ヘアメイクアーティストとして活動をしています、原マリエです。
現在はブライダルヘアメイクや、InstagramやYoutubeでの発信、ヘアスタイリングブランドToUJI(トゥジー)の運営などをしています。
私は高校1年生くらいのころから過食をするようになり、その後7年間にわたって急激な体重の増減を繰り返しました。多い時は1ヶ月で5キロ増えるときもあったほどです。
この頃の私は体型に自信がなかったことはもちろん、自分が人にどう思われているのかがとにかく気になり、自分の意見を人に伝えることができず、溜め込んだ気持ちを食べることで解消する、ということを繰り返していました。
社会人3年目の頃に食事の量や食べ方などの異常が続き、心身に影響が及ぶ病気である「摂食障害」であることがわかり、病院で治療を開始。今は過食症状はなくなり、自分が描く完璧な外見ではなくても「今の自分も悪くないな」と思うようになりました。人と比べてしまう時ももちろんありますが「それも自分。そんな時もあるよね」と思いながら、以前より楽な気持ちで外見と向き合っています。
今回は私自身の体験とともに、体型をはじめ、外見と今どう向き合っているのかについてをお伝えしたいと思います。
小さい頃から可愛いものが好きで、自分も可愛くなりたい気持ちが強かった
私は綺麗なものや、キラキラしたものが大好きな子どもでした。可愛いものが好きだからこそ、自分が可愛くなりたい気持ちも、周囲と比べて強かったんじゃないかと思います。
3〜4歳くらいからはクラシックバレエを習っており、キラキラした衣装を着るのが楽しみでした。
小学校時代は活発で、よく友人と鬼ごっこをしたりしていました。高学年あたりからは、「nicola」という、美容の情報も載っているファッション雑誌がすごく好きになって。それを参考に母の毛穴パックを自分でも試してみたり、化粧品をお店で見てみたり、おしゃれに敏感になっていきました。
小学生ながらに服を自分で選んで買って、美容院にも1人で行って。容姿に対してのこだわりが強かったんです。
容姿について覚えているのが、小学校で修学旅行の写真が廊下に張り出されたときのこと。どれを買うかを親御さんたちが選ぶためだったんですが、その中に私が爆笑している写真があって、その顔を男子にすごく笑われました。そこで自分の顔に対して若干の罪悪感というか、コンプレックスを感じたんです。
私には美容への執着みたいなものがあるのですが、こういった幼少期の体験が関係しているのかなと思っています。
体型が気になり、中学3年生ごろから過食をするように
中学ではテニス部に入部。クラシックバレエも続けていたので、掛け持ちした影響で忙しい日々を送りました。
メイクに興味を持ち始めたのはこの頃から。当時はギャルメイクが流行っていて、つけまつげをつけると目が大きくなることに感動して、どんどんとハマっていきました。
高校受験前の中学3年生は勉強ばかりの日々でしたが、合間にメイクをしてリフレッシュをしていて、メイクがとにかく楽しくて、癒されて。この頃から、「将来はヘアメイクさんになりたい」と思いはじめました。
体型が気になり始めたのも中学3年生ごろからです。
部活を引退して、受験勉強が始まると運動しなくなるので少し太ってしまって、今まで気にならなかった体型がちょっと気にかかるようになったのがきっかけでした。
当時は一般的に「細いことがいいこと」という価値観がありましたし、私が読んでいたギャル雑誌に載っているのも細い体型のモデルさんばかり。私も痩せたくて、“食べないダイエット”をしました。食べる量を減らすとすぐに体重がポンと落ちて、目に見える数字の変化が出るんです。
最初はそれが楽しかったのですが、どんどん数字を気にするようになっていき、高校1年生になると、数字への執着はどんどんと加速していきました。
食べないことで痩せても、結局少しでも食べると太ってしまう。「食べちゃダメ」という感覚に陥って、食べることが楽しくなくなってきて、朝起きても食事をあまりしたくない。それが苦しく、積み重なると暴食する…そんな癖が出始めたのが高校1年生の頃でした。
周囲には美容に興味のある友人が多く、少し太っただけでも「太った?」と聞かれましたし、共学だったので異性の目も気になりました。
