【写真】緑を背景にカメラを見つめるしんぺいたさん

2023年6月にラッパーの晋平太さんに、視覚障害のある方々を対象とした日本語ラップ講座「しんがん(心眼・真眼)プロジェクト」について取材をさせていただきました。

同年11月以降、晋平太さんの活動休止のご状況を受け、これまで公開を控えておりましたが、このたび晋平太さんがご逝去されたことを受け、この活動の意義や晋平太さんの思いを多くの方に知っていただきたいと考え、一般社団法人日本ラップ協会様とご家族のご了承をいただいたうえで公開することにいたしました。

晋平太さんのご冥福を心よりお祈りするとともに、晋平太さんがラップに込めた思いが、より多くの方に届くことを願っております。

※この記事の内容に関するご家族や前所属事務所へのお問い合わせはお控えいただきますよう、お願い申し上げます。

(soar編集部)

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皆さんは「自信を持って」と言われたこと、「自信を持ちたい」と思ったことはありますか? 

新しいチャレンジに踏み出すとき、自分の思いを言葉にしようとするとき、私はたびたび「自信」という言葉をよりどころにしてきました。

他の誰でもない、自分が自分を信じること。それが何か行動を起こす際の原動力になる。けれども、よくよく振り返ってみると、心の底から「自信がある」と胸を張って答えられる状態になったことは、今までに一度もない気がします。

もっと自分を信じてあげられたら、もっと自分を認めて誇ってあげられたらいいのに。一歩身を引く度、飲み込んだ言葉の数だけ、小さな痛みが積もっていく。自信があると言える人たちがうらやましい。でも、どうしたらそうなれるのか、何をもってそう言えるのか、よくわからない……出口の見えないモヤモヤが、ずっと心の片隅で渦巻いていました。

そんな中、最近になって、琴線に触れる風景に出会いました。ひょんなきっかけから友人に勧められて観た「しんがん(心眼・真眼)プロジェクト」という取り組みを紹介する動画です。

「しんがんプロジェクト」とは、視覚障がい者サポート団体である公益社団法人NEXT VISIONと、一般社団法人日本ラップ協会が協力して開催した、主に視覚障害者の方々を対象とした日本語ラップ講座です。全4回の講座でラップのいろはを学んだ受講者さんたちが、最後に一人ひとり自作の自己紹介ラップを披露する、というものでした。

ラップは自分の気持ちや考えを人に知ってもらうための、ひとつの最適な手段だ。

講座での学びを生かし、自分の気持ちを言葉に練り上げて、人前で堂々とシェアする。老若男女、それぞれの歴史を持った受講者の皆さんが、リズムに乗って誇らしげに自分語りをしている姿が、とても眩しく、カッコよくて、胸が熱くなりました。

今まで、自分には縁遠いと思っていた「ラップ」。その文化に触れることで、自分にとって誇り、自信を手繰り寄せ、自分らしくのびのびと生きるヒントを見出せるのではないか。実際、いちからラップを学び、その力に触れた受講者さんは、自分にどんな変化を感じたのか――。

そんな問いを胸に、今回はしんがんプロジェクトの講師を務めた、日本ラップ協会の発起人でもあるラッパーの晋平太さんと、受講者として参加していたブラインドコミュニケーターの石井健介さんにお話を伺いました。

目指すは「一億総ラッパー化」、開いていくラップの知恵と力

【写真】歩道を歩きながら笑顔をみせるしんぺいたさん

当日、天気は鈍色の曇り空。時折まだらに差し込む陽の光が、ランダムにビルのガラスやコンクリートを照らします。天然の柔らかなスポットライトに照らされながら、晋平太さんは朗らかな雰囲気をたたえて取材場所にやってきました。

晋平太さんは、大学在学中からプロのラッパーを目指して本格的に活動を始め、2004年に初のアルバム『SHOW ME LOVE』をリリースしました。

その後は2005年に行われた「B-BOY PARK 2005」MCバトルでの優勝をはじめ、フリースタイルラップの頂点を決める大会「ULTIMATE MC BATTLE」での2連覇、「戦極 MCBATTLE」の初代王者、テレビ番組「フリースタイルダンジョン」にて史上初の全ステージクリアを達成するなど、ラッパーとして数々の輝かしい戦績を残しています。

