【写真】笑顔のこばやしりょうこさんとおおたなおきさん

6年前、私は長女を出産しました。それと同時に、これまでは両親の「子ども」だった私に、「親」という役割が生まれました。

「お父さん、お母さん、見て!聞いて!」と連呼していた子ども時代。けれど母親となった今でも「親に認めてもらいたい」という気持ちは、私の中に変わらずあるような気がしています。

だからこそ思います。たとえ「誰にも言い出せない」「親にだけは知られたくない」と思っていた悩みだとしても、心のどこかでは、やっぱり「親にはわかってもらいたい」という気持ちが誰しもあるのではないか、と。

思春期を境に、子どもの気持ちがわからなくなる親は少なくないはずです。なかでも「性の悩み」は、とてもセンシティブ。

男だけど、恋愛対象は男なんだよね

女に産んでもらったけど、本当は男になりたいんだ

もしそんな風に子どもに打ち明けられたとしたら、私はそのカミングアウトをしかと受け止められるでしょうか。

親子がお互いに歩みよろうとするとき、「わかりあいたい」と願うとき、どんなことを大切にすればいいのか。

そのヒントが知りたくて、トランスジェンダーのお子さんがいる小林りょうこさん、ご自身がゲイだと公表している太田尚樹さんに、「LGBTであることのカミングアウト」を通した“親子の歩みより方”について、お話を伺いました。

「NPO法人 LGBTの家族と友人をつなぐ会」の活動

ふだんから仲が良いというお二人は、それぞれ別の団体での活動を通して、LGBTへの理解促進や悩みを抱えるひとのサポートに取り組んでいます。

NPO法人 LGBTの家族と友人をつなぐ会」(以下:つなぐ会)は、LGBTへの偏見や差別をなくし、あらゆる人々が多様性を認め合える社会を目指している団体です。情報発信と共にLGBT当事者とその家族が、自らの性や置かれている現状を受け入れていくサポートをしています。

この会に小林さんが関わるようになったのは、お子さんに、出生時の性別と自認する性が異なる広義のトランスジェンダーであると打ち明けられたのがきっかけ。現在は東京支部で、ミーティングの開催、電話、メール、対面で寄せられる相談に応じ、ソーシャルワーカーのごとく、次なる社会的支援へと繋ぐ“ハブ”のような役割を担われています。

一方、太田さんは、記事、動画、アニメーションなどを駆使し、LGBTの情報を発信するウェブサイト「やる気あり美」の代表です。

そのコンテンツは、エンターテインメント性に富んでいてポップでユニーク。太田さんをはじめLGBTのメンバーが多いそうですが、その活動はLGBTではない人たちからも注目を集めています。昨年は、お米農家のプロデュースも手掛けられるなど、精力的に活動の場を広げています。

親子ほど年齢の離れたお2人のお話は、笑いあり、涙あり、終始賑やかな雰囲気に包まれていました。親子の関係性づくりの軸となる、考えがギュッと詰まった対談となりました。

小林さんが顔出しNGの理由

太田さん:小林さんとは、以前からお話しをさせてもらう機会があって、その思想というか、親としての信念みたいなものにすごく興味があったんです。

小林さん:そうですか?

【写真】真剣な表情で話すおおたなおきさん

太田さん:世代でまとめたら失礼かもしれないけど、僕らの親世代なのに、「考え方が面白い」というか。

小林さん:アラセブンですからね。

太田さん:アラセブン! めちゃくちゃ強そう(笑)。

小林さん:(笑)。面白いかどうかはわからないけど、昔、うちにやってくる子どもの同級生の男の子たちには、「彼女とデートならコンドーム持ってる?持たなきゃダメよ!」みたいなことは言ってました。「小林の母ちゃんすげぇな」みたいなのは、あったかもしれない。

太田さん:早速すごいお話。ところで、小林さんは今回顔出しNGなんですよね。

小林さん:息子がね、って……わかりにくいので説明すると、生まれた時は娘で、今は息子になったトランスジェンダーの子がいるんですけど、最近、パートナーと2人で自営を始めたんです。地元はすごく小さな町だし、中には保守的な考えの人もいるものだから。

