【写真】「子供用車いす」という言葉が書かれたバギーマークが写されている こんにちは!ライターの倉本祐美加です。 突然ですが、これがは何だかわかる方はいらっしゃいますか?街なかで見かけたことはあるでしょうか。もしかしたら、人によっては「ベビーカーだ」と思われるかもしれません。

【写真】バギーマークがついた、こども用車椅子 実はベビーカーではなく、こども用車椅子(バギー型車椅子、通称バギー)なのです。

バギーは、難病や障がいで体幹が弱いために首が座らない子や、姿勢が固定できない子のための車椅子。子どもの障害に合わせて背もたれの角度を変えられることや、座面の下に人工呼吸器を積めるような造りになっていることが特徴です。

しかし、見た目はベビーカーそっくりなため、バギーを利用している人は、電車やお店の中で「畳んでください」と注意を受けることも多いと言います。

こうした状況に対して、病児保育問題解決へはたらきかけている認定NPO法人フローレンス代表の駒崎弘樹さんが2017年1月に、「『邪魔だからベビーカーたためよ』→こども用車椅子なのに・・・」というエントリで問題提起をしています。私はこの記事を読んで初めてバギーの存在を知りました。 そしてバギーについて調べていて出会ったのが、「これはベビーカーではなくバギーだ」と知らせるためのマークを制作している団体「mon mignon pêche(マムミニョンペッシュ)」です。 【写真】バギーマークと、まむみにょんぺっしゅのロゴがあしらわれたカードが並んでいる

バギーに付けることで、ベビーカーとは違うものだと外出先で判別してもらうためのバギーマーク。どういった思いからバギーマークを製作されているのか、マムミニョンペッシュの代表である宮本佳江さんへお話を伺いました。

ベビーカーと間違われないためにできることはないだろうか

【写真】バギーマークを掲げる、まむみにょんぺっしゅ代表のみやもとさんと、車椅子に乗ったお子さん

マムミニョンペッシュ代表・宮本さんとお子さま。

マムミニョンペッシュは、北海道内に住んでいるお母さん3人によって結成されている団体です。住んでいる場所が離れているためオフィスなどはありませんが、窓口担当の宮本さんと製作担当の2人のお母さんが連絡を取り合いながらバギーマークの注文に対応しています。

マムミニョンペッシュが設立されたのは2012年。設立の背景には、重度心身障害の娘さんを持つ宮本さんの経験があります。

宮本さん:子どもは成長すると、ベビーカーには乗れなくなります。けれど、障害のために、ベビーカーと同様の身体を支えるための乗り物が必要です。探していたところ、出会ったのがバギーでした。機能性はもちろんですが、嬉しかったのはサイドカバーの柄をオリジナルのデザインで依頼できるところ。水玉模様の可愛い柄にしました。

希望通りに製作してもらった、明るいデザインのバギーに娘さんを乗せて外出していた宮本さん。しかし、一目で車椅子だと気付かれないその見た目ゆえに、困りごともあったといいます。

宮本さん:私の娘もそうなのですが、重度心身障害児は、ぱっと見た感じ障害を持っているように見えない子もいます。だからこそ、子どもがベビーカーに乗っているだけだと思われてしまうのです。お店で、小さい子ども用の椅子を出されてそこに座るように言われたことや、電車に乗ったときに『こんなに大きいベビーカーを乗せてきて』と迷惑そうな目で見られ、車いすのタイヤを蹴られたこともありました。

これはバギーだと一目でわかってもらえるマークを作ろう

バギーだと気付かれないゆえの対応をされることは悲しいもの。そんな中、宮本さんの転機となったのは、娘さんの1歳の誕生日に家族で行った東京ディズニーランドでの経験でした。

ディズニーランドには、「ゲストアシスタンスカード」というものがあります。これは、障害を持っているために乗り物の列に並べない方が、特別なサポートを受けられる証明となるもの。宮本さんがこのカードを貰いに行った際、スタッフの方がバギーに「車いす=ベビーカー 〜このベビーカーは車椅子として使用しています〜」というマークを付けてくれました。このマークを見て、宮本さんはバギーマークのアイデアを閃きます。

宮本さん:わかりやすいマークがあれば、バギーがベビーカーと間違えられることは減るのではないかと思ったのです。思い付いたアイデアをバギーの製造業者さんに相談してみたところ、「以前からそういったものを作りたいと思っていた」と言っていただき、ぜひ作ろうと話が進んでいきました。マークのデザインは、デザイナーをしていた業者さんのお姉さんにお願いすることにしました。

デザインを依頼する際に宮本さんが伝えたことは、「かわいいこと」「元気が出ること」「弱視の方でも見やすいこと」でした。こうして、鮮やかなカラーで可愛らしい、水玉模様のバギーマークが生まれたのです。

バギーマークは色も大きさもさまざまな種類で用意されています。

同じタイミングで、製造業者さんから紹介されたのが、重度心身障害のお子さんをお持ちでハンドメイドが得意なお母さんたち。こうして、2人のメンバーと一緒に、マムミニョンペッシュを設立したのです。

バギーマークがお守りのような存在となってお母さんと子どもの外出を後押しする

「ベビーカーではなくバギーである」ことを示すために作られたバギーマークには、宮本さんのこのような思いも込められています。

宮本さん:大きいバギーを押して、段差のあるお店に入ることやお店のドアを開けることは大変です。周りから冷たい目で見られることも重なって、「子どもと出かけたくない」と思っていた時期もありました。けれど、こうして私が閉じこもってしまうことで、子どもたちが外出する機会が少なくなってしまうと、障害を抱えながらも一生懸命生きている子どもたちの姿を誰にも見てもらえなくなりますよね。 街で見かけて知ってもらえることで、社会に伝えられることもある。当時の私と同じように悩むお母さんたちが、バギーマークを付けることで堂々と外出できるようになれば、と思ったのです。

