【写真】バッグや手ぬぐい、ポストカードなどデザイン制作した商品を並べた机を前に微笑むHUMORABOまえかわゆういちさんとまえかわあきこさん

綺麗な色に染められた「ワカメ柄」だという手ぬぐいに、少し拍子抜けした表情の「モアイ像」のポストカードにタオル……。

一つ一つが人の手でつくられているのだという「あたたかさ」を感じるプロダクト。見ていると、心がホッとして穏やかな気持ちになってきます。

【写真】手づくりのプロダクトであるステッカー、メモ帳、手ぬぐいが机の上に所狭しと並べられている

商品を紹介してくれたのは、「福祉とあそぶ」をテーマに掲げ、夫婦で活動しているデザインユニット「HUMORABO」の前川雄一さんと前川亜希子さんです。これらのプロダクトは、HUMORABOがディレクションとデザインを担当し、障害のある人が働く福祉施設と一緒につくったもの。

お二人は愛おしそうな表情でプロダクトを見つめながら、これまでの活動について、お話してくれました。

プロダクト制作を通して、社会と福祉の楽しく新しい関係を探る

HUMORABOは、社会と福祉の楽しく新しい関係を探るデザインユニット。福祉施設で製作するプロダクトを開発したり、どうブランディングして販売するかを施設と一緒に考えるなどの活動をしています。

【写真】再生紙NOZOMI PAPERを使ってつくられたまえかわさんの名刺

代表的な活動の一つが、宮城県南三陸町にある生活介護事業所「のぞみ福祉作業所/NOZOMI PAPER Factory(以下、NPF)」とのコラボレーション。こちらの名刺は、作業所のメンバーが紙パックや新聞紙を原材料に手すきして作った再生紙「NOZOMI PAPER®︎」が利用されています。

この日は私たちの目の前で、名刺に活版刷りをしてくださいました。

【写真】NOZOMI PAPERに活版で文字やロゴを印字する

名刺の他にも、紙の使い方は無限大。メッセージカードにしたり、ハガキとして使用したり、廃材を利用し紙を染めて、プロダクトのラベルとして利用したりと、様々な用途でNOZOMI PAPER®︎は広がっています。

【写真】COFFEE PAPER PRESSのイベント出展ではコーヒーの販売や、その場で活版印刷体験もできる

COFFEE PAPER PRESSプロジェクトの様子(提供写真)

バリスタの「Tool do coffee」、活版印刷の「紙成屋」と共同で取り組む「COFFEE PAPER PRESS」プロジェクトでは、全国の福祉施設で美味しいコーヒーを味わう時間を共有しています。このプロジェクトのなかで誕生した、NOZOMI PAPER®︎(以下、NP®︎)をコーヒーの出がらしで染めた薄茶色の紙「NP®︎_COFFEE」は、JaGra(一般社団法人日本グラフィックサービス工業会)で、厚生労働大臣賞を受賞しました。

【写真】NOZOMI PAPERはコーヒーの出がらしで染めたもの、牛乳パック100パーセントのもの、古新聞100パーセントのものそれぞれ風合いが異なる

左からコーヒーの出がらしで染めた「NP®︎_COFFEE」、牛乳パック100%の「NP®︎_MILK」、南三陸の古新聞紙100%の「NP®︎_NEWS」の3色(提供写真)

HUMORABOではNPFのブランディングを担当し、紙以外のプロダクトも手がけています。

こちらは南三陸町にあるモアイ像をモチーフに、NPFのメンバーの一人がデザインした「モアイくん」を織り込んだフェイスタオル。

【写真】モアイ像のイラストが織り込まれたかわいらしいフェイスタオル

色鮮やかなグリーンの「WAKAMEKKO手ぬぐい」はHUMORABOとNPFが、東北の歴史や文化を発信するセレクトショップ「東北スタンダードマーケット」とのコラボ企画で生まれました。

【写真】かわいらしいキャラクターのおまけもついたWAKAMEKKO手ぬぐい

のぞみ福祉作業所の他にも、いくつかの施設とともにプロダクトをリリースしてきたHUMORABO。米袋を原料にしたトートバッグやメモ帳、施設の利用者さんのイラストを元に東北の職人さんが作った招き猫の置物など、そのバリエーションは様々です。オンラインショップでの販売のほか、これまでに蔦屋書店や無印良品をはじめとする様々な場で出店をしたこともあるそうです。

「ちょっとうらやましいな」福祉施設との出会い

お二人が福祉業界に関わるようになったきっかけは、障害のあるアーティストの作品を発信する「エイブルアート・カンパニー」が、商業施設で期間限定のショップをオープンするのを手伝ったこと。当初は雄一さんは広告業界、亜希子さんはデザイン事務所で働いていました。