最初は美容のためにダイエット目的ではじめた食事制限。そこから食べたくない気持ちが強くなればなるほど、逆に暴食をしてしまう癖がついていましたが、人間関係でストレスを感じる出来事が起こって、次第に食べることで気持ちを抑えるようになっていきました。
そこから自分の気持ちを隠したり、抑え込む時に食べてまぎらわすように。体重の増減も激しく、多いときは1ヶ月で5キロ増えるときもあったほどです。一時的に太っては、その後焦って急激に体重を落とす…そんなことを高校生時代からはじまり社会人以降も、合計約7年間繰り返しました。
今思うと、当時の私は「可愛いと思われたい」よりも、「ブスって言われたくない」気持ちの方が強かったと思います。
自分よりも素敵な子がいると、羨ましい気持ちが湧いて、自分の現実を知って悲しくなりました。「自分はこの程度だよな」と負けているような気持ちを何度も感じていて、自己否定がどんどん加速し、食べてしまう。そうすると余計にそんな自分を責めてしまって悪循環になるんです。
「おしゃれやヘアメイクが好き」美容の専門学校へ進学、ヘアメイクサロンに就職
おしゃれやヘアメイクが好きな気持ちはずっと変わらなかったので、高校卒業後は美容の専門学校に進学をしました。
学校では好きなことを学んで、もちろん楽しかったですが、体型のことは気がかりでした。友達とも表面上は気軽に、お互い「太った」「痩せた」などを言い合っていましたが、その反面、外見に敏感なこの環境で「もし少しでも太ったら、周りになんと言われるか」と気になる日々。
そしてこの頃も高校時代と変わらず、過食して気持ちを抑えることを繰り返していました。
私がヘアメイクの仕事がしたいと思ったのは、先ほども書いたように、高校受験の時にヘアメイクをすることで心がすごくリフレッシュされたことがきっかけです。
もう一つ自分にとってヘアメイクへの気持ちをより強くしたのが、就職活動の時期、自分がお客さんとしてヘアメイクサロンに行った経験でした。
プロの方にヘアメイクをしてもらえること自体がまず嬉しかったですし、鏡を見ると自分の表情がキラキラしていて、気持ちが潤っていく感覚に。この気持ちの高まり方に感動して、「外見から受ける影響って素晴らしいな、自分もこんなふうに人に何かを与えられたらいいな」と改めて思いました。
そして専門学校の国家試験にも無事合格して、念願のヘアメイクの専門サロンに就職することが決まったのです。
社会人になり過食が悪化。それでも誰にも打ち明けられなかった
長年の夢が叶ってついにヘアサロンで働きはじめましたが、社会人になってから一気に忙しくなり、ストレスが多い日々が続きました。人に恵まれて、先輩後輩・同僚も大好きでしたが、当時はとにかく余裕がなかったのです。
そのせいで、これまでより強く過食の症状が出るようになりました。忙しさや人間関係で強いストレスを感じた時、コンビニに立ち寄って、大量に食べ物を買い込んで、帰宅後ひたすら食べて寝落ちする…そんな日々でした。
ストレスを溜め込んでしまったのは、今よりも自分の正直な気持ちや意見を言えない性格だったことが影響しているのではないかと思っています。
人に意見を言うと嫌われてしまうんじゃないか
人の目を気にして自分の意見が言えないまま、溜め込んだ気持ちを食で解消する。そういうことが社会人になってから3年間続きました。
他にも、外食中どれだけ自分が食べているのかを、周囲に見られているのではないかと自意識過剰になっていたことを覚えています。
注文を追加したら“食べ過ぎ”“デブ”って思われるんじゃないか。
“人前でご飯をたくさん食べること=悪いこと”といった考えが当時の自分にはあって、人と食事をすること自体がストレスになるほどでした。
さらに、友人や知人とご飯を食べて解散した帰り道、こんなことを思ってしまう自分に嫌気が刺して、また食べてしまうという悪循環。今思うと、過度に人に気を遣った帰り道に過食することが多かったようにも感じます。
