【写真】笑顔でお互いを見つめあうふるかわさんご夫妻

私はこの数年、子どもの福祉に貢献したいという思いが強く、「里親になること」を考えてきました。

でも、いざ友人に話してみると「里親ってどういう制度?」「特別養子縁組とは違うの?」と聞かれることが多く、私自身も含めて、社会のなかで里親についての理解がまだ十分ではないことを改めて感じました。

調べようとしても、どんな人が里親をしているのか、どんな子どもが暮らしているのか、そして日々どんな関わりが生まれているのか、なかなか知ることができません。プライバシーの配慮もあって、実際の姿が外からは見えにくい制度なのだと思います。

里親になるまでにどんなプロセスがあるのか。血のつながりのない子どもと、ちゃんと向き合っていけるだろうか。そしていつか別れがくるかもしれないことを、どう受け入れていけばいいのか……。考えれば考えるほど、不安が出てきました。

そこで、長いあいだ里親として多くの子どもと暮らし、今はファミリーホームの運営を通して子どもたちの安心できる環境づくりに取り組んでいる古川孝行さん、雅美さんご夫妻、補助員の山本美和さんにお話を伺うことにしました。

古川さんご夫妻は、千葉県で「NPO法人全国児童福祉支援ネットワーク」として、ファミリーホームを運営するほか、児童虐待防止活動、社会的養護・里親制度の環境整備など様々な子育て支援事業を行っています。

お話を聞いて強く感じたのは、子どもたちの存在を何よりも真ん中に置いているということでした。

「自分たちだけで育てる」のではなく、子どもを中心に多様な大人たちが力を寄せ合い、社会全体で子どもを支える。そんな関わり方が、ご夫妻にとっての“当たり前”として息づいていました。

同時に、どれだけ多くの大人が関わっても、子どもにとって今暮らしている家が“安心できる家庭”であることが何より大切で、家族としてのまなざしを決して手放さないこと。その両方を大切にし続けている姿が心に残りました。

お二人の人生の歩み、なぜ里親を始めようと思ったのか、これまで子どもたちとどんな日々を過ごしてきたのか、そしてこれからどんな場をつくろうとしているのか──。

今回は、子どもたちが暮らすお家の隣にある、親子ショートステイ用のお部屋でゆっくりとお話を聞かせていただきました。

● 社会的養護とは
様々な理由で親と暮らせない子どもたちを、公的責任で保護し、社会的に養育するとともに、養育に困難を抱える家庭への支援を行うことです。

● 里親とは
様々な事情で家族と離れて暮らす子どもを、自身の家庭に受け入れ、親に代わって養育する人のことをいいます。一時的な委託から長期の養育まで、形は様々です。

● ファミリーホームとは
様々な事情で家族と離れて暮らす子どもを、経験豊かな養育者の家庭で5人から6人まで受け入れて養育する制度です。里親制度と似ていますが、子どもの数がより多く、家庭的な環境で複数人の子どもが共同生活を送る点が特徴です。

自分の子どもができてもできなくても、子どもの福祉に関わりたい

ーー今日はお二人が里親を始めた理由や、ファミリーホームをつくるプロセス、里親としての思いなどをお聞きできればと思います。まず、お二人のこれまでのご経歴を教えてください。

【写真】満面の笑みでカメラを見つめるふるかわたかゆきさん

孝行さん:学生時代に保育士資格を取得し、卒業後は介護の業界で約10年間勤務しました。その後は保育園に勤め、現在は管理部門で働いてます。

また、現在は里親として「ファミリーホームふるかわ」を運営しています。子どもたちの養育は妻が中心に担っていますが、「家庭的な環境とは何か」を意識して、私自身が“外で働く大人”として子どもたちに関わることも含めて、施設的ではなく家庭に近づけることを大切にしていますね。

並行して児童虐待防止活動、社会的養護・里親制度の環境整備など様々な子育て支援事業である「NPO法人全国児童福祉支援ネットワーク(以下、zidonet)」の活動に取り組んでいます。

雅美さん:これまで高齢者施設で介護士として、病院で看護師として働いてきました。その職場で夫と出会い、35歳で結婚してから15年になります。現在は、ファミリーホームの管理者として子どもたちの養育に携わっています。

ーーお二人ともお仕事で、人をケアすることにずっと関わり続けてきたんですね。

孝行さん:はい。福祉の仕事に携わる原体験としては、僕の両親が障害者で、周りに助けられながら家族で暮らしていたことが大きいですね。

仕事でいろんな福祉の現場を経験する中で、子どもと関わる仕事が楽しいと感じるようになったことも加わって、地域の中で介護と子育てを分けずに、年齢に隔てなく福祉支援ができればと思うようになりました。

家庭での虐待増加や児童相談所の対応の大変さについて、今はメディアで報道されることが増えましたが、20年ほど前はまだ表に出ていなかったんです。里親に加えて、ファミリーホームの存在を知ったことがきっかけで、自分にできることがあればと里親について調べ始めました。

ーー里親になることは結婚前から考えていたということでしょうか?