太田さん:仕方がないですよ。仕事をしていく上ではいろいろなつき合いが発生しますし。

【写真】インタビューに答えるこばやしりょうこさん

小林さん:それに、息子にとって昔の自分は本来の自分ではないから、本当はこういう話をされるのも嫌なはずなんです。ただ、私がつなぐ会の活動をしていて救われる人もいるから、「仕方がないよね」と思ってくれているみたいで。だから申し訳ないんですけど、顔出しは控えさせてもらいました。

太田さん:いえいえ、対談させてもらえただけでもうれしいです。

小林さん:LGBTへの理解はこれからが肝心だから、今後、親になっていく世代の人たちに、ぜひ読んでもらいたいと思っています。

1歳からスカートを嫌がった娘

太田さん:小林さんは、お子さんはお一人だけですか?

小林さん:息子の下に、4歳下の弟がいます。むっちゃいい人達です。

太田さん:むっちゃいい人達というと?

小林さん:酔っ払って道端で寝ているおじさんに、「こんなとこで寝たらだめだよ、お家どこ?」って声を掛けたり、駅の階段で重そうな荷物を持っているお年寄りの荷物も迷わず持つんです。

太田さん:すごい!

小林さん:おもしろいでしょ。そんな子たちなんです。

太田さん:息子さんが小さい頃、いわゆる女の子とは少し違う部分があるんじゃないか、と思ったことはありました?

小林さん:1歳半になる頃前から、スカートを履かせると脱ぐようになって。幼稚園の入学式でも、可愛らしいワンピースを着るのをすっごく渋って、「いつものズボンじゃだめなの?」って訊くんです。

太田さん:やっぱりそんな小さい頃から。

【写真】こばやしりょうこさんの息子さんの幼少期の頃の写真。犬と一緒に写っており、後ろには子鹿が3頭いる。

小林さんの息子さん(2歳半の頃)

小林さん:その後は、「式」という名がつく行事のときだけ、フリルやレース、リボンなどのついていない、落ち着いた色のワンピースやスカートを穿かせていました。でも、それ以外は年がら年中半ズボンでしたね。ただ、それも好みだし仕方がないなあ、としか思っていなかったんです。30年も前だったし、ボーイッシュな女の子だと思っていたものだから。

だけど、本人はその頃から「何か変」っていう違和感があって。ただ、それを言葉にするには幼なすぎたんでしょうね。

太田さん:子どもの頃はその感覚が表現できなかったって、みなさんおっしゃいますよね。

【写真】インタビューに答えるこばやしりょうこさんとおおたなおきさん

小林さん:男性器はそのうち生えてくるって思っていたけど、案の定、生理が来てびっくり。

「私、生理になっちゃったよ」って言われて、こっちは、「やったぁ! お赤飯炊くからね」ですよ。本人は複雑な気持ちだったでしょうね。

太田さん:きっと、そうですよね。

小林さん:それが急に、中学入学を前に、「私立の女子校に行く」って言い出して。制服がスカートなのに。

太田さん:どうして女子校だったんですか?

小林さん:これはあとから知ったんだけど、地元の中学は共学だったので、男子はブレザーや学ランを着るから「どうして自分が学ランを着れないのか」って苦しくなると思っていたらしくて。そうなったらきっと、学校にも行かなくなると思っていたみたい。

太田さん:なるほど。

小林さん:中学2年生くらいから高校卒業までは、ほとんど引きこもりみたいでした。学校へ行く以外は家で寝てばかりいて、今思うと、心が疲れていたんでしょうね。寝て体力を回復させるのと同じように、心が折れてもやっぱり寝て回復させる必要があったんだと思う。
あとは、現実逃避ですよね。

それでも私は呑気に、「寝る子は育つ」「ちょろちょろ夜中に遊びに行くよりはまし」って思っていたんだけど。

太田さん:でも、僕も思春期の頃はけっこう寝てたかも。

【写真】紙とペンでメモを取るおおたなおきさん

小林さん:私、「もし、平均寿命まで生きられるとしたら、あと20年くらいあるでしょ。だったら、そのうちの5、6年を息子に返してあげたい」って、ずっと思っていたんです。だって、思春期の学校生活って宝物みたいな時間だから。

そんな話を息子にしたら、「何言ってんだよ」って。「あの頃、泣いたり、苦しんだり、考えたりしていた膨大な時間があったから、今は変わることができた。その時間はとても大切で無駄ではなかったんだよ」って言われて……思わず泣いちゃった。

次に生まれても「ゲイがいい」と思えるようになったワケ

太田さん:僕が、ゲイだとはっきり気づいたのは高校1年のときで、そこからはよく寝ていたし、凹んでいた期間もすごく長かったんです。だけど、やっぱり息子さんと同じで、その時間は無駄ではなかったと思うんです。あの時間があったから、今の僕の人生があるから。

それに今は、次に生まれてくるとしても、わりと「ゲイがいいかな」って思っているというか。

小林さん:へえー!どうしてそう思うの?

