【写真】クリニックの前で笑顔でこちらを見ているせたせんせい

みなさんは、どんなことを大切に日々を暮していますか?

新型コロナウイルスの感染が世界中に広がり、社会的にも経済的にも大きな影響を与えています。それは一人ひとりの日々の暮らしに直結し、さまざまな変化が生まれました。

外出が以前ほど自由にできなくなったことで、家での生活が充実したり、家族との時間が増えたり、満員電車での通勤がなくなったりした人も多いかもしれません。直接人に会うのではなく、遠くに住んでいる友達とオンライン飲みを楽しむという新しい交流も生まれています。

私自身は、感染の危険よりも、「いつこの状況が終わるのだろう」という不安に掻き立てられてもいます。それでも変化しながら続いていく日々を、少しでも心身ともに健やかに過ごせたら。そのためのヒントを探りに、医師の瀬田宏哉先生にお話を伺ってきました。

正しい情報と知識を得て、生活を少しずつでも改善できるヒントを知れば、安心感がじんわりと増すはず。不安にばかり目を向けるのではなく、少し視点を変えてみると、毎日の過ごし方も変わりそうです。この記事がそのきっかけになりますように。

新型コロナウイルスの影響は千差万別。一人ひとり違う悩みがあって当たり前。

お話をお伺いしたのは、中目黒にある内科や小児科、心療内科の診療を行う「ロコクリニック中目黒」の医師、共同代表の瀬田宏哉先生です。ロコクリニック中目黒は地元に密着し、年齢や性別を問わず幅広い疾患に対応する「Primary Care(プライマリーケア)」と、急病の患者を診療する「Urgent Care(アージェントケア)」の2つを、診療の柱としています。

「いつでも誰でも気軽に来れる病院をつくりたい」という思いから、このクリニックを立ち上げたという瀬田先生。新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から解禁された初診オンライン診療もいち早く取り入れ、患者の立場を一番に考えてクリニックを運営しています。

瀬田先生は診察を通して、新型コロナウイルスがさまざまな形で影響を及ぼしていることを感じているそうです。

そのひとつとしてまず挙げられるのが生活の変化。これまでどおりの勤務を続ける人がいる一方で、テレワークが推奨されたり休校になったりと、会社や学校に行かなくなった人もいるでしょう。これまでの生活を送れないことが、心身に与える影響は大きいといいます。

新型コロナウイルスにまつわるさまざまな情報に触れること、また人とつながる機会の欠如による孤独で、不安感が強くなっている人もいます。その一方で、経済的な問題という現実的な不安に直面している人もいるでしょう。瀬田先生のもとを訪れる患者さんは、不調の内容や不安の状況、そしてその程度は人それぞれ。

新型コロナウイルス感染拡大の影響と一言でいっても、個々の置かれた環境や性格などによって、そこから生じる問題も、その深刻さも異なってくるのです。

生活リズムを整えるには形から入ることも大切

さまざまな不調や不安がある中でも、多くの人が感じているのが生活リズムの変化かもしれません。不要不急の外出を避け、物理的に行動を制限されている中では、生活を変えずに過ごすほうが難しいでしょう。

もしこれまでは職場に通勤していたのに急にテレワークを始めることになった場合、生活のルーティンは当然崩れがちになります。

これまでは意識することなく、自宅にいるときはオフで、職場に行けばオン。仕事をする日はオンで、休日はオフ。

そしてその行動の中に、通勤時間中は音楽を聴く、会社に入ってセキュリティカードを通せば「仕事だ」と感じる、帰りにコーヒーを飲んでひと息つくなど、さまざまなルーティンがありました。そういったことが、スイッチのオンオフのきっかけになっていたのです。

今の生活はオンオフの切り替えがつくりづらいですよね。朝、起きて、「今日もテレワークか」ってパジャマのままで寝癖のついた頭でパソコンの前に座って、仕事をスタートして、そのまま適当に昼食を食べて、夕方に終わる、みたいな人も多いですよね。

だから、テレワークの中でも、できるだけこれまでの仕事の仕方に近いようなリズムを自分で作り出せるかが大事だと思うんです。

通勤がなくなれば、歩く量も減ると思います。だから、朝起きたら通勤するのと同じ時間ぐらいは歩くとか、戻ってきてシャワーを浴びたりして、パジャマ以外の服に着替える。スーツを着る必要はないと思いますけど、シャツを着るだけでも全然違うと思います。こういう気持ちの切り替えが案外大事なんですよ。

【写真】真剣な表情で話をするせたせんせい


過去取材時に撮影した写真より。当日はオンラインビデオツールを利用して取材を行いました。

私もライターという職業柄、自宅で原稿を書くことが多いのですが、コロナ以前からパジャマのままで原稿を書くのは難しいと感じていました。今も、スウェットなどの楽な部屋着よりは、あえてスカートを履いたりしています。簡単にでもメイクをする、髪型をセットするなども、スイッチオンのいいルーティンになりそうです。