孝行さん:そうなんです。結婚して子育てが落ち着いてから考える方が多いと思うんですが、僕は結婚前に児童相談所へ行って「一人で里親登録できるか」と相談したこともあります。その時は怪しまれましたけど(笑)。

いつか里親になる時のために、社会的養護のもとにある子どもにどんな関わりが必要かを理解しようと、ずっと準備していました。

ーーどちらかが里親に関心を持っていても、必ずしも夫婦で同じとは限りません。どのように話し合いを重ねていったのでしょうか。

孝行さん:先ほど話したように、僕は結婚前から、自分の子どもができるかどうにかかわらず「里親をやりたい」と思っていました。でも、結婚していきなり「里親をやろう」と言ったわけではなく、まずは子育てに関する課題や支援制度について妻に話すことから始めましたね。

雅美さん:私は正直、子どもと関わるのがあまり得意ではなかったんです。それに里親と言われてもよくわからなかったので、「まず子どもに関わる仕事をさせてほしい」と夫にお願いしました。

そのタイミングで乳児院施設の職員募集があり、そこで働いて多くの子どもと関わる経験を積めたのは大きかったですね。

孝行さん:自分たちの子どもを持つことも考えていましたが、並行して里親もやりたいと二人で話すようになったので、児童相談所に登録の仕方を教わりに行きました。

【写真】インタビューにこたえるふるかわまさみさん

雅美さん:里親登録を進めるなかでも、子どもを受け入れるかどうかはまだ迷っていました。自分の子どもができたとしたら、自分の子どもと里子を同時に愛せるのか、自信がなかったんです。

でも子どもがなかなかできず、不妊治療をしましたし、2回の流産も経験しました。

40歳での2回目の流産が転機になって…。妊娠初期に赤ちゃんのエコー写真を見せてもらって、本当に小さな玉のような姿でも「すごく可愛いな」と思って。これが母性なのか、と不思議に思ったことを覚えています。

その後流産となった時は本当にショックでしたが、乳児院施設で働く経験によって、社会的養護の子どもたちのことを徐々にわかってきたところでした。

なので、流産をきっかけに、「子どもや親たちの力になれるよう、私にできることをしよう」と考え方を変えて。そこからは里親の話が来れば断らず、受け入れようって決めました。それがスタートですね。

里親に登録して、初めての子どもを受け入れるまで

ーー話を一つ前に戻して、里親になると決めてからは行政の児童相談所に相談に行かれたそうですが、その後のプロセスについて教えていただけますか。

孝行さん:収入や家の広さなどの書類を提出した記憶があります。児童相談所の方が家庭訪問に来て、どんな住環境か、地域の状況がどうか、私たちの仕事や生活の様子などを調べるんです。うちは両親が車椅子でも生活できるように家を広めに建てていたので、その点は審査に通りやすかったのではないかと思います。

雅美さん:その後研修を受けて、今は児童養護施設等で実習をする形に変わっているようですが、当時は児童相談所の一時保護所で実習をさせてもらいました。

※里親になるには、まず児童相談所や支援機関に相談し、里親登録の申請をします。その後、社会的養護の制度や子どもの背景を学ぶ基礎研修や、施設などで子どもと関わる実地研修を受けます。並行して、児童相談所が家庭訪問を行い、住環境・生活状況・収入などを確認します。研修修了と審査を経て里親登録となり、子どもの状況や希望、里親家庭との相性を踏まえてマッチングが行われます。双方が納得して初めて委託が決まり、委託後も支援機関のフォローを受けながら子どもを育てていきます。

プロセスや基準の細かな違いは、自治体によって異なります。

孝行さん:研修から面談、登録までは比較的早く進んで、約4ヶ月ほどでした。

その時私は37歳、妻は40歳くらいだったので、 「なんでこんな若いのに里親をやるんだ」と児童養護施設の方には驚かれるくらいで。当初はまだ30代で里親をやる人は少なくて、多くは子育てを終えた方のようでした。

【写真】インタビューにこたえるたかゆきさん

ーーそこから実際にお子さんが来られるまでは、どのくらいかかったんでしょうか。

雅美さん:すぐに打診が来る方もいれば、数年待つ方もいるそうですが、私たちの場合、すぐ何件か連絡がありました。

孝行さん:登録時に、子どもの年齢や性別など「どういう子を預かりたいですか」というアンケートがあって。僕たちは福祉に関する仕事をしている立場もあって、「誰でも大丈夫」と答えていたので、年齢、性別も様々にいろんな話が来ました。

