【写真】振り向いて微笑むもりやなおさん

自分の内面を見てもらうためには、まずは知りたいと思ってもらえるような外見にならないと。

私はおしゃれが好きで「可愛くなりたい!」と思う一方で、自身の外見のコンプレックスが気になって仕方なかった頃があります。「人と会うのが嫌だな」と思ってしまったこともありました。

メイクやファッションを頑張れば、コンプレックスを解消し、自分に自信を持つことはできるかもしれません。でも、もしその悩みの背景に、自分ではどうしようもできない病気があったとしたら…。

つい先日、自分自身では汗の流れる量やタイミングをコントロールしづらい、「多汗症」という病気があることを知りました。

暑い日や運動を行なった後に汗が止まらなくなる状態とは違い、「多汗症」は何もしていない状態であるにもかかわらず汗が出る症状です。

多汗症で汗をかいてしまうけど、やっぱりおしゃれを楽しみたい。

今回ご紹介するのは、ご自身が多汗症で悩んだ経験を経て、ファッションを通して多汗症の方たちが抱える悩みを解消するプロジェクトに挑戦している女性のストーリーです。

「多汗症」を理由に、だんだんと人との距離を取るように。

「多汗症」の症状の度合いは、常に手が湿っているという状態から、汗の水滴がしたたり落ちる状態まで、人それぞれです。また、全身に汗をかく「全身性多汗症」と、手や足などの特定の部分に汗をかく「局所多汗症」の2種類の症状があります。

多汗症の方が日常的に抱く悩みの中の一つに、服装に関する問題が挙げられます。特に、足元は、通気性が良くないと蒸れてしまい、そのことによって引き起こされる肌トラブルも少なくないそうです。

【写真】室内でインタビューにこたえるもりやなおさん

守矢さん:「私、汗っかきかも」と思い始めたのは保育園に通っていた頃でした。人より多く汗をかくことでいじめられることもあったので、それがストレスでした。

現在、都内で大学院に通う守矢奈央さんも、原発性(特発性)局所多汗症に向き合い続けているひとりです。

多汗症は原因不明のため根本的な治療方法が見つかっておらず、認知度も極めて低い病気です。

幼い頃、守矢さんは鉄棒の逆上がりの授業で、自分の手が汗で滑ってしまって、上手にできないことや、止まらない手汗をからかわれたことがありました。自分ではどうしようもない事実を目の前に、悲しい気持ちを抱くことも多かったそうです。

地元の保育園に通っていた守矢さんは、そのまま地元の小学校へと進学します。大半の同級生も同じ学校へと進学するため、汗をかきやすいことなどへのからかいも続きました。

守矢さん:家族に「他の子よりすごく汗をかきやすいんだけど…」と相談したこともありましたが、「少し汗っかきなだけでしょ。たいしたことないよ」と軽く流されてしまったんです。だから、多汗症のことも、いじめのことも、誰かに相談するのをあきらめてしまったんですよね。

その話を聞いて、私も小・中学生の頃「人からどう見られているか」を必要以上に気にしていたことを思い出しました。そんなことはないとわかっていても、誰かに「大丈夫だよ、気にすることないよ」と言ってもらわないと気が済まないほどでした。

漠然とした不安を抱えながら、誰にも打ち明けずにいた守矢さん。当時はどれだけ心細かったのだろうか、と胸が締め付けられました。

守矢さんの症状は、突発的に手足を流れるような汗をかくため、常にハンドタオルを手に握っていないと汗が滴り落ちてしまいます。電車の中では、拭いても拭いても流れる汗を見た見知らぬ人からの、「あの人、汗かきすぎじゃない?」という心ない一言に傷つくこともありました。

そのうち、人との距離をとってしまい、対人関係にも悩むようになっていきます。

【写真】タオルを握りしめるもりやさんの手

自分では汗のコントロールができないことから、日常生活の様々な面で支障をきたすこともありました。

汗が滴り落ちてしまうことで、携帯やパソコンなどの電子機器の内部基盤を壊してしまうこと。サンダルを履くと自分の汗で滑って転んでしまうため、夏場に素足でサンダルを履けないこと。靴下を履くと、蒸れて肌トラブルを引き起こしやすいこと。

守矢さんは、学校以外でも多くの悩みを抱えながら日々を過ごしていました。

自分に自信を持たせてくれたのは「病気だから、仕方ない!」と開き直る勇気

思春期になっても、友達とのハイタッチや好きな人と手を繋いだりという、本来なら楽しく嬉しい出来事も楽しめない。誰かに自分の手が直接触れることに緊張してしまい、守矢さんは徐々に人との関わりに苦手意識を抱き始めていきました。