【写真】植え込みの端に座りながら微笑むしんぺいたさん

MCバトルというと、相手のことを激しくディス(「ディスリスペクト」の略。相手を批判すること)し合う印象があって、少し怖いイメージがありました。なので、晋平太さんの柔らかな物腰に、いい意味でのギャップを感じたと伝えると「あれはラップのひとつの表現形式であって、根底にあるのはPeace(平和)を愛するマインドなんですよ」と、やさしく教えてくれました。

今でもMCバトルの第一線で活躍し続ける晋平太さんですが、彼がここ数年で、自身の創作・パフォーマンスと同じくらい力を入れているのが、ラップを教え広めることです。

「一億総ラッパー計画」「ラップの社会化」というスローガンを掲げて、学校や企業でのラップ講座の開講や、『フリースタイル・ラップの教科書 MCバトルはじめの一歩』(2016年、イーストプレス)といった書籍の執筆、YouTubeでの動画配信などを通して、自らの持つラップの知識や経験を広く社会に還元していく活動を展開しています。

晋平太さん(以下、晋平太):ラップって、すごくパワフルな現象なんです。人それぞれの、その人にしかないかっこよさを引き出して、ポジティブにする力がある。それを伝えて、カッコいい人を増やしたいんですよね。そしたらきっと世の中は、もっと楽しく、明るくなるから。

晋平太さんのように、表立って人にラップを教える活動に注力しているラッパーは、とても珍しい存在です。どんなきっかけから「一億総ラッパー化計画」に目覚めたのでしょうか。しんがんプロジェクトを始めた経緯や、晋平太さんが信じる「ラップの力」についても、じっくりと語っていただきました。

タフな環境で生まれた文化、だからやるだけで皆アガるんだ

晋平太さんがラップに出会ったのは、中学生のとき。ヒップホップ好きな友だちの勧めでラップを聞き始め、すぐにマイク一本で等身大の自分を表現するラッパーたちのかっこよさに心を射抜かれました。それから程なくして、見よう見真似でラップのパフォーマンスをするようになったそうです。

初めのうちは純粋な憧れや「自分でもできそうだし、お金もかからないし、楽しそう」という気持ちで始めたラップでしたが、徐々にその世界にのめりこんでいって、学生のうちからプロを志すようになった晋平太さん。続けていくうちに「もしかしたら、ラップは人を押し上げるような、すごい力を持っているのでは?」と感じるようになったと言います。

【写真】インタビューにこたえるしんぺいたさん

晋平太:僕が教えている自己紹介ラップは「名前、レペゼン(※)、趣味や特技、目標」の4つで構成しているのですが、これって一般的なラップで歌われている基本的な要素でもあるんですよ。それをリズムに乗せて「どうだ、俺って、俺たちってすげーだろ?」という気持ちを込めて歌い上げます。

これって、まさに自己表現そのものですよね。自分を見つめ直して、うちに秘めた思いを言語化して、自身を押し上げていくような形でアウトプットしていくのがラップの定石。だからこそ、やっていく過程でどんどんポジティブになっていける。というか、表現の形式がそうなっている以上、ならざるを得ないんですよ(笑)

(※レペゼン:「~を象徴する」「~を代表する」といった意味、自分の背負っている地域やグループを主張する)

ふと思い返してみると、私が知っているラップの歌詞も、そのほとんどが前向きで、周りの人たちや自分をエンパワーメントしていく意志の込められたものが多いなと気づきました。

リズムや曲調は違えど、言葉の力で人を前に前に押し上げていく感覚は、どれも近しいものを感じます。そんな表現形式になった背景には、ラップを含めた「ヒップホップ」という文化が生まれた歴史に深く関係があると、晋平太さんは説明してくれました。

晋平太:ヒップホップには「Peace(平和)、Unity(団結)、Love(愛)、Having Fun(楽しむこと)」という4つの原則があります。簡単にいうと「みんなで助け合いながら、楽しくアゲていこうぜ」ってことですね。

ヒップホップの発祥は、1970年代にニューヨークのサウス・ブロンクス地区に住んでいた黒人たちだと言われています。白人がマジョリティの社会で虐げられていた彼らが、タフな状況をなんとか生き抜こうとあがいた中で花開いた文化だからこそ、こうした原則を何よりも大事にしているんです。