でも打診があっても、こちらの子どもを預かる覚悟がまだできていなかったんです。いざ「子どもを預かりませんか」と電話がかかってくると、現実味が増してプレッシャーを感じて、断ったケースが何度かありました。僕たちと同じように、打診があってはじめて「やっぱり無理かもしれない」と感じる方は多いと思います。

何件かやりとりを重ねて子どもたちの置かれた状況を知るうちに、「子どもたちは本当に困っている」と実感して、「引き受けよう」と決断したんです。

ーー養育するに当たっては、子どもとの相性などもあると思うのですが、面会をしてからどのように話を進めていくのでしょうか。

【写真】子どもの絵本がたくさん並んだ本棚とおもちゃ

雅美さん:里親と子どもとの相性を見るプロセスはマッチングと呼ばれていて、子どもと面会をしたり一緒に遊んだり、何度か時間を過ごします。そのうえで、さらに一緒に外出をしてみる、外泊をしてみる、といったステップを踏んで進めていきます。

多くの子どもたちがそうだと思いますが、施設など様々な場所を転々としてきた子で、愛着障害を抱えていたため、会うたびに様子が違ったんです。なので、関係をじっくり築いていくというのが本当に難しくて…。その点では、私たちも何度も壁にぶつかりました。

※愛着障害とは、幼少期に養育者との愛着が何らかの理由で形成されず、子どもの情緒や対人関係に問題が生じる状態です。

孝行さん:子どもにとっては「また違う大人が来た」という感覚だったと思います。実親さんや児童養護施設、他の里親家庭など、これまでも何度も人と出会っては別れてきている子どもが多いので、「どうせこの人もまたいなくなるのかな」と思っていたかもしれません。

ーー子どもが自分の家庭で養育できるかどうか、選択と決断はとても難しいプロセスのように感じます。

孝行さん:そうですね、最初のマッチングは半年くらいかかりました。施設に何度も通って子どもと顔を合わせ、家に一泊してみて、少しずつ慣れていく。職員とも話し合いを重ね、ようやく子どもも「あの家に行ってもいい」と思ってくれるようになりました。

雅美さん:外泊が長くなって1週間くらいになると、子どもは施設と里親宅の二重の生活になります。どちらの生活にも落ち着くことができなくなると、不安定な状態になってしまって、大人の顔色を伺うようになる。子どもにとって安定しない生活は大変だと思います。

【写真】真剣な表情でお話しするたかゆきさん

孝行さん:その過程で児童相談所職員や、マッチング先の施設の担当者から「養育できますか」「覚悟はありますか」とよく聞かれたんですが、私たちも初めての子育てで、正直その時点でははっきり答えられないこともありました。子どもを守りたいという思いはみんな同じ。だからこそ関わる大人の数が多く、複雑さがあったんだと思います。

ーーそうして最初の子どもを迎えることに決まって。お二人は養育するうえで何を大切にされていましたか。

孝行さん:特別な養育はできないので、食べて、寝て、遊ぶという基本的な生活を大切にしていました。僕らが無理して倒れたら、結局、子どもに迷惑がかかってしまう。あったかいご飯があって、休みの日には公園に行くとか、そういう当たり前のことを大事にしましたね。

ーーその後も様々な子どもの里親になって。

孝行さん:比較的時間がかかりましたが、その後は受け入れまでの流れなどの経験を積み、児童相談所も信頼してくださるようになってきて、何人か子どもたちの養育を経験しました。

より多くの子どもたちを支えるため、ファミリーホームへ移行

ーー2018年に里親家庭からファミリーホームへ移行されたと思いますが、それはどのような理由があったのでしょうか。

孝行さん:最初からファミリーホームへの移行は見据えていましたが、管理者の里親としての実務年数や、複数の子どもを一定年数養育した経験など、要件を満たすのに約3年かかるんです。ちょうど制度が整備される過程で、居住空間の基準が厳格化して家の改修も必要になり、施設っぽくなり過ぎないよう配慮しながら要件を一つひとつクリアしていき、ようやく状況が整いました。

ーー雅美さんはファミリーホームでの子どもたちの養育に専念されているそうですが、どのような気持ちで決めたんですか。

雅美さん:「環境や体制を整えて、一人ひとりの子をもっとしっかりとみたいな」「一人でも多くの子を見られたらいいな」と思うようになったのがきっかけです。自分にはそんなに力があるわけじゃないけど、関わったことで少しでも子どもの助けになればいいなって。

ファミリーホームに移行した途端に連絡が増えて、赤ちゃんの一時保護で「今日の夕方からお願いできますか?」という電話もありました。生後まもなく来て短期間で他施設などへ旅立つ子もいれば、高校生が通学を継続するために卒業までの数か月を過ごすこともあるし、長期的にお願いされることもあったり。ケースは様々です。