そんなときに、中学校で同じ多汗症の友達と出会います。守矢さんは、「同じ病気なら気持ちを分かってくれるかもしれない」と日頃の悩みやそれを打ち明ける人がいないこと、これから生きていく上での不安を話しました。

すると、友達が口にしたのは「こういう病気だから仕方ないよ。でもこれが自分だから、受け入れているし、悩んだところできりが無い」というとてもあっさりとした言葉。

【写真】微笑むもりやなおさん

守矢さん:そうか開き直っていいんだ…!という考え方に、すごくびっくりしたんです。それからは、諦めるのではなく、「体質であると同時に、そういう病気だ」と自分の中で割り切ることで、徐々に自分を受け入れられるようになりました。最近では、自ら多汗症であることを打ち明け、「そんなの気にしないよ!」と言ってくれる友達に恵まれています。

人生において自分が本当に向き合うべきこと、とは

自分を理解してくれる人たちとの出会いによって、「多汗症で悩んでいたって仕方ない、やりたいことに取り組んでいこう」と、守矢さんの心は次第に前向きになっていきました。

大学時代は、主にアパレルのアルバイトを経験し、幼い頃から好きだったファッションの魅力により引き込まれていったのだそう。しかし、多汗症であることによって店頭の商品を触ることができなかったり、素材によっては思うように服を着ることができない悩みを常に抱いていました。

就職活動を終え、新たな道へ進もうとしたとき、守矢さんは「人生で自分が本当にやり遂げたいことは何か」について振り返りました。

【写真】屋外を歩くもりやさん

守矢さん:私自身、ずっと多汗症で悩んでいたけど、誰かが解決してくれる訳ではなかった。一生付き合っていくかもしれないこの病気に、自分自身が正面から向き合わないと、と思いました。

こうして、守矢さんはテクノロジーを用いてヘルスケアに関するプロダクトの制作を行う、デジタルハリウッド大学大学院のデジタルヘルスラボへ進学することを決意します。

守矢さん:私は、多汗症における悩みを解決できるプロダクトを作るためだけに、本当にそれだけのために、大学院に進学しました。

現在、守矢さんは大学院で、多汗症の方が安心して日々の生活におけるファッションを楽しめるようなプロダクトの研究・開発に取り組んでいます。

現在取り組んでいるのは、多汗症向けファッションアイテムプロジェクト「athe series」。第一弾として開発しているのは、「汗足(あせそく)」という靴下です。

吸水・速乾に優れ、防菌防臭もしっかり行うことができる上に、多汗症患者さんに限らず誰でも普段使いができるデザインを目指しているとのこと。「吸水速乾」をうたう既存のプロダクトも数多くある中で、自身が当事者であることから、重度の多汗症患者さんにも納得してもらえるような機能・デザイン性という点で差別化を測りたいと言います。

現在は靴下のみですが、いずれは「多汗に特化した、ファッションを楽しむために必要なプロダクトなど、作りたいものがたくさんあります」と話してくれました。

使用する素材も、各地へ足を運び、プロダクトづくりに相性の良い繊維を探すつもりだといいます。

守矢さん:病気によって、自信を失ってしまうことや、周囲の目を気にしてしまうという環境を変えたい。多汗症であることを伝えられる勇気を持ってほしいし、みんなと違うことが当たり前なんだ、という理解を広めたいんです。

活動を通して、自分だけでなく他の誰かも幸せにできるかもしれない

多汗症を理由に自信が持てず、人と関わることを苦手に思っていた守矢さんは今、多汗症と向き合い、自分の行動を通じて同じことで悩んでいる人たちを支えようとしています。

「できない理由」に目を向けるのではなく、「できるようになる手段」を探す守矢さんだからこそ、このプロジェクトが生まれたのでしょう。

服を着ることでの自己表現を楽しみ、自分に自信を持つ手助けをしたい。そして、やりたいことに向かって進む誰かの背中を押したい

守矢さんの話を聞いた日から、自分の嫌なところを隠そうと考えるのではなく、まずは自分の「好きだ」と思えることを楽しもうと考えるようになりました。

「服が好き」と思う気持ちを原動力に、多汗症の人たちをエンパワーメントしていく守矢さんのこれからを、私も応援し続けたいと思います。

(写真/馬場加奈子)