もちろん、ラップを始めたばかりの頃はそんなこと全然知らなかったんですけど。続けていくうちに学んで、ラップのポジティブな力を実感する機会も増えていって。そのうちに自然と「ラップを教えたい、ラップをやってカッコいい人を増やしたい」と思うようになったんですよね。

ビックリするようなネガティブでも、ひっくり返すんだポジティブに

晋平太さんは大学を卒業してから本格的にラッパーとしての活動に専念し、さまざまな大会で結果を残してその名を上げていきます。そして、時にはパフォーマーとして、また時には大会を盛り上げる司会者として全国各地に赴きながら、現地で出会ったラッパーの卵たちに、青空教室のような形でラップを教え始めました。

ともあれ、当時は今のように、教えることに対してそこまで熱を入れているわけではありませんでした。

「ラップの持つ力」を意識し、それを受け渡していく意義を強く感じるようになったきっかけが、どこかにあったのか――そんな問いかけをしてみると、晋平太さんは少し考えて「いま思えば、あれが『ラップで人が変わる』ことを実感した原体験だったかも」と、当時中学2年生だったSくんとの出会いについて話してくれました。

【写真】テーブルをはさんで向かい合って座る、しんぺいたさんとライターのにしやま

晋平太:Sは、北海道でラップ講座をやった時に参加してくれたヤツなんですけど、自己紹介で「埼玉から来ました」って言うからビックリしちゃって(笑)。しかも彼、当時引きこもりだったんです。

家から出られない憂鬱な日々の中、YouTubeでラップに出会って。「自分もラップをやりたい、でもどう始めたらいいか分からない……」って悩んでたときに、僕の講座があることを知ったみたいで。家から出るのすら怖かったのに、父親に頼み込んで、勇気を出して飛行機に乗ってまで来てくれていたんですよ。

その熱意に心を揺さぶられた晋平太さん。偶然Sくんの家と自宅が近かったことにも縁を感じて、講座後にも週に1度スタジオに彼を呼んで、ラップの個人レッスンをすることにしました。

晋平太:Sの家からスタジオまでは2駅くらい離れていて、電車に乗ればすぐなんですけど、最初のうちは乗れなくてね。自転車で1時間くらいかけて、汗ダラダラになりながら来てたんですよ。「根性あるなあ」って思いましたね。

それで、レッスンをやっていくうちに、どんどん彼の様子が変わっていくんです。ラップの上達はもちろん、表情も生き生きとして明るくなってね。1か月もしないうちに電車にも乗れるようになったし、半年後には学校にも通い始めたんです。誰かから言われたわけでもなく、自分の意志で「行きたい」と思えるようになったみたいで。

レッスンの度に、前向きに変化していくSくん。その成長速度には、晋平太さんも舌を巻くばかりだったと語ります。

【写真】笑顔で話すしんぺいたさんの横顔

晋平太:もうなんかね、ぐんぐん伸びていくから、夏休みの朝顔の観察日誌をつけてるような気分でした(笑)。Sが高校に上がる前にレッスンは終わったんですけど、その後も彼はラップを続けて俺よりうまくなってたし、大学にも進学して「保育士の資格を取るんだ」って目標もできてて。ここ数年は連絡を取ってないんですけど、きっと今も自分らしく、どこかのフィールドで頑張ってるんだろうなって思います。

Sの変化に立ち会えて「ラップには本当に、“ネガティブな入り口”から“ポジティブな出口”を探し出す、マイナスをプラスにひっくり返していく力があるんだな」ってことを、心から実感できましたね。

ラップの力で人が変わっていく姿は本当にカッコよくて、僕はそれを間近で見るのが好きで。とくに、人が初めてラップを披露する瞬間とかはもう最高ですね。誰かのためとか社会のためとか、そういう気持ちがないわけではないけど、根っこのところではただ単純に「人がカッコよくなっていくのを見るのが好き」だから、こうしていろんな人に教え続けているんですよ。

「しんがんプロジェクト」が描き出した、困難を越えてきた先の強さ

【写真】二人で並んで歩く、しんぺいたさんといしいけんすけさん。いしいさんは白杖を持っている。

はじめは個人的に、小さくラップの手解きをしていた晋平太さんですが、その活動は続けていくにつれて、少しずつ広がっていきました。2019年からはYouTubeチャンネル「Yo!晋平太だぜ Raps」を開設し、ラップの技術的な解説動画をアップし始めます。