—赤ちゃんの一時保護は、どういうケースでファミリーホームに来ているのでしょうか。

雅美さん:例えば、出産後にお母さんの体調が整わなくて、「短期間だけなので、施設に入るより家庭で見てほしい」というケース。

あとは、両親ともに精神疾患があるなど、様々な理由で生活環境が整っていないケースが多いです。そういった場合は、児童相談所が介入することによって生活環境を改善していって、お家が整ったら帰ることができます。

うちで一時保護をして無事にお家に帰れる子もいれば、そのまま違う里親さんのところへ行く子、あるいは施設へ行く子もいます。

【写真】木でできたカラフルなおもちゃ

ーー幼い子どもたちが預けられるケースが多いと思われがちですが、先ほどお話されていたとおり高校生もいるんですね。

雅美さん:子どもたちは一時保護所に入ってしまうと学校に通えなくなってしまうんです。児童相談所としても、それはなるべく避けたいと考えているようで、安全な場所で、なおかつ高校にも通える環境を探す中で、うちのホームがその子の高校に通える範囲だった場合は話が来ることが多いですね。

ーー子どもたちには、これまでの家庭や人生で受けた影響が性格や特性に出ていることもあると思います。自分たちが産み育てている場合と違い、様々な家庭で育ってきた子どものことを理解するのは、なかなか難しいのではないでしょうか。

雅美さん:本当にケースはいろいろですね。その子が怒りや悲しさを持っているとしたら、それは受け止めなければいけない一方で、自分たちとの関わりだけでなく、外部との関わりで問題が起きることもあります。そうした時は児童相談所に相談し、丁寧に時間をかけて話し合いをしています。

孝行さん:もちろん僕らとしても預かったら最後まで一緒に暮らしたい。でも実親との関係や地域との関わりなど、里親の僕らだけでは解決できない状況も出てくるので、難しい場合もある。もう10年近く一緒に暮らしている子どももいますが、様々な事情があってうちで一緒に暮らすことが難しくなった子どももいます。

ーー実子と里親の違いとして、自分たちとは別に実親がいるということは大きいと思います。里親宅にいる期間、実親とは面会交流や手紙のやりとりなどがあると聞きます。子どもたちの実親との関わりはどうなっているのでしょうか。

雅美さん:同じ子は一人としていないので、面会の有無も頻度もそれぞれです。実親との面会がある日は、子どもはその前後で気持ちが揺れたり落ち着かなくなったりすることがあります。だから、帰ってきた日はゆっくり話す時間をとって、落ち着いて過ごせるようにしています。

ーー里親をやるうえで、安全面やイメージを考えて、周囲に子どものことをどう共有するか迷うのではないかと思います。こちらではどのように伝えているのでしょうか。

雅美さん:里親をやっていることは隣近所にもお伝えしていて、新たに子どもがくると挨拶に行くようにしています。「今日から一緒に住む○年生の子です」って話すと、本当にみんな温かく見守ってくれます。

【写真】テーブルに置かれたお茶とまさみさんの両手

孝行さん:うちは「隠さない」が基本方針です。保育園や学校にも「里親をしています」と伝えていますし、自分の名前は大事にしてほしいので子どもは「古川」に名字を変えず本名で登校します。保護者の方も知ってくれているので、すごくありがたいですね。

いつかは周囲の子どもから、「なんで名前が違うの?」とか「なんでそこに住んでるの?」とか、親や家庭のことを聞かれる機会があると思うんです。なので、周囲に知ってもらうのは早い方がいいと思っていて、子どもたちには「これも当たり前、あれも当たり前」っていう感覚になってほしいんですよね。

最初はうちに急に子どもが増えることを不思議に思っていた方もいたようですが、それは地域が子どもに関心を持ってくれている証拠だと今は受けとめています。実際、今は子どもたちに声をかけてくれる人が増えて、見守りの輪が広がっています。

ファミリーホームは“家庭的であること”を何より大切に

【写真】ふたつ並んだサイのぬいぐるみ

ーーファミリーホームでの一日は、どういった流れなんですか。

雅美さん:今は長期的に暮らしている子が4人います。朝は5時半から朝ごはんとお弁当を用意して、時間差で起きてくる子どもたちの身支度を手伝って、順番に送り出します。洗濯や掃除をして、幼稚園のお迎え。午後は宿題を見て、習い事の送迎。夕ご飯を作って食べて、夜はそれぞれの子どもと今日あったことをゆっくり話したり、毎日絵本を読んで寝ます。本当にふつうの家と同じです。

違うのは、子どもたちの心の波に寄り添う時間を意識的にとっているくらいですね。

ーーお二人の役割分担はどのようになっていますか?

