【写真】寝転んでカメラを笑顔で見つめる赤ちゃんとお母さん

自分に人とは少し違う部分があるとき、どう感じますか?見た目のように、その違いが分かりやすいほど「人と違って恥ずかしい」と感じてしまう人も多いかもしれません。

他者と違う部分こそ、その人の素敵なところのはず。でも、どうしたらみんながありのままの自分や他者を認め、個性として尊重していけるのだろうか…。そんなことを考えていたときにふと目に留まったのが、あるホームページに掲載されていた記事でした。

そこで紹介されていたのは、口唇口蓋裂という先天性顔面疾患の当事者や家族が気軽に情報交換できるポータルサイト作りに挑戦するプロジェクト。そこには、このプロジェクトの発起人であるLeonine(口唇口蓋裂の会)の小菅典子さんの思いが書かれていました。

口唇口蓋裂の子供の純粋な笑顔は、本当に本当に可愛いです。その可愛い笑顔を、成長の中で見た目や発音にコンプレックスを感じ、隠してしまうことがないように。余計なことを気にせずいつまでも最高の笑顔でいられるように守っていきたいです。

子供たちには、自分が特別と思わず口唇口蓋裂を一つの個性として認められるよう、そう思える環境を作りたいです。(プロジェクトサイトより抜粋)

そんな素敵な思いに触れて、「もっとこのプロジェクトについて知ってみたい」と感じた私は、小菅さんに詳しくお話を伺うことにしました。

口唇口蓋裂は500人に1人が持って生まれるという先天性顔面疾患

そもそも、口唇口蓋裂とはどのようなものなのでしょうか。

小菅さん:口唇口蓋裂とは、赤ちゃんの唇や歯茎、上あごが真ん中でくっつかずに生まれてくる疾患のことをいいます。治療方法がある程度確立しているため、現在はほぼ治すことができると言われているんですね。

しかし、長期にわたって手術を受ける必要があったり、合併症の可能性もあったりと、生涯にわたってこの疾患と向き合っていく必要もあります。

プロジェクト応援サイトで紹介されている成長過程で必要な治療の一例

高い確率で生まれてくるにも関わらず、あまり知られていないこの疾患。小菅さんも、その名前を知ったのは、臨月の妊婦検診のときが初めてだったそうです。

産後に直面した情報の探しにくさと孤独感

小菅さんがまず産後に感じたのは、口唇口蓋裂に関しての情報が整理されておらず、必要な情報にたどり着くのが難しいということでした。

同じ疾患を持つ方のブログは、口唇口蓋裂のお子さんの成長の様子を知ることができる貴重な場所。しかし、元気に成長していくお子さんの姿に励まされる一方で、こうした情報はネット上に散在しており、本当に必要な情報にたどり着くまでに時間がかかってしまうことが多かったといいます。また、更新時期が古いとそれが現在も有効な情報なのか判断がつかないことも。

さらに悩まされたのは、産後の孤独感でした。病院の待合室などで、同じ疾患を持つお子さんを見かけることはあってもなかなか話しかけられず、友人には恵まれていたものの疾患に関して気軽に相談できる相手がいないまま産後を過ごしたそう。

さらに見た目が気になって外出時は口元を隠してしまったりするなど、そんな自分に対して自己嫌悪におちいってしまうこともあったと言います。

不安だった小菅さんを救ったのは、同じ境遇にいるお母さん

【写真】おどけた表情でカメラに興味津々な赤ちゃん

そんな孤独のなかで不安を抱え悩んでいた小菅さん。転機となったのは、息子さんの手術の際に出会った、同じ疾患の子どもを持つお母さんとの出会いでした。

これまで疾患に関する不安や孤独に夫婦2人で向き合ってきた小菅さんにとって、同じ境遇のお母さんと話す経験は貴重で、目の前が明るくなったような気がしたと言います。

小菅さん:手術や子育てなど大変なことも多いですから、マイナスな方向に話がすすんでしまいだろうと思いがちですが、実際はそんなことなくて。これまで抱えてきた大変な経験もお互いに笑いあいながら話せたことで、心がすっと軽くなって、前向きな気持ちになれたんです。

このとき、一緒に楽しく育児ができる仲間をつくることの大切さを実感したという小菅さん。今はその経験をもとに、治療方法などを紹介するだけでなく、利用する方が気軽に交流できるコミュニティ機能を持ったポータルサイトづくりを目指しています。

大切なのは、一緒に育児を楽しめる仲間を見つけること

【写真】手術を終えた息子さんを優しく笑顔で抱きしめるこすげさん

手術を終えた息子さんと小菅さん

小菅さんは今、同じような状況にいるお父さん、お母さんたちにこう声をかけたいといいます。

小菅さん:口唇口蓋裂のお子さんが生まれてくることが分かった直後は『ショックを受けないで』というのは難しいかもしれません。なぜなら、私もそうだったからです。

でも、今はそんなお母さん、お父さんたちに『悲観しなくても大丈夫だよ』と伝えたいと思っています。だって、今私はとても幸せで楽しいから。

もちろん大変なことはたくさんありましたが、それよりも『本当に可愛いなあ。生まれてきてくれて本当によかったな』という気持ちのほうが大きくて。そう思えたのも、一緒に育児を楽しめる仲間と出会えたからだと思います。

子どものありのままを認めるために必要なのは、人とのつながり

私は、日頃お子さんと接する学習教室で働いているのですが、周囲の大人が子どもたちのありのままの姿を認めることの難しさを日々実感しています。忙しさから子どもの良さを見つける余裕をなくてしまったり、「こうなってほしい」という思いが強くなってそれを押し付けてしまったり――同じようにその難しさを感じていらっしゃるお父さん、お母さんも多いのではないでしょうか。

そんななかで、「可愛い笑顔を、成長の中で見た目や発音にコンプレックスを感じ、隠してしまうことがないように」「口唇口蓋裂を一つの個性として認められるように」という「ありのままを認めたい」という小菅さんの素敵なメッセージは、あらためて色々なことを考えるきっかけをくれました。

さらに、小菅さんはこう言います。

小菅さん:もちろん、私も息子が成長するなかで『子どものありのままを認める』ことの難しさを実感することがあると思います。でも、理解し支え合える仲間がいれば、そんな自分も受け止められる気がするんですよね。それが最終的に、息子をありのまま受け止めることにつながっていくのかなと思います。

障害や疾患に関わらず、子どもをしっかりと見つめる余裕をもつために一番必要なのは、人とのつながりなのかもしれません。それを忘れず、私も日々子どもたちと関わっていけたらと思います。

今回お話を伺った小菅さんが取り組む口唇口蓋裂の当事者と家族のためのポータルサイトは、製作資金を募るクラウドファンディングを2016年11月30日まで実施中です。気になる方はぜひ参加してみてください。

関連情報:

口唇口蓋裂と向き合い、明るく楽しく生きる、を応援するサイト「Leonine」が2017年2月にリリースされました!
詳細はこちらから