太田さん:うーん、ゲイであることがシンプルに楽しいからですかね。「女同士」「男同士」のどちらにもカウントされないですし。

僕が、“男らしさ”や“女らしさ”を周囲に求めないからか、その分、僕と一緒にいるとみんながリラックスしてくれている気がするんです。それがすごく嬉しいんですよね。

小林さん:なるほどね。

【写真】真剣な表情で話すおおたなおきさん

太田さん:そう思えるまでには時間がかかりましたけどね。まったく悩まない人もいるんだけど。

小林さん:そうなんだ!

太田さん:いますいます。トランスの子でも悩むことなく手術して、戸籍を変更して「変えてやったぜ!」みたいな子もいるってききますね。

小林さん:本当に個人差があるんですよね。

太田さん:ただ、僕にとって恋愛のことは、すごく辛かった。僕は、同級生の男の子を好きになってゲイであることに気づいたので、「何だこれは異常じゃないか!」みたいにしか、自分のことを思えなくなっていて。

好きだなんて気持ちを言い出せないどころか、言う権利もないと思っていたんです。それが、今では誰に何を言われても平気になった。

小林さん:どうしてそう思えるようになったの?

太田さん:きっかけは、友人の一言だったんです。「悔しいよね」っていう。

小林さん:悔しいよね……。

太田さん:ゲイだと気づいてからの僕は、「ゲイってだけじゃバカにされる」と思い込んで、何かしらイケてる人にならなければならないと思ってたんです。

頑張り過ぎて、追い込まれて、海外に逃亡した時期があった。現地で出会った女の子に初めてカミングアウトしたとき、彼女が言ってくれたのが、その言葉だったんです。「傷ついたよね」とか「ショックだったよね」とかではなく、それが「悔しいよね」って言葉だったから。

小林さん:すごいね。言葉の力って。

太田さん:あ、やばい、なんか泣けてきました(笑)。

【写真】涙を手で拭うおおたなおきさん

太田さん:自分なんて差別される対象で、同性愛なんて罪で恥だと思っていた僕には、「悔しい」という言葉は目から鱗だった。初めてそこで、「自分は“悔しい”と思ってもいい存在なんだ」「同性愛でもいいんだ」って思えたんです。そこからです、周囲に何を言われても気にしなくなったのは。

小林さん:そうだったんだ。

太田さん:「どんなに誰かが僕を異常だと思っていても、僕が彼を好きになったというこの感情が、こんなにも美しいっていう事実は世界で僕しか知らない」って思うことができたから。

小林さん:素敵!

太田さん:後になって、初めてカミングアウトした友達にその話をしたら、「いや、ほんと、まじでその言葉選んでよかったわ。やべえっ」て言ってましたね(笑)。

「女の着ぐるみ脱ぐから」。娘から突然のカミングアウト

小林さん:息子のカミングアウトは22歳のときでした。手に職をつけようと通っていた介護福祉士の学校に、たまたまゲイの同級生がいて。彼が、「同じ匂いがする」って息子に言ったんです。

太田さん:へぇ〜!

【写真】おおたなおきさんと話すこばやしりょうこさん

小林さん:息子もはじめはしらばっくれていたけど、「いいからいいから」と言って連れて行かれたのが、新宿2丁目だった。トランスジェンダーの子がやっているバーで、初めて息子は自分以外のトランスの方に会ったんです。

太田さん:それがきっかけで。

小林さん:「生きていていいんだ」って思ったみたい。世の中がバーっと開けて、それと同時に、自分にも家族にも「もう嘘はつきたくない」って思うようになった。もともとすごく会話のある家族だったしね。

それでも、カミングアウトするときは「親子の縁を切られても仕方がない」と思っていたみたいだけど。

太田さん:息子さん、どんなふうに切り出されたんですか?

