【写真】インタビューにこたえるたかさきだいすけさん

学校の勉強にはついていけない。 家に帰っても、安心できる場所がない。 困ったときに相談できる大人が、身の回りにいない。 誰も、何も、心から信用することなんてできない――。

幼少期から10代という多感な時期を、そんな孤立と不安の中で過ごしている若者がこの社会にはたくさんいます。

その中には、法に触れる行為をしたり、将来の行動が危険な方向に進むおそれがあると判断され、少年院に入る若者もいます。背景はさまざまですが、家庭や地域からの支援が途切れているケースも多く、それは出院後に新たな人生を歩むことを難しくする要因にもなります。

彼らが自らの行為の責任を果たすことに加えて、安心できる環境や学び直す機会、社会復帰への道筋を整えることは、社会全体のセーフティーネットとして欠かせません。

認定NPO法人育て上げネット(以下、育て上げネット)は、少年院を出院した若者たちの更生自立支援をしています。約10年前から少年院と連携して、院内での学習支援や出院後の食糧支援、就労支援などを行なってきました。

また、少年院についての理解を広げるため、少年院の様子を見学できるスタディツアーを年に数回実施しています。

本記事では、育て上げネットの理事長・工藤啓さん、更生支援事業担当の髙崎大介さんに、少年院の出院者たちの更生自立の支援を始めたきっかけ、現場の取り組み、そこで直面している課題について、お話を伺いました。

「少年院出院者」と聞くと、遠い存在に感じる方もいるかもしれません。けれども、私も今回の取材を通して、彼らが抱えている問題の背景の断片を知り、「社会を形づくる一員として、他人事ではいられないことなんだ」と考えを改めるようになりました。

この記事を通じて、少年院やそこにいる若者たちをめぐる現実、その背景にある社会のあり方について、一緒に考えていければと思います。

少年院と連携した更生自立支援で、若者たちの再チャレンジを後押しする

育て上げネットは「すべての若者が自分に合った『働く』と自分に合った『生き方』を実現できること」を目指し、若者と社会をつなぐさまざまな支援活動を展開しています。

就労に向けたトレーニングプログラムである「ジョブトレ」をはじめ、若者本人だけでなくその家族を対象とした相談支援「あなたと家族のアドバイザー『結』」、若者が夜間帯に自由に利用できる居場所である「夜のユースセンター」など、多岐にわたる事業を展開しています。

その中のひとつに、少年院と連携した更生支援があります。

少年院は、家庭裁判所での審判の結果、少年院送致という処遇を受けた少年に対し、矯正教育と社会復帰支援を行う法務省所管の施設です。対象は12歳から20歳未満で、法に触れる行為をした少年だけでなく、実際に犯罪を犯していなくても、将来罪を犯すおそれがあると判断された少年(ぐ犯)に対し、家庭裁判所が処遇を決定することがあります。

育て上げネットは、少年院を出院した子どもたちが社会に円滑に再統合し、自立できるようサポートすることを目的として、院内での学習支援やキャリア形成、金銭基礎教育といったプログラムの提供、出院後の就労支援などを行っています。

少年院という特殊な環境に身を置く若者、そこから再び社会生活へ戻る若者には、さまざまな困難が待ち受けています。そんな彼らの再チャレンジを後押しするために、育て上げネットは少年院の中にいるうちに接点を持ち、出院後も継続的にコンタクトを取って、つながり続ける支援をしているのです。

若者支援に取り組む団体のなかで、少年院を出院した少年を受け入れ、また、少年院の「中」と「外」の両方で活動する団体はあまり多くありません。なぜなら、支援の対象者にはなっているものの、情報をうまく届けるのが難しい側面があるからです。また、支援者でも触法行為をした少年とかかわるための研修を受けたり、経験を積み重ねる機会が限られることも理由に挙げられます。

別の視点として、このような立場に置かれた若者への支援は理解を得にくく、「なぜそうした行為をした人を支援するのか」といった疑問や批判を受けるリスクもあり得ます。それでも育て上げネットがこの領域に取り組むことを決めたのは、なぜなのでしょうか。

