こんにちは!株式会社Blanket代表の秋本可愛です。
私は、「全ての人が希望を語れる社会」をビジョンに掲げ、介護・福祉法人の採用・育成支援や、介護に思いや関心がある人のコミュニティ「KAIGO LEADERS」の運営をしています。
新型コロナウイルスの到来に伴い、介護・福祉領域で働くひとたちには、感染対策はもちろんのこと、自分が媒介者になってしまうことの不安や、感染疑いで休まざるを得ない人が出てシフトが安定しない状況など、精神的にも身体的にも負担が大きくのしかかりました。
リスクの高い高齢者の暮らしを支えるため、最前線で働く人たちの力に少しでもなりたい。
そう考え、私たちなりに新型コロナウイルスにまつわる様々な課題にこれまで向き合ってきました。
そんな中私は、2020年11月末に新型コロナウイルスに感染しました。おそらく感染経路は一緒に暮らすパートナーから。私は軽症で、発熱することはなく、倦怠感、喉の痛み、咳や味覚・嗅覚障害などの症状がありました。
感染を経験した人もいるでしょうし、そうでなくても今きっと、たくさんの人が「感染するかもしれない」という不安のなか暮らしているのではないかと思います。
今回の経験が誰かの役に立つかもしれないという願いを込めて、濃厚接触者、そして感染者となった体験、それを通して感じたことについてお話したいと思います。
一緒に暮らすパートナーが、新型コロナウイルス陽性に
11月の連休明け、私が家で仕事をしていると、「体調が悪いので早めに帰る」と一緒に暮らしているパートナーから連絡がありました。帰宅して彼が熱を測ると38度…。
もともとはオフィスに出社して仕事をする毎日でしたが、感染が広がってからは自宅で仕事をするようになり、ここ数ヶ月は感染対策をしたうえでオフィスに行くこともありました。
ただこの時期の同居人の発熱はさすがに慎重にならざるを得ず、仕事のアポイントメントや対面で人と会う予定だったものはすべて「濃厚接触者疑い」と自己判断して、オンラインに切り替え。社内メンバーにも共有し、出社は控えさせてもらいました。
翌日、パートナーは東京都発熱相談センターから紹介されたクリニックを予約して受診。インフルエンザはその場で陰性であることがわかり、PCR検査の結果がわかるのは翌日だと言われていました。この日は、39度まで熱があがり、とてもしんどそうでした。
新型コロナウイルスに関して一定の知識はありましたが、さすがに彼が感染したとなると不安になり、「コロナ 死亡率 30代」なんて検索してみたりもしました。
そして翌日、病院から電話がかかってきて、検査結果は「陽性」…。私は、一緒に暮らすパートナーが陽性になったことで「濃厚接触者」となったのです。
ちなみに私のパートナーは、医療従事者で日頃から感染対策は気をつけていて、週末も自宅で過ごすことが多く、飲みに行くこともなく自宅と職場の往復ばかり…。気分転換に2人で近所のご飯屋さんに行ったときも、入り口のアルコール消毒とおしぼりだけでは事足りず、必ずトイレで手を洗ってくるほど。
そんなパートナーが一体どこで感染したのかは、わかっていません。私の何倍も感染対策をしていたにもかかわらず感染したので、本当にいつ誰がなってもおかしくないなと感じました。
陽性であると判明した時、本人はとてもショックを受けていて、真っ先に勤め先の病院に電話をして、接触のあった人の体調のことを心配していました。彼しかり、私の周りの介護従事者の仲間も、自分が媒介者になって仕事を通して関わる高齢者に感染させてしまうことを恐れ、今日までの約10ヶ月もの間、自身の生活を制限して日々ケアにあたっています。
パートナーが発熱して帰ってきた日から、部屋を隔離し、家の中でもマスクを着用。パートナーが触れたものに触る時はゴム手袋、ドアなどの消毒など出来る限りの感染対策は行っていました。正直、ことあるごとに消毒するのは手間がかかることなので、日々それを仕事中に行っている医療介護従事者はすごいな、と思わさせられました。
ただ、新型コロナウイルスは発症後はもちろん、症状が出る2日前から感染リスクが高いと言われているため、いつ自分が発症してもおかしくないと思っていました。
“濃厚接触者”となり、PCR検査を受けることを希望
パートナーが陽性と判明した日の翌日、「濃厚接触者」として保健所から私宛にも電話がかかってきました。この電話は、私の体調のこと、濃厚接触者として外出を控えるようにという注意事項、そしてPCR検査の希望を聞かれるものでした。