孝行さん:うちは家庭的なファミリーホームっていうのが特徴で、おばあちゃんとおじいちゃんも一緒に暮らしてるんです。 妻が子どもたちを見てくれて、僕は仕事に出て帰ってきて、できることを手伝うっていうかたちですね。

おじいちゃんおばあちゃんがいるだけで、子どもが感じることってたくさんあるんですよ。安心してわがままを言えたり、感情を話すことができたり。そういう自然なやり取りができるのは、家庭的な環境だからこそだと思ってます。

里親家庭やファミリーホームはどうしても閉鎖的になりやすいので、第三者として補助員を置く必要があり、保育士の山本美和さんに入ってもらっています。保育士としての経験からアドバイスをくれたり、客観的な目線で家庭の様子を見てくれたり。外から関わってくれる人の存在って大きいなと思ってます。

※ファミリーホームには、管理者を補佐し、子どもの養育や家庭運営に関する支援を行う補助者(補助員)を1名以上置くことが定められています。

ーー新たに子どもの受け入れが決まり、突然家族が増えることがあるかと思います。それは、子どもたちにどう伝えていますか。

雅美さん:まず、子どもたちに「行くところがなくて困ってる子がいるんだけど、うちに来てもいいかな?」って話すんです。みんなが「いいよ」って言ってくれたら、「じゃあ来週からね」みたいな感じで迎えるようにしてます。

もし嫌だったら、無理には受け入れをしないです。そういう時はやっぱり合意を大事にしていて。

孝行さん:今いる子どもたちより上の年齢の子を急に入れる時は、慎重に考えますね。一般家庭では急に年上の子が家族として増えることはありませんから。子どもたちの暮らしが崩れないようにと意識していて、そうした子ども目線の配慮を考え続けることが基本かなと思っています。

雅美さん:子どもたち同士も、自然に“兄弟じゃないけど兄弟”という感覚になってくるみたいで、意外とすんなり受け入れてくれています。

もちろん子ども同士で嫉妬のような気持ちが出ることもありますけど、それは一般の家庭でもある話ですよね。子どもたちはむしろすごく受け入れてくれて、「妹だよ」「弟だよ」って友達に話しているんです。

【写真】笑顔でお話しするまさみさん

孝行さん:子どもたちを見る時に気をつけているのは、「この子は里子だから」という理由でみないこと。一般の家庭でも下の子が生まれたら上の子がやきもちをやく、ってよくありますよね。その感情が、子どもの生い立ちや境遇から来ているものなのか、それともどこの家庭でもある“自然な兄弟姉妹間の感情”なのかを、分けて考えるようにしています。

ーー無意識のバイアスで子どもを見ないことは大事ですね。

孝行さん:そうはいっても、他の家庭にはない事情もあります。たとえば下の子には実親との面会があるのに、上の子にはまったくない、というケースもあるんです。そういう部分のケアはとても大切で、自分の子どもなのか、里子なのかはやっぱり分けて考える必要があります。

ーー長く一緒に暮らしているお子さんだと、里親というより、本当に“親”という気持ちになってしまうのではないかと想像します。一緒に暮らしてはいるけど、自分の実子ではない。その事実とどう向き合いながら暮らしてるんでしょうか。

雅美さん:うちは何も隠していないので、子どもが普通に食卓で「本当のお母さんはね」なんて言い始めて、お母さんに関する会話になることもあります。最初はびっくりしたけど、そうやって話せるのはいいことだと思うようになって。受け止めていくうちに、「今ここで一緒に生きているんだな」と思えるようになりました。

ある場面では本当に母親の目線になっている部分もありますが、仕事として関わっている部分もあって、場面によって意識は変わります。

孝行さん:最初の頃は「うちが一番落ち着ける場所になりたい」という思いが強くて、子どもが里親家庭で困らないようにって頭で考えていたんです。でも実際に一緒に暮らすと、そんなことを考えている暇はない。毎日子どもたちと関わって、食事をして、生活を共にしていくうちに、お互いを理解できるようになっていきました。

頭でっかちな部分もあったけど、だんだんそれがほどけてきて、「これが家族的っていうのかな」と思うようになりました。「朝だよ。起きて」「ごはんだよ」と声をかけたり、何かあったら注意するし、気づいたら普通の家庭のようになっている。自然にそうなっていくものなんだなと感じます。

子ども自身が地域の中に入っていってくれるのも大きいです。前は「子どもが学校や地域に溶け込むためにPTAに参加しなきゃ」などと思っていましたが、子どもが先にネットワークを作ってくれる。そこから僕らも地域の輪に入りやすくなったりして、長くいるとお互いに育っているんだなと感じます。

第三者としてファミリーホームを見守る存在の大切さ

ーー先ほど、ファミリーホームが閉鎖的にならないよう、補助員として山本さんに入っていただいていると聞いたので、お話を伺いたいと思います。まず山本さんが関わるようになった経緯を教えていただいてもいいですか?