育て上げネット理事長である工藤啓さんは「3つの要素が後押ししてくれた」と振り返ります。

【写真】建物の前でカメラを見つめて微笑むくどうけいさん

工藤さん:1つ目は社会背景の変化に伴う危機感です。歴史的に、若者支援は非行少年に対するアプローチから始まりました。そういう時代であったということも推察できます。それが昨今では、目立った非行行動の減少に伴って、多くの若者支援が不登校やひきこもりの経験者や無業者など、非行とはやや異なる若者たちへのアプローチになっていることがあります。

そんな環境下で、私たちは「非行少年が視野に入っていないのではないか?」という懸念を抱きました。そのなかで、いまの私たちでも非行少年に貢献できる余地があるのではないかという想いに至りました。

2つ目は法人としての文化ですね。私たちは団体の理念で「すべての若者」とうたっているのだから、可能性や機会があるなら、チャレンジしてみようと考えました。

そして3つ目は、踏み出すきっかけが外からやってきたことです。約10年前に少年鑑別所(現、法務少年支援センター)の方から「一緒に何かできないか?」という話がありました。それがすべての始まりです。

こうした契機が重なったことで、育て上げネットの更生自立の支援はスタートしました。サポート活動の中で、法務教官や男子少年・女子少年と向き合うこととなった工藤さんは、あらためて「少年院に入る若者たちは、加害者でもありながら被害者でもある」と痛感したといいます。

工藤さん:彼らの家庭環境のデータを見ると、実の父母がそろっているのは3割で、シングルマザー家庭で育ってきた子も多くいます。家庭内のDVや離婚といった複雑な事情が絡んでいることも多く、女子にいたっては半数以上がなんらかの虐待を経験している。十分な食事や睡眠すら与えられない環境で育ってきた……なんて子も少なくありません。

また、こうした少年たちのなかには、「オレオレ詐欺」や「還付金詐欺」などの特殊詐欺に巻き込まれるケースもあります。ここには違法行為に関わる「闇バイト」も含まれます。たしかに加害者ではあるものの、経緯を聞けば、巻き込まれたと言わざるを得えないと感じることもあります。もちろん、犯罪を犯した事実は事実なんですが、弱い立場や困った状況が少年たちの背景には見え隠れします。

特殊詐欺に巻き込まれる若者たちは、最初は「コンビニに行ってお金をおろすだけ」といった簡単なことから任されますが、徐々に指示される内容はエスカレートしていきます。途中で断ろうとしても「今までのことをバラす」と脅されて、より犯罪性の高い行為をやらざるを得なくなっていくそうです。

工藤さん:もちろん、やってしまったことの責任は取らなければいけません。被害者がいる場合は、加害者としてその人たちと向き合い、罪の重さを自覚し、反省する必要があります。けれども、彼らの背景を知れば知るほど「置かれる環境が違ったら、きっと少年院に行くことはなかったのでは?」と思わざるを得えません。

だからこそ、少年院で矯正教育を受けている、終了した少年を一方的な加害者として切り捨てるのではなく、なぜそこに至ったのかを理解した上で、どうすれば更生自立できるのかを、一緒に考えていきたいんです。

先輩の背中から学んだ、若者と信頼関係を築くための「覚悟」

育て上げネットの更生支援事業において、少年院と連携しながら現場の最前線で若者たちの自立支援に向き合っているのが、髙崎大介さんです。

【写真】緑を背景にほほえむたかさきさん

髙崎さんは前職で、第二新卒に特化した人材紹介会社を立ち上げました。そこで若者たちのさまざまな生きづらさに直面し「彼らを継続的に支援し続けられるような活動がしたい」と思うようになり、会社を閉業した後に育て上げネットに参画しました。

入ってからしばらくは、自立に不安を持つ若者とその保護者のための相談室「コネクションズおおさか」の立ち上げに従事。そこで育て上げネットの執行役員でもある井村良英さんと1年間ほど一緒に動いたことが、髙崎さんに大きな影響を与えました。

