【写真】お見舞いギフトブック。表紙からは穏やかな雰囲気が漂う。

最後にお見舞いに行ったのはいつですか?

わたし自身のことを思い返してみると、小学生の頃におじいちゃんやおばあちゃんのお見舞いに行って以来、病気を患っている人へのお見舞いの機会はなかったように思います。

今、もし急にお見舞いに行くことになったら、正直身がまえてしまいます。どんな言葉をかければいいのか、はたまた服装はどんなもので行ったらいいのか。

お見舞いに行く頻度は人によって様々でも、わたしのように戸惑ってしまう人、とりわけ何をお見舞い品として持って行こうという悩みを持つ人は少なくないと思います。それに応えてくれるのが、お見舞いギフトブック「クマの郵便屋」さんです。

株式会社GIFTReeで事業開発を担当し、このギフトブックを手がける千葉直紀さんにお話を伺いました。

急な入院で孤独が身にしみた

【写真】ギフトブックを手に微笑む、ちばなおきさん。
千葉さんは26歳の時に、半年間の入院・療養生活を経験しました。もともと空手をやっていたというがっちり体型の千葉さんは当時、ITエンジニアとしてバリバリ働いていたそう。それまでちょっとの不調は気合で乗り切ってきたといいますが、ある日突然、通勤途中に息切れを感じ病院へ。診断が下った時には、重度の心臓病だったといいます。

最初は2週間程度の予定で入院をしますが、延びに延びてしまい半年も入院・療養することに。入院中の時間をキャリアアップの勉強に勤しむなど、有意義に使おうとしていましたが、時間が経つごとに寂しさを感じるようになったそうです。

入院生活で孤独と選択肢の少なさを感じました。人見知りなところがあったのでひとりでいても大丈夫なんですが、やっぱり人に半年会わないとけっこう切なくなるんです。そんな時に、会社の先輩が田舎にあった病院までご家族連れでお子さんと一緒に来てくれたのはすごく嬉しかったです。

この時の経験が、ギフトブックのアイデアに通じていきます。

心臓の病気に特化した病棟というのもあったのかもしれませんが、高齢者の方が多く入院されていて。みなさん朝から晩までぽつんとしていました。外の世界にはいろんなサービスがあるし、入院した人の過去の考えや知恵がいっぱいあるのに全然つながっていないように感じ、それをつなぐサービスがあったらいいなと思いました。

そうしてもともと起業に興味があった千葉さんが始めたサービスが、お見舞いギフトブックです。このサービスは、がんや病気になっても自分らしく生きることを目的として活動する団体「CAN net」が元となり作られた株式会社GIFTReeが行っています。

もともとCAN netはがんのよろず相談窓口を設け、ソーシャルワーカーやカウンセラーなどの資格を持つ「ガンコンシェルジュ」がチームとなって悩みに対応するなど、病気を患ったひとたちに心強いサービスを提供してきた団体。お見舞いギフトブックは、この分野で得てきた知見が存分に活かされたサービスなのです。

入院患者に喜ばれる商品を掲載するギフトブック

【写真】ギフトブックの見開きには、小さな物語が書かれている。

お見舞いギフトブックは、入院中に便利な商品が掲載されているカタログです。入院している人に送ることができ、受け取った人は、希望の商品を選びハガキやパソコン、スマートフォンで注文できます。

【写真】商品について話し合っている。真剣な表情の中にも、穏やかな空気が流れている。

商品開発時の様子。何度も話し合いを重ねてつくられた

掲載されているのは、入院経験者や医師の声が反映されたアイテムの数々。商品が載っているだけでなく、入院における”先輩達”の声が集まっているのが特徴です。

【写真】商品の一つ、フレーバーティーセット。淹れられた紅茶に、明るい光が差し込んで爽やかな雰囲気が漂う。

例えば、季節のお茶を集めてフレーバーティーセットを作ったのは、長く入院していると外の季節を感じることが少なくなるという患者さんのアイデアによるもの。春だったら桜やヨモギの香りがあって、外に出なくても季節を感じることができます。

入院中はシャワーや半身浴など入浴制限されるので、つまらない時間だったという声から生まれた商品もあります!フェルミスという天然素材でつくられた入浴剤なら、足湯でも香りが広がって気持ちがいいですし、タオルをつかって体を拭く(清拭)すると体があたたまる。これは逆にメーカーさんが入院者の困りごとを聞いて、使い方を提案してくれた商品ですね。