小林さん:忘れもしません。東京レインボープライドのあった8月14日の夜。

【写真】渋谷の道路をとても大勢の人が歩いている。

東京レインボープライド:LGBT当事者やそれ以外の多くの人たちがパレードやイベントを通じて、性的差別のない社会の実現を目指すためのイベント。(画像提供:東京レインボープライド)

小林さん:一人暮らしの息子から突然、「今から実家に帰る」って連絡が入ったんです。「パレードに参加して、ビーサンで歩いていたから足の指の皮がむけちゃった。歩きやすいサンダルを持って駅まで迎えに来てくれ」って言われて。今思えば、私を呼び出すための口実ですよね。

自転車に乗って迎えに行くと、改札から出てきた息子がちょっとわからなかった。甚平を着て信玄袋を担いで出てきたものだから。

太田さん:はいはい。

小林さん:息子は、「LGBTの人たちの集まりに行ってきたんだ」って。それから自転車を押して歩いていた私に向かって、「おかん、女の着ぐるみ脱ぐから。女辞めるから」って言ったんです。「はあ?」ですよ、こっちは。

太田さん:びっくりしてしまいますよね。

小林さん:頭の中はぐわーんと真っ白。「ああ、神様。どうして隣のお家にも女の子がいるのにうちの子を選んでくれたの?」とか思って。だけど、ポロッと口から出たのは、「わかった」だった。

【写真】おおたなおきさんと話すこばやしりょうこさん

太田さん:それは、OKの意味だったんですか?

小林さん:そう、OKってこと。実際にはなんにもわかってなんていなかったんだけどね。そして次の瞬間には、「私、悪くないよね」って言ってた。

「私、悪くない」と思った2つの理由

太田さん:私、悪くないよね。それって、「自分の育て方が悪かったわけじゃない」という意味ですよね。どうしてその言葉がとっさに出てきたんですか?

小林さん:一つには、私、小学校で教師をしていた時期があって。子どもの問題行動が、すべて母親のせいにされてしまう現状に、すごく疑問を持っていたんです。

ちっとも自分の子育てに自信があったわけではないけど、充分に可愛がってきたという自信はあった。だから、「私の問題ではないよね」って思えたんです。

太田さん:なるほど。

小林さん:それともう一つは、息子がね。1ヵ月早く生まれてきて、2,500g弱しかなかったの。「うわぁ、この子生きられるんだろうか」みたいに小さくて、顔を真っ赤にしながら、「ふぇーふぇー」と今にも消え入りそうな声で泣いていたの。

私も一緒になって泣いてばかりいたんだけど、いざ、明日は退院ってなったときに、夜中に泣いている息子に向かって、私、「大丈夫、絶対に生きる。私がどんなことしても守る!」って言ったんです。

それをカミングアウトされたとき、ふと、思い出したんですよね。

太田さん:「どんなことがあっても守る」。それが小林さんにとって、「どんなあなたであっても、そのままでOKだよ」ってことだったんですね。

小林さん:そうだと思う。子どもにとってもっとも悲しいのは、カミングアウトしたことで、母親が「産み方が悪かった」とか、「育て方が間違っていた」と自分を責めたり、悩んだりすることなんです。私は意図してその言葉を選んだわけではないけど、息子としては「今までの自分で良かったんだ」って思えたみたい。

「ありがとう。おかんは私のこと否定しないんだね」って言われました。「否定も何もあなたの問題でしょ?」って言ったら、息子は、「そう、これは僕の問題だから」って。

小林さん:カミングアウトの翌年、息子が手紙をくれたんです。その最後には、「寂しいし、不便だし、悲しいこともあったけど、不幸ではなかった」って言葉が綴られていて。私、それを読んで初めて号泣したんです。

「不幸じゃなかった」という言葉を口にするまでに、この子がどれだけの苦労をしてきたのかっていうことを、初めて実感したから。カミングアウトのとき、あの子を否定しなくて本当に良かったって、心から思いました。

身体が健康でも心は不健康。夫婦で食い違った「性別適合手術」への反応

太田さん:その後、息子さんは性別適合手術を受けられたんですよね?