髙崎さん:井村さんは、不登校・ひきこもりの若者の自立支援施設「淡路プラッツ」、財団法人大阪生涯職業教育振興協会での活動を経て、育て上げネットに参画した方。若者支援に26年ほど携わっているこの道のエキスパートです。

井村さんのすごいところは、にじみ出る「覚悟」。困ってる若者が目の前に現れたら、一瞬で「その子と本気で関わっていく」という覚悟を持って、相手と真正面から向き合うんです。声のかけ方やまなざし、聞いてる時の間の取り方など、全身から本気度が伝わってくる。だからこそ、子どもたちは井村さんに安心して心を開けるんだと思います。

「井村さんの若者たちへの接し方や振る舞いから、支援者としてのあるべき形を学んでいった」と語る髙崎さん。その中でも、印象に残っているエピソードがあるといいます。

【写真】ベンチに座るたかさきさんの右手

髙崎さん:昔、「社会へ踏み出せずにいる状態の若者が変わる瞬間って、どんな時ですか?」って聞いたことがあります。そしたら井村さんは「それは本人が変わろうと思った瞬間だよ」と。そして、いつになるかわからないその瞬間が訪れると信じて関わり続けることが、彼らの「変わりたい」という気持ちの種を育てるんだと話してくれました。それを聞いて、僕はとても納得したんですよね。

たとえばゲームでも、3〜4機くらい残りのライフがあれば「1回くらい難しそうなチャレンジでもしてみようかな」ってなるじゃないですか。でも、残り1機しかなかったら、チャレンジしよう、変わろうなんてリスクが高すぎて考えられないですよね。支援が必要な若者たちって、そういう後がない状態まで心が追い詰められている子が多いんだと思います。

だからこそ、彼らが「1回くらいダメでも大丈夫」だと思えるような環境を整えることが大切なんですよね。それは周りに信頼できる大人がいてこそ成立するもので、その信頼は「この人は裏切らない、いなくならない、絶対に味方でいてくれる」という認識がないと培えません。

過酷な環境下で希望を持てなくなってしまった彼らが、また頑張ってみようと、変わろうと前に踏み出す土壌をつくるために、私たちは日々尽力しています。

困っても周りを頼れない……そんな少年たちとつながり続けるための「食糧支援」

髙崎さんは、5年ほど前から少年院にいる少年の更生自立支援を担当し始めました。始めは院内にいる子どもたちとどのように接していいかわからず戸惑いもあったそうですが、直接話したり教えたりする機会が増えていくごとに、彼らが抱えている「しんどさ」を強く感じるようになったといいます。

髙崎さん:彼らは質問をあまりしてこないし、わからないことも「わかりました」と言うことがあります。それは理解力がないとか、そういう話ではなくて。「弱みを見せたらつけ込まれる、バカにされたり利用されたりする」ような環境でずっと育ってきたことも背景にあると思っています。

僕は今の立場で少年院に関わり始めてから、出院する間際の少年たちに「何か困ったことがあったらいつでも頼ってね」と伝え続けてきました。けれども、出院後に連絡をしてくる子はほとんどいませんでした。彼らへの理解が深まるうちに、「連絡がないのは、助けが必要ないからではなくて、信頼されてないから」「弱みを見せても安全だと思われていないから」だと気づいたんです。

少年院を出院した少年たちは、なかなか職場で受け入れてもらえなかったり、仕事が続かなくて生活費に困ったりと、さまざまな困難に直面します。どうしたら彼らを助けられるのか、「助けて」と頼ってもらえる関係になれるのか――いろいろ試してみた中でたどり着いたのが、「出院後の食糧支援」でした。

【写真】手振りを交えてお話しするたかさきさん

髙崎さん:出院する前に「食べ物に困ったら連絡して、すぐ送るから」と連絡先を渡すんです。彼らは仕事が決まっていても、最初の給料が出るまで生活に困る場合がある。一方、親や周りの友人たちにはなかなか頼りづらい状況です。