現在はギフトブックには20アイテム、webには50アイテムを掲載。今後は商品だけでなく、入院患者が受けれるサービスの紹介も充実させたいと話してくださいました。

外出できないけど自宅まで来てメイクをしたり、ウィッグを作ってくれるサービスがあるので、訪問美容もニーズあると思います。他には、病気・入院がきっかけとなって離職をしてしまう人もいるので病気経験のあるキャリアコンサルタントに相談できるチケット、入院患者専門のエステティシャンの施術が受けれるチケットなども考えていますね。

作っていきたいのは「新しいお見舞い文化」

お見舞いの品、サービスを豊富にすることだけではなく、千葉さんが目指すのは、提供したい人と受け手をつなぐことだと言います。

想いを持ってサービス提供している人はたくさんいるのですが、入院中で困っている人とつながるのが難しいようなんです。なので、ギフトブックに載せることで、そういったサービスを必要としている患者さんに届けていければいいなと思っています。

お見舞いは、人によっては行きづらいものだったりするはず。相手の体調や心情もわからず、何と声をかけたらいいか悩んでしまう。かといって自分の事も気軽に話せないので、結果としてぎこちなくなってしまう。そんなことになるなら行かない方がいいのではないかと思ってしまうこともあるかもしれません。

【写真】ギフトブックの中身。商品を紹介するページに載っている絵のタッチから、優しい空気が醸し出されている。

そういった人たちのためにも、このギフトブックが必要だと千葉さんはいいます。

声がけのコツもあるとは思いますが、本当は気持ちを届けるのが一番のはずなんです。相手を思う気持ちを届ける時の選択肢の一つとして、このギフトブックがあるといいなと思っています。

入院経験のある人の知恵を社会に還元したい

ギフトブックは現在、送料込みで5800円でされていますが、今後は価格帯を下げた2000〜3000円程度のギフトブック販売も目指しているそうです。いっぽうで、集団でお見舞い行く時のために高額なものも作っていきたいのだとか。

まだまだ知られていないので、販路の拡大にも力を入れたいです。病院の中にあるコーヒーショップや病院の近くにあるお花屋さん、果物屋さんなどと販売パートナーになれたらと思っています。

お見舞いにいき身近な人の病気に触れることは、行く側にとってもネガティブなことではない、と千葉さんは話します。自分自身と向き合うことにもつながり、病気になったときの予習にもなる。生きることを一人ひとり考えるきっかけになると考えているそう。

千葉さんのミッションは「病気の経験をスキルとして社会に還元すること」なのです。

過去に病気で入院したひとたちの経験や考えをサービスに落とし込むのが私の役割だと思っています。まず、病気経験者の知恵を吸い上げる。そして、知恵をメーカーやサービス提供者に知ってもらう。最後に、その知恵を社会のみんなが使えるようなインフラとしてサービスに落とし込む。

【写真】ギフトブックの中身。体と心を楽にする過ごし方のアイデアが書かれたページもある。

ギフトブックはまさに、知恵がインフラになってほしいという思いのこもったサービス。千葉さんは今後も、入院患者の知恵が集まる場を作っていきたいといいます。

例えば、乳がんの患者会に下着メーカーに来てもらって、患者の困っていることを伝える。逆にメーカーからものづくりの視点でこんなことができると話してもらう、という場がつくれたらいいですね。その知恵をギフトブックに入れたいし、お見舞いや入院の情報サイトでも発信したいと思っているんです。

当事者中心のものづくりをもっと加速させていきたいという千葉さん。様々な病気の患者会もどんどん声をかけて協力体制を作っていく予定です。

患者の気持ちを最大限に思いやってつくられたギフトブック

【写真】お見舞いギフトブック。表紙の絵からは温かな空気が漂う。
ギフトブックは、絵本とカタログギフトが融合した作りになっていて、暖かみのあるイラストが心を安心させてくれます。

無表情に見える動物たち、実はどんな立場の人の気持ちも乗せやすいよう工夫したのだそう。必要以上に励まそう、元気付けようとしない。逆に悲しみの表情でもないという、それぞれが自分の心を投影できるようなイラストなんです。自分の気分に合わせて読めるように、という心遣いが感じられます。

掲載する商品、表現方法まで一つひとつにこだわって完成したGIFTReeのギフトブックは、今までにない「新しいかたちのお見舞い文化」を生み出しています。きっとこの一冊があることで、お見舞いに行くひと入院しているひとの間に新たなコミュニケーションが生まれるのではないでしょうか。

大切なひとがもし入院することになったら、このギフトブックを頭の片隅に思い出してくださると嬉しいです。

関連情報:
一般社団法人CAN net ホームページ

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