小林さん:胸の除去手術をしたのは28歳で、翌年にはタイで腹部を手術しました。手術に対しては、実は、私のパートナーの方が消極的だったの。「ラジカルだ」と言って。

太田さん: 過激だ、と。

【写真】真剣な表情でこばやしりょうこさんの話を聞くおおたなおきさん

小林さん:「健康な体にメスを入れるのはいかがなものか」って言うわけです。だけど、私は知っていたから。

なべシャツって言って、胸を小さくするためにぎゅーって押さえつける下着があるんです。伸縮性があって、夏に着ると汗だくになるんです。ある時、なべシャツを脱いだ息子の身体をたまたま見てしまったら、シャツの部分が真っ赤だったの。「こんなことをしているくらいなら、早く胸なんてとっちゃいなさい!」って思って。

太田さん:そうだったんですね。

小林さん:身体が健康だからって、それだけで健康なわけじゃないですよ。「一生、嫌だと思っている身体を引きずりながら生きていくことになるのよ!心が傷ついてるんだから、充分手術に値するじゃない」って言ったら、パートナーは「すみません」と言って小さくなっていました(笑)。

カミングアウトするのは、「ただ、聞いて欲しいから」

太田さん:カミングアウトも性別適合手術にしても、小林さんはそう考えられましたけど、一般的な親御さんたちってどうなんでしょうね。カミングアウトされるとしたら、どの辺が不安なんですか?

ライター:えーと、私は、傷つく言葉をかけてしまうかもしれない、とっさのことで、心とは裏腹のことを言ってしまうかもしれないっていう、プレッシャーを感じるかもしれないです。

太田さん:でも、きっと多くのLGBT当事者は、何かいいことを言われたいなんて思っていないんですよね。基本的には聞いて欲しいし、質問して欲しいんです。それが対話じゃないですか。

ライター:なるほど。

太田さん:「伝えてくれてありがとう」とは言った方がいいかもしれないけど、このワードを言った方がいいということなんてなくて。

だけど最近よく思うのは、人ってカミングアウトされると「名言bot化」するっていうか(笑)。僕が「ゲイなんです」って言った途端、ドヤ顔で持論を話し出す人とか結構いて。

【写真】笑顔で話すおおたなおきさん

一同:(笑)

太田さん:他人の名言なんて求めていないんだけど、それって、実は僕も人から悩みを相談されるとやってしまうし、みんなやりがちですよね。だけど、もし相手がお子さんで、たどたどしい言葉だったとしても、まずは聞いてあげるのが一番大事かなって思うんです。

「つなぐ会」に寄せられる、LGBT当事者の親たちの悩み

太田さん:つなぐ会ではどうですか。相談に来られる親御さんたちって、どういう人たちなんですか?

小林さん:本当にいろいろです。でも、やっぱり自分の子どもがLGBTであることを受け入れられない人が多いかな。「病院に行って診てもらおう」「気の迷いだし治るよ」って考える人もいて。

【写真】インタビューに答えるこばやしりょうこさん

太田さん:「大変だったね」ではなく、「自分の子がLGBTなんてイヤ」という。それってやっぱり世間体なんですか?

小林さん:世間体もあるし、「親として自分の子育てが間違っているとは思いたくない」とか。逆に、「私が育て方を間違えたせいだ」と言ったりする人も多いです。

太田さん:育て方を間違えた。

小林さん:自分のお腹から出てきたんだから、自分に原因があるだろうって。「自分を悪者にすれば、家族も親戚も納得するんだ」っていう人もいます。だけど、私は、それは子どもに対してすごく失礼だと思うんです。全否定していることになりますから。

太田さん:そんなに心配しなくても、どんな人生にも幸せになれる方法はあるんですけどね。

小林さん:本当にそう思います。私の母が偉かったのは、「お腹にいるときは一心同体だけど、生まれ落ちたら“別もの”だからね」ってよく言っていたこと。だから、私も「自分と母子どもは別ものだ」って思ってこられたのかもしれない。

太田さん:小林さんの一家って「別もの」だからこそ、コミュニケーションを大切にされているんですね。

LGBTへの理解には、親子間のコミュニケーションが不可欠

小林さん:うちのパートナーが常々子どもたちに言ってきたのが、「黙っていたってわからない。目を見てわかることなんてない」ってことだったんです。人の一番良いところは言葉があること。だから、泣き止むまで待って、最後はきちんと自分の言葉で理由を話させるように育ててきたんですね。