そんな子たちから連絡が来たら、まずは何も理由を聞かずに、その日のうちに食べられるものを送っています。弱みを見せるのが苦手な彼らでも、「食べ物をください」なら、事務連絡っぽくてストレートに言いやすいのかもしれません。

連絡が来たら、すぐに食べ物を送る。その際に、少しだけ「最近はどう?」「元気にしてる?」といった雑談をするという髙崎さん。そんな支援を半年から1年ほど続けていると、何気ない会話の中から、助けが必要な深刻な状況に置かれていると分かることが度々あるそうです。

髙崎さん:最初の頃は「仕事どう?」って聞いても「順調ですよ」「特にないです」など大体みんな言うのですが、しばらく雑談が続いていると、突然なんでもないような軽いトーンで「実はもう来週で辞めるんですよ、今の仕事」と言ってきたりするんです。

少し状況が把握できれば「辞めたら今寮だから出なきゃいけないんじゃないの?」「来週出なきゃいけないんですよ」「じゃあ住むところないじゃん、もう」「そうなんですよ、どうしよう」「じゃあ次の仕事決めて引っ越さないとな」……と、やり取りの中で具体的に支援するべきことが見えてきます。

こうした状況の把握と別の支援への接続が、食糧支援を起点に少しずつできるようになってきているんです。

現在は入れ替わりもありつつ、常時15〜20人程度の子どもたちに食糧支援をしていると語る髙崎さん。地道に信頼関係を築き上げる中で、彼らからポツポツと漏れてくる本音に触れ、やるせなさを感じることも多いそうです。

髙崎さん:仕事が続かない背景を聞いてみると、職場で不当な扱いをされていたり、納得できないような理由で解雇されてたりすることも少なくありません。正直「それは社会に不信しか残らないよな」って感じてしまいます。そういう経験ばっかり積み重なってきたら、誰かに相談する気なんて起きないよなと。

食糧支援は、そんな彼らが私たちに「困っている」と打ち明けてもいいと思ってもらうための下地づくりなんです。「困っている」と言ってくれたところからが、本当の支援の始まりだと僕は考えています。

「少年院に戻りたい」――社会の無理解、孤独感に追い詰められる少年たち

髙崎さんは食糧支援を続けつつ、今後もさまざまなアプローチを試しながら「更生自立支援の入口を広げていきたい」と意気込んでいます。ただ、その一方で「彼らの受け皿となる社会のほうも、認識を改めていかなければいけない」とも指摘します。

【写真】真剣な表情でお話しするたかさきさんの横顔

髙崎さん:彼らの話からすると「少年院から出てきている」「犯罪者なんでしょ」という目線で見られたり、陰口を言われたりすることは、まだまだ多いみたいですね。彼ら自身は「また言ってるわ、程度に聞き流してます」と笑って話していて、大人やなあと思いつつも、すごく心苦しくなります。そんなん言われて、傷ついていないわけがないですから。

少年院に入っている少年たちは、みんながみんな重い犯罪をしているわけではありません。少年院は刑務所と違って、家庭裁判所から保護処分として送致された少年に対して「矯正教育」を行う施設なんです。彼らは社会に健やかな心身で復帰するために、ここで教育を受けて、変わっていくんですね。ただ、たとえ彼らがいい方向に変わっても、社会のほうの彼らの見方が変わっていないと、彼らの居場所がなくなってしまいます。

だから、これからは少年院やそこにいる若者たちの現状を、広く社会に知ってもらうことにも、もっと力を入れていかなければと感じています。

「知らない、見たことない、理解が及ばない世界」って、やっぱり分からないから怖いんですよね。思い返せば、僕も最初は「乱暴な子ばっかりなのかな」と身構えていました。けれども、少しでも中の様子を知るだけで、見え方はガラッと大きく変わるんです。そういう機会を、これから少しずつ広げていきたいですね。

