【写真】笑顔のよこやまほくとさん

いつ、どんな人生の困難がやってくるのか、前もって知ることはできません。親に介護が必要になったら?急な病気で仕事が続けられなくなったら?いざというときに、どこに頼ればいいのか、どんな社会保障制度が利用できるのか……。困った状況になってから慌てて調べる人のほうが多いのではないでしょうか。

私がsoarでさまざまな方に話を聞くなかでも、「そんな制度があるんだ!」と初めて知ることがいくつもありました。基本的な“セーフティネットの存在”だけでも知っていれば、何かあったときの不安を少し、減らせるかもしれません。あるいは、周りの誰かが困っているときに「ここに行けば相談できるよ」と伝えてあげることもできそうです。

そこで、社会福祉士の資格をもち、医療ソーシャルワーカーとして病院での勤務を経験したのち、現在はNPO法人「Social Change Agency」代表理事を務める横山北斗さんに、お話を伺いに行きました。入院中の患者さんやご家族から、仕事のこと、お金のこと、退院後の暮らしのことなど、さまざまな相談を受けてきた横山さん。そのご経験をもとに「困ったときに、どこに頼ることができるのか」を教えてもらいます。

※この記事で紹介している内容は、2018年12月時点のものになります。

困りごとの解決を手伝う「ソーシャルワーカー」

まず聞いてみたかったのは、横山さんのお仕事である「ソーシャルワーカー」のこと。なんとなく聞いたことはあるものの、ソーシャルワーカーとはどこにいて何をする人のことなのでしょうか?

この「ソーシャルワーカー」という呼び名は、世界的に使われているものなんです。日本では「生活の困りごとを抱えている方の相談にのり、生活上の問題を軽くしたり解決したりするお手伝いをする職業」と説明されることが多いですね。

「ソーシャルワーカー」という名前の資格はありませんが、社会福祉士や精神保健福祉士などの国家資格を持っている人が多く、社会福祉や社会保障に関する政策や制度についての専門知識をもち、対人援助の技術を身につけています。

【写真】真剣な表情でインタビューに答えるよこやまほくとさん

病院だけでなく、高齢者や障害者の福祉関連施設、児童相談所、行政の生活保護や障害者福祉の担当窓口などに、ソーシャルワーカーが配置されている場合があります。ただし、「ケースワーカー」や「生活相談員」など、呼び名が異なることもあるそう。また、最近では学校や企業など、その活躍の場が広がっています。

その人らしく生きることを手伝う

普段の生活では出会う機会が少ないと思われる、この職業。横山さんがソーシャルワーカーになろうと思った理由を聞いてみました。

私は14歳のときに子どもがかかる血液のがんになり、骨髄移植もして2年間くらい闘病した経験があるんです。その後、大学1年生になったときに、同じ病気にかかった経験のある人たちの自助グループ(当事者が集まって話す会)に初めて参加しました。

そのときの私は大学生活を送れるまでになっていましたが、自助グループには病気や後遺症などで進学や就職をあきらめざるを得なかったという人たちも多く来ていました。もともとは工学部だったのですが、ここでの経験が福祉系学部へ転学するきっかけになりました。そして、この自助グループの運営を支援する団体に、ソーシャルワーカーの方がいたんです。

【写真】微笑んでインタビューに答えるよこやまほくとさん

横山さんとそのソーシャルワーカーの方とのかかわりは、大学卒業まで続いたそうです。

その方は、私が人前で闘病経験を話す機会を何度もつくってくれました。そのときは「頼まれたから仕方ないな」くらいの気持ちで引き受けていたのですが、あとになって、それが自分のためだったんだな、と気づいたんです。

人前で話すことは、自分のなかで闘病経験を整理して、意味付けしていくことにつながりました。私にそうした経験が必要だと思って、その方はかかわってくれていたんだと思います。

ソーシャルワーカーの役割は、ただ必要な制度につなぐだけではありません。相手がその人らしく生きることを手伝うことでもある。その方と出会ったことで、そのことに気づいて「ソーシャルワーカーになりたい」と思うようになりました。

大学卒業後、病院に勤務するようになった横山さんですが、そんなソーシャルワーカーの役割をあらためて実感する経験があったそうです。それは、ある重い病気で入院された方と出会ったときのこと。ずっとひとりで花屋を営んできたその方は、病気によって残された時間が限られていました。

【写真】丁寧に質問に答えるよこやまほくとさん

最初は「医療費を払うのが難しい」という相談だったんです。でも、そのうちに病気になったことへの葛藤や思いを打ち明けてくださって、残りの時間をどう過ごしたいかという話をされるようになりました。