また、同年に「異彩を、放て。」をミッションに掲げる福祉実験カンパニーである株式会社ヘラルボニーの企画で、聴覚障害のある2人の学生とともに「手話とラップ」のコラボに挑戦。耳が聴こえないことで出会った経験や思い、社会へのメッセージを聞いた晋平太さんがリリック(歌詞)をつくり、2人は音楽に合わせてそれを手話で表現するパフォーマンスを行いました。

さまざまな経験を経て「ラップは人が自分の思いを伝える道具だ」という考えを強めた晋平太さんは、2020年に「老若男女に幅広くラップを広め、1億総ラッパー化計画を実現する」ことを目標に掲げ、一般社団法人日本ラップ協会を設立します。

以降は企業や学校、時には自治体や内閣府に招かれて「自己紹介ラップ講座」「ラップに学ぶビジネスコミュニケーション講座」「社歌ラップを作るワークショップ」などを次々と企画していきました。

ラッパーに限らず、ありとあらゆる人たちにラップを伝導してきた晋平太さん。その活動の一環として、2022年の年末にキックオフしたのが「しんがんプロジェクト」です。内容は全4回の日本語ラップ講座を通して、受講者に自己紹介ラップを作ってもらう、というもの。

こうした講座は何度も担当してきた晋平太さんですが、「しんがんプロジェクト」にはいつもと大きく異なる特徴がありました。それは、参加者のほとんどが視覚障害者、つまり目の見えない人たちだということです。

晋平太:最初、公益社団法人NEXT VISIONから「何か一緒にできませんか?」と声がかかって、ほぼ二つ返事でOKしました。正直、「マイノリティのため」とかって意識は全然なくて、単純に「面白くてアツい場になりそうだな」と思ったんですよね。

僕には身近に視覚障害者の友人がいるんですけど、日々の暮らしの中で大変なことはたくさんあるのに、本人たちは底抜けに明るくてパワフルなんですよ。もちろん、それは今までいろんな壁を乗り越えてきたからこその強さであって。そういうストーリーを持った人がラップを作ったら、もしくはラップを作ることで乗り越える力が芽生えたら、めちゃくちゃ素敵だなって。

ただ、たしかに健常者と比較して苦労するポイントは多そうだな、とは感じました。目が見えない状態で、歌詞をどうやって覚えるんだろうとか。けれども「できるか、できないか」で言ったら、見えなくてもラップはできる。ラップは誰にでも等しく開かれていて自由なものだから、きっと大丈夫。あとはやりながら考えようって感じで、あまり気負いはなかったです。

【写真】並んで座るしんぺいたさんといしいさん。テーブルを挟んで向かい側には、ライターの西山が座る

ここからはしんがんプロジェクトに受講生として参加した、ブラインドコミュニケーターの石井健介さんも取材の席にお招きして、おふたりにお話を伺っていきました。

石井さんは2016年に、それまで36年間、当然のように見えていた視力を突然失いました。死を考えていた時期がありながらも、「今は見えていたときとは違う、新しい世界を味わいながら生きている」と言います。過去にsoarで取材させてもらっていて、しんがんプロジェクトのことをsoar編集部に教えてくれた方でもあります(石井さんの記事もとても素敵なので、ぜひ合わせてご覧ください)。

『ある朝出会った、”見えない世界”。僕はこの新しい世界を味わい尽くしたい。石井健介さん』

しんがんプロジェクトの全4回の講座のうちの半分はオンラインで、もう半分は神戸の会場で行われました。まず晋平太さんからヒップホップやラップの歴史についての講義、自己紹介ラップの基本的な作り方のレクチャーが行われ、その後は参加者がつくってきたリリックにフィードバックをしながら、完成まで丁寧に伴走するような形で講座は進められました。

千葉県館山にお住まいの石井さんは、この講座のためにわざわざ神戸まで、慣れない旅路を白杖片手に何度も往復したとのこと。晋平太さんも「すでにその事実だけでスーパーヒーローだよ」と微笑みます。そんな石井さんに講座の感想を聞いてみると「強く印象に残っていることがある」と語り始めました。