少年たちが変わっても、社会側の受け入れ体制が整っていない――こうした課題意識は、代表である工藤さんも強く持っているといいます。

【写真】インタビューに答えるくどうさん

工藤さん:少年院を出た少年たちは、それまでのよくない人間関係を断ち切るために、協力雇用主(犯罪や非行歴のある人を雇用し、その社会復帰を支援する民間事業主)のサポートのもと、親元を離れてひとり暮らしを始めることもあります。

身ひとつで新たな環境に飛び込むのは、並大抵のことではありません。仕事や生活に行き詰まっても、身近に相談できる相手がいない。周囲からの風当たりも強く、体も心も疲れ切って、孤立感に苛まれる。そんな時に彼らからポロっと出てくるのが、「少年院に戻りたい」って言葉なんです。

僕が少年からこの言葉を聞いたのは、一度や二度ではありません。矯正教育を受けて社会に戻っても居場所がない。10代の子どもたちにそんなことまで言わせてしまうのは大きな問題ですし、彼らに対して本当に申し訳ないという気持ちでいっぱいです。絶対に変えていかなければ、と思っています。

あなたの「少年院に行ってきた」の一言で、心の荷が下りる人がいるかもしれない

現在、育て上げネットでは少年院の様子を見学できるスタディツアーを年に数回実施しています。ツアーでは法務教官の方々のレクチャーを受けながら院内を回り、その後質疑応答や意見交換の時間を設けています。このようなスタディツアーを始めた経緯について、代表の工藤さんは2つの理由があったと語ります。

工藤さん:一生懸命、日常生活を送っているほとんどの方にとって少年院の実態を知り得る機会がありませんので、まずは少年が置かれている環境、抱えている課題も含めて「現状を知ってもらうこと」が大きな理由のひとつです。そこから恐怖や誤解を解いていくことが、出院した少年たちが安心して暮らせる社会へとつながっていくと考えています。

また、「矯正教育や更生自立の支援に対する理解者を増やすこと」も大きな目的のひとつです。少年院での活動、出院した少年の支援は、加害者支援です。育て上げネットの活動では、「加害経験のある若者も被害経験のある若者も、どちらも大切に支援している」と伝えても、「なぜ加害者をサポートする必要があるのか?」と強く問われることがあります。それは被害者への社会的支援の脆弱性への裏返しでもあります。

だからこそ、「どちらへの支援も大事だね」と理解してくれる人を増やしていく必要があるんです。

少年院に収容された少年の背景や心境は、多くの人にとってはなかなか想像しがたいものだと思います。そこで、被害者支援だけでなく、加害者支援を含めて、「どちらも大切」という中立的な視点を持つ人を増やすためにスタディツアーを開催しています。

いま、出院した若者が再び少年院などに入院するケースは、5年以内で約2割というデータも出ています。矯正教育を受けて社会に復帰しても、周囲の理解がなく孤立してしまえば、再犯のリスクは高まります。「新たな加害者、そして被害者を生まないために、彼らへの支援は不可欠なんだ」という理解を、こうしたスタディツアーを通して得ていきたいと考えています。

【写真】椅子に座ってお話しするくどうさん

これまで数年間スタディツアーを続けてみて、小さいながらもたしかな手応えを感じているという工藤さん。中には、参加者が自発的に「自分にできることはないか」と名乗り上げてくれることもしばしばあるそうです。

工藤さん:最も手応えを感じているのは、参加者の方々が企業や個人の立場で少年院との連携を模索し始めてくれることですね。このツアーをきっかけにいわゆる大企業が少年院向けの社会復帰支援プログラムを広げていったり、プロサッカークラブが院内でサッカー教室の開催を企画してくれたりと、外部との連携が広がっています。

ツアーには中小企業の経営者の方々が参加されますが、現場を見て、少年の採用を検討してくださるケースもあります。ありがたいことに、参加後「協力雇用主(犯罪や非行歴のある人を雇用し、その社会復帰を支援する民間事業主)」として登録されたケースもありました。