【写真】笑顔でお話しするやまもとさん

山本さん:私は今、古川が園長をしている保育園で主任をしています。ずっと子どもに携わる仕事をしてきて、園長が里親をやるということになった時に、「何か手伝えることがあれば」と思って、ファミリーホームに補助員という枠で関わるようになりました。

今は月に2〜3回ほど、何か特別なことをしに来るというよりは、ふらっと行って子どもたちとご飯を食べたり、旅行など家族のイベントに一緒に出かけたりします。子どもたちの授業参観に行ったり、習い事の送迎をすることもあって、「親戚のおばさん」のような感覚ですね。

ーー子どもの世話というよりは、家族全体を支えるような関わりなんですね。

山本さん:雅美さんが少しリフレッシュしたい時に手伝いに来ることもあって、里親自身のサポートもしています。里親だけにかかわらず、地域の親御さんにも孤立している方が多いんです。子どもの虐待などがあると「親が悪い」という視点もありますが、私はそうではなく、専門職として親子のためにできることをしたいですね。

ーーこのファミリーホームに関わる中で、里親家庭に対してどんな考えや感覚を持つようになりましたか?

山本さん:子どもたちは普段「ママ」「パパ」と呼んでいるし、「里親家庭」という意識はあまりないんです。でも子どもから、「本当のお母さんは別のところにいるんだよ」と聞くと、「そうだったね」と思い出したりして。

親の顔を知らない、会ったことがない、今どこで何をしているのかも分からない子だっている。そうした子どもたちが抱えているものに直面して、子どもたちが抱える切なさを見ると、当然だと思っていた「親がいる」ということの重みを実感します。

一緒に遊んでいて、子ども同士の仕草や言葉が似ていたりすると、「兄弟だから似てるね」とつい言ってしまうことがあるし、子どもの口調が雅美さんに似ていると「ママに似てるね」と思ったりします。でも「そっか、里親さんなんだ」とあとで気づく。

それでも、古川さんご夫妻が「普通の生活を普通にする」ことを大切にしているので、私自身も里子だという意識をあまり持たずに関われています。

ーー山本さんが、古川さんの家庭で補助員として関わる中で、大切にしていることは何ですか?

山本さん:第三者の大人の関わりは今後ますます大事になると思うので、「いつも見てるよ」「あなたたちを思ってるよ」という気持ちは伝えたいです。

古川さんたちから「部活を頑張ってる」と聞いたら、会った時に「パパから聞いたよ、頑張ってるんだってね」と声をかけると、子どもたちも嬉しそうな顔をします。 「パパやママが自分の話を他の人にしてくれてる」と感じることが、すごく嬉しいようです。

それから、子どもが話してくれて気になったことがあった場合は、古川さんたちに伝えることもあります。「ママには言わないから何でも話して」というスタンスではなく、あくまでオープンに、家族全員との信頼を大切にしています。

【写真】テーブルの奥に座るやまもとさんと、手前に座るたかゆきさん、まさみさん

ーー山本さんは、第三者として里親家庭でできることは何だと考えていますか?

山本さん:里親家庭や施設の子どもたちは、根っこの部分で自信を持ちづらいことが多いです。「どうせ自分なんか」と思ってしまう。だから私は「大人に頼っていいんだよ」「そのままでいいんだよ」というメッセージを伝える存在でありたいと思っています。

「困った時に大人にSOSを出せる子」になってほしい。それが自分でなくても、学校の先生や塾の先生でもいい。とにかく「大人は信頼できる」と感じられることが大事だと思うんです。

ーー孝行さん、雅美さんにとって、山本さんがいて助けられている部分はどんなところですか?

孝行さん:食事の支度や子どもの見守りをしてもらうこともありますが、最初から「第三者目線で関わってほしい」という意図で入ってもらいました。

ファミリーホームや里親家庭はどうしても閉鎖的になりやすく、里親による虐待が起こるのも、そういう状況が背景にあると思うんです。だから、僕たちの子どもへの接し方について、「もう少し柔らかく言った方がいいよ」と指摘してもらうこともあります。

また、子どもたちにも「相談しやすい大人」として関わってもらうように頼んでいます。僕自身も仕事や生活で余裕がなくなることがあるので、第三者に入ってもらうことは安心につながっています。

ーー里親家庭に第三者がいることで、より家庭を社会に開いている印象になりますね。

孝行さん:ファミリーホームをNPO法人というかたちで運営しているのも、「社会的養護=社会全体で子どもを育てること」という理念を大事にしているからです。

遊びや学習を支えるボランティアの方々も関わってくれていて、学習支援や畑作業など、いろんな人が子どもたちに関わっています。そうやって多様な大人の存在があることで、子どもたちが「相談できる」「頼れる」先が増えることが、何より大切だと思っています。

いつ別れがくるかわからないからこそ、毎日を大切に過ごす

ーーこれまでにどのくらいの子どもを受け入れてこられたんですか?