【写真】笑顔でお話しするいしいさん

石井健介さん(以下、石井):晋平太さんが「ラップのリリックは自分のリアルな思いを乗せるのが大事だから、悩みでもネガティブなことでも、なんでも言っていい」と言ってくれて。それを考えている時間が、なんだかセラピーのように感じられました。

はじめはなかなかうまく言葉が出てこなかったし、逆に「うまいこと韻を踏めたな」と思ったところが、後々見返してみると単なる言葉遊びになっていて、全然思いが乗ってなかったりして。でも、そうやって試行錯誤しているうちに「あ、自分はこんなことを感じていたんだ、伝えたかったんだ」って言葉が見えてくるんですよ。

そのことを晋平太さんに話したら「ラップにすると、普段言えそうにないことでも言いやすいでしょ? そういうの、リズムに乗せてどんどん言っていきましょ」って。あ、これがラップの、ヒップホップの力なのかなって実感が湧きました。

考えて書いてつまずいて、消したら元通りになって、それでもまた書いて……捻り出して磨き上げたリリックには、今までの経験と感情がにじみ出すような、石井さんにしか語れない力強いメッセージが込められていました。

“ダサいやつはお断り
それが見えてた頃の自分のこだわり
可愛いが正義、カッコいいは正義
見た目でジャッチ ピースオブケーキ
でも今なら分かるそれは過ち
みんなに謝りたい気持ち
(中略)
大切なものは 目に見えないんじゃない
見えてても 見てないだけなんじゃない?
開かれた視界 この世界
皆に伝えたい”

ラップにはネガティブな気持ちを、ポジティブに昇華させていく力がある――自身が制作を体験することで、そう実感したという石井さん。その思いは、別の受講者の発表に触れて、さらに強くなったそうです。

石井:一人ひとり個性が出ていて、みんな本当に素敵な発表だったんですけど……その中でとりわけ心動かされたのが、全盲の弁護士の大胡田誠さんのパフォーマンスでした。

石井:彼はリリックの中で「俺」という一人称を何度も使っていたんですけど、後から話を聞いたら、これまでの人生でずっと「私」しか使ってこなかったそうなんですね。思いを素直にリリックに乗せようとしたら、自然と「俺」という言葉が出てきて、自分でもビックリしたって言ってたんですよ。

その話を聞いて、すごいなって。ラップには、自分の内側にあるアツい魂を引き上げてくれるような力があるんだなって、あらためて感じました。さっき、晋平太さんが「ラップの力で人が変わっていく姿は本当にカッコいい」と言ってましたけど、まさにそれを生で目撃できた瞬間だったなって、いま思い出してもブワッとこみ上げてくるものがありますね。

弱ったときに「セルフボースト」。痛みも武器に変えていこうよ

【写真】並んで座り、笑顔でしんぺいたさんの方を見るいしいさんと、微笑むしんぺいたさん

石井さんの感想を聞きながら「皆さんのリリック、ホントめちゃくちゃ食らいましたよ」としきりに相槌を打っていた晋平太さん。今回のしんがんプロジェクトを通して参加者たちの内面に生まれた変化については、ある種の必然を感じていたと語ります。

晋平太:さっきもちょっと触れましたが、ラップはアメリカで差別されてきた黒人たち、つまりは社会的マイノリティが生み出したものなんですね。そして、音楽表現の一形態として確立されていく歴史の中で、ラップは彼らの主張、心の叫びを社会に届ける「声なき声の代弁」の役割を果たしてきた側面もあります。

だからこそ、視覚障害のようなマイノリティ性を持つ方々が「どうしようもなく何かを伝えたい」と願ったときに、ラップが最適なアートフォームのひとつになることは間違いないと思います。

ブラインドコミュニケーターとして、目の見える人と見えない人を繋ぐ活動に注力する石井さんも「ヒップホップのマインドを理解したことで、これからの当事者としての動き方がポジティブに変わっていきそうだ」と話してくれました。

石井:「自分の障害をレペゼンする」「当事者同士でユナイトする」といったラップやヒップホップの精神って、そのままマイノリティが自ら社会を変革していくためのキーワードとしても捉えられるなと感じました。