私の場合は体重の増減が激しかっただけでなく、季節による影響もあって夏になると少し気分が明るくなり、過食衝動が若干収まる傾向にありました。夏は気持ちもボディもコンディションが良くて、冬になると気分も体型も落ち込む…自分自身にそんなイメージを持っていました。長年痩せたり太ったりしてきた後遺症なのか、今でも太ももやお腹に肉割れが残っています。
高校から引き続き、社会人になってからも過食のことは誰にも話せなくて、友達と会ってもとにかく“普通に”接していました。相手からしたら「今、太ってるな」「体型変わってる」など思うことはあったと思いますが、私は何もなかったように振る舞っていました。
「仕事がつらい、きつい」といった話はできても、周りの目を気にして苦しんでいること、人に意見が言えないことなど、自分の根本的な部分の話はどうしてもできなかったんです。
家に帰って人格が変わるかのようにがむしゃらに食べている光景は、私にとって暗闇のようで、表には決して出せないもの。
もし誰かに知られてしまったら気持ち悪いと思われる、嫌われる、幻滅される…
そんな気持ちが強かったので、一生人に言わないで隠し続けていくつもりでいました。一方で過食のことを隠して、ありのままの弱い自分を見せられていないことは本当にずっと気になっていて、せっかく仲のいい友人であっても、本当に仲良くなれているのかと疑問を持ってもいました。
「摂食障害」だとわかったとき、不安より治療できることへの希望が大きかった
私が社会人3年目の頃には、気づけば“食べないとやっていけない”状況になっていました。一人暮らしで生計を立てる中、家賃が払えなくなるくらいまで食費に注ぎ込んでしまっていたんです。
こんなに食べなければやっていけないなんて、さすがにおかしいんじゃないか。
そう思ってインターネットで「食べてしまう 病気」といったキーワードで検索をしたところ、「摂食障害」という言葉に出会ったんです。
*摂食障害とは、食事量や食べ方などに異常が続き、体重や体型の捉え方など、心身両方に影響が及ぶ病気の総称。摂食障害には、必要な量の食事を食べられない、コントロールできずに大量に食べてしまう、意図的に嘔吐したり、下剤を大量使用するなどさまざまな症状があり、症状の内容によって細かく分類されます。
病気の説明を読んで、私のこの癖は症状だったんだと初めて気づいて。これまでは食べすぎてしまうことを「おかしい」とすら思わなかったし、当たり前すぎて「また太った、嫌だな」といった気持ちしかありませんでした。
なので病気だと分かった時は病名があることに安心しましたし、治療をして治るかもしれないものなんだと、不安より希望を強く感じました。
当時はまだ今のように摂食障害という言葉は知られておらず、SNSで発信する人などもほとんどない状態。それでも私は偶然、Instagramで摂食障害について発信をしている人を見つけて、その方が個別でのLINE相談を受け付けていたので、今までの思いの丈をものすごい長文で送りました。
熱心に話を聞いてくださって「専門分野の病院があるから、一度相談しても良いかもしれませんよ」とお声をいただいて。2019年の1〜2月ごろ、近所にあった、摂食障害専門ではないけれど過食についても扱っている病院に行きました。
この病院では漢方や薬で食衝動を抑える提案をしてもらいましたが、その後さらに調べる中で他にも様々な治療があることを知ります。
この頃、soarに掲載されているNaoさんの記事に出会いました。当時は当事者に関する情報が少なくて、私はNaoさんとブログで発信している人の2人しか見つけられませんでした。それでも、症状が治っている方がいること、治療をして明るく生きている人がいると知れたことで、私にも希望があるかもしれないと思えたんです。
そして2019年の4月ごろに、当事者の方が紹介していた摂食障害専門の病院に行って、摂食障害の診断を受けました。そこは一軒目の病院とは違って、「他者」との関係を見つめ、対処法を見つけていく心理療法「対人関係療法」で精神面にアプローチをして、自分の癖を治していくことで過食衝動を抑えていく治療方針でした。
*過食とは、食べすぎることをコントロールできない、本人が精神的・身体的に強い苦痛を感じている、生活や心身の状態に明らかな支障がある、精神の不調を感じているなどの要素があるときに、症状として分類されます。(参考文献:田町三田こころみクリニック)