その方は、病院で治療を続けるよりも、できるだけ長く花屋をやることを希望していました。そこで、横山さんは、医師とその方との3人で、今後の時間をどこまで治療に使うのかを話し合うことを提案したのです。

結局、その方は薬で痛みを抑えて花屋に戻ることを選びました。私は自宅に往診してくれる医師を探す手伝いなどをしました。社会保障制度につなぐだけではない、こうしたかかわりもあります。

ソーシャルワーカーは、困難のなかにある方が、自分の人生をどうしていくのか決定する瞬間に立ち会うことが非常に多い。そのときにご本人の意向を尊重して、その希望が実現できる状況をつくる手伝いをすることが役割だと思っています。

知っておきたい、身近な3つの事例

社会保障制度に関する知識をもつだけでなく、その人らしく生きることを手伝うソーシャルワーカー。そういう存在がいると知っただけでも、なんだか心強くなります。でも、病院や自治体の相談窓口に必ずしもソーシャルワーカーがいるとは限らないのだそうです。

自分がかかっている病院や、相談に行った自治体などに社会福祉士や精神保健福祉士などの資格をもったソーシャルワーカーがいる場合には、その人にまず相談してもらうのがいいと思います。ただ、残念ながら病院や自治体によってはソーシャルワーカーがいないことも多いんです。そうした場合のためにも、基本的な社会保障制度について知っておくことは大事かもしれません。

なるほど……。それでは具体的に、どういった場所であればソーシャルワーカーに相談することができるのか、また、ソーシャルワーカーがいない場合には、どうやって自分が使える社会保障制度や支援を探し出すことができるのか、身近なケースを例に挙げながら横山さんに教えてもらいました。

●ケース1:家族の介護や高齢に伴う心配が出てきたら

●ケース2:仕事がない、お金がない、生活に困窮したときは

●ケース3:身体的な病気による心配、困りごとがある場合

【写真】パソコンを使って説明してくれるよこやまほくとさん

●ケース1:家族の介護や高齢に伴う心配が出てきたら

横山さん:高齢や介護に関するさまざまな相談窓口として、各市町村が設置している「地域包括支援センター
と呼ばれる場所があります。全国どこでも、原則として中学校区にひとつ設置されています。ここでは、ご本人からだけでなく、ご家族からの相談も無料で受け付けていて、社会福祉士、介護の知識を持つケアマネージャー、そして保健師が必ずいます。

――地域包括支援センターには、必ず社会福祉士の資格をもつソーシャルワーカーがいるんですね。どんな相談にのってもらえるのですか。

横山さん:高齢や介護から生じる困りごとであれば、どんなことでも大丈夫ですよ。

たとえば、「物忘れが進んできて心配だけど、病院で診てもらったほうがいい?」、「一人暮らしの親が、何度か火の消し忘れをしているようだけど、防止できる器具はないだろうか」、「買い物に行くのが大変なので、手伝ってくれるサービスが知りたい」など、さまざまな高齢や介護から生じる困りごとに対して、対応策や使える制度を一緒に考えてくれます。また、遠方に住んでいるご家族のことを、電話で相談することもできます。インターネットで、「市区町村名 地域包括支援センター」と検索していただければ、該当する地域包括支援センターを見つけられるはずです。

――よく耳にする「介護保険」というのがあります。40歳になると介護保険料の支払いが義務になります。私の家族も介護保険でサービスを受けていますが、それと地域包括支援センターの役割は何が違うのでしょうか。

横山さん:介護保険サービスは、基本的には65歳以上の方が対象です。お住まいの市区町村にある介護保険の窓口に申請して介護が必要だと認定されれば、自宅や施設で暮らすためのサービス、リハビリ、介護用品レンタル、介護リフォーム費用などが受けられる制度です。

年収によっても異なりますが、自己負担金額は1~3割。65歳未満でも特定疾病と呼ばれる16の病名の診断がついている場合は、要介護認定がされることがあります。要介護認定を受けたあとは、地域の居宅介護支援事業所にいる「ケアマネージャー」が本人や家族の希望に合わせて介護サービスの利用をマネージメントしてくれます。

――介護保険のサービスを受けるには、要介護認定を受けている必要があるのですね。

横山さん:そうです。地域包括支援センターの場合は、要介護認定のない人でも利用できます。介護保険を受けたほうがいいのかどうか迷ったときには、まず地域包括支援センターに行くといいと思います。地域単位に設置されているので、その地域にある社会資源のこともよく知っています。高齢や介護に関しては、最初に相談に訪れてほしい総合相談窓口が地域包括支援センターになります。