濃厚接触者は必ずPCR検査を受けるのかと思いきや、私のように症状が出ていない人は希望制でした。パートナーの病院や私の周囲の人たちにも迷惑をかけるとよくないと思ったので、PCR検査を受けることにしました。保健所から電話があったこの日は金曜日。土日を挟んで月曜日にPCR検査を受けることになりました。
保健所から電話があった日、「なんだか夕方から身体が重くてだるいな」という感覚があり、仕事に全く集中できなくなりました。その翌日の土曜、熱は平熱でしたが、いわゆる倦怠感があったり、喉、目、頭、背中、首などなんだかいろんなところが痛くなりました。
この1週間、家からほとんど出ずに引きこもって仕事をして、コリがピークに達したのかもしれないと思い、youtubeを見ながら運動してみたら元気になったような気もして。ただ体が凝ってるだけなのか、コロナなのか、正直結果が出るまではよくわかりませんでした(笑)。
「買い物に行ってもいいのかな?」濃厚接触者であることで生まれた罪悪感
濃厚接触者であることが確定してからは、PCR検査の結果を受けて陰性か陽性かがわかるまで、もし自分が陽性だったときに他の人に感染させてしまわないよう、できる限りの対策をしました。
まず、仕事はリモートワークで行うだけでなく、暮らしにおいても極力外出は控えるようにしました。食品や日用品はネットでまとめて注文し、配達員の人にも直接会わないように、内鍵をしたまま少しだけドアを開けて「すみません〜風邪ひいてるのでドアの下においてください〜」と頼み、荷物を受け取りました。
ゴミ捨てに行って、マンションの住民の人とエレベーターが一緒になりそうな時には、すでに空っぽのポストをもう一度のぞく振りをして時間を稼いで、エレベーターも誰とも一緒に乗らないようにしたりも。
一方で陽性だったパートナーは、「初期症状状発生から10日と薬を使わず症状なし3日間」の隔離期間がスタートし、私への感染のことや私の仕事への影響のことを考えてホテルでの療養を選択しました。なぜなら濃厚接触者は「新型コロナウイルス感染症患者と接触した翌日から14日間」は外出自粛、健康観察をしないといけないため、パートナーと別々に暮らし接触を絶たない限りは、その期間がスタートすらしないからです。
ただ、パートナーがホテルに持っていくもので、ネットで注文しても間に合わないものがあり、それは私が買いにいかざるを得ません。
保健所の人にも「検査の結果を待っている濃厚接触者が買い物にでかけて大丈夫なのか?」と確認はしましたが、「できる限り不要不急の外出を控えてください」という感じで、禁止命令されているわけではなく、正直かなり善意に委ねられているように感じました。
もちろんマスクも消毒もして、”必要最低限”の買い物のつもりでしたが、なんだか外に出ることさえもなんとなくの罪悪感が沸いてきました。
そして、PCR検査の日。指定された病院はまさかの自宅から3.6キロ先、Googleマップで検索すると徒歩約50分…。公共交通機関は避けるようにと言われていたものの、さすがに50分歩いて病院に行くほどの元気もなければ、帰りも徒歩だと自宅でのオンライン打ち合わせに間に合わないという状況でした。
どうしよう…と悩みながらも、結局私はタクシーを利用しました。タクシーに乗るときに、乗車許可を取った方が良いか?言うべきなのか?迷いながらも、結局言うことはできず、マスクをして乗ってすぐに窓を開け、話すのも場所の指定など必要最低限。
時間の許す限り歩いて乗車時間を少なくしたりもしましたが、行き帰りと乗せてくれたおじちゃん2人には、なんとも言えない申し訳なさで胸が痛くなりました。
ずっと続く味覚・嗅覚障害のなかで、少しでも楽しく暮らすために
PCR検査の翌日、病院から「陽性」でしたと電話で一報がありました。それを聴いて、「ここ数日あった倦怠感や身体の痛みはコロナに感染していたからだったのか!」という答え合わせができた、という感覚でした。
そこからは毎日保健所の方から連絡が入り、日々体調のことをとても丁寧に聞いてくださいました。私のコロナの症状は、倦怠感と喉、目、頭、背中、首などの痛みに加え、咳、味覚・嗅覚障害などの症状が出て、その状況は不思議なほどコロコロと日々変化していきました。
とはいえ、発熱や丸一日寝込むほどのこともなく、幸いにも仕事柄パソコンとwifiさえあればどこでも仕事ができるので、濃厚接触者疑いであると自己判断した日から自宅療養の必要性がある日までの14日間は、自宅でいつも通りオンラインで仕事をしながら過ごさせてもらいました。
普段人からパワーをもらうタイプなので、人に長期間会えないことが確定した当初は「パワーが出ないな〜」と思うこともあったのですが、社内やKAIGO LEADERSのメンバーとのミーティングや、イベントや講演などオンライン越しでも人と話せる時間に救われたように思います。