雅美さん:今いるのが4人で、この約10年間の合計だと15〜20人くらいです。一時保護で来た子も多くて、長くて半年くらい。短い子は数週間で帰ることもあります。

ーー里親をする期間が終了して子どもが出ていく時、この先がどうなるのかが分からない状態で送り出していくのは、とてもつらいように思います。その時、どんな気持ちなのでしょうか。

雅美さん:やっぱり子どもの前で泣いちゃいけないと思ってもつらいですね。高校生くらいになると、これからの自立のこともあるので、児童相談所と相談しながら、本人が希望すれば連絡先を交換できることがあり、今でもやりとりが続いている子もいます。でも赤ちゃんの時に来た子は、児童相談所でも子どものその後については情報が教えられないから、本当に「幸せでいてね」と祈るしかなくて、心はすり減ります。

でも一緒に過ごした時間は絶対に無駄じゃない。今いる子たちだって、いつ実親のもとに戻るかはわからないからこそ毎日を大切にしています。別れは本当に辛いけれど、同じ経験をしている里親仲間と話したり、聞いてもらうことで支えられています。

孝行さん:子どもたちの行き先は児童相談所が決めるんですが、自分たちの意見を伝えて「長期的に落ち着く場所が決まるまではうちで過ごせるように」とお願いすることもあります。できるだけ子どもにとって自然で安心できる形で送り出したいと思っています。

高校生以上で出ていった子は、そんなに頻繁ではないですけど時どき連絡をくれたりします。向こうから「就職したよ」とか「遊びに来て」と連絡をくれて、会いに行ったこともありますよ。

ーーここを出た子どもたちは、どんな進路を歩むことが多いですか?

雅美さん:私たちが緊急一時保護で関わった子で、実親さんの元に戻るケースは多くありません。小学校以下の子どもたちは乳児院や児童養護施設、比較的年齢の高い子どもたちは自立援助ホームに行くか、そのまま働き始めるパターンが多いように思います。

※自立援助ホームは、義務教育修了後、里親やファミリーホームへの措置委託や社会的養護関係施設での措置を解除された児童に対し、自立を図るため相談その他の日常生活上の援助及び生活指導を行う事業です。

孝行さん:以前は自立支援は18歳までしか受けられませんでしたが、 最近は法律改定があり年齢制限も撤廃されて、個々の状況に応じて自立まで支援を受けられるようになりました。子どもたちに長期的に関われる体制が少しずつ整ってきていると思います。

※児童養護施設や里親家庭を巣立った若者は、必要に応じて最長で22歳になる年度末まで、生活や自立のための支援を受けられる制度になっています。

里親たちがフラットにつながる居場所をつくりたい

【写真】古川さんが立ち上げた団体zidonetの事業案内

ーー児童相談所のお話も出ましたが、お二人はzidonetで里親制度の普及啓発にも取り組まれていると伺いました

孝行さん:そうですね。そもそも僕らがzidonetを立ち上げた背景には、当時まだ里親の支援団体がほとんどなかったことがあります。

里親を始めて養育をしていく中で、相談先が不明瞭であったり、フラットな関係性で相談できる人に乏しかったりと色々な課題があると感じました。児童養護施設等の職員であれば、何かあっても職場が守ってくれたり、退職という道を選ぶことも可能です。しかし、里親は違う。今まで里親自身が生きてきた生活圏やプライバシーを晒して養育をしており、やりがいがある反面、リスクも非常に大きい。

里親をやっていく中で、相談先がないことのしんどさも感じました。地域の人も、学校の先生も、里親の実情をあまり知らないし、子どものプライバシーを考えるとなかなか相談できることがない。

このままだと子どもに何かあった時に、人のせいにしてしまうんじゃないかという思いがあったんです。自分たちで引き受けた子どもぐらいは自分たちで守れるようになりたいと思い、「自分たちで支え合えるネットワークをつくろう」と妻と二人でコミュニティを立ち上げたのがきっかけです。

ーー「目の前にいる子どもたちのために」が起点となっているんですね。

孝行さん:最初は小さな活動でしたが、他の里親さんなど協力してくれる人が増えて、少しずつネットワークが広がっていきました。

もう一つの理由は、発言力を持つためです。個人の里親として意見を言っても、なかなか行政には届かない。だから、法人格を取ってNPO法人として里親の声を届けられたらと思いました。

【写真】インタビューにこたえるたかゆきさんの横顔

ーー具体的にはどのような活動をされているのでしょうか。

孝行さん:活動内容は特に決めずに始めたのですが、里親さんたちとのお茶会やイベント、畑づくりなどを通じて、交流や相談の場を少しずつ作っていきました。里親制度に関する課題を紐解くと、児童虐待の防止から子どもたちとの実際の養育、相談できる環境作りなど色々ありますが、子どもたちのためになることであれば、小さくてもひとまずやってみるという考えで進めています。