そして、個人としてこの取り組みを支援する寄付者になってくれる方も、ツアーをきっかけに増えています。クラウドファンディングのサイト上で「少年院を出院した子どもたちに寄り添い、更生自立を支え続けるプロジェクト」を立ち上げ、そこで月額制の寄付を受け付けているのですが、現在139名の方々に支援をいただいています(※2025年8月25日時点)。

スタディツアー自体はCAMPFIREコミュニティでの支援者に優先的に案内をしているのですが、参加してくれた方がブログなどでツアーの様子を発信して、それがきっかけとなって寄付者が増えることもたびたびあります。こうやって少しずつ、着実に支援の輪が広がっている事実は、心強く感じています。

ツアーに参加してくれた人たちが、その経験を周囲にシェアすること――この行為は更生自立支援の取り組みの意義や実態の周知に寄与することはもちろん、参加者自身の周辺にも、思いがけない転機をもたらすことがあるそうです。

工藤さん:個人的にすごく心に残っているのが、ツアー参加者の方が友人に「少年院に行ってきた」ことをSNSでポストしてくださったところ、その友人が「実は私、昔、少年院に入っていたことがある」と打ち明けてくれたという話です。

私たちの身近にも、言っていないだけで、そういう経験をした人がいるかもしれないんですよね。それがずっと昔のことで、もう何も悪いことはしていないとしても、きっとどこかで小さな後ろめたさを感じながら日々を過ごしているのだと思います。

過去に少年院にいたことなんて、積極的に自分からする話でもないし、言ったら相手を怖がらせてしまうかもしれない。友人関係が続けられなくなってしまうかもしれない。それでも「この人になら打ち明けてもいいかも」と思える人が身近にいたら、どれほど心強いか。そんな彼らにとっての理解者を、このツアーを通して一人でも多く増やしていきたいですね。

「1000人」のエールで、少年院を出院した若者たちの背中を押したい

【写真】インタビューにこたえるたかさきさん

少年院で自らの過ちと向き合い、自立に向けて懸命に努力する若者たち。彼らを取り巻く厳しい社会の現状を変えていくために、私たち一人ひとりには何ができるのでしょうか。現場の最前線で彼らと向き合い続ける髙崎さんは、少し間を置いて、こんなふうに答えてくれました。

髙崎さん:もし、こういう情報に触れて少しでも少年院の課題に興味を持ってもらえたのなら……直接的なお願いで恐縮ですが、CAMPFIREコミュニティを通して食糧支援の支援者になってもらえると、すごく嬉しいです。

寄付してくれる人たちがいることを、食糧を届けるときに少年たちに伝えると、みんな信じられないような反応で「なんすかそれ、神様ですか?」なんて言う子もいるんです(笑)。今まで生きてきた背景からすると、見ず知らずの人間のために寄付をする大人の存在を、うまく想像できないんでしょうね。

定期的に寄付をしてくれる人たちがいて、そのおかげで継続的に食糧が届く。この事実が、彼らにとってかけがえのない心の支えにもなり得ると感じています。金額以上に、支援者の人数が増えれば増えるほど、心強さもまた増すはずです。できれば近いうちに、1000人まで増やしたいですね。「全国に1000人も、君たちを応援してくれる人がいるんだよ」と、彼らをもっと驚かせてあげたいです。

一方で代表の工藤さんは、「知ること」と「支援すること」の間にある多様な関わりに目を向けてみてほしいと語ります。

工藤さん:一般論として、何か問題があることを知った後の動きは「具体的にその問題の解決にアプローチするような活動に参加すること」が浮かびがちですが、それってかなりハードルが高いと思うんですよね。関心を持って目を向ければ、その間にはもう少しカジュアルに興味本位で関われるような余白があるはずです。

私たちのスタディツアー以外にも、少年院が独自に見学できる機会を開いていたり、矯正展(少年院の矯正活動などについての広報を目的として、少年院の少年たちがつくった作品などが展示される展示)など地域に開かれたイベントを開催していたりします。少年院が社会から隔離された存在ではなく、興味を持てば実際に足を運べる機会があることを、ぜひ覚えておいてもらえたらうれしいです。

