「レストランで頼んだ注文と別のものが運ばれてきた。でもまあ、それでもいいかな。」
こんなふうに間違いが起きても、なぜかスタッフもお客さんも笑顔が絶えない場所、それが「注文をまちがえる料理店」です。気になるネーミングのこのお店は、文字通りさまざまな”まちがい”が起こるレストラン。
ここではたびたび、注文したメニューと違うものを提供したり、違うテーブルの注文が運ばれてきたりします。実はホールで働いているスタッフは全員認知症の方なのです。
今回は6月のプレオープンでたくさんの笑顔を集めたこのレストランのこと、そして9月に3日間限定オープンするために挑戦するプロジェクトを紹介します。
認知症の人たちが働く”まちがい”がたくさん起こるレストラン
「注文をまちがえる料理店」は認知症の人たちがホールで働くレストランです。他の飲食店と同じように、認知症のスタッフが注文を取り、シェフに注文を伝え、配膳をし、お客さんとコミュニケーションをとったりと、さまざまな業務を行います。
もしかしたら、なにかまちがいや失敗が起こるかもしれない。お客さんもそれをわかったうえで来店しています。
「注文をまちがえる料理店」の発起人はテレビ局のディレクターを務める小国士朗さん、そして実行委員長は介護サービスの提供を行う和田行男さんです。
和田さんはデイサービスやグループホームなどを運営しています。そのグループホームに、小国さんがドキュメンタリー取材のために訪れたことが、お二人の出会いでした。
和田さんのグループホームでは、「最期まで自分らしく生きていく姿を支える」という信念のもと、認知症の高齢者であっても、掃除や洗濯、料理などの家事を始め、できることは自分で行うのだそう。
例えば食事も、基本的にスタッフが提供するのではなく、本人が買い物をして、食べたいものを作る。1日のプログラムなども原則なく、利用者さんは一人一人のペースで、のびのびと暮らしています。
小国さんはそんな様子を取材で撮影し、グループホームの穏やかな空気感を肌で感じていたのでした。
ある日の取材の合間。グループホームの人たちのご飯に同席することになったときのことです。小国さんは、その日のメニューはハンバーグと聞いていたけれど、出てきたのが餃子だったという状況に出くわします。
小国さんは餃子を見て、「あれ?」と疑問が浮かんだものの「今日はハンバーグでしたよね?」とことばにする寸前で踏みとどまりました。まちがいを指摘することで、のびのびと暮らす認知症の方々の暮らしを壊してしまうのではないかと思ったからです。
ハンバーグでなければいけない。「こうでなければいけない」という思い込みがあったことに小国さんは気づきました。
けれども、別に餃子になっても誰も困らないのではないか。美味しければそれで良いのではないか。そんなことを考えていると不意に、「注文をまちがえる料理店」というワードが浮かんできたのだそう。
笑顔溢れる空間「注文をまちがえる料理店」プレオープンイベントを開催
「注文をまちがえる料理店」を開催しようと、小国さん、和田さんを中心にプロジェクトチームが結成されました。
「認知症の方にとってやりがいのあるイベントにしよう」
「わざとまちがいを誘導するような仕掛けはしない」
「まちがいが起きても、思わず笑顔で許せちゃう雰囲気作りをしよう」
何度も議論を重ねながら、まずはイベントのプレオープンを開催しようと、準備が進みました。
プレオープンに向けて吉野家ホールディングス、メゾンカイザー、新橋亭などが協力をし、アレルギー等への対応も飲食のプロによって行われました。そして料理は素晴らしい腕のシェフが作ることに。
たくさんの人の力が集結して、ようやく迎えたプレオープン当日。2日間のみ、来場者は関係者や知り合いの人に限定した開催の中、2日間で合計約80名もの来場がありました。
soarでも代表の工藤瑞穂をはじめ、メンバー数名がプレオープン中お店に訪れました。普段のレストランでの食事とは少し違った雰囲気の中、「どんなことが起こるだろうか?」と少し楽しみな気持ちで席に着きます。
そして実際に、ハンバーグを頼んだのですが餃子が提供されるということが起こりました。少しだけ驚きつつも、soarのメンバーたちは皆笑顔のままだったといいます。まちがいに対して指摘したり怒ったりするのではなく、「それでも良いよね」という寛容な空気がそこには漂っていました。
プレオープンの2日間、水を2つ運んでしまったり逆に運び忘れてしまったり、違うテーブルのものを配膳していしまったり、ホットコーヒーにストローをさしてしまったりと、さまざまなことが起こったそう。
割合としては来場者の3人に2人に、何らかの”まちがい”がありました。けれどもそれを気にしない空気が、レストランには漂っていたのです。
実際、訪れた人々の9割以上の人が「また来たいと」アンケートで答えています。
「誰もまちがいや失敗を気にしない」レストランを多くの人に届けたい
もし一般的な飲食店でこんなにたくさんの”まちがい”や”失敗”が起こってしまったら、とても大変なことです。お客さんの中には怒ってしまう人もいるかもしれません。
けれどもお店に伺ったsoarメンバーやお客さんは口々に、「楽しかった。良い空間だった。」と口にしていたのです。
そしてスタッフとして働いた認知症の方からはこんな声も。
「昔、食堂で働いたときはさ、まちがえたら当然怒られるよね。でも、ここのお客さんは優しいよね。まちがえても誰も怒らないもの」
働くスタッフにとっても、そして訪れた人にとっても、普段はなかなか見られないような、少し特別な優しい空間がそこにはありました。
またプレオープンの様子はインターネットでも、国内外から大きな反響があったといいます。その中には「自分の住む街や国でも実施したい」という声が数多くありました。
「このプレイベントを、次は関係者だけじゃなく、一般のお客様にも入っていただけるものにしよう」
「認知症の理解を日本中に届けよう」
この考えのもと、今度は一般のお客様向けに六本木で「注文をまちがえる料理店」のイベントを開催しようとプロジェクトが始動しました。9月16日から18日までの3日間の開店に向けて、費用を募るクラウドファンディングに挑戦しています。
そして9月のイベント開催の先には、全国各地での「注文をまちがえる料理店」の実施も見据えています。そのために運営方法やマニュアル等を確立することもまた、今回の資金の使い道の一つです。
今後も繰り返し使うことのできる食器やエプロンなどの雑貨類を揃えること。そして訪れた人々の認知症への理解が深まるように、ブックレットなどの公式グッズを用意するなど、さまざまな場所でできるだけ低コストで、「注文をまちがえる料理店」を実施できるよう、体制をつくっていきたいと考えているそう。
まちがえることはどんな人でも必ず経験すること。完璧な人間なんていない。
そうわかっているのに、日常の中で失敗したり間違える事に対して私たちはつい、厳しい目で見てしまうことがあるのではないでしょうか。
もちろん間違えない、失敗しないことは大切なこと。けれども、中にはまちがえても大丈夫なこともある。今回のレストランのように、まちがいが起こるかもしれないとわかっている環境であれば、誰もが寛容になることもできるのです。
このレストランを通して認知症の方と自然に出会い関わることは、認知症の理解を深めることにも繋がるかもしれません。そして認知症の人にとっても「まちがえてしまっても大丈夫。受け入れてもらえる場所がある。」この事実は励みとなるはずです。
認知症のスタッフとお客さん、双方にとって優しい空間といえる「注文をまちがえる料理店」のような場所が世の中に増えていけば、多くの人にとって寛容な世の中、生きやすい世の中につながるように思います。
訪れる人々誰もが笑顔になれる空間「注文をまちがえる料理店」が社会へ広がっていくよう、一緒に応援してもらえると嬉しいです。
関連情報
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