【写真】ジーンズパンツに身を包み、遠くを見つめて佇む高齢者の男性。

おしゃれをすることは、他人に自分を魅力的に見せるだけでなく、自分自身の気持ちを前向きにしてくれます。

私自身、仕事で疲れたり忙しいときも、おしゃれをすることで、「今日もがんばろう」と自信が生まれることを実感しているひとり。たとえ年を重ねても、身体に困難を抱えたとしても、「おしゃれを楽しみたい」という気持ちは変わらないはずです。

でもそうした状況に直面すると、なかなか外見に気を使えなくなってしまったり、「着てみたい」と思える介護用の服が見つからないのが現実。

いくつになっても、どんなに厳しい状況であっても、おしゃれを通じて人生を前向きに過ごしてほしい。

高齢者や身体に障害がある人でも、おしゃれを楽しむことができるファッションプロジェクト「Action for Universal design(以下AUN)」がスタートしました。

いくつになってもかっこよくいられるジーンズ

AUNは、思わず着たくなるような介護用ファッションの開発を通じて、介護を受ける人もサポートする人も、前向きな気持ちになれることを目指しています。

その一つが、世界初の骨折のリスクを減らす「プラスパッドジーンズ」です。高齢者は、つまずいたり転んだりしたとき大腿骨を折ってしまうことで、寝たきりになる人が多いのだそう。AUNは、衝撃吸収パッドを大学と協同開発し、ジーンズの腿の部分に装着。転んでも骨折にしくいジーンズを実現しました。2017年4月からは転倒予防学会の認定推奨品に指定されることが決定しています。

【写真】ジーンズパンツと衝撃吸収パッド。

白いパッドが腿の部分に装着されていて、転んでも骨折しにくくなっています。

高齢者の体型に合わせてデザインされており、ストレッチ素材が使われるなど、動きやすさも抜群です。

モデルを務めるのは、なんと90歳で現役俳優のおじいさん!このジーンズをはいたとき、「このジーンズを履いているときは、杖を使わずにかっこいい自分でいられる」と笑顔になったといいます。

【写真】ジーンズパンツを履き、颯爽と歩く高齢者の男性。

どんなに年を重ねても、おしゃれは大事な人生のエッセンス

このプロダクトを開発したAUNの代表・上田剛慈さんは、大学や企業で界面化学や量子物理工学の技術開発に関わってきました。

【写真】柔らかな笑顔で答えるうえださん。

AUN代表・上田剛慈さん。

一見、ファッションとは縁が遠そうな世界に身を置いている上田さん。このプロジェクトに導いたのは、ご両親の存在でした。

お父様は、多発性骨髄腫という病気になったことで骨が折れやすくなってしまい、介護が必要に。使っていた車椅子から、よくずり落ちてしまっていたのだそうです。その姿を見たお母様は、ジーンズを加工して、ずり落ちないようなおしゃれな防止具を作成します。それが病院で「おしゃれ!」と評判に。その言葉を、お父様はとても喜んでいたのだそうです。

上田さん:この時、おしゃれと介護は矛盾せず、むしろ『おしゃれ』は老後の人生を楽しむ為に不可欠なものと気がつきました。これこそがAUNの原点なのです。

上田さんは、「介護される人も介護する人もおしゃれで楽しくなる」プロダクトを作ろうと決意します。こうして、身体に不自由さを感じていても、それを気にすることなくファッションを楽しむためのプロジェクト「AUN」がスタートしました。

岡山という土地を生かしたプロダクト

上田さんは、岡山県で先端技術と地場産業を結びつける会社を経営しています。そのため、介護用ファッションプロダクトも、岡山の企業とともに製造したいと考えていました。

岡山と言えば、日本でも有数のデニムやジーンズの産地。ジーンズの縫製・加工工場が多く集まり、その品質の良さは海外でも評価されているほどです。その一方、人材不足や市場規模の縮小など、地場産業としては様々な課題に直面しているという現状がありました。

岡山だからこそできる商品を作り、地場産業を盛り上げたい。そう考えた上田さんは、ジーンズを最初のプロダクトとすることに決めます。

【写真】ミシンをを使い、真剣な眼差しでジーンズを縫う女性。

また、介護用品としての質の高さを目指すため、これまで培ってきた大学機関や企業との関係性をもとに、独自のパッドや加工技術を開発。これまでにない、ファッション性と実用性を兼ね備えたジーンズが生まれました。

歩けなくなっても、おしゃれを楽しめるジーンズ

シニアも、そうでない人も、ファッションを通じて一緒に前向きな毎日を過ごすことを目指すAUN。次に挑戦しようとしているのが、歩けなくなってしまった人でも、おしゃれを楽しむことが出来るジーンズ、「リフトアシストジーンズ」です。

ジーンズには側面に持ち手がついていて、介助者が身体が不自由な人をベッドから車椅子に移そうとするとき、持ち手を掴んで移動させることができます。これはテコの原理を用いてるため、体重の差があっても介助者が楽に持ち上げることが可能になっているのだそう。さらに、ハンモックに包まれたような状態になるため、介護を受ける側も身体に負担がかかりません。

【写真】ジーンズに付いている持ち手を、実際に掴む。

ジーンズの側面についている持ち手が、介護する側と受ける側の負担を和らげてくれます。

【イラスト】ジーンズの持ち手を使って、実際に持ち上げる様子を表現している。

持ち上げる際のイメージ。

「リフトアシストジーンズ」の試作品を使ってもらったところ、シニアだけでなく、小児麻痺のお子さんをもつお母さんからも、「早く商品化してほしい」という声があがったんだとか!年齢に関係なく、身体に困難を抱える方やサポートするたくさんの人々にとって、おしゃれを通じた新たな可能性をもたらすプロダクトとして注目されています。

身体に困難を抱える人も、サポートする人も、誰もが前向きに毎日を過ごすために

AUNは、現在「リフトアシストジーンズ」を広めるための資金を募るクラウドファンディングに挑戦中です。

上田さんは、「リフトアシストジーンズ」やAUNが今後開発するプロダクトを通じて、介護をする人・される人のどちらもポジティブに日々を過ごせるような状況を生み出したいと言います。

上田さん:本当に望ましい姿は、『衰えていくことは変えられないけれど、なるべくこれまでと変わらない生活を心地よく続け、人生を楽しむこと』。AUNのユニバーサルデザインで、そのお手伝いができるのではないかと、考えています。

いつか自分が年を重ねたり、身体に困難を抱えたとしても、いつでも自分に自信を持てるような、ファッションを楽しめる社会であってほしい。

AUNが生み出すプロダクトは、そんな世の中への第一歩になるのではないかと強く感じました。

関連情報:
AUNが挑戦しているクラウドファンディングはこちら
https://camp-fire.jp/projects/view/15516