仕事以外の時間も、お母さんと妹とビデオ通話をしたり、ホテル療養中のパートナーとzoomをつないで毎朝8時にラジオ体操をしたり、だるさで何もやる気にならない時間はアニメや韓国ドラマに支えられました(笑)。
私は体が自由に動かせるし、子育てや介護をしていて誰かの生活をサポートしなければいけない立場ではありません。なので比較的負荷を感じずに暮らすことができましたが、立場が違えばきっと制約のある生活は大変なことなのだろうと思います。
ちなみに、症状発症から25日、味覚・嗅覚障害を発症して19日が経過していますが、味覚と嗅覚だけは未だに回復していません。
「味覚に異変を感じたら、新型コロナウイルスに感染している可能性がある」というような情報をメディアでよく見ていたため、発症初期になるものなのかと思い込んでいましたが、私の場合は倦怠感などの症状が出始めてから6日後、症状もだいぶ落ち着き回復してきたと感じていた頃、急に何の味も臭いも感じなくなりました。
風邪をひいて鼻が詰まったときに、味がしづらいなと感じるようなこれまで体験してきた感覚とは全く異なり、完全に何も感じないのです。はじめのうちは「本当になるんだ!」と新しい感覚に驚きました。
ただ味覚を失っても、辛さ、苦さや味が濃いという感覚はわかり、食べるときに味覚だけでなく「触覚」「痛覚」で感じられるんだということを初めて認知したように思います。
この状況になると、空腹を満たすためだけに食事をしたり、何を食べてもどうせ味がしないしな〜と食事を抜いてしまうこともありました。なので味覚があるなしに関係なく純粋に自分が食べたいと思ったものを食べたり、器に盛り付けて見た目の「美味しそう!」と感じる感覚を大切にしながら、大好きな「食」を楽しめるように心掛けています。
嗅覚は、味覚ほど不便さは感じませんが、ごはんの匂いで食欲をそそられたり、入浴剤の香りで癒やされたり、香水でおしゃれを楽しんでいたりと、匂いによって危機管理をしたり、香りが暮らしに彩りを与えてくれている大きな存在であることに気づかされました。
不快に感じる臭いが一切わからないのだけは唯一利点かもしれません(笑)。嗅覚を失ってからも、朝大好きな香水をつけて嗅いでみたり、カフェラテやご飯も、今はとにかく嗅ぎたいと思ったらなんでも嗅いでみています。
新型コロナウイルスの後遺症はまだまだ不明瞭な部分も多く、味覚嗅覚障害も数日で治る人もいれば数ヶ月かかる人もいるようです。こればっかりは、いつ戻ってくるのかわからないので、いい機会だなと思って自分の状態や感情を観察しながら過ごしていきたいと思います。
感染を公表して感じた、周囲の暖かさと当事者へ先入観
新型コロナウイルスに感染したことは、家族や社内のメンバー、仕事の予定変更していただいた方くらいにしか伝えていませんでした。ですが自宅療養期間を満了した日に、私はSNSでコロナに感染したことを公表しました。
きっかけは、自宅療養期間満了の2日後に、オフラインでのシンポジウムの登壇を控えていたこと。仕事としてお受けしている登壇なので悩みましたが、保菌している可能性がありますし、リスクの高い高齢者と接する医療介護従事者が多く集まるイベントであったため、運営の方とご相談し辞退させて頂くことに決めました。
非常に注目の集まるシンポジウムだったこともあり、少なからず私のSNSでの発信をきっかけにお申し込みをしてくださっていた方がいたり、セッションへの期待のお言葉をメッセージでいただいていたため、登壇を辞退せざるを得なくなったことはすごく悔しかったです。理由を正直にみなさんに話すかどうかは悩みました。でも自分なりの誠意として、辞退理由をしっかりお伝えしようと決めたのです。
とはいえ、公表することに不安がなかったわけではありません。一番は、弊社のクライアントが介護福祉事業者が大半なので、不安を抱かせてしまうのではないかということ。また新型コロナウイルスによる風評被害や感染者への嫌がらせなどがあることもニュース等で知っていたため、どう思われるのだろうという漠然とした不安がありました。
そのため公表の際は、「私の濃厚接触者は弊社の社員を含めて1人もいない」ということをきちんと添えてお伝えしました。
いざ公表してみると、不安に思っていたことは吹き飛ぶほど、あたたかいメッセージをたくさんいただきました。登壇しないという決断や公表した勇気を賞賛してくださる方、また体験について「実際どうだった?」ともっと知りたいという声もお寄せいただきました。