太田さん:カミングアウトでつまずく親子って、多分、それまでもコミュニケーションをあまりとってきていないと思うんです。そういう意味では、カミングアウトをきっかけに、コミュニケーションをもっととるんだよって神様が言っているんだと思うんですよね。

【写真】真剣な表情で話すおおたなおきさん

小林さん:本当にそうで、つなぐ会に来られる当事者の方って、同じ屋根の下で暮らしていても、実際には驚くほどコミュニケーションがとれていないんです。「その状況でカミングアウトしても、ご両親はびっくりするだけで否定されるんじゃない?」って、言うことがあります。

カミングアウトすることが必ずしも”良い”わけではない

太田さん:僕も、母親とは常に対話する関係だったので直接カミングアウトしましたが、父親には直接はしていないんです。

父はとてもリベラルな人だから本当は言っても問題はないんだけど、僕と父はこれまで本当にコミュニケーションをとってこなかったから、もう言い方がわかんないし、前段階でつまずいている感覚があって。

小林さん:そうなんだ。

太田さん:ただ、さすがに会社を辞めてLGBTの活動を始めるにあたり、父にも言うべきだと思ったタイミングがあって。だけど、そこでおかんが「ちょっと待て」と。

「物事にはゆっくり進めて行った方がいいこともあって、おとんはあんたのことをいろいろインターネットで調べているから、勝手に記事とか見てゆっくり知っていった方がいい」って言われて。

小林さん:へえー。

太田さん:結局、「今後はこういうことをして食べていきます」という報告をする中でLGBTの活動にも触れたんですけど、そうしたら、父は「素晴らしいですね」って一言。

小林さん:素晴しいですね(笑)。

【写真】笑顔で話すおおたなおきさん

太田さん:ずっと、敬語で会話するくらい他人行儀な関係だったんですよ。だけど、最近は少し変わってきたかも。父とご飯を食べに行くようになりましたし、雑談も少しずつ増えてきた。話題があるってことは、それこそネットで僕のことをいろいろ見ているからかもしれませんけど(笑)。

変わる親も、変わらない親もいる

太田さん:でも、僕と父のようなケースは特殊かもしれませんよね。特に、親御さんから親子関係を再構築していくのって大変そうです。親御さんって、つなぐ会に来られてどんなタイミングで変わって行くものなんですか?

【写真】真剣な様子でインタビューに答えるこばやしりょうこさん

小林さん:あるゲイの子のお母さんは、「仕事を終えて家に帰るのが怖い。ドアを開けて息子に万が一の事があったらどうしよう」って言って、最初は泣いてばかりいたんです。自殺してしまうんじゃないかと思って心配していたんですね。

私も、はじめは黙って聞き役に回っていたんだけど、1年が過ぎた頃、「あなたの人生なんだから、あなたの人生を大事にしたら?息子さんの人生まで背負う必要はないんじゃない。息子さんももういい大人なんだから」と言ったの。キツイ言い方かもしれないけど、そのお母さんはその言葉で吹っ切れた。それから猫を飼うようになったんです。

太田さん:解決策として。

小林さん:そうそう。そうしたら今度は、息子さんが猫の面倒を見るようになった。猫に責任を持つことで自分を立て直し始めたんでしょうね。その後はお母さんも目に見えて明るくなって、今はとても元気になられました。

こういうときに、この活動を続けてきて良かったって思います。だけど変わる人は変わるけど、やっぱり変わらない人は変わらないですよね。

「見放すこと」が、「尊重すること」に繋がることもある

太田さん:みんなそうですけど、自分の幸せを”スタンプラリー”みたいにして生きている人っていっぱいいると思うんです。「家を建てて、次は車を買って」みたいに。

だからカミングアウト自体というよりは、スタンプラリーの続きが押せなくなってしまうことに、きっと絶望するんだと思うんです。「孫の顔が見れない」っていうのもその一つですよね。

