【写真】写真展母の日の告知。白黒の写真に並ぶ4人の子どもと、4人の母。 お母さんの凛とした表情と、お子さんのチャーミングな表情。白黒の写真に「なんて美しいんだろう…」と、しばらく見惚れてしまった私。よく見てみるとそれは、5月に開催される「ダウン症のある子とその母」に焦点を当てた写真展の告知でした。 どんな思いを胸に、企画されたのだろう? どんな気持ちで、お母さんたちは撮影されたのだろう? お母さんたちの、覚悟にも憂いにも見える、優しい表情がどうしても気になった私は、主催団体であるNPO法人アクセプションズ理事長、古市理代さんにお話を伺いました。

ダウン症のある人々やその家族が、差別なく健やかに暮らせる地域社会にしたい

ダウン症のある人たちは、通常は46本ある染色体を、たまたま47本持って生まれてきた方たちのこと。偶発的に起こることがほとんどで、誰にでも起こり得るものです。日本には、ダウン症のある人はおよそ5~6万人存在しているといいます。ダウン症自体は病気ではなく、「ダウン症を治療する」ということはありません。 今回写真展を主催するNPO法人アクセプションズは、「ダウン症がもっと一般的になり、その人らしく生きていける社会にしたい」「障がいのある人も差別なく暮らしやすい社会にしたい」という思いで活動しています。 元々アクセプションズは、地域の垣根を越えて交流していた、ダウン症のある子どもを持つご家族が集まって設立しました。団体ができるきっかけとなったのは、「バディウォーク」という、ダウン症のある人と一緒に歩くアメリカ発のチャリティーウォーキングイベントです。日本でも、ダウン症のある人々に対する理解をもっと広めたい。そう考えた古市さんたちは、2012年に日本で初めて「バディウォーク」を開催しました。これをきっかけに、現在では全国各地で「バディウォーク」が行われるようになっています。

【写真】バディウォークの様子。お揃いのTシャツを着て、列を作りながら公園内を歩いている。

2012年、東京・代々木公園で行われた第1回バディウォーク。

アクセプションズは、バディウォークだけでなく、ダウン症に関する勉強会や、ダウン症のある子どもたちが参加するワークショップなども実施。活動を通じて、当事者のご家族の意識をポジティブに変えていくサポートを行うことを目指しています。

ダウン症のある子どもをもつ母親が、日々乗り越えてきた強さを切り取る写真展

【写真】凛とした表情を見せる母と可愛らしく写る娘。
今回、アクセプションズが主催する写真展は、5月8日(月曜日)から母の日である5月14日(日曜日)までの1週間、東京メトロ表参道駅のコンコースに、「ダウン症のある子を持つ母」とその子どもの写真を展示するというもの。この展示の撮影を担当したのは、宮本直孝さん。宮本さんは、2012年にはパラリンピック選手たちの写真展を、2016年には日本に暮らす難民のポートレート写真展を、同じスペースで開催されています。 今回の写真展を開催するきっかけは、「母の日にダウン症のある母子のポートレートを撮り、オープンスペースで展示したい」という宮本さんからアクセプションズへの提案でした。企画を練るため、古市さんは世界ダウン症デーのキックオフイベントに宮本さんを招待。そこでダウン症のある方々と接するなかで、宮本さんは「ダウン症のある人たちも自分たちと変わらない」という感想を抱きます。「ダウン症のある人たちと、その母親の様々な表情を切り取り、伝えたい」という思いから、今回の写真展が企画されました。

母子でモデルとなって。古市さんの心境の変化

【写真】強さと優しさを感じさせる母とはにかむ息子。 この写真展の主役は、ダウン症のある子の母親です。「お母さんたちが毎日を乗り越えた強さや、いろいろな葛藤の中での表情を撮りたい」。そんなカメラマンの宮本さんの発案から、「笑顔では無い表情を切り取る」というコンセプトが決まっていきました。 写真展に向けた撮影が行われたのは、今年の4月。ダウン症のあるお子さんの母親でもある古市さんも、モデルとして参加しました。今年で13歳となる古市さんの息子さんも4月生まれ。古市さんは、かつては桜を見るのが辛い時期もあったといいます。しかし、撮影を通じて、古市さんの心境は変化していったのだそうです。

古市さん:今まで、目の前のことに一生懸命になりながら13年間生きてきました。振り返ることなく本当に前だけ見てきた感じなんですね。だけど、今回の撮影を通じて、否応なく被写体となった自分を客観的に見なければいけなくなりました。そうすることで、自分自身とようやく向き合えたような気がしたんです。

