の磁器工房手作りの介護食器シリーズ。プラスチック製の介護食器も多い中で、てまるは伝統工芸の魅力を活かした磁器・漆器の商品を展開しています。

「てまる」という名前は器の作り手と使い手、高齢者や障害を持つ人、子どもまでたくさんの人々の手(て)が輪(まる)となってつながり、人と人、人と社会の結びになってほしいとの願いをこめて付けられました。

現在展開している商品は「てまる碗」「カレー皿」「おかず鉢」「カップ」「汁椀」、そしてスプーンの6種類です。常に使い手のことを一番に考える、てまるの思いやりの心がそれぞれのデザインに反映されています。

持ちやすい、すくいやすいなど工夫が凝らされたてまるのプロダクト

【写真】カーブで大豆など細かい食品もすくいやすいてまる椀
磁器でできた「てまる碗」は、飯碗として主食を盛るほか、おかずやデザートを盛る鉢としても使える万能選手。サイズは大・中・小があり、「小」はお子様の離乳食にも活用できる大きさです。

てまる碗には手で器自体を持たなくても食べ物をすくいやすいよう、内側になだらかなカーブがかかり、縁には返しが施されているのが特徴です。この返しの部分はてまるが特にこだわりを持っている点で、熟練した職人がひとつひとつ丁寧に作っています。

また器自体に適度な重みがあるため、片手ですくっても器が動かず、安定して食事をすることができます。

【写真】指がおさまるくぼみがあるてまる汁椀

漆器の汁椀には、片手で簡単に口元へ持っていけるよう、裏に指がかかるくぼみが付いています。木の器は断熱性が高いので、熱い汁物でも安心です。

【写真】飲み物が飲みやすい形状のカップ

「もっきりカップ」(画像右)と「反りもっきりカップ」(画像左)(中・小サイズ)は、細身で逆台形の形が手にしっくりと馴染んで滑りにくく、中の飲み物が飲みやすい形状になっています。「もっきり」とは、盛り切りに注いだ冷酒のことで、冷酒カップをモデルに作られました。佇まいが美しいので、インテリアの一部としても飾っておきたくなります。

【写真】持ち手が太い木製スプーン

軽やかな木製のスプーン(短・長)は持ち手は太く、口元は薄く、「にぎりやすさ」「口当たりの良さ」を重視した繊細な造りに。握り方に合わせて選べる右手・左手用のタイプも揃い、角度や太さが調節可能なオーダーメイドも受け付けています。

本当に必要とされるものづくりを目指して

【写真】工房で陶器をつくるおおさわかずよしさん

てまるの代表者で、作り手のひとりでもある大沢和義さんは、岩手県盛岡市生まれ。東京の学校で陶芸を学んだ後、愛媛県砥部の磁器工房・梅野精陶所で10年ほど働きます。その後岩手県滝沢市へ帰郷し開窯。岩手県では数少ない磁器作家として活動してきました。

大沢さんがてまるの制作をはじめたきっかけのひとつに、病気で若くして亡くなった弟さんの存在があります。弟さんは症状が進んでいくにつれて、だんだんと食事に不自由が生じていく様子を見ていたのです。

この時大沢さんは自身の職人人生を振り返るとともに、ある思いにたどり着きました。

高級品としてだけではない、人に本当に必要とされるものを作ることが、職人として、工芸家としての自分の本道ではないか。

そうして大沢さんは日常で誰もが使用でき、工芸品としても美しい介護食器をつくろうと、てまるの開発を始めたのです。

【写真】刷毛を使い漆を塗るおおさわかずよしさん

磁器は水を吸収しないため、長く使用しても材質が変化しにくく、壊れにくい素材であることが特徴です。さらに漆器もラインナップに加え、器の好きな方にも使ってもらえるように、見た目はそのままに、使いやすい工夫を施す開発を進めました。

【写真】スプーンを手作業で成型するおおさわかずよしさんの手元

「てまる」プロジェクトは2008年にスタート!はじまった当初は、パッと見てすぐに分かるような介護食器がほとんどだったため、一見すると普通の食器に見えるてまるを伝えていくことには苦戦もあったそう。

それでも2011年以降になると、グッドデザイン賞、ものづくり日本大賞東北経済産業局長賞受賞など様々な賞を受賞し、「美しい介護食器」として認知を広めてきました。「てまるプロジェクト」を介した人々の輪は、着実に広がっています。

「自分で食べられた」という達成感が、毎日の活力になる

【写真】てまるのお皿、スプーンを使って食事をする笑顔の高齢者と赤ちゃんを抱く女性

介護が必要な高齢の方、事故や病気で障害が残った方も、食事を通して周りの人々や社会とのつながりを持ち続けられるように。器選びで垣根をなくしていきたい。

これは大沢さんをはじめとする、てまるに関わる人たちが発足当初から持ち続けている思いです。

【写真】食事が盛り付けられたてまるのプロダクト

脳梗塞のお父さんが嬉しそうに使っている。

障害のある子どもが自分でうまくご飯を食べられるようになり、機嫌も良くなった。

実際に商品を購入した方からはこんな感想も寄せられています。一度使ったら手放せないと、リピートで購入する方も多いのだとか。

ある高齢者の方は、てまるに出会ってから自分の手で食事ができるようになり、元気になって積極的に出かけるようになるなど、日常生活に変化があったといいます。食事による栄養面の充実だけでなく、「人の手助けなしに、自分で食べられた」という実感が生活に及ぼす影響もあるのかもしれません。

【写真】てまるのお皿とスプーンで食事をする高齢者

「介護食器には見えない」伝統工芸てまる

これは介護食器じゃないだろう。

以前福祉機器展へ出品したとき、見た人からはこんな声があがったほど。大沢さんの願い通り、てまるの食器が“普通の”器に仕上がっているということなのでしょう。

てまるの食器が魅力的に映る背景には、職人たちの細やかな技術があります。例えば器の返しの部分などは手作業で作られていて、機械での大量生産での制作は難しいのだそうです。

伝統工芸だからこそ実現できる機能性を、介護食器に生かしたてまるの食器。今後も改良を重ね、柄・形・用途など様々なバリエーションが増えていく予定です。

【写真】ギフトボックスに包まれたてまるのお皿

「介護食器だから、お気に入りじゃなくても仕方ない」ではなく「これが使いたい」と思るような食器、てまる。私も早く手にとって実感してみたくなりました。カタログから各商品のお問い合わせもできるので、ぜひみなさんもご覧くださいね。

関連情報
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(ライター/山下奈津実)