日本の障害者支援の活動は欧米に比べると、当事者じゃない人たちが母体になっていることが多いんです。でも、本気で現状を変えていこうとするなら、やっぱり当事者の切実な声こそが原動力になるはずで。

内なるメッセージを引き出す、社会への主張を導き出すフォーマットとして……直接的にラップの形を取ることは少ないかもしれませんが、今回学んだことは今後いろんな場面で生かせそうな気がします。

【写真】並んで歩く、いしいさんとしんぺいたさんの後ろ姿

講座の最後に、晋平太さんはしんがんプロジェクトの参加者の体験談をもとに作成した楽曲『ひかり』を披露しました。そのリリックは、当事者たちの切実な声が集約されていながらも、壁を乗り越えてきた力強さ、希望を感じさせる内容になっています。

“見えないから見える世界
外見で人を決めつけない
誰も一人じゃ生きていけない
この手で触れて見つける正解
のんびり続ける 挑戦
コンビニ 行くのも冒険
この足で乗り越える障害
ひかり求める一生涯”
(『ひかり』の歌詞より)

晋平太:ラップの原則のひとつに「セルフボースト(自己賛美/自己顕示)をせよ」というのがあって。マイノリティから生まれた表現だからこそ、タフな状況に負けないように「自分自身を誇れ、自慢しろ」って精神が、ずっと大事にされてきているんです。

どんなネガティブな要素も、最終的には自分や周りを上げていく力に変えていこう……そんな願い、強い意志が表現の型の中に根付いている。だからこそ、ラップには人をポジティブにする力があるんだよなって。しんがんプロジェクトの発表を観て、その確信はさらに強くなりましたね。

【写真】ベランダで向き合いあって話すしんぺいたさんといしいさん

セルフボースト。それがある種のルールとして、表現の型に宿っているからこそ、取り組んでいるうちに自然とプレイヤーの中に入ってくる。自らの性根を直接どうにかしようとしなくても、まずは型を取り入れるだけでいい。そう思うと、自信のなさと向き合うハードルがグッと下がるような気がする――これは私にとって大きな発見であり、今まで掴めなかった「自信」の持ち方の、ひとつの答えのように感じました。

晋平太:イヤなこと、ツラいことって、ネガティブな印象のまま心に突き刺さっていると、本当にしんどい。けれども、「起こったことはもうどうしようもない」って事実を受け止めた上で、そこに生まれる意味を少しでもポジティブにひっくり返せたら、武器にも薬にもなるんです。

ラップを通してそれがひっくり返る瞬間に、俺は最高にシビれるんですよ。これこそヒップホップだって。

誇りの始まり、なんでもいい。“不幸自慢”でも構わない

【写真】微笑みながら話すしんぺいたさんの横顔

「自分を誇る」――それは自分らしい人生を歩む上でとても大切なことだと思う一方で、私のように苦手だと感じる人も多いと思います。自分勝手、自己中心的、ナルシスト……そんな言葉が枷になって、なかなか自信を持つことができない。そんな後ろ向きな自分と、私たちはどんな風に向き合っていったらいいのでしょうか。

晋平太:「自信がない」って、言うほど悪い状態じゃないと思うんです。だって、自信がないときにしか、自分を見つめ直すことはできないから。あったりなかったり、行ったり来たりしながら、少しずつ積み重ねていけばいいんだよなって。

どうしようもなく落ち込んでいるときは、何もできなくてもしょうがない。だけど、そこから少し気持ちが落ち着いてきたら「いまこそレベルアップするチャンスじゃん!」って捉えると、気分も上がりやすくなると思いますよ。

自信がないことを、後ろ向きに捉えすぎない。上がり下がりは当たり前で、上がりっぱなしもないけれど、下がりっぱなしになることもない。そういう認識を持ててると、たしかに心の平穏を保ちやすそうです。

【写真】テーブルの上に置かれた、しんぺいたさんの右手

では、気持ちの下振れをうまくやり過ごした後、レベルアップのチャンス、上がりかけているときに、どんなことを意識してみると、自信を積み重ねていけるのか。晋平太さんはファーストステップとして「まずは何でもいい、自分のことじゃなくてもいいから、無理やり誇れるものを探してみて」と勧めてくれました。