そして、少年院の課題を知った先のアプローチのひとつとして、もし余裕があれば、ぜひ「こういう問題に関心があるんだ」ということを、できる範囲で周囲に伝えてほしいです。もちろん、それを言うことで嫌な思いをする可能性もあるので、無理は禁物です。けれども、あなたの少年院に対する理解や関心を外にひらくことで、その理解の輪が広がるかもしれないし、もしかしたら周りで救われる人がいるかもしれません。

皆さん一人ひとりの発信にこそ、少年院を取り巻く社会の現状を少しずついい方向に変える力があると思っています。

出院者が不安に飲み込まれず、希望に向かって進める社会に

【写真】仙台にある「東北少年院」の外観

工藤さんと髙崎さんにお話を聞いた後、おふたりからの声かけもあって、soar編集部の有志で、仙台にある「東北少年院(男子少年院)」と「青葉女子学園(女子少年院)」をめぐる少年院スタディツアーに参加してきました。

現地では、まず法務教官(少年院や少年鑑別所などで少年たちの社会復帰の支援に当たる専門職員)による非行の現状や少年院の基本的な説明などのレクチャーを受講。その後、実際に少年たちが使用する居住エリアや職業訓練場を見学しながら、彼らが日頃どのような生活をしているのか、どんな教育を受けているのかを、丁寧に教えていただきました。

見学後には法務教官の皆さんに質問できる時間が設けられ、参加者は「どんなきっかけで法務教官になったのか?」「少年たちと接するときにどんなことを気をつけているのか?」など、それぞれ率直に浮かんだ疑問を投げかけていました。

質疑のやり取りの中で、少年たちの矯正教育に、認知行動療法に基づいたセルフモニタリング(自分の行動・思考・感情などを客観的に観察し記録することで、自己理解を深め行動変容を促す技法)やアクセプタンス・コミットメント・セラピー(不快な思考や感情を無理に無くそうとせず、自分が大切にしている価値に基づいて行動していくことを目指す心理療法)などのアプローチが取り入れられていることを知りました。

それらを通して少年たちがどのような感情と向き合い、変化していくのかを聞くにつれ、あらためて「大変な境遇にいたからこその心のケアが、彼らには不可欠なんだ」と痛感しました。

少年院に入る子どもたちはどのような境遇に置かれているのか、少年院を出たあとにどのようなあゆみで更生への道を進んでいくのか……といったことに興味を持たれた方は、育て上げネットが編纂した『塀の中へ 塀の外へ 少年院出院者の物語』(Kindle版のみ)も併せてご覧ください。

少年院内で行われている矯正教育の中身や、出院した後に彼らを待ち構えている困難の様子、当事者の語りでないと伝わりきらない切実な思いが、仔細につづられています。

彼らが矯正教育を受けて出院するときには、大体みんな「希望が半分、不安が半分」という状態なんです。

取材中、髙崎さんと工藤さんはこう話してくれました。彼らのために直接的にできることは少ないし、いざ「少年院にいました」という人に出会ったとき、どうしたらいいか迷ってしまうかもしれません。けれども今回、少年院にまつわるさまざまな状況を「知った」ことで、「知らなかった」状態とは確実に違う関わりができるような気がしています。

どんな境遇にある子どもや若者も、周囲の支えによって、自分らしい人生を歩めるように。そんな環境をつくっていくには、どうしたらいいか。これからも育て上げネットの皆さんの活動を応援しつつ、自分なりに、皆さんと一緒に、その術を考えていきたいです。

関連情報:
認定NPO法人育て上げネット ホームページ
少年院を出院した子どもたちに寄り添い、更生自立を支え続けるプロジェクト 寄付ページ

現在育て上げネットでは、少年院の中にいる少年たちが未来を諦めることなく生きていけるよう、本を届けるプロジェクトへの支援を募るクラウドファンディングをしています。ぜひご支援をお願いいたします。

「再犯を生まない社会をあなたが贈る1冊から」クラウドファンディングページ

(撮影/水本光、企画・編集/工藤瑞穂、協力/永見陽平・阿部みずほ)