●ケース2:仕事がない、お金がない、生活に困窮したときは

横山さん:よく知られているのは、「生活保護制度」だと思います。世帯収入が生活保護法で定める「最低生活費」の基準額に満たず、処分できる資産がなく、働けない・働いても収入が足りない場合に利用できます。「他法優先」といって、もし失業保険など、ほかに使える制度があるときには、まずはそちらを優先して利用することになります。申請先はお住まいの地域の福祉事務所ですが、市区町村役場のなかに「生活保護課」として置かれている場合もあります。

――働いている場合でも、収入が低くて基準額に満たない場合には受給資格があるんですか。

横山さん:はい。そのときは最低生活費から収入額を差し引いたぶんが扶助されます。基準額は、基本的には年齢と世帯人数などをもとにして決まっています。自分で計算するには少し複雑かもしれませんが、厚労省のホームページに計算方法が載っています。

【写真】真剣な表情でインタビューに答えるよこやまほくとさん

――生活保護制度以外にも、困窮したときに利用できる制度はありますか。

横山さん:ほかには、各自治体に「生活困窮者自立支援法」に基づいた自立相談支援機関の窓口があります。住むところがない、家賃が払えない、働きたいけど働けないなど、生活困窮にかかわるさまざまな相談が対象です。就労支援を行うだけでなく、失職して家賃が払えなくなったときに住宅を確保するための家賃補助制度(住居確保給付金)なども紹介してくれることになっています。

ただ、この事業は自治体が民間に委託しているケースが多いので、事業者によっては、社会福祉士や精神保健福祉士などの資格をもっていない職員が対応する場合もあります。

それ以外に知っておくといい知識として、企業の従業員などが加入する被用者保険の「傷病手当金」という制度があります。労災対象以外の病気やケガで仕事に戻れず、給与が支払われないときには、連続して休んだ4日目以降から最長1年半まで、給料の日額換算額の3分の2が給付される制度です。在職中に加入している健康保険組合に申請をして受給を開始していれば、退職しても受け取ることが可能です。

――私も被用者保険に加入している時期がありましたが、自分が受けられる保障についてちゃんと調べたことはありませんでした。知っているといないとでは、大きな差がありますね。

横山さん:会社がこうした保障について丁寧に教えてくれるとは限りません。知っていれば、万が一のときにきちんと利用できますよね。

雇用保険には、会社を退職し失業したのち、求職中に受給できる失業等給付があります。給付を受けるには、離職する日以前の2年間に雇用保険の加入期間が通算して1年以上あることが必要で、ハローワークで定期的に失業認定を受ける必要があります。これは、比較的多くの人が知っていると思います。

ちなみに、倒産・解雇等によって再就職の準備をする時間的余裕ないまま離職を余儀なくされた方は、一般の離職者よりも給付日数が長くなる場合があります。

ただ、失業保険は働く意思がある求職中の人が対象なので、受給中に病気やケガで働くことができなくなった場合には、給付が止まってしまうのです。でも、その場合にも、期間によって「傷病手当」を受け取ることができる可能性があります。

【写真】インタビューに答えるよこやまほくとさん

――ほかに、仕事を失って生活に困ったときに知っておくといい制度はありますか。

横山さん:仕事を辞めて貯金もないけれど、次の就職先が決まっていて3カ月後には給料の支払いが約束されているとします。その3カ月間だけ生活費をなんとかできればいいですよね。

その場合には、お住まいの市区町村にある社会福祉協議会で「生活福祉資金」という貸付制度が利用できる可能性があります。返済できる収入予定が必要など、利用するには少し条件が厳しい面もあるのですが、連帯保証人を立てる場合は無利子ですし、立てない場合も年1.5%で貸し付けを受けることができます。

●ケース3:身体的な病気による心配、困りごとがある場合

横山さん:病気による困りごとの場合、かかっている病院にソーシャルワーカーがいれば、その人に相談をしていただくのがいいと思います。医療費が払えなくて困っているとか、薬を服用しながら仕事を続けるのが難しいとか、自分が入院中している間に親の介護をどうするのか、退院後の暮らしのことなど、病気やケガが原因で起きている困りごと全般について無料で相談ができます。

ほかにも、たとえば病気ががんの場合は「がん対策基本法」で定められた「がん診療連携拠点病院」が都道府県や市区町村単位であり、そこに「がん相談支援センター」が設けられています。ソーシャルワーカーや看護師がいて、治療のことから生活のことまで、その病院にかかっている患者さんだけでなくても誰でも相談することができます。もちろん相談は無料です。