それから月に1回、合計3〜4回ほど病院に通いました。病院では医師から毎回「どういう時に過食衝動が起きましたか?」と詳しく聞いてもらうことによって、人に意見が言えなかったときや、気持ちを抑え込んだときなど、過食が起こりやすい場面がわかってきたんです。
「そんな時はどうしたらいいのか」についても先生と話し合いました。私の場合は自分の気持ちを伝えると人に嫌われると思っていたけれど、「もし気持ちを人に伝えたら、本当に相手は嫌がるのか」と先生とともに考えると、それはあくまで思い込みで、思考の癖があったのだと気付きました。
もちろんすぐに思考が変わるわけではないですが、紹介してもらった本を繰り返し読んだり、普段から1日を振り返って紙に書き出して思考の癖を変えていったり。自分を知ることにもつながり、「自分ってこういう人間なんだ」「何に対して嫌で、何に対して嬉しいのか」といったことがわかっていったように思います。
自分を変えていくのは、本当に大変でした。今までずっと逃げてきたこともあったので…。それでも、変わっていくことに希望を感じていましたし、やっと自分と向き合えたなと嬉しかったです。
過食症状が一番ひどかった時、友人だけでなくパートナーに対しても、近い距離感になると自分の意見が言えず関係性がうまくいかないことが何度もありました。
このままだと一生誰とも対話ができない。距離を詰められない。このままだとダメだ、変わりたい。
そんな思いをずっと強く持っていたんです。今思うと、当時のつらかった経験が原動力になって治療に向き合えたことが、自分を変えていくことに繋がっていったのかもしれません。
周囲に症状を伝えて、「ダメだと思っている自分ですらも受け入れてもらえる」自信になった
病院で治療を始めて、考え方や認知の仕方を掘り下げたことで自分の中に色々な変化が起こりました。その一つが、この症状は1人では解決できないものなんだと思えたこと。
そこでずっと隠してきた過食のことを、意を決して両親と親しい友人に打ち明けたんです。拒否されるのではないかと思っていましたが、両親も友人も「すごい大変だったね」「辛かったね」と、自分が思っていたよりもすんなりと受け入れてくれました。
この時、ずっと抱えてきた“症状を人に隠している罪悪感”が消えていったことを覚えています。こんなに仲が良くて近しい存在にまで、“本当の自分を隠している”ことがとにかく嫌だったので、オープンにして伝えられたことで、周りとの関係性が深まったようにも思えて嬉しかったです。
ずっと隠してきた背景には、「嫌われたくない、恥ずかしい、自分の素を見せられない」という気持ちがあったのだと思いますが、自己肯定感の低さも含めて誰かに伝えることで、「ダメだと思っている自分ですらも受け入れてもらえる」という自信にも繋がりました。
この直後から、今までが嘘だったように過食衝動が収まっていきました。もちろん治療が進んだ影響もあってのことだとは思いますが、なんでもっと早く周囲に言わなかったんだろうって今は思います(笑)。
この頃から性格が明るくなり、精神状態がいい方向に向かっていって、楽になりましたし、人に少しずつ意見を言えるようにもなりました。思い返せば、○年間過食の症状に悩まされていましたが、2019年の春頃に病院に通い始めて、夏頃には過食症状はかなり治まっていたので、私の場合は治療を始めてからはすぐに変化が現れました。
「憧れている“誰か”にはなれなくても、理想と違っていても、今の自分も悪くないよね」
治療をして回復が進んでいた2020年の春、丸4年勤めたサロンを退職してフリーランスになりました。
それまで忙しく働いてきましたし、ずっと美容のことばかり考えていて、視野が狭くなっている自分に気づいて、葛藤や苦しさを感じていたタイミングでもありました。当時はヘアメイクを続けるか迷っていましたが、「もし辞めたとしても何かでヘアメイクと繋がっていたい」と思いセルフアレンジをInstagramやYoutubeで発信していたんです。その中で様々な反響をいただきました。
ヘアアレンジが参考になります。
こういうふうにできました!