バギーマークは、福祉用具展などのイベントやオンラインショップで販売され、2500枚以上を売り上げています。バギーに乗る子どもたちが通う幼稚園で卒園式にプレゼントするためや、おじいちゃんやおばあちゃんが孫にプレゼントするための注文も多いのだとか。ほとんどの方が3〜4枚以上まとめて買われるのだそうです。

展示会での展示の様子。ご友人のお子さまへプレゼントとして買われる方もいらっしゃるそうです。

オンラインショップから注文がある際、買われる方からの質問や相談が宮本さんに寄せられることもあります。

宮本さん:「じろじろ見られることが辛い」など、悩みを話してくださるお母さんが多いです。だからこそ、買っていただいた後に再度メールをくださって、「バギーマークがお守りです。バギーマークがあることで、『この子には障害があるのです』とわざわざ伝えなくても周りに理解してもらえるようになりました。」という言葉をいただいたときにはとても嬉しかったです。

バギーマークは、マムミニョンペッシュのホームページからも購入ができます

他にも、宮本さんの元にはたくさんの感想や御礼の言葉が届きます。

宮本さん:バギーマークを買っていただいたお母さんが、お子さんを病院に連れて行った際に、同じバギーマークを付けている方を見かけて声を掛けられ、「マムミニョンペッシュで買った!」と話が盛り上がり仲良くなったと聞きました。その他にも、バギーマークを付けてから、それまでもよく乗っていた電車で、初めて移動を助けてくれる方に出会ったという話も。購入してくれた方からの言葉には、いつも胸を熱くさせられています。

目指すのは障害がある子どもとお母さんの社会参加

宮本さんは、マムミニョンペッシュを設立した当時から目指していたことがあると教えてくれました。

宮本さん:障害のあるお子さんを抱えているお母さんが働ける環境を作っていきたいと思っています。お母さんたちは、子どもの面倒を見なければいけず、外に働きに出ることのできない場合がほとんどです。 これまで行ってきた、バギーマークの製作をお願いすることもその一つですが、今後は医療的ケアを必要とする子どもの預かり場所を作ることで、より多くのお母さんが働きに出て、社会参加できるような機会を提供していきたいです。

こうした思いから、宮本さんは昨年、NPO法人 Solways(ソルウェイズ)を設立しました。2017年4月には札幌市西区に「重度心身障がい児デイサービス・ソルキッズ宮の沢」もオープン。子どもたちの受け入れを始めています。

【写真】笑顔で写る、みやもとさんとみやもとさんのお子さんと女性。女性にフォローされながら、お子さんは泡立て器を握っている

また、宮本さんは今後、子どもたちの社会参加も目指していきたいと語ります。

宮本さん:障害を持つ子どもの親には、子どもの将来について悩んだり不安に思っていたりする方がたくさんいます。「子どもたちが何らかの仕事に就いて、社会に参加できればいいのに」という願いを持っているのです。子どもたちが大きくなったときに、バギーマークを製作することや、バギーマークを販売する店舗の売り子をすることで、社会に参加できるような環境を作りたい。これが、私の夢です。

ほんの少しの心遣いを持って手を差し伸べてもらえたら

お話を伺った最後に、街中でバギーを見かけたときに私に何かできることはないかと尋ねました。

宮本さん:掛けてほしい言葉や、手伝ってほしいことがあるわけではありません。バギーマークを見て「これはバギーなんだ。子どもを支えている乗り物だから、畳むことはできないんだ」とわかってくれるだけで充分です。あとは、バギーを動かすときにどうしても場所を取ってしまうので、少しだけ周りに避けてスペースを空けていただけるだけで、とても助かりますね。

宮本さんが望んでいることは、決して難しいことではありません。

これからは、街に出たときや電車に乗ったときに、スマートフォンばかり見るのではなく、いつもより少しだけでも顔を上げて、周りを見渡してみよう。そして、最近知ったばかりだけれど、一度見ると忘れないデザインのバギーマークが目に入ったときには、スペースを空けて手を差し伸べたいと思いました。

街中で子どもを乗せた乗り物を見かけた際に、「あれはベビーカーだろうか?それともバギーだろうか?」そう思っていただけるきっかけの記事になれば、とても嬉しいです。

 

【追記】2017/5/16

そして、2017年5月にバギーマークのポスターが完成しました!

一目見ただけでバギーマークとは何なのかを理解してもらえるような、シンプルなデザインになっています。

 

【写真】バギーマークの啓発ポスター。「バギーマークは子ども用車いすのマークです。」と書かれている

ハートマークは「子どもたちを守りたい」という親の愛情の象徴。そして、バギーからつながる線は「広く、多くの人に届いてほしい」という思いから、一回転した線になっており、一回転には「360度=周囲の人」といった意味も込められています。

ポスターがあることで、バギーの存在の認知や理解がより深まることでしょう。

関連情報:

mon mignon pêche(マムミニョンペッシュ)
http://buggymark.jp/

NPO法人 Solways(ソルウェイズ)
http://solways.jp/

重度心身障がい児デイサービス・ソルキッズ宮の沢
https://www.facebook.com/solkidsmiyanosawa/