この10年ほどで里親制度が徐々に整備され、里親を支援してくれる団体なども増えました。そうした時代の流れにも大変助けられていて、そうした他団体と活動が重ならないようにするということも大切にしています。

里親制度の手前の話かもしれませんが、児童虐待防止等を目的として「おもちゃフェスタ」という取り組みをしています。おもちゃで遊んだり、ワークショップを体験できたりするほか、児童虐待や社会的養護、里親について知ってもらう展示をデパート等で開催するイベントです。

子育て応援の一環として「ちょっとホッとできる場所があれば」という思いで始めました。今では関東各地のショッピングモールを巡り、毎年1万人以上の子育て家庭の皆さんとお会いする機会となっています。

最初は小さく始めたのですが、共感してくれる企業や団体が多く、だんだん規模が大きくなってきました。運営は無理なく続けられる形を意識していて、会場におもちゃを持ち込んで、子どもたちが自由に遊び、大人がそれを見守るという、シンプルなやり方を大事にしています。

ーーお話を聞いていて、子どもに関わる大人同士の関係性が良好になることが、結果的に子どもの福祉につながるように感じました。

孝行さん:行政と里親家庭の間にはどうしてもズレが生まれがちですが、大切なのは子どもたち一人ひとりに合わせた支援です。私たちは可能な限り補助金に頼らず独立した第三者の立場で地域や制度を見ていきたいと考えていますし、数ある行政や民間団体主導の里親支援事業の合間に、「ああ、そういえばZidonetっていうことろもあったなあ」と思い出してもらえるようになれればと思っています。

子どもたち一人ひとりと丁寧に向き合いながら、安心できる家庭をつくる

ーーこれまでたくさんの子どもに関わる中で印象に残っている出来事や、ご自身の変化はありますか?

雅美さん:子どもたちが本当に世界を広げてくれています。それこそPTAは苦手だったんですけど、子どもたちがお世話になっているからって思って役員をやって、地域と関わるようになりました。

【写真】微笑みながらお話しするまさみさんと、微笑みながら隣に座るたかゆきさん

ーー子どもとの関わりで難しさを感じたことはありますか?

雅美さん:毎日難しいことばかりです。子どもとの関わりに難しいことがあり、それには子どもが抱えている実親さんとの関係が影響していることもあります。

学校の昔の写真や名前の由来を発表する授業があったんですが、子どもが赤ちゃんの時の写真もなくて、名前の由来も分からなかったので、困ったことがありました。児童相談所に確認しても実親さんと連絡が取れず、学校と相談して授業内容を変えてもらいましたね。

最近は、10歳になる小学4年生で、成人の半分の年齢を迎えたことをお祝いする「2分の1成人式」などもかたちが変わってきているけれど、最初に受け入れた頃はまだそういう文化が強くて大変でした。

孝行さん:もちろんどの家庭でも大変なことはあると思いますが、やっぱり普通の家庭では考えないようなことが多くて、実親さんとの関係や児童相談所との調整など、関係機関とのやり取りで悩むこともあります。家庭の中というより、そうした外との関係性の難しさを感じることがあります。

雅美さん:悩んだ時のために、同じ里親さんやファミリーホームの人たちとつながっておくのは大事ですね。児童相談所の方には言いづらいことでも、同じ立場の人になら話せることもあります。

うちの子たちも、一人は実親さんと交流があってプレゼントをもらったり、もう一人はまったく交流がなかったり。外泊できる子もいれば全然できない子もいて、そういう時に荒れてしまうこともある。そんな話を共有できるのは支えになりますね。

ーー古川さんはファミリーホームに加えて、隣にもう1軒家を建てて場所を運営されていますね。

孝行さん:先ほど話したように、うちを巣立った子が困った時に帰ってこられる場所があるようにしたい。せめて、うちで育った子ぐらいは、最後まで自立の場として見守れるようにしたい、という思いで建てました。

こちらの施設は今は親子ショートステイというか、子育てに疲れてしまった親子が一時的に利用できる保護の場として使っています。

補助金を受けると運営の自由度が下がってしまうので、民間の自主運営として柔軟に動けるように運営しています。

ーーこのファミリーホームを、今後どのような形で続けていきたいと考えていますか?

孝行さん:本当に“普通の家庭”として続けていきたいですね。ファミリーホームは大規模施設ではなく、家庭的な環境をつくるための仕組みだと思っています。規模を広げるよりも、今の形のまま、一人ひとりと丁寧に向き合いながら“家族として暮らすこと”を大切にしていきたいです。

【写真】微笑みながらカメラを見つめるたかゆきさんとまさみさん

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(企画・編集:工藤瑞穂、撮影:松本綾香)