そのプロジェクトでお二人は、障害のある人が関わる商品を集めたショップ「HUMORA」の立ち上げに携わり、コンセプト設計からオリジナル商品のデザインまで、ショップのディレクションを担当します。

【写真】インタビューに笑顔と大きな手振りで応えるまえかわゆういちさん

その後、雄一さんは仕事を通して福祉施設でのものづくりに出会い、心惹かれていきます。

雄一さん:当時の僕は仕事がとても忙しくて、毎日終電で帰るような働き方をしていました。そんなときに南三陸で復興支援に携わることになって、のぞみ福祉作業所に出会ったんです。施設で紙すきを手作業でやっている利用者のみなさんの姿を見たとき、「なんか、ちょっとうらやましいな」と思いました。

雄一さんが胸を打たれたのは、ものづくりに丁寧に取り組むことができる環境や、定期的に休憩を挟んだりと規則正しく働く施設の生活リズムです。雄一さんが働いていた広告業界では、費用対効果は避けられません。毎日時間に追われていて、手作業のように手間がかかることを仕事にするのは考えられませんでした。

一方で、福祉施設では工賃が低いなどの問題があることも知ったそうです。会社では給料は十分もらえていたけれど、時間や心の余裕がありませんでした。そこで、福祉施設と当時の企業での働き方では、あるものとないものが「真逆」だと気づいたのです。

雄一さん:暮らすことや生きることを丁寧にしながら働いている福祉施設を見て、「こっちの生き方の方が幸せなのでは?」と思ったんですね。社会に今足りないものが福祉にあるし、福祉に足りないものが僕が見てきた社会にあるとも感じました。でも今その考えはまた変わってきていて、“福祉と社会”と分けて考えてることがそもそもおかしくて、福祉は社会の中にあるものだと思っているんです。

【写真】インタビューにこたえるまえかわあきこさん

また、亜希子さんはHUMORAの仕事をするうちに、それまで接点がなかった障害のある人たちのことを意識し始めたといいます。

亜希子:これまでは障害のある人を特別視してしまっていたし、そもそも彼らのことをよく知らなかったんです。でも一人一人のこだわりが表現された彼らの絵がすごく面白いし、それをプロダクトにするのもとても楽しくて!ただ、そんな素晴らしい才能がある彼らの作品や手仕事が、バザーなどで安価で販売されているのを見て「もったいない、なんとかしたい」と思うになりました。

障害のある人たちの生き方や生み出す作品に魅せられた二人は、数年後に独立するタイミングで、HUMORAの活動を本格的に広げていくため「HUMORABO」を立ち上げました。

「HUMORABO」はHUMANとHUMORを掛け合わせた造語「HUMORA」に、実験室の意味を持つ「LABO」を合わせたもの。人の面白みを認めつつ、間違いも受け入れていくという意味が込められているそうです。

品質のばらつきも「揺らぎ」として魅力だと捉えられる

HUMORABOを立ち上げてからも、のぞみ福祉作業所とのプロジェクトは継続。今では施設を訪ねるたびに、利用者のみなさんが温かく迎えてくれるのだそうです。

雄一さん:「おかえり」って親しみを持って僕らを迎えてくれるから、その温かさに応えたいなといつも思います。彼らは仕事に誇りを持っていて、自分の担当する作業を得意げに見せに来てくれます。

【写真】のぞみ福祉作業所のみなさんと、COFFE PAPER PRESSの簡易屋台の前で集合写真を撮るまえかわさん夫妻

のぞみ福祉作業所のみなさんと(提供写真)

HUMORABOがのぞみ福祉作業所との仕事で大事にしているのは、「全員がプロセスに関われる」ということ。例えばアート作品をプロダクトにするとなると、様々な利用者がいて得意不得意が出てしまうため、全ての利用者に作品を販売する機会をつくることができません。紙パックの解体から始まり、紙すきをして印刷する手仕事であれば、誰でも参加しやすいと考え仕事をつくったのだといいます。

実はNOZOMI PAPER®︎の原材料である紙パックはもともと、復興支援でのぞみ福祉作業所を訪れた人たちが、応援の気持ちを込めて送ってくれているもの。利用者はその思いを紡ぐかのように、一枚一枚手すきをして紙をつくっているのです。

【写真】大きな機材を使って紙漉きをする

手すきの作業をしている様子(提供写真)