晋平太:たとえば「うちの母ちゃんがつくるフライドチキンは超うまい」でもいい(笑)。仲間のこと、地元のことでもいい。ドブ池に落ちたとか、最初は“不幸自慢”だっていいんです。どんな小さなことでもいいから「他人に向けて、ちょっとでも『すごいだろ』って言えることがある」と気づくことに、大きな意味があるから。

頑張って探して、見つけて、言葉にしてみて、その響きが自分を勇気づけてくれるから、また別の何かを探しにいける。イヤなことも毒も吐き出していくと、その奥に「自分にとって大切なもの」が見えてくる。そういう繰り返しの中で自分の足場が固まってくると「周りから何を言われても、これだけは譲れない」って、真に誇れるものが根付いていくはずです。

「いつか」は「今」だ、変えるのは「意志」だ。出し尽くせベスト、持ってリスペクト

【写真】手振りを使って真剣な表情で話すしんぺいたさん

実は、お話を聞くまでは「晋平太さんは、普段から自信に満ちあふれていて、やりたいことをやり続けているすごい人なんだろうなあ」と勝手ながらに思っていました。

けれども、取材を通してその認識は大きく変わりました。さまざまな苦労にぶつかって、何度も心が折れそうになって、それでも試行錯誤を続けながら、なんとか自分を鼓舞しながら、歩みを止めないできた人なのだなと。そんな晋平太さんに「やりたいことに向き合い続ける」ためのヒントを聞いてみました。

晋平太:ひとつのことを続けるのは大変だけど、振り返ってみると「ラップを毎日やる」ということ自体が、結果的に自分の調子を保つよりどころになっていたと思います。

毎日やってみて、アップダウンがありながらも続くのであれば、それは自分にとって心から「やりたいこと」なんだと言えるはずで。もちろん続ける大変さはあるけれども、単純なつらさではない「幸せな苦労」だから。そういうことに向き合えない自分のほうが、よっぽどつらいです、俺は。

日々続けること、その中で何かしら新しいチャレンジをしていくことから逃げないこと。そういう営みの中で、人は自分らしさを培い、他者と関係を持ちながら、「今よりもいいところ」に上がっていける。

晋平太さんの言葉には、最初に語ってくれたヒップホップの原則「Peace、Unity、Love、Having Fun」の精神が随所に宿っているんだなと、その力強さに静かに心打たれました。

晋平太:「自分をいつか変えたい」って思っている人たちに言いたいことがあるとしたら、その「いつか」は、自分の意志で「今」に変えられるよ、ってことですかね。一度飛び込んでしまえば、あとはやるしかない。少しでも何かに興味を持って「やってみたい」と思ったら、まさにその瞬間が変わりどきなんですよ。

もちろん、新しいチャレンジには失敗はつきものです。最初はみんな下手くそですから、そこで結果に一喜一憂する必要はなくて。俺は「どういう気持ちで臨んだか」のほうが大事だと思っています。ちゃんと真摯に、リスペクトを持って精一杯ベストを尽くせたのか。一回一回全力で取り組むことを積み重ねていけば、変わらない人なんていないですよ。

【写真】植え込みの端に座りカメラを見つめるしんぺいたさん

自信を持つ、自分が自分であることを誇る――晋平太さんにお話を聞けて、今まで見えなかったそこまでの道筋が、目の前に浮かび上がってきたように感じています。

誇れることなんてないと思っていても、なんとか捻り出そうとする。なんでもいいから引き出して、言葉にしてみる。そうすると、言葉がまた別の言葉を連れてきて、繋がってくる。その繰り返しの中で、自分の輪郭が少しずつあらわになって、「もしかして、これが“らしさ”なのかもしれないな」という要素が見えてくる……。

ラップ、その背景にあるヒップホップという文化に触れて「前向きであること、言葉でもって前を向いていくこと」の大事さに気づくことができました。時折落ち込むことも受け入れながら、それも自分と向き合うチャンスに変換していって、私が私であるために言葉を紡ぎ続けていきたい――いま、この結びを書きながら、そんな決意をあらたにしています。

【写真】左から、soarスタッフこうの、ライターにしやま、いしいさん、soar編集長くどう、しんぺいたさん

関連情報:
晋平太さん YouTube
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(撮影/川島彩水、企画・編集/工藤瑞穂、協力/樫本実夏、河野奈保子)