また、生活のリズムを作り出すという点では、食事もよいアクセントになるそうです。

朝食を食べて仕事をスタートして、休憩的な意味合いを兼ねて昼食、仕事が終わってから夕食を食べるみたいな、そういうリズムとしての3食の食事はすごく大事だと思います。家にいて時間があると、まだお腹が減ってないからと夕食を抜いて、夜中にご飯を食べるとか、どんどんズレてしまいがちですよね。

仕事をしているとお昼休みの時間がある程度決まっていたりして、自然にリズムができると思うので、それはなくさないほうがいいでしょう。

金曜日は花金とも言いますし、週末のお休み前のイメージがあったりするじゃないですか。だから今も、休前日の夜だけはお金をかけてちょっとご馳走を食べるなどすると、仕事をする日と休日の境目を作り出せると思います。

身なりを整えたり、食事のタイミングや内容を工夫したりするのは、そんなに大変なことではなさそうです。そのちょっとした心がけの積み重ねが、リズムの整った快適な暮らしを築いているのでしょう。

家で過ごすことが多くなる自粛生活で、ほかにも取り入れたい習慣があります。

運動と太陽を浴びることですね。太陽を浴びることはとても重要ですが、家を出ることが少なくなるので、そのタイミングが無くなっちゃうんですよね。

もちろん感染を防ぐという観点では外出をなるべく避けることは大前提なのですが、それでメンタルや体の調子が崩れてしまってはいけないので、意識的に機会を作り出せるとよいかと思います。

日光を浴びることによって、脳の神経伝達物質のひとつである「セロトニン」が分泌されます。この「セロトニン」は感情や気分のコントロール、精神の安定に深く関わっているのです。不足すると心のバランスを取るのが難しくなることもあるため、日光を浴びて、「セロトニン」の分泌を促すのがよいといいます。

太陽を浴びるといっても、特別に外出して日光浴をするようなことでなくてもかまいません。日当たりのいい窓辺で作業をしたり、朝に一度ベランダに出て太陽を浴びる時間を作ったり、その程度でいいそうです。それなら、明日からでも始められますね。

運動も、ジムに行くのは難しいですが、YouTubeやSNSには自宅でできるトレーニングもたくさん紹介されているので、そういったものを活用するのもいいでしょう。

生活のリズムを整え、太陽を浴び、体を動かす。まずはできることから始めることで、少しずつ生活が変わる気がします。

心を健やかに保つには、不安をなくすのではなく、向き合ってみる

生活を変化させることは、自分の意思で取り組めますが、それに対して難しそうなのは、心の問題。自分の身に及んでいるさまざまな変化にとどまらず、社会が大きく揺れ動いているのですから、それを受け止める心にも負荷がかかって当然でしょう。

心の不調として、とにかくコロナウイルスの感染が怖くて、その不安感が非常に強い人がいると瀬田先生は言います。そういった場合に多く見られるのが、情報をたくさん集め過ぎてしまうこと。

SNSがこれだけ発達している現代では、探せばいくらでも情報は見つかります。その中には専門家でも何でもない、真偽の不明な情報もたくさん混ざっているのです。ですから、情報との付き合い方が大切になってきます。

自分は不安になるタイプと自覚しているのであれば、不用意に情報を入れすぎないことが大事ですね。あえて情報を遮断する時間をつくることも必要です。

また、どの情報が正しいのかを見極めるのは難しいですが、少なくとも出典元が不明な情報や、専門家ではない一般の人が伝聞で言っている言葉は、正しいかどうかわからないと思ったほうがいいです。

ただ、自分に入ってくる情報をコントロールするだけでも大変です。SNSを見過ぎないようにしようとしても、ついつい見てしまうのがSNSだとも思います。そこで、どうしても知りたいのであれば、医師などの専門家や健康相談などを活用するのがおすすめだそうです。

ロコクリニック中目黒もそうですが、電話やオンライン会議ツールを使った初診オンライン診療が始まっているので、病院に足を運ばずとも医師と話せるようになりました。LINEなどを使った遠隔健康相談などもあるので、身近な素人同士で不安を口にしているのであれば、専門家の力を借りるほうが大きな安心感を得られるはずです。

【写真】インタビューに応えるせたせんせい

私個人としては、コロナウイルスそのものではなく、今のこの状態がいつまで続くかわからないという、宙ぶらりんな感じに、不安と落ち着かなさを感じていました。せっかくの機会なので、それを瀬田先生に尋ねたところ、「すごく難しい質問ですね」と悩みつつ、新しい視点を教えてくださいました。

この後、今の生活に制約のある状況がどれくらい続くかは正直わからないですが、基本的には長く続くと思っておいたほうがいいと思っています。その上で漠然とした不安があると思うんですけど、そこでこの先に世界がどう変化していくかをメタ的な視点で見てみるといいと思うんですね。

本来は経過するはずだった時間を10年、20年 とジャンプして、いろんな切り口で世の中が変わると思うんです。そういうところに目を向けるのはどうでしょう? 