小林さん:子どもの人生に、自分の人生を乗っけて考えてしまうんですよね。

太田さん:だけど、それってすごく根深くて、当たり前のように押してきたスタンプを、年をとってから押せなくなるって難しいじゃないですか。僕はそこは理解できる気がするんです。とはいえ自分の人生は諦められないから、当事者としては、どんな人生にも幸せになる手段はあるから、「安心してほしい」ってことしか言えないんですけど。

小林さん:その子が幸せかどうかは、お母さんが決めることではないですよ。本人が決めることだから。

太田さん:誰だって、幸せになろうと思ってはいると思うんです。だけど、やっぱりご両親のスタンプはご両親のものであって、子どもの人生とは別なわけです。ただ、日本においてそう考えることは「冷たい」「見放すことだ」って思われてしまう。

【写真】真剣な表情で答えるおおたなおきさん

太田さん:だけど、実はそれって、子どもを「尊重」することの始まりだと思うんです。自分の人生とは違うからこそ、相手を尊重できるわけですから。「自分が子どもの幸せにどう貢献できるか」を考え始めるきっかけですよね。同じ人生を望んでいては、スタンプラリーをコピーして渡すだけになってしまうと思うんです。

小林さん:順調にスタンプを押してきたお母さんが、次を押せなくなったときに「地の底まで行った」という言い方をするけれども、それって本当は、お母さんの地の底ではないんですよね。

太田さん:そうなんです。だけど同一視してしまうから。さっきのゲイの方のお母さんもそうですけど、お子さんの引きこもりなのに、まるでお母さん自身が引きこもっているようなメンタリティになってしまう。

そうすると、過激な言葉でお子さんを傷つけてしまいますよね。でも他人だと思えば、人間って一歩ずつしか変われないってことに気づけると思うんです。その視点を持つって、すごく大事なことですよね。

小林さん:私は、お母さんも子どもも、もっと自分たちの物語を、幸せになれる方向に作り変えていけばいいと思っています。私は、息子がLGBTだったおかげで、出会うはずのなかったたくさんの人たちに出会うことができた。こうして太田さんに会えたわけですし。今は息子に感謝しているんですよね。

【写真】おおたなおきさんと話すこばやしりょうこさん

小林さん:子どもがLGBTだったりすると、「孫の顔が見れなくなる」って心配する人もいるけど、それっておかしな話なんです。だって、血の繋がりがあっても、離婚する人は大勢いるじゃないですか。

息子は、今、子どもをどうするかってことを真剣に考え始めています。血縁関係よりもっと大事なものって、私は、やっぱりあると思うんですよね。

「子どもの言葉」に耳を傾け、一歩ずつ歩み寄っていきたい

【写真】屋上で楽しそうに話すこばやしりょうこさんとおおたなおきさん

親が思っているほど、子どもは弱くも、頼りなくもないのかもしれません。そして親だって、確固たる意志で子育てをしているわけではなく、不安定に揺らぐこともあるはず。

親と仲違いしたい子ども、子どもと仲違いしたい親なんて本当はいなくて、どんな親だって、きっと、小林さんのようにありたいのではないでしょうか。

だけど、子どもにもLGBTである子やそうではない子がいるように、やっぱり親にも、受け入れられる親、受け入れられない親はいて、一度は「受け入れる」と決めたとしても、後になって「やっぱりどうしても難しい」と揺れ動くこともあると思うのです。

それでも、1か100かを急いで決める必要はないのかもしれない。

太田さんが教えてくれたように、「子どもがどうして欲しいのか、に耳を傾けることこそ大切」で、そのうえで未来に目を向けていったとしても、きっと遅くはないと思うから。

対談後、夕日に向かって談笑する小林さんと太田さんの後ろ姿を見ていると、不思議と、「どんな関係でも、少しずつ歩み寄っていけばきっとわかりあえるはず」という言葉が、ストンの腹落ちしたような気がしました。

いずれ、私も娘のことがわからなくなる時期がきっとくるのだと思います。それでも、まずは親子である前に”いい人間関係”を築いていきたい。子どもだった頃の気持ちを、忘れない親でありたいと思いました。

【写真】屋上で楽しそうに話すおおたなおきさんとこばやしりょうこさん

関連情報:

NPO法人LGBTの家族と友人をつなぐ会 ホームページ
やる気あり美 ホームページ

(写真/加藤甫、協力/藤宮日菜子)