――自分がかかっている病院にソーシャルワーカーがいるかどうかは、どうやって知ることができるのですか。

横山さん:入院設備がある大きな病院のほうがソーシャルワーカーがいる可能性が高いのですが、小さい病院にもいることがあります。これは病院の方針によって違うので、直接「ソーシャルワーカーや社会福祉士、精神保健福祉士の資格を持っている人はいますか?」と聞いてもらうのがいいと思います。

ソーシャルワーカーには、どんなことでも相談していただくことが可能です。ただ、すべてが制度によって解決できるとは限りません。相談内容によって、弁護士などの違う専門家が対応したほうがいいと判断した場合は、そこにつなぐところまでソーシャルワーカーが寄り添います。

【写真】質問に丁寧に答えるよこやまほくとさん

――「心の病気」の場合も、まずは病院のソーシャルワーカーに相談するのがいいですか。

横山さん:はい。かかっている病院やクリニックにソーシャルワーカーがいれば、そこで相談していただくのがいいと思います。

また、各都道府県と政令指定都市にある「精神保健福祉センター」でも、心の問題や病気に関する相談をご本人や家族から受け付けています。自治体によっては「こころの健康センター」という名称になっているかもしれません。アルコール依存、薬物依存、ギャンブル依存などの専門相談窓口もあります。

通院治療の自己負担を軽減する「自立支援医療(精神通院医療)制度というのもあります。対象は精神障害により通院による治療を続ける必要がある方で、公的医療保険では3割負担となる医療費が1割負担になり、さらに所得や障害の程度にもよりますが、1ヶ月の医療費負担額の軽減があります。申請先は市区町村によって異なりますが、障害福祉課や保健福祉課などが担当窓口になることが多いです。

また、自立支援医療は、精神障害に限らず、条件はありますが、身体障害の方も対象になるんですよ。

【写真】真剣な表情でインタビューに答えるよこやまほくとさん

――これまでの3つのケースに限らず、自治体などの相談窓口に行ったもののソーシャワーカーがいなくて、思うように対応してもらえなかったと感じることもあると思います。その場合のアドバイスはありますか。

横山さん:それは私たちも解決しなくてはいけない課題だと思っていることです。せっかく相談に行ったのに、そこでの対応に傷ついて相談すること自体に抵抗をもつようなことがあれば、とても残念なことです。

総務省には、医療保険や社会福祉などの資格条件などについての相談や、行政窓口できちんと対応してもらえなかった場合の苦情や意見を受け付ける「行政相談窓口」があるので、こうした機関を利用してもらうのも、ひとつアドバイスできることかもしれません。

また、病気に関する内容であれば病院のソーシャワーカーに、高齢・介護に関する内容であれば、地域包括支援センターには必ず社会福祉士がいるので、うまく活用して相談してみてほしいと思います。

――ソーシャワーカーが相談にどうかかわってくれるのか、まだ具体的なイメージがつかめていないのですが、たとえば、横山さんが病院に勤務されていたときの例を教えてもらえますか。

横山さん:そうですね。病院で受ける相談で多かったのは、やはり経済的な困りごとと、退院後の暮らしについての心配でした。

経済的な困りごとの例ですが、ある50代の男性が入院していたときに、ご家族から「病院から50万円の請求書が届いたけれど、払えなくて困っている」という相談がありました。

ただ、請求書の金額は50万円でも、支払ったあとで一部が戻ってくる場合があります。それが、国民保険も含めて公的医療保険に加入している人であれば誰でも使える「高額療養費」という制度です。

年齢や前年度課税所得によって、その人が一カ月に払う医療費の上限額(自己負担限度額)が決まっていて、その額を超えた分はあとで払い戻される仕組みです。上限額の計算方法は厚労省のホームページに載っていますが、70歳未満で年収370~770万円の場合であれば、「80,100円+(10割の医療費-267,000)×1%」です。

3割負担であれば、10万円しないくらいですよね。ここに食事代や個室代が加算されます。こうした制度を知らない方もいるので、その説明をまずします。

――もし、すぐ手元に50万円が用意できない場合は……。

横山さん:保険証と併せて医療機関の窓口に「限度額適用認定証」の申請をすれば、最初から上限額だけの支払いでよくなります。これも相談して、必要であれば申請を手伝います。