また、もう一つ大切にしているのが「揺らぎ」というキーワード。HUMORABOは、大量生産して画一的なプロダクトを作るのではない、それぞれの個性を大事にしたものづくりのあり方を追求しています。手作りだからこそ風合いや色味などが異なり、味わい深い「揺らぎ」があることが、プロダクトの魅力のひとつになっているのです。

その「揺らぎ」は様々なところに表れます。例えばこちらのキーリングには「染まらない」「染料に滲み」など、作業時につけたメモがついています。

【写真】染料にしみ、顔にインクだまりなどゆらぎがメモされたキーリング

一般的には不良品として売り物になることはないこれらの商品。でも本当に、そんなに「売れないモノ」だろうか?メモ書きがついていて、逆におもしろいのでは?そんな発想からお二人はこのまま販売してみようとひらめいたのです。

お客さんが「何これ!面白い」と手に取り、さらにエピソードを聞くことで唯一無二の商品だと、喜んで買ってくれることもあるのだとか。

雄一さん:「こんなのもあっていいんじゃない?どう?」とお客さんに問いかけるような、問題提起型のプロダクトも多いんです。ただ、製作しているみんなの商品のクオリティへの意識は高いです。だからたまに「障害者が作ったものだと見られないように」という意識が高すぎて、彼らが苦しくなってしまいそうなときもあって…。だから僕は、品質のバラつきも「揺らぎ」として、自分たちの魅力のように捉えても良いんじゃないかと伝えていますね。

また、こちらのワカメ柄のポストカードも、実は印刷するたびに色を変えて、少しずつ違う色で作りました。

【写真】印刷するたびに少しずつ色が異なるポストカード

亜希子:お金を儲けようと思ってやるなら、業者で印刷して大量生産して売るほうが効率がいい。でも私はそのやり方だけを続けるのに疑問があるんです。もちろん手作業で印刷機を回すのはすごく大変なこと。だからと言って、大変なことはやらないという考えで仕事をするのはつまらないですよね。「不揃いなのがいい!」と言って買ってくれるひとも多いので、それぞれのプロダクトの個性を大切にするやり方を福祉施設から提案していきたいです。

福祉施設と一緒にやるからこそ、できることがある。それは作られるプロダクトだけではなく、働き方そのものもいえるのだそうです。

雄一さん:一般的には仕事があって、仕事に人をつけるから合わない人が出てきます。でも福祉施設って利用者ファースト、人ファースト。「その人」がいることを前提にして、合わせて仕事を作っていく。だから仕事がうまくいっていないということは、仕事そのものに原因があることになります。「できないのにこの人にこの仕事をやらせるのおかしくない?」と思うので、僕らは彼らのできることありきでデザインを考えます。それがすごく面白いんです。

福祉と向き合うことは、自分の幸せと向き合うこと

【写真】屋外で並んで顔を見合わせて微笑むまえかわゆういちさんとあきこさん

二人はHUMORABOの活動を通して、福祉と向き合うだけでなく、自分自身の幸せと向き合っているのだと話します。「福祉」や「社会」、そしてその中にいる「自分」ってなんなんだろう。そう考え続けているそうです。

雄一さん:福祉と聞くとなんらかの障害のある人のためのものとイメージする人もいるかもしれない。本来はそうではなくて、福祉はすべての人のためのものなんです。僕は、のぞみ福祉作業所で「自分のやりたいことを実現している人たち」と出会って、自分にとっての幸せが何かを見直せました。

亜希子さん:福祉施設には、私たちが普段見落としているものの価値や魅力が詰まっている。そこを見つめることが自身の幸せだけじゃなく、社会の幸せを考えるヒントになる。だからこそ「福祉とあそぶ」をテーマに活動しているんです。

【写真】マル型や六角形、長方形など形が多様な紙のプロダクト

HUMORABOのプロダクトを手に取りながら、まだ出会ったことのない福祉施設で働く人たちのことを考えてみます。大変なこともあるけど、きっと楽しい瞬間を味わいながら、丁寧にものづくりに取り組んでいるのだろう。雄一さんが「こっちの方が幸せなんじゃない?」と思った、彼らの生活や仕事の風景を私も見てみたいと思いました。

福祉施設で働く障害のある人たちは、遠いようで近い、同じ社会を生きる人たち。「これまで関わりがなかった」という人にも、まずは気軽にHUMORABOのプロダクトを手に取ってみてほしいです。HUMORABOが架け橋となって、障害のある人たちの存在を、少しだけ身近に感じさせてくれるかもしれません。

【写真】屋外で隣に並び合って笑顔を向けるまえかわゆういちさんとあきこさん

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COFFEE PAPER PRESS ホームぺージ
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(執筆/木村和博、松本綾香、写真/川島彩水、協力/田中みずほ)