こんなふうに技術面を見てもらえたり、実際に試してもらって、自分のヘアメイクが役立っていることを知れて嬉しかったです。
毎日4時起きで忙しい日々ですが、ヘアアレンジすることで楽しく日々を送れています。
Youtubeの動画に対してこんなコメントをいただいたこともありました。
ヘアアレンジとともに「太っても痩せても今のあなたが素晴らしいし、どんなあなたでも、そばにいてくれる人がいます」というメッセージを発信した動画に、「最近太ってしまい苦しかったけれど、救われました」といったコメントが寄せられたことも。
当初は特別な目的があって発信を始めたわけではありませんでしたが、だんだんと自分は何のために発信しているのかを考え、自分がこれまで関わってきたヘアメイクの分野で、外見を変えることで自分にどんな影響があるのかや、外見との向き合い方などを伝えていきたいと思うようになりました。
憧れている“誰か”にはなれなくても、理想と違っていても、今の自分も悪くないよね。
そんな今の自分が抱いている感覚を、ヘアアレンジや美容についての発信を通して、伝えていけたらと思っています。
動画発信のほか、昨年は新たにヘアスタイリングブランドToUJI(トゥジー)を立ち上げました。
私自身2022年に出産をし、仕事と育児の両立の大変さを感じる中で、自分を大切にできるような、笑顔になれるようなブランドを作りたいと思うようになりました。
たかがスタイリング剤ですが、毎日使うものですし、自分の気持ちが高まって今日も頑張ろう、と思えるのはとても大切なこと。今はヘアオイルのみですが、今後は他にもヘアスタイリングにまつわるプロダクトを展開していく予定です。
「自分を隠すため」ではなくて、「自分を肯定するため」の行為としてのヘアメイク
今は過食の症状もなく、症状がつらかった当初では考えられないくらいに良い精神状態で日常を過ごしていて、自分の変化を感じることも多いです。
以前の私は体重が100g増えただけで、髪を切ってでも体重を減らしたくなるくらい落ち込んでいましたが、最近は「そういう時もあるよね」と自分に声をかけるようになりました。自分が憧れている人、目指している体型や外見になれなくても、「自分の外見が大好き」とまではいかなくても、「それでも、今の自分も悪くないよね」と思います。
以前は「嫌で嫌で、自分のことが受け入れられない」状態で変わろうとしてきていたんですけど、今は一旦“悪くない”自分を受け入れた上で、「ここを少し変えていくのはどうだろう」と明るい気持ちでボディメイクや食事に向き合えるようになりました。
最近は美容医療が広く知られてきましたが、私も美容医療に興味を持って、元々多かったホクロをいくつか取ったんです。それも「ホクロがあっても悪くない、別に自分の顔も悪くない。でも取ってみても良さそうだな」くらいの気持ちで取ることにしました。
私は、「こうなりたい!」「ここを磨きたい!」と変わろうとすること自体が悪いわけではないと思っています。
「ありのままを受け入れていきましょう」と考える方もいれば、細い体型を目指してダイエットに励む方もいて、どちらかが悪いとか正しいとかいうわけではなくて。根本的に自分を受け入れていることが大切なんじゃないかなと、今は思います。
美容やヘアメイクへの思いも変化していきました。摂食障害の症状が強かった時も美容は楽しかったですが、当時の私はそのままの自分が恥ずかしくて、自分を隠していくためにヘアメイクをする感覚が強かったんです。
今は自分を認めてあげる行為として、ヘアメイクや美容があると定義をするようになりました。自分を肯定するためにするヘアメイクはより一層楽しいです。そのままの自分にある程度満足した状態があった上で、プラスしてより素直にヘアメイクを楽しめるようになったような、そんなイメージです。
ヘアメイクやおしゃれは本来どんな体型であっても、どんな外見であっても、関係なく楽しめるもの。“どんな状態の自分にも勇気をくれる存在”として、私の中で「ヘアメイクはお守り」になりました。