そういう世界観で新型コロナウイルスを見ている人たちの議論を聞いてみたりみてもいいですよね。“withコロナ時代”のこれからに目を向けられると、漠然とした不安ではなく、考える方向性や自分がやるべきことが見えてくるかもしれません。難しいですけど、遠くを見据えていくことはすごく大切だと思います。

今の生活や自分の将来にばかり目を向けるのではなく、もっと世界や時代を俯瞰して見ること。視点を広く、時間軸を長く持つこと。そうすれば、目の前のことだけに集中して目に入ってなかったことに気づけそうな気がします。

ツールを上手に選んで、新しいコミュニケーションを試す

生活をする時間や場所といった行動の変化と共に、大きく変わったのがコミュニケーションです。どれだけ親しくても、家族でなければ直接会うのが非常に難しい状態が続き、それにともなってオンラインのコミュニケーションが飛躍的に進んでいます。

特にWeb会議ツールのZoomは、これまでオンライン会議など無縁であった人たちも活用するようになりました。顔を見て話ができ、とても便利なツールであるのは間違いはありませんが、相手と目が合わないことや、自分の表情がずっと映され続けることに落ち着かなさを感じる場合もあります。

このインタビューもオンラインで行いましたが、モニターの向こうの瀬田先生は、「オンラインはあまり得意じゃないし、好きではない」と言いつつも、どのようにツールを選ぶかが大切と教えてくれました。

今は、人と会って飲みに行ったりできないから、電話するようになったんですよ。Web会議ツールで映像の通話をしようっていう雰囲気がすごくあるとは思うけど、あえて電話を選びました。Web会議ツールのカメラをオフにしてしまうのもいい。それだと寝転がってゴロゴロしながらも喋れるんですよね。

以前は飲みに行っていた人たちとも、「30分だけ話そう」と言って電話で話すとリラックスできるし、時間もお金もあまり使わないし。Web会議ツールと電話、LINEとメールなどを、自分に合うように使い分けてもらえばいいと思います 。

仕事のうえでの会議など、オフィシャルな場でWeb会議ツールは便利ですが、個人的な付き合いであるなら、電話だけでも十分ですし、そのほうが深い話がしやすいこともあります。もちろんオンライン飲みが好きな人は、便利なツールをどんどん使えば、その時間を満喫することができるでしょう。

コミュニケーションが変化したというよりも、選択肢が増えたと考え、目的やシチュエーション、そして相手との関係性によって上手に選びたいものです。

ポジティブな変化も、ネガティブな変化も大事にする

いろいろ工夫はしてみても、やはりこの新型コロナウイルスの感染が広がっている世界は非常事態であって、いつもの平和で幸せな暮らしとは遠いところにあるような気がします。だからこそ瀬田先生に、今の時代のポジティブな側面はないのか、疑問をぶつけてみました。

そのうえで伺ったお話は、とても新鮮に響きました。

生活リズムが崩れるという話もしましたけど、その理由やその整え方を考えるのは面白いし、自分の生活を丁寧に見直すいい機会なのかなと思います。

今は自己管理力が試されているようにも感じますね。そう考えると今は、自分で積極的に生活リズムや習慣の再構築をしていくタイミングではないでしょうか。私自身は、自分の生活を見直すことを楽しんでいますね。

「自分の力が試されている」と考えるのはなかなか難易度が高いかもしれませんが、チャレンジする機会だと前向きに捉えれば、生活の乱れなどから自己嫌悪に陥ることを避けられるかもしれません。

ただし、これだけの事態が世界規模で起きているのですから、ネガティブになってしまうのはしかたのないことです。

不安があるのは当然だし、それを無理やり消そうとする必要はないと思うんですよね。不安は不安で大事な要素です。それに私は、不安が世界中で共有されているのが安心できることでもあると思うんです。

それぞれにとって大変な不安があるけれど、今は新型コロナウイルスという“一体感のある不安”に向かっているのが、今までにない状況だと思っています。だから、診療の中でも「同じような悩みをお持ちの方は他にはたくさんいらっしゃいます」とできるだけお伝えするようにしています。

この先を考えると、不安は増すばかりかもしれません。けれども、遠い同じ空の下で、たくさんの人たちが似たような不便な生活を過ごし、同じような不安を抱き、受け入れようとしている。そう考えると、ほんの少しだけですが気がまぎれるし、ひとりではないのだと思えます。先行きがわからない状況が続いていくのであればそのなかで少しでも健やかな生活を送りたい。

そのために自分に合った生活習慣をつくり直していくこと、“今”だけを見つめるのではなく広い視野を持って未来を見つめること。瀬田先生には、今後の生き方にも活かしていくことができる様々なヒントをいただきました。そのうえで、まずは私が一番手軽にできそうなのは太陽を浴びることではないかと思います。

明日、目覚めたときに晴れていたら、朝一番に窓を開け、元気よく太陽に挨拶してみませんか?いい一日のスタートが切れそうです。

関連情報:
ロコクリニック中目黒 ホームページ

(執筆/村山幸、編集/工藤瑞穂、撮影/川島彩水、企画・進行/木村和博、協力/佐藤みちたけ、杉田真理奈)