そもそも仕事上のケガであれば労災が使えますし、医薬品の副作用被害、感染症や特定の病気(指定難病など)や障害の有無によっては公費による医療費助成や市区町村独自の医療費助成がある場合もあります。また、加入している医療保険、前年度の課税所得なども聞きながら、医療費を軽減するために使える制度がないかも探していきます。

それでも払うのが難しいということであれば、生活保護申請を含めて次の手をいっしょに考えていくことになります。

【写真】質問に丁寧に答えるよこやまほくとさん

――なるほど。さまざまな制度を組み合わせながら、いっしょに解決方法を考えてくれるんですね。

横山さん:退院後の相談の例としては、元気でひとり暮らしをしていた高齢者が骨折などで入院して車いすが必要になり、「退院後に自宅で暮らすのが不安だ」という相談を受けることがはよくあります。

その場合には、介護保険を申請して、介護サービスを使って車いすでも自宅で過ごせるように住宅改修をするとか、食事付きの介護施設をいっしょに探して入所までのお手伝いを進めることもあります。

病院のソーシャルワーカーがしっかりとかかわれるのは入院期間だけなので、お住まいに近い地域包括支援センターなどとも連絡を取り合って、退院後のことも考えながら協力して支えていくことが多いです。

制度を使うのは、この社会で暮らす人の権利

いくつか例を挙げてもらいながら横山さんにお話を聞いてきましたが、あらためて「知らないことがたくさんある!」と実感しました。

たしかに、こうした情報を一人で探すのは大変ですよね。たとえ情報を知ることができても、その方が制度にアクセスできるのかどうかは、また別の課題です。本当は、そこがいちばんサポートが必要なところかもしれません。

日本の社会保障制度は「申請主義」。自分で情報を探し出し、さらに「この制度を使いたいです」と申請しなければいけません。しかし、病気や困りごとで気力や体力が弱っている人、高齢者や障害のある人にとって、それは大きなハードルでもあります。「いちばんサポートを必要としている方ほど、制度につながりにくい」と横山さんは感じてきました。

病院勤務を経て独立した横山さんは、2015年にNPO法人「Social Change Agency」を設立。現在は、情報にたどり着けない人、情報が届いても自分からアクセスすることが難しい人の壁を取り除いて伴走する仕組みをつくりたいと、ソーシャルワーカーを始めとする支援者や困りごとの当事者と一緒に、さまざまなプロジェクトに取り組んでいます。

【写真】笑顔でインタビューに答えるよこやまほくとさん

ソーシャルワーカーは、さまざまな生活上の困りごとを抱えた方たちと出会う機会があります。でも、その困りごとは、個人的な問題だけから生じたものでなく、社会の仕組み自体に課題があることも多い。その課題について発信して社会を変えていくこと、個人の問題を社会化していくことも、ソーシャルワーカーの大事な役割だと感じます。

最後に、「困りごとを抱えているけれど、相談に行くことにためらいがある」という人に向けて、こんな風に話してくれました。

社会保障制度を利用するのは、この社会で暮らす人の権利です。だから「支援を受ける」とか「頼る」というのではなく、「うまく活用しよう」という風に考えてほしいのです。自分がよりよく生きていくために必要な制度を利用する、そんな気持ちで、ぜひソーシャルワーカーや相談窓口にアクセスしてほしいと思います。まず相談することから、次のステップが見えてくるはずです。

知ることで、気持ちのありようが変わる

今回、横山さんから教えていただいたのは、数ある社会保障制度のなかのごく一部。ここでは触れなかった民間のサポートも含め、まだまだ知らない支援や制度があるのだと思います。

正直、こうしたことを子どものうちに学校で教えてくれていたらよかったのに……と感じました。いざというときの対処法を知っているのと知らないのでは、大人になって困難にぶつかったときの気持ちのありようが違うはず。使える制度があることを知らないまま、自分や家族だけで抱え込み、状況を悪化させてしまうことにもつながるのではないでしょうか。

もしかしたら紹介した制度のなかには、難しく感じたものもあったかもしれません。でも、すべてを理解している必要はありません。どうか横山さんのように専門知識をもって、困ったときに寄り添ってくれる人がいることを思い出してください。

横山さんが強調していたのは、「必要な制度やソーシャルワーカーを活用することの大切さ」。誰にでも思わぬ困難に出会う可能性はあります。そのときに、ためらわず「自分がよりよく生きる」ための手段を使ってほしいと思います。

【写真】最後にとてもいい笑顔を見せてくれたよこやまほくとさん

関連情報:

NPO法人 Social Change Agency  ホームページ

(写真/川嶋彩水)