公表する際、あまり過度に心配されないように元気であることも添えて公表したのですが、一番多かったのは、「お大事に」「ゆっくり休んでね」という連絡やコメント。
気にかけていただいているのはありがたかったのですが、あまりにその声かけの多さに「めっちゃ元気なんだけどな…」と私自身の状態と周りの声かけとのギャップをものすごく感じました。「コロナ=大変」というイメージがつきすぎて、心配になる気持ちも分からなくはないですが、無症状の人がいるほどかなり個人差があるのだと思います。
以前、若年性認知症当事者の方から「認知症=大変」とイメージや先入観で判断されて、人として見てもらえないというお話を聞かせてもらったことがあります。私の体験している状況はそれと一緒だなとも感じ、“病名”というラベルの強さを実感し、それだけで人を判断せずに「実際のその人の状況は今どうなのか?」ということに耳を傾ける大切さを実感しました。
公表した当日、知り合いの介護施設の経営者から「今後の施設運営の参考にインタビューさせて!」と連絡が入り、30分ほど色々と体験を聞いて下さいました。
「初めて元気な陽性患者に会った!」と、感染したことを全く悲観的に捉えず、むしろ「当事者性に勝る学びなし」と症状のことや感じたことなど、いい意味で面白がって聞いてくださいました。そのことで私自身も今回の体験は価値であると捉えることができとても嬉しかったとともに、きちんと発信しようと勇気づけられました。
当事者としての経験伝えることが、きっと誰かの助けになる
何より公表して良かったと感じたのは、“コロナ仲間”に出会えたということです。
公表したその日、「私も今ホテル療養中なんです!」「実は11月の頭に感染して…」と、同じくコロナに感染していた知り合いから複数連絡をもらいました。「コロナ仲間ですね〜(笑)」なんてやりとりをしたり、嗅覚障害改善のためにやっていることを教えてもらうなど、同じ新型コロナウイルス感染経験者という存在はとても心強かったです。
「実際に周りで感染した人は初めて!」という声も多く聞いてきましたが、きっと言えない人が多いだけでみんな漠然とした不安から隠さざるを得ないのだと思います。
「新型コロナウイルスに感染した」と、カミングアウトすることの怖さや仲間と出会えた心強さは、障害がある人、LGBTなど「マイノリティ」といわれる立場にある人たちが抱いてきた感覚と近いようにも感じました。
これまで様々な当事者たちが自分たちの経験や思いをリアルに発信してくれることで、社会の理解は少しずつ進んできたと思います。それと同じように、これからますます新型コロナウイルスの感染者が増える中、差別や偏見、漠然とした恐怖や不安で苦しむ人が1人でも減るよう、一体験者として発信していくことは求められているのではないかと感じます。
新型コロナウイルスに感染することは、決して“悪いこと”ではないと私は思います。感染対策をしていたとしても、誰もがいつ感染してもおかしくない状況にあるからこそ、何よりもその人の心身のすこやかさを一番に考えられるような、寛容な社会であるといいなと思います。
そして新型コロナウイルスの当事者は、けっして感染者だけではありません。感染リスクの高い人の命や暮らしを支える医療介護現場で働く人、感染対策で営業時間の短縮や移動の制限などで収益に大打撃を受けている事業者や仕事を失った人、遠方に住む家族と会うことを憚られている人など、さまざまな立場で誰もが当事者性のある状況にあると思います。
今は、不安やしんどさを感じて当たり前な状況です。そのなかで1人で頑張らず周囲の人に頼りながら、みんなで乗り越えていきたいですね。
「WITHコロナ」と言われウイルスとともに暮らしていくことが求められ、急速に社会が変化している今。私が関わる“介護”においても、「WITH介護」と言っても過言ではないほど世界一の高齢化率の日本で、誰もが暮らしの中で様々な立場として介護に関わる状況があります。
今回私自身が感染者となりながらも一定の知識があったことで過度に不安にならず、外出制限の不便さを感じながらも比較的普段通り過ごすことができた経験は、介護においても共通することがあるように感じます。
誰にとっても大切なことなのでいつ困りごとに出会っても安心でき、介護が必要になっても“そこそこ幸せ”に暮らせる社会をつくっていけるよう、私なりにこれからもチャレンジしていきたいと思います。
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(撮影/高橋健太郎、編集/工藤瑞穂、企画・進行/松本綾香)