ヘアメイクを楽しむことによって「理想の自分じゃなくてもいいか」と思えるようになった、という意味で、きっとヘアメイクは自分自身を救ってくれた部分もあるんじゃないかと思っています。
自分だからできる輝き方、自分にしか出せない美しさがある
今は当たり前のようにSNSがあって、気軽に写真が撮れる上、加工でいくらでも外見を変えることができる時代。でもどうか一面だけの美しさを見て、判断はしないでほしいなと思っています。
学生の頃に雑誌を読んで、今思えば編集されているであろう肌や、顔の小ささ、足の細さなどを見て、「ああなりたい、こうなりたい」「何で自分はこうじゃないんだ」と思い続けてきた私だからこそ、感じていることです。
最近は社会の価値観の変化も感じています。以前は、“外見の美しさ”というと体型の話は避けては通れなくて、「痩せていることがいいこと」という考え方が広く知られていたと思います。私もそういう価値観に違和感を感じませんでしたし、当たり前のように自分の中に根付いていて、正直合わせていかないといけない気持ちの方がありました。
でもここ数年でやっと色々な体型の方がいること、様々な美しさがあるという考え方が広がってきて、自分の価値観も変化してきたように思います。
私は自分だけでなく人の外見にも関わる、ヘアメイクの仕事をさせてもらっていますが、お客様の中には外見にコンプレックスを抱えている人もいます。メイクレッスンで相談を受けることもあれば、直接的に口に出すわけではなくても、表情から外見に自信がないことが伝わってくることも。
でも私はヘアメイクの仕事を通してさまざまなお客様と出会って、一人ひとりその人だからできる輝き方、その人しか出せない美しさがあると、今は心から信じています。
広く一般的に言われるような“美しさ”や“整い方”ではなくても、その人だからこその魅力に触れて感動することがたくさんあって。内面から出る美しさのこともあれば、「誰とも違うこの部分が素敵」「一部分ではなくてトータルで見たときのバランス感が綺麗」などと思うこともあります。
最近は骨格診断など、体の特徴を客観的に見る手段もありますし、自分の魅せ方によっていくらでも個性に変えていけますよね。
今は過渡期のように感じていますが、いつか当たり前のようにお互いの個性を尊重できる世の中になってほしいです。今私がしている発信が「古い価値観だ」と思われるくらい、自由に自分を表現できるのが当たり前な世の中になればと願っています。
…とはいえ、私自身最近でも人と比べちゃったりする時もあるんです。そういう時は「もう比べていいや、それも自分だよね」と思うようにしています(笑)。
「人と比べてはだめ」と、強く思いすぎている時期もあったんですけど、私の場合は「比べちゃう時もあってもいいよね」くらいの方が気持ちが楽でいられると気づいたんですよね。
今は自分なりの自分が楽にいられる考え方で、外見と付き合っていけるといいなと思っています。
ここまで記事を読んでいただき、本当にありがとうございました。
発信をしているとさまざまな声をいただくので、中には美意識が高いことで、以前の私のように体型に悩む人もいるかもしれないな、と思うことがあります。この記事を読んでくださっている方の中にも、今まさに過食や摂食障害でつらい思いをしている人がいるかもしれません。
私が伝えたいのは「太っても痩せても今のあなたは素晴らしいし、どんなあなたでも、そばにいてくれる人がきっといる」ということ。どうか決して自分を責めずに、認めてあげてほしいと願っています。
もうひとつ、過食の治療中に先生にかけてもらった言葉を紹介させてください。
食べてしまった時は、自分を責めるのではなく感謝しましょう。(“食べる”ことで、食べないとやっていけないくらいの状況から)あなたを守ってくれたのです。
私が摂食障害の症状が一番辛かった時、当事者の方の情報発信に救われたように、少しでもこの経験が誰かの希望になったら嬉しいです。
(写真/高橋良平、編集/工藤瑞穂、企画・進行/松本綾香、協力/阿部みずほ)