撮影を通じて映し出されたご自身の姿を見ることで、ダウン症がある息子さんと生きる今後の人生を楽しもうと、少し肩の力を抜いて自分自身の人生を考えられるようになってきたといいます。

古市さん:息子が成長した今は、これからどんなことが起こるんだろうというワクワクの方が大きいですね。それは、「今まで積み重ねてきた経験がある」という思いがあるから。この子はきっと、周りに支えられて生きていけるだろうなという希望を持っているんです。

そう力強く話してくださった古市さん。写真展を通じて、「障害のある子と過ごす日々は、想像以上に様々な幸せを感じることができる」ということを広く伝えたいと話します。

古市さん:世の中には、障害のある子が生まれるということが不幸なんじゃないか、というような思いも多く存在していると思います。でも、その思い込みから一歩前に進めば違う世界が見えてくるし、その世界はすごく面白い。障害のある子と生きる世界は、大変なことももちろんあるけど、想像以上に幸せなこともある、ということを伝えたいと思っています。

ダウン症がある人も、それぞれの個性をもったひとりの“ひと”

【写真】シャボン玉も飛ぶ中、多くの人が集まり楽しそうな雰囲気が流れている。

渋谷で行われたバディウォーク東京2016の様子。

今回の写真展を通じて、ダウン症のある方について知った私たちが、どんなアクションを起こすことができるのだろうかと、古市さんにお聞きしました。

古市さん:まずはダウン症について知ってもらいたいです。そして、ダウン症のある方を見かけたら、温かい目で見ていただけたら嬉しいですね。彼らの動作が普通よりもゆっくりだったり、話している言葉が聞き取れなかったりすることもあります。でもそれを否定するのではなく、“彼らの特徴である”と知ってもらい、少し持ってもらうことができたら。

ダウン症があるからといって、みんな一人ひとり違った個性がある“ひと”であることには変わりないのだと、古市さんは話します。

古市さん:ダウン症のある方々は、“笑顔が良くて人懐こくて幸せそうな人たち”というイメージもあります。けれど、本当は色々な人がいるんです。人と接することが苦手な人もいるし、ダンスが不得意な人もいるし、自分自身の境遇に悩みを抱えている人もいる。 ひとは100人いれば100通りの個性があるように、人それぞれに素敵なところがあって、得意なことが異なります。それは、ダウン症のある人も同じ。ダウン症は、その人を作っている個性のほんの一部でしかない特徴なんです。ダウン症という先入観を持たずに、1人の“ひと”として尊重する気持ちを持って、向き合ってもらえるといいなと思います。

また、お子さんがダウン症と診断されて間もないご家族や、家族にダウン症がある方へのメッセージもお伺いしました。

古市さん:インターネット上にはたくさんの情報がありますが、根拠のない情報が本当に多いんです。だから、正しい情報を発信しているサイトを尋ねてもらいたいです。 お腹にいる赤ちゃんがダウン症だと診断された方も、生まれて間もなくて途方に暮れてしまったご家族も、ダウン症のあるお子さんを育てている方に是非直接会って話をしてもらうことができれば。この社会で、いきいきと生活しているダウン症のある人を知ってほしいですね。

障害がある人もない人もその人らしく、もっと皆が暮らしやすい社会を目指して

どんな人でも、得意なこと・不得意なことがあり、個性があります。それは、障害の有無にかかわらず、誰にとっても共通していること。「障害がある=支援が必要な人」という側面だけではないのです。 ひとが育つ背景には、子どもたちに個性をもつひとりの‟ひと”として向き合ってきた親の存在があります。そして、どんな親子にも、乗り越えてきた苦悩と喜びがあります。それは、ダウン症の母子だけではありません。 今回の写真展は、ダウン症のある人々をひとくくりにするのではなく、親子1人ひとりのありのままの姿にせまります。 是非、表参道に足をお運びください。そして、写真を通じて21組の親子それぞれのストーリーを感じてほしいです。色々な人が共に生き、一緒に生活することができる社会にするために、自分にできることはなんだろう。そんなことを考えるきっかけになれば嬉しいです。

関連情報 写真展概要 「母の日 〜I’m a mother of a child with down syndrome〜」 日時:2017年5月8日(月曜日)~5月14日(日曜日) 場所:東京メトロ表参道駅コンコース(ADウォール・B1出口付近 主催 :フォトグラファー宮本直孝・NPO法人アクセプションズ 後援:公益財団法人 日本ダウン症協会 写真展ホームページ:http://acceptions.org/md2017/ 写真家 宮本直孝さん ホームページ http://www.naomiyamoto.com 「NPO法人アクセプションズ」ホームページ http://acceptions.org/ 「公益財団法人 日本ダウン症協会」ホームページ http://www.jdss.or.jp/